神無月

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神無月

神無月ですっ。ただの高校生です。

幸福論

雨だった。 傘を叩く音が妙に耳に残る。 会場は静かだった。 祭壇の中央で笑うあの子。 棚を片付けていた時、 落ちてきたマグカップが頭に当たり、 脚立から転落して亡くなったそう。 俺の隣では妹がハンカチを目に押し当てて 声を殺して泣いている。 妹の肩を僕の恋人が抱いてさする。 彼女は僕の顔を見て引き攣った顔をした。 「早すぎるよ…」 妹がそう呟いた。 俺は何も返さなかった。 返す言葉など、最初から持っていなかった あの子は妹と恋人とよく3人で遊んでいた 特にあの子と妹は親友で、 2人とも俳優を目指してよく演技の練習を していた。 休日や放課後に他のこと全部放り出して 台本とスマホだけ持って、 公園や貸しスタジオに走っていった。 よく撮った演技の動画を見せられては 「ねぇここ自然?ここは?これどう思う?」 と質問責めにされていた。 演技もだけど、 お菓子作りもよくしていたな。 「お兄ちゃん!新作!マフィンだよ!!」 「食べて食べて!」 「お兄さん食べてみてくださいっ!」 無邪気な2人。 「んむっ、美味い。」 そんなことを言うといつも飛び跳ねて きゃっきゃしていた。 そんな真剣な顔も、 無邪気に笑う顔も失せ、 妹は葬式からずっと虚空を見つめては 台本の表紙を時々ちらっと見る。 それを繰り返していた。 あの日から学校に行かなくなった。 朝起きてくるのに、玄関で止まる。 制服を着たまま思い出して、泣いて。 結局休む毎日。 毒親から逃げた日から、 絶対に。 妹を守ると誓ったのに。 こればかりはどうもできなかった。 でも、 2週間ほど経った頃だろうか。 何故か親友のアカウントで演劇の練習で 撮った動画が投稿された。 ただ映像だけ。 その劇の題名は花と縄。 妹とあの子が1から作り上げた台本。 学校で起こる壮絶ないじめの話だ。 2人とも演技が自然だ。 まるで本当の証拠映像のようだ。 だからだろうか。 その映像は拡散され、激しく炎上した。 当然。特定班が見逃す訳もなく、 妹の学校、名前、住所。 そして、あの子が亡くなっていることまで特定された。 学校はすぐ休校になった。 ニュースにも大々的に報道された。 間違った真実が。 ドアには悪質な貼り紙、落書き、 頼んでいないピザ50枚着払い。 止まらない電話。 妹のスマホに届く批判。 全てに逃げ場などなかった。 それでも、炎は迫ってくるばかりだった。 1週間ほど、 妹はほとんど布団から出てこなかった。 スマホは投げられて画面が割れたまま。 僕は妹を守るべく立ち塞がった。 何度も何度も、ネットにも、 家に押し寄せる記者にも、 冷たい視線の近所にも、 落書きや貼り紙をする人にも、 特定班にも、 関わる全ての人に僕は真実を告げた。 だけど、罪人の戯言に人は耳を持たない。 ただただ、波にまかせて人を炙る。 燃え盛る炎の中、 妹はあの子の写真を握り、 マンションの8階から力なく落下した。 帰ってきた時は信じられなかった。 少し頭を打っていただけだった。 血もほとんど出ていなかった。 だから、当然助かると思った。 ただ、現実は甘くなかった。 病院に運ばれた時点で、 医者が脈と呼吸、瞳孔を見た時点で、 ゆっくり俺に向かって、 ご臨終です。 それだけを告げた。 内側がもう人の形をしていなかったんだ。 ドラマでよく見る霊安室。 案内されたときにはもうすでに 頭に布がかかっていた。 会った時、涙は出なかった。 妹は寝ているようにしか思えなかった。 ただ、手に触れるとドライアイスの冷たさが直に伝わる。 その瞬間、本能が走馬灯のように妹との 記憶を映し出す。 初めて妹が自転車に乗った時 妹が抱きついて「お兄ちゃん」と呼んだ時 毒親からの暴力から必死で守った時 演技についてキラキラした目で話す時 あの子と笑い転げた時 あの子と恋人と、3人で遊んできた時 布団の中で震えていた時 全てが僕から理性を奪った。 葬式に感情なんて1つしか湧かなかった 復讐 それだけだ。 あの日から俺は狂ったように パソコンと睨み合いをしていた。 俺がこの手で犯人を殺す。 俺の大切な妹を奪った罪を、あの少女に 負わせた痛みを。 その全てを返す。 探偵だって雇った。 利用できるものは何でも利用した。 そして、1つ真実を手に入れた。 不正アクセス。 事故で亡くなったあの子のアカウント。 アクセス元・・・・ 「今日、全部にぃちゃんが終わらしてやるからな。」 ドアを蹴破る。 もう理性なんて無くした脳はフルパワーで 蹴る指示を出す。 足に痛みが走るが関係ない。 ナイフを持つ俺を見て怯える1人の女。 一丁前に後退りしてんの。 もう分かってんだよ。 「何してるの・・・やめて・・・」 「もう殴らないって、傷つけないって言ってくれたじゃん」 そんな約束、した覚えない。 目の前にいるのは 俺の「元」恋人。 「俺は、信じてたんだけどな」 「どれだけ俺が妹を大切にしてるか、 知ってるはずだから。」 「俺の宝物。殺したのお前だよな。」 「やめて、お願いやめて」 「うるさい。 そんなことを聞きにきたんじゃない。 何でやったんだ。」 感情に任せた声のはずなのに低い声がでる 「あんたの妹がいじめて殺したんじゃん」 「あんなに証拠映像あったんだよ!?」 馬鹿馬鹿しい。 「知ってるはずだ。あれが演技なことぐらい。台本だって、読んだはずだ。」 「本当は何だ。」 怯えた小動物の目 久しぶりに見た。 「違う!!だってあの子はいじめで苦しんでたはずだもの!!!」 強い眼差し。 だけど、どこか焦点が合わない。 何それ。 あいつがいじめたって言いたいの 怖かったのはどっちだよ。 痛かったのはどっちだよ。 全部奪ったのはどっちだよ。 はぁ、疲れたな。 部屋はもう血まみれだ せっかく黒いパーカー着てきたのに、 台無しだ。 返り血が顔までかかった。 汚ねぇ血。 何回か刺されたくらいでくたばった女 あーあ。 せっかく教育したのに。 俺は味方だよって毎時間言ったのに。 俺以外信じちゃダメだよ、 毎日毎日言ったじゃん。 騙されちゃいけないから、 部屋からあんまり出ないように 鍵かけといたのに。 守れなかった時はちゃんと教育してあげたのに。 危ないから椅子に体固定してあげたのに。 ちゃんと座らせて、妹の可愛い可愛い 演劇を何時間も見せてあげたのに。 俺の妹の可愛いところも、
優しいところも、
演技が上手なところも。 いーっぱい教えてあげたのに。 最近なんか妄想が激しくなってきたから 暇なのかなってパソコンあげたのがだめだったか。 パソコン見ては暴れる日とか、 懐かしいなぁー そういえばずっと誰かがいじめてるんだー とか、あいつが悪いんだとか。 そんなことぶつぶつ言ってたな。 まぁいいや。 あれ、君、何でそんな怯えた目をするの。 どこから来たの、 迷っちゃったのかな、僕とこおいでよ。 お兄ちゃんが幸せにしてあげる。

