月雫しわす

5 件の小説
Profile picture

月雫しわす

創作の世界で色々なBL物語を作っています。 各、キャラクター目線の詞や 小説っぽいものも、書いていきたいです。 普段はイラストを描いています。

朧げな君

数日前、梅雨入りだとスマホの記事に載っていた。その予想は当たっていて本日もしとしとと雨が降っている。土方は雨に無関心だ。どう無関心かというと、雨が降っているのにも関わらず傘を持たずに出勤するほど無関心である。 今日は、出勤の日ではないがちょっとした買い物をしに玄関に向かう。靴を履き、玄関から出ようとすると後ろから呼ばれた。 「冬司(とうじ)くん」 振り向くといそいそと赤い傘を持ったユリが話しかけてきた。 「傘、今日も持たないのぉ?」 「傘?」 「雨降ってるのよ?」 「へぇ」 「へぇ、じゃないよ!濡れちゃうって」 そこでようやく、傘を持った。 「傘っていつの間にかにどっかに置いてきてんだよな。コンビニとか。」 「忘れて濡れて帰る方が変だと思う」 だがユリは土方に抱きつく、顔は嬉しそうである。 「傘、やっぱり持たなくていいや!いつもみたいに相合い傘しよ!」 そう言われたが、土方はそうまでして相合い傘する気はなく、傘を持って出かけた。 「もう、冬司くんのいじわるぅ」 「いや、濡れるの嫌なんじゃねぇの」 「相合い傘できるから、ユリは嬉しいよ?」 コンビニに途中寄った。欲しかった商品を適当にカゴに入れていく。 「あ!これ新しいやつだー!」 ユリは土方の持ってるカゴに化粧品をいくつか入れた。なにかこの前も買っていた気がするが覚えていない。会計を済ませコンビニの自動ドアをくぐると、雨足が強くなっていた。 「うわ、雨強くなってるー、服が濡れちゃう…」 ユリは持ってきた傘を開こうとするが土方は 家に向かって歩き出そうとしていた。そこでユリに引き止められた。 「ちょっとちょっと、いくらなんでも忘れすぎ!傘さしていこうよー」 「あー」 「土方くんて、ぼーっとしてるよね!」 ユリがさした傘を土方はもって二人で入った。 「あれ、傘お前持ってきてなかったっけ?」 「あ、バレた?実は持ってる!でも相合い傘したくて!このまま帰ろうよぉ」 少し考えたが、考えるのが面倒になってそれでいいかと思う。 「私、雨嫌いだけどこういう時はラッキーって思う!」 ……? 「雨、好きって言ってなかったっけ?」 「え?」 そこで車が二人の側を通った。速度があり、タイヤが路面の水を弾く。ユリは思いっきり路面の水をかぶってしまった。 「やー!もう最悪!雨嫌い!」 ユリはもう濡れたくなくて、やはり傘を一本ずつ持ちその日は帰った。 *** 「雨…綺麗だね。」 「え?」 「空から宝石が降ってくるみたい」 そう言って傘を持ってるのに、傘をささず雨が降ってる雨空を見上げて満足そうに微笑んでたのは…誰だっけ。 「土方さん」 ビクリと体が動いて起きた。 「また、勤務中に居眠りですか?」 「いや、瞑想してた」 「いつもの、居眠りじゃないですか」 後輩の生蔵を軽く蹴る。 それが終わると交番勤務の二人はぼーっとし始めた。 「暇っすねー」 生蔵が言う 「暇だな」 小学生帰宅時の、道路交通安全取り組みの時間にはまだあるし土方は伸びをして、最近の出来事でコンビニでいつも買ってるゼリー飲料が無くて仕方なく弁当を買ったなどと、どうでもいい話を暇つぶしにする。 「あ、俺その時ちょうど遠目で見てたかもしれないです、ユリさんと相合い傘してましたよね?」 「え?ユリ?あの時居たっけ…?」 「一昨日の話なら、居ましたよ」 「ゼリー無かったのは一昨日だけど…あぁ、車に水ひっかけられたやつか」 そこで思いだす 「あぁ、居た、ユリ」 「普通忘れますか…」 「俺ってぼーっとしてるらしい」 「いや、ぼーっとしてるじゃなくて土方さんは何に対しても”無関心”なんっすよ」 確かに。