マーティ・マクフライ

42 件の小説
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マーティ・マクフライ

僕は、小説のタイトルと書き出ししか書けない

タイトルと書き出しだけの小説:第42回「消失と永遠」

病院の待合室のソファに座ると端の方に、白いレシートのようなものが目に入った。 それは、血圧を測った後に出てくる紙だった。誰かが落としていったらしい。 「上が、128、下が65。脈拍は79。うん正常だ」 僕は心の中でつぶやく。 どこの誰ともわからない人の健康をチェックしてるどころではないことは自分自身でもよくわかってはいるのだが。 この世界にひとり、今日も健康に生きている人がいることを紙切れ1枚で確認できたことはなぜか僕を安心させた。 しかし、病院に来たということはその紙切れでは測れない何かを抱えてる可能性があるということでもある。 僕はその人の症状が軽くなることを祈った。

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タイトルと書き出しだけの小説:第42回「消失と永遠」

タイトルと書き出しだけの小説:第41回まだ、君の投稿にいいねは押さない(仮)しかもパイロット版」

第一週 月曜日 君はまだSNSを更新していない。 火曜日 仕事が立て込み、打ち合わせでしかスマホを触らなかった。深夜確認するが君はまだSNSを更新していない。 水曜日 君は2千円のランチの写真をSNSに投稿していた。僕は「いいね」を押さない。 木曜日 君の昨日のデザートはチョコブラウニーの分厚いケーキだと知る。もちろんSNSを通して。僕はまだ「いいね」を押さない。 金曜日 通勤中にみかけたとある家の塀に使われているくすんだレンガを見て、昨日君が食べたチョコブラウニーを思い出す。写真を撮るが君に送らないし、僕は「いいね」は押さない。 土曜日 昼まで寝て、映画を観に行く。君がSNSで面白いと言ってたやつだ。もちろん、君に感想は送らないし、僕は「いいね」は押さない。 日曜日 君は飼ってる犬の、凛々しい横顔の写真をSNSを投稿していた。僕は観念したかのように「いいね」を押そうとしたがやっぱりやめた。 第二週 月曜日 待てよ、このフォーマットなら小説のタイトルと書き出ししか書けない僕にも小説が書けるかもしれない。 作者である僕はそう思った。

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タイトルと書き出しだけの小説:第41回まだ、君の投稿にいいねは押さない(仮)しかもパイロット版」

タイトルと書き出しだけの小説:第40回「センチメンタル・デスティニー」

「まえがきのようなもの」 仮タイトルは「橋の上であのコと出会い、ポストの前でアイツは告白をした」だったが、あまりにも長く、狙いすぎてると思いこの 「センチメンタル・デスティニー」というタイトルに変更した。 もちろん、後に、アニメ化、実写化されて「センデス」と略されるのを見越してだ。 主要登場人物は、東条春也(とうじょうしゅんや)、西村夏美(にしむらなつみ)、南野秋彦(みなみのあきひこ)、北上冬子(きたがみふゆこ)の高校生4人。 もうお気づきだろう。4人の苗字に「東西南北」、名前に「春夏秋冬」を入れ込んだ。正直、仮タイトルより狙いすぎているがこれは変更なし。作者のこだわりと言っていいだろう。 ちなみに、読み進めていただければもちろん「誰が誰と橋の上で出会って誰が誰にポストの前で告白するのか」わかると思う。 それでは「あとがきのようなもの」でまたお会いしよう。

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タイトルと書き出しだけの小説:第40回「センチメンタル・デスティニー」

タイトルと書き出しだけの小説:第39回「カシス・アンド・カオス」

「あたいって、いっつもふらふらしてるからさあ」 妻と初めて会った時の彼女の第一声は本当によく覚えていて。 その話をすると妻は決まって「断じて一人称は『あたい』ではなかった」と否定する。 「思い出補正かな」と僕が言うと 「なんで『あたい』が補正なのよ」と笑った。 「実際、自分のことをあたいって呼ぶ女の子がタイプでね」 僕は真面目な顔をしつつもとぼけた顔でそう答えた。 「じゃあさ、私以外にあたいって言ったコに出会ったことある?」 「いや、いなかったよ」と即答したが、僕の脳裏にはある人物の顔が浮かんでいた。 数ヶ月後、その人物の「あたい」すらも思い出補正とわかることになるのだが、この時の僕はただただ妻に表情の変化を悟られてやしないかと心配していただけだった。

