海月
34 件の小説僕の蒼乃くんはズルい! #1 #BL
4限の体育が終わり、女子は講義室へ、男子は体育館のギャラリーでそれぞれ着替え始めた。蒼乃(あおの)と湊(みなと)は高校に入学してからずっと同じクラス。実はこっそり友達以上の関係になっていた。 そう、あのホテルでの出来事をキッカケにお互いの想いを知り、ここまで発展していたのだ。 湊は元々運動が苦手で、床にぺたりと座り込んでしまった。 「うぇ〜疲れたぁ……」 深いため息をついた彼の額に、突然ヒンヤリとした物が触れる。 「わっ⁉︎」 「えらいぞ湊〜! 頑張ったご褒美を授けよう!」 「蒼乃くん!」 蒼乃はニコッと笑い、スポーツ飲料を差し出してくれた。 「バスケ、湊にとっちゃ地獄だったでしょ? でも良いプレーだったぞ」 「いや〜、僕に比べたら蒼乃くんなんて、3ポイント決めてたもんね。つい歓声あげちゃったよ」 二人が喋っていると、体育教師がギャラリーの下から声を掛けた。 「湊、すまんちょっといいか? 記録の確認がしたいんだが」 「はい、分かりましたー。ごめんね蒼乃くん、先に教室行ってて!」 「全然大丈夫よ〜」 着替え終わった蒼乃は先に体育館を出て、湊は休憩の途中で教師のもとへ向かった。 * 用事が済んだ頃には、ギャラリーや館内には誰も居なかった。次の授業まで5分。湊はギャラリーにある荷物を持って、教室へ向かおうとした。 ふと、自分の荷物の近くに何かがあるのに気付き、湊はそれを拾い上げた。 「あ、これ……」 そこにあったのは、蒼乃の長袖体操着だった。きっと忘れていってしまったのだろう。湊はそれを大事にたたみ、少し笑みがこぼれた。 蒼乃くんの体操着…… 両手で持っていると、まだ彼の温もりが残っていて目の前に居る気がしてならない。思わず湊は、その体操着をぎゅっと抱きしめていた。 その時、体操着から蒼乃の匂いが空中に舞い、それを嗅いだ湊の中で、何かのスイッチが起動してしまった。 あ…まずい。こんな事、自分らしくないのに…… 気付けば湊は、飼い主を嗅ぎ回る犬のように、体操着の匂いを深く吸い込んでいた。頭がクラクラして、全身が脱力していく。 「や…ば、これっ…もう…」 湊はもう、顔が真っ赤になって呼吸が荒くなっている。我慢の限界だ。湊は周囲を見まわし誰も居ない事を確認すると、壁に寄りかかって自分のズボンを下ろした。 昂るそれに触れると、指から糸を引いている。匂いだけでこんなになるとは、我ながら驚く湊。 「…ごめん、蒼乃くん」 せっかくたたんだ体操着を左手で掴み、顔にうずめる。そして右手で上下に動かし始めてしまった。 「はぁ、蒼乃くん…ぁあっ…」 次の授業まで1分。湊はそんな事を忘れ、乱れた表情で夢中になって弄っていた。だが…… 「…湊?」 「‼︎」 突然声を掛けられ、びっくりしてそちらを見る。そこに居たのは、まさに今妄想していた人物、蒼乃だった。まさかの状況に困惑している。 「え〜っと…え?」 「ち、ちち違うんだよ蒼乃くん! いや、これは…っ」 やばい終わった、終わった、終わった…… 驚きと恥ずかしさと、気持ち悪がられていないかという不安が同時に押し寄せ、喋れない状態になってしまう湊。