月雫しわす

4 件の小説
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月雫しわす

創作の世界で色々なBL物語を作っています。 各、キャラクター目線の詞や 小説っぽいものも、書いていきたいです。 普段はイラストを描いています。

雨乞い

「あんたが好きだ」そう言ってくれたあの時、雨が降っていた。 ふと目を覚ます。部屋には自分以外誰もいない。当たり前だ、今はもうそういう道を選んだのだから。 編み物の途中で寝てしまったみたいだった。 糸が外れてないか確認する。今作っているのは内職というほど納期が決まっているわけではないが、お小遣い稼ぎに、完成した編み物の帽子や手袋をネットに出品して販売している。 本田は、機械に疎いので出品の時は知人に手伝ってもらっていた。編み物をするのには他にも理由がある。自分の動かしにくくなってしまった手先のリハビリだ。少しでも動かしておかないとと本田は思う。 ガタタンと家の近くの電車が通ると裸電球が揺れる、本田は部屋に唯一ある窓の外を見た。外はもう暗くなっているし窓の外には有刺鉄線があり、線路がある。その奥に大きな工場があって空はちらりとしか見えない。それでも本田は窓の外を見る癖がついていた。ふいに本田の腹の虫が小さく鳴いた。 「お腹空いたなぁ…何か食べないと」 本田はよいしょと言いながら立ち上がる。玄関の方に知人からもらったさつまいもがダンボールに入っているから茹でて食べようと思った。その時インターホンの音が鳴った、玄関に向かっていたから動かしにくい足には有難い。 「本田さん、今月の家賃なんだけど…まだもらえないかしら」 ドアを開いたら大家さんにそう言われる。本田は慌てて頭を下げた。 「すいません!今月なかなかお仕事いただけなくて…」 「困るんだよなぁ」    野太い声が聞こえた。大家さんではない男性の声。ぱっと顔を上げると大家さんを押し除けて大柄な男が玄関に入ってきた。 「噂には聞いてたけど…えらい別嬪(べっぴん)じゃねぇかぁ…あんたならいい商売が出来ると思うぜぇ?それとも俺のところに来てもらってもかまわねぇ」 ニヤニヤと本田を上から下まで見て男は笑う。 「ちょっと、本田さんはこう見えて男性なんですよ…」 大家さんが説明を入れると本田は申し訳なさそうにお辞儀しながら「男でごめんなさい」と言った。男は少し驚いていたがすぐに先ほどのニヤケ面になる。 「男には到底見えねぇけど、あんたほどのべっぴんなら」 その時男の後ろからもう1人の男性の声が聞こえた。 「すいません、お忙しいところ申し訳ないんですが少しよろしいですか?」 ざわりと本田の耳の血液の巡りが早くなる。耳の中の血管が脈を打っているかのようにドクドクとうるさい。この声は…知っている。全身が高揚感に包まれて動けなくなった。 「警察の方が何か用ですか?」 大家さんは怪訝そうな声で返答した。 「この近くで、盗難がありましてこちらにも被害が出てないか確認しにきました」 「うちは、見ての通りの佇まいだから…取られるものもないと思うけど…あ、そういえば、いくつかアクセサリーが見当たらないのよ。離れの方なんだけど…来ていただけるかしら?」 「はい」 大家と警察は離れの方に向かったようで男はいい機会とでも言うように部屋の中に入ってくる。 本田は耳を赤くして、なにやらうずくまっていた。 「おい、そこのアンタ。ちょっとお茶でも淹れてくれや、そうしたら家賃の件どうにかしてやってもいいぜ?」 「え…そんな!申し訳ないです。どうにかお金は用意しますので…もう少しお待ちいただけると」言葉の途中で男は本田の腕を強引に引いた。とっさに驚いた声が出てしまう。 「待てねぇっていってんだろうがぁ!」 男は語気を荒々しく強める。 本田はどうすればいいかわからず縮こまる。その時玄関から声が聞こえた。 「どうされましたかー?」 先ほどの、警官だった。 男は警官を睨みつけ、舌打ちをしながら玄関に出た。 ちょっと家賃を払わない人がいたんで、口論になったのだと適当に話を男はして、警官と共に出ていく。最後に本田をチラリと見たのは、まだ何かしらの思いがあるからだろう。 荒々しい時間が解けて、本田はヘタリと座り込む。ハッキリとは顔は見なかったけれど、確かに近くに愛しい人の存在を感じてしまった。 ふふっと本田は笑う。 「困ってたら、助けに来てくれるヒーローみたい」 本田は目を細めて笑った。 コツンコツンと、雨音が天井に落ちる音がする。雨が降ってきたようだ。 本田は、窓を開ける。 「俺も、ずっとずっと好きだよ。あの雨の日から今もずっと」 『あんたが好きだ』 そう言ってくれたあの時、雨が降っていた。 ありがとう、土方くん。ありがとう。 あの時にあんな素敵な言葉をくれて。 以前にも増して、俺は雨が大好きになったよ。 今あの警官が、本田に会っても 「初めまして」から始まるのだろう 今日、本田の家にやってきたのは偶然で 会えることなんてないと思っていた本田にとって、顔が見えなくても、大好きな人の大好きな声が聞けた、それだけで胸がいっぱいだった。 だけど、望むなら一つだけ。 「雨粒さん、もし音を記憶できるなら 雨が降るたびどうか聞かせて、あの日土方くんが言ってくれた、あの言葉を。」 薄く瞳に涙を浮かべながらそう、本田は願った。 ***** あとがき ここまで読んでくださってありがとうございます。 この短編小説は、実はシリーズものになっていて、前作の続きだったりします。 短編小説でも読めるし、シリーズとして通してみてもなんとなく話がつながっている。みたいなのを目指して今後とも短編小説を書いていきたいなと思います。 本田がどうして手先、足先が不自由なのか。 どうして土方が本田を忘れてしまっているのか、そういったところを短編かつ、実はシリーズものみたいな形で綴っていけたらと思います

