きり。

7 件の小説

きり。

読んでるし書いてます。 定期的な失踪と復活を繰り返してます。学生なのでテスト期間も失踪します。

グラジオラス

─君が忘れてしまっても、私は覚えているから。 そんな映画のような言葉を、まさか自分が言うとは夢にも思わなかった。 きっと普通の恋ならこうはならなかった。思えなかった。 普通の男女なら。 初めて会った時、私は強い劣情を抱いた。 日暮れの光を浴びてなお天頂の光を浴びたのかと錯覚する白い肌、この場の光を集約して輝く瞳。 制服からのぞく細い首筋、銀のブレスレットがついた手首。 触れれば容易く手折れそうな、穢れを知らない無垢な花。けれど芯の強さがある確かな姿。 壊したい。汚したい。己という存在を強く刻み込んでやりたい。その汚泥の如き感情を、自覚するのにそう時間はかからなかった。 その日は彼女が転校してくる前の日だった、学校の下見をしていたのだろう。 窓を開けているからか、教室の空気は妙に爽やかで、ここにずっといたいと思った。 最もそれは、もはやただただ純粋に彼女がいる空間にいたかっただけかもしれないけど。 「おやおや?何をしてるのかな?盗み見は感心できないなあ、私。」 そんな声が響いた。見た目とは裏腹に子供っぽいような、でもどこか落ち着くような。 優しくて、なんでもないけど楽しそうで。 「…あれれ?」 「おーい、無視は悲しいよー?」 私が正気を取り戻した頃には彼女はすぐ近くまでやってきていた。 当然、たじろいでしまうのが人間というもので。 「え?!あぁえっと…」 普段の自分からは想像もつかないほど情けない声を出しつつどうにか彼女の方を見る。 「ご、ごめん。教室に来たら見覚えのない子がいたものだから…。」 かろうじて絞り出した返答に彼女は 「私は転校生だからね。知らなくても無理はないのです。」 そうくるくる歩き回りながら答えた。 口調がころころ変わるなぁとそんなことをぼんやり考えながらも彼女を見ていると。 「ねぇねぇ!名前、教えて?」 そんな風に聞いてきた。喋り方は元気なのに、その笑顔は容姿のせいか儚く見える。 「私は安達紫苑、貴方は?」 「私は唐鎌菖蒲、明日からこの学校なんだ〜。」 からかま…どういう字を書くんだろうか。などと考えていると彼女はその思考を見透かしたかのように 「ちなみに、漢字は中国の方の唐と鎌倉の鎌だよ。」 そして翌日、菖蒲は元気よく教室にやってきた。 本格的に夏に入り始めたというのに、彼女がいるとどこか夏の終わりのような清涼感がある。 人を惹きつける、さながら誘蛾灯のような彼女の容姿は私だけじゃなくクラスのみんなにも効き目があるようで、ホームルームが終わるやいなやたくさんの人に囲まれていた。 眺めていると時々彼女がチラッとこちらを見て助けを求めていることに気付いた。 しかし私にはどうすることもできない。クラスの人間を押し退けていけるほどの筋力と度胸は私にはないのだから。 仕方なくスマホに言葉を打ち込んで彼女に見せる。 『今は耐えて、一限終わったらすぐこっちおいで。』 それを見ると彼女は某掲示板で見るような溶け顔になってしまった。 そして一限終わり、彼女は最速で私の席へ避難してきた。 「助けて…紫苑…。」 