雨瑠(うる)

7 件の小説
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雨瑠(うる)

はじめまして!雨瑠(うる)と申します!!受験終わったばっかりの新高1です🥲 小説は好きですが書くのは初心者なのでなにとぞよろしくお願いします。ちなみに汐見夏衛さんの本が大好きです!

黄色いパンジー

 目が覚めるとそこは病院だった。  ピー…ピー…と耳元で鳴る機械音。真っ白な布団。腕に付いた点滴のチューブ。それらの情報が私に、ここは病院だと教えてくれた。  そしてすぐに、ここは私が今までに来たことがない病院だということもわかった。窓から見える外の景色に一切の見覚えがなかったからだ。次に、一つの疑問が頭によぎった。 ーなぜ私は病院にいるのだろう。  私はその原因を探すことにした。試しに腕を動かしてみたが、痛くない。足も首も背中も、動かしてみたけれど特に痛みは感じなかった。ということは…。腕を上にあげ、そっと頭を触ってみる。すると、鋭い痛みと包帯の感触がした。そうか、原因は頭か。  そんなことを考えていると、“ガラガラ”と扉が開く音がした。ふとそちらをみると、一人の知らない男の人が立っていた。  「…えっ、…寿々(じゅじゅ)さん!目が、覚めたんですか?」  その男の人はとても驚いた表情でこちらに駆け寄ってくる。  「……あ、えーと、」  「とても心配したんですよ?もう一生目覚めないのかと思っちゃいました。」  「…えーっと、その、」  「…なんです?」  「…すみません。誰、ですか?」   ・・・  「…おそらく、頭に強い衝撃を受けたことによる記憶障害、簡単に言うと記憶喪失ですね。色々と戸惑うことは多いと思いますが、ゆっくりで大丈夫ですので頑張っていきましょう。」  「…はい」  あの後、あの男の人がナースコールを押し、すぐにお医者さんに診てもらう事になった。記憶障害だと診断され、私の名前は橘寿々(たちばなじゅじゅ)だということも教えられた。そして、病室に入ってきたあの男の人は如月詠(きさらぎうた)といって私のいとこにあたるらしい。  「寿々さん、そこ、段差あります。お気を付けて。」  「はい、ありがとうございます。」  如月さんはさっき病室であった時と比べて、ずいぶん雰囲気が違っており、とても落ち着いている。いや、落ち着いてるというかショックを受けているといった方が正しいだろうか。まぁ、無理もないだろう。もし私が如月さんの立場でも同じようにショックを受けると思う。  如月さんに連れられ病室に戻った後は“橘寿々さん”について色々教えてもらった。年齢は十八歳で如月さんの一つ上だということ、高校は通信制の学校だということ、など。とりあえず、高校が通信制なら授業の遅れや友達関係などはあまり心配しないでよいと分かり、安心した。  しかし、まだまだ問題は山積みで、“これからどしよう”と不安が募るばかりだった。  「如月さん、今日は色々ありがとうございました。ご迷惑おかけして、すみませんでした。」  「…いえ、全然大丈夫です。明日、また来ます。」  そう言って如月さんは病室を出て行った。  その後、私一人になった病室は窓から入ってくる夕日の光でほんのりオレンジ色に染まっていた。本当の私はこの景色を見たことがあるのだろうか。本当の私は一体、どこに行ってしまったのだろうか。それらの答えはどんなに考えても分からなかった。

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黄色いパンジー

愚痴ってもいいですか?

