Lily

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Lily

名前▶︎Lily 年齢▶︎15⤴︎ 書いてるもの▶︎恋愛系一次創作中心 好きなもの▶︎アニメ、漫画、ゲーム など X▶︎Lily/初心者物書き ※アイコンはフリーのものを使わせて貰っています ※不定期で投稿しますができるだけ続けられるように頑張ります!

衣替え

「─暑い...」 ─今は6月で梅雨真っ盛り。毎日蒸し暑くて外に出ることが憂鬱で仕方が無い。 「...そろそろ制服替えようかな...」 クラスメイト達が続々と半袖の制服に切り替えていく中、私は未だに長袖を着ていた。なぜこんなに暑い中長袖を着続けているのかというと、人前で肌を出すのが苦手だからだ。 小さい頃からコンプレックスというか、なんて言ったらいいのか分からないけど、人前で肌を出すことに対して独特の恥ずかしさみたいなものがあって、夏が嫌いで仕方がなかった。 「_なあなあ、桐生さんってなんでこんな暑いのにずっと長袖着てんの?」 朝、教室に着いてエアコンの効いた快適な空間の素晴らしさを堪能していたら、前の席の神代くんに話しかけられた。 「...えっと、それは...」 なんと答えたらいいのか分からなくてモゴモゴしてたら神代くんが顔を寄せてきた。 「脚もタイツ履いてるし、体調崩さないか心配なんだよ」 たしかに、私は危険なレベルの暑さじゃない限りずっと長袖でタイツを履いている。自分で言うのも変だけど、すごく暑い。 「...あー、えっと、肌を出すのが、苦手で...」 私が気まずそうに言うと、神代くんはハッとして気まずそうな顔をした。 「...あー、なんかごめんな、こんなデリカシーの無いこと聞いて」 「...ううん、気にしないで大丈夫だよ。...苦手だけど、そろそろ暑くなってきたし、半袖にしようかなって思ってたの」 「あ、まじ?その方がいいよ!ずっと長袖とタイツだったら熱中症とかめっちゃ心配だし」 「...あ、ありがとう...?」 「おう!」 元気のいい返事をしながら、神代くんは太陽のような笑顔を見せた。 ─時間は経って夜。寝る前に明日の準備をしておこう、と思い寝転がっていたベッドから起き上がった時、今日の神代くんとの会話を思い出した。 「...半袖、嫌だなあ...」 誰も居ない静かな部屋で、ぽつりと呟きながらクローゼットを開けて制服の夏用、半袖のシャツを取り出した。 肌を出すのはすごく嫌だが、無理をして厚着をして学校で体調を崩して周りに迷惑をかける方がずっと嫌だ、と自分に言い聞かせて制服の準備をして眠りについた。 ─次の日。腕と脚をこんなに出すのが久しぶりで、すごく憂鬱だったけど、なんとか学校に向かって誰とも挨拶を交わすなんてことは無いまま静かに教室の自分の席に着いた。 神代くんに何か言われるのだろうか、とソワソワしていたが、少し挨拶をされただけで何も言われなかった。正直意外だったけど、私はあまり目立ちたくないので少し安心した。 ─放課後。結局神代くんから制服のことなんて何も言われないまま1日が終わり、まあいいか、と思いながら帰ろうとすると、神代くんに呼び止められた。 「...あ、あの、桐生さん、ちょっと話さない?」 「...?いいけど...」 神代くんの気に障るようなことをしてしまったのだろうか、と今日の行動を思い返していると、少し顔を赤くした神代くんが口を開いた。 「...桐生さん、夏服になったんだね」 「...あ、うん、神代くんに後押しされた感じ、かな」 なぜ顔を赤くしているのか全く分からないが、特にそこに触れることは無く普通に返事をした。 「...えっと、それで、その、朝に声かけようと思ったんだけど、ちょっと気持ち悪いかなって思って、なかなか言えなかったんだけどさ」 少し早口で顔を赤くして、目を伏せて話している神代くんの様子に謎しか無かった。 「...?...うん、どうしたの?」 私が問いかけると、神代くんは思い切ったような顔をしてゆっくり口を開いた。 「...夏服、似合ってるよ。」 私は心底驚いた。それだけのためになんでそんなに必死なのか、と。 「...え、あ、ありがとう...?」 「ごめんっ...!いきなりこんなこと言って、気持ち悪かったよな...」 「...いや、そんなことないけど...。...むしろ、褒めてくれて嬉しい。...ありがとう」 神代くんを落ち込ませないように言葉を選んで答えた。すると神代くんはすごく嬉しそうな顔をして見せた。 「まじ!?桐生さん優しいね!ありがとう!...って、やばい、俺今日バイトじゃん!じゃあね!また明日!」 そう言ってカバンを持って走り出していく神代くんは、まるで嵐のようだった。 ─なんであんなに顔を赤くしていたのかは分からないけど、ちょっとは仲良くなれたのかな...?