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技、静寂。

彼女はそこから小一時間ほど、ずっとその人間離れした技を続けていた。 その間、ずっと俺はイヤホンをして彼女の曲を聞いていた。 「…ふぅー やっと終わった…」 「お疲れ様。」 腕と体を伸ばす彼女。 分かりやすく疲れが滲んでいた。 「すごいなあの技。俺も使いたいぐらいだ。」 風にお疲れ様を言われている彼女にそういう。 純粋にすごいと思った。 でも、彼女の回答は少し予想外だった。 「先生……どんだけ激務なんですか……」 彼女は恐れたような顔でそう聞いた。 「え、いや、まぁ。でも効率的じゃん。」 そういうと一瞬安堵の表情を浮かべた。 「まぁ、確かに時間自体は2倍速ですからね。 でも、お勧めはしません。 脳が焼き切れますよ。」 脳が焼き切れる。聞いた事ない言葉だった。 「焼き切れる…?」 疑問の表情を見せると彼女は「んー」と考えてから、 「2倍以上濃縮で頭を使うからか、終わった後は馬鹿みたいに頭が痛くなります。」 「頭かち割られるかと思いますよ。」 え? 色々ツッコミたいが… え?これ、え?経験談してる?え? ん?え? 「今は…大丈夫なのか?」 返答は分かってる。 だってもう鞄を漁り始めてるからな。 「普通に痛いです。骨の髄まで悲鳴あげてますね。」「あ、でもすぐ薬飲むんで大丈夫ですよ。」 いや、そういう問題じゃない。 なんで普通の顔してられるか意味がわからない。 薬を6粒ひょいっと飲み込んだ。 「なんか、多くないか?」 「用法通りじゃ効かない体になってて…笑」 「忘れてください…笑」 気まずそうに笑う彼女。 なんだ、頭がおかしくなったのか? 薬だぞ。 市販薬といえど過剰摂取は良くない。 急いでもっと水を飲めと勧める。 「え?ちょ、何ですか。」 されるがままペットボトル1つを飲み干した。 疲れた様子だったが、「もう一本買ってくる」 と言って俺は席をたった。 慌てて彼女も立ち上がる。 「心配されるのは分かりますが、 大丈夫ですって」 「私とて雑に飲んでるわけじゃないです」 その言葉に沸々と謎の怒りが込み上げてきた。 大丈夫だって…? 何を言っているんだ。 何故自分を大事にしない。 「そんな普通な顔して過剰摂取しているなんて、一体何回してきたんだ。」 怒りがそのまま言葉になって包む間もなく 彼女に届く。 彼女は伸ばしかけた手を止めて、 固まってしまった。 「答えろ。一体何回した。 何回自分の体をおざなりにした。」 「せんせ…」 目が潤んできた彼女に手加減が出来なかった。 「答えろ!!!」 びくっ… 彼女の体が空気の振動と共に震えた。 しまった。 そう感じているのに自分の感情が抑えられなかった。 もう新曲の意味とかはどうでも良かった。 ただ1人の教師として、大人として。 子供がこんなことしなければならない社会をひどく軽蔑した。 「ごめんな…さい…」 小さな声が響いた。 静寂がただ目の前に悲しそうな顔をして立っていた。 違う。謝罪が聞きたかったんじゃないんだ。 お願いだ待ってくれ。 そう願う度に彼女との心の距離が出来ていった。 「ち、違う… お前を責めたかった訳じゃ…」 少し前に出る。彼女に小さく手を伸ばした。 だけど、彼女は後ろに下がった。 「来ないで…」 そう小さく、弱々しく言った。 あぁ、俺はこの子を傷つけてしまったんだ。 後悔したって遅かった。 もうあの子との距離は充分空いてしまった。 怒るべきじゃなかった。 素直に心配するべきだった。 後悔が自分の中に渦巻いても、静寂が落ちる教室では何の意味も成さなかった。 「今日はもう帰れ。」 「っ…でもまだ終わって…」 手を胸の辺りで小さく握りながら小さく呟く。 「それでもだ。もう帰れ。今日は寝ろ。」 冷たくしたいわけじゃない。 暖かく慰めるべきだ。 分かっている。 でも、こんな冷たい言い方でしか、俺はあの子を守れない気がする。 もう分かった。 分かっていた。 壁ができた。 2人を隔てる小さな壁が。 翌日 妙にまとわりつく風に苛立ちを募らせながら出勤。 朝礼。 教室に入る前にふーっと一息。 深く呼吸をして扉をあける。 からからっ 何人かの生徒の視線が刺さる。 「あ!先生おはよー!!」 「おぅ。おはよう」 「あ、せんせー今日の提出物なんですけど__」 「あーじゃあ放課後きて」 「はーい」 彼女は…… ただ座って居た。 俺を目で追うことも、 視線を逸らすこともなかった。 ただ、何かを紙に書いていた。 でも、確かな壁だけが凪を生み出した。 放課後、あの教室に行くか迷っている自分がいた。 でも、頬を1回ぶっ叩いた。 迷っている時点で、 俺はあの子と向き合おうとしていない。 それは教師として、担任として、 あってはならないことだ。 