止明\しめい

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止明\しめい

お肉

ジューっと何かが焼ける音がする。 段々いい匂いが部屋に充満して鼻に届く。 「めっちゃ美味そうな匂いすんだけど…」 キッチンに立つ加藤に話しかける。 「ちょい待って、もうできる。」 菜箸を絶えず動かしているのが見える。 加藤は高校の時の友達だ。 卒業してからもよく連絡を取り合ったり遊んだりしている。 しばらく眺めていると音が止まり、フライパンを持ち上げ大皿に料理を盛り付け始めた。 そして皿を持ってこちらに歩いてくる。 「ほい。」 机に野菜と肉の炒め物が置かれる。 ほくほくと白い煙を立てる料理に素早く箸を入れ口に運んだ。 「ん!めっちゃ美味い!!」 野菜がシャキシャキしていて醤油と油がよく絡んでいる。 「すげぇわ。やっぱコンビニ弁当とは大違いだわ。」 「愛情たっぷり入ってるからな。」 「ギリキモいな。」 苦笑する。加藤はキッチンに戻っていく。 また野菜と肉を口に運びながら、でもと続ける。 「ほんっと感謝。今月彼女とのデート、出費エグかったからさ。お前が呼んでくれなきゃもやし生活してたわ。」 加藤はまだ何かを作っているようだ。 その様子を横目に料理を口にかき込む。 「俺も助かった。実家からありえんくらい肉送られて来たんよね。」 またジュゥッと焼く音。 「でもさー、お前肉焼きすぎな。かったいんだけど。」 食べるたびに口の中にパッサパサの肉が残る。 中には焦げてジャリジャリするものもあった。 それでも皿の上の炒め物は四分の一程度になっていた。 「…はぁ?文句言うなら食わなくてもいいんだぞ。」 一部が肉を焼く音にかき消される。 軽くごめんごめん。と返す。 「俺コレ食えなかったらひもじさで死ぬもん。精神的に。」 口いっぱいに炒め物を詰め込んだ。 しっかり噛んで飲み込む。完食した。 「………この肉癖強くてさ、ちゃんと焼かないと食えないんだよ。」 声がちょっと小さい。 「…ふぅん……なんの肉?」 加藤の動きがピタっと止まる。 が、すぐに動き出し調味料を手に取った。 たった一瞬だったが、過ぎ去った時間の中でその数秒が見逃せない違和感と得体のしれない恐怖を放っていた。 「え」 加藤は答えない。振り向きもしない。 ただ淡々と調理を続けている。 「まって、マジで言ってる…?そういうこと…?」 背筋が冷え、顔から血の気が引いていく。 心当たりがひとつ。 彼女の笑顔が思い浮かぶ。 思い返せばこの前のデートから彼女からの通知が来てない。 彼女も大分お金を使ったから忙しいのだろうと思っていた。 段々、脂汗が出くる。 「もも肉」 加藤が遅れて答えた。 相変わらず背を向けたままだ。 もう何も声にならなかった。 頭を、体の中を何かがぐるぐる駆け回る。 胃の底がひんやり冷たくて気持ち悪い。 心臓が普段の倍ぐらい大きく鼓動する。 段々息があがってきた。 料理がなくなった白い大皿が目を奪って離さない。 そこには油の粒が浮かんだ茶色い冷たい汁が残っている。 部屋にはジューっと肉の焼ける音が響いていた。