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鍵〜黒山side〜

─いつも通り、遅すぎず早過ぎない時間に学校に向かい、いつも通り駐輪場に自転車を停めて、いつも通り教室に向かっている時の出来事だった。 そこには、クラスの女子生徒、白川さんが教室の前に立っていた。 「...あれ?白川さん、何してんの?」 俺がそう呼びかけると、白川さんは少し体をビクッとさせてこちらを見た。 「...あー、えっと、教室の鍵が、開かなくて...」 白川さんは人と目を合わせるのが苦手なのか、俺はずっと白川さんの顔を見ているのに視線はドアに刺さった鍵に向けられていた。本人はどう思っているのか分からないけど、そんな所も可愛い、なんてちょっとだけ思ってしまった。 「え、まじ?そんな硬いの?...あー、たまにあるよな、自転車とかの鍵が全然開かない日」 俺は中学からいつも自転車通学なのであるあるなのだが、電車通学の白川さんはそれがよく分からなかったらしく、一瞬だけぽかんとした後にそうなんだよねー、というあまり思ってなさそうな返事が返ってきた。俺会話下手かよ!!と心の中で嘆いた。 「先生呼ぶかー...って、白川さん、手真っ赤じゃん、大丈夫?」 ふと彼女の手のひらを見ると真っ赤になっていることに気付いて、無意識に手を握ってしまった。離すべきか迷ったけど、今手を離すのも不自然と思い、できるだけ優しく握り返すことしか出来なかった。 「え、あ、うん。鍵頑張って開けようとしたら、真っ赤になっちゃって」 そこまでするなら先生を早く呼べば良かったのに、と思ったけど、白川さんが先生と全然話している所を見たことが無くて、年齢とか関係なく人とのコミュニケーションが苦手だということを思い出した。 「ダメじゃん!そういう時は誰かに頼らないとさ。...うーん、血は出てないみたいだけど、皮むけてるところあるなー...」 異性に手を握られて緊張しているのか、白川さんは石のように動かなくなってしまった。その反応が俺には可愛く見えて、手を離したくなかったけど、まずは先生を呼んで鍵を開けてもらうのが先だと思い切ってそっと手を離した。 「じゃあ俺、先生呼んでくるから!手ちゃんと洗えよ?あ、あと血が出たら言えよ!絆創膏持ってっから!」 そう言って俺は白川さんの返事も聞かずに職員室へと走り出した。これ以上白川さんと一緒にいたら感情が抑えられなくなると思ったから。 ─もう気付いてると思うが、俺は白川さんの事が恋愛的な意味で気になっている。というか、結構好き、だと自覚してきている。 意識し始めたきっかけははっきりしていないが、日頃から同じ教室で過ごしていると自然と彼女のいい所が目に入って、そこから気になるようになった、みたいなものだ。 例えば人とぶつかってもすぐに微笑みながら謝るところとか、男女関係なく優しく接しているところとか、そういう所を何回も見たら意識しない方がおかしいと思う。 そういうわけで俺は白川さんが好きな訳だが、白川さんは多分俺みたいなタイプがあまり好きではない。俺は人と話すのが好きだけど、白川さんは人と話すのが苦手そう、というのが大きな理由で、俺はこの現実を受け入れたくなかった。 だが、俺はどうしても白川さんのと話して、白川さんのことをもっと知りたい。だから、積極的に話しかけるようにしよう、と決心した矢先これだ。もう運命と思うしかない。 「─先生、俺のクラスの教室の鍵が開かないらしいんすけど、開けて貰えませんか?」 先程までの気の乱れは忘れて、平然を装って先生に助けを求めた。 「...そうか、教室まで案内してくれ」 俺の問いかけに反応してくれたのは俺たちの学年主任の先生で、顔が怖くて無口な割には可愛いものが好きだと噂の先生だった。 「あ、先生ここです。全然開かないらしくて...」 