すみません、愚痴ってもいいですか? (今回、小説ではありません。嫌な方は飛ばしてください。)  私は現在、中学3年生の受験生です。 そして、塾に通っているのですが、その塾が嫌いで嫌いで仕方ないんです。よく、塾が嫌だと言うと勉強が嫌だと思われるかもしれませんが、勉強が嫌なのではなく(好きと言ったら嘘になりますが)“塾”が嫌なんです。正直、ストレス、時間とお金の無駄、でしかありません。  私が塾が嫌いと言う理由は大体4つくらいあり、 ①もともと行きたい塾ではなかった ②授業のやり方が合わない ③自分のしたい勉強ができない ④友達関係 です。  ①に関しては②とも少し関係するのですが、私は塾探しの時にお母さんに先生と生徒が1対2もしくは1対3の塾がいいと言いました。その条件で塾を探し、見学に3件くらい行きました。そして、私はその中で気に入った塾があったのですが、お母さんに言ってみたところ、 「お兄ちゃんの塾の方がテスト対策とかもっと充実してるよ?」 「お兄ちゃんの塾より授業料めっちゃ高いんだけど、」 などと、兄の塾と比べてその私の気に入った塾を否定され、結局、兄と同じ塾に入れられました。  そして、②なのですが、さっきも言った通り私は1対2もしくは1対3の塾がよかったんです。でも、入れられた塾は先生と生徒が1対1で授業を行うという方針でした。塾の考え方としては1対1で授業をすることでだんだん先生と仲良くなり、質問などをやりやすくするといったものなのですが、私は人見知りで先生と全然仲良くなれませんでした。そもそも話せません。なので質問もできません。  授業中、私以外の生徒たちは先生とお話しをしたり、わからないところを質問したりしていて賑やかなのですが、私と私の担当の先生のところだけ静か、という気まずい状況になります。ただ問題を解いて先生の解説を黙って聞くという時間です。これなら自分1人で家でもできます。塾に行く必要性を感じません。  次に③です。これは長期休みやテスト前などによくなります。私の塾では長期休みやテスト前は授業日数が増え、さらに宿題も増えます。そのため授業、宿題に追われて学校の宿題、提出物がなかなか進みません。私が塾で受けている教科は英語と数学なのですが、テスト前に「今回、理科が難しいから理科の勉強しなきゃ」と思い、英語と数学の勉強時間を理科に当てようとしても英語と数学の授業、宿題があるせいで理科の勉強ができないです。夏休み、冬休みも似たような理由で無駄にしました。  最後に④です。私の塾では今、同じ学校の子が数人います。そして、その数人のほとんどが友達とクラスメイトの中間くらいの関係です。例えば、話したこともあるし学校では普通に話すけどわざわざ塾で話すほど仲良くない、みたいな感じです。(分かりにくくてすみません)まぁ、簡単に言うと気まずいです。あと、人見知りで塾に馴染めていないので塾の時の自分と学校の時の自分が違いすぎて「猫かぶってる」とか思われてないか心配で友達に会いたくないです。  大体の理由はこんな感じです。お母さんに塾を辞めたい、休みたいと言っても「どうせあとちょっとだし」や「もうすぐ受験なんだから我慢して」と言われ終わりです。確かにあと受験までもう少しなので今さら塾を変えるとか辞めるとかできないっていうのは分かるんですが、このままだとやりたい勉強もできないしストレスだし本当に受験大丈夫かなって感じです。 この前、体調が良く無くて塾を休んだ時は「お金がもったいない」と言われました。こんな考えの親なので休むということは基本できないです。  本当に嫌です。  何か良い方法はありませんか?あれば教えてください。  そして、ここまで読んでくださりありがとうございました。本来、こんな愚痴ではなく皆さんの楽しめるものを配信する場なはずなのに、本当にすみませんでした。次からは皆さんの楽しめるものを投稿できるようにがんばりますのでよろしくお願いします。

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愚痴ってもいいですか?

