mari

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mari

よろしくお願いします 見にくかったらごめんなさい。 誤字脱字、日本語がおかしいところは見つけ次第直します

夜の悪魔に口付けを

第三夜 悪魔の所業 セラ様…? ルーナが頭の重みを感じセラを見上げる 私は…君と同じ思いはしたことがない だから本当の理解はできないのだろう… だが、この卑劣な犯人達を許せないのは同じだ セラの瞳が怖いほど真剣に前を見ている はい…ありがとうございます… ルーナは少しだけ微笑んだ もう遅い、今日は送るから明日仕切り直そう 朝迎えにいく セラが少し微笑んでルーナを見る 初めてみるセラの表情にルーナは不覚にもドキッとした セラはルーナを自宅まで送る では明日、10時ごろに迎えにくる わかりました…… どうかしたのか?少し赤いようだが? セラは顔を近づけた な、なんでもありません‼︎い、怒りです‼︎犯人への‼︎ 普段の彼女の余裕のある態度とは違ったがセラはあまり気にせず そうか とだけ言う では、また明日 ルーナははぁぁ…と長いため息をついた 次の日 セラがルーナを迎えに行った 今日はどうする ……犯行現場へいきましょう セラ様がいれば、入れますね? ああ、問題ない ルーナは鋭い視線を森の方へ向ける 犯行現場へ向かうとその場所だけが石畳になっており血の跡が黒く残っていた ルーナはその血をなぞる ……なぜここで…なぜ夜の森…誰かの視線よりも危険な獣がいるのになぜ…ここでなければならなかった…? ルーナはぶつぶつと呟く ここは東の森…東の……あっ‼︎‼︎ 何か気がついたのか? セラが問う セラ様、森は誰のものですか? …森に所有者はいない 基本的に建物を建てることも禁止されている 例え王家でもそれは変わらん 例外があるとすれば東の…… ‼︎‼︎ セラも気づいたようだった 東の森だけは歴史的に例外で王家が所有、管理をしています 大昔、王家が王家として認められた「大蛇の戦い」があったとされていますからね ルーナが続ける ……他の森は入ることができるがこの森だけは奥まで行くには申請が必要…だ セラの頬に汗が伝わる ええ、今はセラ様がいるから入れているだけです そう言うとルーナは辺りを見渡す 風が吹いた瞬間に彼女は走り出した どこへ行く⁉︎ルーナ‼︎ セラも追いかける ルーナが止まると空を押すような動きをする 何をしている? セラが怪訝そうにするがその瞬間 景色が動いた ここに鏡が置いてあります‼︎四角に囲うように‼︎だから他の景色と混ざってわからないようになってる‼︎ セラも手伝い鏡を退けると地面に小さな入り口が出てくる これは…階段か 秘密の通路…でしょうね どこへ繋がるんだ… セラが入ろうとするがルーナが止める 今はまだダメです 準備が整ってないし、途中でバレたら終わりです セラもその言葉に納得して戻る …ルーナ、私の予想でしかないのだが…これはおそらく ええ、多分同じことを考えています 「「王城へ繋がっている」」 仮にまっすぐ、障害物もなく進むことができるのならばここから王城まで大体30分といったところでしょうか? …そうだな、そのくらいだと考えられるな でも出た先で王子はともかく怪しい人物がどやどや出ていけば王城も騒ぎでしょうね …王子だけが使っていた…と だと思います …ずっと引っかかっていたのだが はい 王子はなぜ悪魔崇拝など…しかも最下級の遊女を… セラの表情は苦い …勝手な想像になってしまいますが… 彼にとって悪魔崇拝はどうでもいいんではないでしょうか というと? ………ただの遊びですよ …は? 彼からは考えられないような声が出る 悪魔崇拝にかこつけて彼女達を弄んで食い物にする、理由なんてない だって王子の肩書きがあれば最下級の遊女なんて選ばないでしょう それこそ姉様クラスを選び放題です ……ばかな… セラが怒りで震える でも私たちはまだ状況証拠しか掴んでいません これでは王子に勝てない 確たる証拠がなければ ルーナは目を伏せた そうだな セラは怒りを抑えつつ答えた 二人は鏡を戻して街に戻る

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夜の悪魔に口付けを

第二夜 夜の輝きの心 夜の街でもここだけは空気が違っている ……場違い感は否めないな 慣れです、行きますよ ルーナはスタスタ歩く 置いて行かれてはたまったものではないのでセラも必死だ 店に入るとすぐにルーナが動く マスター な、なんだ?ルーナか? 後ろの色男は? 店のオーナーは冷やかすように二人を見る 幾らでも出すわ 一晩リュシー姉様を買うから お、おいおいそんな急に… オーナーがたじろぐとセラが一歩前に出る あ、あんた…その紋章… わわ、わかったよ‼︎ オーナーは慌てて準備をする 部屋に通されるとセラは少し疲れたように座る 大丈夫ですか? ……少し匂いに当てられた… セラは首元を緩める しばらくすると部屋の扉が開き最高遊女のリュシーが現れる 息を呑むほどの美しさと一眼見ただけでわかる知性と教養を兼ね備えている ルーナ‼︎驚いちゃった‼︎一晩買いたいってお客が、まさかあなただなんて‼︎ しかも、殿方まで連れて…どうしたの? リュシー殿、早速だが我々は聞きたいことがあってここへ来た セラは間髪入れずに聞く あらあら残念ね 3人で楽しいことするのかしら?と思ったのに リュシーは楽しそうだ んんっ‼︎ とセラが咳払いをする ふふふとリュシーの笑みを見たところでルーナか本題に入る 姉様… そこまで言うとリュシーが繋げる …貴方がここへ来た理由、わかってるわ あの子達のことね 少し悲しげなリュシーも美しかった はい、何か知ってますか? …なかなか下の子達と関わることは少ないのだけど、お客がついたと…喜んでいたのは知っているわ何日かしたら「水揚げしてくれると約束してくれた」と言っていて…あまりに早いしどうもおかしいと思いつつ、私は王宮の宴に呼ばれていてここを離れないといけなくてね…フォローすることもできずにこんなことに… 王宮の宴?貴方が? セラが問う 姉様といえばこの国の3本の指に入るほどの高級遊女 知性も品格も最高級、王宮に呼ばれたとしても不自然ではないですよ ルーナが続ける そうか… セラも納得した でも…そうですか…やはり… ルーナが納得している どうしたの? リュシーは不安そうだった ………まだ仮定ではありますが第二王子が姉様をここから引き離した え? 姉様という防壁をなくして彼女達を言いくるめて蹂躙し、殺害した その言葉にリュシーは口を抑える セラは何も言わなかったが拳が白くなるほどに握られている 私が…もっと… 涙を堪えるリュシーをルーナが抱きしめる 姉様は悪くない…何も悪くないです ルーナがリュシーの肩をさする ルーナ…気をつけて…でも…もしあなたが動くのならば…どうかあの子達の無念を… そしてルーナとセラは店を後にした ルーナは黙ったまま早歩きでスタスタと俯来ながら行ってしまう ルーナ… セラが追いかける 私…娼館の方々には本当にお世話になったんです…小さい頃に両親を亡くして…その日生きていくのもやっとで…汚いことにも手を染めました … セラは何も言わない そんな時娼館の当時まだ下級の遊女だった姉様が「大丈夫だよ、明日も明後日もあるから一つくらいいいことあるよ。前を向こう」ってパンをくれて…嬉しかった 他の遊女の人たちも私よりも辛い人生を送っている人もいるのに明るく前向きで…過酷な仕事も笑顔でこなしていた 私は遊女にはならなかったけど、ずっと彼女達と仲良くしてもらっていたんです… だからこそ、そんな彼女達を自分のいいように使い捨てた奴らが許せない…絶対許さない ルーナは一粒だけ涙を零す そんなルーナを見て、セラは彼女の頭に手を置いた

