すてぃぷ
53 件の小説すてぃぷ
こんにちは!すてぃぷです。生首をテーマにした作品『Neck Girls』を作っています(物語、LINEスタンプ、イラスト)。インスタはoz_ma21です。そちらの方もよろしくお願いします(*_ _)♡ 全ての連載を合わせたものが『Neck Girls』です
生きていた少女③
琉偉とは、小学校が同じでクラスも一緒だった。そして、小学生の頃の私は男勝りな性格なこともあり、休み時間になるとよく男子とサッカーやバスケットボールなどをして遊んでいた。琉偉も、その遊び仲間の一人だった。 しかし、中学生になってからは変わった。それは、どの部活に入るか友人と迷っていた時のこと。当然、最初はサッカー部かバスケ部に入ろうと思っていた。でも、女子サッカー部はなかった。大本命だったのに。仕方なく、休み時間に校内を探索していた。すると、あるものが目に止まったのだ。それは、廊下の壁に飾ってあった、サッカーボールとサッカーシューズをモザイクアートで表現した作品だ。その絵を見た瞬間、身体に電流が走ったのは、今でも覚えている。そう、私は、私の身体の中で、サッカーボールを蹴ったのだ。それをきっかけに、美術部に入ることにしたというわけ。 さて、今日は何を描こうかな。
限界ホストのお話⑲
このままで三十歳を迎えたくない。そう思った俺は、こんなブラック企業を辞め、そして………… ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺はホストになることにした。突然すぎて驚くかもしれない。しかし、それには、俺なりのちゃんとした理由があるのだ。少し耳を傾けていただきたい。 今まで話してきた通り、俺は〝顔〟だけは昔から褒められてきた。それ以外は、全くといっていいほど平凡中の平凡だが。まぁ、ということでこの顔を生かせて女性を相手にする場面が多い仕事なら、女性経験が積める、と考えたわけだ。我ながら合理的ではないか?一時は、己の誘惑に負け、風俗で経験すればこの問題を回避できると思った。しかし、それは俺のプライドがどうしても許さなかった。そんなテキトーに女性を利用していいのか?と。男たるもの、一度は女性を口説き落とし、自らの技量を試したいものだろう。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ そんなこんなで、ホストとして無事採用されたことは良かったものの、またしても難題が待ち受けていたのだった。
Neck Girls #29
婦人たちは、霊媒師の住処へ出発することにした。しかし、山道ということ、そもそも今まで見たこともない一本道で直線ということで、なかなかたどり着けず苦労することになる。 「…ッはあ、はぁ、ふぅ…」 普段から運動し慣れてない上に山道だ。婦人は息を切らしながらも草木をかき分け、登っていく。頼りになるのが住所と、あの適当な地図、そして着いた時にわかる目印のみ、ということで道のりはとても険しかった。思わず本音が漏れる。 「…もう!なんなのよ。なんでこんな場所まで行かないといけませんの!?」 でも、ここまで来た以上、引き返すことはできない。辺りは段々暗くなり、烏だろうか。不気味な鳴き声が聞こえてきた。しかも、あれ?だんだん鳴き声が近くなっている気がする。 すると、目の前の視界が一気に開けた。よく見ると、家だろうか。小屋のようなものがポツンと、そこに佇んでいた。 「もしかして……ここ?」 その小屋の周りには、確かに、一目見てわかる〝目印〟が数え切れないほどあったのだ。小屋を取り囲むようにアリの巣がボコボコとあり、そこら中に虫という虫が死んでいる。そして、その虫にアリが群がる、といった具合だ。小屋自体にも………蜘蛛の巣が沢山あって、どこが入口かわからない。う、うぅ…お爺さんの言う通りの〝目印〟だが…………。ここを通るのには…また別の勇気が必要だ。私は、マネキンヘッドを入れたダンボールを開き、彼女たちを見る。 いや、ここまで来たんだ。なんとか〝霊媒師〟に見てもらわらないと。 虫たちを踏まないよう、恐る恐る玄関らしきドアを探しながら前に進む。すると、何か唱えているような声が聞こえた。 「こっちかしら…」 音を頼りに進んでいくと…ドアを見つけることができた。