mari
39 件の小説鈴は割れる
最終節 鈴は割れる 鈴はすぐに封を開けて手紙を読んだ ―鈴へ― 君との約束を必ず守ると誓っているけれど、もし万が一があった場合のためにこの手紙を書こうと思う。 俺は君をこの世で一番愛しているよ。 何よりも君を一番に想っている。 すぐに思い悩んでしまう俺は、君の笑顔に何度も何度も救われた。 「この笑顔を守るために自分がいるんだ」と心から思えた。 だから万が一が起こり俺が君の元へ帰れなかった時、俺自身が君の笑顔を奪ってしまう災いとなってしまうのだろう。そんなことは耐えられない。君にはずっと笑顔で幸せでいて欲しい。 だからこそもし、この戦いで俺がこの世からいなくなってしまったら、君の笑顔を守ってくれる人を見つけて欲しい。君の人生はこれからも続いていく。俺に囚われる事なく、俺のことは忘れて新しい人生を歩んで欲しい。君が笑顔でいてくれることこそが俺の幸せだ。 いつでも君の幸せを願っている。―慎― ………は? 鈴は手紙を持つ手に力が入り紙を皺だらけにしてしまう 鈴さん?どうしたんだ? 劉が心配そうに訊ねる (慎は…この人は何を言っているの?私にあなたを……「忘れろ」って言っているの?) 鈴ちゃん? 彗も声をかける 先生、彗さん…慎は…私のことなんて……愛していないんです 鈴は色のない声で呟く な、何を言っているんだ⁉︎慎は心から君を…‼︎ だったら‼︎‼︎ 鈴が彗の言葉を遮る だったら……どうして慎は私に「自分を忘れろ」なんて言うんですか⁉︎どうして「他の人を見つけろ」なんて言うんですか⁉︎⁉︎どうして…………『あなたといたかった』っていう私の思いを無視するんですか⁉︎⁉︎ 二人に怒りをぶつけてもどうしようもないことくらい鈴にもわかっている 鈴さん…嘆き、悲しむ気持ちは痛いほどわかる。しかし、慎がそのように言った理由はわかるだろう? 劉が語りかける わかりません‼︎わからない……わかりたく……ありません‼︎ 鈴の涙は止まらない 亡くなった人の…いなくなってしまった人の願いは聞き入れなければいけないんですか?私は…遺された人はその思いを受け止めなければいけないんですか⁉︎そんなの……あんまりです‼︎私の…「行かないで欲しい」っていう願いは慎は受け取ってくれなかったのに‼︎大義の…為に…‼︎未来のために戦ったのは崇高なんでしょうね‼︎でも………そんなことより………隣に…いて欲しかった……隣で笑っていて欲しかったのに‼︎それなのに‼︎約束を破って死んでしまって……それでいて手紙で勝手なお願いばかり‼︎……………ふざけています‼︎ 彼女の言葉は劉や彗を黙らせてしまった そして鈴は劉の家を飛び出してしまう 鈴ちゃん‼︎ 追いかけようとする彗を劉が引き止める やめなさい でも‼︎このままじゃ…彼女は何をするかわかりませんよ‼︎ ………彼女は何もしない。できない。今は一人にするべきだ 劉はうっすらと目に涙の幕を張る 鈴は走った。走って走って肺が痛くなるほど走った そして再び二人の思い出の野原へと来た 野原の中まで行く 立ち止まり、手に握っている手紙に視線を落とした その時、どこからか鈴の音が聞こえた気がした 劉から返してもらったお守りは懐に入れてあるが潰れていて音など出ないはず。しかし鈴の耳にはしっかりと聴こえた (こんな時でさえ……あなたは私に「前を向け」って言うの?勝手なことばかり言わないでよ……) 鈴は手紙を握りつぶしながら泣き崩れた 人目も憚らず声を上げながら泣き続けた その間もずっと鈴には小さくチリチリと鈴の音が聴こえている (うるさい‼︎慰めるくらいならいなくなるな‼︎私は…‼︎) そして鈴はしばらく泣いた後、ごしごしと袖で涙を拭って目の前を睨みつける (あなたのお願いは聞かない。私はこれから死ぬまであなたを忘れたりしない。いい人なんて作らない。これが私のあなたへの仕返し。いつか私が「そっち」へ行ったら絶対に見つけ出して文句を言うから…‼︎これが私の復讐‼︎これが…私の意志‼︎) その決意が彼女の瞳に光を戻す ――― 戦いの後、国は大きく変化した 当主がいなくなってしまった州は血縁者が後を継ぎ纏めていく そしてこの国の実質的な指導者には戌州の樹が選ばれ、その補佐に酉州の司と辰州の廉が選ばれた そして外界を受け入れていくことで更に発展を遂げていった もちろん圧力をかけられることも多々あったが樹、司、廉が跳ね除けている 沢山の犠牲を乗り越えて誰もが目指した「強く美しい国」へと一歩ずつ着実に近づいていっている ―――― 遺す者の願いは時として遺される者への呪いとなる 鈴はいつか慎に復讐をするその日まで決して「傷」を忘れることなく生きていく
鈴は割れる