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夜の悪魔に口付けを

第一夜 金と銀の攻防 私がお前を審問する「セラ・クリスト」だ 銀髪の美丈夫が取調室に入ってくる そこに対面して座っているのは「ルーナ・マリアル」 19歳の女性 金の長いストレートの髪が輝く 私の質問には全て真実を答えてもらう 嘘だとわかればその時点で異端とみなす …はい… (めんどくさ、従順なふりをしておきましょう…) ルーナは女優ばりの演技力を発揮する では 君は1ヶ月前ごろから夜の森へ出入りしているというのは事実か? いえ、夜の森なんて…怖くてとても無理です ほう…いいだろう 次だ 3日前は1日何をしていた? 3日前……家で仕事を… (何が聞きたいのか見えないわね…) どんな仕事をしているんだ? ……知り合いに頼まれて…書類の整理を どんな? それは業務に関わりますから私から言うことができません 嘘だな セラは鼻で笑う え? 君は「知り合いに頼まれて」と言った しかし、調べでは君には「書類仕事」を頼んでくるような仕事に就いている知り合いは一人もいない …どのようにお調べになったのか存じませんが、知り合うって簡単にできますよ? (めんどくさ) あの、審問官様? 話が見えないのですが一体何をお聞きになりたいのです? ルーナが切り込む …そうだな では単刀直入に聞くとしよう この1ヶ月、森で多くの女性が犠牲になる事件が多発している 犯行は邪教崇拝をしている組織だとの報告が上がった その中に君の名前があるのだよ (なるほどね…) そんな…私、邪教崇拝なんてしていません…なんでそんな中に私の名前が? ルーナは瞳を潤ます ……そろそろ演技はやめろ セラの低い声が響く ルーナがスッとつまらなさそうな表情をする 最初から気づいていたのなら指摘すればいいのに、意地悪な方ですね ルーナは脚を組んで座り直す 態度がどうであれ真実を答えていればいいと判断した しかし、君の演技が話の邪魔になりそうなのでな ……やっぱりつまらない方… それで、邪教崇拝のメンバーに名前があることに対しての弁明は? そんなものには関わっていません ルーナはセラをまっすぐ見据える ……なるほど、噂通りのようだ セラは口角を少し上げる 私の何をご存知なんですか? 君はそれを知っているはずだ ルーナはその言葉にため息をつく 事件の被疑者として呼んだのは建前ですね? ああ 君の力が必要でな ちゃんと払うものは払ってもらいますよ?言い値で 解決すれば約束しよう やっぱり意地悪… ルーナは諦めたように頬杖をつく ルーナは情報屋だった 彼女の知らないことは無いと言われるほどその道では有名な実力者だ 事件のことは私も追っていますよ ……個人的にも許せないので ルーナの表情が険しくなる 個人的に? ええ…セラ様も知ってはいると思いますが被害者は娼館で働く女性達で店の中でも最下級の女性達 ……ああ、承知している ルーナは表情を曇らせる ……私は…娼館で働く彼女達を尊敬しています 尊敬? はい。 どんな状況でも折れることなく過酷な仕事をこなしていく…並大抵のことじゃありません …そうだな セラも目を細める おそらくですが…客として犯人が彼女達に「水揚げをする」と言ったんでしょうね その言葉に希望を見出した… … セラは何も言わなかった あとこれは、まだ確証には至っていないのですが なんだ? この件、第二王子が関与している可能性が浮上しました やはりか… セラはため息をつく セラ様も掴んでいたんですか? そうではないか…という程度の疑念だ なるほど あなたほどの立場では逆に動きづらいかもしれませんね ……彼女達が最下級であったというのもポイントでしょうね …… セラは答えない 店から彼女達がいなくなったとしても逃げ出しただけだと流されてしまう もともと身元も曖昧な方達ばかりですから… ルーナは拳を握る ……今から出かけますよ 今から? はい、姉様に話を聞きにいきましょう 姉様とは? セラは思い浮かばない 娼館「ベル・ロマン」の最高遊女の「リュシー」姉様です 彼女は仕事柄たくさんの情報を持っていますし、私も以前からお世話になってる方です ルーナは準備を始める ……娼館へ行くのか? セラは少し気が重い 何が問題が? …いや、わかった セラは息を吸い込む