「明日の天気は雨です。」

 雨の日、学校に来るとクラスの男子たちの会話が聞こえた。 『うわー、靴下めっちゃ濡れたわー、』 『今日、“雨”だもんな。そういえば、雨でグラウンド使えないから今日の体育は数学に変更だってさ、』 『マジかよ、最悪。靴下濡れるし、体育なくなるし、本当俺、“雨”って嫌いだわー』 「……。」  特に仲がいいわけではないので当然、会話に加わるわけもなく、黙って横を通り過ぎた。  そうか、今日の体育は数学に変更なのか。知らなかった。数学の教科書持ってたっけ。そんなことを考えていたらさっきの男子の言葉が頭をよぎった。  本当俺、“雨”って嫌いだわー、 「…はぁ〜、」 すると、  〈キーンコーンカーンコーン〉  チャイムが鳴り、モヤっとした気持ちのままホームルームが始まってしまった。    ホームルームの後からはびっくりするほど速く時間が過ぎた。移動教室や実技系の授業が多かったり数学の教科書を友達に借りに行ったりしたせいか、色々バタバタしてあっという間に放課後になった。    ちなみに、まだ雨は止まない。  私は部活動には所属していないのでいつもならもう帰れるのだが、さっきすれ違った先生に、資料室へ持って行ってほしいと荷物を任されてしまったため、まだ帰れない。  まぁ、もともとまだ帰るつもりはなかったのだけれど。  荷物を持って、資料室まで歩く。吹奏楽部や軽音部の演奏、合唱部の歌声、グラウンドが使えないため筋トレをしている運動部の掛け声。  そして、生徒たちの会話が聞こえた。 『えー、まだ“雨”降ってんじゃん!』 『最近“雨”多いよね。やだなー、』  また“雨”の会話か。なんだか、今日は多いな。  “雨”と聞くと自分のことを言われているのではないかと一瞬、ドキッとする。  それは、 『あっ!雨(あめ)ちゃん!バイバーイ!また明日〜!』 「バイバーイ!」    私の名前が“雨”だからだ。  “雨”と聞くとみんな、天気の雨を想像するだろう。そして雨にマイナスな印象を持っている人も多いと思う。  私も雨は嫌いだ。服や持ち物は濡れるし、髪の毛は上手くまとまらないし、じめじめするし、暗いし、テンションは上がらないし、『“雨”が嫌い。』だとか『“雨”最悪。』とか聞くと自分のことかと思って不安になるし。  でも私は、自分のこの名前が嫌いではない。  小学生の頃は、せっかくお母さんたちが考えて付けてくれた自分の名前を嫌だと言ってお母さんを困らせたり、天気の雨が嫌いと言ったクラスメイトの言葉を聞き、自分のことだと勘違いして泣きじゃくり、周りに迷惑をかけたりしてしまうこともあった。  今でも、明るくて可愛い名前を聞くといいなぁと思ったり、周りの会話を聞いて不安になったりもする。  それでも、自分の名前は嫌いではない。むしろ好きなくらいだ。  そう思うようになったのは確か…。  私が資料室に荷物を置いて、教室に戻った頃、シーンと静まりかえった教室に放送開始の合図が鳴り響いた。 《生徒のみなさんにお知らせです。下校時間十五分前になりました。活動中の部活は片付けをし、まだ残っている生徒は帰りの支度をして速やかに下校するようにしましょう。 そして、明日の天気は“雨”です。 最近は“雨”が多く、気分が上がらないこともあると思いますが、明日からも頑張っていきましょう!これで、放送を終わりにします。みなさん、安全に気をつけて下校するようにしましょう。今日の放送担当は二年五組、日向(ひなた)でした。》  そうだ。私が自分の名前を好きだと思うようになったのは、   放送部の君が、名前を呼んでくれるようになったからだ。

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「明日の天気は雨です。」

恋の神様に嫌われた。

どうか、どうかお願いします。 恋の神様、お願いします。 心の中でそう唱えながら、今日こそはと廊下へ向かう。 君と、クラスも家の方向も違う私にとって偶然会うことができるのは唯一、廊下だけだった。 教室を出た先に、君がいることを願って、少しずつ廊下に近づく。 すると、廊下から女子生徒たちの声が聞こえた。見てみると、 「頑張れ!」「早く早く‼︎」「行っちゃうよ?」 そんなことを言いながら一人の女の子の背中を押していた。 友達の応援を受け、その女の子は耳まで真っ赤に染めながらも一歩一歩前に進んでいた。 どうしたのだろうか。好きな男子でもいたのだろうか。 でも今の私にそんなことは関係ない。 今日は金曜日。もし今日話せなければ二日間話せない。 何か、一言でもいいから… でも、思い切って廊下に出た私が見た光景は さっきの女の子が君と楽しそうに話している姿だった。 どうやら、私は恋の神様に嫌われてしまったらしい。