第二十一節 遺され、託され 鈴は慎とよく来ていた野原に一人で来ていた (どうか…どうか…どうか…) 虚な目で膝を抱え祈り続ける すると周りの人達が騒ぎ出した 「どうやら戦いが終わったらしい」 鈴は顔を上げた (戦いが終わった…‼︎すぐには帰っては来れないかもしれないけど慎が帰ってくる‼︎絶対帰ってくる‼︎) ―――― 戦いが終わってから何日も経った 戦地から帰ってくる人も沢山いた (おかしいな…慎も彗さんも先生も…なかなか帰ってこない……先生は司様に信頼されていたから戦いの後のこと沢山してるのかも……そうだったら慎も彗さんも、門下生の人みんなそのお手伝いをしてるのかな) はやる気持ちを「仕方がない」でなんとか抑え込む 更に何日か経った後 鈴は劉の門下生の面々が帰ってくる所を見た (…………あ‼︎門下生の人たちが帰ってきてる‼︎) 鈴は目を輝かせた あの‼︎ 鈴は門下生達に声をかけた は、はい。何でしょうか? …あの劉先生の門下生の方たちですよね‼︎ はい。そうですが…。 慎はまだ帰ってきませんか? あ………… 門下生達はその言葉で彼女がどういう人物なのか理解した し、慎さんは…… 彼らは目を伏せてしまった ……え?どうしたんですか?慎に何かあったんですか⁉︎ 鈴は門下生に詰め寄った 慎さんは………亡くなられました…… 詰め寄られた門下生が呟く ………………は? 鈴は言葉にならない 彼の言葉を理解できなかった な…にを、何を言っているんですか…?慎が……なんて? 鈴の瞳が色を失っていく し、慎…さんは…………亡くなってしまわれました‼︎ 門下生も目に涙を溜めて叫んだ 鈴はその言葉を理解できない (亡くなった…ナクナッタ…?) そこへ劉と彗が現れた り、鈴ちゃん……… 彗は鈴を見ることができない 彗さん…彗さん‼︎慎が…慎が亡くなったなんて嘘ですよね?皆さんが嘘を言っているだけですよね? だって………だって…‼︎慎は「必ず帰ってくる」って…「泣かずに待っていて欲しい」って言ってたんです‼︎約束……したんです…‼︎ 鈴は彗の着物を掴んだまま膝をついてしまう 鈴ちゃん…… 彗は何も言えない 鈴さん、慎のことを伝えたいと思う。 私に…着いてきてくれるだろうか…? 劉が静かに呟く 鈴は虚な目のまま劉と彗に着いていった ――― 到着したのは劉の家だった 三人は部屋に座る 鈴はずっと俯いている そんな姿の鈴を二人は見ていられない 先生…… 鈴が小さく話出す 慎は…本当に死んでしまったんですか? ……ああ なぜ? ……敵兵に……斬られてしまったからだ 劉は彼女が聞くこと全てに答えようとする きられた……? そうだ ………… 鈴は黙ってしまう り、鈴ちゃん…。慎は最期まで君のことを心配していた…。 「最近、暗い顔ばかりさせてしまっていたから謝らなきゃ」って……言ってたんだ‼︎ 彗は俯いて涙を流した じゃあ………どうして……… 鈴の瞳から初めての涙が流れた 慎は……どうして……どうして‼︎‼︎‼︎ 約束したのに‼︎それなのに‼︎謝るって言っていたんですよね‼︎でも……でも‼︎もういない‼︎会えない‼︎…………うそつき………‼︎ 鈴は止まらなかった 鈴ちゃん…… 彗も涙が止まらない 鈴さん…これを 劉がなにか差し出した これ……………は…… 差し出されたのは潰れて泥だらけになった紐のついた鈴だった 慎がずっと胸元に入れていたんだ 私は君が慎にこれを渡していた所を見ていたから…なんとか見つけ出せたのだが…潰れてしまっていて…… 劉は申し訳なさそうに呟く …………思いなんて…届かないんだ………神様なんて……いないんだ‼︎いたとしたら………どうしてこんな……‼︎‼︎もし、神様がいるのなら…私は神様を許さない……‼︎ 鈴の呪いを込めたような強い言葉が響いた ……鈴ちゃん、俺からも…これ 彗は涙を拭って懐から何か取り出して鈴に差し出した 慎が………君に手紙を書いたって…息を引き取る前に言っていたんだ。「帰って捨てないと、恥ずかしいことも書いたから」って… でも、君に渡すべきだと思って…慎には悪いけど勝手に部屋に失礼して…さっき見つけたんだ… 鈴は手紙を受け取った 堤には『鈴へ』と慎の几帳面な文字で書いてあった
鈴は割れる
第二十節 割れる 二人を糾弾した兵も武器を手放して泣き崩れてしまった とりあえず、止めることができましまねぇ 中はふぅと短い息を吐いた ……そうだな 颯の表情は少し暗い しかしこの戦場の奥から何やら騒ぎ声が聞こえた 颯は顔を上げる なんだ⁉︎どうしたんだ⁉︎ 兵が一人颯達の前に走ってきた は、颯様のお言葉を受け入れられない者が数名…開国派の兵に突撃していきました‼︎ 馬鹿野郎が‼︎‼︎ 颯の顔が歪む 早く、この場の全員で止めなさい‼︎傷ついてはならない‼︎傷つけてはならない‼︎どちらもです‼︎ 中が叫んだ ―――― その悲痛な、言葉にならない思いを剣に乗せて一人の兵が走ってくる 慎に向かって 慎‼︎‼︎ 彗は叫んだ しかし慎は動けなかった。