仙 岳美
586 件の小説09 勇者ガーネス
その羽の箇所にちらほらとややほころびが見える、ドリル状の一角を頭部に生やした白い蝉が、失われた言語文字が渦を巻くサイの亜空間を音速を超える速度で回転しながら飛ぶ、その蝉はノウスの瞳から霊魂に成り亜空間に侵入した杏里の化身である。 そのドリル状の一角で次々とセキュリティシールド壁を突き破り、周囲にはそのクラッシュ音が鳴り響いていたのだった。 杏里は思う。 『全て私が守るわ、それと終わらすは、全てね』 そしてひらけた空間に出る。 そこで杏里が目にしたのは、紫の六角の水晶壁に守られたサイの祖の竜帝であり、その姿は、巨大な龍とスズメ蜂を同時に思い起こす混合的な姿であった。 杏里はその姿に怯む事なくその水晶壁にも角を当てる。しかし半分刺さった所でバキッと音を鳴らし角は折れてしまったのだった。 水晶壁の中の竜帝がそれを見て細く微笑む。 杏里は蝉化を解き、人の身に戻る。 そして背中まで伸びた金髪を身体に絡ませ回るとその姿は金色に輝く針金と化す。 そして再び水晶壁にattackをかけようとしたその時、背に気配を感じ変身を解きながら身体をひねると腰のくびれスレスレに一本の矛先が蛇のようにくねった矛が通過する。 振り向くとそこに宙に浮く塞の女王が立ち尽くしていたのだった。 杏里が再び人に戻ったその姿は若返り、各所に青い線が走る金銀の鎧兜に包まれ、背中の髪は光るマントに変わり、その手には剣を握る戦士に変貌していたのだった。 その姿を見て塞の女王は呟く。 「伝記の勇者ガーネスね……あ、相手に不足は無いわ!、勝負!」 横に光るタツマの霊魂は双方の力を測り、杏里に自分が対峙し敗れた勇者と同じなんとも言えない、それは無限核的に増大する大宇宙群を感じ、悟る『我々は何者かの策にハマっている!』口を開く。 「いけませぬ! お逃げ下さい!」 女王は黙って首を横に振り、竜帝から授かった腰の契皇の御剣と言われる宝剣を抜く。 杏里はその女王を見てニヤリと笑みを浮かべる。 [続] 解説と解釈 ※塞の戦士らの瞳 その者達の精神世界は、サイの異空間と繋がり、奥の間に居る祖の竜帝から様々な恩恵を受けている。 ※契皇の御剣 またの名は、ポットブレーカーと言われる宇宙剣である。 その剣は壺から無限に生み出される超戦士達に対を為す為にかつては、量産されていた剣と伝わる。
08 ガイア
AI校正 08 ガイア 序 行方不明になっていた斥候四人の遺体が発見される。 夜分、後ろで縛った馬尾の様な赤い癖髪をなびかせた女性帝兵が乗る一台の漆黒の装甲バイクが淡国の秘海底通路を走り抜け、紀国と言われる国の管轄である地上の公道と合流する。 その公道は渓谷の間を流れる川の流れに沿う様に川上に建造された三車線のブリッジハイウェイである。 その景観が美しいハイウェイの終着点は帝都である。 やがてそのバイクの後ろを三台の塞の軍用バイクが追い付く。 その塞の斥候隊長であるホビットのガイアは帝兵に向けて後ろから叫ぶ。 「御用だー!」 帝兵のライダーは無視する。 ガイアは『まぁだろうな』と心の中で呟く。 ガイアは左右の部下に指示を出す。 ガイアは減速し指示を受けた二台のバイクは加速し帝兵バイクを左右から追い抜き後ろから球状の爆弾を撒く。 反射的に帝兵はブレーキ操作でバイクを滑らす様に回し、その身はバイクを盾の様に伏せる体勢を取り、道路に沿ってほと走る青い爆風を装甲バイクのサイドシールドで受ける。 そして既に二台のライダー兵の首元には光る投刀が刺さっていた。 その身は当然バイクから転げ落ちる。 帝兵のバイクはそのまま、再度スピンをし体勢を戻すと何事もなかったかの様に加速してゆく。 ガイアはその状況をさまにし反射的に腰の得物のダガーを目の前で抜き払うと手に衝撃を感じる、勘だけで弾いた短刀がけたたましい音を鳴らしながら道路に転がる。 ガイアは血の気が引き蒼白になり考える。 『いつ投げた!? 全く見えなかった、冗談じゃねえぞ!』 