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恋の神様に嫌われた。

一枚の紙切れに。

 あたりを見渡す。  まわりに誰もいないことを確認して耳に掛かったマスクのゴムを片耳ずつゆっくりと外した。さっきまで外気に触れていなかった頬が急に冷たい空気に触れて、少しずつ冷えていくのを感じた。 「…はぁ〜」  息を吐き出すと近くの空気が白く濁った。一月だし、実際寒いし、当たり前だけど、やっぱり冬だなぁと改めて思った。  手袋を外して、コートのポケットからココアを取り出した。手でぎゅっと握ると手のひらからじんわりと温まっていった。 「……あったかい。」  やっぱり、ここに来る前近くの自販機で買っておいて正解だったな。缶の蓋を開けて一口飲む。少し熱かったけど、ココアの甘くて美味しい味が口いっぱいに広がった。  ーガサ、 「………っ、!」  後ろの方で、人が通る音がした。鼓動が速まるのを感じ、私は急いでマスクをつけ直した。大丈夫、大丈夫、そう自分に言い聞かせた。 『あはははっ!なにそれ?おもしろ〜』 『でしょ〜』  目の前を通ったのは私と同じくらいの歳の女の子達だった。そして、彼女達は私の方なんて見向きもせずに通り過ぎていった。 「……はぁ〜、よかった。」  少しずつ遠のいていく彼女たちの背中を見て、安心したと同時に速まっていた鼓動がゆっくりに戻っていった。そして、 いいなぁ。  と、そう思った。    さっき私の目の前を通った彼女達はとてもキラキラとした笑顔で、友達と楽しそうに歩いていた。そんな“普通”の光景が、一般的に見て“普通”の光景が、私にとっては“普通”ではなくてとてつもなく羨ましい光景だった。  普通を羨ましく思うのは、自分が普通ではないからで、普通になりたいと思っているからだ。  無意識に口元へ手を伸ばした。でも、そこにあったのは肌ではなくてガサガサとした感触の紙だった。先程の彼女達の笑顔を思い出す。  私はあんな風には笑えない。彼女達のような笑顔で友達と笑い合うことはできない。それはきっとこのマスクがなくても同じだ。  というか私はもう、マスク無しでは笑えなくなってしまった。  【新型コロナウイルス】こいつは私達の生活を変えた。突然の休校、修学旅行などの学校行事の中止、楽しかった給食の時間も黙食を徹底、など学生の私達にもたくさんの影響を及ぼした。  でも、私が一番影響を受けたのは“マスク着用”だった。マスクを付けるのが嫌だったわけではない。むしろ逆だ。マスクを付けるようになったせいで、マスクを付けた生活が当たり前になったせいで、コロナウイルスの流行が落ち着いてきた今もマスクを外すことが出来なくなった。  付けるのはあんなに簡単だったのに。ただ耳に掛かったゴムを外すだけなのに。そんな簡単なことが私にはとても難しいことなのだ。  自分では見れないところを他人に見られるのは怖い。恥ずかしい。そう思うのはおかしいことなの?みんなはそう思わないの?    マスク無しで友達と話すのは怖い。自分、変な顔してないかな、嫌われてないかなって思ってしまうから。そう思ってしまう私には付ければ顔の半分が隠せるマスクというものが宝物のように感じた。  みんなが裸で外を歩くのが恥ずかしいように、私もマスクをせずに外を歩くのが恥ずかしかった。  みんなが外に出るとき靴を履くように、私も外に出るときマスクを付けた。  私にとってはそれが“普通”だった。  鞄からスマホを取り出して時間を確認する。もうそろそろだ。鏡を見て前髪とマスクのシワを整える。よし。すると後ろから足音が聞こえてきた。 「お待たせ〜!もしかして待った?」 「ううん、大丈夫だよ。じゃあ行こっか。」  私は目だけしか見えていなくても分かるくらい少し大げさに笑った。  もちろん、できることならマスクを外したいって思っている。外して、みんなみたいに笑いたいって思っている。こんな“一枚の紙切れ”に守られている自分がバカバカしく思うことだって時々ある。  それでもやっぱり外せない。    私がみんなみたいに笑えるようになるのは                   まだまだ先になりそうだ。 《あとがき》  まず、最後まで読んでいただきありがとうございます!雨瑠(うる)と申します。今回はマスクが外せない女の子をテーマに書いてみました。  ここからは完全にわたくしごとなのですが、実は私も作中の女の子と同じでマスクが外せないんです。まぁ、俗に言うマスク依存症というやつですね。そのため、私の実体験や実際に思ったことなどを混ぜながらこの作品を書きました。作中でも似たようなことを言っているのですが、私の場合はマスクを取っているところを友達に見られると自分が変な顔してないか不安になったり、相手が想像していた顔よりかわいくなかったらどうしようと心配になったりします。あくまで私の場合なので全員がそう思っているという訳ではないですが、この作品やこの文章を読んで少しでもマスク依存症の人の気持ちを分かっていただけたらなと思います。  そして、ここまで読んでくださった優しいマスクを外せる方々に、お願いしたいことがあります。もしあなたの友達がマスクを外せていなくても無理やり外させようとしないであげてください。きっとその子も色々悩みながら頑張っていると思います。強制的に外させるなんて絶対にやめてください。私はこの言葉を自分の学校の体育教師に言いたいです(笑)  最後に、私と同じマスク依存症のみんなに。私はマスクを外すのがいいことなんて思っていません。付けていても他人に何も迷惑かけてないし、全然いいと思います。それでも、私と同じように少しでも外したいと思っているなら、一緒に頑張りましょう。私は、私を含めたマスク依存症のみんなが、一日でも早くマスクを取った状態で笑えますようにと心から願っています!  改めて、最後まで読んでくださりありがとうございました‼︎

