おちる彗星
11 件の小説蝉
魂は、転生を繰り返し廻ります。 人には人の魂が、鹿には鹿の魂が すすきにはすすきの、蝉には蝉の魂がそれぞれ役割を持って廻っています 蝉は、幼虫の間七年ほど暗い地中で過ごす。と言われていますが実際アブラゼミだと三、四年程度だそう それでも地上に出れば一週間。 一週間なくために地上に這い上がってきます これは本当は秘密なんですけど。 実は、地中の蝉の幼虫というのは生きていないのです 死んでる訳じゃありません 魂がないの。空っぽ あれは、次に来る魂を待っている、言わば空き状態 そのうちに流れにのって魂が宿ると外に出てくるのです 元はバラバラのものだから、実は、蝉には、意思が二つあるのです からだの意思と、魂の意思 その違いの幅が大きくなり過ぎた時に蝉は死にます 魂がからだに居られなくなるから。 しかし酷いんです また蝉。何度何度廻っても蝉 蝉の魂だから。 運命を呪って蝉の絶滅を願おうが、まだ暫くは蝉です
たからは一つ
私は所謂、金持ちの家に生まれた 広い家に暖かい床、毎日の豪華で美味しいご飯。それからおやつ 幼少の頃には気付かなかったが、他人との関わりが増える内に自分を囲む環境がどんなものかわかるようになってきた 八つで祖母が亡くなった時、多くの宝石や価値のあるものが遺ったらしい 従姉妹が十六になるお正月、それと祖母の遺言を聞いた 「この家系の娘が十六になる春に、私の宝石を一つ選ばせ持たせるように」 従姉妹は青い宝石の入った指輪を選んだ 古いものだ 宝石はくすみ、鉄部分は錆びている あれは祖母が特に大切にしていたものだった 祖母が継母からもらったものだそう 彼女は大事そうに持ち帰っていった うちの家系に生まれた女子は従姉妹のお姉ちゃん一人と、私と妹 三年が経ち、私の番が回ってきた 並べられた宝石を見て、私は悩んでいるフリをした 本当はもう決めていた 従姉妹が見ていた時に けども何だか、直ぐに決めてしまうと、がっついているように思われる気がした わざとらしい唸り声を上げたあと、私はゆっくりと指をさした 従姉妹と同じ。指輪 けど宝石が違う 緑の色をしている 指さすだけで、私は手に取る勇気がなく、ただ見つめていた 何故だかとても重く恐ろしいものに見えた 様子を見ていた叔母がまたいつかにしようと切り上げ、受け取らないまま片付けた それ以来、祖母の遺言は忘れられたかのように言葉になることはなかった きっと、妹が選ぶ時もこないだろう 潰れかけたダンボールを覗くと、懐かしい絵本が出てきた 海賊が冒険の末、金銀財宝お宝を手に入る。楽な生活をおくろうと夢を描くが旅の途中で出会った人々の顔を思い出し、最後は困っている人に分け与えるという在り来りな話 絵本の中で困っていた人たちは幸せになれただろうか。新しい靴でも買えただろうか 楽しく歩いていけているだろうか。 祖母は寝たきりのままよく私が宿題をするのを見てくれていた 色んなことを教えてくれたけど、自分の過去のことを話しているところは見たこともなかった 親兄弟の、今はまだ遠く逢えない祖父母の当たり前のような思い出が、そうでない人もいることを、綺麗な靴が履けない街があることを私はただ漠然と知っている 自分がいずれ死ぬことも。 緑の宝石、エメラルド おばあちゃんの誕生日 今日は雨が降っているから、近所の、やたらと私に懐いている野良猫の様子を見に行こう 少し縒れた靴を履いて青い傘を手に取った
ピアス