でも、今彼女に触れても良いのだろうか。 いや、いいはずがない。 でも昨日突き放したのは俺だ。 そんな呑気な対応は取れない。 誰もいない廊下。 ゆっくり歩いているはずなのに、押しのけられた空気が風に変わる。 教室を小窓から少し覗く。 彼女はいつものところに居た。 また、 昨日のようにPCを2台出して、同時操作している。 風が直接胸に入るみたいに痛かった。 ドアに手を伸ばした。けど辞めた。 足が動かなかった。 向き合うことに今更迷っているわけじゃない。 ただ怖かった。 またあの怯えた目をさせてしまうのが。 小窓の奥に映る彼女はまた頭痛薬を取り出し、口に放り込んだ。 思わず目を逸らしてしまった。 彼女がまたPCに向き合う。 それと同時に俺はドアの前に座り込んだ。 風が彼女の鼻歌を運ぶ なんの曲かは知らない。 きっとまだ紡がれていない音だ。 紡がれない音は風の赴くままにどこかへ。 俺を通り過ぎで知らない街へ行く。 夕日が横から差す。 ただそこには触れることすらできない壁があった。 冷たい床と夕日で暖かくなったドアの感触が伝わる。 背中は暖かいのに、ここは冷たい。 30分ぐらいだろうか、座り込んで考え事をしていた。 教室の中からペットボトルの音がした。 次に激しく咳き込む彼女の音が聞こえた。 反射で立ち上がってこれまでの葛藤全部を吹っ飛ばしてドアを開ける。 「大丈夫か!」 一瞬こちらを見る。彼女の瞳が揺れた。 机の上にはまた頭痛薬。 「大丈夫です…む、むせただけです。」 無意識に自分の眉頭が寄るのが分かった。 彼女の顔を覗き込むと、目の下の隈が濃くなっていることに気が付いた 「お前、昨日何時間寝たんだ」 呼吸を整える彼女につい聞いてしまった。 「に、2時間…です」 俯きながら怒られるのを待つ子どものように 唇をきゅっと結んだ。 静かな教室に感情のない風が吹く。 「そうか、今日は…今日だけは寝ろよ」 「え……」 それだけだった。 本当は怒りが抑えきれないほどだったが、 また同じ轍を踏むほど馬鹿ではない。 怒られると思っていた彼女は拍子抜けしたような表情をした。 それと同時に安堵が見えた。 風が彼女の肩の力を抜く。 俺は彼女の向かいに座って机の上で手を組んだ。 「昨日のことだが…その、悪かった」 「お前を叱りたかったんじゃない、 ただ、お前が消費される社会に腹を立ててただけなんだ。」 「怖がらせてしまってすまない。」 彼女はただ俯いて 「私が悪かったから…」 「だから、謝らないで…」 震えるような弱々しい声。 下に落ちる風が何かを物語る。 「だから…その…忙しかったら言ってくれ」 「学校の提出物なら、何とかできる」 目は合わない。 目線はずっとPCのキーボード。 「大丈夫です。」 「提出物ぐらいなんとかできます。」 光の入らない瞳は揺れなかった。 静寂が気まずさを生む。 互いに無言でどこを見ているのか分からない。 するとスマホに1件通知が届いた。 ⬜︎ 某謎のアーティスト    海外オークションにて3億2000万の   落札 画面を2人とも見ていた。 こんな時に…と思った。 だけど彼女は風に向かって 「あの子。売れちゃったね。」 と言った。 人差し指で風をくるくるする彼女。 「寂しいのか。」 「うーん、買ってくれた人次第かな。」 弄ばれる髪を靡かせて外を見ながら言う。 「あの子を大切にしてくれるか、 そうじゃないか…」 「それだけ。」 「そうか。」 彼女は絵を「あの子」と言う。 さぞ大切な絵なのだろう 彼女の電話が突然鳴る。 彼女が背筋をシャキッと伸ばして 電話に出る。 「はい、はい。 明後日の14時、はいわかりました。」 電話片手にメモを取る。 電話を切って、 何か気になる俺の視線を汲み取る。 「里親さん… えっと、落札者の方が会いたいと…」 「そうか、じゃあ明後日は早退か。」 彼女は早退という言葉に ハッとした顔をした。 「あ、そっか、金曜日か。」 「遅れる分、やらないと。」 小さめな声でそう呟いた。 誰に伝えるわけでもなく、 独り言みたいに。 独り言は終わらなかった。 風にため息を預けながら 「明後日の午後、 レコーディング前倒ししようかな。」 「でも、オーケストラの方時間かかりそうだよね。」 「じゃあ、今度の税の計算でもしとくか」 ……………。 あ 分かりやすい顔だ。 独り言が進んで、 もはや先生の存在をすっかり忘れてたわ。 みたいな顔。 「はぁ…。」 聞いてたこちらの方がため息が出る。 「明後日は、落札者に会ったら帰るんだ。」 「元々仕事がないなら前倒しするな。」 うっ… 弱いところを……。 と、また分かりやすい顔。 風も珍しく彼女に視線を向ける。 「分かりました……」 そう言って彼女はスケジュール帳を閉じて 「明後日は税の計算にします」 と言った。 呆れ顔の風。 多分額に手を当てた俺も、きっと同じ顔だ