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一枚の紙切れに。

チューインガムとあの景色

ーこんな世界、もう壊れたっていい。 「はぁ、はぁ、、っ、はぁ」  右側に見える学習塾、たまに行く駅前の本屋さん、いつもお母さんが使っているスーパー。全て無視して走った。いつも見ている景色が何倍も何十倍も早送りに見えた。もう嫌だ。もう辞めたい。だから行こう。どこかに行こう。そう、ここではない、どこかに。  気がつくと、目の前にはいつもとは違う世界が広がっていた。 「はぁ、はぁ、、」 息切れが激しい。普段運動をすることが少ない僕とってはかなりの運動量だった。息を整えて、もう一度前を見る。目の前には『ゆめのヶ丘公園』と書かれた看板と何段にも重なった階段があった。ここは確か、小さい頃来たことがある気がする。そして僕は試しに登ってみることにした。階段の両脇には、たくさんの木が植えられており、風が吹くたびさわさわと揺れ、葉っぱの間からキラキラと光が入ってくる。小さい頃来たことがあると思ったけれど、それは勘違いだったかもしれない。僕はこの景色知らない。こんな美しい景色見た覚えがない。  階段を上り終わり、頂上らしきところに到着するとそこは開けた広場のようになっていて、街中の景色が一望できるようだった。あたりを見回すと、1人の女子高生がぼーっと空と街を眺めていた。僕は邪魔しないように彼女がいる方向とは、逆方向に歩き出した。しかし、 「あれ?こんなとこに人が来るなんて、めずらし〜」 と、背後から声が聞こえた。 「こんなところに何しに来たの?」 背後からの声を聞いた僕はすぐに振り返り謝ろうとしたが、彼女に先を越されてしまい、謝るタイミングを完全に失ってしまった。 「えーっと、、」 僕が困っていると、彼女はニコッと笑い「ちょっとこっちおいで」と優しい声で言いながら手招きをした。 「あの、。えっと、」 彼女の近くまで行ったのは良いものの、特に話すこともなく、沈黙が気まずかった。 「……あ、あの!お姉さんこそ…」 沈黙に耐えきれず、僕が口を開くと「色葉【いろは】でいいよ」と口を挟まれてしまった。 「…色葉さんこそ何しに来たんですか?」 色葉さんは、ポケットから何かを取り出し、こちらを向いてまたニッコリと笑った。 「私はね〜、これ!」 色葉さんがポケットから取り出した小さい箱には、ポップで可愛らしい字で、チューインガムと書かれていた。 「…チューインガム、?」 僕が不思議そうに読み上げると、色葉さんは驚いた顔でこちらを向いた。 「もしかしてチューインガム知らない?」 「…チューインガム自体は知ってます。でも食べたことなくて、だからおいしいのかなぁって、」 「じゃあ、はいっ!」 いろはさんはチューインガムの入った小箱をこちらに向けてきた。 「1つあげるよ!」 「え、そんな悪いですよ。」 僕が断ってもこちらに向けてきた小箱を色葉さんは一向に戻そうとしない。 「いいから食べてみなって。もし食べておいしかったらもったいないじゃん。ねっ!」 多分、僕がどれだけ断っても、色葉さんは諦めないだろうと思った。 「……じゃあ、1つだけ。」 チューインガムを口に入れ、少し噛むと、甘くておいしいグレープの味が口の中に広がった。 「おいしいでしょ。」 「…はい。」 「やっぱり〜」 僕の反応見て、色葉さんは少しドヤ顔で笑った。 「その歳でチューインガム食べたことないとか、あ、えっと、」 色葉さんが少し困った顔でこちらを見てきた。もしかして名前だろうか。 「………紡【つむぐ】です。」 「えーっと…その年でチューインガム食べたことないとかもしかして紡くんどっかのお坊ちゃんだったりする?」 「…え、」 「しかもその制服!頭いいって有名の私立中学の制服でしょ?頭もいいんだ。すごいね。」 あ、そういえば着替えないで制服のまま着ちゃったな。着替えてくればよかったかも。 「…あの、僕、別にお坊っちゃんとかそういうわけじゃないです。頭も別に、普通です。ただ少しだけお母さんが厳しくて、お菓子とかゲームとかあんまりってだけです。」 