セーイ6
142 件の小説セーイ6
SF・ホラーなどの短編小説を書いています。 どこか不思議で惹き込まれるような雰囲気、音や匂いを感じるような文体を目指しています。 何かひとつでも作品を読んでいただけたら嬉しいです。 気に入ったらいいね・フォローなど応援よろしくお願いいたします。 今は不定期の投稿。
三十歳
僕はもう、三十歳になってしまって、 それなのに何も成していない。 友人は少しずつ形になり始めている。 人生の幸せの形すら、僕は曖昧だ。 美味しいものを食べられればいい? 楽しいことで埋めつくせればいい? 痛みや苦しみが何も無ければいい? その程度の願いだ。 友人や恋人も欲しい。 愛がなくちゃ、満たされないような気もする。 お金は大事だ。 あればあるだけ楽だろう。 でも手段に過ぎない。 それに縛られたくはないよな。 何も持ってやしないのに何を持てば満たされるかを思案している。 皆、三十歳にはどんなことを思うのだろう。 僕は不安だ。 何者にもなれず。 何も得ず。 かといって不幸でもない人生が、このまま続くこと。 それを変えるだけの何かが、いつもなんとなく周りをふらふら浮ついている。 掴もうとすればすり抜け、霧のように消える幻? 寝て、起きて、明日になれば、 この不安も忘れてしまうだろうか。 明日には明日の用事があるからして、 空虚な一日を過ごせるだろうか、 後頭部を殴られた人形として只、 自分の人生を無為に消費したい。
恐怖という感情
修学旅行で特急列車に乗ったときのこと。 その日、集合場所に遅れた俺は、駅に向かって走っていた。 先生に連絡したところ、クラスの皆は先に乗車して待っているらしく、とにかく間に合うように来いとのことだった。 改札を突き抜け、階段を駆け上がり、暴れる荷物を必死に抱えながらホームへなんとか辿り着くと、今まさに列車は発車するところだった。 ジリリリ、とベルが鳴り間一髪、俺は最後尾に飛び乗った。 なんとか、間に合った。 ひとまず胸を撫で下ろすと、クラスメイト達はヒソヒソと落ち着かない様子。 俺には目もくれず、先生も見当たらない。 なんだどうしたと思いながらも、息を整えつつ空いている席へ荷物を降ろすと、プシューと列車は発車した。 片側二席ずつの特急列車だが、俺の席はトイレの目の前だからか、一席だけだった。 別に構いやしないのだが、ただ皆の様子のおかしさを問う相手がいない。 俺は座席へ腰をおろしながら周囲の会話へ耳をすませた。 「おい、、隣の車両まで来てるらしいぞ、、、」 「マジかよ、、先生も戻ってこねぇし、ヤバいんじゃね?」 そんな声が聞こえた。 何かトラブルだろうか? その時 ──── ダーン!! 銃声が響いた 俺の後ろからだ。 ただし後ろに席はない。つまり、隣の車両からだ。 俺は嫌な予感がした。 察するに、不審者か何かが暴れていて、その情報に生徒らは不安を煽られ、先生もその対応に追われているのではないかと。 ───ガラリ 扉が開いた。 連結部分の重い扉だ。 そこから顔を覗かせたのは、 貼り付いた眉をした、気味の悪い人形のような顔の男だった。 俺は男と目が合う前に、咄嗟に窓へ顔を向き直し、息をひそめた。 出来る限り存在感を消し、その男の興味を惹かないよう、努めるしかなかった。 その男の顔つき、視線、風貌はどれも至って普通ではあったが、あまりに普通過ぎる奇妙さ、そして手に持った拳銃が俺に危険を伝えた。 男は、それが当たり前のように、自然と歩みを進め始めた。 車両を移動するという、日常的に目にする動作が、これほど恐ろしいと感じたことは無い。 俺にとって人生でも数少ない正念場だと、直感できた。 この男に興味を持たれたら死ぬ。決して気を惹いてはいけない。 俺の視線は窓の外だけに注がれた。 窓へ反射する微かな動き、男の移動に全神経が集中した。 しかし、例え窓の中であろうと男と目を合わせてはならない。そう思った。 背後に死神を感じる。 ほんの十秒足らずの出来事で、息が詰まり窒息するかとすら思えた。 男が俺の肘掛けの横を通り過ぎ、前の座席へ歩を進める。 緊張こそ解けないが、まるで息をする許可がおりたようだった。 窓越しに、男の様子を見る。 男はもちろん、俺に興味など無いようで、しかしそいつの歩調に合わせて緊張の波が車両全体へ伝播していくのが、俺にはよく分かった。 どれくらいかかっただろうか、次の停車駅を告げるアナウンスが聞こえた。 男は独り、おぉ、といった様子を見せながら、開く扉の前へと行儀よく立ち構えた。 その頃には、車両の中へ微かに消炎の臭いが漂い、男の銃が玩具でないことを皆に伝えていた。 プシュー、扉が開き、男が出ていく。 たちまち車両内の俺たちの空気が弛緩した。 ようやく解放された。無事に乗り切ったのだ。 そう安堵した俺は違和感があり、ふと窓の外を見やる。 