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技、静寂。

私もー

INFPだけどわかんないなぁー 強いていえば会話中にめっちゃ表情とか、 言葉遣いとか強さとかでこの人はどう言う感情なんだろうとか、この人はどうしたいって思ってるだろう。 とかフル回転で考えてますね。 あとは気にしないように頑張って生きてます笑

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天に舞い才は落とされる

「なぁ、この曲の歌詞…」 「……」 ただ風を見つめる彼女。 曲が流れている間、ずっと画面でも、 机でも、俺の反応でもなく、 ずっと風を見つめていた。 「お前も…何かを祈っているのか?」 彼女は表現者だ。 彼女も、何かに耐えながら、 日々祈っているのかもしれない。 どうかこの悲劇が終わりますように。 あの子に幸せが訪れますように。 私の人生に、 意味があると言ってくれますように。 きっと色んな祈りがある。 「私は、祈りを受け取る。」 「世界が、誰かに優しくしないなら、 世界を正すしかない。」 「……そうでしょ?」 人差し指で風に触れながら、 少し微笑んでこちらを見る彼女。 何でだろう。 高校生とは到底思えない。 まるで残酷を知ってしまった天使みたいだ。 「…あぁ、そうかもな」 ある画家が言っていた。 謎のアーティストとして音声で テレビに出演していた。 その人はよく天使や神を題材に 抽象画を描く。 「世界の理を知った者は、 後に翼と天使の輪を授けられる。」 「天の理を知った者は、後にさらなる翼と、神力。そして信仰を得る。」 そんなことを言っていた。 彼女は、まるで天使だ。 可愛いとか、そんな生ぬるいことじゃない。 ただ、理を見つめてるように見える。 「すみません、今日は仕事の日でした。 帰ります。」 かたっと椅子の音がする。 見上げると、彼女が立って帰る用意をしていた。 「仕事…か。今日は何をするんだ?」 「今日はレコーディングなんです」 彼女は止んでしまった風にお別れをしながら そう言った。 「今から?」 今は午後6時半 教師達も、そろそろ帰る用意を始めるだろう 「今ならなんです。笑」 バックを手に持ちながら困ったように 笑う彼女。 こんな子どもに、いや高校生に、 この顔をさせるのは間違っている気がする。 でも、本人が決めたことだ。 俺は邪魔できない。 「夜は、眠れるのか」 「今日も帰るのは日付回っちゃうかもなぁ」 「レコーディングスタジオ、空いてなくて 遠いところだからなぁ」 芸能界はブラックだ。 未成年を働かせてないと言いながら、 延長、遠い施設だからと、移動時間も 含めると結局こんな子が出てくる。 「……曲、楽しみにしてる。」 「ありがとうございます。」 「先生は、早く帰りなね」 誰が言ってんだか 「あぁ。」 翌日、彼女はあくびをしながら登校した。 朝礼5分前に来た彼女を見て、 やっぱり日付は回っただろうなと思う。 「おはよう。眠そうだな」 「あ、おはようございます 昨日帰る時に変な人に車つけられちゃって… 結局帰ったの1〜2時です…」 めんどくさそうに言う彼女。 何だか慣れているようにも見える。 「それ…大丈夫なのか」 「一応芸能人何で…承知の上ですね。」 今日は、風もお休みみたいだ。 昼休み。職員室はお昼ご飯の匂いで お腹が空くような空気が漂っていた。 ピロンっ スマホが震える。 「ん?」 画面に映っているのは、新曲更新の通知。 彼女の新曲だ。 は?今? あいつ学校に居るよな。 え?昼休憩に仕事? ⬜︎ 新曲、sky and wind 画面を開く。イヤホンをして歌詞画面を タップする。 流れるメロディーは穏やかで、 優しく触れるような、包み込むような。 そんなメロディーだった。 歌詞は、ただ寄り添うように、ただ優しい。 「世界がどうか平和でありますように」 そんな歌詞を最後に、曲は終わった。 