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鈴は割れる

スピンオフ 生き残るために 十一年前、申州 このまま「猿山家」が取り仕切っていたら申州は滅びるぞ 猿山の家中から、町の至る所から…そんな声が聞こえてくる その理由は猿山家の現当主「猿山惺(せい)」のあまりの傍若無人さと頭の悪さである 腹の虫が悪ければ誰彼構わず当たり散らし、女癖も悪い しかも無意味に他州に喧嘩をふっかけては戦略も何もないまま小競り合いをして負けるというのが常であった (早いところ、あのクソ親父を「なんとか」しねぇと猿州が滅びるな) 息子の颯は表情は変えずに家の道場で瞑想をしていた (ようやく先月元服して「大人」として周りから見られるようになった。ようやく動ける、ここまでクソ親父からみんなの心が離れているのなら取り込むこと自体はそこまで難しくはないだろう…) 颯はふぅ…と息を吐き目を開ける さて…そうなれば早速動くとするか… 颯は立ち上がり道場を後にした (まずすべきことは同志を集めることだな 流石に一人では無理だ、親父を暗殺することくらいは簡単だが誰もついてこなければ意味がない) 颯はある人物の元へ急いだ 邪魔するぞ 颯は屋敷の一画、医療を司っている「清浄院」に入った 颯様、いかがいたしましたか? そこで働いている女中が聞いた 忙しいところ悪いな、「空(くう)先生」はいるか? 空先生なら調薬室にいらっしゃるはずです そうか、ありがとう 女中にお礼を言って颯は調薬室に向かった 先生、颯だ 入ってもいいか? 颯様?どうぞ‼︎ 部屋の中から声が聞こえる ガラガラと戸を開けると、沢山の薬に囲まれて調薬をする空がいた 悪いな、仕事中に いえ‼︎散らかっていて申し訳ありません‼︎ どうなさいましたか?颯様、どこか具合が? 空は心底心配そうに訊ねた いや、体調はすこぶるいい 少し…先生に話があってな 颯の真剣な表情を見て空も「ただ事ではない」と感じたようだった 颯は空の前に座るとすぐに本題に入った 先生、俺はこのまま申州が終わっていくところを見たくない …はい 空はごくりと唾を飲んだ 俺は申州を建て直してみせる ……‼︎颯様‼︎それは…つまり… 「猿山惺」を「排除」する 颯は背筋が凍るほどの冷たい声で宣言した このままじゃ、遠くない未来に確実に申州は終わる その前に手を打たなきゃいけない そこで、先生に協力してもらいたいんだ もちろん危険なことをさせるわけじゃない 颯の本気の目を見た空は「ふぅ」と短く息を吐いた 私があなたに協力しないわけないでしよう? あなたがほんの小さな子どもの頃からずっと見てきた…失礼は承知ですが…息子のように思っております、今も昔も… 先生… 颯は目を見開いた 物心つく前に母を亡くし、父親は今と変わらず屑だった その屑の息子ということで幼い頃はずっと蔑みや嘲笑の的だった そんな自分を心から心配して本当の親のように接してくれたのが「空」だった 私の言葉を覚えていてくれたのですね 「自分一人でできないと思ったのなら『誰かに頼れ』」と 空は優しく語りかける ああ 一度だって忘れたことはない これからも忘れることはない 颯が力強く答えた そんな颯を見て空はにこりと微笑み それで、私は何をすればいいのでしょうか? と訊ねた 先生のところには毎日患者が来ていると思う ええ。そうですね、一日に大体三十人前後といったところでしょうか その患者達にそれとなく「当主は今度は子州に噛みつこうとしているらしい」と噂を流してくれないだろうか? それは…なかなか大胆な噂ですね 空はどこか楽しそうだった そして息子の颯がそれを止めようとして当主を「排除」しようとしているらしい とも流してほしい 颯もにやりと笑う 危険では? 空が心配そうに聞く 危険なのは百も承知だ だが、もしあの馬鹿が噂を聞いて俺を消そうとするならそれはそれで好都合だ 好都合…と言いますと? あいつは昔から「秘密裏に動く」ってことができない 他州との小競り合いでも馬鹿みたいに真正面から突っ込むだけだし、当主だけの機密情報はでかい声でべらべら得意げに喋って後から大目玉とかな 一度や二度じゃない、何度も何度もやってる 頭が付いてねぇんじゃねぇかなって思うくらいだ 颯の言葉に空は苦笑いだ あいつの下にべったりくっついている奴らの様々な不正の証拠は既に手に入れているしな 颯はサラッと重要なことを言う え⁉︎既に⁉︎ 空も驚きを隠せない ああ だから今動き出したんだ そいつらにも協力してもらうぞ 俺に協力するのならこの罪を免除するってな 颯様… 空は心配そうに颯を見つめる 使えるものはなんでも使う この謀反が終わったらここから追い出すがな お咎め無しで追い出すだけで済ませてやるんだから、優しいだろ? 颯は何事もないようにそんなことを話す 俺はこの不正まみれのやつらに話をつけてくる 先生はさっきの通り「噂」を頼む 颯の真剣な眼差しが空を見据える ええ。やりましょう。あなたが統べる申州の未来のために 空の表情も真剣になった ―――――― 颯は惺の腰巾着である三人「櫂(かい)」、「卓(たく)」、「源(げん)」を『惺が次に他州と小競り合いをした場合に被害を最小限にするために三人に力を貸してほしい』という名目で呼びつけた 三人とも、時間をとらせて悪かった このままではいけないと思ってな 後継の俺が少しでもいい方向に持っていくべきだと思っている 颯は役者のように表情を巧みに使い、三人の警戒を解いていく いえいえ、颯様がそうおっしゃってくださって我々も嬉しい限りでございます 櫂が手を擦りながら言う 我らも惺様のやり方ではいずれ猿山家は……と常々思っておりました 卓と源も口を揃えて言った そうか…三人には苦労をかけているな ところで、相談なんだがな 颯の瞳はすっといつもの輝きを無くし、冷たく暗いものに変わった 三人は息を呑む 俺はあのクソ親父を倒す そして猿山家を、申州を建て直す そ、それは‼︎お父君を討つということですか⁉︎ なんてことを‼︎‼︎ 滅多なことをおっしゃるものではありませんぞ‼︎ 三人は焦りを隠せない口調で攻め立てた どうしてだ?さっき言ってたよな?「このままではいずれ」って だったら止める理由はないだろう? 颯は無表情だ そ、それは……しかし、お父君ですぞ?血を分けた‼︎あなた様はご兄弟もおらず母君も早くに亡くされている‼︎血が繋がっている家族は惺様のみ‼︎そんな方を……討つなどと‼︎ 三人は冷や汗をかいていた 「血」ねぇ… 颯はにやりとした 今までの猿山家の血はそれは大事なものだ 先祖代々の血に俺だって誇りを持っている でしたら‼︎ 櫂の顔が綻んだ だが、その血をこれでもかと汚しているクソ親父に価値はない あいつを排して「猿山家」の誇りを俺が取り戻す それが息子である俺の役割だ、責任を持ってやり遂げるさ 「血」の繋がった息子だからな、親父への情けだよ 颯の冷たい微笑みに三人は慄いた 三人には協力してもらいたいんだ 協力…とは 俺だってできれば血を流すようなことは避けたいと思ってる だから次の評議が行われるときに俺の味方につけ つ、次にいつ評議が行われるかなど…… ああ、それは問題ない 近々必ず開かれる 我々が…協力しないと言えば…? 源が青ざめながら問う それは残念だが仕方がないな、心を強制はできない 颯のこの言葉に三人は顔を上げた だがその場合、この不正の責任をとってもらう 颯は分厚い冊子を取り出した これはお前たちの不正の証拠だ ふ、不正など‼︎我々はしておりません‼︎ 櫂が叫ぶ そうか…だが残念。この証拠は覆らないぞ?これは完璧に写したものだ。原本は、お前たちが税収の監査を欺くために作成した、二重の裏帳簿だ なな、な……そ、そんな マメだなぁ、お前たち。三人で手分けして足がつかないようにきっちり、誰にも見破られないよう、丁寧に筆を入れて税収から軍備費用をちょろまかしてたんだろう? だが、残念 俺に見つかってしまったな 颯の笑顔は三人を黙らせる クソ親父が経理や運営に全く興味がないからやりやすかっただろう?信頼しているお前たちに全部丸投げしてたんだから 親父はこんなもの見ようともしないし、お前たちは経理の部屋には他に誰も入れようとはしなかった 「不正の証拠はここにありますよ」って言っているようなものだな 簡単に見つけたよ その言葉に三人は項垂れた ど……どうすれば……… 櫂が呟いた さっきも言った通り、近々必ず評議が開かれる そこで俺は親父に当主を退くように進言をする お前たちは俺に着いてその進言を後押しするんだ そうしてくれればこの不正は不問にしよう 約束する わ、わかりました……… 颯様に従います……… 三人は頭を深々と下げた 颯はにこやかに笑いながら 助かるよ あ、裏切るなんて考えてないよな?