相手の兵が放つ悲しみ、後悔、恨み…そんな黒い思いが慎の足を掴んで離さない ほんの一瞬の出来事…しかし慎にはとても長い時間に感じられる (ああ………彼らは………彼らの気持ちが………わかってしまう…きっと同じ状況なら……俺だって……‼︎) 慎‼︎‼︎‼︎‼︎ 彗の声は慎に届かなかった 振り上げられた刃を慎はどこか遠い世界の光景かのようにみていた その刃が太陽の光を受けて光を反射した時 「鈴…」 慎の口からこぼれたその言葉は刀が空を裂く音にかき消される そしてその刃は慎を大きく深く切り裂いた 切り裂かれたポケットから鈴がくれたお守りが飛び出す 慎は膝から崩れて地に伏してしまう その鈴はこの騒ぎを止めようと飛び込んできた他の兵が踏みつけてしまった 音も鳴らさず鈴は割れた (あぁ……だめだ、やめてくれ…‼︎それは鈴が…鈴、必ず約束を守る…守るよ…君の笑顔を……君の笑顔を見たのは……いつ…だったかな…) 朦朧とする意識の中、慎の思考はまとまらない 慎を斬った兵は周りの兵に押さえつけられる 他の暴走してしまった兵も取り押さえられた 慎‼︎慎‼︎ 彗が慎の元へ駆けつける 慎‼︎しっかりしろ‼︎すぐに手当を‼︎大丈夫、大丈夫だ‼︎絶対大丈夫だ‼︎ 彗は泣きながら「大丈夫」と言い続ける け…い 慎は呟く 慎‼︎大丈夫だからな‼︎すぐに手当をするからな‼︎気をしっかり‼︎ 鈴…は? え? 鈴は………どこに、大丈夫だろうか?こんな場所、怖いはずだから…… 慎は譫言のように話している 慎‼︎鈴ちゃんは大丈夫。安全なところにいる‼︎大丈夫だから‼︎会いに行くんだろ⁉︎言ってたじゃないか「鈴と約束をした」って‼︎それを守るんだろ‼︎破ったら鈴ちゃん泣くぞ⁉︎お前、あの子が泣くのは嫌だって言ってたじゃないか‼︎お前がそんなんじゃ……そんなんじゃ泣くに決まってるだろ‼︎ 彗は慎の手を握りながら、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら叫んでいる …そう、そうだよな……最近、暗い顔ばかり…させて…しまっていたから…帰って…謝らなきゃ…鈴はきっと簡単には……許しては…くれないかも……しれない…な 慎は少し微笑みながら呟く 彼の瞳はもう光を失いかけてる そ、そうだよ‼︎ちゃんと謝れよ?鈴ちゃん泣かせたら俺だって先生だって許さないぞ? 彗の言葉は少しずつ小さくなる それは…やだな…。ああ、帰ったら手紙を……捨てなきゃ…恥ずかしいことを鈴に…書いたから…とっても…見せられない…よ。 そこまで言って慎は光を失った 彗は叫ぶことも出来ず慎の手を握りながら大粒の涙を流す その涙は慎の手の上にパタパタとこぼれた そしてこの戦いは慎を奪って静かに幕を閉じた
鈴は割れる
第十九節 止まらない力 すぐさま子の陣の上に大きな白旗が掲げられ、いくつ用意したのか空気が割れんばかりの法螺貝が響き渡る (あれは…………⁉︎) 司はその意味をすぐに理解する 早く‼︎速やかに攻撃を止めるのです‼︎ 相手は降伏しました‼︎これ以上の命のやり取りは無駄です‼︎ 彼の声が陣に響き渡る 開国派の他の当主たちも同時刻、同じように動き出す 誰も見逃さなかった。「命のやり取り終わらせられる」この瞬間を…… ―――― こ、降伏の合図だ…‼︎降伏の‼︎ 俺たちが勝ったんだ‼︎ 彗の声が響いた (か、勝った…勝った‼︎この国の未来が開かれた‼︎これで…鈴との約束を…‼︎) 慎は胸を撫で下ろす 慎達の部隊は一番北側だったが、中央が突破されそうだと判断し駆けつけている途中だった ――――― そ、そんな……何故今…⁉︎今、ここで降伏することが‼︎猛様の命を……響様や鐡様の無念の思いを………踏み躙ることだとわからないのか⁉︎⁉︎⁉︎ 鎖国派、中央を突破しようとしていた部隊からそんな声が聞こえた そしてその声は瞬く間に広がる 最早「降伏の音」は彼らには聞こえない ―――――― な、なんで引いていかないんだ⁉︎ 彗は驚きを隠せない ―子の陣から白旗が出ている― これは総大将の「皇燿」が負けを認めたということ。それなのにこの場の兵達は引かなかった。 寅や亥の兵だけでなく、その場にいた子のへも引かなかった。 ―――猛の最期を目の当たりにしたから――― (まずい‼︎このままでは‼︎もう彼らは「国の未来」ではなく「いなくなった者の無念」しか見えていない‼︎) 総員、自分の身を守ることを最優先にしなさい‼︎ガトリング砲部隊は敵の足元を狙うように‼︎ 司の指示が飛ぶ (一体どうして……?もう戦う必要なんて無いはずなのに‼︎みんな…大切な人が待ってるだろう?) 慎は涙を浮かべ歯を食いしばる 中央以外のガトリング砲部隊も近寄っていたために、援護することはできたが―――近寄っていたために標的にされた ―――――― 子の陣 な、何故⁉︎何故止まらない‼︎もう戦う必要はない‼︎ やめろ………やめてくれ‼︎ 燿は叫ぶ その声は届かない 距離だけが隔たりなのではなく兵の心に届かない ―――――― しかし、意外なことが起こった 今まで戦いにすら出てこなかった巳と申の大群が、この小さく固まっている乱戦の場をぐるっと取り囲んでいる ―――中と颯が自ら兵を率いて――― そして大量の法螺貝、太鼓が一斉に鳴った 全ての戦いの音を押しつぶし静寂が訪れる そして中と颯はその戦いの音が止まった戦場に入っていく 誰も何もせず、二人を見守る そして颯がその場の全員に届くように叫ぶ 「戦いは終わりだ‼︎」 たったそれだけ。