「そうか、わかった。...本当だ、全然開かないな。...とりあえずスペアキーで開けておこう。後でその鍵は修理に出しておく」 それだけを言って先生は堂々と職員室に戻って行った。先生の迫力に圧倒されて突っ立っていたが、すぐに我に返った。 「よかったなー、鍵開いて」 教室に入りながら俺がそう言うと、白川さんも我を忘れていたのかはっとした顔をした。 「...あ、うん。...えっと、あ、ありがとう。先生の所に行ってくれて」 少しモジモジしながらそう言う白川さんは少し俯いていて、何か気にしている感じだった。 「え?別にお礼なんていいよ、放っておく訳にはいかないじゃん?大事なクラスメイトなんだし。」 実際、大したことは無いものの傷だらけの手をした好きな子を目の前にしたら、流石に放っておけない。そんなことを考えている時、1つの疑問が浮かんだ。 「...あ、そうだ。ずっと聞こうと思ってたんだけどさ、白川さんっていつも早く来てるみたいだけど、早く来て何してんの?」 俺がそう尋ねると白川さんは俺よりもずっと小さい体をびくっとさせてさらに俯いた。 「...えっと、その、掃除、してて...」 彼女の口から出た言葉は、俺の想像とはかけ離れたものだった。 「掃除?え、毎日わざわざ早く来て教室の掃除してんの?」 気になってつい白川さんの方へ近づくと、白川さんはびっくりしたのか後ろへ少しだけ下がった。 「う、うん...変、だよね...」 少し震えた声でそう言う彼女が、なんだかとても弱く見えて、俺はこんなことを聞くんじゃなかった、と思った。 「いやいや、全然変じゃないよ!むしろすげえと思う!だって俺、掃除とか苦手だし、1人の時にしてるってことは目立ちたいって訳でも無いみたいだし、俺は全然いいと思う!」 慌てて言った励ましのつもりの言葉は、支離滅裂だったのではないか、と落ち込んだが、少しだけ白川さんの表情が明るくなったような気がした。 「そ、そう、かな...」 「そうだよ!ありがとう、白川さん!」 明るくなってくれて嬉しくてつい、また彼女の手を握ってしまった。しかも、今回はさっきよりも力が強くなってしまった。 「え、あ、どういたしまして...?」 ギクシャクした返事を返しながら白川さんの顔がどんどん赤くなっていくのが分かった。白川さんとの距離を縮めるなら今しかない、と直感で思った。 「あっ、いいこと考えた!今日から俺も掃除手伝うよ!」 我ながらものすごく意気揚々としてしまった、と少し反省した。 「え?そんな、悪いよ...自分で言うのもなんだけど、私来るの結構早いし...」 たしかに、白川さんはいつも来るのが早い。俺だってHRの40分前ぐらいには学校に着いているのに、その頃には白川さんは平然と席に着いて本を読んだり音楽を聴いたり勉強したり、色んなことをしている。 でも、そんなことはどうでもよかった。とにかく俺は好きな子と2人きりになれるタイミングが欲しかったから。 「そんなのいいよ!俺が早起き頑張ればいいだけだし、それに、えっと、白川さんと仲良くなりたいなーって思ってたし」 俺がようやく勇気を出してそう言うと、白川さんは呆気にとられた顔をしていた。 「わ、私と仲良くなりたいって、それ、本気で言ってるの...?」 「?そうだけど...ダメ、だった?」 まさかそんなことを言われるなんて思ってなくて、少し落ち込んでしまった。 「...え、あ、いや、ダメとかじゃなくて、私と仲良くしてもいい事なんて無いと思うから...」 ─どうして白川さんはそんなに自分を卑下するのか、俺には分からなかった。可愛くて、優しくて、非の打ち所なんて無いのに。 「何言ってんだよ、人と仲良くなることにいいことも悪いことも関係ねえよ。...あと、俺にとってはめちゃくちゃいいことだから...」 「...?どういうこと?」 ─しまった。思わず口走ってしまった。