そんなことをしたらどんなことになるのかわからないお前たちじゃないもんな‼︎ と笑顔だが絶対に逆らってはいけないと本能が告げるような圧を放っていた ―――― それから七日ほど経つと 猿山家の内部、町の至る所 申州全土であの「噂」が広まっていた すごいな、先生 想像以上だ 颯が満足気に言う ええ、私も驚いています 空も興奮気味だった 空が流した噂は二人の予想以上に上手く広がった 空はいつも家に帰る際、町の子供たちと少し遊んでから帰る その時に子供たちに噂を話し瞬く間に広まって行った 大勢の子供達が「空先生から聞いた」と言っていたことが信憑性を上げていのだ そして診察に来る兵や猿山家中の人々にも広め、その人たちが家族や友人に話したことで更に「これは真実なのだ」と瞬く間に広まった そして噂は猿山惺の耳にも確実に入っていた… ―更に三日後― 事前の連絡もなく「集まれ」と惺が家中の中心人物たちに招集をかけた 今までは呼ばれなかった颯も呼ばれている (さぁ、『宴』の始まりだ) 颯の瞳に力が宿る 早く集まらないか‼︎ 惺の怒声が響く 最後に部屋に入ったのは颯だった (おーおー、キレてるな 本当に扱いやすくて助かる) 遅れて申し訳ありません 颯の感情のない謝罪が更に惺をイラつかせた 颯が座ると惺はすぐさま怒鳴り始める 誰だ‼︎こんな噂を流したのは‼︎ 即刻見つけ出し、処刑だ‼︎ 顔を真っ赤にし、唾を撒き散らしながら怒り狂っていた せ、惺様…それは最早不可能では… 櫂がおずおずと進言する なんだと‼︎貴様、私に歯向かうのか‼︎ し、しかし惺様 この噂は最早申州全土に広がっております 出所を探るのは広大な浜辺から針を見つけるようなものでございます 卓も続けた き、貴様ら…‼︎私が今までどれだけ…‼︎ 惺は怒りで震えている ここまでこのような噂が広まってしまっては、惺様が当主であり続けることが御身の命を危ぶませてしまいます‼︎ 源が真剣に惺に訴えかけた 黙れ‼︎私は当主を退く気などない‼︎死ぬまでだ‼︎ 私が死んだ後は颯が継げばいい‼︎だがまだだ‼︎元服したばかりのガキに当主など務まるわけがない‼︎皆もそう思うであろう⁉︎ その問いにその場にいた颯以外の全員が目を逸らす な、なんだ‼︎なぜ誰も賛同せんのだ‼︎今まで誰のおかげでいい思いができたと思っている⁉︎誰のおかげてお前たちの家族が生活できていると思っているんだ‼︎ 惺の声が部屋にこだまする、他の誰も口を開かない その状況に耐えられなくなったのか、惺がその場の全員に言い放った 私に従えぬ家臣など不要だ‼︎全員、切腹だ‼︎ そして…颯‼︎お前…次の当主に就けると思っていい気になるなよ…‼︎…………そうだ……お前がいなければ当主は私のままだ‼︎お前がいなければいい‼︎ 惺は振り向き、床の間に置いてある刀を徐に手に取り鞘を投げ捨てた 颯に向かって走り出した惺に周りが驚き動けないでいる しかし颯は全く動じず素早く立ち上がり、いとも簡単に惺の手を捻り上げ刀を取り上げた うがぁ‼︎ と惺は痛みに声を上げる お前に殺されるほどやわじゃない、残念だったな 颯が冷たく言い放つ 颯はすぐに縄を持って来させ、惺を捕縛した 貴様‼︎当主の私にこのようなことをして、タダで済むと思うな‼︎ おい‼︎お前たち‼︎早く縄を解け‼︎命令だ‼︎櫂、卓、源‼︎貴様ら‼︎今までの私の計らいを…恩義を忘れたのか‼︎ 五月蝿い 氷のような颯の声がぴしゃりと惺の喚きを止めた さて………これで終わりだ あんたは当主を退き俺が新たな猿山の当主、申州の長になる 誰も異論はないな? その言葉にその場にいた惺以外の全員が頭を垂れた 今までお前が腐らせてきた申州を俺が変える 血の誇りを取り戻す お前はこの州を苦しめてきた責任を取るべきだ せ、責任…だと? 財政圧迫、無駄な戦争…上げ出したらキリがないがお前のせいで失われた命が沢山あるんだよ 無駄なことばかりしやがって この噂の「子州への攻撃予定」もあながち間違ってないんだろう? ぐっ‼︎ と惺は唇を噛む お前じゃ勝てない そんなことわかりきっているはずなのになんでやろうとするんだ?理解に苦しむな、教えてくれよ 貴様………‼︎ 「教えてくれよ」 颯の恐ろしい瞳に捉えられた惺は静かに口を開く 他州に打ち勝つ‼︎理由なんてものはなんでもいい‼︎勝って、勝って、勝ち続け…そして燦の国の頂点に立つ‼︎私が‼︎そうすればもう誰も逆らわない‼︎全てが思いのままだ‼︎俺を見下し続けた親父を超える‼︎何もできない弱い当主だった親父のようになんてならない‼︎ この言葉を聞いて颯の瞳は更に冷たくなった 俺には祖父さんの記憶はないからな どんな人物だったのかはわからない だが、なぜお前を見下し続けたのかはわかる こんなのが息子だなんて、祖父さんが可哀想になってくるよ なんだと‼︎ さて今後だが、お前は追放だ な…に? 殺さないだけ優しいと思ってくれよな なんならさっき殺してもよかったんたが、流石にやめておいたよ 俺の当主就任をお前なんかの血で汚されるのは勘弁だからな 颯の言葉が静かに、冷たくその場を支配した ―――― その日から颯は猿山家の「毒」を抜き取ることに注力した 毒は大小様々、至る所で「猿山」を蝕んでいた (杜撰な資金繰り、無駄な部署、無駄な役職…無駄だらけだな、この家は) 颯の顔は苦くなる 徹底的に無駄を廃し、使うべきところに金を惜しみなく使い少しずつ財政を立て直していった 颯が当主の座に就いて半年が経ち、なんとか申州の安定が見えてきた頃 さて、今日お前たちがここに呼ばれた意味がわかるか? 颯は櫂、卓、源の三人を呼び出した い、いえ… 櫂が歯切れ悪く答える そうか、わからないのなら仕方がないな お前たち三人、この猿山家から追放する 颯の言葉が三人を貫いた 何故です⁉︎我々があなたの謀反に協力すれば不正は不問にすると仰ったではないですか⁉︎ それを反故にするおつもりか⁉︎ 三人は目を見開き颯に抗議をした 反故になんてしねぇよ?もちろんあの罪は不問だ 「あの罪は」な あの罪は…? ああ、あの罪に関しては不問だぞ?一切追及しないし罰を与えることもしない だが、あれは「前当主」の時の罪だ 三人はみるみる青ざめていく 俺はこの猿山家を完全に立て直してみせる、そのためならなんでもやる お前たちはその立て直しに「不要」だとみなされた だから追放する 何か間違っているか?他に追放したやつも沢山いるがそいつらと何ら変わらない対応だぞ? そ、そんな………それでは…我々は‼︎例え罪を暴露されようと惺様に従いあなたを消していた方が…… 消え入りそうな声で卓が呟く お前らに簡単に消されるほど甘くはねぇ 颯がぴしゃりと言い放つ わ、我らには妻も子も…家族がおります‼︎幼子ですぞ‼︎ 源が情に訴えかけるようにすがる そうか、そうだなぁ…こんなやつのせいでお前らの家族は苦しむんだ、可哀想に 颯は表情ひとつ変えない そうそう、一つ伝えておかなきゃな お前らには内密で奥方達に手紙を送ったんだ 手紙……? お前らの奥方、全員調べさせてもらったがお前たちの罪には全く関与してなかったしお前らの肥やした私腹のおこぼれすらもらえていなかったそうじゃないか ………… それで一家揃って追放はあまりにも可哀想だからな、奥方達に「もし、離縁するのなら猿山家の女中として子供と一緒に面倒見るぞ」って手紙を出した な、な………な‼︎ すぐに三人の奥方から返事が来たよ 『よろしくお願いします』ってな そんな…… 三人は正気のない顔でただただ項垂れるだけだった さて、話は以上だ 下がれ 奥方達はすでに保護してあるから滅多なことはできないからな その言葉も三人をどん底へと突き落とした ―――― 三人を追放後、颯はまだ屋敷の中で監禁している惺の元へ行った 見張の兵に下がってもらい部屋に入る なんだ………今更何のようだ 惺は颯を睨むがその瞳に力は無い やっと猿山家の他の毒を全て抜き取ることができた あとはあんただけだ 颯の表情は怒りも悲しみも無い 毒だと…? ああ 毒だ 無駄な物、無駄で無能な人材 こんなものはただただ家を、州を蝕む毒でしかない お前は喜んでこの「毒」を取り込んでいたようだがな 腐るまで……いや、腐り切っても気づかないなんて才能だ 感心するよ 颯は氷のように冷たい微笑みを惺に向ける 貴様…‼︎いい気になりおって‼︎ 仮にも父に向かいその態度、無礼にも程がある‼︎ 父…? 颯の顔から色が消える お前は父として何かしてくれたのか?何か見せてくれたのか? 愛がなくとも優秀な当主であったなら心から尊敬しただろうよ 俺の記憶にあるお前は無能、浅慮、色狂い どこをどう尊敬しろと?どこをもって「父」と思えと? 惺は何も言えなかった さ、お前が頼りにしていた三人も追放が終わったし お前の処遇もそろそろ決めないとな 追放は決定だが、それだけではお前の罪は消えないぞ? 長年申州を苦しめた張本人だ 罰…罪……だと 惺が小さく呟く お前には午州へ行ってもらう 午⁉︎あんな、クソ田舎に行けだと⁉︎ふざけるな‼︎ クソ田舎って失礼だな 午州は燦の国きっての質実剛健の州だぞ?背筋の伸びるような気持ちになれるところだ そして、ただ午州へ行くだけなら意味はない 午州にある「獄衆院」に行くんだ はぁ⁉︎獄衆院だと⁉︎各州の罪人が集められるような……死んだ方がマシだと思うような更生寺院…に行けだと⁉︎ その通り 冴えてるなぁ 響様にはもう話をつけてある なんとなんと、午州に入るところで迎えを寄越してくださるそうだ 非常にありがたいだろう? 午州も自分たちの事に注力したいだろうに、わざわざこれまで午州を見下して何度も意味のない喧嘩をふっかけてきた嫌いなヤツに時間も人も割いてくださるんだから 響様には本当に頭が上がらないよ 颯の言葉に惺は何も言わなかった 三日後に船で午州へ向かう 船……だと…… ああ 子州を通るとなると連絡やら警備やら子州に面倒をかけるし金もよりかかるからな 船ならその心配はないしなによりお前は「逃げられない」 午州にとっても港で待っていればいいから申と午、両方に好都合だ それまでの颯の言葉に全てを打ち砕かれたのか惺は小声で何かをブツブツと呟いていた ……………お前が本物の「当主」だったのなら俺だってお前を「父」として見たかった 息子のその言葉に惺はバッと顔を上げたが颯は背を向けて部屋を出ていった ――――― そして三日後、惺の午州への移送が行われ「猿山家」は全てのことに区切りをつけた ひと段落ですね 空が颯と調薬室で茶を飲みながら微笑む そうだな、まだまだやるべきことは多いがとりあえずは… 颯も茶を啜り息をつく 当主、州の長というのは「安定」し続けていてはいけません 世の中は常に変わり続ける それに対応しなければならない 「安定」ではなく「成長、前進」ですよ 空はしっかりと颯を見つめながら言った 先生は厳しいなぁ わかってるさ、止まってる暇なんてない この申州を守って発展させてどこよりも、子州の都よりもいいところだと燦の国の誰もが認めるような場所にしてみせる 颯の瞳は燃えていた そのいきです‼︎ ですが、忘れないでくださいね? 空は颯の肩に手を乗せる もちろん 一人で全部できるなんて思っていない 「誰かを頼ること」 みんなの力を借りて成し遂げるさ 空はその言葉を聞いて大きく頷いた さて、休憩もしたし早速仕事に取り掛かるか 颯はそう言って立ち上がる 次はどんな仕事を? クソ親父が迷惑をかけまくった他州に謝罪と新しい当主としての挨拶だな それはそれは、長丁場になりそうですね お体には十分気をつけてください ああ、だがこの挨拶で「俺」を他の当主達に刻み込んでみせるさ 颯はやる気に満ちた顔で調薬室を後にした こうして、新しい申州当主「猿山颯」が誕生し申州は目覚ましい勢いで今までの遅れを取り戻すかのように強く立ち上がっていった 彼が「義」と「申州の存続」を天秤にかけるのはまだしばらく後のお話