しかし部下を殺したと思われる帝兵をこのまま逃すわけにもいかず、気負けせずに追いかけようとした時、その身に異常を感じ、違和感を感じる腹を見ると別の短剣が刺さっていた。 「チクショー、散刀か」 とうめき声を上げながらバイクを側道に停める。 確認したその傷は深くすぐに膝に力が入らなくなりガイアは仰向けになる。 主君である女王と出逢った最初の日々とその日々を思い出し思う。 『死にたくない……』 逆走し引き返して来た赤髪の帝兵がガイアを見下ろす。 その目は青く澄んでいた事から一筋の可能性を感じガイアは命乞いをする。 「頼む!神に誓う!このまま消える」 帝兵は塞の言葉を知らずとも、なんとなく理解し、やれやれとした感じに溜息をつくと、後ろに縛った髪紐を解き、髪を一振りしあくびをすると、ガイアのバイクの前後のタイヤを切り裂き、後はそのまま走り去って行った。 ガイアの傷を見てもう助からないと感じたのかも知れない。 ガイアは安心すると同時に段々と意識が遠のき始める。 その最中、思い出のダガーを空に掲げるとその十手型の柄の中央に装飾としてはめ込まれたアメジストが朝日に照らされ光り輝いていた。 ガイアはふと『それは当たりだと思って入れたよ』と女王の言葉を思い出しアメジストに願う…… 少しするとアメジストは縦に割れ柄から外れガイアの鼻に当たる。 「イッテテ」 そして奇跡が起きる、腹に刺さった短剣は抜け落ち、その傷は跡形もなくなっていた。 ガイアは笑う、「はっはははははは、女王様の言ってた通りこれは当たりの宝石だ」 そう独り言を呟き少しすると身体が重くも再び動く様になりガイアはトボトボと引き返していると急にただならぬ気配を地平線から感じ、まだ完全に回復しきっていない身を転がし、側道の角の影に伏せる様にその身を隠すと空を飛ぶ無数の漆黒装備の、それは両手に翼の様な剣を持ち飛行する帝兵の群れを目にする。 その遠目に見てもどれも凛々しい帝国兵士らを目にしてガイアは長い夢から覚めた様に感じ、女王が古参の中で自分にだけ将の位を与えなかった事を理解する。 『もう俺の出る幕は無い、いやそんなものは最初から無かったのだ、次は間違い無く終わりだ、このまま去り、後は女王様と仲間を信じ、祈るしか無い……』と。 [続] 解釈と解説 散刀 その名のまま、ターゲットに受けられた時に不規則ながらも、内蔵されたもう一つの剣が飛び出す仕掛けが仕込まれた帝国製のへの字形投刀である。 景清・甲 帝国製の戦闘用大型ツアラーバイク、車体内を前後に往復する大きなバランサー的な球体を備え、タイヤも太くスピンさせやすく、左右の側面に備え付けられた菱形のサイドシールドで攻撃を受ける事が出来る。 帝国特殊兵の多くは、このバイクを手足の様に操る訓練を受けているのである。 参考 シリーズ小説[蝉と少女]半島の乱の章。
07 傀儡と翔城
AI校正 07 傀儡と翔城 序 塞の国・本拠・麗城、その玉座に腰掛け、疲れからうつらうつらとしていた女王の顔を竜玉が照らし、間の窓から見える光景は高速で動く超の国の景色へと切り替わる。 * * * 「女王さま……」 「その声はタツマ、もう戻ったの?」 「はい、不覚を取りました」 「不覚?、貴方が?」 「敗れました、身体はもうありません、故にお供できる時はあとわずかでございます、そしてどうしてもお伝えしなければならない事があります」 「安心して、すぐに新しい身体を超から買うから」 「……いえ、それは辞退します」 「なんで?」 「……」 「嫌になったの?」 「はい、戦うのが」 「なら戦場にはもう貴方を行かせないわ、それでいい?」 