よく見ると、ドアの近くで一羽だけ、烏がこちらを見て佇んでいた。 「ヒェッ…」 驚きの連続だったが、私は、恐る恐る玄関?らしき正面のドアをノックしてみることに。 (コンコン)「もしもし…どなたか、いらっしゃいますか……?」 しかし、返事がない。やはり違うのか…?と不安がさらに増す。いや、もう1回やってみようかしら。 (コンコン)「ごめんくださーい…」 まだ返事がない。 「うーん、でも声が聞こえるし、絶対誰かいるわよね」 だんだんイライラしてきた。三度目の正直、しっかりノックして、大きな声で聞いてみよう。 「もしもーし!どなたか、いらっしゃいますかーー!?」 すると、そこでやっと返事があった。 「はぁーい。」 気の抜けたような返事だ。こちらに向かってくるような音がだんだん近くなってきた。しかし、それとは別になにやらガサゴソとかき分けるような音も聞こえる。部屋が散らかっているからか?そう思ったところで、霊媒師だろうか。声が聞こえた。 「どちらさまですか?」 「あ、私動く人形を持ってきました。多分あなたの知り合いのおじい様の紹介で来た者でございます。」 「あぁ〜!ずっとお話を聞いていました。動く人形ですね!」 言いながら霊媒師はドアを勢いよく開ける。(バンッ) 「わ、あ、あぁぁぁ!!すみませんすみません!!!」 あまりの勢いに私は尻もちを着いてしまった。 「あ、ああ…そうです、その通りです…」
限界ホストの話 ⑱
俺は、しばらくの間、ただただ、呆然と、魂があるんだかないんだかわからない状態になっていた。揶揄するなら、〝ゾンビ〟が適切だろうか。そんな状態で会社に通ってるもんだから、当然、仕事の効率も下がってくる。でも、俺は、どうしても、ショックが大きすぎて、立ち直れなかったんだ。 三角は結婚。安藤はあの白川と…。そうして、みんな離れていってしまった。クソ……!思い出すだけでも、こんなに寂しくなるなんて。たくさんの人に支えられてここまで生きてこれたことに気付いてなかった。離れてから気付いた。俺は、独身チェリー野郎(二十九歳十一ヶ月)だったのか。 やばい、あと一ヶ月で三十歳になっちまう。あの、三角が言ってた、〝魔の三十代〟だ。なんなんだよ、「三十歳になっても女性経験がないと、男(同性)としか恋愛できなくなる」って。そんなことが現実にあってたまるか。 しかし、今、極限状態にある俺にとっては、その言葉が酷く脳裏にこびり付いていた。そうだ。今までは、一人でも大丈夫だと高を括っていたが、そういう年齢になると違う。仕事の効率が悪くなり、収入が減ると生活にも影響が当然出てくるはずだ。そういえば、最近、うちのロボット掃除機も節約のために眠ったままだった。食事も、ラーメン生活から安い駄菓子生活に変わった。健康状態もどんどん悪くなっている気がする。心臓が時々痛い。それに、目にも力が入ってしまってるせいか眼の奥が痛くてしょうがない。 これは、早急になんとかせねば。俺は必死に、どうしたらこの負のループを抜け出せるのか考えた。ひたすら歩き、考え続けた。そこで、一つの答えに辿り着いたのだ。それは……
Neck Girls #28
「な、なんですかこれ…」 描かれているのは、一本の直線だ。病院から山奥の住処まで真っ直ぐに線が引かれている。 「なんですかって…地図だよ」 …………………?地図…これが? 一同の頭に「?」が一気に浮かぶ。この人は何を言っているんだ。入院しているのもわかる。婦人もクセが強かったが、患者もやはりズレている気がする。 「いや、あの、ほんとにこんな一本道なんですか?それに、これじゃ目印も何もないしわからないですよ……」 「いやいや、ほんとにこんな感じだよ。」 「いや笑。さすがにそんなわけないですよ!しっかり思い出してくださいって。こっちは真剣なんです!」 「そんなこと言われてもなァ…ほんとにこうなんだよ。」 「一歩譲って一本道はいいです。だとしても、こんな不自然なくらい真っ直ぐってありえないですよ。そんな道ここらへんになかったですって。」 「あるよ。木々に埋もれて見えてないだけだ。」 「そうなんですか?というか、木々に埋もれて見えてないって、さらにわかりにくいじゃないですか。ちょっと、携帯の地図で詳しく説明してもらってもいいですか?」 