「昨日はあんなに愉快そうに話してたじゃない。」 「よよよ…一人ならまだしもよもやあんなにもみくちゃにされるとは思ってなかったのです…。」 まぁ、私も今まさにクラスメイトの視線で死にそうなんですが。 それからも数日間、菖蒲はもみくちゃにされていた。 流石に何日か経てばみんなも菖蒲に慣れてきたようで、初日のように菖蒲が溶けることはなくなっていたけれど結局もみくちゃには変わらないのも事実で。 授業ごとの空き時間や昼休みは必ず私の元へと避難してきていた。 しかし、初日以外大して効果はなく、場所が菖蒲の席から私の席になっただけだ。 転校生に美人属性が加わるとこうなるのか、そう思った。 定期考査も終わり、夏休みも目前に迫る頃、私と菖蒲は疎遠になることもなく順調に仲を深めていった。 菖蒲は頭が良く、転校してきてすぐの定期考査でも学年でも上位の成績をとっていた。 特に歴史が得意なようで、歴史のテストでは100点を取るほどだという。 私も私でそこまで悪い点数ではない。数学以外が壊滅しているだけだ。 そんなある日のこと。 「ねえねえ!夏休みどこか遊びに行こうよ!」 菖蒲が突然そんな事を言い出した。 屈託のない百点満点の笑顔で。 「うーん…女二人でどこ行くっていうのよ。」 身の内に湧き上がる感情を押し殺してあくまで平坦に尋ねる。 菖蒲は少し考えて… 「海とか?」 その言葉と共に私に天啓が舞い降りた。 つまり、彼女の水着が見れるということ、それは凄まじくそそられる話だ。 断る手はない。 「…いいじゃん。そしたら行く?海。」 と言うと 「行こう行こう!」 とこれまたいい笑顔を見せるのだった。 夏休み初日、学校の夏期講習を終えた私達は大型のショッピングモールに来ていた。 強い日差しを嫌って、私は時間より十分程度早く着いていた。 流石にまだ来ないだろうとスマホをいじって待機しようとした時だった。 「あれ?紫苑だ!」 明るい声が響いた。見れば夏らしくワンピースを着た菖蒲がそこにいた。 最初の感想は『綺麗』だった。 どんな物よりも美しい、完成された美しさがそこにあった。 「ずいぶん張り切ってるじゃない。」 「ふふん、オシャレでしょ。」 「ほんとにね。ほら、来たなら早く行くよ。水着買うんでしょ。」 「うん!行こ!」 横に立ち並んで歩くとより一層菖蒲の容姿の良さがわかる。 まるで絵の中からそのまま出てきたみたいな美しさ、少しでも横に動けば肩がぶつかる程の距離にいても、その美しさにはかけらも曇りがない。むしろその容姿の端麗さに戦慄するほどだ。 睫毛は影を落とすほど長く、化粧をしている訳でもないのに驚くほど綺麗に見える唇。少しばかり見える肩は抱き締めれば壊れそうなほど小さい。 そんな美少女の隣に立つと少しばかり気後れしてしまう。 「あっ!これ可愛い!」 店に着くやいなやそんな事を言って目を輝かせている菖蒲を横目に私も水着を見始める。 かく言う私も成長期…だと思いたい。のでひとまず良さげなものを何着か見繕って店員さんに試着のお願いをする。 試着と会計を済ませて菖蒲を探していると、未だに一着も決まっていないのか思案顔で水着と睨めっこをしていた。 「菖蒲、決まりそう?」 そう聞くと 「全然決まらない…これ!