何にも、続けることは難しいです 勉強、学校、習い事 薬、規則正しい生活 創作って呟きのように使うアプリもゲームも ピアスを開けました 右耳に、一つだけ 本当はダメなんですけどね 隠しとかなきゃ 開けたかった位置からちょっとズレちゃったけど許容範囲内 ファーストピアスは1ヶ月は外せないらしいからせめてピアスホールが完成するまでは 開けて二日 当たり前のようにバレてない 腫れも膿もなくて順調みたい 三日 まだ大丈夫 バレる気がしない 五日 引っ掛かっちゃった でも大丈夫 順調 六日 まだまだ 隠しとかなきゃ 一週間になる日、外した 穴を埋めてしまおうと思って 消毒をして絆創膏を貼って、ちゃんと治るように 明日、ピアッサー買いに行きます ある意味機械的に同じようなことを繰り返している 上手くいかないようにプログラムされてるからしょうがない 私を作った人も上手くは生きれていないのだから、しょうがない
歪5
来る。部屋のドアが膨らむ。必死に押さえ付ける。体が軋む。嫌だ。嫌だ。怖い。何か叫ぶ。ずっと軋む。ぎしぎしと音を立てながら泣く。 急に明るくなった。あの人がいる。みんな笑っている。私も笑う。みんなおんなじ温かいご飯。一緒に食べる。 神さまは酷い 怖い怖い夢の後それよりもずっとたちの悪い夢を流してきた あの人とはもう会えないことが分かっているのに夢なんて見せないで 起き上がる気力も無いからそのままスマホを開く 「二度と会えない人に会いたくてたまらないんです。そんな時はどうしたらいいですか?」 しばらくして付いた的外れなコメントに少し落ち着き、顔を洗いに下におりた 鏡を睨みつけ冷たい水を押し当てる 夢に出てきたのは阿保の人 なんにも考えず私に酷く苦しいものを植え付けた人 私が強く幸せを願う人 私の幸せを願った人 忘れたい 忘れよう 忘れたってバレないね もう全部全部吐いてしまおう 「親にされたことでもう家に帰れなくなった人に、『生まれた家間違えたって思わへん?』って聞かれたんです。私にとっては重い衝撃で何も答えられなかった。あの時、なんて答えられれば良かったのでしょうか。もうずっとしんどいです」 しんどい 「私、兄に性被害を受けていたんです。何年もずっと。言ったら親に嫌われると思って我慢してきました。でも」 ああもうしんどいしんどい これがしんどいここからがしんどい 認めたくない 目眩がする気持ち悪い 心臓が変な鼓動を打ち、ろくに酸素を送らない うちは普通、私は平凡 誰も聞かない嗚咽を漏らしながら布団にくるまった
歪4
お昼。誰かと会いたい気分だった 一人だけの友達 奇跡的に暇だそう 楽しく過ごしていたのについ悪い癖が出た やめられない。彼女が苛立っているのが分かっていても、私には一人しかいないから もう帰ってと強く言われるまで 途端に酷い悲しみに変わる 「唯一の友達に甘えてしまいます。イライラしてるのが分かっていても突き放されるまで解決のしようも無い悩みを吐いてしまう。私の家の事なんて興味ないだろうし我慢しようと思っても口が言うことを聞かない。一度距離をとった方がいいでしょうか」 コメントを求めた書き込みをする 自分の欲求に目眩がする 気を紛らわすため別のアプリを開いた 誰かの投稿のコメント欄 辛がった言葉が溢れている 病み投稿ってやつか 苛立つ。 羨ましい妬ましい こんな風に何の恥ずかしげも無く辛いなどと吐けることが 気持ち悪い 自分とは違いすぎて。 自称虐待を受けている人の文字を読む 羨ましい 救いのある人が、余地のある人が。 今更何したって誰もどうもしてくれない私とは違うんだろう 辛がりは嫌い うちは普通だし私は平凡 そう思わないといけないのだ 今日はもうだめだお風呂が済んだらもう寝ることにした 布団に入りお願いをする 怖い夢は見ないように
歪3