こんなことを突然言われても混乱するって分かってたのに。言ったことを頭の中で何回も繰り返したら、どんどん顔が熱くなってきたのを感じた。 「っな、なんでもねえよっ...!...ほら、さっさと掃除するぞ」 俺が言ったことの意味が分かってないらしく、ぽかんとしていたけど、すぐに掃除を始めて、みんなが来る前に無事に終えることが出来た。そして、みんなが来れば俺と白川さんはただのクラスメイトで、何も話すことは無かった。でも、少しだけ距離は縮まった気がした。 ─白川さんにとって俺はただの掃除を一緒にしてくれるクラスメイト。だけど俺は白川さんに特別な感情を持っている。何をしてでも彼女を振り向かせたい。 ─これが、いつか現実になれたら、俺はどれだけ幸せだろうか、と思う。

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〜雪解け〜

−俺は恋愛運が良くない。というのも、俺には今まで彼女がいたことが2回あるのだが、そのどちらも性格に難ありなタイプで、どちらも同じやつに取られた、という経験があるのだ。そういうわけで高校では恋愛はしたくない、と思っていた。 −そして今日は高校の入学式。家からそんなに遠くない場所にある私立高校に通うことになった俺は、緊張と好奇心が混ざったような気持ちを抱きながら新しい制服に着替えていた。 −数時間後、俺は入学式を終えて、クラス表に書かれていたクラスの教室へと向かった。教室に向かっていると、俺のクラスのところにやたらと人が集まっていることに気づき、何事だ?と思って小走りで教室に入ると、一際周りから視線を集めている1人の生徒がいた。 サラサラでツヤがある白い髪、ぱっちりとしていて曇りがないピンク色の瞳、血色が良い肌、少し華奢な体格に合わないダボダボのカーディガンを着ているその生徒、それは俺がよく知っている人間、冬見玲奈だった。 冬見玲奈というのは俺と同じ中学出身で、2年と3年のクラスが同じだった女子で、かなり整った顔立ちをしてると、思う。それに、俺の元カノとは違って性格について悪い噂は一切聞いたことがない。 だがそんな冬見も完璧ではない。というのも、冬見は人とコミュニケーションを取るのが苦手らしく、クラスメイトとも全然話そうとせず、話したとしても全然目を合わせないらしい。 それが原因なのかは分からないが、冬見は中学の時一部の女子からいじめを受けていた、というのを友人から聞いた事がある。その一部の女子というのが、俺の元カノだったということも、その友人から聞いた。 俺は正直それを知ってから冬見をどういう気持ちで見たらいいのか、接したらいいのか分からなかった。だから、今同じクラスになったという現実を目にして本当にパニックになっている。 本人に気づかれないように恐る恐る教室に入り、静かに席に着いた。…まあ、俺の苗字は”春谷”で相手は”冬見”、席は前後になった。 さすがに前後になってしまったら気づかれるに決まっている。だからせめて関わりを少なくできるように、俺はわざと冬見の方を見ようとはしなかった。だが冬見は全く気にしていないのか、学校が終わって放課後となったタイミングで、俺の肩をツンツンとつついてきた。 −どうしたらいいんだ。そう思ったが無視する訳にもいかないのでゆっくりと振り返った。 「お、おお。冬見じゃん、また同じクラスじゃん、よろしくな」 少しぎこちなかっただろうか...。そう心の中で反省していたが、冬見は優しく微笑んで頷いてくれた。 「...うん、3年目だね。また1年間、よろしく」 おっとりした声色で、落ち着くような喋り方に、思わず引き込まれそうになった。だが俺は高校では色恋沙汰は極力避ける、と決めたのですぐに冷静になった。そして、クラス中から視線を集めてしまっていることに気付いた。 「あの人誰?」とか、「なんか仲良さげじゃない?」 