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お肉

面会室は行方を知らず

刑務所で働く天使は面会室の椅子に腰掛けた。 「お久しぶりです。」 と話しかける。その目線と透明な板の先にはやつれていながらも昔と変わらない、柊の葉のような静かで凛とした美しさを持ちながら、春の木漏れ日のような柔らかい雰囲気を醸し出している悪魔がいた。悪魔は首を傾げていたが、しばらくたってから目を見開いて 「もしかして、君はあのときの…!」 と驚いた様子を見せた。 13年前、彼は天使誘拐事件の犯人として捕まった。彼は終身刑を言い渡され、この刑務所で過ごしている。 「あの後大丈夫だった?」 「はい、とりあえず母親からは逃げられました。」 やっぱり悪魔らしくない。この悪魔はまだ私の心配なんかをしている。 「それならよかった…!君も苦労したね。天使の母親が虐待なんて…」 「本当にごめんなさい。私のせいで。」 目を見ることができずにうつむいてしまった。 彼は凶悪犯罪を犯した訳じゃない。ただ、道端にうずくまった家出少女を見かけて一晩だけ家に泊め、次の朝早くに保護してくれる機関に送り届けた。それだけだ。家出した子供を手助けすると罪に当たる場合はある。でも、私が天使で彼が悪魔だというだけで終身刑になるなんておかしい。 「君を攫ったことで君が助かったならそれでいいんだよ。」 天使が顔をあげると悪魔は少し寂しそうに優しく微笑んでいた。 ……やっぱりだめだ。見過ごせない。私は、私の成すべきことを成さなきゃ。 Ⅰ誘拐する Ⅱ尋問する Ⅲ質問する Ⅰ バンッと二人の間の透明な板が割れる。天使の魔法によるものだ。甲高く警報が鳴り響く。 「さあ、行きましょう。」 天使が悪魔に手を差し伸べる。その瞳には絶対的な覚悟が宿っていた。 悪魔は天使の目を見て微笑み 「ありがとう。」 と告げる。追手を掻い潜り二人が刑務所を抜け出すと、悪魔が急に天使を抱えて羽ばたいた。真っ暗な空より深く黒い翼が天使の視界を覆っている。 「そ、そこまでしなくても!私、自分で飛べます!」 頬に手を当てる天使の顔は真っ赤になっている。 「でも、確か君は飛ぶのが苦手って言ってただろう?これくらいはさせてくれ。」 正面から強い風が吹き抜ける。刑務所がどんどん点になって見えなくなっていく。 「君が来てくれて嬉しかったよ。ありがとう。」 悪魔は天使を見つめている。天使は少し救われたような気持ちになり 「はい」 と答えた。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。 「でも、元はといえば私のせいなので……そうだ、これからどうします?」 「そうだね……大抵どこに行ってもすぐ見つかっちゃうだろうしね。いっそ人間界にでも行こうかな。あっちなら向こうも気軽に干渉できないだろうし。君ならきっと手続きすぐ通るから、今日中にはあっちに行けるんじゃないかな。」 「じゃあそうしましょう。私、初めて行きます。」 天使はしばらく言うのを迷っていたが 「……それから、あの、これからよろしくお願いします…?」 天使は悪魔の様子を伺うように、そして気持ちを確かめるように言った。 「…こちらこそ、よろしくね。」 悪魔は優しく笑みとともに返した。こうして二人は暗闇の中に消えていった。二人の行く末はまだ誰も知らない。 エンド1『誰がための天国は』 Ⅱ 「…ねぇ、悪魔さん、何をしたんですか?」 「…なんのことかな?」 普通に考えて、彼が悪魔だと言うだけで刑罰が重くなることはない。もしそんなことがあればもっと問題になっているはずだ。でも、集めた彼の資料には罪が重くなるようなことは記載されていなかった。むしろ、余白が多くて驚いたくらいだ。