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溶ける宝石

  溶ける宝石 「あー、しまった」 放課後のチャイムが鳴ると、居残りをしていた小枝に追加の課題と言わんばかりに雨が降ってきた。 「傘なんか持ってきてないよー、どうしよう」 いつもは濡れたって構わないと思っているが今日は別だ。鞄の中に濡れて欲しくない大切な物がある。それは小枝にとってはとても大事な物だ。そのせいで下駄箱から少し出た玄関口で外の様子を見るしかない。雨は粒が大きくて、風はないがこの中を帰ろうものならずぶ濡れになるだろう。 「小枝?」 後ろから声をかけられた。澄んだこの声は小枝の大好きな人の声だった。 「こもりん!」 やはり、そこには小森しゅんたがいた。 小森は、高校2年の春に小枝のクラスに転入してきた人で、教室に入ってくるやいなや、クラス中がざわめいたものだった。なぜなら小森しゅんたの容姿があまりにも美しかったから。小枝は小森の方に駆け寄るとはしゃぎながら話しかけた。小枝の身長が196センチあるのに対して、小森は152センチしかないので、ずいぶんと凸凹な見た目だ。 「小枝、傘は無いの?」 「あ、傘忘れちゃったんだよねぇ…。こもりんはこんな遅くまでどうしたの?」 「ふふ、俺は先生が困ってたから手伝いをしてたんだよ。資料運んだり、配布するプリント纏めたりだけどね」 小森はにっこりと笑いながら嫌な顔ひとつしてない。小枝はそんは人柄の小森に好感を抱いていた。 小森は傘立てから傘を取り出して、 「傘、持ってないならよかったら俺の傘に入って行く?」と言った。 「え!いいよ!こもりん濡れちゃうよ」 「別に気にしないよ!ほら!帰ろう!」 傘を開くなり小森はぐいっと小枝を傘の中に引き入れる。 「ありがとう、せめて俺傘持つよー」 小枝は傘を持つ。男同士で相合傘なんて、小森は嫌じゃ無いのだろうかと心配だった。だが小森は機嫌が良さそうに歩を進めている。その様子をじっと見ていると小森が顔をこちらに向けてきた。清潭(せいたん)な顔立ちにドキリと思わずしてしまう。 「小枝…、肩が雨で濡れてるよ」 「え、あぁ!俺無駄にデカいからしょうがないの!気にしないで」 満面な笑みで小枝は返す。そもそも学校で一番人気の小森とこうして帰れるなんてラッキーだ。4月に転入してきた小森とはまだ2カ月の付き合いなので、小枝は友達になりたかった。これを機に友達になれるかもしれない。そう考えていると傘から小森がパッと飛び出した。 「小枝、ねぇ見てみて!」 「え、こもりん、どうしたの?濡れちゃうよ?」 小枝が慌てると、いいの、と小森は返した。 「傘を指してると見えなくなっちゃうから」 「何が見えなくなるの…?」 「雨!」 「雨…?」 小森は頷くと雨に打たれながら雨雲が広がる空を見る。先ほどよりは雨粒は小さくなってはいるが、やはり濡れてしまうのは気がかりだった。 「小枝は雨は嫌い?」 「え、うーん、外で遊べなくなるから子供の時はあまりすぎじゃなかったかなぁ」 「あはは、小枝らしいね」 「それに今日は、俺の大事な宝物も鞄に入ってるし、雨は今日は敵!」 「宝物持ってるの?」 「そう!見る?