17 件の小説
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ふじといいます。 小説、エッセイぽいの書きます。 よろしくお願いします(*¨̮*)

捨てたかった香り

私は香水を集めるのが好きだった。 特に、好きな人の好みの香りを聞いて、その香りをつけるのが 好きだった。 それをしなくなったのは、いつからだっけ。 ある時、今まで生きてきた中で1番好きだと思えた人が好みだと 言っていた香りの香水を買ったことがあった。 甘酸っぱくて爽やかな柑橘系の香水で、とても気に入って よくつけていた。 彼の好みになれているかもしれない、そんな感覚が好きだった。 でも彼は突然、何も言わずに私の前からいなくなった。 ネットの友人だったこともあって、事情を知る術もなかった。 その日から、あれほど気に入っていたその香水をつけなくなった。 私に気がなかったのだとわかっているのに、彼への気持ちも、 香水も、つけたくないのに捨てられなかった。 香水をつけたら、思い出してしまいそうだったから。 でも、あれから時間が経って、彼への気持ちは、愛という形をした執着だったと気づいた。 彼の好みになりたいと思うあまり、自分の好きなものが何だったか わからなくなっていた。 でももう大丈夫。 私は、私が好きな私で生きていく。 私の好きな髪型をして、好きな服を着て、好きな香りをつけて、 好きな言葉を使って、好きに生きるの。 あなたの名前も声も、言葉も、全部忘れることはできないけれど、 そんな私のことも、私は愛していくの。 あなたを好きになった私を、これからもっと輝いていく私を、 誰より近くで愛し抜く。 だから、ばいばい。ありがとうね。 そう呟いて、香水の瓶をゴミ箱へ捨てた。

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捨てたかった香り

ありがとう。

私がつらい時、いつもそばにいてくれた。 朝起きられない時。 食欲がない時。 動けない時。 消えたいと思った時。 すべての瞬間に、あなたがいた。 前に進めない時には手を引いて、 脚が重い時は背中を蹴っ飛ばしてくれた。 でもいつの間にかあなたは、私の遥か前を走っていて。 追いつきたくて、隣を走りたくて、ひたすら走った。 泣きながら、声をあげながら、手を伸ばして。 気づくと、失ったものはすべて手の中にあった。 泣き方。 本音の言い方。 頑張り方。 生き方。 走っているはずなのに、息をするのが不思議とつらくなかった。 あなたは何も言わないけれど、 その背中が教えてくれた。 泣きたい時には泣いてもいい。 泣けない時には泣かなくてもいい。 溢れる涙を、無理にとめなくてもいい。 たまには頑張ったっていい。 たまには頑張らなくたっていい。 誰かに話したっていい。 誰かに話さなくたっていい。 生きている理由がなくたっていい。 まだ死んでいないから、生きている。 そんなもんでいい。 上手な生き方は、まだわからない。 でも、あなたの背中を追いかけて、私は強くなった。 ありがとう。そして、見ててね。 いつか必ず、あなたの前を走るよ。

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ありがとう。

私だって。

人の幸せそうな笑顔を見るのが好きだった。 私のしたことで喜んでくれる、その顔が好きだった。 大好きだから、笑っていてほしいと思った。 「彼氏ができたの!」 「試験に受かったの!」 「プレゼントありがとう!」 「相談乗ってくれてありがとう!」 いつだって「する側」だった。 嘘をつくのが上手かった。 幸せに生きているように見せるのが得意だった。 それでよかった。 私が何かすることで、相手が幸せになるなら、それでよかった。 ずっと、「する側」でよかった。 でも、ある日、一番言ってほしくなかった人から、一番 言ってほしくなかった言葉を言われた。 「作り笑顔は無駄だよ」と。 笑うことは私のすべてだった。間違っているなんてことは はなからわかっていた。 私だって本当は、心の底から笑っていたかった。 嘘をついている罪悪感は、吐きそうなほど、心臓が握り 潰されそうなほどに苦しかった。 それでも笑った。 笑っていてほしいから。 少しでも、幸せだと思える時間が増えてほしいから。 なんでだよ。 なんでその言葉だったんだよ。 「無駄」ってなんだよ。 私がどんな思いで今まで生きてきたか、考えたのかよ。 そう思うことですら、間違っている気がして苦しかった。 私だって、私だって、私だって私だって私だって私だって。 私だって幸せになりたいのに。