ってなるものがないのです…。」 と返ってきた。 正直美人に何着せても美人なのだから、どれを着ても似合いそうというのが本音だったりするのだが、そこは本人にしかわからない感覚というものがあるのかもしれない。 「ていうか、紫苑はもう買っちゃったの?」 「?うん。良さげなのが何着かあったから試着して決めたよ。」 そういうと、菖蒲は急にしょんぼりし始める。 「見たかったなぁ…紫苑の水着。」 お前がそれを言うのか。と強く思う。 「海行くんでしょ、その時までお楽しみって事で。」 少し寂しげな菖蒲を慰めつつ、私は私の主観で菖蒲に似合いそうな水着を探す。 結局、約一時間の塾考の末、菖蒲が最初に目をつけた水着に決定した。 満足気な菖蒲と一緒に遅めの昼食をとり、その後はゲーセンなど、ありとあらゆる時間潰しに没頭した。 楽しい時間ほど早く過ぎるというもので、気づけば時刻は午後六時を過ぎていた。 モール内のベンチに腰掛けて休憩していると菖蒲が 「ちょっとお手洗い行ってくるね〜。」 と席を立った。菖蒲を見送り、ふと視線を下に落とすと、一冊のノートが落ちていた。 ノートの位置から、菖蒲の私物であろうと推測されるそれを私は拾い上げる。 ノートの表紙に一つのタイトルが綴られていた。 『菖蒲の日記(覗き見厳禁!)』 達筆な字で、そう書かれてあった。しかし、見るなと言われれば見たくなるのが人間だ。 申し訳なく思いつつ何気なく適当に開いたページに、 『20×⚪︎年6月×日 転校前日、下見をしていたら、可愛い女の子に出会った。安達紫苑、と言うらしい。 本当に綺麗な子で、思わず見惚れてしまいそうになった。初めて、深くこの人と関わりたい、そう思った。でも叶わない。どうせ、明日になったら全部消えてしまうから。』 『6月⚪︎日 転校初日、また紫苑と初めましてをした。でもなぜか心に強く引っかかりを感じた。』 淡々とそう書かれていた。 「紫苑…?」 震えた声が響いた。心臓がどきりと跳ねた。見上げたくない、でも見上げなくちゃいけない。 そんな板挟みに気がおかしくなりそうだった。 「…菖蒲、これは…!」 私が言い訳する前に 「そっか…見ちゃったんだ…。」 「ごめんね。」 そう言い残して、菖蒲は走り去ってしまった。 追いかけろ、そう私の脳が言った。そう認識した瞬間に私は走り出していた。 追いかけて、追いかけて、モールの敷地外に出たところで、ようやく捕まえた。 「離して!」 菖蒲が声を荒げた。見ると目は涙が滲み、唇は今にも綻びそうだった。 「…いやだ。なんで?なんで逃げるの?」 「だって…もうわかったでしょ?!私は何も覚えていられないの!今日のことも!紫苑のことも!それなら…!」 私は言葉を被せた。 「それが何?それが私から離れる理由?貴方が勝手に私の心を決めて離れる?ふざけんな。」 菖蒲の言いたいことが分からないほど、私もバカじゃない。 「貴方が忘れるって言うなら私はずっと覚えてやる!」 「何度だって教えてあげるから…」 意思に反して、声が震える。 「私から離れないで…。」 前を向いた。涙で何も見えなかったし、風が吹いていて菖蒲のか細い声は聞こえなかった。 でも、唇の感触が、答えを教えてくれた。