しばらく見つめ合う2人。すると、蒼乃はゆっくりと湊の方へ歩み寄り、壁に手をかける。 え? …壁ドン⁉︎ 「…体操着忘れたから取りに戻ったら、良いモノ見れちゃったな〜」 「ふぇ…、?」 蒼乃は汗ばむ湊の首に、そっと甘噛みをする。 「あっ…」 「…さてと」 今、湊を見ているその瞳は、兎を狩る狼そのものだった。 「お前のこと、どうしちゃおっかな〜?」 蒼乃の体操着が、床にぱさりと落ちた。 *** まだ教師が来ていない教室に、チャイムが鳴り響いた。とある男子が仲間に訊ねた。 「なぁ、アイツ体操着取りに行ってから帰ってこなくないか?」 「そういえば…あ、湊もいないな」 そこへ女子が割り込んできた。 「湊は知らないけど、蒼乃はどうせトイレでスマホゲームしてるんじゃない?」 「あーありえるわ」 「アイツの事だし、湊も巻き込んだんだろうな」 「断れないタイプに誘われちゃうか…」 「うわぁ俺もサボりてぇ…って、おい先生が来たぞ」 真面目そうな表情をした教師が入ってきて、生徒たちは正面を向いた。 すでに5限が始まった頃、あの2人は……… ーー本当にトイレに居た! 狭い洋式の個室の中で蒼乃は、壁に手をつけて恥じらう湊に向かって押し込んでいた。辺りに卑猥な音が響き、ネクタイはヨレヨレのまま、Yシャツのボタンは中途半端に取れかかっており、肌がちらちらと見えている。時々蒼乃は、その隙間に手を入れて胸部を弄る。 「ひあっ…」 「声出すなよ見つかるぞ…」 「だって、だってこんな……ああぁっ⁉︎」 あっという間に絶頂に達し、湊は便座にへたり込んでしまった。下半身には、粘液の雫がだらしなく垂れ下がっている。一つ息をつき、蒼乃も反対方向に寄りかかる。 「はあ……やっちまった…」 「その…ごめんね、体操着。洗濯して返すよ」 湊は顔がぐしゃぐしゃになったまま言う。 「湊お前…学校であんな表情でこっそりオナってんじゃねぇよ、反則だろ…」 「…反則?」 「そ、その気にさせるなって事だよ! んな事されると、こっちまでムラついてくるんだから…」 珍しく照れている蒼乃に、湊は笑って、今度は蒼乃にキスをした。 「ん…! みな、と…?」 「蒼乃くん、可愛い。好き」 照れている顔も、僕にしがみつく時の表情も、蒼乃くんが僕を求めているって伝わってくる。 「またそんな風に言って…もう加減しないぞ?」 「いいよ、蒼乃くん…♡」 またもや変なスイッチが起動しかけた時だった。 「お〜い蒼乃〜? 湊もいる〜?」 『‼︎‼︎』 クラスメイトの男子が、授業をサボってまでトイレに乱入してきた。蒼乃が慌てて叫ぶ。 「あ、あぁ⁉︎ なんだよ⁉︎ まさかお前もブロステやりに来たのかよ?」 「結局遊んでるじゃねぇか! なんか先生怪しんでるから、湊も一緒に早く来いよ〜」 「え、う、うん…」 外で扉を閉める音がして、2人は顔を見合わせる。 「…親、深夜出勤だから、絶対家に来いよ」 「え、いいの?」 「当たり前ぇだろ? こんな中途半端で終わったら、俺の身体がもたねぇよ」 「分かった。じゃあ、教室戻ろっか」 「…おう」 淫らな格好から着替えた2人は、正直このまま放課後までやっていたいと思っていたのだった。 fin.