「……ご存知だったと思いますが、私は竜帝の家臣です、そして女王様を見張り、利用し、そして女王様が傀儡神に魅了される事態に陥った時には、竜帝の命で貴方を殺す事も視野に入れていた輩です」 「殺したければ、殺しなさい、ただ抵抗はするけど」 「今は違います、さすれども竜帝は私を手放す事はないでしょう、何度でも私を戦いの場に向かわせる事でしょう」 「私が直に掛け合います」 「女王さま、竜帝を信用しないでください、無欲な者を演じておりますがとても恐ろしき方です、力を借りれば借りる程にその身は囚われてしまう事でしょう」 「……タツマは超の国に戻れば同じじゃない、魂だけでも近くに居て」 「それは無理です、身体を失った竜人は竜廟に向かい祖竜帝に仕える事になっております、そして竜玉になればその身分は、現竜帝より上になります、故に今は色々喋れるのです」 「……わかったわ、たまには竜廟に遊びに行って良いからしら?」 「はい、お待ちしております」 「今までありがとう……」 「……」 女王は切り出す。 「今なら言えますわね、竜帝とは何者なのかしら?」 「はい」 「正体である実名はエル・フ・サイ」 「……我らの敵、傀儡神と共に、この惑星では虫と言われている者達の祖であります」 「虫達の祖」 「はい、祖の竜帝は蜂、傀儡神は蝉、そして永きに渡り戦争をしている仲で、その舞台は全宇宙を回り」 「全宇宙を!」 「はい、しかし決戦の末に傀儡神を追い詰めるも取り逃がし、最終的に、この惑星へ逃げ込んだ傀儡神を追って来たのです、貴方もサイの末裔です」 「私は蜂だったの、確かに変な羽は生えてるけど」 「……」 「その蝉は、ほっておくわけにはいかないの?、理由は聞いてるけど、本当なの?」 「本当です、傀儡神はその世界の裏に自分の巣である仮の世界を重ねる様に造りその近辺の蟻に類する者達、この惑星では人間達を魅了し仲間に引き込み、やがては、その本来の表の世界も乗っ取りやみくもに資源を食い尽くし壊していくのです、それがやがては宇宙全体を滅ぼす事になりましょう、月が蒼白な廃惑星になったのも、かつて月帝神と名乗った傀儡神の仕業であります」 「月が……わかりました、で、伝えておかなければいけない事とは何?」 「はい、現在ノウス様が淡国の地下城に攻め込んでおります、私が敗れた以上、帝都の援軍との挟み撃ちに遭ってしまうと思われます、すぐに救援を!と言いたいのですが、現在の祖竜帝様の元に一人の侵入者が向かっております」 「侵入者!」 「はい、怪しき傀儡神の技を携えたその者が竜帝様を攻撃すると思われます」 「!」 * * * 幕 間の窓際には二隻の小さな軽量な竜骨舟が着けられていた。 女王はゴズに視線で指示を出す、ゴズは阿吽で頷き骨舟にまたがり、空へ飛び立ち、ノウスの援護へ向かう。 女王は、もう一台の竜骨舟に飛び乗り、タツマの魂である光竜玉と共にサイのマザークリスタルの中心核・祖竜帝の聖地へ通じる竜道を飛び、アサシンである侵入者の後を追うのだった。 [続] 解説と解釈 ヒトミカミ 王族の技・瞳噛みその技は、技というより、傀儡神の古き盟友である鎌神に寄生する寄生虫である[ガーネス]を身体に代々受け継ぐ様にし寄生させた者であり、その能力は、その寄生虫の名のままに他次元を移動できるのである。 それは蝉の神・傀儡神が蜂の神であり竜の祖・翔城神に備えたセーフティネットでもある。 ヒロイン それは物語を締める役割をも持つ、特に初代ヒロインは……。 傀儡 その身体の元は木である、その宿り木は宇宙から降り来たり根を張り、使徒である蝉達と共に、その世界を創り出していくのである。 それが正しい事か、もしくは、悪い事なのかは、結果のみが答えなのである。 時・時間・タイムリープ それらは本来は実体が曖昧なものであり、言葉で言うと付け込まれて書き換えられてしまう、危うい溝が多く刻まれている次元なのかも知れない。
物の価値