「うーんもう、めんどくさいねぇ…。あぁ、そうだ。」 患者は霊媒師に電話をかける。 「もしもし。ああ、なんか地図を渡してそれで行ってもらうようにしたんだがねぇ、どうもわからないらしくて。ほんとに、簡単に、分かりやすく描いたつもりなんだけどねぇ……。それでなんだが、住所を教えれば一発でわかると思って。彼女に住所を教えてもいいかい?」 (住所………うーん) 「教えたくなければ別に大丈夫さ。」 (いや、教えてもいい) 「そうかい?」 (うん。なにしろ、今日しかチャンスがない気がするから) 「そうなのか…」 その後もいろいろ話している。そして、電話が終わった。 「あいつに住所を教えてもいいか聞いてみた。そしたら、あんたには特別にいいそうだよ。この地図に住所を書いとくから、それなら確実に行けるだろう?」 「あ……はい!そうですね。ありがとうございます。じゃあ、今日はもう遅いのでまた後日行きますね。」 すると、患者はキョトンとした顔でこちらを見た。 「後日?今日行かないと霊媒師には会えないぞ?」 「え?」 「だって、今日がその〝運命〟の日じゃないか。あいつもそれを信じていて、また後日だと心変わりして会ってくれないぞ。」 「そうなんですか………いや、でももう午後の五時半ですよ。それで、三時間かかるってなると向こうに着くのは夜の八時半頃になります…。」 「充分間に合うじゃないか。」 「いやぁ、えと、そうじゃなくてですね。初めて行く場所、しかも山奥のわかりにくい場所ですよ。そんなスムーズに着くはずがないです。それに向こうでいろいろお話してるうちにもっと遅くなって家に帰れない可能性だってあるじゃないですか。」 「なら泊まっていけばいいんじゃないか」 「泊まる…えぇ…」 「ほら、こんな話をしているうちに時間はどんどん過ぎてくぞ。さっさとするんだ」 「わ、わ、わかりました!今から行きます。じゃあ最後に、この家に着いたことがわかる目印を教えてください…!せめてそれがないとわからないので。」 「目印ね、目印は……」 患者に目印を教えてもらい、早速婦人は霊媒師の住処へ向かうことにした。
Neck Girls #27
婦人は家でやった質問をもう一度やる。当然ながら同じ反応を返す私たち。それを見て驚きつつも呆れる患者。あぁーもう!そんなことはいいから、早く別のことを聞いてください……(泣) 「だかラーーッッ!そういうこと質問してほしいわけじゃないんだって!名前は、モゥ、いいから!」 「そうよそうよ!名前なんて、聞いたところで何になるの?大事なのはそこじゃないでしょう。」 「そうです!私たちが元々は人間だったこと、生きてるってことをわかってほしいのに……!!」 患者もその様子を見兼ねたのか、頭をポリポリ掻きながら呆れて言った。 「あぁ〜、もういいわい。こんなことやってても埒(らち)が明かない。ちょっと知り合いに電話させてもらうわ」 患者は知り合いの霊媒師に電話で連絡する。 「…ああ。そうそう。……そうなんだよ。おかしな話だよなぁ。拾ってきた人形が動くなんてさ。………え?あぁそうか笑。おいおい、お前さん何をやっているんだ笑笑。……そうだな、その状況なら動けない。……ああ、確かに。そのほうがいいかもしれん。」 「どうしたんですか?」 「ん?あぁ、なんか、家の掃除をしていたらしいのだが、あいつはそういうのが苦手でね。家から出られない状態になってしまったらしい。」 「えぇ…!?」 「まあ、あいつは元々人に会うのが苦手でね、山奥に住んでるんだ。それもあってかここまで降りてくるのがめんどくさいらしい。」 「ええっと…つまり?」 「そう!人形はあいつの家で見てもらうことにしよう!!わっはっはっはっはー」 一同唖然とする。美麗さんは特に嫌そうな顔。 「待って、冗談じゃないわよ。この人の家でも人形が溢れて嫌だったのに今度は山奥の、しかも、家から出られなくなるほど散らかってる場所に行かなきゃいけないってこと!?」 婦人は尋ねる。 「え、ちょっと待ってください。山奥に、その霊媒師が住んでるって…しかも家から出られなくなるほどって、どういうことですか。」 患者は相変わらず笑っている。本当に、あっけらかんとした人だ。 「なんだかわからんが、今日は何か運命的なことがあると言っていたんだ。