そこで一つ、仮説が浮かんだ。記載されてないんじゃなくて、私が『認識していない』んだとしたら? 「私に、いくつか洗脳魔法をかけましたよね?」 確か、認識阻害魔法という魔法がある。洗脳魔法の一種で、対象に何かしらの情報を認識できないようにしてしまうものだ。かなり高度な魔法だが、それを私にかけたなら納得がいく。 「…大きな罪を犯して捕まるのも時間の問題だったあなたは、あの日、偶然私を見つけ、こうやって、ここまで迎えに来させる計画を立てた。でも、ただここに迎えにくるように刷り込んでも、時間とともに効果は薄れてしまう。だから、まず私があなたを盲目的に好きになる魔法をかけた。感情に作用する魔法は時間が立っても、その感情が自分のものだと勘違いして効果が消えにくいから。それに保険として認識阻害魔法をかけて、自分の罪を知られて幻滅するようなことがないようにした。どう?」 悪魔はしばらく黙ってうつむいていたが 「……あーあ。」 と顔をあげて嘲笑った。 「もうちょっとバカで世間知らずなお嬢様だと思ったんだけどなあ。」 その顔には優しさは欠片もなく、欲望の滲む目をギラつかせていた。 「君の言うとおりだよ。いかにも高そうな服を着ているし、魔力量からしても中級、上級天使だってのはすぐわかったよ。きっかけさえ作れば絶対に来てくれると思ったんだ。実際、位の高い天使ならここまで来るのも簡単だったろ?」 天使は物怖じせず質問を続ける。 「終身刑ならきっと殺しでしょう?天使?悪魔?」 ハハハッとこちらを馬鹿にするように悪魔が笑う。 「…人間だよ。君が僕を連れ出してくれたら、君を利用して人間界に行ってもっと遊ぼうと思ってたんだよ。結局、誰かさんのせいで失敗に終わったけどね。」 ブーっと面会終了のベルが部屋中に鳴り響く。天使は席を立ち、悪魔に冷ややかな視線を向ける。閉じかけた扉を見つめながらも彼は笑みを浮かべていた。悪魔はここから出るのを諦めることはないだろう。 エンド2『まだカゴの中』 Ⅲ 天使は自分の13年間の知識を使って気づいた真実を悪魔に語る。悪魔の罪、かけた魔法、それから…… 「悪魔さん。もしかしてあなたが殺したのは、人間?」 「だったらどうする?」 「……やっぱりそうか。」 次の瞬間、天使はもう悪魔の胸ぐらを掴んでいた。板が木っ端微塵になった破裂音を置き去りにして。 「洗脳が解けてきてやっと思い出した。私の父は人間だった。悪魔に殺された人間だった!27年前!出産の立ち会いのために病院に向かっていた父は無理やり攫われ散々拷問まがいのことをされて殺された…!殺人事件なんてそうそう起こらない!やったのはあなたでしょ?!じゃあ!!お母様が心を病んだのも、本家と縁を切られたのも、私を叩いて泣きじゃくるのも、全部!」 天使はキッと憤怒の形相で悪魔を睨みつける。 「全部!!おまえのせいじゃないか!!!」 天使の声は緊急事態を知らせる警報を切り裂くようによく響いた。その迫力に流石の悪魔も血の気が引いた。言葉が出なかったのは恐怖からではなく、この状態で話が通じるとは思えなかったからだろう。刑務所の天井を貫いて天使は高く空に飛び上がり、魔力でできた彼女の翼が空に広がる。本物の純白の羽とは違う、限りないグレー。彼女は獲物を狙う蛇のような目をしていて、はっきり怒りと怨念が見て取れる。 「父と同じように悪夢を見せてやる。人間とは回復力も寿命も違うお前が楽に死ねると思うな。」 悪魔の背中に冷たさが走る。本能と今まで生きてきた経験が「これはまずい」と訴えかけていた。龍の逆鱗に触れたのだ。悪魔はありったけの力で必死に抵抗する。しかし、天使の手は固まったように外れない。そのまま天使は悪魔を連れて暗闇に飲まれて行った。二人が見つかるのは想像できないほど先になるだろう。 エンド3『地獄は続くよいつまでも』