それだけの言葉に多くの鎖国派の兵がへなへなと座り込む しかし な、何故‼︎今更あなた方が出てくる⁉︎何もしなかったあなた方が⁉︎この戦いに負けたのは…燿様が降伏したのは…猛様が討死したのは……‼︎‼︎巳と申のせいだ‼︎‼︎ 一人の兵が叫ぶ その叫びを二人はどこも、なにも否定しなかった そう。お前の叫びは当然だ‼︎ しかし、響殿が、鐡殿が、猛殿が‼︎そうであったように俺たちは俺たちの「信じる誇り」を守るために「動かなかった」。裏切ること、勝ち馬に乗ろうとすること………汚く見えるだろう。しかし、それこそが俺たちの「守るため」のやり方だ。どんな誹りを受けようと変わらない。自分の愛する州を守るためにできることはなんでもやる‼︎ このまま戦いが終わるまで何もせず静観するつもりだった…。しかし、燿様が降伏の意思を出されているのにも関わらずまだ無駄に命を散らそうとするのならば黙ってはいられない‼︎燿様がどんな思いで「降伏」されたのか…単に「勝てないから」と思っただけではない‼︎「無駄に命を散らせない」ためだ‼︎それが…それがわからねぇのか⁉︎⁉︎ 颯はずっと彼なりに抑えて叫んでいたが怒りが溢れてしまった しかし、その怒りの叫びが確かに届いた瞬間だった
鈴は割れる
第十八節 鉄の雨 圧倒的不利な状況の中、猛は自身の武器である薙刀を手に取り走り出した 猛様‼︎おやめください‼︎あなたを失うわけにはいかないのです‼︎ 部下が呼び止めるが猛は止まらなかった (俺が変える‼︎流れを‼︎例え死んだとしても‼︎) 猛は走りながら叫ぶ 周りの兵達に届くように 聞け‼︎誇り高き理の兵(つわもの)達よ‼︎ 我らは決して負けない‼︎美しきこの国を守るべく戦う我々を神は見捨てはしない‼︎ 鉄の雨が降ろうと俺達は決して折れはしない‼︎ この国を思う気持ちは………我々は誰にも負けない‼︎‼︎‼︎ その言葉を聞いた兵達は「うおおぉおおぉ‼︎‼︎」と一人一人が凄まじい気迫を纏い突き進んできた その気迫に、目に… ガトリング砲を発射する兵が気圧される その瞬間を猛は見逃さなかった 凄まじい速さで兵を切り伏せる 交代などさせるな‼︎全員、バラけず中央突破だ‼︎ 鎖国派の兵達は黒い塊になって中央を突破しようとする (いけません‼︎突破されては瓦解してしまう‼︎) 司が焦る 中央のガトリング砲部隊を突破できる その希望が見え、猛の瞳に希望が宿った時……… 丑州の旗を掲げた部隊が整列し、銃を構えていた 「放て‼︎‼︎‼︎」 その掛け声と同時に冷たく熱い「雨」がいくつも猛を貫いた しかし猛は倒れなかった お、俺は…屈しはしない‼︎どれだけ時代が新しくなろうと…どれだけ「無理だ」と言われようと……‼︎ この「魂」だけは決して屈しはしない‼︎ その言葉を紡いだ瞬間、第二撃が猛を貫く そして遂に猛は倒れてしまった…… 最期まで抗いながら 彼が率いた兵達はその姿を目の当たりにし 「猛様の誇り高き生き様を無駄にするな‼︎」 と更に士気を上げた その声が開国派の兵達を震わせる 単純な「武」では寅州や亥州は開国派の州を凌駕する 中央の三つのガトリング砲を抑えられてしまったら一気に形勢を逆転される 樹は焦った ―――――― ―子の陣― 寅の州、「寅切猛」様討死でございます‼︎ その報告が燿の耳に届く た……猛………が………… 燿の瞳にはもう何も映っていないようだった そこへ……燿の前へ廉が現れる 燿様。もう……引くべきです。これ以上戦っていても勝ち目はない。兵達の……あなたの愛する民が無駄に命を散らすだけです 廉は優しく宥めるように言う 廉殿‼︎‼︎何故、辰は動かなかったのです⁉︎辰が動いていれば戦況は変わった‼︎それなのに何故⁉︎ 巳と申は初めから………信用はしていなかった‼︎自分たちの利のために簡単に裏切るようなそんな奴らだ…‼︎だが辰は………辰は‼︎ 燿の側近、朔(さく)が叫ぶ そうだな。私はこの戦いにおいて在るまじき裏切りをした。言い訳などできるはずもない。どんな誹りも甘んじて受ける。私も燿様に最期まで忠誠を誓う心づもりだった…しかし、私のその思いとは別に………『辰』としてどちらが燦の国にとって最善の道なのか……見えてしまったのだ。見えてしまった以上、兵を無駄に死なせるわけにはいかなかった。私の迷いが彼らをここまで連れてきてしまったのだから。 廉は目を伏せなが、しかししっかりと答える ……この戦いが始まる前からそう思っていらしたのなら…何故…‼︎初めからそう言わぬのですか…‼︎ 朔は拳を握りながら搾り出すように言う ……そうだな。その思いは当然だ。 だが、言えなかった…。戦いが始まる前から私が「道が見えた、戦わない」と言えば……鎖国派の士気は下がり最悪鎖国派同士で戦ってしまう そうなれば今以上に血が流れる… 廉は淡々と答えた しかし‼︎ 朔が食い下がろうとしたとき もうよい… 燿の声がした 朔、ありがとう。