そう思った。子供の頃それでかなり親は苦労したらしいし。何かに興味を持つのはあまり無かった。 そういえば、恋人のユリの事は「好き」という意識ははっきりあるから、無関心ではないと思うんだが…何か違和感はある。 コトン… なにか交番の玄関扉の方から何か聞こえた気がした。だがとりとめて気にする必要もないかと思う。 「土方さん、巡回行ってきます」 「おぅ」 土方はまた居眠りの続きをしようとしたら出てった生蔵が戻ってきた。 「土方さん、なんか傘届いてますよ。土方さん宛に」 「は?」 生蔵から傘を受け取ると、持ち手の方に糸で付けられたメモがあった。字がヨレヨレで読みにくい 「土方さんへ…この前はありがとうございました。今日は傘が必要になるので使ってください。小さなお礼ですがどうぞ」 字の感じからして、小学生…だろうか? 身に覚えが、土方には無かった。 一緒に読んでいた生蔵が何かに気付いたように言った。 「あぁ!この前電車の踏切の所でこけちゃった子を連れて帰ってきて、ここで手当てしてあげたあの子じゃないですか?」 「そんなことあったっけ?」 「……ありましたよ」 生蔵は呆れて、ため息をつきながら交番を出てていき、見回りを再開するようだ。 土方は、傘についてるメッセージを見る。 なんとなく、懐かしい気分になるのはなんでだろうか。 「あれ…今日天気予報晴れじゃなかったっけ」 土方はスマホで天気予報を確認する。やはり今日一日は晴れマークが付いている。 使わない傘を持って帰ると、またどこかに忘れそうだ。土方は交番内の傘立てに傘を立てた。今日は使わないだろうけど、まぁいつか誰かが使うだろう、呑気にそう思っていたのに宵の口になると雨が降ってきた。 「結構降ってますね、雨」 「めんどくせぇ…傘持ってきてねぇ…」 流石にこの雨足では家に着く頃にはずぶ濡れだ、「ちゃんと仕事しろよ、天気予報」と言ったら生蔵に「先輩がいいます?」と言われたので丸めた紙で頭をはたく。 「傘持ってきてない」 「あー、でも届けられたお礼の傘があるじゃないっすか!」 生蔵の発言でそういえばと思い出す。 「じゃあその傘使うか」 土方は退勤時間になり制服から私服に着替えてからその傘を手に取った。「じゃあお疲れ」 同僚の挨拶を背中に土方は雨を前にして傘を開いた。確かにこの雨の中傘無しで帰るのは大変だったろうなと思う。タイミングのいい子供に感謝しながら土方は帰宅した。 「先輩!また届いてますよ!傘!」 例のお礼の傘が届いてから5日経った日の事だった。生蔵がまた傘を手に持ってきた 「いやいや、ただの忘れもんだろ」 土方は手を左右に降って〝ないない〟をした。 「先輩宛にメッセージまたついてますけど…」 「は?」 メッセージには、「お天気雨降ります。もし傘をもってなかったら使ってください」とあった。 「またあの子供ですかね…?」 メッセージの字はひどくよれていて、以前のメッセージの字と同じだった。 「流石になんかへんですね… 念の為に何かついてないか検査します?」 「…んー ちょっと預かる…なんか気になるから俺が調べてみるわ」 土方は手袋をし傘を受け取った。なんだろうこの胸のあたりが疼くような感覚。わからない…いくら考えても感情に疎い土方にはそれがどんな感情なのか、結局わからなかった。傘の持ち主は怪我をした小学生の子供なのだろうか。モヤモヤとする中、土方は残りの業務をこなした。 そろそろ日が落ちてくる頃、道路交通安全取り組みに行かなければならないと気づく。外に出ようとすると日は出ているのに雨がぱらぱら降っていた。 「お天気雨…」あの傘のメッセージを思い出した。土方はかっぱを着ると外に出て線路の踏切まで向かった。 「お気をつけて歩いてくださいね」 笑顔で土方は誘導灯で子供達が安全に渡れるように誘導する 「あ!