琉璃
4 件の小説願い事
『あの人とまた、会えますように。』 私が、こう願うようになったのはほんのひと月前。 この頃戦争なんかで、自分の故郷にも帰ることができず、無力である私は、生きている意味などないと考えておりました。 「死にたい」 川に足先を付け、私は呟きました。少し間があき、後ろから声が致しました。こんなところに人は居るまいと考えていたため、私は少し驚きました。 『死にたいなんて言うんじゃありません。』 とても暖かく、優しい声色。思わず振り返る程でした。 「貴方は…?」 目の前には死人のようと言っては失礼であると承知していますが、そのぐらい真っ白な肌を持ち、白に映えるようにして綺麗な黒色の瞳を持っている青年が居りました。 『私は、ただの農民でございます。』 再び川に目を移しますと、川に反射しているはずの青年の顔がありませんでした。慌てて振り返ると、もうそこには人の気配なんかありませんでした。私は、不思議に思いましたが、あの人は私の光だと思うようになったのです。私の灰色であった心を、真っ赤に染めてくださったあの人に会うために私は生きていこう。私は、心に決めたのであります こんなことを思い出しました。私の故郷では、「流れ星に願い事を行うと、必ず叶う。」という言い伝えがあるのです。思い出したからには実行しなければなりません。私には天文学などの知識はもちろんありません。しかしながら、必死に流れ星を探しました。そして一筋の光が見えたのです。いえ、一筋ではありませんでした。流星群でしょうか、炎のように赤い幾つもの光が夜空に降っておりました。周りにいる人の声など気にも止めず、私は必死で願いました。 『あの人とまた、会えますように。』 強く、強く願い続けました。 気がつきますと、目の前にはあの日の青年。 『嗚呼。やっと会えたのですね。 何故貴方はそんな顔をしているのでしょうか? 彼女が願いを込めたのは本当に、流れ星であったのでしょうか。いえ、あの幾つもの光は、敵国による空襲の雨でございました。ここまで言えば皆様もわかるでしょう。彼女と青年が再開したのは、あの世ということになるのです。
君が嫌い。
――俺は、そんなことしてない―― 久しぶりに夢を見た。夢と言うよりも、長年忘れていた記憶である。高校三年生の夏、同級生の女子が死んだ。それだけの事である。……それだけの事?俺の中で何かが引っかかる。彼女の名前はなんだ? なぜ彼女は死んだ? 彼女とはどのような関係だ? 何も思い出せない。まるで、初めから彼女が存在しなかったかのように。ただぼんやりと考えていると、突然意識が遠のいた。 意識が戻ると、自分の自室ではないことに気づく。ここは、どこだ。ふと、蝉の声が聞こえてくる。おかしい。自室からは蝉の音など聞こえてくるはずがない。外を見てみると、田んぼが広がっている。まさかと思い、鏡を見ると、そこには青年期の自分が映っていた。つまり、過去に戻った、そういうことになる。彼女の記憶は…やはり何も覚えていなかった。 「陸、早く準備しなさい。」 母親の声がする。本当に、過去に戻ったのだろうか、もしも本当ならば彼女の死について何か、分かるかもしれない。 自分の学生時代のことを振り返ってみたが、只只『普通』であった。高校の偏差値は、中間ぐらい。友達ともそこそこ上手くはやっていた。誰かの恨みを買うようなことはなかった。が、とても仲のいいような人もいなかった。 教室に入ると、彼女がいた。俺とは違いキラキラしている。同じ空間にいるというのに、やはり名前が思い出せない。 「おはよう!陸くん!」 「お、おはよう」 挨拶してくれるような仲だっただろうか。そして不思議と彼女の名前を呼んでいるようだった。しかし、自分でも認識できない。声に出しているが、その言葉が分からないのだ。本当に現実なのだろうか?