私の為を思ってくれて、この国を思ってくれて言ってくれたこと、わかっている 燿の表情は優しい 燿様……… 廉の気持ちが揺れていたこと、会合の後から少し…わかっていたような気がする… あの時…未熟な私が「戦うことも辞さない」と後先考えずに宣言してしまったことが廉の気持ちを揺らしてしまっまのだ… 中や颯が動かないのも……私の姿をみて「将」として見ることはできないと判断したからだろう。 彼らが私のことを監視しているだろうことは以前に廉から聞いていたから… 守るものがはっきりしている彼らには私は未熟すぎると…切り捨てたのだろう。それが正しい。共倒れを避けるために正しい判断だ。 廉……すまなかった 燿は廉に頭を下げる 燿様…… 本当に………申し訳ございません…‼︎ 廉は涙を流す 戦いを終わらせよう。これ以上は命を無駄に消してしまう‼︎ 燿の瞳に意思が宿る で、ですがどうやって…⁉︎どうやって降伏を伝えるのです⁉︎今…中央を突破できそうなのに⁉︎ 朔は焦る 他のガトリング砲部隊が中央に近づいてきている。囲まれてはもう助けられない。 燿様、ここの陣が鎖国側で一番高台です。すぐに大きな白旗を。そして大量の法螺貝を吹きます。皆に見えるよう、聞こえるように。 廉は冷静に伝える ……わかった。朔。 ……承知いたしました 燿の合図を受け取り朔はすぐに動き出す
鈴は割れる
第十七節 選ぶべき道 ―その頃酉の陣― (一番北の部隊からの報告では辰はほぼ動いていない。やはり廉殿は……となれば相手の戦力は一つ削がれた。これは吉兆です。しかし、流石寅と亥ですね。怯まずに突っ込んでくるとは。まだ突破してくる兵はいないようですが、いずれ現れるでしょう…。…そうなれば、より戦いは血を流すものとなる。) 司の表情は少しだけ暗くなった ――――― ―卯と未の陣― 戦いは激しさを増していく 卯と未は以前寅と亥を追い返した「爆弾」を放ち相手に甚大な被害をもたらしている その爆弾がもたらしている惨劇を光と聖は高台に作った互いの陣から見つめていた (目を逸らしてはいけない。どれほど凄惨な光景だとしても。これが…私たちが選んだ未来のために消えていく命…その重みから目を逸らすわけにはいかないんだ) 光は顔を顰めながら見つめている (これが……この光景が………新しい国のために必要だったこと……わかっていた…はずでした……) 聖は一筋だけ涙を流す ―丑の陣― 丑の軍では外界から連射型の銃を大量に手に入れてこの戦いに臨んだ 連射性能の違いから着実に相手を倒していった (こ、この時のために兵達に沢山訓練をしてもらいました。……………私が当主になってから怖くて戦いなどしてこなかった…最低限、守れればいいと思っていたから…。でもこの州同士の戦いで「それではダメだ」と思い知った。守るために立ち上がることが当主には必要だと痛感した。力がなければ伝えたいことも伝えられない、守りたいものも守れない‼︎そんなことではだめなんだ‼︎響殿が言ってくださった「優しく強い当主」になると決めたのだから‼︎) 豊は覚悟の決まった表情をしている ―戌の陣― 樹は戦況を逐一伝えさせる (今はまだ我々が有利。辰が動きを見せないのは…おそらくそういうことなのだろう。廉様はあの会合の後何やら思い悩んでいた様子だったから…。巳と申はなぜ動かない?何か策があるのか?今は寅と亥、子だけが動いているから止められているが…ここに加わってきたらどうなるかわからない…どう動く⁉︎) 樹は拳を握る ―――― 血が舞う、叫び声が響く、命がいとも簡単に散っていく ―――― ―子の陣― 燿は足がすくんだ (わ、私は…立ち上がったはずだ。猛の言葉は私の目を覚させてくれたはずだ‼︎この戦いで散っていった者の意思を繋ぎこの国を守ると…それが…これほどまでに…重いことだと、真に理解していなかった…‼︎響の死も鐡の死もこの目で見たわけでは無い…だから心のどこかで…遠いところで起こったことだと思っていたのかもしれぬ…。だが今は違う…‼︎目の前で大切な民の命が…散っている‼︎私の……命令で‼︎) わ、私、私、私は……… 燿は項垂れてしまった そんな彼の姿を二つの「影」が見ていた そしてその影はすっと姿を消す ―巳の陣― (やはり、ダメでしたかぁ。思ったよりは長かったですが。もう一刻の猶予もありませんねぇ。…少し良心は痛みますが、これも「巳」が生き残るため) 中は少しため息を吐く ―申の陣― (クソがっ‼︎誰かを「頼る」ってことも知らねえのか‼︎ 一人でこんな戦い…ましてや戦いすら経験してない若造が耐えれるわけねぇだろうが‼︎……もうこれで決まったな。崩れ落ち、再び立ち上がる見込みのない主君に付き従っていても破滅しかない。俺には守るべきものがあるからな…) 颯の瞳は冷たく色がなかった ―寅の陣― (何故⁉︎辰も巳も申も動かないのだ⁉︎この戦いに負ければどうなるのか、わかっているだろう⁉︎我らと子の軍だけでは…この圧倒的な威力の兵器を超えられない‼︎何故だ‼︎鎖国派の誰もがこの国の姿を守ろうとしていたはず‼︎………いや………‼︎例え俺一人になろうとも‼︎響殿…鐡…‼︎二人の死を無駄にはしない‼︎必ず二人の意思を繋げる‼︎そのために…‼︎︎) 猛は心を決めた