ホームには、男が立ったままだ。 そして最悪なことに、俺と目が合った。 男はにんまりと笑い、銃の準備を整えると、再び車両に乗り込もうとする。 背筋が凍る。 やってしまった。 俺はミスを犯した── プシュー、、車両の扉はそこで閉じる。 男はといえば、まだ乗り込んで来てはいない。 やった、、? 助かった…? 男は間に合わなかった? ゴトン、音を立て、列車は発車する。 男は俺の目の前をすれ違う、窓越しに。 そして驚いたような、拍子抜けしたような顔をしていた。 俺は肩の力が抜け、全身を背もたれへ預ける。 なんという日だ。もうこりごりだと。 これ以上何もなくあって欲しい、そう思った。 ──ガクン、列車が揺れた。 急停車した。ほんの十数メートル進んだところで。 プシュー、扉が開く。 悪魔を呼び込んでしまう。 窓に影が落ちた。 男は、笑っていた。 俺を窓越しに、追い抜いた。 男が扉から入ってくる。 俺めがけて駆け込んでくる。標的を見つけたように。 グラつく頭の奥で、アナウンスが聞こえた。 予期せぬ点検がどうだのという理由だ。 そんなことよりこの男の通報は間に合わなかったのか。 変に冷静な考えもよぎる。 男は辿り着く、俺に銃を突きつけ引き金を引く。 理由も何も分からないが、おかしい男なのだ。 それだけ俺は分かり、目をつぶった。 そして、目を覚ます。 ガバリ、と布団を飛び上がる。 はた、と気づけば我が家、ちっぽけなアパートの一室だ。 しんと静まり返る部屋。もぞもぞと隣の寝床が動き、同居する友人が声をかけた。 「なんだい、、怖い夢でも見たのかい?」 俺は、寝ぼけていたらしい。 社会人も四年目、昔からの落ち着かない性格。 こんな夢で起き、夢の中でも遅刻したりなんだり。情けない。 しかし、それを笑い飛ばせる友人との生活。 そんな友人が、俺には、居たのだっけ。 俺は夢の話を男にしてやった。 いやぁ、怖かったと。変な夢だったと。 そして一つだけ浮かんだ疑問を、口に出してみた。 「そういや男は最後、どんな顔で俺を撃ったのかな。」 寝ぼけていてすまないが、やっと頭がはっきりしてきた。 そして一つ確かなこと、とても恐ろしいこと。 俺には同居人など居ない。 寝床から顔を出した男が、その問いに答えをくれた。
やるべきことをした日
やるべきことは分かっている。 やりたいことを優先してしまう。 やるべきことをした日、 晴れた気持ちになれる。 今日はやるべきことをした。 いつか やりたいことが、やるべきことになるだろうか。
感謝を始めてみました
朝、世界の全てに“感謝”をしてみることにした。 見えていない物が沢山あったらしい。 寒さ和らぐ服、安心して乗る車、ペットボトルは飲みやすい。 舗装された道、靴で足は守られている。 子ども110番の看板を、ここに立てようと思った人がいる。
百文字で言葉を紡ぐ事
いま試みている事。 十文字の題を、百文字で要約する。 話が長い自分を戒めるため、 言葉の重みを大切にするため、 文字の可能性を探るため、始めた。 まだ薄く軽い言葉しか紡げないが、ここから始めてみるのた。
鬱金香に鬱がある理由
鬱金香と書き、チューリップと読むらしい。 なぜ鬱?かと思えば、鬱金でウコンと読むらしい。 鬱金は鮮やかな黄色を意味する。 中国から渡来し、英名のターメリック。 また鬱には、瓶の中で草を醸し強い香りの酒が出来る。という意味があり、 鬱金の香りがする花としてチューリップを意味するようだ。
過去の僕
僕は、それなりの人生を歩んできたと思う。 それを振り返るのが怖い。 悪くない人生。そう思う。 でも僕は死んでいた。 ある日突然、気づけば死んでいた。 後ろを振り返れば、 僕と、僕と、僕と、僕と、、、 僕がずらり並んでいて、皆死んでいたんだ。 僕は恐ろしくなって、 すぐに前を向こうとしたんだけど、 時間に追い抜かされると、 やっぱり僕も死んだんだ、 それ以来、僕は振り返るのが怖い。 僕は生きていて、いつからか死んでいて、 気づかずに生きていて、気づかずに死んでいた、 今もまだきっと、僕の後ろには僕が並んでいる、 こうしている間にも僕は、時間に追い抜かされている、 そう思うとなんだか不気味で、 時間を無駄にするのが怖くて、 死んだ僕に申し訳なくて、 情けなくなって、 それでも痛いってことしか分からずに、 今を消費する僕は、 それなりに幸せで、 それなりに不幸だ。 雁字搦めのまま、 いつか抜け出せる時が来るのかな、 それをただ待ってるだけじゃ、 それはいつまでも来ないかな、 ぼんやり扉に手をかけたような気がして、 やっぱりノブを回せずにいる。 あ、また今の僕は───── ─────過去の僕になった。
ワープ装置