バスタイム・ラバーズ #1 #BL
20時。とあるテーマパークの『EXIT』と書かれたゲートをくぐり、男子高校生の蒼乃(あおの)は指を重ねて大きく背伸びをした。 「っはぁ! 楽しかったな〜。やっぱり久々のジェットコースターは格別だったよな、湊!」 同じく男子高校生の湊(みなと)は、少し苦笑いを浮かべる。 「いやぁ〜…まあ、楽しかったけど、僕はちょっと怖かったかもな」 「はは、お前乗ってる間ずっと叫んでたもんな」 二人は昔ながらの親友で、中学の頃からこうして年に一度、一泊二日で夜遅くまでどこかに遊びに行くのだ。橋を渡り切ると、もうテーマパークの音楽は聞こえなくなっていた。前方に、二つの大きなビルが並んでいる。蒼乃が、そのうちの一方を指さす。 「よしじゃあ、あそこのホテルでチェックインしちゃうけど、どこかコンビニでも寄るか?」 「いや、もう部屋に入ろう。遊びすぎて疲れちゃったし」 「了解!」 こんな時間まで遊んだのは、今年高校生になって初めてで、二人とも相当疲れていた。ホテルのエントランスでチェックインを済ませ、予約した部屋の前に立つ二人。 「この部屋にも、有名なキャラクターの装飾とかがされてるらしいぞ」 「凄いね! じゃあ早速、開けてみますか!」 鍵をひねって中に入って明かりをつけると、湊は目を輝かせた。 「わあ…すっご…!」 その様子に、蒼乃も満足したような表情をしている。 「今まではビジネスホテルだったから、余計すごく見えるだろ う!」 「うん!」 そうしてしばらくベッドの上で寝転んでいると、蒼乃が言った。 「そろそろ風呂入るけど、お前も一緒に入るか?」 その言葉に、湊は驚き戸惑う。 「…えっ!?」 「はは、そんな驚くかよ。ここの部屋、ちょっと高かったじゃん? 実は、夜景が見れるジェットバスがついてるんだって! そんなの、一人で入るにゃもったいないだろ?」 笑顔でそう言う蒼乃。湊の頭は混乱していた。 ーーあ、蒼乃と一緒にって…あいつは平気なの!? 何も思わないの? 僕はやっぱり…他と変わってるから無理だけど、でもでも、あんな笑顔で言われたらさすがに断れないし…いやさすがに冗談か、あれ? でも、蒼乃が冗談ついてる時なんて見た事ないし……ああクソ、最後にケアしたのいつだったっけ!? 「…湊?」 「ふぁいっ!?」 湊は思わずおかしな返事をしてしまう。そしてーー。 「…ハ、ハイロッカ…イッショニ」 「よしきた! 絶景らしいから、湊もきっと気にいるぞ!」 「ウ、ウン…」 湊の顔は、既に赤くそまっていた。 *** 泡立つ湯船の片隅で、湊は硬く縮こまっていた。 「…そんな片隅にいなくてもいいのに」 「え、そう? …あ、ほら! 夜景、綺麗だよねー!」 適当な場所をふらふらと指さして誤魔化す湊を見て、蒼乃は微笑した。 「ふふ、ははは」 「な、なんだよ…」 「なんかさ、風呂入る時から様子おかしくない? 湊」 いや別に…、とまた誤魔化そうとすると、蒼乃は顔を近づけて湊をまじまじと見つめる。 「…蒼乃?」 「なに恥ずかしがってんだよ。顔真っ赤だぞ?」 「だ、だって蒼乃がーー」 「こんな狭い風呂、普通2人で入らないもんな」 「え?」 ガラス張りの浴室に、お湯とはまた異なる熱気が漂う。 to be continued… 作:海月 名付け親:高嶋のぎ
魔法が解ける、その前に 前日譚 夜真side
とある土曜日。黒咲 夜真(くろさき よま)は、自分の部屋の棚に飾ってある水晶玉を見た。紫色を基調としたそれは、窓からの日光を集めて美しい光を放っている。それは夜真が10歳の時、男手一つで育ててくれた父親がくれた物だった。ふと、夜真は自分の目の前で両手を広げてみた。するとその手のひらから、ぬるぬると黒い何かが出てきた。それはやがて尖った形状になり、うごめく触手へと変化した。これが彼の闇属性の魔法。身体の至るところからこのようにして触手を生やせるのだ。幼少期に離婚した母親は魔法を持たず、父親が闇の魔法を持っている。夜真は父親の遺伝子を継いだのだ。彼が3歳の頃、無意識に出していたその触手を、魔法の事を知らない母親が見つけてしまったのだ。 