鈴は割れる
第十六節 雷鳴の合図 空は晴れているのに遠くの雲が黒く登りだしゴロゴロと雷をはらみ始める そして…ビシャン‼︎と天を割るような雷鳴が轟く その音が開戦の合図となった 兵達の怒号が響く それだけで空気が震えている 慎達がいるのは北側の一番端のガトリング砲の周りだが、丘の上に設置してあるため戦場がよく見えた やはり、寅と亥の連合は正面突破を狙っているな 慎が呟く ああ。近代兵器で当主が死んだ亥は「近代兵器」を恨んでいるだろうな。だから逃げ回ってこそこそと回りくどいことはせずに正面から仇を取る……ってところか。 無駄なことを‼︎ 彗はどこか楽しそうな雰囲気すら出している (中央ばかりに気を取られていたらだめだ‼︎こちら側に一番近い敵陣は……辰‼︎廉様はおそらく正面からではなくなにか仕掛けてくるに決まっている‼︎) 慎の表情は険しかった しかし、辰の陣を見ていても少しの部隊だけが中央へ突撃した後、何も動きを見せていなかった (なぜ?「端」の重要性は廉様とて十分わかつているはず。だからこそ辰の陣も端にある。ここを狙うはずなのに…) ―辰の陣― 廉様⁉︎なぜ動かないのです⁉︎ そもそも、子州へ連れてきた兵が少なすぎます‼︎ 他の鎖国派の州の半分以下ですぞ⁉︎ 廉の部下、頼(より)が声を上げる ………わかってしまったのだ…… わかった…? どちらが「燦の国」の未来を見据えていたのかを 廉の瞳は悲しみを纏う そ、そんな…それでは⁉︎ 鞍替えは私の矜持に反する。だが、どちらが「真の道」か見えてしまった私は積極的には戦えない… 兵達にはおりを見て陣まで戻るように伝えてある。 他に作戦があるからとな。 …戦わせないためですね…? 頼は呟いた 流石、長年私の元にいてくれているだけあるな。 そう。できるだけ兵を死なせたくないのだ。私に戦う意志がさほど無いのに無駄死にはさせられないだろう。 廉の瞳は優しかった しかし…他州はいいとして…燿様にはなんと言うのです⁉︎「着いてきてくれるか?」と言われたのですよね⁉︎あなたはそのお言葉に頭を垂れた‼︎ 頼の怒声が響く そう。燿様のご成長が心から嬉しかった。だからこそ、頭を垂れたのだ。 私の…私自身の忠義は揺るがない。しかし、辰として。この国を守る剣の一つとして…選ぶべき道を決めたのだ この戦いの後、どんな罰も受けよう。命を差し出すことも厭わない。しかし、今だけは…この戦いは私の道を進ませて欲しい。 頼、お前の心を裏切ってしまってすまない。私の元を離れて他の州へ行くのを止めはしない。 廉の声はとても優しい 廉様……私は………私は‼︎生涯を「辰吉廉」に捧げるとあなたと出会った時から誓っているのです‼︎ 私が、あなたの元を去る…などと、そんなことはありはしない‼︎例えあなたでも私のその誓いを踏み躙ることは許さない‼︎ 頼は大粒の涙を流しながら叫ぶ 頼………私はお前の憎む「裏切り者」になるのだぞ? 困ったような優しい瞳と声で廉は囁く あなたの元を去ることこそが、私の…私自身に対する最大の裏切りです。私は私を憎みながら死ぬことなど受け入れはしない。どこまでもあなたに着いていきます。例え棘の道であっても。それが私の「誇り」です もう頼の心は揺るがなかった そうか………私は幸せ者だな 廉は目を閉じて呟いた
鈴は割れる
第十五節 戦う決意 劉達の部隊は司の軍へと合流した 司様‼︎ 劉は司の元へ駆けつける 劉殿。待っていました。 司もいつもの雅な姿ではなく軍服を着ている さあ、まだ開戦はしていませんがもういつ始まってもおかしくはない。 気を引き締めますよ。 司の瞳が鋭くなる 我々は戌州と協力し、丘の上から「ガトリング砲」で迫ってくる敵を食い止めます 承知しました ガトリング砲を抜けてきた敵を殲滅する部隊が必要ですね‼︎ 彗が声を上げる ええ。…この部隊は本当に…命懸けです…。 司は目を伏せる できるだけ無理やりこの部隊に入れることは避けたいところですが… やります‼︎ 彗の清々しいまでの声が響いた 彗殿……… 司は驚く 自分が…「武力を使うべきだ」と最初に進言しました。もしかしたら自分が何も言わなくても同じ未来にはなっていたのかもしれません。だけど「戦うべき、武力を使うべき」だと自分で言っておきながら危険なことはしたくないでは誰にも示しがつきません‼︎ 彗は目に涙を溜めながら力強く答えた 私も‼︎ 自分も‼︎ 彗殿と同じ部隊へ‼︎ 劉の門下生達は次々に声を上げる …皆様……ありがとうございます。皆様のような勇気ある志士がいること、酉州の当主として誇りに思います 司は頭を下げた (俺は………) 慎はまだ決めかねていた ここに彗と共に志願することは仲間と共に戦い抜けるということ。 