匿名未確認生物
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あれ?ここは?起き上がるとそこは空が赤い世界のどこかの草原にいる。 僕は死んだはずじゃ。辺りを見渡し立ち上がる。そこでおかしな点があった。自分は犬なのに人間のように2本の足で立っているのだ。意味がわからずあたふたしていると上から何かの匂いがした。上を見上げると1人の人間がーーいや、人間のような何かがこちらに近づいてきた。 「君はーー」 唖然としている自分を舐め回すように見つめると思い出したかのように言った。 「あ!君か〜。君が新しい子か〜」 「何を言っているんだ」 「まあまあ、そんな警戒しないでさっ、気軽に行こうぜ」肩を組んでくる。 それを抜けて少し離れた場所に立つ。 「お前は誰だ」 「ああ、僕かい?僕は金切、見ての通りただの妖さ」 「妖?」 「そうだ!この怪異世界には妖しか居ないからね!」 怪異世界?なんだそれは。初めて聞いた。少なくとも、ここに人間はいなさそうだ。 「君の名前は?」 「名前?」 「あるでしょ?名前」 「無い、名前は無い」 そう吐き捨てるように言うと驚いた顔をした後にニヤリと笑って言った。 「そうか、じゃあ!主様の元へ連れてってあげるよ!!」 手を引っ張られたままどこかへ連れていかれる。 「よしっ!着いたー!」 連れてこられた場所は、他とほとんど変わらない建物。微かに不思議な匂いがする。 「こっちこっち」と言われついて行くと、外観からは想像できない内装だった。 辺りを見渡していると金切が大声で言い始めた。 「主様ーー!!!!連れてきたよーー!!!入っていいー?」 しばらくすると金切は真面目な顔をしたまま自分に着いてくるように言う。ドアの奥にあるそこは、室内というのに外のように感じた。天井がガラスで覆われており、赤い空とそれに浮かぶ月がよく見える。目の前の壇上にある畳の上には奇妙な雰囲気の女性が座ってこちらを見ている。 「よくきたな、新入りよ」 黙ったまま会釈をする。彼女の喋る言葉一言一言に重みを感じる。これがこの世界の主人と呼ばれる人なのか。 「主人様、この子どうするの?」 「其方、名はなんという」 「名は無い」一言呟く。 「そうか」 そういうと少し考えたようなそぶりを見せると何かを呟いた後に言った。 「今日から其方の名は、『無名』じゃ。聞かれたらそう名乗れ」 そう言われた瞬間、何者かの記憶が流れる。そこにいたのは自分の嫌いな人間と思われる者。けど少し違う。妖と同じような気配をしている。なんだ?この人間は。その人間は何かを唱えると視界が白に包まれ、元に戻ってきた。 「その人間は『祓い屋』と呼ばれる人間だ。わしら妖と同じ気配をしておる。『祓い屋』は妖を祓う人間、見つけ次第報告するように。詳しくは金切から聞け」 頷くことしかできない。話がまるで理解できない。祓い屋?そんな人間いたか?死ぬ前の記憶は嫌なほど鮮明に覚えている。自分が生きてきた時間の中に祓い屋なんて人間はいなかった。 金切と一緒に外に出る。 「ま、状況に追いつけてないかもだけどよろしくね。君はこれから僕らの仲間なんだから」 「そう、か」 「で、ここが君と僕の担当区分。ここに人間の気配がしたらテレパシーで僕に伝えること」 金切は地面に降りて僕を指差しこう言い放った。 「無名。今日から僕が君の師匠的な存在だ。だから今から、君の強さを確かめさせてもらう!!」 金切がものすごいスピードで突っ込んできた。反射的に屈んでかわす。 「危ないぞ!!」そう突っ込んだ方向を見たが金切の姿はない。 「ここだよ!!」上空から声がして金切が今度は地面に突っ込んできた。地面が凹む。 後ろに下がってかわすと金切が挑発するようにいう。 「おいおい、避けてちゃ勝負になんねえぜ?」 「クソが」吐き捨てるように言う。 金切に手を伸ばすと体が勝手に動いた。脳内に言葉がよぎる。その言葉を口に出した。 「潰れろ、そして壊れろ」 凹んだ地面の周りに散らばっている瓦礫が金切の上空で集まって大きな塊になる。それと同時に周りの背景が変わる。金切の足が紐で固定される。 「へえ。やるじゃん」金切の声が聞こえる。 瓦礫の塊を金切に落とそうとした途端、高音が耳障りな金切り声が僕の耳を襲った。耳を塞ごうとすると目の前に金切が現れる。 「だけど、まだまだだね」 みぞおちに蹴りを入れられ近くの建物に勢いよくぶつかる。 「っ!!」 「勝負あったね。かなり鍛えがいのありそうな新人だ」 視界がぼやけて次第に暗転した。