僕は着ているだけで自分がどの学校に通っているのか示してしまう「制服」というものが嫌いだった。 「……ていうか、色葉さんが着ているその制服、夢が丘女子学園の制服ですよね。超名門校の。頭、いいじゃないですか。」 「…まぁね〜。でも中三の時ちょっと無理して入っちゃったから、学校の中では下の方だよ。」 そして少しの沈黙の後、色葉さんがまた口を開いた。 「…私はねこのガムを食べながら、この目の前の景色を見るのが好きなの。綺麗だからさ、紡くんも見てみなよ。ほら、すごい遠くまで見えるよ!」 色葉さんは、目の前の景色をすごくキラキラとした目で眺めていた。たかが、景色でそんなに感動できるものなのだろうか。気になった僕は色葉さんに言われた通り、目の前の景色を見ることにした。顔上げるとさっきまで自分もいた街が、夕日の光に照らされて、すごくきれいに見えた。どうやら色葉さんといろいろ話してる間に日が暮れ始めたようだった。さっき見た学習塾も本屋さんもスーパーも、全て見えた。だけど、さっきとは全然違う。さっきはどこか薄くくすんでいて、お世辞にも綺麗とは言えないような景色だった。でも今は違う。学習塾も、本屋さんも、スーパーも、それ以外もすごく綺麗に見える。これが本当に僕がさっき見ていた景色と同じなのだろうか。もう壊れてもいいと思うほど憎んでいたあの時の世界とはまるで違った。 「…綺麗。」 思わず声に出てしまった。 「でしょ!でしょ!…って紡くん?!大丈夫、?」 「、、え?」 ーポタッ 足元に水滴が垂れた。あれ、僕泣いてる? 「、、大丈夫です。」 ポケットからハンカチを取り出して、涙を拭いた。すると、色葉さんが心配そうにこちらを見てきた。 「…あの、色葉さん。色葉さん、僕が来た時、何しに来たのかって聞きましたよね。」 「うん。」 「僕は逃げてきたんです。ここに来る前僕はこの下の世界にいました。それで学校が終わって家に帰ってきたとき、お母さんとお父さんの話す声が聞こえて、。2人、僕のこと話してて。」 「…うん。」 色葉さんは僕の話を真剣に聞いてくれた。 「僕、兄がいるんですけどすごい優秀で、でもそれは僕もわかってて、だから、僕は僕なりに必死に努力して、認めてもらおうって。少しでも期待に応えようって。頑張って勉強して、私立の中学に入って、中学に入ってからも頑張って頑張って。」 おかしな文章になっていないかな、しっかり伝えたいことを伝えられているかな。だけど、今の僕にはそんなこと気にする余裕はなかった。 「なのに、なのに。やっぱり兄は超えられなくて。それでさっき、お母さんが、“やっぱり、お兄ちゃんに比べて紡はダメだ”って言ってるの、聞いちゃって…。それ聞いた時、僕の中の何かが壊れて、世界が歪んでくすんで見えて。怖くなって帰ってきたばかりの家を飛び出して逃げてきたんです。」 「……うん。そっか、紡くん、頑張ったんだね。」 色葉さんはそれ以上何も言わなかった。何も聞かなかった。 「…とにかく逃げたくて、行く先も決めずに走ってきて、そしたらここに着いたんです。そこに見える学習塾も、本屋さんもスーパーもここに来る途中で全部見てきました。でもこんなに綺麗じゃなかった。もう壊れてもいいって思うくらいこの世界を憎んでた。だけど、今ここから見る世界はすごく綺麗です!こんなに綺麗な世界を憎んでた僕を、今では馬鹿みたいに思います。」 僕が憎んだ世界を、僕が壊れてもいいと思った世界を。色葉さんはあんなにキラキラとした目で眺めていて、そんな色葉さんのおかげで、世界は本当は綺麗だって知ることができた。 「…紡くん。」 「色葉さん、僕にこんなに綺麗な世界を教えてくれてありがとうございます。僕においしいチューインガムの味を教えてくれてありがとうございます。あ、あと会ったばかりの僕のこんな話聞いてくれてありがとうございます。」 僕は精一杯お礼を言った。 「ううん、全然大丈夫だよ。」 “大丈夫だ”と言う色葉さんの顔がさっきより暗くなったように感じた。僕の気のせいだろうか。すると色葉さんは、こちらを向いて話を始めた。 「…あのね。紡くん。実は私もさ、兄弟がいるんだ。