物の価値 登場人物 鬼、名はウミウシ(ただの釣り人) 地獄の鬼、その名ウミウシは先日、蓮池でたまたま、それは透き通る様な美声で歌を歌いながら空を飛ぶ、高名な如来様を見かけ、その如来様の腰にぶら下がっていた金色に輝く蛇革巻きのキーケースを見ると欲しいと思い、近くの町で探してみるもどこにも売っておらず、一度は諦めるが寝ても覚めても蛇のキーケースが頭の中に居座り、その煩悩から眠れなくなり、深夜の洗面所の前で鏡に映る目の下にできたクマを見て決断をする。 その決断とは、自分の手で金の蛇を捕まえて自分でキーケースを作ろうと考えたのである。そしてその名も、蛇塚と言われる広大な湿地帯に行き着く。 早速鬼は持参した網を持ち、その蒸し蒸しする沼の湿地帯を蛇を探して歩きまわり、普通の蛇は時折見かけるものの金の蛇は中々見つからず汗だくになり、カラカラと寂しげなひぐらしの鳴き声が聞こえてくると日はすぐに落ち暗くなる、すると少し先にポツリと灯る灯火を見つけ鬼がとりあえずその灯火へと向かうと、蛇屋と墨で書かれた年季の入った看板を掲げる一軒のお土産屋へと辿り着く。 そのお土産屋は、まだやっている様なので鬼が中を覗くと、蛇を丸々漬けてある酒瓶が棚に並び、その他に蛇の焼き印が押された饅頭やら蛇の玩具などの蛇関連のお土産が沢山置いてあり、鬼はここなら蛇のキーケースが置いてあると希望を見出し探すも見つからず、ついつい蛇と関係無い玩具の鉄砲やら木刀などを手にし何か悶々としていると、奥からその店の店主と思われる老亡者が徳利を手に持って出てくる、いつのまにか店の中には焼いたイカの香ばしい匂いが漂っていて、その匂いに鬼の腹は刺激され鳴る。 少しほろ酔いの店主は鬼に話しかける。 「もう店を閉める、早く決めなされ、少しなら勉強もする」 「……」 「何を探しておるのかな?」 鬼は蛇のキーケースの事を話す。 「ほう、それならあるぞよ、一年ほど前にそのスラっと背の高い如来菩薩様は修行の折此処に立ち寄ってくれてのう、そしてそのキーケースを買っていた、覚えておる」 そう聞いて鬼の目はパッと明るくなる。 「ほら、そこに残り一つがぶら下がっておる、安価な物だが造りもデザインも中々の良品である」 と指を差された無数のキーホルダーが吊るされた回る台の一番下の所に鬼が探していた蛇のキーケースを目にするも、すぐにその顔は曇る、何故なら一見確かに経年劣化から少しその色は黄ばみそれが金色と言われればそう感じるも、それは普通の白蛇の革であったからである。 鬼は色が違うと首を横に振る。 「君は何故、金にこだわるのかね?」 鬼はそう言われると少し悩む。 答えを出す。 その気持ちは、半分は如来様への憧れもある、だから同じ金じゃないと駄目だという事を店主に告げる。 店主は「ふむ」と呟き、伸ばした顎の白鬚を数回さすると棚から折り紙を取り出し中から金の紙を抜き、その金紙の上にキーケースを置くと、その色はたちまちに金色に輝き出す。 店主はポツリと呟く。 「如来さまは、このやや色が変色したキーケースを見て、侘び寂びがあり、離れても去らずに待っていてくれたら友人達のようでとても良いと言っておったのう、そしてそう言うも、あえて片方は買わずに残していったのは、何か理由があったのかも知れんな……」 「……」 帰りの夜行列車の中で鬼は蛇饅頭を食べながらランプに照らされ金色に光る白蛇のキーホルダーを見続けていると流石に疲れから眠くなりランプを消し、寝台に寝転ぶ前に、何気なく月光にもキーケースをかざす……すると今度は蒼白く銀色に輝き、それを目にし、ふと鬼は「色は自分の色で良いのかな」と感じたのである。 [終] あとがき 創作の構想は秦野市の外れにある、蛇塚と言う地名から得ております。
人生の価値
登場人物 鬼・名はウミウシ(ただの釣り人) 地獄の鬼はその日は雨の日だった事から畑に出ず、久しぶりに書の一つでもしたためようと硯で墨を擦っていると、玄関に何者かの気配を感じる。そして戸を軽く二回叩かれる、その静かな叩き方に鬼は来訪者に品を感じ安心する。 「入りなされ」 現れたのは官服に身を包む鬼だった。 「要件を」 「大王さまがお呼びであります」 「その理由は?」 「蓮池に行きましたな」 「……暗黙の了解を得ていたと思っておりました」 そう鬼が弁解すると官鬼はふと笑みを浮かべ。 