とか、 嫉妬らしき言葉がヒソヒソと聞こえてきた。 まずい、周りから誤解されてしまうかもしれない、と思った俺は 「ああ、よろしくな。...じゃあ、俺用事あるから、またな」 とだけ言ってそそくさと教室から去った。 −入学して数週間が経過して、高校生活にもだいぶ慣れてきた。友達と呼べるようなやつもできたし、毎日充実していた。冬見はというと、孤立しているわけではないが仲のいい友達ができた様には見えなかった。 ある日の放課後、俺は教室に忘れ物をしたことに気づいて慌てて教室に向かっていた。鍵がまだ開いていればいいな、と思いながら教室に向かうと、幸い教室のドアは開いていた。 安心して息を整えてから教室に入ると、俺の後ろの席で1人の女子生徒が机に突っ伏していた。−冬見だ。 体調でも悪いのか、それとも泣いたりしているのか、ただ寝ているだけなのか、顔が髪の毛で隠れていて何も分からなかったのでゆっくり忘れ物を取りながら冬見の顔を覗くと、気持ちよさそうに寝ているようだった。 なんだ、寝ているだけか、と安心したのもつかの間で、冬見の目が突然開いた。 びっくりして走り去ろうと思ったところに、袖を掴まれて身動きが取れないようにされてしまった。 「...春谷くん...?どうしたの...?」 目を長めのカーディガンの袖で擦りながらゆっくり起き上がって俺にそう聞いてきた。 「...あー、いや、忘れ物しただけだよ」 俺がどきまぎしながらそう答えると冬見は柔らかく微笑んだ。 「...そっか、走ってきたんだよね?...お疲れ様」 −冬見は不思議なやつだ。いつもおっとりしていて何を考えているか分からないようなやつなのに、周りをよく見ている。俺が今息を少し切らしていることも、じんわりと汗をかいていることも、今の俺の姿を見て想像したんだろう。 「...まあ、そうだけど、冬見はなんで教室で寝てたんだ?」 いきなり自分に話題が振られたことに驚いたのか、冬見は一瞬きょとんとした顔を見せた。 「...うーん、なんて言うか、教室って寝心地が良くて、つい寝ちゃうんだよね」 少し乱れてしまった髪の毛を整えながらそう言う冬見は、いたずらっぽい表情を見せていたような気がする。...ほんの少しだけ、可愛い、と思ってしまった。 「...まあでも、もうすぐ暗くなっちゃうからそろそろ帰るけどね。...あ、そうだ。春谷くん一緒に帰る?」 「...え?」 思わず声に出してしまった。まさかそんな誘いを受けるなんて思ってもいなくて、かなり驚いた。 「...?そんなに驚くことなの?私たち、ただのクラスメイトだよ?」 荷物を片付けていた手を止めて、冬見は首を傾げながら俺の方をじっと見つめていた。 「いや、別に。...そうだよな、クラスメイトだもんな。一緒に帰ろうぜ」 俺がそう言うと冬見は嬉しそうに笑って立ち上がった。 −俺と冬見は同じ中学だから、当然帰り道は同じ徒歩で、方向は途中から違うがほぼずっと同じ道だ。つまり、俺は帰り道のほとんどを冬見と2人きりで過ごす、ということになる。 どうしよう。恋愛感情とかそういうのは一切無いが、やはり意識してしまう。あのクラス中からちやほやされ続けている冬見と一緒に帰ることになるなんて。それに、もし中学の同級生の誰かに見られたりしたら俺はどうしたらいいんだ、とひたすら焦っていた。 「...春谷くん、部活とか入らないの?」 「...え?...ああ、高校に入ったら勉強とか頑張ろうと思って、部活に入ろうとは思わなかったな。」 気を使ったのだろうか。ごく普通の日常会話をしようとしてくれているのが分かった。だが俺も実は人と話すこと、特に異性と話すことがあまり得意はではなく、かなりぎこちない返事が続いたと思う。 −学校を出て数分、冬見がおっとりしながら小さな歩幅で歩いているから、なかなか家に近づかない。