かっこいいお兄ちゃんだー!」 「いいなぁ!僕もその赤いの持ちたーい」 子供達に声をかけてもらって土方は笑顔で返事する。 「ありがとう、でもこの棒を君たちに渡しちゃったらお巡りさん怒られちゃうから勘弁して欲しいかな」 爽やかに切り返す姿は交番での土方とは全くの別人で向かいに立って誘導している生蔵が「猫被ってる」とボソリと言った。子供達は小さなかっぱを着てる子や傘をさしている子など様々で柄も子供が好むような色鮮やかな配色のものばかりだ。そこで土方は思う。 (子供が二度も誰かに傘を渡す時、ビニール傘なんて選ぶだろうか…?) そう思った時だった。 「あ、この前のお巡りさん!」 声の方を見ると男の子が土方を見ていた。黄色いかっぱを着ていた。 「土方さん!その子ですよ!前に怪我した…!」生蔵が言う。 パッと土方はその子供の顔を見た。何故かその子供は土方をまじまじと見ている。 「お、お巡りさんの顔に何かついてるかな?」 土方は落ち着いて笑顔で話す。 ハッとしたようにその子供は言った 「綺麗なお兄さんが…」 「綺麗なお兄さん?」 「うん…綺麗なお兄さんが、お兄ちゃんのことを凄く綺麗なお巡りさんだって…いつもいうから」 「え…?」 「きらきらしてて、夕日がもっと眩しくなるって言ってた!それが凄く綺麗だって…!」 (誰だ?!俺を知ってるみたいだけど…そんな事言われた事がない) ズクンと胸が捻れるような痛みが走る。なんだ…?!俺の記憶なのか…?何か思い出しそうだ…! 土方は心臓のあたりの服を強く握りしめる。 黄色いカッパの子供はさらに言葉を続けた。それが重なって誰かの声が重なる。 「〝あなたが笑うと、花が咲くみたい〝」 心臓が大きく脈を打つ。(俺はこの言葉を知っている!)柔らかく微笑んでおっとり喋る人だった。 土方は漠然と思う。俺の好きな人だった…そうだ、俺はユリを好きなんじゃない、何故だかはわからないけど好きだと思わないといけないと頭がそう思っていた。 土方の様子がおかしいと気付いた生蔵が近寄ってきた。 「先輩…大丈夫ですか?」 「あ…いけない!綺麗なお兄さんの話は秘密だった」 黄色いカッパの男の子が言う。 「ちょっと!待って!待ってくれるかな」 土方は走り出しそうにした男の子を呼び止めた。 「秘密って何かな?綺麗なお兄さんって誰…?」 男の子は悩んだ末にポツリと言った。 「交番に傘を置いて来てほしいって…その人が僕に頼んできたの…自分は近づいちゃいけないんだって、でも傘をすぐに無くしちゃう人がいるからって、その人のために傘を置いて来てほしいいんだって言ってた。」 男の子は話終わると踏切を走って渡ってしまった。その後ろ姿に咄嗟に土方は声を出した。 「ありがとう!君のおかげで俺は…大事なことに気づけた!」 振り向いて安心した男の子はやっとほっとした顔でバイバイと手を振った。 その日の夕日はいつもより日が落ちるのが早く、暫くしたら辺りは暗くなっていた。 交番に戻ると土方は急いで制服から私服に着替えた。 「おい、土方お前まだ退勤時間じゃねぇだろ?」 同期の同僚が声をかけるが土方には聞こえていなかった。代わりに生蔵が答えた。 「行かせてあげて下さい。先輩の後の仕事は俺がやっとくんで…」 探しに行かなければ…!あいつを見つけて、〝ただいま〟って言ってやらなきゃ… 顔も名前も思い出せない。唯一わかるのは、多分あいつはずっと…ずっと俺を待ってたはずなんだ。 なんの根拠もない思考に確信めいたものがある、それが土方を突き動かす。 迎えに行かないと…遅くなってごめん…ごめん! 土方は薄く涙を浮かべながら、名前も顔もわからないその人を探しに夜道をかけて行った。                                      つづく