「地獄の沙汰も……わかるかね」 「はい、今用意をしますので少しお待ちください」 鬼は使っていた硯を洗い、木箱に納めると「これは道を示してくださったあなた様の分」と官鬼へ渡す。 それから鬼は閻魔の大王の前にひれ伏していた。 閻魔は鬼へ話しかける。 「久しいの」 「はい」 「お主隠密は引退し、少し羽目を外し過ぎた様だな」 「……」 「上へ無許可で行った事に合い違いは無いか」 「はい」 鬼は平伏しながら、懐から小さい木箱を取り出しスーッと前に差し出す。 「場を借りる様で恐縮至極でありますが、かねて閻魔様へと思っていた品物であります」 箱は浮かび上がり閻魔の前に飛んで行く。 閻魔がその箱を開くと中には白菜を模した翡翠の水滴が入っていた。 それは鬼の家に伝わる家宝である。 「この水滴を通した水は甘露になり、その甘露で擦った墨はとても良い伸びのある墨となり、その書は女子、いえ観音菩薩様の様に良い香りを発する書となります」 「たしかにこれは見事な物だ、しかしこれが理由で刑の軽減とはならぬぞ」 鬼は続ける。 「この水滴に込めた想いは、かねてからでありますので、その様な気持ちは持ち合わせておりません、お会いする機会がありましたらと思っていた次第であります故にどうぞ心置きなくお納めください」 閻魔はスッと水滴を懐にしまうと少し微笑み鬼に沙汰を下す。 「ふむ、とても素晴らしい贈り物である、故に今日、血を見る事は天意でも無いであろう、よって今回に限っては特例で罪は帳消しとしよう、しかし物に執着しないお主のこと、これからも蓮池に風流を感じに足を運ぶのであろうな」 「……」 「少し待て」 と閻魔は早速、翡翠の水滴を使い墨を擦り書をしたため、それを鬼へ渡す。 それは良い香りを発散する、月に一度のみ極楽への渡航を許可する書であった。 [終]
蓮池の亡者
蓮池の亡者 登場人物 鬼・名前はウミウシ(ただの釣り人) 地獄の隅に住んでいる鬼は蓮の見頃の時期になると、違法ながら天国の蓮池へとお忍びで足を運ぶのである。 蓮池に着くと、それは沢山の死者達が前世の全ての悩みから解放され楽しく蓮を見ていたのである。 鬼はその者達の表情を目にし、自分も楽しくなり、幸せな気分で蓮池に十字に架けられた橋を渡るも中央の交差する辻に差し掛かるとその場の空気に暗く重い淀みを感じる。 鬼はその原因をすぐに察する。 それは、しゃがみ込み水面を見つめている着流しを着た男性の死者の背から発していた負のオーラであった。 その死者は片手に今時珍しい一冊の和綴じの本を抱えていた。 鬼は何かその死者が、それは果てしなく重く、死んでも解決しないものを心に抱えている事を悟り。 それ以上は関わらずに静かにその場を後にし池の隅で持ってきた天麩羅弁当を広げ、遠目にその死者を観察しているも、口に入れた芋天のサクッとした食感に気を取られた時、その死者はサッとその場からいなくなっていたのだった…… 鬼は蓮を見ながら思う。 『何事も咲く時期を逃し、そしてその枯れた苗に固着する程に心を執着させてしまったのならば、それは、どこまで行っても、池の底でさえ地獄である、そしてその下も永遠へと』 [終]
双極竜の渓谷。
双極竜の渓谷 登場人物 鬼 名はウミウシ ただの釣り人。 地獄の鬼は釣った魚から抜き取ったハラワタである生ゴミをいつもの崖下に捨てていると崖の下から睨む様な目線を感じる。 鬼は目を懲らし崖下を見ると草に目を貫かれた髑髏を見つける。 しかし鬼は思った。 『底に落ちて、そこに居て、そこから物事を見ている、お前の問題』 鬼は気にせずに、ハラワタをいつも通り捨てて、家に帰ったのだった……。 [終] 双極竜の渓谷。 そのゴミ捨て場の名の由来は二つあり、一つは遥か昔その谷底には竜宮城が存在したと伝わる、もう一つは二匹の天竜が争いの極末に絡み合いながら底へ落ちていったと伝わる。 吹き溜まり そこの底に落ちた者の声に耳を貸す場合は注意が必要である。大抵は心底腐った亡者で努力して底のそこから這い上がると言うよりかは、引き込もうとそれだけをかんがえている。地獄の掃除屋である蛆虫達も呆れて相手にしない。 イラスト 底の字 iOSアプリ字習を使用−