「教授!大変です!予期せぬトラブルが起こりました! 世間は大混乱です! あぁ…どうしましょう…!?」 「なんだねユミくん、一体どうしたというのかね。」 私はこの研究室の教授。 今日は私のかねてよりの研究が、遂に世間へ発表される日なのだ。 しかし、若くして信頼のおけるユミくんが、らしからぬ慌てた様子で騒ぎ立てる。 「とにかく見てください! 研究発表セレモニーの現場が、全国へ配信されています!」 そんな当たり前の事を彼女は言う。 そうだ、私の研究成果の配信だ、大々的でなければ困る。 そう思いながら、我が偉業への世間の関心をどれ見てやろうと、 私はモニターをつける。 “ 前代未聞! 世界初のワープ装置! 実用化を実現! ” ニュース中継画面の端にはそんな見出しが流れ、 「実験で何度もワープを成功しており、本日は実用化の記念として 長距離ワープ、国を跨ぐ最終実験を生中継いたします!」 と、リポーターが説明してくれている。 そう、長年の苦労の末、五十半ばにしてようやく成し遂げたのだ。 人類の夢、ワープ装置の開発を! この研究成果は、妻もいない独り身の私にとって、もはや我が子のようなモノだ。 画面の中では人々が、肩を組み笑い合い、私の功績を称えている。 「・・・の、筈でしたが… 大変な事態となりました。」 む? リポーターの続けた言葉に、嫌な含みがある。 いったい何が起きたというのか。 ユミくんと私は固唾を飲んで、画面の中を見守る。 「今回の長距離ワープ試験に選ばれた男女50名、 そのうちの半数が“自身の肉体とは違う身体でワープ先にいる” というのです!」 私は目を丸くした! そのような実験報告は一度足りとも無かったのだから。 不測の事態に、ユミくんと顔を見合わせる。 彼女もまた、不安げな表情を浮かべている。 まさか、ワープ装置にそのような不具合があっただなど。 「被害を主張するのはみな男性で、 元は女の肉体だったのだと言います。 しかし、女性側にそのような訴えをする方はおらず… 現場では、自分の身体を返せ! などと大混乱になっております…!」 中継で実況が続く、なんとも奇妙な出来事だ。 しかし、首を傾げてばかりもいられない。 私は研究者だ、この事態をどうにか収めなければならない。 隣で青ざめるユミくんの姿。 それを見て、私は一つの仮説を試してみる必要があると考えた。 「教授…! とにかく現地へ迎いましょう! この事件を解決できるのは、教授だけです!」 ユミくんはハッと気を取り直し、真剣にそう叫んだ。 なんと彼女は強い女性なのだろう。 その言葉に私は感銘を受け、敬意を表する。 私の仮説が正しければ、私はそんな彼女のことをもっと良く知ることになるだろう。若く、はつらつとした彼女の全てを。 その事実に、非常に期待が高まった。 私は教授として、そして人類の希望として、立ち上がる。 白衣をはためかせ、居住まいを正し、隅にある装置を起動する。 準備を整えた私は覚悟を決め、ユミくんへ向かい強くこう頷いた。 「よし、ではワープ装置で行こう!」
漁火
夜、海の上に現れるそれは“火”だ。 ヒタリと肌の湿る日、広がる闇の中ぼんやりと浮かぶ“火” 蛍の光のように優しく儚げに灯るそれは、 漆黒の世界に橙の波を映し、 魚の影を濃く魅せる。 見下ろす舟の上、どこまでも滔々としている、此処は。 何か途轍もなく大きなモノの肚の中だ。 “火”を掲げるのだーー まるで生命に群がる死者のように、魚が跳ねる。 燻る炎はいつか消える。 それに想いを馳せれば、命の灯火が霞むかに思えた。 確かに、“火”は在った。 漁火という、海に浮かぶ光だ。 盆の灯篭流しにも似たそれは、はたまた送り火か迎え火か。 煙は冷たい空に馴染み見えないが、確かに天に昇るのだろう。 魚を揚げるーー 俺たちは、送り人。 “火”を灯し 今日も魚が 集う。
のびる
のびて、のびる、何度でも、どこまでも 産まれたときからそうだった。 すぐに始めて、ひたすら続けた。 誰がなんと言おうと、続いている。 ぐんぐんのびる 何も怖いものなどないといった風に。 とにかくのびる 私の気など知ったことでは無いというように。 身を捩って、のばした先がささくれようと、 ちぎれようと、色が霞もうと、 すべて関係ない、のびることに意味がある。 “それ”は、のびることをやめない。 様々な色をしていた。 隣を見れば、茶色、黄色に、白も。 私のは黒々としていた。 しなやかに、のびやかに、自由に、 どこまでものびていけ。 そう願うけれど、うっとうしいのも事実で、 私は切り裂く。 爽快で、痛快で、奇っ怪で、愉快だ。 切り離す度に、ほんの小さな寂寥が襲う。 でも“それ”は、切り分けた端からのび始め、 纏わりつくので、私は気にしないでやるのだ。 それでいいのだ。 それがいいのだ。 ただそう思う私の上で、 今日も健やかにのびていく。