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手品師 オーウェン

とある港街。波止場で手品をして暮らす若い男がいた。黒いシルクハットには青いリボンが巻かれ、おしゃれな燕尾服を着ている。鼻の所に嘴がついた鳥モチーフの仮面が目元を隠す。彼の名前はオーウェン。娯楽の少ないこの街のちょっとした人気者だ。最近は名前が広まり遠くからも客が来るようになってきた。見物料は100円。今はチップでなんとか食いつないでいる。 ある日の星がよく見える真夜中、オーウェンは仕事を切り上げトランクケースに道具を片付けているところだった。 「こんばんは」 明るい声に顔を上げると一人の子供が立っていた。小学校高学年くらいだろうか。神秘的な雰囲気を放っていて、肌は色白。まるで星明りのようだ。 「こんばんは。君、こんな夜中に一人で出てきたのかい?早く帰りなさい。私が送っていってあげるよ。」 「ううん。オーウェン。僕は手品を見に来たんだ。ほら!お金なら持ってるよ。」 少年はポケットから100円硬貨を取り出してオーウェンに差し出した。 「あー…ごめんね。今日はもう終わることにしたんだ。だからまた今度。次は昼の間に見においで。」 「ヤダ!僕は今しか無理なんだ。さぁほら速く!僕このためだけに来たんだよ!」 まぁ、そこまで言うのならとオーウェンはお金を受け取り、すぐ終わる簡単な手品をいくつか披露した。手品が成功するたび、「うわぁ〜!」「すごい!!」と歓声があがる。手品が終わり、オーウェンはお辞儀をする。いつの間にか座っていた少年は大きく拍手した。 「それじゃ、早く帰ろう。きっと君の家族も心配してるよ。」 「ねぇ、どうしたらまだ手品を見せてもらえる?」 「…見せないよ。今日はもう終わりだ。」 少年はシュンとした悲しそうな顔をしてうつむく。 「……仕方ない。じゃあ、私が見せた手品の種を全て明かせたら見せてあげよう。」 後から質が悪いと思った。手品の中にはオーウェンしか種を知らないものもある。それを一度見るだけで分かるはずがない。が、少年は、「いいの?!」とさっきまでと変わって、明るい顔をしていた。少年は彼の横に立つと彼の道具を使いながら、手品のネタをスルスルと正確に暴いていく。 「ね、あってるでしょ?」 少年はついに全ての手品の種を見破った。 「すごい…実演までしてみせるなんて!君も手品をやったらどうだい?毎日好きなおやつが買えるよ!」 少年は微笑んで首を横に振った。 「……それよりさ!ねぇほら!もっと見せてよ!」 オーウェンは少しだけ違和感を覚えつつも少年を座らせ、さっきよりも派手な、浮遊マジック、出現マジックなんかを披露した。手品が終わると少年はさっきより目をキラキラ輝かせて拍手をした。 「ありがとうオーウェン!楽しかったよ!……そうだ!僕のも見せてあげるね」 少年は立ち上がり、ショーを始めた。何もないところから火を出したりオーウェンのトランプを風が舞いあげそのまま空をとんでケースに戻ってきたり、少年の手品は手品の域を超えていた。まるで魔法のようだ。オーウェンは最後まで唖然としていた。この少年がこんなすごい手品をするなんて。手品が終わると少年は丁寧にお辞儀をした。 オーウェンは大きな拍手をした。 「君のほうがすごいじゃないか!私なんかよりよっぽど!!」 「ありがとう。……じゃあ僕、もう行かなきゃ。」 少年はとても寂しそうな顔をした。 「送っていくよ。」 「オーウェンには無理だよ。」 少年の顔をオーウェンが訝しげに見つめると少年は「仕方ないね。」と苦笑いして語りだす。 「アカシックレコードっていう、この宇宙の過去も未来も全てが詰まった存在があってね。たまに情報の過密で一部が意思を持ってしまうんだ。そうなると宇宙のバランスが崩れかねない。だから本体から切り離される。今日、その一部が小惑星として落ちてくるんだ。それが僕だよ……これも言っちゃダメなんだけどね。」 オーウェンはわけが分からなかった。少年の嘘かもしれないと思ったが少年は真剣な顔をしている。とりあえず少年の話を真に受けることにした。 「僕は大気圏で燃え尽きるんだ。まぁ地球に近づけばそうなるよね。それに、力をいろいろ悪用したから…さっきの手品もそのうちだし。」 オーウェンは理解はできなかったが納得した。やっぱりあれは手品を超えた魔法だったのだ。 「僕、君に興味があったんだ。僕の情報の中には君のこともあってね。とても楽しそうに手品をする君のこと。折角だから最期に見たかったんだ。」 少年は空を見つめている。星が浮かぶ綺麗な星空を。 「…もうそろそろだ。ありがとう。」 「まだよく分からない。けれど、よかったらまたおいで。小さな手品師さん。」 少年はふふっと笑った。 「そう、できたらいいな。」 夜空が明るい。軌道を輝かせ、小惑星は燃え尽きた。少年の姿は跡形もなく消え、冷たい夜風だけが残っている。