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私だって。

どうか。

自分を好きになりたかった。 愛されたかった。 でも、他人に期待しても無駄なことを、私はもう知っている。 どれだけ嘆いても、喚いても、足掻いても、叫んでも、暴れても、泣いても。 誰も助けてはくれないから。 孤独が報われたりしないから。 ひとりで立ち上がらなければいけないから。 大丈夫でいなければいけないから。 だから私は、この世で一番私のことを愛していたい。 無限に広がっている空の下で、この広い広い世界の中で、 生きている生物たちが山ほどいる中で、 私が、私ごときが、ひとりぼっちなはずがないと、信じていたい。 この世界のどこかに、必ず私の居場所があると信じたい。 私はひとりじゃないと、絶対にひとりじゃないんだと、 どうか、どうか。 思えますように。

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どうか。

仮面舞踏会

初めはみんな、素顔で生きていると思っていた。 演じているのは自分だけだと思っていた。 だからこそ、素顔を愛してもらえていいよなと、人を妬んでいた。 それは違った。この世は仮面だらけ。 仮面が割れた者は、後ろ指を指されて行き場を失うのだと知った。 少なくとも私はそういう世界で生きてきた。 だから私は演じた。 誰よりも分厚い仮面を纏った誰よりも素晴らしい役者であろうと。 仮面に色を塗りたくり続けた。 新しい傷を負うたび、新しい色を塗った。 滲むことも色が落ちることもないように、分厚く。 それが私の正解だった。 でもその正解は、代償なしでは続けていけないと気づいた。 仮面がなければ愛してもらえない、その孤独と隣り合わせで 生きていかなければならない。 怖かった。ひたすら寂しかった。 でもある日気づいたんだ。 この世が仮面でできているなら、こんな思いをしているのは 私だけではないのだと。 だから私は、生きる。 私の孤独を埋めてくれる誰かを探すのではなく、 誰かの孤独を埋める誰かになるために。 孤独を背負って、真っ暗でひとりぼっちな世界を背負って、 生きていく。 その先の未来に、 私の孤独が報われることを願いながら。

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仮面舞踏会

私の世界は。

声をあげて泣ける人が羨ましかった。 思ったことを言ったら誰かが傷つくことも考えずに 好き勝手言える人が羨ましかった。 妬ましかった。 泣けていいね。つらいって言えていいね。 味方がいていいね。私はあなたが羨ましい。 私は、全部自分のせいだってわかってるから、 人より恵まれてるってわかってるから、 何のせいにする資格もない。 差し伸べてくれた手を振り払ったのは私。 人を信じて頼る勇気がないのも私。 私の首を絞めているのも私。 周りは、他人は、何も悪くないから。 だからこれからも、私の世界には誰もいない。いなくていい。 人様に迷惑かけて、もらった優しさを全部無駄にした。 どうすることもできずに気持ち悪い笑みを浮かべたままの 醜い私に、居場所なんてない。 私の世界に、人様を入れる資格はない。 真っ暗でひとりぼっちの世界で、みんなの幸せを願っているから。 そうやって、きっとこの先もずっと、 自分という存在を受け入れてくれる人を、 心のどこかで待っている。

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私の世界は。

願っていた。

きっとまだ幼かった頃から、私が願っていたこと。 幸せになりたかった。強くてかっこいい私になりたかった。 愛してほしかった。 家族に愛されているんだからそれで充分だったのに。 世の中にはもっと苦しい思いをしている人がたくさんいるのに。 私はこんなに恵まれているのに。 それでも自分を愛せなかった。 多数の肯定より、少数の否定ばかりを鵜呑みにした。 だから自分を許せなかった。 私はきっとずっと願っていた。 幸せだと心から思える日を。 強くなったと、かっこいい自分だと思える日を。 私を愛してあげられる日を。 私がいちばん愛してほしいのは、他人なんかじゃない、 私自身だったんだから。