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鈴は割れる

スピンオフ 何度生まれ変わろうと ここは………? 鈴は目を開け周りを見渡す そこは見たこともない一面にシロツメグサが咲き誇る美しい花畑だった ああそうか…私は死んだんだ (後悔なんてない、…あの人の願いを聞かない事こそが私を生かす原動力だったのだから) 鈴は自嘲気味に微笑んだ そして視線を落とすと歳を重ねて皺の増えたはずの手が若い頃のハリのある手に戻っていることに気がついた (死後の世界では体が若い頃に戻るのかしら?) 鈴は立ち上がり少し歩く もちろんいく当てなどないし方向もわからない ただなんとなく何かに呼ばれているような感覚があった (なんだろう…何かはわからないけどこっちへ行かなければならないような気がする…) しばらく歩くと突然『チリチリ』と小さく鈴の音が聞こえた (この…音は…‼︎) 鈴がその音に導かれるように進むと鈴の音も段々と大きくなっていった (この音を知っている‼︎悲しくて憎らしくて…でも一番愛しい音‼︎ずっと聞きたかった音‼︎) 鈴がある人影を見つけると鈴の音が止んだ その人物はあの時と変わらない優しい微笑みでこちらを見ていた 鈴……久しぶり 聞きたくてたまらない声だった、見たくてたまらない姿だった 国も何も関係のない、何にも縛られていない慎の微笑みが鈴に向けられた し…ん? (慎だ…あれは…‼︎間違うはずがない、あの声もあの姿も何もかも‼︎) 鈴は愛しい人の元へ走り出す そして二人はあの出陣以来の抱擁を交わし、鈴はそのまま慎の頬に平手打ちをした ぱんっと乾いた音が花畑へ響く 慎は目を丸くする 鈴…? 慎は驚きを隠せなかった なぜ彼女が自分をぶったのか本気でわからなかった 私…怒っているの 慎が私との約束を破って死んでしまって、しかも「自分を忘れていい人を見つけろ」なんてふざけた手紙遺すから‼︎ 鈴は涙を流しながら慎に言えなかった想いをぶつけた 慎はその言葉を聞いて初めて自分の願いが彼女を縛ってしまった事に気がついた ごめん……本当に…ごめん 私の願いは『慎』とずっと生きていく事だったのに‼︎どうして忘れろなんて言ったの⁉︎ どうして…私を置いて逝ってしまったの…⁉︎ どうして……‼︎ 鈴は宝石のような涙を流しながら慎の胸の中で彼の胸を叩いた 本当に君のためだと思ったんだ…でも、間違っていた…ごめん、こんなにも君を縛って悲しませてしまうなんて… 慎は鈴の涙を全て受け止めた 次にこんなことをしたら許さない‼︎絶対に許さないから‼︎ 鈴は顔を上げて慎を睨みながら言った その言葉に慎は驚いた 次…… 鈴は慎から目線を逸らさない 次も…俺を選んでくれるのか…? 慎が力無く鈴に訊ねた そうよ………慎は……嫌? その言葉を聞いて慎は鈴を力一杯抱きしめた 嫌なものか‼︎約束する‼︎次こそは必ず君と共に歩むことを‼︎どんな時代だとしても、どんな国にいたとしても必ず君を見つけ出す‼︎もう二度と君にそんな涙は流させない‼︎ 慎の言葉を聞いて鈴は声をあげて泣いた 彼を失った時ともこの世界で慎を見つた時の涙とも違う、心からの慎への愛と信頼の涙だった その時、二人のいる花畑にブワッと風が吹いた その直後慎の体が柔らかな光に包まれる 慎⁉︎ 鈴、俺は一足早く世界に生を受けるようだ ………私はまだ…いつになるかわからないよ…… 鈴は俯いた 慎は優しく微笑み鈴の頬に手を添えた いつだって構わない、この生でなくたって構わない 絶対にまた会える さっきも言ったが、必ず君を見つけ出すよ 何度生まれ変わっても必ず うん…うん…‼︎ 鈴は頷く 私も‼︎必ずあなたと出会ってみせる‼︎何度生まれ変わったって見つけてみせるから‼︎ 涙を流しながら鈴は誓った その言葉を聞いて慎は鈴に優しく口付けをした 必ず その言葉だけを残して慎は光に包まれてこの世界から生ある者の世界へと消えて行った 次に会えるのはいつかはわからない けれど鈴の心はとても澄んでいた この誓いは破られることのない、必ず果たされるものだとわかっていたから 二人が再び出会う時 二人の愛はようやくあの時間から動き出す

