雨乞い

「あんたが好きだ」そう言ってくれたあの時、雨が降っていた。 ふと目を覚ます。部屋には自分以外誰もいない。当たり前だ、今はもうそういう道を選んだのだから。 編み物の途中で寝てしまったみたいだった。 糸が外れてないか確認する。今作っているのは内職というほど納期が決まっているわけではないが、お小遣い稼ぎに、完成した編み物の帽子や手袋をネットに出品して販売している。 本田は、機械に疎いので出品の時は知人に手伝ってもらっていた。編み物をするのには他にも理由がある。自分の動かしにくくなってしまった手先のリハビリだ。少しでも動かしておかないとと本田は思う。 ガタタンと家の近くの電車が通ると裸電球が揺れる、本田は部屋に唯一ある窓の外を見た。外はもう暗くなっているし窓の外には有刺鉄線があり、線路がある。その奥に大きな工場があって空はちらりとしか見えない。それでも本田は窓の外を見る癖がついていた。ふいに本田の腹の虫が小さく鳴いた。 「お腹空いたなぁ…何か食べないと」 本田はよいしょと言いながら立ち上がる。玄関の方に知人からもらったさつまいもがダンボールに入っているから茹でて食べようと思った。その時インターホンの音が鳴った、玄関に向かっていたから動かしにくい足には有難い。
月雫しわす
月雫しわす
創作の世界で色々なBL物語を作っています。 各、キャラクター目線の詞や 小説っぽいものも、書いていきたいです。 普段はイラストを描いています。