もう一度MVを見る。 またふわふわとした衣装を纏い、綺麗な森の中でハンモックに座り揺れる彼女。 ふと、足元を見る。 色が少し違う葉が落ちていた。 意味ありげなものだが、全くわからない。 コメントを開くと、それに気付いている 海外ユーザーがいた。 ◯ この葉っぱの長さをモースル信号にして 訳すと、「天に舞い、才は落とされる」 になる。 彼女なりのメッセージだろうか 天に舞い才は落とされる。 才…とは何だ。年? 「ん?先生?お昼食べないんですかー?」 隣の国語科の先生が話しかける。 イヤホンを外して、ん?と言う。 「お昼全然食べてないで、ずっと眉間に しわ寄せてるから、悩み事かなって」 いつの間にそんな考えてたのだろうか… 丁度いい、国語科の先生なら、何かわかるかもしれない。 「すみません、 天に舞い才は落とされる。って どういう意味だとおもいますか?」 「今ある人のMV見てて、」 「天に舞い才は落とされる?」 首を傾げて不思議そうな先生。 「才……年のように思えますけど、んーっ」 「天に舞いも、少し変ですしね」 「天に舞いを捧げるのか、天で舞うのか… 難しいですね………」 「すみません… やっぱり私じゃ分からないです…」 「いえいえ!ありがとうございました。」 やっぱり難しい。んーっ!!!! ふわり、ふわり、 今日はやけに風が肩にのって離れない。 今日は良い晴れた日だ。 廊下の窓から夕日が微笑みかける。 からからっ 放課後、いつものようにドアを開ける。 あれ、今日はノートパソコンで何かをしている。 風が彼女の髪で遊ぶけど、彼女はカタカタと、何かを入力している。 「なぁ、新曲。」 学生みたいに椅子に逆向きに座って 彼女と向き合う。 「はやいですねーせんせー」 視線はパソコンのまま。 「何書いてるんだ?」 ひょいっと覗こうとすると、彼女に手で止められた。 「未公開情報なので笑」 あぁ、そうだった彼女は社会人だった 「まさかまた曲!?」 「いやいや、新曲は更新したばっかだし、 レコーディングしたてほやほやのもあるし、 まだ先ですかねー」 視線をPCに戻してカタカタする彼女。 「今は企画書2つを同時進行してますね」 「企画書かぁー社会人みたいだなぁー」 ん? 2つ? 「あははーそうですかー?」 「ん?待って、2つ同時進行?ん?え?」 そういうと、彼女は視線をPCから外して 「あー今書いてるのは1つなんですけどー、 2つ目は頭の中で文面考えてます。」 忙しい頭だ。 「マネージャーとか、手伝ってもらえる業界人は居ないのか」 「んー、きっと、みんな私に追いつけない。」 頭を掻きながら疲れた目をぱちぱちとする 彼女。 「追いつけないって、どういうことだ?」 「んー物理的にタイピング追いつかなさそうだし、きっと言ってる意味もわかる前に次に行く。」 「だから、結果的に私がやった方がはやい」 少し、胸が痛んだ。 まだ高校生だ。こんな上司みたいなこと、 言う奴なんか居ない。 風がまた彼女の髪を靡かせた。 きっと、「大丈夫?」って聞いてる。 彼女は風に触れて、 「じゃあ手伝ってよぉー」 と言っているみたいだ そして、鞄からもう一つPCを取り出した。 「何をするんだ?」 PCの電源を入れながらこちらに顔を向ける 「終わりそうにないので、最終手段です。」 「これ頭疲れるからやりたくないんだよなぁ」 パスワード入力を終えて、タブを開いてるような動き。 そしてチョコを1つ取り出し口にひょいっと投げ入れた。 何をすれのかと思えば彼女は両手をそれぞれのPCに置いて両方操作し始めた。 「え、え?何してるの」 「ちょっとだけ静かにしててください。」 真剣な顔で交互にPCを見る彼女はもはや人間のできる技をしていなかった。 隠れた才能なのだろうか。 それとも、…… いや、いい。 そんな事、子どもがするはずない。 考え事が止まらない俺をよそに彼女はPCと睨めっこ。風はただ俺にだけ吹いていた。

