菱田龍彦
21 件の小説こぼれこぼれの想い
僕はとても気分が悪い。なぜ君はそんなに冷たいんだ 僕は君 憎かった。手に持つナイフが赤い理由だよ だってしかたないだろう。君 だから。因果応報だ でも、僕も同じことをしてしまった…… そうだ。僕も君と同じになろうか そうしたら、僕も罰を受けることになる あ、自分でやるのは罰じゃないか なら、このまま温かいままでいよう 冷たい君をずっと温めてあげる 君を 冷たい奴を燃料に ねえ、そうしたら君は喜んでくれるだろう?僕とずっと、ずーっと一緒にいられて、君を 奴なんて見なくて済む あれ、もしかして嫌?なんで?なんでそんなに冷たい顔をするの? だって僕と一緒にいられるんだよ?もしかしてあんな奴と一緒にいたいの?君を のに? ねえ ねえ、答えてよ ねえ‼︎ ……ごめん、君はなにも答えられないのに、勝手に表情見て騒いじゃった そうだよね 聞くまでもないよね 君は僕と なんだから 後日談 男の声は近くの防犯カメラに全て記録されていた その記録を見た警官、一人は 「なんて自分勝手な犯行なんだ!」 こう怒りをあらわにした しかし、もう一人は…… 「ああ……なんて哀れな男なんだ」
画竜点睛を欠く
九月一日。夏休み明け初日の授業だ ほとんどの人が絶望し学校へ行くことをためらう日だろうが、僕は違う なぜなら、僕は優等生だからだ 宿題なんぞ日記以外は七月中に終わらせ、八月も適度に遊び、適度に勉強をしていた 登校に向けての準備も二日前から完璧に行った。……宿題のやり残し、しかも数学の丸つけを全て忘れていたのはさすがに背筋が凍ったが しかし即座に片づけたので問題はない さて、完璧な僕のことをこれ以上考えていても仕方ない。他の生徒の様子を見てやるとしよう ふ、みんな尊敬の眼差しで僕を見つめて。学校へ行くために入念な準備をすることは当然のことだぞ?まさか、忘れた宿題でも見せてほしいのか 「な、なあ、お前……」 あぁ、なんだ、僕の次に優等生だと思っていたお前も宿題を忘れたのか 仕方ない、この僕が完璧に終わらせてきた宿題を見せてやろう 僕は自分のリュックサックを持ち上げ、手を入れた ん? 中学校にリュックサック……? あっ
叶わない自由
お腹が空いた でもどうしよう、さっき夜ご飯を食べたばかりだ でもどうしよう、ドーナツ屋さんを見ているととてもお腹が空く 今持ってるお金は300円。1個くらいなら買える でもどうしよう、夜ご飯を食べたばかりなのにお菓子を食べたらお母さんに怒られちゃう お腹が空いた でもどうしよう、色々考えている間に他の人がドーナツを買って行ってしまうよ でもどうしよう、買うか買わないかなかなか決めらんない お腹が空いているからお菓子食べてもしかたないよね でもどうしよう、お母さんが怒る姿が頭から離れないや あれ、なんでぼく、お母さんのこと気にしてるんだろう 今は家出中なのに お母さんの言うこと聞くのがヤだからお家を抜け出してきたのに お母さんのことなんて気にしなくていい だから、ドーナツも買えばいい でもなんでだろう ぼくの足は勝手に逃げることを選んでしまった どこへ逃げるのだろう あ、この先は浜辺の公園だ 今の時間帯は星がよく見えるらしい でもどうしよう、こんな時間にそんなところへ行ったら…… 止まれ、止まれ、ぼくの足 さもなくばお前ごとお母さんにぶたれちゃう なぜお母さんが怖くてドーナツ屋から逃げたのに、また怒られそうなことをするんだよ いや、家出中だから気にしなくてもいいんだ ならなんでドーナツ屋から逃げたんだ そうこうしている間に公園に着いた ぼくの足は力尽きた ぼくは寝転がった たくさんの星が目に飛び込んできた そういえば、ずっと前からこの公園で星を観たかったんだった あ、そっか、思い出した 家出してお母さんから逃げたのも、お母さんが怖くてドーナツ屋から逃げたのも、ここに来たのも…… ぜんぶ、自由になりたかったからだった 家出したのはお母さんから解放されて自由になりたかったから ドーナツ屋から逃げたのは恐怖心から解放されて自由になりたかったから ここに来たのは欲望から解放されて自由になりたかったから…… ぐうー でもどうしよう、やっぱりお腹は空いた あの惑星がドーナツなら、自由になれるかな