1
0

雨乞い

「あんたが好きだ」そう言ってくれたあの時、雨が降っていた。 ふと目を覚ます。部屋には自分以外誰もいない。当たり前だ、今はもうそういう道を選んだのだから。 編み物の途中で寝てしまったみたいだった。 糸が外れてないか確認する。今作っているのは内職というほど納期が決まっているわけではないが、お小遣い稼ぎに、完成した編み物の帽子や手袋をネットに出品して販売している。 本田は、機械に疎いので出品の時は知人に手伝ってもらっていた。編み物をするのには他にも理由がある。自分の動かしにくくなってしまった手先のリハビリだ。少しでも動かしておかないとと本田は思う。 ガタタンと家の近くの電車が通ると裸電球が揺れる、本田は部屋に唯一ある窓の外を見た。外はもう暗くなっているし窓の外には有刺鉄線があり、線路がある。その奥に大きな工場があって空はちらりとしか見えない。それでも本田は窓の外を見る癖がついていた。ふいに本田の腹の虫が小さく鳴いた。 「お腹空いたなぁ…何か食べないと」 本田はよいしょと言いながら立ち上がる。玄関の方に知人からもらったさつまいもがダンボールに入っているから茹でて食べようと思った。その時インターホンの音が鳴った、玄関に向かっていたから動かしにくい足には有難い。 「本田さん、今月の家賃なんだけど…まだもらえないかしら」 ドアを開いたら大家さんにそう言われる。本田は慌てて頭を下げた。 「すいません!今月なかなかお仕事いただけなくて…」 「困るんだよなぁ」    野太い声が聞こえた。大家さんではない男性の声。ぱっと顔を上げると大家さんを押し除けて大柄な男が玄関に入ってきた。 「噂には聞いてたけど…えらい別嬪(べっぴん)じゃねぇかぁ…あんたならいい商売が出来ると思うぜぇ?それとも俺のところに来てもらってもかまわねぇ」 ニヤニヤと本田を上から下まで見て男は笑う。 「ちょっと、本田さんはこう見えて男性なんですよ…」 大家さんが説明を入れると本田は申し訳なさそうにお辞儀しながら「男でごめんなさい」と言った。男は少し驚いていたがすぐに先ほどのニヤケ面になる。 「男には到底見えねぇけど、あんたほどのべっぴんなら」 その時男の後ろからもう1人の男性の声が聞こえた。 「すいません、お忙しいところ申し訳ないんですが少しよろしいですか?」 ざわりと本田の耳の血液の巡りが早くなる。耳の中の血管が脈を打っているかのようにドクドクとうるさい。この声は…知っている。全身が高揚感に包まれて動けなくなった。 「警察の方が何か用ですか?」 大家さんは怪訝そうな声で返答した。 「この近くで、盗難がありましてこちらにも被害が出てないか確認しにきました」 「うちは、見ての通りの佇まいだから…取られるものもないと思うけど…あ、そういえば、いくつかアクセサリーが見当たらないのよ。離れの方なんだけど…来ていただけるかしら?」 「はい」 大家と警察は離れの方に向かったようで男はいい機会とでも言うように部屋の中に入ってくる。 本田は耳を赤くして、なにやらうずくまっていた。 「おい、そこのアンタ。ちょっとお茶でも淹れてくれや、そうしたら家賃の件どうにかしてやってもいいぜ?」 「え…そんな!申し訳ないです。どうにかお金は用意しますので…もう少しお待ちいただけると」言葉の途中で男は本田の腕を強引に引いた。とっさに驚いた声が出てしまう。 「待てねぇっていってんだろうがぁ!」 男は語気を荒々しく強める。 本田はどうすればいいかわからず縮こまる。その時玄関から声が聞こえた。 「どうされましたかー?」 先ほどの、警官だった。 男は警官を睨みつけ、舌打ちをしながら玄関に出た。 ちょっと家賃を払わない人がいたんで、口論になったのだと適当に話を男はして、警官と共に出ていく。最後に本田をチラリと見たのは、まだ何かしらの思いがあるからだろう。 荒々しい時間が解けて、本田はヘタリと座り込む。ハッキリとは顔は見なかったけれど、確かに近くに愛しい人の存在を感じてしまった。 ふふっと本田は笑う。 「困ってたら、助けに来てくれるヒーローみたい」 本田は目を細めて笑った。 コツンコツンと、雨音が天井に落ちる音がする。雨が降ってきたようだ。 本田は、窓を開ける。 「俺も、ずっとずっと好きだよ。あの雨の日から今もずっと」 『あんたが好きだ』 そう言ってくれたあの時、雨が降っていた。 ありがとう、土方くん。ありがとう。 あの時にあんな素敵な言葉をくれて。 以前にも増して、俺は雨が大好きになったよ。 今あの警官が、本田に会っても 「初めまして」から始まるのだろう 今日、本田の家にやってきたのは偶然で 会えることなんてないと思っていた本田にとって、顔が見えなくても、大好きな人の大好きな声が聞けた、それだけで胸がいっぱいだった。 だけど、望むなら一つだけ。 「雨粒さん、もし音を記憶できるなら 雨が降るたびどうか聞かせて、あの日土方くんが言ってくれた、あの言葉を。」 薄く瞳に涙を浮かべながらそう、本田は願った。 ***** あとがき ここまで読んでくださってありがとうございます。 この短編小説は、実はシリーズものになっていて、前作の続きだったりします。 短編小説でも読めるし、シリーズとして通してみてもなんとなく話がつながっている。みたいなのを目指して今後とも短編小説を書いていきたいなと思います。 本田がどうして手先、足先が不自由なのか。 どうして土方が本田を忘れてしまっているのか、そういったところを短編かつ、実はシリーズものみたいな形で綴っていけたらと思います