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天に舞い才は落とされる

彼女の感性

それから3日。 俺は放課後の教室に行くのが怖くて、 行くのを辞めた。 あれ以来風が誘ってこない。 きっと行くなと言うことだろう。 行って、彼女と会ってしまったら、 今度こそ避けられる気がした。 でも、担任だから仕事はやる。 クラスの輪の中にいる彼女はいつも通り。 俺だけ気にした馬鹿みたいだ。 「そろそろ全校朝会だぞー!並べー」 「えー 「もうー? 「ねむいー 生徒達は気怠そうに列を作る。 「はいはい並べー 「はい、おはようございます また長い校長の話だ。 もう何年聞いたことだろう。 いつも同じ話。いつも同じ時間。 はぁー疲れたなぁ 「続いて表彰です。えー今回…… 司会の先生の声が止まる。 先生と一部の生徒が何だと顔を上げる。 「世界青少年作曲コンクール優勝… 並びに、世界絵画コンクール優勝…____ 」 驚いた。 あの子だ。 生徒よりも先生達がざわめきを作る。 「あの子誰? 「ほら一年の子! 「あー中学の時の子!! 中高一貫校のこの学校で先生達がざわざわと あの子の名前を出す。 当の本人は動揺も、緊張もせず、 普通に登壇した。 校長から朝テストの返却でも受けるように さらっと受け取り、礼をして去る。 「えー……なお、絵画コンクールの優勝作品 及び、他作品は海外オークションで億越えや、その予想がされており、 今回特別に学校に1つ絵画を 寄贈してくれたそうです」 「その絵画は今日到着予定ですので、 受け取り次第、職員室前の廊下に飾らせていただきます。」 司会の先生は他の先生に目配せして、 彼女にマイクを持たせた。 彼女はこんなの聞いてない。「?」として 首を少し傾げた。 先生達に促されてまた登壇した。 「作品の寄贈に感謝します。」 「これからの活躍を職員一同 応援して参ります」 そう司会の先生が言った。 来賓に挨拶するかのように。 だけど、彼女はただ 「ありがとうございます」 とだけ言ってマイクを切ってさっと 降りてしまった。 意味が分からない。 何でそんなに冷静で、喜びも、泣きも 何もしないのだろう。 からからっ 今日は、久しぶりに教室に行った。 やっぱり風は優しくて、いつものように 頬を撫でては窓際に誘った。 「なぁ、その…おめでとう。」 「コンクール…」 「……ありがとうございます」 彼女は勉強している顔をあげて、 それだけ言った。 「…もっと嬉しい〜!とかやったー!! とか無いの?」 「……?別に喜ぶことですか?」 え。 「え?いや、は?世界だぞ!? お前、世界一位なんだぞ!?」 「…はい」 世界1位で、何でそんな普通にしていられるんだ!? すごい普通に英語やってるけど!? なんで!? 動揺が隠せないまま、勢いでまた言う。 「え!?てかオークションとか!! 寄贈とか!!あれなに!!??」 「…余り?」 いやなんで疑問系なんだ 「完成したけどいらない絵なんで、校長に いる?って聞いたら欲しいって言われたんで、ただの処分ついでに、無償提供を選んだだけです。」 いや何それ。 いろいろ話がこんがらがる。 「…はぇ?」 訳がわからなさすぎて変な声が出る。 「…………」 「ねぇ、作品調べたら出てくる?」 単純に好奇心だ。 でも、作品を見れば、この子のことが少しは 分かるかもしれない。 急に冷静になった頭で彼女にまた聞く。 「作品名教えて」 「絵ですか?曲ですか?楽器ですか?」 ん? 待て。 1つ多い。 なんだ楽器って 何だそれ。 「ん?楽器?」 「あっ…」 あれ、動揺してる。 口に手を当てて、やべって顔してる。 「未公開情報…喋っちゃった…」 「未公開情報!?」 「ちょちょ!!しーっ!!!」 「んもごっ」 相当動揺してるのか、 彼女は俺の口を慌てて塞ごうとしてきた。 