……妹なんだけどね。」 色葉さん、妹がいたんだ。まぁ、面倒見もいいし、居てもおかしくないか。 「その妹がね、ちょっとした知的障害持ってて。だから妹は人よりできないことが少し多くて、お母さんはいつも妹の面倒見ててね。」 知的障害の妹…。色葉さん、今までいろいろ我慢してきたんだろうなぁ。 「お母さんがいつも忙しそうで、だから私は私だけはお母さんに迷惑かけないようにしようって、安心させてあげようって思って。できるだけ自分のことは自分でやったり、妹の面倒もたまに見るようにして。お母さんを安心させると同時に、知的障害の妹も私がちゃんと守ってあげなきゃって思ってた。」 色葉さんは、制服のリボンをとって、それをじっと眺めた。 「私がこの学校選んだのもね、お母さんを安心させるためなんだ。頭の良い有名な学校に入ったら、お母さん安心できるかなって思って。…いや、違うな。まぁ違うこともないんだけど。……頭が良くて有名な学校に入ったら、私お母さんに褒めてもらえると思ったんだ。確かにお母さんは安心させたいっていうの本当。でもそれ以上に褒めて欲しかったんだ。お母さん、いつも妹につきっきりで褒めてもらえることなんてあんまりなかったから。だから頑張って、褒めてもらいたかったんだ。…笑っちゃうでしょ?」 僕は全力で首を横に振った。褒めてもらいたい気持ちすごくわかる。色葉さん一緒だったんだ。 「…でも、お母さんはあんまり褒めてくれなくてさ。それで私嫌になってそれで…ここに来たんだ。」 僕と同じだ。僕も嫌で嫌で仕方なくて、それでここに来た。色葉さんも同じだったんだ。 「びっくりしたでしょ?ここに初めて来た理由、紡くんと一緒なんだ。だから紡くんの話聞いてて、すごい、なんていうかさ、自分のことも話したくなっちゃって。…ごめんね。急に私の話しちゃって。」 色葉さんは少し辛そうに笑った。 「……それで、それで色葉さんはどうしたんですか?色葉さんはここに来てどうしたんですか?」 「…私はここに来て、今日と同じようにこの景色を見たの。最初のほうはたかが景色だって思ってた。だけどね、長時間眺めてて思ったんだ。平和だなぁって。時間がたってもこの景色は変わらなかった。下にある家もお店も1ミリたりとも動かなくて、あたり前なんだけどさ。こんな平和の世界で守るものなんてないじゃんて思って。あの時、妹守ろうって思った私、ほんとバカじゃんって思って。私なんかが守らなくても、この世界は平和で穏やかに流れていくんだなって、この景色見てわかったんだ。そう思い始めてからなんか楽になった気がして、毎日ちょっとずつ楽しくなっていった。私にとって、この景色はすごく大切なものなんだ。」 「…そんな大切なもの僕に教えちゃっていいんですか?なんか、申し訳ないような、」 色葉さんはまたにっこりと笑った。 「いいの!そんなこと気にしないで!じゃあこの景色は、私にとってじゃなくて、私と紡くんにとっての大切な景色にしよう?…ね!」 「…はい!」  帰ろう。家に。それでもっともっと頑張ろう。たとえ兄は、超えられなくても、また嫌になってしまっても。この景色を見ればきっと大丈夫だって思えるから。  きっと、色葉さんも嫌なことがあるたびここに来て自分を励まし続けてきたんだと思う。そんな色葉さんがこの景色を教えてくれた。だから僕は一生この景色を大切にして生きていこう。あと… 「色葉さん、そのチューインガム、どこに売ってますか?」 「なになに〜?気に入っちゃった?帰りに買って帰ろうか。」 「はい!!」 ー僕は今日食べたチューインガムの味と色葉さんと見たあの景色を一生忘れない。 《あとがき》 まず、最後まで読んでいただきありがとうございます。こんにちは、雨瑠(うる)と申します。こちらの作品は私の記念すべき2作品目になります!!まだまだ初心者なので温かい目で見ていただけるとうれしいです。個人的な反省点は登場人物の一回の台詞が長くなってしまったことです…。他にも読みにくいところなど多いと思うのでアドバイスや率直な感想などいただけると今後の参考になりとてもうれしいです。改めて、最後まで読んで頂きありがとうございました!!