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鈴は割れる

最終節 鈴は割れる 鈴はすぐに封を開けて手紙を読んだ ―鈴へ― 君との約束を必ず守ると誓っているけれど、もし万が一があった場合のためにこの手紙を書こうと思う。 俺は君をこの世で一番愛しているよ。 何よりも君を一番に想っている。 すぐに思い悩んでしまう俺は、君の笑顔に何度も何度も救われた。 「この笑顔を守るために自分がいるんだ」と心から思えた。 だから万が一が起こり俺が君の元へ帰れなかった時、俺自身が君の笑顔を奪ってしまう災いとなってしまうのだろう。そんなことは耐えられない。君にはずっと笑顔で幸せでいて欲しい。 だからこそもし、この戦いで俺がこの世からいなくなってしまったら、君の笑顔を守ってくれる人を見つけて欲しい。君の人生はこれからも続いていく。俺に囚われる事なく、俺のことは忘れて新しい人生を歩んで欲しい。君が笑顔でいてくれることこそが俺の幸せだ。 いつでも君の幸せを願っている。―慎― ………は? 鈴は手紙を持つ手に力が入り紙を皺だらけにしてしまう 鈴さん?どうしたんだ? 劉が心配そうに訊ねる (慎は…この人は何を言っているの?私にあなたを……「忘れろ」って言っているの?) 鈴ちゃん? 彗も声をかける 先生、彗さん…慎は…私のことなんて……愛していないんです 鈴は色のない声で呟く な、何を言っているんだ⁉︎慎は心から君を…‼︎ だったら‼︎‼︎ 鈴が彗の言葉を遮る だったら……どうして慎は私に「自分を忘れろ」なんて言うんですか⁉︎どうして「他の人を見つけろ」なんて言うんですか⁉︎⁉︎どうして…………『あなたといたかった』っていう私の思いを無視するんですか⁉︎⁉︎ 二人に怒りをぶつけてもどうしようもないことくらい鈴にもわかっている 鈴さん…嘆き、悲しむ気持ちは痛いほどわかる。しかし、慎がそのように言った理由はわかるだろう? 劉が語りかける わかりません‼︎わからない……わかりたく……ありません‼︎ 鈴の涙は止まらない 亡くなった人の…いなくなってしまった人の願いは聞き入れなければいけないんですか?私は…遺された人はその思いを受け止めなければいけないんですか⁉︎そんなの……あんまりです‼︎私の…「行かないで欲しい」っていう願いは慎は受け取ってくれなかったのに‼︎大義の…為に…‼︎未来のために戦ったのは崇高なんでしょうね‼︎でも………そんなことより………隣に…いて欲しかった……隣で笑っていて欲しかったのに‼︎それなのに‼︎約束を破って死んでしまって……それでいて手紙で勝手なお願いばかり‼︎……………ふざけています‼︎ 彼女の言葉は劉や彗を黙らせてしまった そして鈴は劉の家を飛び出してしまう 鈴ちゃん‼︎ 追いかけようとする彗を劉が引き止める やめなさい でも‼︎このままじゃ…彼女は何をするかわかりませんよ‼︎ ………彼女は何もしない。できない。今は一人にするべきだ 劉はうっすらと目に涙の幕を張る 鈴は走った。走って走って肺が痛くなるほど走った そして再び二人の思い出の野原へと来た 野原の中まで行く 立ち止まり、手に握っている手紙に視線を落とした その時、どこからか鈴の音が聞こえた気がした 劉から返してもらったお守りは懐に入れてあるが潰れていて音など出ないはず。しかし鈴の耳にはしっかりと聴こえた (こんな時でさえ……あなたは私に「前を向け」って言うの?勝手なことばかり言わないでよ……) 鈴は手紙を握りつぶしながら泣き崩れた 人目も憚らず声を上げながら泣き続けた その間もずっと鈴には小さくチリチリと鈴の音が聴こえている (うるさい‼︎慰めるくらいならいなくなるな‼︎私は…‼︎) そして鈴はしばらく泣いた後、ごしごしと袖で涙を拭って目の前を睨みつける (あなたのお願いは聞かない。私はこれから死ぬまであなたを忘れたりしない。いい人なんて作らない。これが私のあなたへの仕返し。いつか私が「そっち」へ行ったら絶対に見つけ出して文句を言うから…‼︎これが私の復讐‼︎これが…私の意志‼︎) その決意が彼女の瞳に光を戻す ――― 戦いの後、国は大きく変化した 当主がいなくなってしまった州は血縁者が後を継ぎ纏めていく そしてこの国の実質的な指導者には戌州の樹が選ばれ、その補佐に酉州の司と辰州の廉が選ばれた そして外界を受け入れていくことで更に発展を遂げていった もちろん圧力をかけられることも多々あったが樹、司、廉が跳ね除けている 沢山の犠牲を乗り越えて誰もが目指した「強く美しい国」へと一歩ずつ着実に近づいていっている ―――― 遺す者の願いは時として遺される者への呪いとなる 鈴はいつか慎に復讐をするその日まで決して「傷」を忘れることなく生きていく

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鈴は割れる

第二十一節 遺され、託され 鈴は慎とよく来ていた野原に一人で来ていた (どうか…どうか…どうか…) 虚な目で膝を抱え祈り続ける すると周りの人達が騒ぎ出した 「どうやら戦いが終わったらしい」 鈴は顔を上げた (戦いが終わった…‼︎すぐには帰っては来れないかもしれないけど慎が帰ってくる‼︎絶対帰ってくる‼︎) ―――― 戦いが終わってから何日も経った 戦地から帰ってくる人も沢山いた (おかしいな…慎も彗さんも先生も…なかなか帰ってこない……先生は司様に信頼されていたから戦いの後のこと沢山してるのかも……そうだったら慎も彗さんも、門下生の人みんなそのお手伝いをしてるのかな) はやる気持ちを「仕方がない」でなんとか抑え込む 更に何日か経った後 鈴は劉の門下生の面々が帰ってくる所を見た (…………あ‼︎門下生の人たちが帰ってきてる‼︎) 鈴は目を輝かせた あの‼︎ 鈴は門下生達に声をかけた は、はい。何でしょうか? …あの劉先生の門下生の方たちですよね‼︎ はい。そうですが…。 慎はまだ帰ってきませんか? あ………… 門下生達はその言葉で彼女がどういう人物なのか理解した し、慎さんは…… 彼らは目を伏せてしまった ……え?どうしたんですか?慎に何かあったんですか⁉︎ 鈴は門下生に詰め寄った 慎さんは………亡くなられました…… 詰め寄られた門下生が呟く ………………は? 鈴は言葉にならない 彼の言葉を理解できなかった な…にを、何を言っているんですか…?慎が……なんて? 鈴の瞳が色を失っていく し、慎…さんは…………亡くなってしまわれました‼︎ 門下生も目に涙を溜めて叫んだ 鈴はその言葉を理解できない (亡くなった…ナクナッタ…?) そこへ劉と彗が現れた り、鈴ちゃん……… 彗は鈴を見ることができない 彗さん…彗さん‼︎慎が…慎が亡くなったなんて嘘ですよね?皆さんが嘘を言っているだけですよね? だって………だって…‼︎慎は「必ず帰ってくる」って…「泣かずに待っていて欲しい」って言ってたんです‼︎約束……したんです…‼︎ 鈴は彗の着物を掴んだまま膝をついてしまう 鈴ちゃん…… 彗は何も言えない 鈴さん、慎のことを伝えたいと思う。 私に…着いてきてくれるだろうか…? 劉が静かに呟く 鈴は虚な目のまま劉と彗に着いていった ――― 到着したのは劉の家だった 三人は部屋に座る 鈴はずっと俯いている そんな姿の鈴を二人は見ていられない 先生…… 鈴が小さく話出す 慎は…本当に死んでしまったんですか? ……ああ なぜ? ……敵兵に……斬られてしまったからだ 劉は彼女が聞くこと全てに答えようとする きられた……? そうだ ………… 鈴は黙ってしまう り、鈴ちゃん…。慎は最期まで君のことを心配していた…。 「最近、暗い顔ばかりさせてしまっていたから謝らなきゃ」って……言ってたんだ‼︎ 彗は俯いて涙を流した じゃあ………どうして……… 鈴の瞳から初めての涙が流れた 慎は……どうして……どうして‼︎‼︎‼︎ 約束したのに‼︎それなのに‼︎謝るって言っていたんですよね‼︎でも……でも‼︎もういない‼︎会えない‼︎…………うそつき………‼︎ 鈴は止まらなかった 鈴ちゃん…… 彗も涙が止まらない 鈴さん…これを 劉がなにか差し出した これ……………は…… 差し出されたのは潰れて泥だらけになった紐のついた鈴だった 慎がずっと胸元に入れていたんだ 私は君が慎にこれを渡していた所を見ていたから…なんとか見つけ出せたのだが…潰れてしまっていて…… 劉は申し訳なさそうに呟く …………思いなんて…届かないんだ………神様なんて……いないんだ‼︎いたとしたら………どうしてこんな……‼︎‼︎もし、神様がいるのなら…私は神様を許さない……‼︎ 鈴の呪いを込めたような強い言葉が響いた ……鈴ちゃん、俺からも…これ 彗は涙を拭って懐から何か取り出して鈴に差し出した 慎が………君に手紙を書いたって…息を引き取る前に言っていたんだ。「帰って捨てないと、恥ずかしいことも書いたから」って… でも、君に渡すべきだと思って…慎には悪いけど勝手に部屋に失礼して…さっき見つけたんだ… 鈴は手紙を受け取った 堤には『鈴へ』と慎の几帳面な文字で書いてあった