まぁ、霊媒師の勘みたいなもんじゃないかい?あんた達が来ることを予想していたようだよ。それで、久しぶりの来客だから家中の掃除をしていたんだと。でも、とても慌てていたのかね。どこから手をつけていいかわからず、いろんな場所を中途半端にやっているうちに、家から出られないほど散らかってしまったようだ笑笑」 どこから突っ込んだらいいか分からないが、とりあえず、患者の言う〝霊媒師〟は只者ではないということがわかった。おそらく、婦人と同じくらいの狂人だろう。 「私たちが、来ることを予想していた!?霊媒って…そこまでできるんですね!」 次々と出てくる謎に、私はワクワクが止まらなかった。こんなに楽しみなことは久しぶりだ。っと…危ない、思わずヨダレが出そうだった。 「えぇ…なんかいろいろ話がついていけないんですけど。」 婦人は私たちの気持ちを代弁してくれた。言葉は分からなくても、少しは、気持ちが伝わったのかな。 「まぁとにかく、その霊媒師の住んでる場所に行ってほしい。そこに行けばたぶん見てくれるから。向こうもそれで納得しているようだよ。」 「…山奥って、ここから車でどのくらいかかるんですか…?」 「うーん、そうだな。この病院からだと、軽く三時間くらいはかかるんじゃないかい?」 「さ、三時間……」 「ま、私もあんまり行ったことないからわからんのだけどね。ただ、彼女の霊能力は確かだと思うよ。あんな山奥にわざわざ足を運ぶ人が月に十人くらいはいるから。」 「月に十人…それは、霊媒師としては多い、ということですか?」 「多いと思うよ。なにせ、彼女は自分の情報を明かさずひっそりと暮らしているからね。それなのに人が訪れるってことだから。」 「まぁ、この話はとにかく終わりにしよう。早く人形を見てもらえ。ほれ、これがその地図だ。」 患者は手描きの地図を渡す。
Neck Girls #26
病院にて。婦人は、持ってきた三首も合わせて全て患者に見せる。 「おお、これで四首全てか。」 「はい。」 「それにしても、個性的だね。持ってきた三首も派手な髪色だし、髪の束が輪っかのようになってる。触覚もあるね。」 「そうですね。」 「まあ、とりあえず昨日と同じ質問をしてみるか。」 「あ!それなんですけど、今朝もう質問しちゃったんです。」 「おぉ、そうなのかい!?」 「はい。そしたら、全員名前はあるということがわかりました。この二首の子は日本語、金髪の子は日本語か外国語かわかりませんでした。」 「日本語か外国語かわからない?どういうことだ。」 「どういうことなんでしょうねぇ…この子だけ名前がそもそもないか、最初に首を振ったように見えたのは私のただの勘違いか…」 「ああ…まあ、あんたしか見てないんだもんな。見間違いってこともあるかもしれん。やはり、もう一回同じ質問をしてみたほうがいいんじゃないか。」 「そうですね。」 そう、質問をしようと口を開いたところだった。婦人は動きが少し止まった。 「…あの、この子たちが動いてるのも私たち二人しか見てないじゃないですか。」 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 患者が頷く。 「やはり、もっと多くの人に見てもらったほうが早く解決するんじゃないですか?」 「……………おぉ、確かに。」 しかし、患者は問いかけた。 「ていうか、解決って、何を解決するんだ?この人形、確かにおかしいこところは多いが、それで困ってることはないんだろ。ただ動くってだけで。」 「いや、まあ、困ってることはないんですけど…」 「というか、あんたは動いてくれて嬉しいんだろ?聞いたことに答えてくれてるように見えるのはあんたにそういう思いがあるから、良い方向に勘違いしてるだけなんじゃないか?」 「そうなんですかね……」 婦人は心のモヤモヤがどこか晴れないようだ。 「何がそんなに引っかかってるんだ?まあ、昨日話した通り、霊媒師に見てもらえば早いし楽だろ。」 「あ…は、はい!見てもらいましょう。でも、念の為もう一回質問させてもらってもいいですか?」 「どうぞどうぞ、ご自由に。やっておくれ。」
Neck Girls #25