2
0

溶ける宝石

  溶ける宝石 「あー、しまった」 放課後のチャイムが鳴ると、居残りをしていた小枝に追加の課題と言わんばかりに雨が降ってきた。 「傘なんか持ってきてないよー、どうしよう」 いつもは濡れたって構わないと思っているが今日は別だ。鞄の中に濡れて欲しくない大切な物がある。それは小枝にとってはとても大事な物だ。そのせいで下駄箱から少し出た玄関口で外の様子を見るしかない。雨は粒が大きくて、風はないがこの中を帰ろうものならずぶ濡れになるだろう。 「小枝?」 後ろから声をかけられた。澄んだこの声は小枝の大好きな人の声だった。 「こもりん!」 やはり、そこには小森しゅんたがいた。 小森は、高校2年の春に小枝のクラスに転入してきた人で、教室に入ってくるやいなや、クラス中がざわめいたものだった。なぜなら小森しゅんたの容姿があまりにも美しかったから。小枝は小森の方に駆け寄るとはしゃぎながら話しかけた。小枝の身長が196センチあるのに対して、小森は152センチしかないので、ずいぶんと凸凹な見た目だ。 「小枝、傘は無いの?」 「あ、傘忘れちゃったんだよねぇ…。こもりんはこんな遅くまでどうしたの?」 「ふふ、俺は先生が困ってたから手伝いをしてたんだよ。資料運んだり、配布するプリント纏めたりだけどね」 小森はにっこりと笑いながら嫌な顔ひとつしてない。小枝はそんは人柄の小森に好感を抱いていた。 小森は傘立てから傘を取り出して、 「傘、持ってないならよかったら俺の傘に入って行く?」と言った。 「え!いいよ!こもりん濡れちゃうよ」 「別に気にしないよ!ほら!帰ろう!」 傘を開くなり小森はぐいっと小枝を傘の中に引き入れる。 「ありがとう、せめて俺傘持つよー」 小枝は傘を持つ。男同士で相合傘なんて、小森は嫌じゃ無いのだろうかと心配だった。だが小森は機嫌が良さそうに歩を進めている。その様子をじっと見ていると小森が顔をこちらに向けてきた。清潭(せいたん)な顔立ちにドキリと思わずしてしまう。 「小枝…、肩が雨で濡れてるよ」 「え、あぁ!俺無駄にデカいからしょうがないの!気にしないで」 満面な笑みで小枝は返す。そもそも学校で一番人気の小森とこうして帰れるなんてラッキーだ。4月に転入してきた小森とはまだ2カ月の付き合いなので、小枝は友達になりたかった。これを機に友達になれるかもしれない。そう考えていると傘から小森がパッと飛び出した。 「小枝、ねぇ見てみて!」 「え、こもりん、どうしたの?濡れちゃうよ?」 小枝が慌てると、いいの、と小森は返した。 「傘を指してると見えなくなっちゃうから」 「何が見えなくなるの…?」 「雨!」 「雨…?」 小森は頷くと雨に打たれながら雨雲が広がる空を見る。先ほどよりは雨粒は小さくなってはいるが、やはり濡れてしまうのは気がかりだった。 「小枝は雨は嫌い?」 「え、うーん、外で遊べなくなるから子供の時はあまりすぎじゃなかったかなぁ」 「あはは、小枝らしいね」 「それに今日は、俺の大事な宝物も鞄に入ってるし、雨は今日は敵!」 「宝物持ってるの?」 「そう!見る?俺の…」ガサゴソと鞄から小枝の宝物を出す。 