不幸だったとしても
お母さんはわたしにおまじないをかけてくれた [嘘をつく悪い人には会わないように] お母さんはわたしにおまじないをかけてくれた [いじめっ子には会わないように] お母さんはわたしにおまじないをかけてくれた [頭が良くなるように] お母さんはわたしにおまじないをかけてくれた [人を憎まないように] お母さんはわたしにおまじないをかけてくれた [自立できるように] お母さんはわたしにおまじないをかけてくれた [寂しくならないように] あれ?みんなどこにいるんだろう おかあさんはわたしにお呪い(おまじない)をかけてくれた [きっかけをつくらないように] お母さんはわたしに呪い(まじない)をかけた 「誰も見えない」
見てほしかったとは思うよ
僕には嫌いな人がいる 僕は嫌いな人のやることなすことがすべて悪く見えるみたいだ そいつは誰の影響か、つい最近詩を書いたのだよ そいつは僕に嫌われていることに気づいていないみたいでね、詩を僕にも見せてきたんだ 僕はそいつの書いた詩がまるでつまらないと思った 表面では曖昧に相槌をうち、心の中ではこんなのをよく見せる気になったものだとバカにした しかしね、そいつの書いた詩は美しいと評判だったのだよ 僕は正直腹が立ったね だって嫌いなやつが書いたつまらない詩を皆が褒めているのだから 僕が何見せても読みもしないくせにね 彼らはセンスがないのだろうね
いつでも出来る死
「おはよー、こんなとこで何してんの?」 「リンじゃんおはよう。何って見りゃわかんでしょこれから入水するとこ」 「えー?入水するにはまだ寒くない?寒い中窒息するとか地獄すぎるっしょ」 「だって死にたいじゃん」 「そんな死にたいなら首切りゃ良いじゃん」 「失敗して拷問受けた気分になってから入院からの精神病院☆とか言ってたアンタ見たら絶対やりたくないわ」 「それはそう。じゃあ飛び降り?」 「なんか二次被害とか出そうでやだ。んー入水じゃなかったらー、首吊り?そこの木でできそうじゃない?」 「首吊りやめときなよ〜、見たことはないけど噂によると穴という穴から体内の奴が出るらしいよ?」 「肥料になりそう」 「そんな肥料嫌だわ」 「じゃあどうすんのよ、結局死ねないんだけど」 「寝ている間に死んでれば良いのにねー。……あ」 「どしたの?」 「今日って我らが推しがインスタライブやるとか言ってなかった?」 「……あ」 「むずいけど死ぬのいつでもできるし今日は生きとかん?」 「さんせー」
かみさまのにっき
皆に崇拝される神様というものは、我々人間なんかよりよっぽど優れた存在ということではなかった。 僕がこの日記を読んだとき、最初に思ったことだ ⚪︎がつ×にち きょうも、たくさんのにんげんが、ぼくのやしろにきた そのうちのひとりは、このまえ、ぼくに 「びょうきをなおしてください」 といったひとだった びょうきはもうなおったみたい。ありがとう、しにきたのかな。そうおもったけど 「あくま!」 っていわれた。わるくち 「きゅうになおったせいで、ばけものといじめられた!」 ってゆわれたけど、そんなこと、わかるわけないじゃん。ぼくはちゃんと、いわれたとうりにおねがいをかなえたのに。 たくさんのにんげんのおはなしをきいて、おねがいをかなえるのも、たくさんあたまをつかうし、たいへんなのに、そのおねがいのけっかが、わるかったからって、なんでぼくのせいなの だったらさいしょから、せつめいしてくれればいいのに ずっとずっとまえから、にんげんにおこられる。ぼくはちゃんと、いわれたとうりにおねがいをかなえているのに おこるならこなければいいのに もうおこられたくない いじめられたくない かみさまなんてやりたくない