ーーこんな子、私じゃ育てられない! そう言い、母親は出ていってしまった。夜真はその事を知らない。 「…暇だな」 そう呟く夜真。人とあまり関わらない彼は、休日はほとんどする事がない。窓の向こうから、誰かがはしゃぐ声が聞こえる。その特徴的な声に、夜真は聞き覚えがあった。 「あの人、休みの日には大体あの鳥と遊んでるんだよなぁ。俺にもペットがいれば楽しいかもしれないんだけど…」 その時、遠くの窓の向こうで何かがひらひらと飛んでいるのが見え、夜真は触手を使って静かに窓を開けた。そして部屋の中に入ってきたのは、なんと、光り輝く蝶のような生き物だった。夜真が手を差し伸べると、蝶はしばらく手の周りを羽ばたき、やがて人差し指にとまって羽を休めた。その美しい輝きを放つ蝶を見つめ、夜真は不思議な気持ちになった。 「この蝶、綺麗だな。なんて名前の蝶なんだろう?」 夜真はスマホを取り出し、光る蝶を脅かさないように写真に撮って画像検索にかけた。だが…。 「…ウスキシロチョウ?」 画像とその光る蝶を見比べる。そんなはずがない。スマホをしまい、また蝶を見つめる。 「俺が暇だったから、遊びに来てくれたのかな。ありがと」 蝶は夜真の指から飛び立ち、部屋の周りをふわふわと漂った。それからしばらく夜真は、羽ばたく蝶を眺めていた。 作:海月
予告
大規模合作企画、始動。 海月 ✕ 七宮叶歌 ✕ 高嶋のぎ ✕ スズラン ✕ 叶夢 衣緒。 ✕ だked ✕ カタツムリ 以上、7人のNoveleeユーザーによる恋愛ファンタジーを制作中。 前日譚も投稿予定。 ーー君にこの想いを、伝えたい。
お前は殺せない
激戦のなか、崩れた建物の隙間に二人の戦士がいた。そのうち一人の戦士のナオトは、深い傷を負って体力もほとんど残っていない。やがて、仲間のアキラにこんな事を言い出した。 「痛い…もう俺はダメだ。どうせ死ぬなら、お前に殺されて死にたい。頼む、俺を殺してくれ…!」 「は⁉︎ なに言ってんだよ!俺はお前を殺せねぇよ!」 だが、アキラはすぐに否定した。 「はは…おまえは優しいよな。でももう、俺も限界なんだ。痛くて痛くて、たまらないんだよ」 致命傷を負っているはずのナオトだが、どういう訳かいつまでも意識がはっきりしているせいで、苦しんでいる。アキラは、ただそれを見守ることしかできなかった。 「ナオト…」 「だから頼む、お前が俺を殺すんだ。あぁ痛い! 早く、早く殺してくれ‼︎ 早く‼︎」 ナオトの苦しむ姿に、アキラは泣きながら叫んだ。 「無理だよ! 俺にはそんな事できない!」 「ためらうな! 俺は構わないから、そのナイフで刺すんだ!」 「違う、そういう事じゃない。本当に『できない』んだよ!」 「はあ…? どういう事だよ?」 困惑するナオトに、アキラはこう言った。 「忘れたのか? このマッチはフレンドリーファイアが無効になってるんだぞ! いくら仲間に攻撃してもダメージ通らねぇよ!」 作:海月
Silent Vortex 〜影の旋律〜 DATE1(#3)
ーーなんなんだよあいつら…俺らを殺害するだと? いやそんな事より、一体、どうやってここがアジトだって分かったんだよ! ハッカー集団のボスは、男と逃げ惑いながら考えていた。彼らに分かるはずもない。Silent Latticeは、24時間日本各地の街の様子、治安、ニュースをずっとモニタリングをしているのだ。その手段として、ネットニュースや気軽に呟けるSNS、至る所に設置されているライブカメラなど。彼らの情報網は、格子のごとく規則正しく張り巡らされているのだ。 * 一方、霞真たちは激戦を繰り広げていた。 ーー素人の動きではないな。意外と動きが速い。油断してたら撃たれてしまうかもな。だが… 霞真はナイフを握りしめ、目の前の男の胸ぐらを掴んだ。そして、奴の頸動脈を刺す。 「がッ…」 派手に血飛沫を上げながら、ばたりと倒れた。顔やローブに血が付着するも、霞真は構わず次の標的の方へ向かう。陸斗は右手に投げナイフを三本持ち、一本ずつ投げた。それはまっすぐ飛んでいき、男の胸に突き刺さった。 「ぐあぁっ!」 陸斗が投げるナイフは、99%の確率で命中する。