俺の…」ガサゴソと鞄から小枝の宝物を出す。 「赤点を免れた、幻のテスト用紙!!」 本気な顔でテスト用紙を突き出して自慢してくるので小森は思わず笑ってしまう。 「小枝って、かわいいんだなぁ」 「えー!だって俺ってテスト受けたら、絶対赤点だからさぁ!赤点免れたテストなんて珍しいんだよぉ!」 家に帰って自室の壁に貼りたい等の旨を語る。小森はやはりクスクスと笑っていて和ましいというように小枝を眺めている。 「あ、ところで、雨の何をみてたの?」 小枝は自慢話が終わって一息ついて思い出す。ついつい夢中になってしまったようだ。 「うんとね、空から雨が降ってくるのを見るのが好きなんだ」 小森は上を向いた。曇天の空が広がっている。 「へぇ」 小枝も傘を少し斜めにして空を見上げてみたが、やはりいつもの雨空だ。 「どんなところがすきなの?」 小森が前髪から落ちる雨の雫も邪魔にならないと言わんばかりに気せず空を見上げているので聞いてみた。すると小森はうーんと、と言葉を出したあと話出した。 「俺にとって雨は宝石なんだ」その言葉の後に小森は息を吸うと次の言葉を話し出す。 「傘に落ちる音は音楽で、雨が歌を歌っているでしょう?落ちてくる間に光を集めて光ってる雨粒の様はまるで宝石みたいでしょう。それで、地面に落ちたら溶けて消えちゃうみたいに見えなくなるけど、どこか一箇所に集まって水たまりになる。そうすると今度は空を映す綺麗な鏡になるの。そういうところが、綺麗で自然が生み出してる宝石だと俺は思うんだ」 小枝はびっくりしてしまった。雨の事をそんな風に考えて、感じて生きてる人がいるのか。 「バカな事言ってるとよく言われるよ…でも、好きなんだ」 小枝はふと思い出した、小森の家は名家で有名な家らしいけれど、それが故に陰湿な嫌がらせや陰口をされてる事を聞いた。小枝自体は「小森くんは変わってる」という言葉しか聞いた事なかったが、悪口としては受け取っていなかった。もしかしたらこういう小森の人との感性の違いがその言葉に繋がったのかもしれない。 「大変小枝!」 「え?!」 急に小森が近寄ってきたのでびっくりした。 「小枝濡れちゃってる!テスト、宝物なんだろ?部屋に飾るなら早く傘ささなきゃ!」 あ!と思ったがわりと小枝も濡れていて小枝は声を出して笑った。傘を閉じ、小森に微笑む。 「俺も、こもりんと一緒に見ようかな!宝石」 それを聞くと小森は瞳を大きく開いて驚いた。水色と蒼色の瞳が吸い込まれそうなくらい綺麗だった。 やがて、その瞳は柔らかく細まると嬉しそうに小森が笑った。 「ありがとう。小枝」 小枝と小森は上を見上げ空から降ってくる宝石を見て歩いた。小森がいうように雨が心底綺麗とは感じられなかったけれど小枝にとって雨の中を傘も指さずに喜んで歩く帰路は随分と楽しい時間になった。 帰宅後小枝はしわくちゃになって湿ってしまったテスト用紙を見た。点数のところは滲んでぼやけてしまっているが小枝にとってこのテストの用紙はもうどうでもいい。 小枝は思い出す。 雨が宝石だとは思えなかったけど、一緒に宝石を見ようと言った時の小森の嬉しそうな表情と、蒼い瞳が細まって綺麗な笑みを浮かべていたあの柔らかで溶けてしまいそうな宝石のような美しい笑顔を。