家に帰宅し、婦人はまどかをいつものテーブル上に置いた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 「…というわけで、みなさんも病院に持って行かれることになりましたよ。」 「え!?マジ?やったァァ!」 「やっとこの家から出られるのね……!」 ライちゃんと美麗さんはとても喜んでいる。しかし、心温ちゃんは……どこか不満そうだ。どうしたのかな。 「そう、なんだ。」 「心温さん?どうかしたんですか?」 「え、あ…いや。なんでもない。」 「話してくれないとわかりませんよ。」 「ううん、ほんとにいいから。」 「心温ちゃん、どうしたんだろ?」 「さぁ。ま、あいつのことだから、ただこの家から出たくないだけでしょ。」 「そうかなぁ…」 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 翌朝。婦人は私たちを見渡して話しかけてきた。 「さぁ、今日はあなたたちみんな持っていくわね。…昨日の感じだと、他の三首の子も聞いたことに反応してくれるのかしら?」 婦人はしばらく考える。とりあえず、同じ質問をしてみることに。 「もしもし、名前がある子はいますか?」 三首全て首を縦に振った。 「ヒッ…………」 予想はしていたが、やはり少し怖いものだ。それでも、婦人は質問を続けた。 「えぇっと……そうなの?…みんな名前があるのね??」 三首はさらに首を縦に振る。 「そうなのね。…それは、日本語?」 美麗、心温は縦に振る。ライは少し微妙なところなので何も反応できなかった。 「あら。金髪のこの子は、やはり外国の名前なのかしら?」 「うーん…アタシの名前、日本語というか外国語というか、芸名だからなぁ……」 「あなた、本名は?」 「本名…………??なんだっけ!忘れちゃった☆」 「えぇぇ…」 「長く芸能生活やってると、ずっとそれで呼ばれてるからさ〜本名なんて忘れちゃうの!」 「〝芸能生活〟…?いや、そうだとしても家族とか仲のいい人には本名で呼ばれるでしょう。1年に1回くらいは実家に帰ったりして、そういう時とかに呼ばれるんじゃないの?」 「いやぁ……ここ何年も実家に全然帰ってないよ~!ほらァ、アタシ、超売れっ子アイドルだから!」 「え、あなたアイドルだったの!?…全く知らないけど。」 「どうりで、言動がところどころおかしいのか。」 「さらっと聞いてましたけど、本名を聞くってことは、そういうことですよね。」 「まぁまぁ、そういうことはどうでもいいって〜!早く病院にレッツゴー!!GOGO!!」 婦人はその間に私たちを車に乗せて病院に連れて行った。 「いや、ちょ、だから首は持たないでくださいーーーー!!!」
Neck Girls #24
「…ということで代表してこの子を持ってきました。」 「あんた、本当に持ってきたんだな。これが、昨日話していた〝動く〟人形ってやつかい?」 「はい。今朝も呼び掛けたら動いたんですよ。まるで、私の言うことに返事をするかのように。」 そこで、患者は目を丸くする。 「ほぅ〜!返事をするかのように?」 「そうです。持っていく時、車に乗せようと首を持ったんですけど、そしたら急に首を横に振って。びっくりしちゃいました。恐る恐る、首を持たれるのが嫌か聞いてみたんです。」 「ほうほう。それで?」 「この子は首を縦に振りました。まるで、首を持たれたくないよ、と言っているようでした。」 「なるほどなぁ…」 すると、触覚が動いた。 「えっ…!い、今髪の毛が動いたんだが!?」 「あ、そうそう。この、1本の触覚みたいなのも動くんです。」 「…髪の毛が動くって…そういうことか!?」 患者は、驚きながらも、恐る恐るまどかを見つめてみる。 「なんか恥ずかしいですね…」 大人二人にしっかり見つめられたらそれは、なんとも言えない気持ちになるだろう。 「ほう~…それにしてもすごいな、こいつァ。」 その間も髪の毛はずっと動いている。 「これ、さっきの話によると聞いたことにも反応するんだって?〝はい〟か〝いいえ〟で。」 「はい、首を縦や横に振ることで意思を示してるように見えるのですが…どうなんでしょうかね」 「まぁ、試しに聞いてみるか」 患者は、まどかに向き直し、改めて見る。 「あんた、名前はあるかい?」 まどかは首を縦に振る。 「…ッうわ!ほんとに動いたな……!?な、名前があるということ…なのか?」 