宙
12 件の小説一筋の光
薄暗い部屋の中に一筋の光が射し込む ほんの少し開いた窓の隙間から風がそよいでいる カーテンが風に揺られ光が波打つ ゆらゆら揺れる光の筋 華麗なその舞踏は私を眠りから覚醒へ導く あぁ今日も地獄が始まってしまう 地を這いつくばってもがかなければ生きていけないようなこの世界 私はもう、うんざりだ あぁこの光の筋が天国への道だったらいいのに…
空白
僕には感情というものがわからない 周りの人たちはよく楽しいだとか辛いだとか言うけれど、僕にはそれがなんなのかよくわからない 周りの人間を観察すると、感情というものはつくづく不合理なものだと気づく 嬉しいことがあったと浮き足立つ人間は足元すくわれる 怒りに呑まれた人間は冷静な判断ができなくなる 哀しいといつまでも嘆いている人間はなにも行動できなくなる 楽しいとはしゃいでいる人間は地に足つかず問題を起こす 日常とは如何に平穏に、効率的に過ごすかが重要ではないか 朝起き、学校へ行き、勉強が終われば帰ってご飯を食べて寝る 学校を卒業すればどこか無難な職に就き、ある程度の生活ができればいい 合理的に生きることにおいて、感情というものは足枷に過ぎない 周りの人間にとって、僕はロボットのように映るらしく、誰も僕には寄り付かない 僕とまともに会話しようとするのは父と母くらいだろう だからといって何か不都合があるわけでもなく、寧ろ好都合である 他人に生活を振り回されることも無い これまでも、これからも、僕は平穏でなんの変哲もない日常を送るはずだった そう、彼女と出会うまでは……
エゴイスト
私には嫌いな人間がいる その人間たちは周りの人達のことを考えられない自分勝手なやつら 褒めてほしいがあまり、自分の自慢話を謙遜しながら脈絡もなく突っ込んでくる謙遜自慢人間 みんなで笑顔を作って「すごいねぇ!」なんて言うけど、それもだんだん疲れてくる 人に見せつけたいのか、クラスという集団の中でベタベタイチャイチャする人間たち 周りはみんな気まずいと思ってる 不満を感情のままに、人を攻撃するように吐き散らす人間 それを聞いた人たちがどれだけ嫌な思いをするのか、傷つくのか考えられないのだろうか どうして人の気持ちを考えられないのだろう 私はいつも空気を読んで、相手がどう思うか考えながら人と言葉を交わすのに 私はいつも周りに配慮して行動しているのに 私はいつも相手が傷つかないように言葉遣いを考えてるのに あぁでも、これはきっとただのエゴ 自分の気持ちを素直にさらけ出せない自分の弱さを正当化したいだけ 私こそが本物のエゴイストなのだろう…
空の涙
お空が泣き虫になるこの季節 なんだか空に親近感が湧く 輝く太陽は陰に隠れ、大粒の涙が流れてくる まるで私の心のようだ お天道様泣きたい時はたくさん泣いてください そして私の心のくもりを隠してください あわよくばその涙の後の澄み渡る空のように 私の雲も取り去ってください…
黎明
今日もまたいつものように空き地に来た 暑さも何も感じない私にとって薄暗い場所はお似合いだろう 何もかもを照らす太陽は嫌い 誰も私のことは見えないのに、太陽だけは見つめてくる しばらくして足音が聞こえてきた 誰も来るはずのないこの時間に最近よく来る男の子 あぁ、今日も来たんだ 人間たちは学校とやらに行ってるはずなのに彼は度々ここへ来る まぁ、どうせ私のことは見えてないからどうでもいい いつものように何も無い空間に視線を漂わせる 彼はなぜかこちらに来ないどころかなんだか視線を感じる まさか、私のこと見えてるの…? 今までは明らかに見えていなかったはずなのに ……久々に面白くなりそうだな
昏い瞳
刺さるような日差しがふりそそぐ真昼間 こんな暑い日に授業を受ける気にもならず俺は学校の裏にある公園に来ていた ここは学校の陰となっていて比較的涼しい 普段誰もいないこの場所に今日は珍しく先客がいた 風に揺られる黒髪は細くしなやかで白く透き通るような肌の彼女はどこか儚げだ 虚空を見つめる瞳は暑さを忘れさせるほど昏く、まるでこの日差しが見えていないようだ 今にも消えそうな君が俺には美しく見えた どんなものも寄せ付けないその瞳に 俺の心は吸い込まれていた
日常の奇跡
目の前にあなたがいる すぐ近くにいるはずなのに 何故かとても遠く感じる あなたは微笑んで私を見つめている 言葉一つ発することなく ただただ優しい笑みを浮かべるだけ 私があなたに触れようとしたその時 あなたは白い光に包まれて泡のように消えようとしていた 「嫌!いかないで!一人にしないで…!!」 そうあなたに縋っても光が消えることはない 体が消えかけているというのにあなたは依然微笑むだけ 次第にあなたは泡となっていく 「いやあああああああああああああああ!!!」 気がつくと私は涙を流していた 目の前には見慣れた白い天井 隣には呑気に眠るあなたの寝顔 見慣れたはずのその顔を宝物のように優しく抱きしめた
未練
あなたと別れて数ヶ月 未練なんてものは微塵もない あなたの浮気が発覚したあの日 私の世界から色が消えた あんなに愛してると言ってくれたのに あんなに抱きしめてくれたのに 結末はあまりにも呆気なかった 何がいけなかったのだろう 心の底から愛していたのに でも不思議と別れた日から何も感じない 恨みも怒りも悲しみも 私の中にはなにも無い ある日、部屋の掃除をしているとあなたの写真が顔を出す 未練なんて微塵もない なのになぜ目から涙が零れるの
含羞む
久しぶりにあなたに会えた 二人で夕日を眺めて電車に揺られる あなたはいつも人前じゃ私を見てくれない そのくせ手を触ったり寄りかかったりしてくる ふとあなたの横顔を見ると 夕日に照らされ赤く染っている なんて愛おしいのだろう もっと一緒にいたいのに あなたの最寄りが近づいてくる あぁこのまま電車が止まってしまえばいいのに
協調性
空を見上げて息をする 風に吹かれて息をする 雨に打たれて息をする 草木を眺めて息をする 人に囲まれ息詰まる 人と比べて息詰まる 人目を気にして息詰まる 人間社会で息詰まる 周りに合わせて生きる日々 それはあまりに生きづらい 自由に羽をのばせたら どれだけ生きやすいだろう