「赤点を免れた、幻のテスト用紙!!」 本気な顔でテスト用紙を突き出して自慢してくるので小森は思わず笑ってしまう。 「小枝って、かわいいんだなぁ」 「えー!だって俺ってテスト受けたら、絶対赤点だからさぁ!赤点免れたテストなんて珍しいんだよぉ!」 家に帰って自室の壁に貼りたい等の旨を語る。小森はやはりクスクスと笑っていて和ましいというように小枝を眺めている。 「あ、ところで、雨の何をみてたの?」 小枝は自慢話が終わって一息ついて思い出す。ついつい夢中になってしまったようだ。 「うんとね、空から雨が降ってくるのを見るのが好きなんだ」 小森は上を向いた。曇天の空が広がっている。 「へぇ」 小枝も傘を少し斜めにして空を見上げてみたが、やはりいつもの雨空だ。 「どんなところがすきなの?」 小森が前髪から落ちる雨の雫も邪魔にならないと言わんばかりに気せず空を見上げているので聞いてみた。すると小森はうーんと、と言葉を出したあと話出した。 「俺にとって雨は宝石なんだ」その言葉の後に小森は息を吸うと次の言葉を話し出す。 「傘に落ちる音は音楽で、雨が歌を歌っているでしょう?落ちてくる間に光を集めて光ってる雨粒の様はまるで宝石みたいでしょう。それで、地面に落ちたら溶けて消えちゃうみたいに見えなくなるけど、どこか一箇所に集まって水たまりになる。そうすると今度は空を映す綺麗な鏡になるの。そういうところが、綺麗で自然が生み出してる宝石だと俺は思うんだ」 小枝はびっくりしてしまった。雨の事をそんな風に考えて、感じて生きてる人がいるのか。 「バカな事言ってるとよく言われるよ…でも、好きなんだ」 小枝はふと思い出した、小森の家は名家で有名な家らしいけれど、それが故に陰湿な嫌がらせや陰口をされてる事を聞いた。小枝自体は「小森くんは変わってる」という言葉しか聞いた事なかったが、悪口としては受け取っていなかった。もしかしたらこういう小森の人との感性の違いがその言葉に繋がったのかもしれない。 「大変小枝!」 「え?!」 急に小森が近寄ってきたのでびっくりした。 「小枝濡れちゃってる!テスト、宝物なんだろ?部屋に飾るなら早く傘ささなきゃ!」 あ!と思ったがわりと小枝も濡れていて小枝は声を出して笑った。傘を閉じ、小森に微笑む。 「俺も、こもりんと一緒に見ようかな!宝石」 それを聞くと小森は瞳を大きく開いて驚いた。水色と蒼色の瞳が吸い込まれそうなくらい綺麗だった。 やがて、その瞳は柔らかく細まると嬉しそうに小森が笑った。 「ありがとう。小枝」 小枝と小森は上を見上げ空から降ってくる宝石を見て歩いた。小森がいうように雨が心底綺麗とは感じられなかったけれど小枝にとって雨の中を傘も指さずに喜んで歩く帰路は随分と楽しい時間になった。 帰宅後小枝はしわくちゃになって湿ってしまったテスト用紙を見た。点数のところは滲んでぼやけてしまっているが小枝にとってこのテストの用紙はもうどうでもいい。 小枝は思い出す。 雨が宝石だとは思えなかったけど、一緒に宝石を見ようと言った時の小森の嬉しそうな表情と、蒼い瞳が細まって綺麗な笑みを浮かべていたあの柔らかで溶けてしまいそうな宝石のような美しい笑顔を。