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鈴は割れる

第二十節 割れる 二人を糾弾した兵も武器を手放して泣き崩れてしまった とりあえず、止めることができましまねぇ 中はふぅと短い息を吐いた ……そうだな 颯の表情は少し暗い しかしこの戦場の奥から何やら騒ぎ声が聞こえた 颯は顔を上げる なんだ⁉︎どうしたんだ⁉︎ 兵が一人颯達の前に走ってきた は、颯様のお言葉を受け入れられない者が数名…開国派の兵に突撃していきました‼︎ 馬鹿野郎が‼︎‼︎ 颯の顔が歪む 早く、この場の全員で止めなさい‼︎傷ついてはならない‼︎傷つけてはならない‼︎どちらもです‼︎ 中が叫んだ ―――― その悲痛な、言葉にならない思いを剣に乗せて一人の兵が走ってくる 慎に向かって 慎‼︎‼︎ 彗は叫んだ しかし慎は動けなかった。相手の兵が放つ悲しみ、後悔、恨み…そんな黒い思いが慎の足を掴んで離さない ほんの一瞬の出来事…しかし慎にはとても長い時間に感じられる (ああ………彼らは………彼らの気持ちが………わかってしまう…きっと同じ状況なら……俺だって……‼︎) 慎‼︎‼︎‼︎‼︎ 彗の声は慎に届かなかった 振り上げられた刃を慎はどこか遠い世界の光景かのようにみていた その刃が太陽の光を受けて光を反射した時 「鈴…」 慎の口からこぼれたその言葉は刀が空を裂く音にかき消される そしてその刃は慎を大きく深く切り裂いた 切り裂かれたポケットから鈴がくれたお守りが飛び出す 慎は膝から崩れて地に伏してしまう その鈴はこの騒ぎを止めようと飛び込んできた他の兵が踏みつけてしまった 音も鳴らさず鈴は割れた (あぁ……だめだ、やめてくれ…‼︎それは鈴が…鈴、必ず約束を守る…守るよ…君の笑顔を……君の笑顔を見たのは……いつ…だったかな…) 朦朧とする意識の中、慎の思考はまとまらない 慎を斬った兵は周りの兵に押さえつけられる 他の暴走してしまった兵も取り押さえられた 慎‼︎慎‼︎ 彗が慎の元へ駆けつける 慎‼︎しっかりしろ‼︎すぐに手当を‼︎大丈夫、大丈夫だ‼︎絶対大丈夫だ‼︎ 彗は泣きながら「大丈夫」と言い続ける け…い 慎は呟く 慎‼︎大丈夫だからな‼︎すぐに手当をするからな‼︎気をしっかり‼︎ 鈴…は? え? 鈴は………どこに、大丈夫だろうか?こんな場所、怖いはずだから…… 慎は譫言のように話している 慎‼︎鈴ちゃんは大丈夫。安全なところにいる‼︎大丈夫だから‼︎会いに行くんだろ⁉︎言ってたじゃないか「鈴と約束をした」って‼︎それを守るんだろ‼︎破ったら鈴ちゃん泣くぞ⁉︎お前、あの子が泣くのは嫌だって言ってたじゃないか‼︎お前がそんなんじゃ……そんなんじゃ泣くに決まってるだろ‼︎ 彗は慎の手を握りながら、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら叫んでいる …そう、そうだよな……最近、暗い顔ばかり…させて…しまっていたから…帰って…謝らなきゃ…鈴はきっと簡単には……許しては…くれないかも……しれない…な 慎は少し微笑みながら呟く 彼の瞳はもう光を失いかけてる そ、そうだよ‼︎ちゃんと謝れよ?鈴ちゃん泣かせたら俺だって先生だって許さないぞ? 彗の言葉は少しずつ小さくなる それは…やだな…。ああ、帰ったら手紙を……捨てなきゃ…恥ずかしいことを鈴に…書いたから…とっても…見せられない…よ。 そこまで言って慎は光を失った 彗は叫ぶことも出来ず慎の手を握りながら大粒の涙を流す その涙は慎の手の上にパタパタとこぼれた そしてこの戦いは慎を奪って静かに幕を閉じた