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溶ける宝石

十三秒の夕日

十五秒の夕日 僕の好きな人が住んでいる街は、田舎くさくて電車の踏切も車が一台通ればいいくらいのしょぼさだ。取り柄と言ったら夕日が綺麗なことくらい。誰もこんな場所に好き好んで住むわけがないと思い僕と一緒に暮らしてくれたら、美味しいものも、綺麗な服も、なんだって与えてあげられるよと、僕は好きな人に告白をした。だけどその人は僕のところには来てくれなかった。「ありがとう、でも好きな人がいる」そう言われてしまった。僕はその人に好きな人がいる事も承知だった。そして、それが叶わない恋だということも知っていた。 それは、出会った日に分かってしまったんだ。 僕は熱で倒れて気付けばその人の家にいた。小さいアパートの一部屋で、今時、裸電球という質素すぎる部屋だった。 その人は編み物を編んでいて、時より振り返って窓の景色を見る。振り返っても工場があるだけで何も風景なんていいものじゃないし、おまけに線路沿いのアパートなおかげで定期的に震度2くらいの揺れを感じなきゃいけない。 そんな環境がいたたまれなくて、僕は救い出したかった。その人に告白を断られた日、僕は項垂れてそのまま部屋に座り込んだ。部屋にある唯一の窓には夕暮れ時だというのに、工場の大扉がガラガラと上に引っ張られていくところで、うるさかった。 「何を見ているの?」 項垂れる首あげて聞く。 「この時間、あそこの工場の大扉が開くと、むこうの景色が見えるの、そうするとね…あ、ほら!」 工場の大扉が開かれると、遮られていた夕日が差し込んできて、景色が一気に色づいていく。 工場の奥には下校途中の小学生たちが歩いていて、警官と思われるお巡りが信号を誘導している姿が見える。子供達が信号を渡り終えて、警官にお礼を言ってるのか振り向いていた、そこでガーっと電車が通り風景は突然様変わりする。地震を作り出す電車は、通り過ぎるまで少しかかる。 やっと電車がいなくなると、また夕日は差し込んできたけれど、もうそこには先ほどの子供達の姿はなかった。 「綺麗な夕日だったでしょう?」 その人は目を細めて笑った。 その瞬間、僕は、この人が何を見ていたのか分かってしまった。きっと、工場は毎日同じ時間に大扉を開けて、その奥に子供たちの下校する風景が写っていて…そして、同じタイミングで電車が来る。たった…、たった十五秒くらいのその時間をこの人は楽しみにしているんだ。それを毎日待っているんだ。そう、わかってしまった。 フラれてしまった僕は好きな人の所へは行かなくなった。僕があの家に行くことはもうないだろう。だって、きっと今日も見ているだろうから。夕日に染まる子供達と愛しいあの人の姿を、夕焼けと共に。  

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十三秒の夕日

自由

真っ白い紙に字を書くのか、絵を描くのか、 はたまた、かわいいスタンプを押したりして。 白い紙はなにをえがいてもいい。 ぼくは、絵が得意じゃないから、例えば叶えたい目標、夢なんか書いてもいいよね。 毎日の目標、それが達成出来た時少しだけ成長した気がする。 そうやって、考えて紙に向かって 何かをしようと考えることが無限の可能性だなって思う。 大袈裟だなってあなたは思うかな。 そんなあなたも好きだよ、ぼくの自由は無限だ。                 執筆者:しゅんた

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