渡月カユラ

4 件の小説
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渡月カユラ

薄暗い感情を書きます

ささやかな逃避行

 別に、僕のことなんかを知ってる奴なんか居ない。それでもなんとなく、僕が僕であると知られたくなかったんだ。  だから名前を変えて、顔の知られていない場所を選んでここに来た。  別人になりたいって願望があったのかもね?  僕のことを知る人が誰もいなければ、僕は自由に振る舞えるだろう? 誰の目も気にすることなく、今後のことも、僕の行いが及ぼす影響も考える必要がない。そういう、素敵な場所に逃げたかったんだ。  そうだよ、これは逃避行動。  嫌になってしまったんだ、何もかもが。  元の自分というものを何もかも捨て去ってしまいたい衝動に駆られたんだ。誰しもそういうことはあるだろう? そういうことだ。  でも捨てられない。元の自分に対して、どうしても捨てられない未練がある。諦めきれないものがある。  潔く捨てられたら良かったんだけどね。  思うようにはいかないね。だから別人になりきって、逃げてみることにしたんだ。  やってよかったなって、今は思ってるよ。  気にする必要がないって、こんなに心が軽いんだって実感してるところ。  知ってる顔も、知ってる名前も見ることがないって、こんなにも心安らぐんだなって、そう思った。  人嫌いってわけじゃないんだけどね。  もちろん、みんなのことは好きだよ。  それはそうとして、誰にも会いたくない、誰とも話したくない、誰の顔も見たくない。そんな日が人生の中で数日はあってもいいだろう?  僕は今、その人生の中の数日を過ごしてるんだ。  気が済んだら元に戻るよ。  そうじゃないと、ここからも逃げ出したくなってしまうからね。

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星になれなかった人

 星のような人だと思った。  綺麗で、儚くて、いつか消えてしまいそうな。だからこそ大切にしたいと思える人だった。  ずっとそう思わせてくれていたらよかったのに。  いつからか、君は驕るようになってしまった。  人の言葉に胡座をかいて、酷く思い上がるようになって。  自分は悲劇の主人公だと酔いしれて。  自分は慈愛と悲しみでできた神様だと思い込むようになって。  過去のことを免罪符に、何をしても許されるんだなんて勘違いをするようになって。  これまで愛されてこなかったから、これからは愛されていい。  そんな話はしたけれど、それは恋人という特別な立ち位置をいくつも作っていいという意味ではない。  恋人という立ち位置を与えて、その分愛を無限に搾取していいという意味ではない。  僕が好きだった星は、あっという間にその輝きを失った。  一人目の恋人は、たくさんの愛をくれないからと杜撰に扱った。  二人目の恋人は、自分にも愛が欲しいと言うようになったから捨てた。  三人目の恋人は、段々と愛をくれなくなったから嫌になった。  いつだって君は被害者で、悪いのは相手で。  同情を誘うように巧みに騙って、大袈裟に喚いて、自分を悲劇の主人公に仕立て上げる。  一体何度同じことを繰り返すのだろうね。  君は星なんかじゃなかった。  宝石にもなれない紛い物。  きっと、道端の石ころの方が魅力的だ。  そこまで価値を落としてしまったのは君自身。  全部全部、君のせい。  最初から最後まで、星でいられたらよかったのにね。

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ぐちゃぐちゃの感情

 誰かに振り向いてもらいたかった。  誰かに認めてもらいたかった。  誰かに愛されたかった。  子どものようなワガママがとめどなく押し寄せる。  自分にそんな価値などないのに。  自分にそんな魅力などないのに。  分かっているからこそ、無いものをねだって、届かないものに手を伸ばす。  努力なんてするだけ無駄だった。  何をしたところで叶うことはない。  何をしたところで報われることはない。  自分の人生はそういう風にできている。  やるだけ損で、真面目になるほど馬鹿を見て。  だけど今更不真面目を装うこともできなくて、やらないということもできなくて。  どこで間違えてしまったのだろう。  自分という個体が生まれたことがそもそも間違いだったのか。  親もとんだハズレを引いてしまったものだな。  もっと別の個体であれば、もっとマシな個体であればよかっただろうに。  自分でさえなければよかっただろうに。  考えたくもない感情が文字になって渦になって止まらない。  このような言葉を吐きたいわけではないのに。  せめて、こんな汚い感情を表に出さぬよう静かに生きていこうと思ったはずなのに。  ああ、今回もまた上手くいかなかった。  こんなんだから、きっと自分はダメなのだ。  あーあ。

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長い夜に溶けたい

 どこからやり直したらこの人生はもう少しまともなものになるんだろうな。  そんなことを漠然と考える。  悪いことばかりだったとは思わない。  良いことは良いこととしてちゃんとあった。  それなりに恵まれた環境で生きてきたという自覚もある。  だというのに、それなのに、今すぐ人生が終わってしまえばいいのにと考えるのは贅沢なことなのだろう。  生きたいと願う人に、この命に残る時間を全て渡せたらいいのに。なんてことすら考える。  昨日までは確かに楽しかったはずなのに、今はそんな感情などどこかに消え去ってしまった。  昨日の自分と今日の自分はまるで他人だ。  ただ漠然と死にたいという考えがよぎって、家族を含む全ての人間との関わりをなくしてしまいたいという衝動に駆られる。  自分という存在が、煙のようにすっと消えてしまえばいいのに。最初から存在しなかったようにパッと消えてしまえたら、どんなに素敵なことだろう。  目を閉じる。  長い長い夜がやってくる。  ぐるぐると全身が回るような感覚がする。  どくどくと心臓が動いているのがよく分かる。  意識はまだまだ溶けそうにない。

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