しかしここに志願するということは鈴との約束は守られる保証が無くなってしまうということ (俺は……‼︎) 自分も‼︎この部隊で仲間と共に戦います‼︎ 慎の声が響く この姿に劉は少し悲しげな表情をする 慎…… 劉が声をかけようとするが慎の言葉がそれを遮る ずっと…先生と会った五年前から。この国の未来を考えておりました。「変えなければ滅びる」と。 今、我々の目の前には新しい時代が輝いている。手を伸ばせば掴み取れる未来です‼︎その未来には家族も、仲間も愛する人も全員いて欲しい‼︎ しかし、その未来が脅かされている‼︎自分には守る力があり、守る義務がある‼︎近代兵器でも倒しきれなかった敵を食い止めなければ、その守りたい人たちが傷つく‼︎自分はそんな事、耐えられない‼︎だからこそ自分で敵を撃つ‼︎そう決めたのです‼︎ 今までの控えめで落ち着いた雰囲気の慎からは想像できないほどの気迫のこもった声だった 慎…‼︎ 彗は心を打たれたようだった しかし劉の顔は浮かない 慎、よく考えた上での決断だろうね? はい‼︎ ……そうか。ならばもう何も言うまい。 (彼女のあの叫びは…慎………お前もわかっているはずだろうに……) では、酉の軍と合わせて編成を考えましょう。劉殿、力を貸していただけますか? 司が動き出す はい。もちろんです 司と劉は陣の内へと入って行った どんな編成になるのかな… 彗がポソっと呟いた できたら、お前と…慎と一緒の隊ならいいな。 彗は慎の方を向きニカッと笑った そうだな。俺もそうだといいなと思うよ 慎も微笑む しばらくして劉が陣の奥から出てきた 皆、編成を伝える 劉が司と決めた編成を門下生達に伝えていく 慎は彗と同じ隊だった。そして これは… 慎は呟く 彼らが配置されるのはガトリング部隊の中で一番端の部隊だった 先生‼︎自分を一番危険な…中央の部隊にしてください‼︎ 彗の声が響いた 彗、戦いの配置というのは必ず意味がある。 しかし…‼︎ こういった大規模な地形での戦い、中央ばかりが注目されがちだが外側を狙われて敵に奪われてしまったら一気に瓦解してしまう。そしてこの戦いの場合、北側…お前たちを配置した場所が一番取られてはならない場所だ。 ……そう…そうですね。わかりました‼︎与えられた使命を全うします‼︎ 彗の声は明るくなった 彗、慎、お前たちの「熱さ」と「慎重」さでここを守ってくれ はい‼︎ ――― そして配属された兵達はそれぞれの持ち場へと急いだ
鈴は割れる
第十四節 始まる そして各派閥が着々と準備をすすめ、いつ戦いが始まってもおかしくないほどの緊張感が広大な平原を包んでいる 慎も劉の他の門下生達と一緒に彼の家から出陣する 慎は身支度を整える (これが外界の戦いにおける格好なのか…少し慣れないが軽いし動きやすい‼︎) そんなことを思っていると劉が慎を呼んだ 慎、お客様だ。あまり時間はないが今会っておきなさい。後悔のないように… 慎が表に出ると鈴がいた あの日から会えていなかったため、慎は素直に嬉しかった 鈴‼︎来てくれたのか‼︎ しかし鈴の表情は暗い 鈴? ……慎…。私…… 鈴は言葉が出ない このままでは愛しい人が戦地に向かい、帰ってこないかもしれない。そんな最悪な想像が彼女の口を開かせない 鈴、どうしたんだ? 慎は困ってしまった …これ 鈴は慎に手を差し出した 何か小さいものが乗っている …これって 「慎が無事でありますように」って願いを込めて紐を編んだの。その紐にお守りの鈴を付けたんだよ。 慎の好きな色である「群青色」と鈴の好きな色である「朱色」の系で編まれた紐に可愛らしい鈴が付いていた 慎…………私、こんなことしかできない…。あなたの無事を…祈ることしかできない‼︎今から出陣する人にこんなことを言ったらダメだってわかってる‼︎だけど… 鈴はポロポロと涙をこぼした お願い‼︎行かないで‼︎ここにいて‼︎ その悲痛な叫びは慎を貫いた 慎は鈴から「お守りの鈴」を受け取り抱きしめる …鈴、ありがとう。出陣前に鈴と会えて力を貰えたよ。このお守りも。 必ず守るよ。君と、君の未来を。だからどうか泣かないで、待っていて欲しい。 そう言って慎は鈴から離れた 彼女の気持ちは痛いほどわかったが、彼女の叫びが士気に響くことを恐れてしまった 鈴はそんな慎を見て悟ってしまう 鈴は俯き ごめんなさい…出陣前の大事な時にこんなこと言っちゃって…寂しくてつい…でも慎、本当に…どうか (帰ってきてね) そこまで言って走って行ってしまった 鈴‼︎ 慎は叫んだが彼女は行ってしまった (鈴……すまない) 自分の態度が彼女に気を遣わせてしまったと思った そんな二人を劉は影から見守っていた ――――― そして遂に出陣の時 皆、よくここまで私についてきてくれた。この戦いが国の未来を決める。まだ間に合う。よく考えるのだ。誰も責めたりなどしない。 劉の声が響く 先生‼︎ここにいる者たちは最初から心を決めております‼︎ 彗が叫んだ それに合わせて全員が「おお‼︎」と声を上げる …ありがとう 劉は呟く。そして大きく息を吸い これより‼︎この国の未来のため‼︎司様の軍と合流し、戦地へと向かう‼︎よいな‼︎ 「「「はい‼︎」」」 劉の門下生達、そして門下生達が集めた仲間が司の軍と合流するために歩き出した (君を…未来を守る戦いだ‼︎) 慎は胸の「ポケット」という所に鈴からもらったお守りをしまった そのお守りは彼の胸の中でチリチリと鳴っていた