そして彼らは、十分もしないうちに武装する男たちを全員殺害した。だが、本命は奴らではない。 「陸斗、あのボスらはどの方向へ行った?」 「たしか、そっちの出口に逃げたんじゃないかな」 霞真は手についた血をはらって、無線機を手に取った。 「こちら霞真。団員二十人の始末完了。残りの団員一人と、ボスの始末に向かう。Latticeはここの処理と、サーバーなどの回収を頼む」 《了解》 Latticeのもう一つの役目。それは、死体や返り血の後始末だ。特殊なスプレーなどを使って汚れを拭き取り、死体は持ち帰ってアジトの焼却炉で燃やす。全てを無かったことにするのだ。霞真は奴らが持っていた銃の残りの弾数を確認し、一丁を陸斗に渡し、自分も装備した。 「ボスを追うぞ」 「おけ」 霞真と陸斗が部屋から出ようとした時だった。無線から、焦っている様子の声が聞こえた。 《こちらLattice! ターゲットらしき二人の人物が、建物外へ逃亡している!》 「なっ…もう逃げ出したのか⁉︎」 続いて、別のメンバーからも無線が入った。 《こちらLattice。現在地付近にターゲット確認。今なら奴を仕留められます》 「おい、仕留めるってお前、なにで…?」 《今、手元に護衛用のナイフがあるので、覚悟はできています》 そう言う諜報員だが、霞真は首を大きく横に振る。 「ダメだ! 奴は銃を持ってるんだぞ。お前が先に殺られる!」 《しかし…》 「おい、霞真! あいつじゃね⁉︎」 陸斗が窓の外を指差してる。そこを見ると、ビル近くの道を、あの二人組が走って逃げている。その時、霞真はその窓を急いで開けた。陸斗は彼が何をしたいのかをすぐに理解し、慌てて彼を止める。 「おい、よせよ。ここ12メートルもあるんだぞ。怪我でもしたらどうするんだ…」 「止めるな‼︎ 今しか奴らを殺せない!」 陸斗の手を振り払い、霞真は窓から外へ飛び降りた。そして、僅かな空気抵抗を受けながらボスの方向へと飛んでいき、何も知らない奴にドロップキックをした! 「ギャアァァァァァ⁉︎」 ボスの肋骨が折れる音がした。霞真はすぐに姿勢を立て直し、二人をナイフで切りつけたのだ。倒れ込む二人。 「はぁ…はぁ…」 霞真の身体に疲労が押し寄せてきた。 「…死ぬかと思った」 そこへ、陸斗とLatticeのメンバーが駆けつけてきた。 「大丈夫か、霞真⁉︎」 「ああ、なんとか間に合ったよ」 「マジで無茶すんなよ、映画のワンシーンみたいな事しやがって!」 「手段がこれしか無かったんだよ」 こうして、Specter Hackの核が殺され、奴らの犯行は二度と起きなくなった。 * 翌日のアジト。Silent Vortexのメンバーの真夜が、霞真から当時の話を聞き終え、信じられないような表情をしていた。 「なにその映画みたいな倒し方…危なすぎない?」 「陸斗と同じ事言ってるじゃねぇか」 「霞真はすぐそうやって無茶するんだから。自分の身体は大事にしないとだよ?」 「…まあ次からは気をつけるよ」 本当なの?と言う真夜に、霞真は苦笑した。 DATE1 fin. 作:海月
Silent Vortex 〜影の旋律〜 DATE1(#2)
「本日、電子マネーサービス『EasyPay』が、ハッカー集団によるサイバー攻撃を受けた」 モニターに映る情報を指差しそう言うのは、諜報員グループSilent Latticeのリーダー、静馬だ。とある地下アジトの20時。ミーティングルームの中で霞真と陸斗も、真剣そうな表情で話を聞いている。 「そのハッカー集団の正体なんだが、かの有名な『Specter Hack』によるものである事が判明した」 「!」 Specter Hack。世界中で様々な電波障害、ハッキングを繰り返す厄介なハッカー集団だ。金銭や情報漏洩などを目的に動いており、毎年至るところで被害が報告されている。 「霞真。どうやらお前も被害に遭ったみたいだが、復旧はしたのか?」 「ああ、残高も減っている訳ではなさそうだし、大した問題はない」 陸斗が尋ねた。 「それで、奴らの拠点はどこか分かったのか?」 「もちろんだ。今回は駅近くにある〇〇ビルの四階を使用していたらしい。