『人間』という生き物
いつもの見慣れた帰路。帰宅時にはいつも今日起きたことを振り返る。ああ言わなきゃよかったとか、もっと反応してあげればよかったとかそんなこと。いわゆる1人反省会だ。今日のことはもう思い出したくないなぁ。最近そんなことばっか思うようになった。ろくに変わらない人生。それでいいじゃないか。今のまま変わらず。 後ろの方から物音が聞こえて後ろを振り返る。誰もいないはずなのに。いつもの幻覚かと思ったが目の前を何かが横切った瞬間に持っていた鞄を取られてしまった。 「あ!ちょっと!!」 そう言い急いで追いかけるがなかなか追いつかない。止まって息を整えていると黒い塊が鞄を咥えたままこちらを見ている。もしかして弄ばれてる? 自宅とは別方向に走っていく黒い塊には絶対に追いつけないが自分が止まると見える位置で止まっている。まるでついて来いとでもいうように。 最終的には来たこともない方向の山に連れて行かれた。山の中まで咥えられていた自分の鞄が足元に落ちている。 「ったく。なんでこんな」枯葉と土がついていて少し汚い。 もう暗いし帰らないと。そう思い来た道を帰ろうとしたがどこも同じ風景でどこから来たかわからなくなってしまった。 まずい。そう焦っていると奥の方に人影が見えた。あの人なら。そう思いその人に声をかけた。 「あのー、すみません。道に迷っちゃって」 「縺昴≧縺ァ縺吶°縲∵ョ句ソオ縺ァ縺吶?らァ√b繧上°繧峨↑縺?〒縺吶?」 「えっと、今なんて?」 「縺ゅ↑縺溘?莠コ髢薙〒縺吶°?溘↑縺懊%縺薙↓縺?k縺ョ縺ァ縺吶°?」 その人は聞き覚えのない言語で会話をしてくる。ふとどこからか何かの鳴き声がして鳴き声がした方を見ると、ここまで連れてきた黒い塊がこちらを見つめている。 すると目の前の人がドロドロと溶け始め黒い狼の姿に変わった。その光景があまりにも恐怖で後退りをした。すぐに走って逃げることもできたが何故かそれができなかった。その狼はこちらを見つめて何かを訴えようとしている。 ここまで連れてきた黒い塊が足元に降りてきて隣の狼と同じ姿になった。 「おい人間。いや機械。俺らを助けてやくれないか?」 「ーーは?!」 いろいろな情報が一気に来て脳が追いつけない。謎の物体が狼に姿を変えて語りかけてきて助けを求めている。それに人間の自分が機械呼ばわりされている。一周回って脳が冷静になる。 「うん、じゃあ私は帰るから」帰ろうとすると狼が人の姿になって私の腕を掴んだ。 「待ってくれ!お願いだ。俺らにはお前しかいないんだ」 その人を見る。そいつは綺麗な青い目をしていた。 「でも、帰らないと」 「頼む!」そう言い土下座をする。隣にいた狼も見ようみまねで土下座をしている。 「わかったって。でも、流石に暗いから見えない。君たち黒いから」 「こっち」と言われついていくと地下に続く建物があった。そこは明らかにボロボロで水漏れをしている箇所が何個かある。その割には綺麗な場所が多かった。 ガラス張りになっている部屋の中にはこいつらと同じような黒い生き物が入っていた。そこで足を止める。 「俺らはここで生まれた生き物。『人間』だ」 「え?にん、げん?」 「そうだ。そして君は機械だ。その自覚がないのが不思議だが」 「いや、私たちが人間であなたたちがーー」 「俺たちは『人間』。そう人間たちに呼ばれてきた」 理解のできない状況をなんとか飲み込もうとした。私は思い出した。私は以前、ここにきたことがある。でもいつかはわからない。思い出せない。思い出すことを抵抗するように脳内にノイズが走った。 私はなんとなく理解した。あってはいけないものにあってしまったと。