夢であるのならば、今すぐに覚めてもらいたい。しかし、叩いてもつねっても痛みは感じる。受け入れたくはなかったが、これは『現実』であると、時間の流れとともに、実感していった。放課後は、直ぐに帰宅した。何もせず一日が終わりかけた時。 「それでいいの?」 脳裏で誰かが話しかけてきた。 俺は彼女の死について知りたい。できるならば彼女を救いたい。 次の日から、彼女に積極的に近づいた。彼女はキラキラしてて、優しくて、可愛い。モテるに決まっている。周りの目が怖い。しかしそんなことを言ってる場合でもない。 「なぁ、お前って██のこと好きなのか?」 「お前には釣り合わねぇよ」 無理もない。かなりの急接近で、我ながらわかりやすい。 「██あんた、あんな男やめきなよ」 「そうよ。もっといい男がいるって」 彼女も彼女の友達から言われている。 「何がわかるの?私は陸くんがいいの。」 盗み聞きをするつもりはなかったが、こんなことを言われた。そう思ってもらってるなら大チャンスだ。常に、一緒に居れるようになれば、事故や事件に巻き込まれ、命を落とすことは無い。そう思ったからだ。 次の日俺は人生最大の勇気を振り絞った。 「██ちゃん!俺と付き合ってください。」 未だに彼女の名前は認識できないが、俺は告白をした。 彼女は何も言わず頷いてくれた。そして、彼女が俺に近づいた。俺は少しだけ期待した。しかし、 「ねぇ、本当に何も覚えてないの?」 その言葉を鍵にし、閉ざされた記憶の扉が開いた。 「俺は、そんなことしてない。」 次の瞬間には、この言葉を放っていた。 全て思い出した。高校三年生の夏。彼女は死んだ。彼女は美しかった。いつも笑顔で、優しくて、顔も可愛く、スタイルもいい。つまり、完璧。俺とはかけ離れ、住む世界が違う。俺はそんな彼女が嫌いだ。彼女の笑顔を見る度に、胸糞悪くなる。彼女の声を聞く度、吐き出しそうになる。彼女が大嫌いなんだ。だから、だからこの手で彼女を殺した。『嫌いだから』ただそれだけで。 彼女に刃をふるった時、 「俺はお前が嫌いだ!」 と叫んだ。 彼女を殺した時はとても気持ちよかった。正気に戻ったあとは、ただひたすら『俺はそんなことしてない』と、自分に言い聞かせた。その後の記憶は曖昧で、今まで忘れようとしていた。いや、忘れていた。彼女を殺したのは自分だ。これを認識した途端、意識が遠のいた。 目を開けると、血だらけの包丁を持った彼女が前にいた。 「私はあなたが好きだった。」 嗚呼、そうか。やはり彼女は俺と正反対なんだ。 やっと思い出した。君の名は『空』と言ったっけ。
たった2枚の美しいフィルム
パシャリ。 貴方は、この音を聞く度、毎回のように顔を隠します。故に、私のフィルムの中には、ブレている写真が多いのですよ。何故です。貴方は、こんなにも美しいと言うのに。 私には想い人がおります。普段は、澄ましていますが、ふとした時のくしゃっとした笑顔、凛としている立ち姿、美しい横顔、色白の肌に、よく似合う赤リップ、可愛らしい声、貴方の全てに惚れたのです。初めて出会った時から、貴方を写真に収めようと努力致しました。盗撮ではありません、ただ風景と同じように、遠くから撮ろうとしているだけなのです。なに、それが盗撮だって?そう言われたら仕方がありません。どっちにしろ、それも全て失敗しておりますがね笑。 私は、人生で1度目の勇気を振り絞り、彼女に告白を致しました。断られると思っていたため、彼女が頷いた時には、私の方が彼女より驚いてしまいました。彼女は、驚きつつ、私の阿呆面に対し、笑っておりましたよ。そして、記念にと言って、写真を撮ろうと致しましたが、やはり彼女は、写真は嫌だと言って、写真の誘いを、拒否致しました。 そして、人生で2度目の勇気を振り絞りました。彼女に求婚を申し出たのです。彼女は、勿論頷いてくれました。