さらに首を縦に振るまどか。 「そ、それは日本語?それとも外国の名前か?……あぁ、この質問だと答えられないか」 「そうですね、一つ一つ聞いた方が良さそうです。…もしもし、あなたの名前は日本語ですか?」 首を縦に振る。 「日本語…つまり日本人のようですね。」 「一応もう一つのほうも聞いてみないか?もしかしたらミドルネームみたいに、名前を複数持っている可能性だってある。」 「確かに。それは一理ありますわ。 もしもし、外国の名前もありますか?」 まどかはすぐに首を横に振る。ただの平凡な日本の中学生だ。そんなのあるわけがない。 「ないようですね。」 「あと、他に聞いたほうがいいことはあるかい?」 「そうですね…。でも、今までの質問でこの子は日本人の名前が付いている、ということがわかりました。あと気になることといったら………あ、他の三首の子たちについてです。この子を含め、ゴミ捨て場から拾ってきた四首が動くので…。」 「まぁ…それはそうだな。気になることはたくさんあるから、この調子だと質問にキリがない。」 「そうですねぇ…でも、なんとかしてこの子たちの謎を解決したいです。」 「四首全て同じ場所で拾ってきたんだろ?だとすると他の三首も名前がついている可能性がある。ちょっと、明日は他の三首も持ってきてほしい。その三首にも同じ質問をして、そのように反応があったら、こちらにも考えがある。」 「考え?」 「あぁ、実は知り合いに霊媒師がいてね。そいつに見てもらおうと。」 「霊媒師!?知り合いにいるんですか!?」 「いるよ。」 「まさか、知り合いに霊媒師がいるとは……それは良いタイミングというか、驚きというか…。」 「私からしたら、動く人形とそれに冷静に対応しているあんたのほうが驚きだけどな。」 「え?そうですかね。」 「だって、拾ってきたのが四日前くらい、それで動き始めたのが一昨日くらいだろ?よくそんなに冷静でいられるなと。私だったら気味悪くてすぐに元のゴミ捨て場に戻してしまうねェ。」 「それは、あの子たちは元々生きてるからです。」 「生きてる?人形が?何を言っているんだ。」 「人形は確かに、はたから見たらただの『モノ』かもしれません。でも、『人』の『形』をしているんですよ。それに、人形を作った人だっている。その人がどんな思いでこの人形を作ったんだろう…どういう願いを込めてこの見た目にしたんだろう…って考えるととても愛おしく感じてきませんか?人形にはそういう生きている人間の思いが込められているんですよ。だから、もし動いても生きているって考えたらそれが確認できて嬉しいし、捨てようとは思いません。それに、人形たちが動いてくれたら嬉しいとずっと思っていたので…笑」 「それが実現されて良かった、というわけか。」 「はい。」 「まあ、あんたの人形に対する思いはよくわかった。そういうことなら、なおさら霊媒師に見てもらったほうがいいかもな。何か、そういう制作者の思いが、この動く人形の謎に関係しているのかもしれん。」 「そう、かもしれませんね。……長話しすぎちゃいました笑。では、明日残りの人形も持ってきてみます。」 「あぁ、楽しみにしているよ。」
Neck Girls #23
朝が来た。 婦人は、いつも通り人形たちに挨拶をしたり髪の毛を整えてあげたりしている。 「…ふぅ。」 顔を洗い、カーテンを開け、眠い目をこすりながら水を飲む。 「…相変わらず、動いてるわ。絶対この子たちなりのメッセージだと思うのよね。」 朝食を食べ終わり、婦人はまどかを連れて仕事に出かけようと、首を持った時のことだった。 「うわ、ちょ、ちょっと…!くすぐったいです!笑」 まどかは「嫌」を示すため、首を横に振った。 「え!?あ、あらごめんなさい。そこは持たれたくなかった…かしらね…?」 まどかは、首を縦に振った。 「…そ、そうなのね?じゃあ、どこを持てばいいのかしら…?」 「え、えぇ!?え〜っと……」 まどかは、持ち手のようになっている髪の束を持ってもらおうと一瞬考えたが、やはり、髪の毛を引っ張られるのは「痛そう」と躊躇する。 「あ、あら?何も反応なくなっちゃったわね。」 しばらく待っても反応がないので、婦人はとりあえず、マネキンヘッドの底の方を持ち、車にまどかを乗せ、仕事に出かけた。