そして俺の目を見て。 「うわぁぁぁっ!ごめんなさいっ ごめんなさいっ!!!笑」 すごい謝罪ラッシュをしてきた。 「はぁ…」 なんか、新鮮だ。 この子が笑ってる。 自然に。 笑える子なんだと、素でそう思ってしまう。 安心したのか、 俺まで笑いをこぼしてしまった。 「あーそうそう曲の方!笑」 「あー…うーん…えー」 もったいぶる彼女。 本気で迷っている。 「ごめん、嫌だったらいいよ」 「嫌とかじゃなくて、先生英語科だから、 歌詞の意味分かっちゃう…」 英語…?何で今それが? ?な顔をしていると彼女は口を開いた。 「歌詞、全部英語なんですよね」 「え。」 日本人で、生まれてからずっと日本にいる 彼女が? 何故? 「音楽は…自由であるべきなので、 共通言語の多い英語にしました。」 "音楽は自由であるべき" その言葉が頭の中に響いた。 風も静かに頷いている。 でも、第二言語として言語を学んだのは 褒めるべきことだ。 そうだ、忘れてた。先生として褒めねば… 「独学?すごいね、頑張ったね」 なんか不自然だけど…それでもいいや。 すごいことだ。 「あ、ありがとうございます?」 「あぁ、そこじゃなかった本題。笑」 「あー曲名は…Prayers beyond the ocean.ですね。」 「長っ」 意味は…祈る人々は海を越える。 スマホで検索して流してみた。 〜♫ 「えっ……」 これ、知っている。 今世界中を騒がせている大バス曲だ。 SNSを開けばこれを使った動画、 考察、歌ってみた。色々ある。 世界がこれに染まっている。 「……やっぱり知ってます?」 少し困るような顔で聞く彼女。 「知ってるも何も、 これ今の大バス曲じゃん!」 スマホの画面を彼女に見せて、 「ほら!ここ! 再生回数2億超えてるって!!!」 「もうすぐ3億じゃん!!!」 すると、彼女は知ってますから笑 みたいな顔でスマホを押し返した。 でも、この曲の歌詞は見たことなかったな。 聞いたことあるだけでちゃんと聞いたのは これが初めてだ。 歌詞歌詞……あった。 ずらりと並ぶ英文、これを身に付けるのに いったいどれだけ努力したのだろうか… 歌詞を読む。 頭の中に意味が広がっていく。 風も、隣でそれを見ている気がした。 でも、すぐ風は止んだ。 あれ…これ… これはきっと、世界が思う曲じゃ無い。 曲調も、歌詞もポップ寄りなのに、 1文読む度に方にのしかかる何か。 とても重い。1つ1つが。 でも、目を離せば世界からこれが消えてしまいそうな儚さを感じる。 いつも窓から吹く風はピタリと止んで、 夕日の側に、俺と彼女だけを残した。 "あの絵"が浮かぶ。 深く、澱んだように見える海。 その中にいる鯨。 MVに映る彼女は、ふわりふわりと衣装を 靡かせて、風と静かに会話している。 時折触れては悲しそうな顔をする。 コメントを見る。 見つけてしまった。 海外視聴者からのコメントだろうか、 全て英語で書かれている。 ◯ これはきっと、沈んでしまった彼女の   ことを書いているのだろうな。   希望も、何も無いような空虚に浮かん       で、ただ俗世を見ているような。   そんな物悲しさを感じる。   海に人は居ない。   でも、祈る者は、海を越えられる。   彼女もまた、祈る者なのだろう。   ただ、祈った先に誰か居るだろうか、   何かあるだろうか。   祈った者達の理想郷でも、   そんなものがあるのだろうか。 コメントを見て、彼女に視線を移す。 彼女は窓の外を見て、 やっと入ってきた風と戯れていた。 だけど、笑いはしなかった。 目には光がないように見えた。 横顔を照らす夕日は、 もう落ちようとしていた。 彼女は風と戯れながら、夕日を見て、 そろそろお月様に会えるね。 と言っていた。 風は気にせず彼女の綺麗な髪を靡かせて 遊んでいるようだった。 彼女は、きっと世界の表現者なのだ。