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鈴は割れる

第十九節 止まらない力 すぐさま子の陣の上に大きな白旗が掲げられ、いくつ用意したのか空気が割れんばかりの法螺貝が響き渡る (あれは…………⁉︎) 司はその意味をすぐに理解する 早く‼︎速やかに攻撃を止めるのです‼︎ 相手は降伏しました‼︎これ以上の命のやり取りは無駄です‼︎ 彼の声が陣に響き渡る 開国派の他の当主たちも同時刻、同じように動き出す 誰も見逃さなかった。「命のやり取り終わらせられる」この瞬間を…… ―――― こ、降伏の合図だ…‼︎降伏の‼︎ 俺たちが勝ったんだ‼︎ 彗の声が響いた (か、勝った…勝った‼︎この国の未来が開かれた‼︎これで…鈴との約束を…‼︎) 慎は胸を撫で下ろす 慎達の部隊は一番北側だったが、中央が突破されそうだと判断し駆けつけている途中だった ――――― そ、そんな……何故今…⁉︎今、ここで降伏することが‼︎猛様の命を……響様や鐡様の無念の思いを………踏み躙ることだとわからないのか⁉︎⁉︎⁉︎ 鎖国派、中央を突破しようとしていた部隊からそんな声が聞こえた そしてその声は瞬く間に広がる 最早「降伏の音」は彼らには聞こえない ―――――― な、なんで引いていかないんだ⁉︎ 彗は驚きを隠せない ―子の陣から白旗が出ている― これは総大将の「皇燿」が負けを認めたということ。それなのにこの場の兵達は引かなかった。 寅や亥の兵だけでなく、その場にいた子のへも引かなかった。 ―――猛の最期を目の当たりにしたから――― (まずい‼︎このままでは‼︎もう彼らは「国の未来」ではなく「いなくなった者の無念」しか見えていない‼︎) 総員、自分の身を守ることを最優先にしなさい‼︎ガトリング砲部隊は敵の足元を狙うように‼︎ 司の指示が飛ぶ (一体どうして……?もう戦う必要なんて無いはずなのに‼︎みんな…大切な人が待ってるだろう?) 慎は涙を浮かべ歯を食いしばる 中央以外のガトリング砲部隊も近寄っていたために、援護することはできたが―――近寄っていたために標的にされた ―――――― 子の陣 な、何故⁉︎何故止まらない‼︎もう戦う必要はない‼︎ やめろ………やめてくれ‼︎ 燿は叫ぶ その声は届かない 距離だけが隔たりなのではなく兵の心に届かない ―――――― しかし、意外なことが起こった 今まで戦いにすら出てこなかった巳と申の大群が、この小さく固まっている乱戦の場をぐるっと取り囲んでいる ―――中と颯が自ら兵を率いて――― そして大量の法螺貝、太鼓が一斉に鳴った 全ての戦いの音を押しつぶし静寂が訪れる そして中と颯はその戦いの音が止まった戦場に入っていく 誰も何もせず、二人を見守る そして颯がその場の全員に届くように叫ぶ 「戦いは終わりだ‼︎」 たったそれだけ。それだけの言葉に多くの鎖国派の兵がへなへなと座り込む しかし な、何故‼︎今更あなた方が出てくる⁉︎何もしなかったあなた方が⁉︎この戦いに負けたのは…燿様が降伏したのは…猛様が討死したのは……‼︎‼︎巳と申のせいだ‼︎‼︎ 一人の兵が叫ぶ その叫びを二人はどこも、なにも否定しなかった そう。お前の叫びは当然だ‼︎ しかし、響殿が、鐡殿が、猛殿が‼︎そうであったように俺たちは俺たちの「信じる誇り」を守るために「動かなかった」。裏切ること、勝ち馬に乗ろうとすること………汚く見えるだろう。しかし、それこそが俺たちの「守るため」のやり方だ。どんな誹りを受けようと変わらない。自分の愛する州を守るためにできることはなんでもやる‼︎ このまま戦いが終わるまで何もせず静観するつもりだった…。しかし、燿様が降伏の意思を出されているのにも関わらずまだ無駄に命を散らそうとするのならば黙ってはいられない‼︎燿様がどんな思いで「降伏」されたのか…単に「勝てないから」と思っただけではない‼︎「無駄に命を散らせない」ためだ‼︎それが…それがわからねぇのか⁉︎⁉︎ 颯はずっと彼なりに抑えて叫んでいたが怒りが溢れてしまった しかし、その怒りの叫びが確かに届いた瞬間だった

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鈴は割れる

第十八節 鉄の雨 圧倒的不利な状況の中、猛は自身の武器である薙刀を手に取り走り出した 猛様‼︎おやめください‼︎あなたを失うわけにはいかないのです‼︎ 部下が呼び止めるが猛は止まらなかった (俺が変える‼︎流れを‼︎例え死んだとしても‼︎) 猛は走りながら叫ぶ 周りの兵達に届くように 聞け‼︎誇り高き理の兵(つわもの)達よ‼︎ 我らは決して負けない‼︎美しきこの国を守るべく戦う我々を神は見捨てはしない‼︎ 鉄の雨が降ろうと俺達は決して折れはしない‼︎ この国を思う気持ちは………我々は誰にも負けない‼︎‼︎‼︎ その言葉を聞いた兵達は「うおおぉおおぉ‼︎‼︎」と一人一人が凄まじい気迫を纏い突き進んできた その気迫に、目に… ガトリング砲を発射する兵が気圧される その瞬間を猛は見逃さなかった 凄まじい速さで兵を切り伏せる 交代などさせるな‼︎全員、バラけず中央突破だ‼︎ 鎖国派の兵達は黒い塊になって中央を突破しようとする (いけません‼︎突破されては瓦解してしまう‼︎) 司が焦る 中央のガトリング砲部隊を突破できる その希望が見え、猛の瞳に希望が宿った時……… 丑州の旗を掲げた部隊が整列し、銃を構えていた 「放て‼︎‼︎‼︎」 その掛け声と同時に冷たく熱い「雨」がいくつも猛を貫いた しかし猛は倒れなかった お、俺は…屈しはしない‼︎どれだけ時代が新しくなろうと…どれだけ「無理だ」と言われようと……‼︎ この「魂」だけは決して屈しはしない‼︎ その言葉を紡いだ瞬間、第二撃が猛を貫く そして遂に猛は倒れてしまった…… 最期まで抗いながら 彼が率いた兵達はその姿を目の当たりにし 「猛様の誇り高き生き様を無駄にするな‼︎」 と更に士気を上げた その声が開国派の兵達を震わせる 単純な「武」では寅州や亥州は開国派の州を凌駕する 中央の三つのガトリング砲を抑えられてしまったら一気に形勢を逆転される 樹は焦った ―――――― ―子の陣― 寅の州、「寅切猛」様討死でございます‼︎ その報告が燿の耳に届く た……猛………が………… 燿の瞳にはもう何も映っていないようだった そこへ……燿の前へ廉が現れる 燿様。もう……引くべきです。これ以上戦っていても勝ち目はない。兵達の……あなたの愛する民が無駄に命を散らすだけです 廉は優しく宥めるように言う 廉殿‼︎‼︎何故、辰は動かなかったのです⁉︎辰が動いていれば戦況は変わった‼︎それなのに何故⁉︎ 巳と申は初めから………信用はしていなかった‼︎自分たちの利のために簡単に裏切るようなそんな奴らだ…‼︎だが辰は………辰は‼︎ 燿の側近、朔(さく)が叫ぶ そうだな。私はこの戦いにおいて在るまじき裏切りをした。言い訳などできるはずもない。どんな誹りも甘んじて受ける。私も燿様に最期まで忠誠を誓う心づもりだった…しかし、私のその思いとは別に………『辰』としてどちらが燦の国にとって最善の道なのか……見えてしまったのだ。見えてしまった以上、兵を無駄に死なせるわけにはいかなかった。私の迷いが彼らをここまで連れてきてしまったのだから。 廉は目を伏せなが、しかししっかりと答える ……この戦いが始まる前からそう思っていらしたのなら…何故…‼︎初めからそう言わぬのですか…‼︎ 朔は拳を握りながら搾り出すように言う ……そうだな。その思いは当然だ。 だが、言えなかった…。戦いが始まる前から私が「道が見えた、戦わない」と言えば……鎖国派の士気は下がり最悪鎖国派同士で戦ってしまう そうなれば今以上に血が流れる… 廉は淡々と答えた しかし‼︎ 朔が食い下がろうとしたとき もうよい… 燿の声がした 朔、ありがとう。私の為を思ってくれて、この国を思ってくれて言ってくれたこと、わかっている 燿の表情は優しい 燿様……… 廉の気持ちが揺れていたこと、会合の後から少し…わかっていたような気がする… あの時…未熟な私が「戦うことも辞さない」と後先考えずに宣言してしまったことが廉の気持ちを揺らしてしまっまのだ… 中や颯が動かないのも……私の姿をみて「将」として見ることはできないと判断したからだろう。 彼らが私のことを監視しているだろうことは以前に廉から聞いていたから… 守るものがはっきりしている彼らには私は未熟すぎると…切り捨てたのだろう。それが正しい。共倒れを避けるために正しい判断だ。 廉……すまなかった 燿は廉に頭を下げる 燿様…… 本当に………申し訳ございません…‼︎ 廉は涙を流す 戦いを終わらせよう。これ以上は命を無駄に消してしまう‼︎ 燿の瞳に意思が宿る で、ですがどうやって…⁉︎どうやって降伏を伝えるのです⁉︎今…中央を突破できそうなのに⁉︎ 朔は焦る 他のガトリング砲部隊が中央に近づいてきている。囲まれてはもう助けられない。 燿様、ここの陣が鎖国側で一番高台です。すぐに大きな白旗を。そして大量の法螺貝を吹きます。皆に見えるよう、聞こえるように。 廉は冷静に伝える ……わかった。朔。 ……承知いたしました 燿の合図を受け取り朔はすぐに動き出す

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