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手品師 オーウェン

使い切りの夜

私は徹夜が好きだ。 ぐっすり眠るのも心地良いけど、 できればずっと起きていたい。 寝ずに済むなら、 夜の間は星を見て、 本を読んで、 好きなことを勉強して。 楽しいことに時間を使える。 烏が鳴いて、 藍を詰め込んだ夜の空が水を混ぜて薄めたように、 明るくなるのも私は好きだ。 夜と朝の境界の空気はとても新鮮で冷たい。 いつか夜に散歩に出かけたい。 あてもなく歩いていって 明るくなったら家を目指す。 いつかの、そんな生活を夢に見ている。 だからできるだけ寝ないよう、 また、夜闇によく似た黒い珈琲を飲み干した。

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使い切りの夜

メモリア エト モルス memoria et mors

朱い(あかい)屋根の色並ぶ 街を行く群衆の外側で 小高い丘に登って 行き交う人を見ている。 振り返って今、 あの山を登る。 土埃を光が照らして 寂しい足音が響く。 小鳥が北風を歌って 霞(かすみ)が森を包む。 空の端には霜が降って 木々は静かに語りだす。 心が泳ぐような、 芯を伝わるような。 鼻を突くような 冷気に 溶けてゆくような 自然に ざわめく木の葉は 冬を舞ってた。 柔らかい土 温かい頬 揺れる水たまり 今日のことばかり この空を何度見たのだろう。 春ってどんな日々だっただろう。 雪解けにそっくりの追憶、 忘れた言葉の多く。 音を吸うような雨が 髪をゆらす風が 手を照らす陽が 目を潜るような星が 微かに鼓動する かな。 頂(いただき)で一人 浅い息をする。 蛇みたいな君に 茉莉花(まつりか)を手向ける。 薄く澄んだ空気は 地中にも届くだろうか。 残る温もりを懐古して、 色めく春の邂逅を待つ。

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メモリア エト モルス memoria et mors

朝起きるといつも思う。 ずっと夢の中にいられたらいいのに、と。 よく見る夢がある。 壁の色はどの部屋も必ずパステルカラーで、部屋は無限に広がっていたり狭かったり、部屋の中に部屋があったり。 同じ部屋は一つもない。 装飾品も様々で小さな木だとかベッドだとか洗面台だとかがよくあると思う。 珍しいときはトイレがあることもあった。 夢だと気づかない私は部屋から出るために窓から飛び出したりパズルを解いたり、正しいドアを探したりする。 次の部屋に進んでも外に出られるわけではなく、朝昼晩のいろんな空が窓の外に見える。 夢の中の自分は外に出られなくて不安を抱いているけど、その夢について考えるとき心が引き寄せられていく。 怖いのに魅了されていく。 夢を見ていることに気づかないまま永遠出られない部屋の群れに閉じ込められていたい。