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願っていた。

小さな作品

長い時間をかけて考えた。 そして今日決めたことをここに残しておこうと思う。 誰の目にも止まらない、誰の心にも残らない、そんな作品を。 誰かの手をとることもない、そんな詩を。 さあ、何から書こうか。 そうだなぁ。 じゃあまず、自分の幸せは諦めること。 たった十数年生きただけでも、そう決めるには充分すぎたよ。 つぎに、ひとりぼっちでも強くいること。 孤独をつきつけられた瞬間も、今までと何が違うと笑っていたい。 そして、欲はできる限り捨てること。 持っていても役に立たないものだからね。 それと、マイナスな感情以外を全力で表に出すこと。 そうすると楽しく生きてる人間に見えるだろうからね。 最後に、自分を受け入れてくれる人間はこの世にいないことを 心の底から理解したうえで、ありったけの愛を人にあげること。 自分は愛されなくても人を愛していたいっていう僕の身勝手だよ。 申し訳ないが、意見は受け付けられないんだ。 間違った考え方をしていることはわかっているからね。 それと同じくらい、言いたいことも想像がつくんだ。 「自分を愛していない人に、人を愛することはできない」 「ひとりじゃないよ」 「幸せになれるよ」 「泣くとすっきりするよ」 「「「頑張れ」」」 聞き飽きたよ。 僕にひとりじゃないと言った人間は、僕を罵った人間だ。 僕に愛を説いた人間は、僕を知らない人間だ。 人を信じられない、正しいことを受け入れられない、 それが僕の弱さだ。 僕のほうを向いてくれている人を見ることができない、 それが僕の間違いだ。 もう苦しみたくない。楽になりたい。 だから僕は諦めた。 諦める幸せを知ってしまったから、僕は逃げたんだ。 時間から。やるべきことから。人から。愛から。人生から。 ごめんね。 もう手遅れだよね。 でももういいんだ。 世界中の人が僕の考えを、生き方を罵っても、 僕はそれでも生きていかなくちゃならない。 それが、 まだ人生を知らない、生き方も知らない、愛も幸せもわずかしか 知らない、そんな僕の 小さな作品だ。

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小さな作品

願ったところで。

もう疲れた。 悩むことも頑張ることも放棄して、どこか遠くへ逃げよう。 逃げてしまおう。 でもひとつだけ、逃げるなら君と一緒がいい。 景色も音楽もいらないから、君に隣にいてほしい。 君がいてくれたらほかには何もいらない。 君さえいてくれたら、何も願ったりしないから。 だから神様、私の願いをひとつだけ聞いてください。 この人だけ、私のそばにおいてください。 そんなことを願ったりして、だんだんと夜にのまれていく。 決して叶わない願いだけが、星になっていくように。 あぁ、だめかなぁ。 どれだけ君を想っても、想われることはない。 もう逃げてしまいたい。 君からも、世界からも。 私を受け入れてくれる場所へ、逃げてしまいたい。 ひとりぼっちは怖いくせに。

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願ったところで。

報われなくても。

私は、愛してほしい人には愛されない人間だ。 どれだけ一途に人を愛そうと、報われたことなんてなかった。 私を見てくれた人は、今までひとりもいなかった。 向き合ってくれた人も、いなかった。 恋愛は、私には向かないものなんだと思って生きてきた。 そう思うしかなかった。 そう思っている時の自分は、いくらかましな人間に見えた。 そんな私が、今までの誰より好きになった人が、君だった。 君は向き合ってくれた。私とも、私の想いとも。 それが嘘だとしても、いいと思った。 報われなくても、いいと思ったんだ。 私はきっと、一生報われることはない。 でもそれでもいい。 君を好きだと言う私の顔は、今までの誰と付き合った頃より 幸せそうな笑顔をしていたから。 報われなくても、愛させてほしい。 愛してくれなくても、愛しているから。 君のことも、君を好きになった私のことも、 私は愛していたいから。

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報われなくても。