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雨のち、吹雪

もう一度、月に会いたい。 もう随分と、月は姿を隠したままで、 ずーっとあの夜の音が消えないまま。 俺の中でずっと雨が降っている。 ─ごめんね。 「…!」 おおよそ寝起きとは思えない息遣いで、ベッドから跳ね起きる。 電子音がなる5分前。 午前6時05分を指す長針が、音を立てて今まさに揺れ動いた。 嫌な汗をかいている。 「また…。」 それが偶発的なものではなくて、必然的なものなのが、なんとも言えない。 忘れられない彼女の笑み。消えない彼女の声。 歩く歩幅も、速さも、彼女が隣にいた時のまま。 ずっと残っている。 なのに、隣には彼女の姿がなくて。 探しても探しても見つからなくて。 「あぁもう…!時間の無駄だろ…。」 深い深い思考の渦に飲み込まれる前に、無駄な感情は手放して、いつも通り身支度を整える。 何かに取り憑かれたように仕事をして、あとはただ息をするだけ。 また今日が終わる。 風は強く、視界は白く。 ─昨年行方不明になった──さんですが、未だ行方が分からず、警察は今月末で捜索を打ち切ることを発表しました。 そんな、青白い光の声が、俺に届くこともなく。

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空と言われて、何色を思い浮かべるだろう。 青?群青?あるいは赤や橙色などだろうか。 ただ、それは遠い遠い昔のこと。 少なくとも私は灰色の空しかしらない。 煙と、灰と、あとは…なんだっけ。 そしてそんな空も視界に広がることはなく、鉄を含み、大いに錆びた街がその景色を抑え込んでいる。 どうやらこの街もずっと昔は錆びてもおらずビルが立ち並んでいたらしい。 絵本や童話、御伽噺の中ではたくさん見れるのに、私の目にはそう見えない。 そしていつものように、唯一この街のいい所と言える静寂をやぶって銃声が鳴り響く。 これも大昔は所持も認められていなかったらしい。 昔は、昔は、などと老人じみた思考になっているが私はこれでも16歳である。 学校には通っておらず、日雇いの仕事で日々食いつないでいる。 そもそも、学校に通えるのは今の時代贅沢というものだ。大半の子供は日々の生活を維持するので手一杯だし、私もその手合いだ。 己を俯瞰して達観したようなことを言っても、実際ただの女子供に過ぎない私にとって、空が鉛色なのも、銃声が日常的に響くのも、到底受け入れられるものではない。 撃たれたら大怪我だし、曾祖母が語っていた美しい群青の空や、星々の明かりをみたい。 思考というのは飽きないもので、気付けば仕事も終わり家…と言うのはあまりにも不格好な…なんと形容すべきだろうか。 そう、寝床に帰っていた。 しかし私はこの寝床を気に入っている。 天井に張られたガラスは曇っていて傷もついているが、それでも寝る前に空を見仰ぐことができるのだ。 この窓から陽射しが入ってきたことも、この窓が美しい青に染まったこともないが、いつかこのキャンパスに鉛以外の色が映る事を期待している。 ただ、以外にも早くその時は来た。 ただ、そのキャンパスに映ったのは晴れ晴れとした青でも、燃えるような赤でも、煌めく黒でもなく。 ただ、ただ、全てを塗りつぶすような白だった。

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ヒーロー。(ボカロ二次創作)

ヒーローになりたい。 そう願ったのはいつだったか。 父さんは言っていた。 「今は誰かに頼って、助けられていても、いつか人の役に立つんだよ。」 子どもの頃、そう言っていた。 けれど僕は駄目だった。 沢山失敗して、立ち上がって、失敗して、立ち上がって、それでも何も出来なかった。 期待されることも、何かを頼まれることもなくなった。 周りからも、見向きもされなくなった。 失望された。 周りはもう「頑張れ」の言葉も言ってくれなくなった。 でもそんなことはどうでもよかった。 僕は僕が1番許せなかった。 この体たらくで、何がヒーローだ。 きっと僕に一番失望してるのは、ガッカリしてるのは僕だろう。 それでもヒーローになりたかった。 誰かの英雄に、誰かのヒーローに。 諦めきれなかった。 まだ自分はできるんだって。 だからまた無駄かもしれないけど立ち上がる。 だってヒーローはいつだって最後に立っていた方だから。 ヒーローになりたい。 小さい頃に願っていた。 母さんが言った。 「望まれて生まれてきたんだから、いつも自信を持っていなさい。」 確かにそう言われていた。 見向きもされなくなって、でも自分に期待するのはやめられなかった。 失敗しても次は大丈夫だと笑う。 きっとできるんだって笑う。 だってヒーローはいつだって笑っているから。 自問自答の中に必ずある問い。 「ヒーローになって、何がしたい?」 「ヒーローになって、何を救いたい?」 そう言われても思い浮かぶのはたった一つ。 命でも世界でもなくて。 そんな何よりも救いたいもの。 それは─。 僕の世界の中で、一番苦しんでいる、僕の人生の一番の被害者。 紛れもなく、僕自身だった。 だから僕は、僕のヒーローになりたかった。 昨日も 今日も 明日も もう頑張ろうなんて、やってみようなんて、進もうなんて思えなかった。 でも僕は、自分を諦めきれなかった。 だってヒーローはいつだって 自分を信じて歩くから。

