猫桜
3 件の小説二次元コード
私はハンバーガーショップでアルバイトをしている。 最近はどこの飲食店もタッチパネルを使っているのだけれど、まだ自分が働くこの店に設置する予定はないとバイト先の店長は笑いながらいつも答える。 レジで接客をしている私はもっと効率よく仕事がしたい。 たまに隣り町にある同じチェーン店のハンバーガーショップに行くのだが、こちらでは早い段階でタッチパネルが導入され、キャッシュレス決済にも対応していた。 私は店に入りタッチパネルの前に立ちメニューを選び人差し指でパネルに触れる。 選ぶときにセットか? 単品か? どちらを押そうか指先が左右に動いて迷ってしまう。 そして、セットのメニューを選び操作を進めていくと今度はおすすめの品であるサイドメニューが現れる。 なんとなくで、操作を進めていくとセットで頼んだものに色々追加でサイドメニューまで注文していることがわかる。 注文を確定するをタッチして合計金額に驚く。 (このタッチパネルは慣れないと余計な品物もいっしょに頼んでしまうのではと) 電子マネーで会計を済ませてテーブルでハンバーガーの到着を待つ。 「ご注文のお品物になります。よろしければこちらのアンケートにご協力をお願いします。どうもありがとうございました」 私の目の前にハンバーガーとポテトのセットが届いた。一緒に名刺サイズの二次元コードが付いたクーポン券がトレイに乗っていた。 そこには私たちの仕事について感想を下さいと書かれており、もれなく二百ポイントプレゼントがもらえるとのことだった。さらに仕事をするときの励みになりますという文字が際立っていた。 (ポイントがもらえるのなら仕方がないか?) 私はこのお店がもっと良くなればいいなと思いアンケートに答えた。 (お店の雰囲気はとても良いです。ただ注文をするときにタッチパネルがしゃべってくれると、面白いのではないのかと) 私は任意の部分と必須の項目に自分のバイト先で足りないものがあったのでスマホからいろいろな要望を書いて送信してしまった。 美味しくハンバーガーを食べて家に帰る。 翌日バイトに行くと透明な箱がレジの横に置いてある。 ちょうど人間が入れる大きさになっていて、観察するように見ている私に店長が声をかけてきた。 「あの、急で申し訳ないのだけれど、今日からこの透明ボックスでレジをお願いします」 「エッ、どうして私なんですか?」 「いやねぇ、昨日本部から連絡があってね。タッチパネルの代わりに、この透明ボックスを使ってくれって送られてきたんだよ」 「あのですね、どうして私がやらなければいけないのかを聞いているのですが?」 「ああ、それはねえ! 君が本部からのアンケート調査に熱心に答えたからなんだってさ」 「エッなんでばれているんですか? 怖いんですけど」 「会社は僕たち社員の個人情報をしっかり保護しているんだよ」 「嘘でしょー」 「嘘なんかついてないよ! 君のネームプレートにはニックネームが使われているじゃないか」 私はこの日でアルバイトを辞めた。
メモリ
「社長、大変です」 「なんだ? その封筒は」 私は部下の手から大きな封筒を受け取ると天井のライトに向けて左右に動かしてみた。 (何か入っているのか? カサカサとわずかだが擦れる音がする) 我が社はメモリ開発に出遅れた。今世界中で極めて小さなメモリーカードが普及している。 それだけではない。ウチは工場自体が古いのだ。 最新の設備などなく、まだ昔ながらのフロッピーディスクを製造している。 先ほど開けた封筒からマイクロSDカードが出てきた。かなり値段が高いものだろう。 部下がパソコンのカードリーダーにSDカードを挿すとおかしなファイルが転送された。 開いたものは文書ファイルで、この工場をやめてほしいとだけ書かれていた。 「社長、なんですか? これは」 「うーむ、ただのイタズラだろう」 「誰かから恨まれてませんか?」 「そんなわけあるか!」 このおかしな話が社内に広まると大きな騒ぎになった。 どういう理由でメモリーカードを送ってきたのかを社内で共有して話し合いをした。 まるで我が社が古いとバカにされている気分だと社員全員が思ったらしく、これからのことについて会議をすることになった。 失われた三十年とは良く言ったものだ。我が社ではまだフロッピーディスクの製造ラインが稼働しているのだ。 やけくそになった私は生産ラインを止めることにした。 「社長、これからどうするのですか?」 「うん、もうフロッピーはやめよう」 「そんな、これから何を作るのですか?」 「いやねえ、もうこうなったらフロッピーディスクのサイズのメモリーカードを作ろうと思ってさあ」 こうして我が社は大きくて持ち運びに不便なものを開発して製造を始めた。 大きさが小型のメモリーカードに比べると記憶容量も他社のものと比較にならないものになっていた。 「社長、この前のイタズラですが? どうしますか」 「ああ、その件か? もう解決したよ」 気がつくと我が社が業界のトップに君臨していた。
隙間バイト
サラリーマンをしていて思うことがある。 それは物価高になったことだ。 そこで、今流行りの隙間バイトが気になりスマホに入れたアプリに神経が向く。 仕事中に自分の将来が気になり思考が止まる。 ぼーっとしているとあっという間にお昼になった。 昼食をとるためにオフィスから外に出る。 (今日はラーメンを食べに行くか) 私は同僚と一緒に食事をしない。いつもふらふらと歩きながら街を見渡すと、その日の気分で食べたいものが変わるからだ。 少し黒ずんだ赤い色の暖簾がかかったラーメン屋さんの前に来た。古くから続いているように見える。 いらっしゃいませと威勢の良い声が心地よい。だげど店内はガラガラで貸し切り状態だ。 ゆっくり昼休みを過ごすことができると思い、ラーメン大盛りとチャーハンを注文した。 (チャーハンはちょっと頼まないほうがよかったかな) 店内が寂しかったから頼んだ。自分の心に言い訳をした。 待ち時間をスマホをみて潰す。自然と隙間バイトアプリに指が伸び画面をスクロールする。あっという間に時間が経過した。 「はーい、ラーメン大盛りとチャーハンになります」 「どうもありがとう」 自分のテーブルに注文した料理が運ばれてきた。スープから良い香りがして湯気が顔にかかると食欲が一段と増した。 (どうやらチャーハンを頼んで正解だったようだ) 夢中になって麺をすすりチャーハンも勢いよく口へ運ぶ。あっという間に完食してしまった。 ベルトの締め付けがキツくなっていたので、今日はいつもよりたくさん食べてしまったことがわかる。 (お腹のでっぱりが気になるなあ) あとは会計を済ませるだけだ。最近キャッシュレスが便利なのでよく使うようになった。 テーブルから伝票を手に取りレジに向かう。 「すみませーん、お会計お願いします」 「はーい、少々お待ちください」 元気で大きな声が返ってきた。 支払いをするためにスマホを片手に持ち準備していると何だか嫌な予感がしてきた。 「あの、お客さま。ウチのレジはキャッシュレスに対応しておりません。どうか現金でお支払いをお願いします」 「あっ! それでは現金でお願いします」 伝票に千五百円と書いてある。自分の財布の中をのぞいた瞬間背筋に寒気がした。 五百円足りない。いい歳をした人間が無銭飲食をするのか? これはマズイ事態だ。 こうなったら仕方がないとダメ元でお店の人に自分の心のうちにあるものを提案してみた。 「あのー、隙間時間にバイトの募集とかしてませんか?」 「お客さま、店内をよく見渡していただきますとお分かりになると思います」 「あっ、そうですねー」 この一言がかなり失礼だったことは言うまでもなかった。 私のサラリーマン人生が崩れていく音が聞こえてきた。