どうやらリーダーらしき人物もそこにいるらしいから、今夜、Specter Hackの核を潰すぞ」 「おお…なんかワクワクするな!」 そう言う陸斗に、霞真がつっこむ。 「殺し屋がワクワクするって、滅多に聞かないぞ」 「でもさ、俺らの手で、世界の治安を影ながら救うって、やっぱりかっこいいだろ!」 「…まあ、悪い気はしないかもな」 「だろ⁉︎ よし、今日も頑張るぞ!」 一層張り切る陸斗。静馬はモニターに繋いでいたパソコンを閉じた。 「ーーでは、22時に作戦を遂行する。それまでに準備してくれ」 「了解」「了解!」 * 〇〇ビル。それは数十年前に倒産した会社のビルで、所有者もすでに亡くなっている。解体するにも莫大な金が掛かり、今も残っている。薄暗い部屋を、不気味なサーバーの光が照らしていた。 「ボス、次のターゲット地区の提案を頼む」 大勢いる男のうちの一人の男が、Specter Hackのボスらしき人物に尋ねた。ボスは腕を組み、テーブルに広げられた地図のとある位置を指差した。 「明日、このあたりでイベントがあるらしい。人通りも多いし、ここにしよう」 そんな怪しげな話し合いをしている時だった。物凄く大きな音がしたと思ったら、入り口のドアが破壊されていた。 「ーーッ⁉︎ 誰だ⁉︎」 そこからコツコツと足音が響き、二人の人物が現れた。そう、霞真と陸斗だ。二人とも黒いローブを身にまとい、霞真は二本のダガーナイフ、陸斗は数本の小さな投げナイフを持っている。 「あんたがSpecter Hackのリーダー、イシダ ヤスノリか。こんな汚ねぇとこでコソコソしやがって」 「な、何故それが分かる!」 陸斗の言葉に動揺するボス。霞真もこう言う。 「我々は、お前らの行動が世界の秩序を乱す存在であると判断した。よって、本日お前らを殺害する」 その言葉に、ボスは一気に青ざめた。だがーー。 「まさかこんな事になるなんてな…おい、アレを用意しろ」 周りの男たちは、自分の懐からピストルを取り出した。 「へぇ…セキュリティガバガバかと思ったら、ちゃんと対策はしてあるんだね」 陸斗の煽りに、ボスが怒鳴る。 「黙れ! お前ら、こいつを蜂の巣にしろ!」 「「押忍‼︎」」 そうしてボスは、一人の男を連れて奥へ逃げ出した。 「殺れるか、陸斗?」 「勿論! 俺についてこい、霞真‼︎」 「…偉そうなヤツ」 Specter Hack武装者の二十人 対 霞真&陸斗。 二人は、銃を持つ群れに向かって走り出した。 to be continued… 作:海月
Silent Vortex 〜影の旋律〜 DATE1(#1)
Silent Vortexーーそれは、日本全国に潜む悪を抹消させるために立ち上げられた、凄腕の暗殺グループである。二本のダガーナイフで標的を切り裂く霞真(かずま)。銃器を使いこなし、相手に触れずに仕留める真夜(まよ)。大剣クレイモアで、一度に多人数を葬る龍也(たつや)。鎖鎌を振るい、目にも留まらぬ速さで標的を巻き付け、斬りつける明莉(あかり)。投げナイフを使って、標的を無音で仕留める陸斗(りくと)。様々な薬品を使い、賢く倒す京子(きょうこ)。彼らは新潟県に存在する地下アジトを拠点とし、今もどこかで任務を遂行している。 ある正午のことだった。霞真と陸斗が駅近くのカフェで昼食を取っていた。普段プライベートで関わることの少ない彼らだが、珍しく霞真が陸斗を誘ったのだ。陸斗は運ばれてきたコーヒーカップを手に取り、香ばしいコーヒーの香りを嗜む。 「今日は誘ってくれてありがとな、霞真。にしても、お前から誘ってくるとは珍しいじゃんか」 「ああ。たまには仲間と食べにいくのも悪くないと思ってな」 霞真も、注文したフレンチトーストを食べ始める。普段の仕事では見せない、僅かなリラックスした空気がゆったりと流れていた。 数十分後。空になった食器が乗ったプレートを返却棚にのせ、会計へと向かう霞真。 「これくらいなら、俺が払ってやるよ」 その言葉に、陸斗は目を輝かせた。 「え、いいの⁉︎ さっすが霞真、イケメ〜ン!」 「うるせぇ」 そう言いながらも、店員の方を向いた。 