だからといって冬見に早く歩いて欲しいなんて言える訳もなく、なんとか歩幅を合わせて歩いていた。そんな時、俺はある疑問が浮かんだ。 −なぜ冬見はこんなにちゃんとしているのにいじめなんて受けていたんだ? そう少しでも気になってしまえばなかなか頭から離れず、俺は悶々と考え込んでいた。 「...あ、春谷くん、私こっちだから、また明日ね」 急に現実に引き戻された感じがして一瞬だけ思考が追いつかなかった。 そうだ、ここからは俺と冬見は別の道。じゃあもう今日は冬見と話せない。そんなのは当たり前なことで、別に困ることではない。 −だけど、何故か分からないけど、冬見とまだ話したい、そう強く思った。 「...冬見っ」 俺はとっさに名前を呼んで背中を見せている冬見の腕を強く掴んだ。冬見はすごく驚いたような顔をしていた。 「...春谷、くん?どうしたの?」 「...あ、えっと、...俺、冬見と仲良くなりたいっていうか、その...」 言葉に詰まる。こんなこと、今までしたことがなかったから。緊張して頭が上手く回らないけど、俺は何とか思っていることを声に出した。 「...俺は、冬見のこと、もっと知りたい」 俺がそう言うと冬見は目を大きく見開いてから嬉しそうに笑った。 「...そっか。...じゃあ、これからよろしくね、春谷くん」 夕陽に照らされているからだとは思うが、冬見の顔が少し赤かったような気がした。 −これからどんな学校生活が始まるのか、なんて誰にも分からないことだけど、少し、前向きになれたかもしれない。そう思った日だった。

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〜雪解け〜

───まずい。冷や汗をじんわりとかきながら教室の前に立ち尽くしていた。なぜ私がこんなにも絶望しているのかというと、教室の鍵が開かないから。 それだけ?って思う人もいる、というかそう思う人がほとんどだと思う。だが私にとってはかなりの大問題なのだ。 まず私は朝早く学校に行くタイプで、いつも一番最初に学校に着いて教室の鍵を開けているのもいつも私。つまり、あと約30分ほど待たないと誰も学校に来ないということだ。 そして朝一番に学校に来て私はしなきゃいけないことがある。教室の掃除だ。 うちのクラスの人たちはどうやら掃除に熱心になる、という思考が無いらしく、毎日の掃除が疎かになっていた。潔癖症である私にとってそれは結構嫌だった。 そういうわけで私は誰も来ない時間帯に来て1人で掃除をするのが日課になっているわけだが、今日はその日課が出来そうにない。どうしたものか、と教室の前で鍵穴に差したままの鍵をぼーっと見つめていた。 1分に1回ほど鍵を開けられるか試したが、何度やってもやはり鍵は開かず、かく必要の無い汗を無駄にかいてしまった。 これはかなりまずい、誰かが来て鍵が開いたとしても、人がいる場所で掃除なんて絶対に嫌だ。クラスの空気を読まないと、クラスメイトたちから省かれてしまう。 鍵と格闘して約15分経った頃、私たちの教室があるフロアに向かう足音が聞こえてきた。 今日の掃除は諦めて、今来てるはずの誰かに開けてもらおう、と思っていたところに、1人の生徒がやってきた。 「───あれ、白川さん?何してんの?」 びっくりして声の方を向くと、クラスメイトの男の子、黒山くんがいた。 「...あー、えっと、教室の鍵が、開かなくて...」 黒山くんはクラスのリーダータイプで、人と話す時相手の目をじっと見つめてくるタイプだ。 私はというと黒山くんとは正反対で人と話す時相手の目を全然見れない。だから極力目を合わせないように鍵の方を見ながら言った。 「え、まじ?そんな硬いの?...あーでも、たまにあるよな、自転車とかの鍵が全然開かない日」 そうなのか?とは思ったが口には出さず、適当にそうなんだよねー、みたいな返事をした。 「先生呼ぶかー...