鈴は割れる
第十三節 繋げる意思、受け取る思い 着々とそれぞれの州が最終決戦に向けて準備を進める 鎖国派は既に全員が子に集まっている …燿様、あなたがしっかりしなければ示しがつきませんよ 廉の厳しい声が燿にかけられる …………しっかり… そうです 響に続き、鐡も失ってしまった。 大事な…同志が…。 燿は顔を手で覆った 彼らの意思を、決意を、あなたが繋ぐのです。繋がなければならない。それが「将」なのです 廉はそう言い切る そこへ寅州の猛が来た 燿様… 猛…… まだ…まだ‼︎そんな顔をしていらっしゃるのか⁉︎ 猛は悲痛な顔をしながら怒鳴った 響殿は‼︎最期まで自身の誇りを失わず、誇り高い死を選ばれた‼︎ 鐡は‼︎鐡は…自らを犠牲にして私達に道を残してくれた‼︎ あなたの今のその姿はこの戦いで死んでいった二人…いえ、全ての者達に対する冒涜だ‼︎ 猛の瞳から涙が溢れる 猛… 廉は彼を止めなかった わ、私は…私の…できることは… 燿が呟く あなたにできることは‼︎死んでいった者達の意思を継ぎ、この戦いに勝ち、この国を開国派から…外界から守ことだけだ‼︎ 猛は止まらない そう…そうだ…‼︎私は…私は‼︎ この国を治めるもの‼︎皇家当主‼︎皇燿だ‼︎ この国を守るための盾であり剣でなくてはならない‼︎ ここで折れている訳にはいかない‼︎ 燿はまるで自身に言い聞かせるように叫ぶ すまなかった。廉、猛。私はもう大丈夫だ。迷いはしない。私についてきて欲しい‼︎そしてどうか力を貸して欲しい‼︎ その力強い言葉に二人は跪き首を垂れた その様子をそっと影から見ている姿が二つ… やれやれ、これでわからなくなってきましたねぇ。 燿様が腑抜けたままなら早々に鞍替えをしようと思っていましたが…さてどうしましょう?どうしますかぁ?颯殿? 中はにこにこしながら颯に振る はぁ…確かに俺も「あのまま」だったら見限ってたさ。だが、燿様が立ち上がられた。それを裏切れる程、俺は非情じゃないぜ? 颯の顔は真剣だ そうですねぇ。ただ現実問題として、戦況はなかなか厳しいでしょう。 …そうだな。 「引き際」…は見誤るべきではないでしょうねぇ。 二人はそう言って戦いの準備に戻った ――――― 一方開国派 丑州の豊は子州から遠いこともあり、早めに準備を整えて酉州まで来ていた そしてそこで話し合いのために酉州へ来ていた樹と対面する 豊殿… 樹は豊に目を合わせられない 樹殿、どうか顔をお上げください 戦いなのです。響殿が…残念な結果になってしまったことは…仕方のないことなのです…あなたは何も、悪くなどないのですから 豊は樹に微笑んで見せた 豊殿、これを。 樹は響からの手紙を差し出した これは? 響殿から、あなたへの手紙です。本当ならすぐにでもあなたへ届けたかったのですが、それは叶わず…今になってしまって申し訳ありません 樹は頭を下げた そんな‼︎樹殿、謝らないでください‼︎ ……そうですか、響殿が私に…。 樹殿、豊殿は長旅でお疲れでしょう。少し休んでいただいた方がいい。私たちは向こうでもう少し話を詰めましょう では豊殿、我々は少し外します。また後ほどお会いしましょう その場にいた司が樹を連れ出した 豊は二人がその場からいなくなると急いで手紙を開げた ―豊へ― この手紙を読んでいるのならば、そういうことなのであろう。 豊、私は後悔などしていない。これが私が選んだ道であり、午州の民への責任の取り方なのだ。 年に一度、皇家への新年の挨拶の時。先代の当主である父君の後ろに隠れていたお前の姿は今でも思い出す。 気弱で優柔不断。「当主として大丈夫なのだろうか?」と何度も思った。しかし、お前は誰よりも優しく、誰よりも決めたことにまっすぐ進む力があった。 そして私を「兄」のように慕ってくれていた。ぶっきらぼうで無表情な私にひっついてきたのはお前だけだ。お前がそんな私のものを気に入ったのかはわからないが嬉しかった。そしてお前の模範になろうと努力してきたつもりだ。しかし、それがこんな結末を迎えてしまったこと、先程後悔はないと書いたが寂しさはある。 お前が私に頼らず開国派につくと決めたことを心から嬉しく思った。「私の弟分は自分で道を選ぶことのできる立派な当主になれた」のだと。 豊、お前成長した。誰より優しく、誰よりも粘り強いお前はきっとこの国のどの当主にも負けない「名君」になるだろう。私の体は無くなってしまうが心はいつでもお前の中に、お前と共にあろう。何かに恐怖したときは心の私を思い出せ。お前ならきっと乗り越えられる。 いつか、お前が「こちら」に来た時に良い土産話を期待して待っている ――お前の「兄貴分」響―― ひ、響殿は本当に…いつも…何も言わず…ち、直接褒めてくださったって…いいのに‼︎ 豊は口をへの字にして涙を流した