「千六百円です」 「QRでお願いします」 霞真はそう言うと、スマホを取り出し、電子マネーのアプリを開く。機器にスマホを当て、決済しようとしたが、いくら待っても、決済完了の表示がでない。やがて、こんな表示が出てきた。 『原因不明のエラーが発生しました。時間をおいてもう一度かざしてください』 「…ん?」 その後も何度も決済を試みるも、やはりエラー表示が出てしまう。そうしているうちに、後ろに会計待ちの行列ができてしまい、これ以上時間をかけると怒られてしまう。 「すまん陸斗。後でATMで下ろして返すから、今払ってくんね?」 「あ、ああ」 そうして陸斗は現金を出し、カフェから出ると、霞真は現金を下ろしにコンビニへと向かった。外で待つ陸斗。 「サイバー攻撃にでも遭ったのか…?」 そう呟いていると、突然、後ろから声をかけられた。 「こんにちは、お兄さん! こちら、試供品です。ぜひお試しください!」 「え? あ、はい…」 手渡されたのはポケットティッシュ。だが陸斗は、先ほど声をかけてきた人物に見覚えがあった。 「Latticeの諜報員か? てことは…」 Latticeというのは、Silent Vortexに所属して、情報収集の役割がある諜報員のことだ。陸斗はティッシュの紙を全て取り出し、それらを一枚一枚確認した。すると、そのうちの一枚に文章が書かれてあり、それを見た陸斗は険しい顔になった。 「…なるほどな」 to be continued… 作:海月
暁に咲く花
静まり返った戦場で ただ一人、歩いていた 傷だらけで冷たくなった 彼を背負って 街で湧き上がる歓声 勝利を祝う人々 そんな中笑えずにいた 私がいた 忘れはしない 彼の最期の笑顔 頬にキスをして 柔らかい地面に埋めた もしも貴方に会えたら 勝利の喜びを分かち合いたかった 結局、何も得られなかった 私は 何のために戦ったんだろう? 朝の紅茶にふたつ カップを並べてみた そこに座る幻影を 探していた 風に語った あの日の川のこと 笑うあなたの声が 胸を締めつけた もしも貴方に会えたら もう一度だけ笑い合いたかった あの静かな午後のように 私は ただ隣にいたかっただけ もう戦わなくていいなら この痛みも終わるのなら せめて夢の中だけでも 貴方に会わせて もしも貴方に会ったら もう一度貴方を抱きしめたい またあの時のように あの頃のように 一緒に暮らしたい もしも貴方に会えたら 勝利の喜びを分かち合いたかった けれど胸に残るのは この孤独と 答えのない祈りだけで もしも貴方に会えたら もう一度だけ笑い合いたかった ただ隣にいるだけで それだけで 私は救われていたのに 風が頬を叩いた 遠ざかる世界の音 痛みも涙も すべて 空に溶けていった そして 懐かしい背中が、 見えた、 気が、 した 作:海月
涙
今、自分にはストレスが溜まってると思う。友人関係、成績、家族…。あらゆる場面でネガティブになり、どんどんと自分の中でストレスが溜まっていく。ふと、ストレス発散というワードが思い浮かび、色んな発散方法を試してみた。…でも、発散できなかった。ある日、学校の保健だよりの見出しに、こんな事が書いてあった。 『涙を流すことによって、ストレスが発散される。』 その文章によれば、涙には身体にあったストレス物資が含まれており、泣くことで気持ちが少しすっきりするらしい。でも、自分は何故か涙が出ない。どんなに感動的な映画を観ても、良かったとは思うが涙は出なかった。今、自分にはどれだけストレスが溜まっているのだろう。自分の心に、じっとりとしたストレスがまとわりつき、涙が出ないほどに虚無と化していた。 だが時々、そのストレスを感じなくなる時がある。自分が好きな食べ物を食べたり、ゲームで勝ったり、友達とカラオケに行って、喉が渇れるまで歌ったり...。その瞬間だけ、心がカラッとする。そうして、 「そこまで深く考えることじゃないか。」 と思い、また次の日頑張れるものなのだ。いつか今の困難を乗り越えられ、溜まっていたストレスが、氷が溶けるように発散される日が来るのだろうか。そんな事を考えながら、今日も頑張った自分を褒め、布団にもぐりこんだ。 作:海月