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タイトルと書き出しだけの小説:第39回「カシス・アンド・カオス」

タイトルと書き出しだけの小説:第38回「君のいつかの人になる前に」

いつからだろう どんなラブソングを聴いたって 君を思い出してしまうように なったのは。 どんなラブストーリーを読んだって 君と僕に重ねるようになったのは。 どんなハッピーエンドの映画を観たって 僕らには敵わないと思うようになったのは。 いつからだろう。 それらが全て消え去るかも知れないと 思い始めたのは。

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タイトルと書き出しだけの小説:第38回「君のいつかの人になる前に」

タイトルと書き出しだけの小説: 第37回「好きだという気持ちだけで、僕らは生きていく」

「初恋の相手は、たいてい、初失恋の相手なんだよ」 と、誰かが言っていた。 17歳の僕の初恋だってそうだった。 その言葉の棘は僕の心に深く刺さり、今も抜けていない気がする。それは、初恋が成就しなかった悲しさじゃなくて。 「好きと言う気持ちだけじゃどうにもならない」 ということを初恋にして悟らざるを得なかったという悔しさだった。 でも、僕は。それでも、僕は。好きだという気持ちだけで生きていくと決めている。 27歳になった今でも。 と、10年前の僕は思っていた。 37歳になった僕は、きっと10年後の47歳になっても、そんな幼稚な甘い考えで生きていることだろう。

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タイトルと書き出しだけの小説: 第37回「好きだという気持ちだけで、僕らは生きていく」

タイトルと書き出しだけの小説:第36回「名探偵は安楽椅子を捨てて取り調べ室の椅子に座る」

いつからだろう。 刑事ドラマの取り調べ室の机の上から電気スタンドが無くなったのは。 僕は「本物の」取り調べ室の机の上をぼんやりと眺めながら思った。 当然、電気スタンドは机の上に乗っていない。 なぜ、こうも僕は事件に巻き込まれるのか。 2年前、とある連続殺人事件に関わり、事件を解決した。 そして、1年前は祖父が残した邸宅の謎を解いた。 そして、また僕は事件に巻き込まれて、警察署にいる。 そう。 この取り調べ室に。 これで3度目か。ダイ・ハードでさえ2と3の間はもっと空いてたはずだ。 「七倉さん?聞いてますか?」 そうだ。ぼんやりついでに忘れようとしていたが机の向かい側には刑事が座っていたのだった。 前回の事件を持ち込んだ刑事。一ノ瀬渡はキレイなオールバックと銀縁のメガネでこちらを睨んでいた。かつての第一印象通り、「若手のやりて弁護士」のままだ。 「なあ、あんた、トラウマを持ってないか?かつて間違えて少年を撃ってしまったとか?」 僕はアメリカンジョークよろしく皮肉を言ってみた。 「何を言ってるんですか?」 彼はメガネの縁を軽く持ち上げてからこちらを睨む。あの名作を知らないとは、刑事のくせに。心の中で悪態をつく。 「いいですか?あなたは、また容疑者になってしまってるんですよ。あのときみたいに」 そして、再び同じ取り調べ室に戻ってきたってわけか。 「だからあの日は、行方不明になったバンドマンの青年を探してて見つけた日なんだよ。 そうだ、彼が証明してくれるはずだ。名前は、バンドウ・・・」 「いいですか?あなたの指紋がなぜか犯行現場から出ている。謎はそこからです。そこの謎を解いていかなきゃいけないんですよ・・・マクレーン刑事」 なんだ。ダイ・ハード知ってんじゃん。 「よし、ワトソン君。君は僕を信じてくれてるんだね?」 「いったいあなたは誰に憧れてるんですか?」 一ノ瀬刑事はあきれた顔を見せた。 「まあ、ひとことでいえば、『名探偵』だな」 さて、3度目の謎に立ち向かおうではないか。

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タイトルと書き出しだけの小説:第36回「名探偵は安楽椅子を捨てて取り調べ室の椅子に座る」

タイトルと書き出しだけの小説:第35回「オルタナティブ ネイティブ」

自分が死ぬときのことを考える。 正確には死ぬ瞬間のことだ。 きっとそれが一瞬の刹那でも。 そう、永遠に感じる一瞬の刹那だとしても。 きっと、頭の中、よぎるのは君のことだろう。 それだけは言えることだ。 そして、証明できてしまった。 「確かによぎったよ、君のことが」 病院のベットで目が覚めた僕は、そばで泣きじゃくっている君にそう伝えることができた。