って、白川さん、手真っ赤じゃん、大丈夫?」 そう言いながら突然手を掴まれて、私は一瞬何が起きたのか分からなかった。私の手を優しそうに握り直した黒山くんの顔は、なんだかすごく心配そうだった。 「え、あ、うん。鍵頑張って開けようとしてたら、赤くなっちゃって」 「ダメじゃん!そういう時は誰でもいいから誰かに頼らないとさ。...うーん、血は出てないみたいだけど、皮むけてるとこあるなー...」 軽く叱られた私は、黒山くんって、優しいんだな。なんて思っていた。 「じゃあ俺、先生呼んでくるから!ちゃんと手洗えよ?あ、あと血が出たら言えよ!絆創膏持ってっから!」 と言って私の手からそっと離れて、走って職員室に向かって行った。 ───それから5分も経たないうちに、黒山くんは先生を連れて戻ってきた。 「あ、先生ここです。全然開かないらしくて...」 「そうか、分かった。...本当だ、全然開かないな。...とりあえずスペアキーで開けておこう。あとでその鍵は修理に出しておく」 それだけ言って先生は鍵を開けてすぐにどこかに行ってしまった。 「よかったなー、鍵開いて」 「...あ、うん。...えっと、あ、ありがとう。先生の所に行ってくれて」 「え?別にお礼なんていいよ、放っておくわけにはいかないじゃん?大事なクラスメイトなんだし。...あ、そうだ。ずっと聞こうと思ってたんだけどさ、白川さんっていつも早く来てるみたいだけど、早く来て何してんの?」 黒山くんはそう言って自分よりもかなり小さい私を不思議そうにじっと見つめていた。 「...えっと、その、掃除、してて...」 「掃除?え、毎日わざわざ早く来て教室の掃除してんの?」 「う、うん...変、だよね...」 「いやいや、全然変じゃないよ!むしろすげえと思う!だって俺、掃除とか苦手だし、1人の時にしてるってことは目立ちたいって訳でも無いみたいだし、俺は全然いいと思う!」 「そ、そう、かな...」 「そうだよ!!ありがとう、白川さん!」 そう言いながら黒山くんは私の手を勢いよく握ってきた。 「え、あ、どういたしまして...?」 どうしよう。私、こういう時どうしたらいいのかなんて分からない。なんていうか、こんなに褒められるとは思っていなくて、恥ずかしくなった。体が熱くなっていくのを感じた。 「あっ、いいこと考えた!今日から俺も掃除手伝うよ!」 黒山くんは私の手を握ったまま瞳をキラキラさせてそう言った。 「え?そんな、悪いよ...自分で言うのもなんだけど、私来るの結構早いし...」 「そんなのいいよ!俺が早起き頑張ればいいだけだし、それに、えっと、白川さんと仲良くなりたいなーって思ってたし」 一瞬理解が出来なかった。私と仲良くなりたいなんて、そんなことを思う人がこの世界にいるわけが無い、そう思っていたから。 「わ、私と仲良くなりたいって、それ、本気で言ってるの...?」 「?そうだけど...ダメ、だった?」 悲しかったのか肩を少し落として首を傾げていて、目は心做しかうるうるして見えた。その様子を見てなんとなく子犬みたい...と思ってしまった。 「...え、あ、いや、ダメとかじゃなくて、私と仲良くしてもいい事なんて無いと思うから...」 「何言ってんだよ、人と仲良くなることにいいことも悪いことも関係ねえよ。...あと、俺にとってはめちゃくちゃいいことだから...」 「...?どういうこと?」 「っな、なんでもねえよっ...!...ほら、さっさと掃除するぞ」 顔が少し赤いし、何か意味深な感じがして気になったけど、まあいいか、と思ってそれ以上は何も言わなかった。 ───今思えば、この時から黒山くんは、私に何かただの友情とは違う感情を抱いていたのかもしれないと、思う。

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鍵