端の鬼
その理由は今は忘れてしまったが同級生達より一回り身体が小さかった私は小学校に行かなくなり、その事が親に恥と言われ、それから私は部屋に籠り、筆で端の字を墨汁が切れたら墨まで磨り、ひたすら書いていた、(最初はそのまま恥の字を書いていたものの書きづらいから端に変わったのかもしれない) それは親に対して当てつけなのか、それとも何か自分は端にいるべき人間の様な、そう生きたいという願望が親に言われた恥の言葉で気づいたのかもしれない。 なにはともあれ、私は親が作って置いていってくれた弁当を食べる事とトイレ以外の時間は、日が落ちるまで、ひたすら、それは悟りを得る修行の様に、半紙に端の字を筆で書き続けていた。 そんなある日、陽も落ちかけ、部屋に夕陽が差して周囲が赤く染まった時、部屋の隅の陰になった所で何かうごめくものに気づく。 最初はそれが窓から部屋に度々入り込む野良猫かと思うも、その動くものの形は縦に伸び天井に届くくらい高くなり、見上げると、一つ目と目が合う。 そしてその全身が黒い一つ目のものは、かがみ込む様に私の文字を覗き込むとしゃがみ私と目線を合わせ話をしだす。 「なんだ今時熱心に写経をしているのかと思ったが違うのか」 「……」 「しかし、うぅん、これは中々良い端の字だ、数百年人の書く文字を見てはいるが、此処まで書ける者は中々いない、気が通り微かに道教の香りも感じる、左利きというのもまた良い」 「あなた誰?」 「今は鬼門の鬼と言われている系統のもののけになるのかな、まあ角は生えていないがね」 「私になにか用なの?」 「君を食おうと思っていたがやめた」 「やめたの?」 「ああ、食うには惜しい、どれ」 と鬼は私が後の楽しみにあえて残していた玉子焼きを弁当箱からつまみ出し口に放り込むと、咀嚼しながら私の左手首をギュッとつかむ。 すると私の筆を持つ左手が一瞬波を打ち、肘から指先にかけて骨だけに成り、やがて元に戻り、私はホッとする。 「君は親に字を習いたいとお願いすると良い、ちょうど此処から南西裏鬼門の方角に私の流れを遠くも汲む者が字を教えている、そののちは事は上手く運び、やがて学校にも行ける様になるだろうよ、身長も少し分けてやる」 そんな夢を見た私が起きると部屋には夜の帳が下りきってすっかり暗くなっていた。 部屋の電気を点けると部屋の隅には当然ながら誰もおらず、そして翌朝起きると身体中に力がみなぎっている感じを受けたのだった。 [終] あとがき 鬼門・写経と言う言葉を知らない子供の頃に確かに鬼門・写経と言う言葉を聞いた記憶があることから、夢ではなかったのかもしれない。 25.2 筆 26.5 加筆訂正に合わせてAI校正。 表紙添え文字の[端]を書くのに使用したアプリ・字習(IOS)
海月
登場人物 鬼 名はウミウシ ただの釣り人。 金の日の夕刻、美しい夕日が沈んでいくノスタルジックな地獄の浜辺に、何かを掴もうと彷徨い、もがく腐った呪いの毒手。 その手は心である本体から何者かの手により無惨に千切られた手。 その手を鬼は見て思う。 『もう神、いや、悪魔さえ、救う事は出来ないだろう』と。 心の無い者は悪魔にさえ救う価値も利用価値も無く、死すらない、即ち完全なる生塵である。 鬼は「いや〜釣りとは、暇人には本当に良いものですねww」とカラカラ笑うと竿を仕舞い、その触手を後にしたのだった……。 [完]
プリン録(ホラー)
お題・メモリ 序 だからその夜のご飯は自分で作るしかなくなったんだ……。 一 その時が何時だったのかは、わからない、暗い台所で僕は二個目のプリンを食べたその空容器を見つめていたんだ。 ニ 罪悪感は今も無い、その時、その瞬間、僕には心を癒す二個目のプリンがどうしても必要だったんだ…… 幕 僕のささやかなそのたった百円玉以下の癒しを邪魔した母さん全て悪いんだ。 [終]