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夢

白いひび

紡がれない言葉に嫌気がさしてました。 紡ぎきれない心に嫌気がさしました。 毎日毎日繰り返し 朝昼晩過ぎて同じ 記憶のない過去と平日 現実味のない日々と憂鬱 軽く流れてく。 ふわっと浮いてる。 流れ、流れゆく。 喜怒哀楽。 気分のない、空っぽ 言えることの無い、謝罪文 いつもあなたを待っている。 いつも先に歩いてゆく。 いつもここではないどこか。 いつも、いつでも喪失。 中身の無い言葉にほんのり残るぬくもり。 ゆりかごの中を覗き込む、カナリア。 いつの日かの残滓を掴みたかった だけ。

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白いひび

幾度でも

夢から冷めた。 ある日突然。 未来図が悲劇だと知ったんだ。 「きっと嘘だ」って言ってみたかった。 誰にも届かなくて。 言葉が溶けた。 それは音もなく。 ピースははじめから決まってたんだ。 並べたのは嫌な未来と夢を 入れ替えるための ミルクパズル。 幾度でも決意は変わらずに。 『今までごめんね。』 あれ、 見上げてるあなたの色。 何でだろいつもより白っぽい? 『「嗚呼、どうか…」』 かなうはずないと知りながら、 青空に願ってみる。 もう魔法はかかったんだ。 どんな形でも。 風が体を抜け登ってゆく。 ほんとの終わりは来ないんだろう。 ずっとずっと繰り返そう。 あなたを生かすためならば。 白く消える染まる視界も意識も。 『ほんとうにごめんなさい。』 赤い空の下 命消えゆく中。 聞こえないはずのない「次こそは……」

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幾度でも

サクラコンデンスミルク

桜の花びらが見える頃の 丘の木陰で売っている バラの花ほどの大きさの ハートの容器のサクラコンデンス お代はいつもワンコインで 毎日値段が変わります 周りがじんわり暖かく 春の陽気が味わえて 耳に当てるととても微かに 鼓動のはねる音がします 家の中にあるだけで 花粉症が治まります その手に持ってみるだけで あなたの心身を癒やします 小さじ一杯飲むだけで 願いが一つ叶います 大さじ一杯飲むだけで 素敵な夢を見られます でも、どうか気をつけて 一日に大さじ二杯以上飲むと 夢から出られなくなってしまいます 幸せな白昼夢に浸かりきって 飲み込まれてしまうのです 次に 夏が来るまでに空にすること サクラコンデンスが黒ずんで もしそれを口にしたら 絶望、苦痛、不幸、恐怖 負の集まりが流れ込む 最悪死ぬのも許されない サクラコンデンスミルク 誰かと飲むのが一番です 欲張らないよう気をつけましょう お茶やコーヒーに入れるのも 優しくなって美味しいですよ by生産者 商品名:サクラコンデンスミルク 原材料名:生乳、星粉砂糖、桜の花びら、思い出、春の香り、夢、 希望 消費期限:初夏まで 保存方法:直射日光に当たらない場所で保存してください。 ●開封後はなるべく早くお召し上がることをおすすめします。強い衝撃を与えると容器が割れてしまうのでお取り扱いにはご注意ください。お召し上がりの際には必ず付属のさじで計量してください。

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サクラコンデンスミルク

終わる悠久

最後の顔を見るのは私 あなたに会わなきゃ 降らなかった雨 あなたに会わなきゃ 汚れなかった傘 あなたに会わなきゃ 楽しかった時間 そんなこともあったかしら あなたに会わなきゃ 痛くなかった あなたに会わなきゃ 許せなかった あなたに会わなきゃ 遅れなかった 月が半月になる前に あなたに会わなきゃ 悲しくなかった あなたに会わなきゃ 他人だった あなたに会わなきゃ 会わなくちゃ やっと満ちた満月なのに それもいつか思い出に あなたの告白が私を変えた 夢のように消えようとした むかしむかし あなたにあった

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終わる悠久