我々は接吻をし、結ばれたのでした。今回ばかりは、受け入れてくれると、思っておりましたので、驚くことはありませんでしたが、喜びは隠せませんでした。また、記念ということで写真にお誘い致しましたが、やはり断られてしまいました。 彼女と、家族になった私は、彼女を絶対フィルムに収めたいと思いましたので、今度こそ盗撮を試みました。ですが、彼女とは長い付き合いですので、全て見つかり音を聴いただけで、すぐに顔を隠してしまいました。どうしても、私は彼女の写真が撮りたいのです。ですから、1度本人に聞いてみました。彼女は、くしゃっと笑いながら 「だって、お写真なんて恥ずかしいじゃありませんか。」 彼女の答えは、とても可愛らしく、愛おしい。そんな彼女をやはり写真に収めたい。その瞬間に、念願の彼女の写真を撮ることができたのです。彼女はとても驚いておりました。まさか、この瞬間が撮られるとは、思ってもみなかった。そのような顔でした。しかしながら、彼女は、恥ずかしそうに、 「そのお写真、後で私にも見せてくださいね。」 ただこう言ってくれたのでした。その後も、写真を撮ろうと致しましたが、撮ることは出来ませんでした。 彼女の写真、今思い返しますと、ほんの一枚しかありません。あのくしゃっと笑った笑顔。もう少し写真を撮らせてくれても良かったのではないでしょうか。白すぎる肌に、真っ赤なリップ。嗚呼、なんて美しいんだ。 パシャリ。 今度こそ、しっかりと撮れましたよ。 そうですね、そろそろお時間です。さよなら、愛する人よ。
人間
突然ではございますが、醜い生き物とはなんだと思いましょうか、鳥、虫、いえ、人間です。私や、貴方々と同じ人間なのです。なぜ、人間が醜いかって、それは言わずともわかっているでしょう?なに、私はそこまで意地悪ではございませんよ。少しばかり、話を聞いてくださりませんか。 我々は、今日も生きております、生きるためには、当然ながら、衣食住が必要でございます。そのために、我々人間は環境を破壊しているのです。木を切るなとは言っておりません、動物を害すなとも言っておりません、これらは全て生きるために必要なことなんですから、しょうがないのです。 さて、急に話題を変えてしまいますが、貴方は善と悪について考えたことがありますでしょうか。盗みを働くのは悪いことでございましょう、人を殺めるのも悪いことでございましょう。それでは、今一度思い出してみてください。生きるのに必要なことでしたら、本当に盗みを働くことや、人を殺めることは、悪でありましょうか。善と悪、これらを区別してはいけないと私は思うのです。一例と致しまして、芥川龍之介先生の作品、 「羅生門」では、生きる為ならば、盗みを働いても良い、しょうがない、下人は老婆の言葉から、そのような自我を生み出したのです。えぇ、時代背景はもちろん違いますよ。ですが、今も昔も、人間という生き物は変わりありません。何が言いたいのかと言いますと、我々は生きるためという言い訳をしているのです。結局はそういう事なのです。 我々は、今日も言い訳をし、息をしています。自分の欲望のままに生きております。私も、貴方も同じ人間です、こんなにも醜い生き物はいません。しかし、この醜さに人間らしさがあると思うのです。 人間はとても醜い生き物です。 それでいて愛おしいのです。 あとがき 皆様はじめまして。琉璃と申します。ただの高校生でして、おかしなところばかりだと思いますが、ここまで読んで下さりありがとうございます。これを小説と言っていいのかも分かりませんが、実は友人との会話を元にして、執筆した物なのです。まぁ、文豪好きの友人と語り合ったの方が、正しいのですが笑。 本当に知識もなくただただ文豪好きな高校生ですが、これらもよろしくお願い致します。 最後まで読んでくださり誠にありがとうございます。