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記憶

記憶とは、なんだろうか。 色んな答え方があると思う。 例えば「思い出」そんな答え方をする人もいるのではないだろうか。 言うなれば、自らを作り、自らを自らたらしめる。過去の履歴にして存在の証明。 では、それを失えばどうなるのだろうか。 「当然、何も残らないよ。」 「じゃあね、さようなら。また今度、初めて会おう。」 消えればそれまで…ログも残らずに。

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夏は、苦手だ。 眩しくて、いっそ苦しいと思えるほどに暖かくて、燦々と青が輝く季節。 梅雨明けの七月。これから最盛を迎えようとする夏を前に、学生達は向かい来る長期休暇の予定を話し合う。 そのいっそ何も考えていないとも取れる会話を後目に、ただ時間を浪費しながら空に浮かぶ白い雲を眺めている。 日の陰で涼みながら、思考を手放して騒々しい夏から切り離された憩いの時間。 流れる雲を見ながら延々と時間を浪費し続ける。 ふと手元にあるスマホを見ると、既に時刻は17時を過ぎていた。 「もう時間か…。」 ため息をつきながら僕は夕方にしては明るすぎる青の下で手元にある古ぼけた鞄を持ち上げて家路についた。

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魔力ゼロの魔法

僕は魔法が好きだった。現実に起こりえない事象を無理にでも引き起こせる。 多少強引でもそれらが織り成す現象が、引き起こした全てが、幼い頃の僕を完全に魅了した。 この世界には、魔法がある。みなが当たり前のように大小様々の魔法を使う。 だから僕も、大人になれば当たり前のように使えるのだろう。そう思っていた。 ただその憧れも容易に砕かれることになる。 「魔力ゼロ」 それが僕に下された結末。 ただそれでも僕は魔法を諦めきれなかった。 毎日家に引き篭もり、ひたすら魔法を望んだ。 別に魔力ゼロだから虐められたりとかした訳ではない。むしろ皆助けてくれた。 そしてひたすら考えた。その結論にたどり着くのは早かった。 「ないなら、作ればいい。」 そして数年の時が経過する。 窓のカーテンから差し込む陽光で目が覚める。かけた毛布をひっぺがして大きく伸びをする。 「ん〜…」 部屋に置かれたあらゆる魔道具達に目を向けて今日は何を研究しようかと脳がインスピレーションを湧き出させる。 そんな時下の階から声が響く。 「兄様〜!お母さんが朝ごはんできてるってー!」 そう叫ぶ声の主は妹だろうか。 「今行くよ!」 そう返して部屋から出る。 朝食を終えると僕はいつも研究に励む。 魔法とは魔法陣やその他の媒介をもって行使される奇跡だ。そして、魔法陣を自在に操り生身一つで魔法を行使する人々を魔法士と呼ぶ。ただ魔法は魔法陣の他にも重要なものがある。 それが想像力だ。たとえ魔法陣がいかに正確であろうと、その過程を、その結果を具体的な想像として起こせなければ魔法は起動しない。 僕の研究はそこにある。人の魔力を使わない、空間の魔力だけでの発動。それが僕の研究。 それが魔法と呼べるのかは甚だ疑問だが、現に、魔法と呼んで差し支えない現象を僕は一度起こしている。そしてそれは再現性のあるものとして、今尚何時でも再現可能だ。 「(その現象も、火種なしで形成した小さい火なんだけどね…。)」 魔力のない僕にとって空間の魔力を操るなんて事は至難の業だ。さらに言えば空間の魔力は自身の魔力やその他の魔力と性質が異なる。故にそれ独自の術式を組まなければいけない。 そこが難点だったのだが、僕はある仮説に辿り着いた。 『魔力そのものに属性の性質を乗せて放つ』 空間の魔力そのものを操ること自体には成功しているのだから、術式に魔力を流すのではなく魔力に術式を載せれば関係は逆だが結果的に引き起こされる現象は変わらないはずという仮説。 そしてそれは結果的に成功した。 僕の手には今、大きく燃え盛る炎が握られている。 「…やった。成功…した。」 それは僕の積年の望みが叶った、そして今のこの世界においておそらく初であろう自身の魔力を媒介としない魔法発動の瞬間だった。

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