親の心神知らず
我輩は赤子である。正確的には赤子に乗り移ったいわゆる神である 赤子としての最初の記憶は母体の胎内であった 人間は妊娠中にアルコール等を摂取するのはよくないことだと聞いたが、どうやら勘違いのようだ 毎日のようにこの胎内に流れ込んでくるのだから 我輩は赤子である 胎内での日々がしばらく続き、ようやく出産日になった 母体の悲鳴が我輩の耳を震わせ、胎内からしぼりだされる苦痛に叫んだ この依代の母体の顔を見る前に我輩は他の人間に抱かれどこかへ連れて行かれた 我輩は赤子である 胎内より外に出て何日が経つだろうか 胎内で聞いていた母と父の仲良さげな声は幻聴であったことを確信した 母は我輩を抱きながら父に喚き、父は母の頬を平手で打つ 母の顔は見えずとも、その体が小刻みに揺れるのを感じた 我輩は赤子である 今日も母は喚いた。少しは家のこともやってよと 父が休日を邪魔するなと投げた缶は、母に抱かれていた我輩にぶつかった 胎内で毎日流れてきた匂いがした そんな赤ん坊、捨ててしまえと父は言った 捨てたくても捨てられないと言ったのは母であった 我輩は赤子である。正確的には赤子に乗り移ったいわゆる神である 我輩は今日でこの依代から離れ、天界へ帰る予定であった 本来の予定では、天界に帰る前にこの依代に“記憶の器”を与えるはずであった 我輩はその予定を変え、この依代の魂も天界へ持っていくことにした このまま生かしておくことは、両親にとってもこの赤子にとっても幸福な結果を生まないと判断した 我輩は神である。以前まで赤子に乗り移っていた 最近その赤子の魂も連れ天界に戻ってきたのだが…… 我輩の目の前にある両親の魂を見て、我輩の判断が無意味だったことを確信した
喧嘩と思われた出来事
ある中学校に通う少女は近所でも知っている人が多い、良く言えば活発な子であった 誰よりも大きな声で挨拶をし、元気に外で遊んでいるのは良いところ 悪いのは、男子だろうが歳上だろうが構わず喧嘩をするような子だったのだ しかし喧嘩をすると言っても、少女は喧嘩がかなり弱く、必ず負けてしまっていた 皆負けるのであれば喧嘩なんてよしなさいと少女を諭そうと試みたのだが、少女は意地を張ってか 「喧嘩じゃない」「私からは何もしてない」 と中々周りの言うことを聞かなかった そんなある日、少女は川で水死の状態で見つかった 警察の調べによると、河川敷に丁寧に靴が並べられていることや、その上に少女の筆跡の遺書が置いてあること、更にその両方から少女以外の指紋が検出されなかったことから、少女は自殺と見なされた ただ、遺書の内容から自殺の動機が見えにくかったとのことで、警察は捜査を続けている その遺書には、ただこれだけのことが書いてあった 「言い返さなければ被害者になれましたか」
解釈違い
私は小説を書くのが好き しかし小説家は目指していない もちろん誰にも作品は見せてない 上手になりたいけど、書ければそれで良いと思った 今月は珍しく中編小説を書いた 文量を多くするのがむずしかった 多分だらだらとした感じの内容だろう。まあいいや 長編小説を読んだ 長編なのに読みやすい。私のとは違う。すごい まあいいや 今日は短編小説をたくさん書いた なんかただ短いだけだった 多分説明足りなくて分かりづらいかも。まあいいや ネットで拾った短編小説をたくさん読んだ 文字数少ないのに分かりやすくて面白かった。私のとは違う まあいいや 今日はクラスメイトが私の小説を読んだ 人に読まれるのは初めてだった 嬉しかった 「つまんない」 「絶対小説家向いてない」 「よくそんなの毎日書けるね」 私は小説を書くのが好き でも、見せるのはきら「みんなに見せたいから学校で書くんでしょ?」