2
2
溶ける宝石

十三秒の夕日

十五秒の夕日 僕の好きな人が住んでいる街は、田舎くさくて電車の踏切も車が一台通ればいいくらいのしょぼさだ。取り柄と言ったら夕日が綺麗なことくらい。誰もこんな場所に好き好んで住むわけがないと思い僕と一緒に暮らしてくれたら、美味しいものも、綺麗な服も、なんだって与えてあげられるよと、僕は好きな人に告白をした。だけどその人は僕のところには来てくれなかった。「ありがとう、でも好きな人がいる」そう言われてしまった。僕はその人に好きな人がいる事も承知だった。そして、それが叶わない恋だということも知っていた。 それは、出会った日に分かってしまったんだ。 僕は熱で倒れて気付けばその人の家にいた。小さいアパートの一部屋で、今時、裸電球という質素すぎる部屋だった。 その人は編み物を編んでいて、時より振り返って窓の景色を見る。振り返っても工場があるだけで何も風景なんていいものじゃないし、おまけに線路沿いのアパートなおかげで定期的に震度2くらいの揺れを感じなきゃいけない。 そんな環境がいたたまれなくて、僕は救い出したかった。その人に告白を断られた日、僕は項垂れてそのまま部屋に座り込んだ。部屋にある唯一の窓には夕暮れ時だというのに、工場の大扉がガラガラと上に引っ張られていくところで、うるさかった。 「何を見ているの?」 項垂れる首あげて聞く。 「この時間、あそこの工場の大扉が開くと、むこうの景色が見えるの、そうするとね…あ、ほら!」 工場の大扉が開かれると、遮られていた夕日が差し込んできて、景色が一気に色づいていく。 工場の奥には下校途中の小学生たちが歩いていて、警官と思われるお巡りが信号を誘導している姿が見える。子供達が信号を渡り終えて、警官にお礼を言ってるのか振り向いていた、そこでガーっと電車が通り風景は突然様変わりする。地震を作り出す電車は、通り過ぎるまで少しかかる。 やっと電車がいなくなると、また夕日は差し込んできたけれど、もうそこには先ほどの子供達の姿はなかった。 「綺麗な夕日だったでしょう?」 その人は目を細めて笑った。 その瞬間、僕は、この人が何を見ていたのか分かってしまった。きっと、工場は毎日同じ時間に大扉を開けて、その奥に子供たちの下校する風景が写っていて…そして、同じタイミングで電車が来る。たった…、たった十五秒くらいのその時間をこの人は楽しみにしているんだ。それを毎日待っているんだ。そう、わかってしまった。 フラれてしまった僕は好きな人の所へは行かなくなった。僕があの家に行くことはもうないだろう。だって、きっと今日も見ているだろうから。夕日に染まる子供達と愛しいあの人の姿を、夕焼けと共に。  

2
0
十三秒の夕日

自由

真っ白い紙に字を書くのか、絵を描くのか、 はたまた、かわいいスタンプを押したりして。 白い紙はなにをえがいてもいい。 ぼくは、絵が得意じゃないから、例えば叶えたい目標、夢なんか書いてもいいよね。 毎日の目標、それが達成出来た時少しだけ成長した気がする。 そうやって、考えて紙に向かって 何かをしようと考えることが無限の可能性だなって思う。 大袈裟だなってあなたは思うかな。 そんなあなたも好きだよ、ぼくの自由は無限だ。                 執筆者:しゅんた

2
0