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タイトルと書き出しだけの小説:第35回「オルタナティブ ネイティブ」

タイトルと書き出しだけの小説:第34回「ポップステディ」

今、振り返るとバンド名を決めるときが僕らのバンド史で最高に楽しかったときかもしれない。 「ホームトゥルースズは?」 英語の辞書を真剣に見つめていた、ベースのエイジが顔を上げる。 「え?なんだよ。家の真実って」 と、ギターのコージが言う。 「『胸にこたえる真実』だってさ。なんかカッコよくね?」 すでにスマホを操作していた僕は、 「残念、すでに海外のバンドにある。それに小説のタイトルにもなってるな。書き出しだけしかないけど」 と言った。 ここは僕らの地元のファミレス。ドラム担当の僕、マシタエイキチはとりあえず候補のバンド名を検索する係だった。 「なんだよ、そのベックみたいな展開。まあ『ハグ・スパイダー』ぐらいのセンスは欲しいよな」口をとがらせたコージがつぶやいた。 「なにそれ!!いいじゃん、ハグ・スパイダー」 「残念、とある地下アイドルの名前なんだ。友達にやたら地下アイドルに詳しいヤツいてさ。ヤマト、なんかいい案ない?」 ずっと黙っていたボーカルのヤマトにコージがフッた。 「オルタナティブ・ネイティブ」 ボソっとヤマトがつぶやいた。 「オルタナティブ・ネイティブ?」 「いや、これも小説のタイトルなんだけどさ、多分、さっき出てきた小説と作者が同じで、それも書き出しだけしか・・・」 「いいじゃん!!」 エイジが割と大きい声を出す。 「直訳すると、代わりの先住民?といったところか。いいな」 と、コージ。 「うん、検索にも引っかからない。その小説だけだ。いいんじゃない?小説のタイトルから拝借するぐらいは」と僕。 「よし、決まりだな」 この言葉だけは、もう誰が言ったか覚えていない、もしかしたら4人同時だったかもしれない。 それぐらい、僕らにとってこの瞬間は「奇跡」と呼べるものだった。

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タイトルと書き出しだけの小説:第34回「ポップステディ」

タイトルと書き出しだけの小説:第33回「ウタうカレはウタカタに消えた」

私の彼氏、バンドウヤマトはバンドでボーカルをやっていて、どこか不思議な人だった。 どれぐらい不思議かというと、唐突に 「カナエは今度から俺の前で二度とひとりごとを言わない。なぜなら、カナエのひとりごとに俺は必ず相槌を打ってひとりごとを全て『会話』にするから」と言ってきたりするぐらいだ。 1ヶ月ぐらい連絡が取れなくなることはざらで その度に「私とバンドどっちが大事なの?」というありきたりな言葉を飲み込んだものだった。 一度だけ「何がそんなに忙しいの?」という、私なりの婉曲的表現で聞いたことがある。 ヤマトはボソっと 「練習してるんだ」と呟いた。 「まあ、バンドの練習も大変だろうけど・・・」と言う私の言葉を遮って、 「バンドの練習じゃないよ。カナエに会えなくなる練習をしてるんだ」とヤマトは言う。 「ほら、カナエってどこか、ふいに俺のもとから消えてしまいそうな気がしてさ」 などと、曰うヤマトに 「それはこっちのセリフだよ」という、これまたありきたりな言葉を私は飲み込んだ。 そして、結局練習していたのは私だった。 もちろん、「会えなくなる練習」のことだ。 ヤマトは突然、私の前から消えたのだ。 「あいつさ、部屋に荷物も置きっぱでさ、まあ、こうなりゃ探偵でもなんでも雇って探してやるさ」 同じバンドでギターをやってるコージ君が心配して電話をくれた。 「実はさ・・・」 少し深刻な声にドキリとする。 「あいつのパソコンにUSB挿しっぱだったから中身見たら、曲残してたんだ」 「曲?」 「そう、しかも『君には曲は残さない』ってタイトルの曲。アイツらしいだろう。明日カナエちゃんに持ってくね。聴いてみてよ」 私は力なく笑ってみせたが、ヤマトが残した曲の「君」が私じゃないことはコージ君も私も彼が見つかってから知ることになる。

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タイトルと書き出しだけの小説:第33回「ウタうカレはウタカタに消えた」