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チューインガムとあの景色

誕生日の旅

今日は誕生日。 一年に一度しかない大切な日。  放課後、掃除当番をクラスメイトに代わってもらい、急いで学校を出た。今日は私の大親友、琉夏【るか】も一緒。  左側に見える宝石のように輝く海を横目に見ながら全速力で走った。今日の行き先はもう決まっている。喫茶店だ。その喫茶店は学校から歩いて三十分くらいのところにある。優しくて、とても気さくなおばあちゃんが営んでいて、お洒落で昔ながらのレトロな雰囲気のあの喫茶店は私と琉夏のお気に入りの場所だった。暑くて溶けてしまいそうな日も、寒くて凍ってしまいそうな日も、私が英語のテストで二十五点を取って泣いた日も、琉夏に初彼氏ができて二人でお祝いをした日もいつもあの喫茶店に寄っていた。あそこにはこんなにもたくさんの思い出が詰まっているのだ。  住宅街を抜け、町の商店街を通り過ぎてすこし進むとあの喫茶店は見えてくる。もうそろそろで到着だ。  ドアの前に立ち、息を整える。ポケットの中のハンカチで汗を拭いて、深呼吸を一回。最近はあまり来れていなかったけれど、おばあちゃんは私たちのことを覚えていてくれているだろうか。ジリジリと鳴く蝉の声と遠くに聞こえる波音が少しうるさい。久しぶりだからか不思議と緊張して、鼓動が早まるのを感じた。私は勇気を出して思い切りドアを開けた。  すると、“カラン”と、とても懐かしい音がした。その音と同時に店内の冷たい空気が押し寄せて来た。涼しい。さっきまでの暑さが嘘みたいに思えた。そして奥からおばあちゃんが出てきた。相変わらず元気そうだ。 「はいはい、いらっしゃいませ…って、小雪【こゆき】ちゃん、小雪ちゃんかい…?」 どうやら私たちのこと、覚えてくれていたらしい。 「はい!小雪です。おばあちゃん、久しぶり。」 おばあちゃんは嬉しそうな安心したような、そんな顔で言った。私も元気そうなおばあちゃんの姿を見ることができて嬉しかったし安心した。 「そうかい、小雪ちゃん、また来てくれたんだねぇ。おばちゃん、てっきりもう来てくれないのかと思ったよ。…今日は一人で?」 「……いえ、琉夏も一緒です。今日は、誕生日だから。」 私がそう言うとおばあちゃんは一瞬目を見開いて、でもすぐにいつもの優しい表情に戻って私たちがよく使っていたテーブルに連れってくれた。  私たちは席に座ると懐かしい、見慣れたメニューを開いた。だけど今日頼むものはもう決まっている。『七色のくりーむそーだ』だ。 「おばあちゃん、『七色のくりーむそーだ』を2つ。私が青で琉夏が緑。せっかくの誕生日だからトッピング増し増しで!」 「はいよ、おばちゃんに任せな。小雪ちゃんも、琉夏ちゃんも、トッピングはいつもので大丈夫かい?」 「うん!」 私とおばあちゃんは二人で一緒に笑った。 『七色のくりーむそーだ』はクリームソーダのソーダの色を七色の中から自由に選べる、というもので私と琉夏の大好きなメニューだ。私はいつもその日の気分で好きな色を飲んでいたけど琉夏は「クリームソーダといえば緑!」とか言って絶対緑しか飲まなかった。せっかく選べるのだから違う色も飲めばいいのに。思い出したらなんだか面白くなって少し笑ってしまった。  それからクリームソーダを待つ間、汗が乾いてとても寒く、長く感じた。  クリームソーダを飲み終え、おばあちゃんに挨拶をして、私たちは次の目的地へと向かう。次の目的地へは電車で一時間ほどかかる。時間的に考えて次で最後の目的地になりそうだ。私たちは少し急いで今停まっている電車に乗りこんだ。  電車を降りて目的地に向う前に、近くのお花屋さんとコンビニに寄った。そして、買った物たちを抱え、最後の目的地へ歩いた。少し疲れたのか心なしか足が重く、思ったより時間がかかってしまった。  辺りが薄暗くなってきて空が赤く染まり始めた頃、ようやく最後の目的地に着いた。そこには綺麗に切られて様々な文字が彫られた石の塊が並んでいて、そこら辺を漂う白い煙からは線香の匂いがした。私は一つの石の前にしゃがんだ。袋からさっきコンビニで買ったサイダーとみかんの缶詰を取り出し、お花と一緒に飾る。 「………確か、みかん好きだったよね。クリームソーダのトッピングもみかんだったし。…このサイダーもよく飲んでたから買ってきたんだけど、好きじゃなかったら、ごめん。」 飾り終えた私は、朝、家から持ってきた線香にライターで火をつけて前に置いた。線香の先の方がほのかに赤く光り、白い煙が出てくる。そして、私は手を合わせた。 「…………。」 何故だろう。目から水が溢れてきた。これは、涙だろうか。 「……っ、」 拭いても、拭いても涙は溢れて止まらなかった。だから私は、涙を拭くのは諦めて再び手を合わせ、目の前の石の塊に彫られた文字をじっと見つめながら言った。 「…琉夏、誕生日おめでとう。」 泣いているせいか声が少しばかり震えてしまった。 上を見上げてるとそこには赤く染まりきった空があり、それはむかつくほどやけに綺麗だった。 [誕生日の旅]を最後まで読んで頂きありがとうございます♪初めまして、雨瑠(うる)と申します。これは私にとって最初の作品でまだまだ初心者なので表現などおかしいところもあるかもしれませんが温かい目で見てくださると嬉しいです。時間があれば後編も書いてみようかなと思っているので投稿はいつになるか分かりませんが、もし見つけた際はそちらも読んで頂けるとさらに嬉しいです! 改めて、最後まで読んで頂きありがとうございました!

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誕生日の旅