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彼女の感性

古傷が痛んだら

翌日、俺は放課後にまた教室に向かっていた。 いつものように包み込むような夕日を横目に教室に入る。 からからっ あれ…今日は、居ないのか… 彼女の机は他の机と同じように上に何も乗っていない。 少し、寂しいな。 放課後のここであの子と話すのが日課になっていた。 まぁ、今日は予定でもあったのだろう。 戻ろう。 階段を降りる。足取りはほんの少しだけ重かった。 あの子の担任になって、話すようになって、 激務から少しだけ解放されていた。 夕日を一緒に見ている時だけは、時間がゆっくり流れてくれた。 またこれから仕事だ。今日はいつ帰れるだろうか。 そんなことを考えながら美術室の横を通りかかる。 その時、風がまた頬を撫でた。 「ん?」 風に呼ばれた気がした。 風は俺の背中を押して美術室のドアを開けさせた。 どうせ何もないのに。 そう分かっている。だけど覗いた。 すると、キャンパスの前に座る1人の影。 彼女だった。 夜空を描いている。いや、海だ。海を描いている。 深く、重い海。その中心に鯨がいる。 足が前に出なかった。 風がまた、行こうよと言わんばかりに誘ってきたけど、彼女の描く海から目が離せなかった。 そこには、希望も何もないように見えた。 澄んだ青なのに、何故か暗く、澱んだように見える。 「今日は…ここに居たんだな。」 やっと出た言葉はそれしかなかった。 彼女は肩で息をした。 驚かせてしまっただろうか。 「はい。今日は絵を描きたい気分だったんです」 「……そうか」 彼女は振り返らないまま、また筆を取った。 青に赤を少しだけ混ぜた。そして、何かに気付いたように、ペインティングナイフと白色を取り出し、白を大胆に絵に盛った。 海を覆い隠す雲のように、どんどん絵が見えなくなっていった。 何故だ。何故止める。何故覆い隠す。 何かいけなかったのか。見てほしくなったか。それとも、感じ取られたくなかったのか。 分からない。 彼女のことが分からない。 「……っ!それっ!もしかして、描き直すのか?」 考えが追いつかないまま、勢いだけで言った質問は途中から声量を無くしていった。 「……気に入らなかっただけです。」 「描き直すかどうかは、わかりません。」 彼女はペインティングナイフを下ろし、 絵と目を合わせた。 「……なぁ、こっち向いてくれないか」 「……何でですか」 「何でもだ。」 分からなかった。分からないんだ。 だから、知りたい。 お前が今、何を考えてて、どんな気持ちでそんな深くて重い海を描くのか、そして、何故それを隠そうとするのか。 「……」 彼女は黙ったままこちらを見た。 息を飲んだ。初めて見た。彼女が、泣くところを。 画材を持つ手が強くなる度に、目から雫が落ちる。 袖で雫を拭う彼女を見て、動揺することしかできなかった。 「何か、あったのか」 「……違う。何でもない。何でもないから…」 画材を持つ手が一層強くなる。 「何も無いわけがない。何も無いなら、 思い出したことがあるのか? 何かを考えてしまったのか?」 「………」 彼女は黙ったままだ。 かちゃかちゃ…質問に答えないまま 画材を片付ける音だけが美術室に響く。 「おい…」 「今日は帰ります」 「さようなら」 俺の言葉を無視して彼女はバックを背負って 横を通り過ぎた 「……おぅ」 それしか返せなかった。 やっと顔を出した風が慰めるように肩に 乗ったが、俺はそれを振り払って職員室に 戻った。 全部。風のせいだ。

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浮遊と孤独

第一章  風のみぞ知る  夢に出てきた。いつものような笑顔で。 笑っていた。子どもらしく。でも、その笑顔が苦しかった。 放課後の教室は夕日を浴びて、いつも切ない風が誰かの髪を靡かせる。 その時間だけは、校庭から聞こえる部活の声も、ざわめきを作る誰かの声も、全て遠く聞こえる。 「ねーやっぱりここのカフェ行かない?」 「あーありだね」 「おいっ!部活行くぞーっ!」 「ちょ待てって!」 「えーまだぁ!?」 「そうそう、だからここはこの式が成り立つんだよ」 「へぇー!そーゆーことだったんだ! 先生ありがとう!」 「はーい、またいつでもおいでー」 橙色に染まった空を見ながらそんな会話を耳にして、流す。 今日も、あの子は居るだろうか。 俺のクラスのよく頑張るあの子。いつも放課後に教室で何かしらしている。 大体は勉強だ。 学生なのだから、普通の放課後くらい遊びに行けばいいのに。 教師としてはあるまじき発言だが、俺は学校には勉強より、ずっと大事な物があると思っている。 からからっ 教室のドアを開けるとやっぱり居た。 窓側の前から4番目。 窓の外を見る少女。 優しい風に撫でられて、まるで空と会話するかのように暖かい眼差しで夕日を見つめる。 高校生とは思えない儚さと艶美さを兼ね備えている。 「今日は何の教科?」 その一言に風と共に振り向く。 「今日は数学です」 机の上には問題集と教科書、授業ノートと別のノート。 「復習?」 「それと予習です」 生徒として優秀であることこの上ない回答。 「テスト前じゃないのに忙しいなぁ」 「いややらないと悲惨な目に……笑」 苦笑いする生徒。 きっと君ならできるだろうに。 その努力をしていて出来ない方が可笑しい 「まぁまぁそうだけど」 彼女が、ふと時計を見る。 「先生、いつもこの時間に来ますよね」 「まぁ、確かに」 「何か理由とかあるんですか?」 首を傾げてこちらを見る。 小鳥のようにこてんっとしている 「いや、特に。」 「へぇー」 そして彼女は外をまた見て、 「先生は空、好きですか?」 「ん?空?んーまぁまぁかなぁ」 どうしてそんなことを聞くのだろう 不思議な子だ 「そうですか」 少しの沈黙が教室に落ちる。 「まぁ、勉強もほどほどにな。」 「……それ、先生が言っていいんですか?笑」 ニヤけた顔で口元を手で隠しながら笑いかける彼女。 「…確かに笑」 からからっ 教室を後にする。 あの子は、どこか掴めない。 何を考えているのか、何を思っているのか、 さっぱり分からない。 ふわっ 「ん?」 何かが顔を掠めたような… 振り返ると、そこには白い羽根が1枚、 拾うと、ふわふわした感触が頭に伝わる。 窓から風が吹き込む。 誰かが微笑んだような、泣いたような。 風だけがただ感情を知っていた。

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