何もしなくても1日なんてあっという間に終わる 布団に潜ったまま書き込みを続ける 「親と揉めたんです。包丁まで向けました。ここまですれば話を聞いてくれるんじゃないかって。信じてくれるんじゃないかって。私にもこうやって言う事聞かせてきたんだから。」 「刃物を向けるのには勇気がいた。向けるまでは。手に取った包丁は思っていたよりもずっと軽かった。」 深夜 みんな寝てようやくお風呂に入れる お風呂に入るだけでも疲れてしまう 布団に戻ったらもう寝ることにした 今日もまたお願いをする 怖い夢は見ないように 家。裏口。誰か入ろうとしてくる。逃げないと。妹を呼ばないと。階段を走り真ん前。部屋のドアを叩く。出てきたまだ呑気な彼女の手を引っ張る。もう入ってきてる。階段に居る。逃げないと。窓から出よう。こっちに来て、早く。だめだもうそこに居る。お母さんが笑ってる。
歪2
……最悪。 二度寝から覚め、とりあえず時計を見る お昼前。午前中。私にしては上々だろう この時間なのにやけに物音が近い 家に誰かいる ああ。今日は休みか。やっぱ最悪 やっとの思いでベッドから抜け出し下におりる そこにいる人の顔は見ないようにリビングを突っきる だというのに不機嫌そうに話しかけてきた イライラ。 顔を洗って、髪をとかして口をゆすいで。トイレを済ませてお茶を飲む。何か食べ物を持って部屋に籠る 「私は性被害者です。そいつはもう居ないけどイライラは溜まっていく一方で、悪い夢ばかり見ます。 しんどい」 ネットの掲示板 ここなら聞いてくれる 心配もしてくれる 私を見てくれる 依存するには充分だった
歪
うちは普通、私は平凡。 自分に言い聞かせるために呟く イライラが積もるのはそうではないと分かっているからだろう。それでもそう思わないといけないのだ なんの進展もない毎日の酷い目眩は吐き気に変わった。蹲り声を漏らす。こんな時に背中をさすってくれる人も居やしない 治まったと思えるように部屋を歩き回ってみる。 今日はもう寝ることにした 布団に潜りどこかの神さまにお願いをする 今日は怖い夢は見ないように。 2時間程して意識がなくなった お母さんがいる。お兄ちゃんもいる。私は怒っている。包丁がある。お兄ちゃんを刺してやった。お母さんが見てる。殴る。叫びながら殴る。痛めつけるために。消してしまうために。椅子で殴る。頭を目掛けて。死ねよ死ねよと叫ぶ。 お願いをしたのに夢を見た 酷い夢。あんだけやったのにあいつら無傷だった。暴力をふるうというのも疲れるんだなとかくだらない事を思いながらまた落ちていく
世界
世界って見える範囲しかないんだって。 世界は広いとか聞くけど、実際見たことないのならそれは妄想でしかない 宇宙だって見たことないんだから、本当にあるのか分からない。科学者達がみんなして嘘ついてる可能性だってある。 しんどい時に、世界が真っ暗な時に、あなたの知らない世界があるよと言われても 知らないのなら無いのも同じ 大人ですらない私たちはそう遠くへは行けない 大人だって何でも知ってる訳じゃないのに。 私は私の世界から出られない
幸せ禁止法
幸せとは。 幸せとは魔薬 知らない間に毒されて誰もがそれを欲する 他人を陥れてまでも欲する ここにあると気付いた時、それを守るためにどんな事でも出来てしまうのが人間 それでもまだ欲しがる 他人のを欲しがる 他人が持っているのが許せないと 抜け出すことなど出来ない 幸せ依存性。病院にかかっても治すことは出来ない それは時に幻覚を見せる それは簡単に命を奪っていく 酷い酷い薬 そんな恐ろしいものは誰も持つべきではないと法を敷く 幸せ禁止法