詩月 零
39 件の小説詩月 零
初めまして、詩月 零(しづき れい)と言います。色んな方々の小説を拝見しながら小説の勉強中… 未熟者の小説ではありますが、温かい目で見て下さって頂けたら嬉しいです。
花火
これが花火ー… 作り込んだ人の魂を感じる 色彩が溢れるくらい 大きな音が胸の奥で響いている 「きれい…」 人間はこんな綺麗な花火を見て楽しむのか 一人静かに佇む 私めは誰にも気づかれる事なく今日を迎えた 目を瞑り、元の姿へと戻った 光浴び影映るその姿はまるで猫 私めは猫… 年老いた猫… 名のない猫でありながら 今日という最期の日を 人間共たちに誰も気づかれる事なく 花火だけが 私めを色鮮やかに見つけてくれるのだった
夏の雨上がりの匂い
私は緑いっぱいの森林の中を走る 蝉の鳴く声 降りしきる雨の強さに打たれながら 白いワンピースの裾から垂れる雨の雫 濡れた裸足は泥まみれ 何も考えてはいない ただひたすらに光のある彼方へ 雨の王様 私は見てみたいの 夏の雨上がりの匂いをー…
アクションゲーム
僕には、お兄ちゃんがいる 勉強もスポーツも出来て 僕が嫉妬するくらい “負け”という文字を見た事がない 僕が這いあがろうとすれば お兄ちゃんは僕の上を行ってしまう ただ、僕には得意なゲームが残っている 好きなキャラを選び 三ポイントを取った方が勝利という いわゆるアクションゲーム ゲームだけは負けたくない …なんて思っていても お兄ちゃんは強くてあっさり勝ってしまう だけど、そんなある日 お兄ちゃんと一緒に いつものアクションゲームをプレイしていたら いつも負けてばかりの僕が 初めて“引き分け”という文字を見たのだった “ダブルKO”という 格闘ゲーム内では全くの稀な話 そんな時、お兄ちゃんは ふと僕の顔を見つめてきた 「強くなったな…」 あまり言わない言葉が耳に残って 僕は胸の辺りがとても熱くなった お兄ちゃんの存在が 僕を強くしてくれるから だから今日も僕はお兄ちゃんと戦うのだ
サイダーポンチ
「ただいまー」 仕事が終わって誰もいない家にただ一人 夜になっても蒸し暑さは変わらない ちょっと喉が渇いたからビールを… ん……? 冷蔵庫の中にサイダーが入ってる いつ、買ってきたんだっけ? あっ、そうだ!アレが食べたくて買ったんだ 私は咄嗟に思い出した“アレ”を作ることにした 果物の缶詰めを開けて ガラスボールに果物を入れる そこにしゅわしゅわした炭酸サイダーを入れれば完成! 懐かしいなぁー… 学生時代、食べたよね〜 この味… 果物の甘さと 炭酸サイダーのしゅわしゅわが一緒になって踊る まるでダンスしているみたいに あっー…でも… やっぱりビールが飲みたい …なんてね
君恋-キミコイ-
第十話 「告白」 青くて白い雲ー… 合わさった空が果てしなく続くー… 今日も変わらない空が私を迎える 二時限目の授業が終わって休み時間となり 廊下は人集りでいっぱいでも声などいっさい聞こえない 窓の前に立ってそっと深呼吸をする 空は自由だ…ってそう思う そのまま廊下に出てお手洗いに行く途中ー… 誰かがこちらを見つめている …………………? 「遠野さんっ!!」 その姿がはっきりと映って私は驚いた …真城くんっ!! 私は急いで、後ろを振り返り 教室へと戻ろうとした瞬間ー… 彼は足早に私の手首をガシッと掴み、 身動きが取れなくなった 『真城くんっ!離して!』 『僕はこの手を離さないっ!』 グッと引き寄せられるように 気がつけば私は彼に抱きしめられていた 必死にもがく… だけど抱きしめる力が強くて離れることが出来ない 「会いたかった…」 くすぐったいくらい耳元で何か言っている 彼は私の顔を見つめながら その瞳をずっと逸らす事はなかった 『真城くん、あの時言ったよね。もう会わないって』 『ちゃんと理由も言わないで離れるのは違うと思う』 『別に私達は付き合っている訳じゃ…』 『そうかもしれない… でも僕はずっと遠野さんの事が好きなんだ』 えっー… 抱きしめられて息が届くくらい 真っ直ぐな目で私を捉えて見つめている 『私は、障害者の身だよ。音だって聞こえない。 真城くんの声だって聞こえないのに… そんな私と居たって疲れるはずだよ』 『僕は一ミリたりともそんな事を思った事はない。だって、僕はずっと見ていたから…遠野さんのことを』 『えっ…………』 あの日、雨が降っていた入学式での事をー… 『だから君が障害者だという肩書きがあるのは確かに辛い事だし、僕が代わりになれるような簡単じゃない事も分かっている。それでも僕は、遠野さんの耳が聞こえなくても、僕が君の耳となりたいんだ』 真城くんー…… 『僕と一緒にいてくれませんか?』 私は幸せになってもいいのかなぁ… この先、どんな幸福があって不幸があっても 私は彼を信じて乗り切れるかなぁ… でも…見てみたかった 新しい何かに会えて 新しい景色に出会えるのなら 私は、そっと彼の手を握りしめて 真っ直ぐに見つめた 『好きです。真城くんー…』 風が吹き抜ける 私達は小さな口付けを交わしたのだった
君恋-キミコイ-
第九話 「声」 あの日の遊園地の出来事の日から 私は彼に会う事はなく二週間が過ぎていた 変わらない特別支援の教室で 凛花ちゃんとスマホで他愛もないやり取りをしながら 一日が過ぎていく毎日だった 「冬歌ー、お客さんだよー」 クラスメイトの女の子が声をかけると 耳の聞こえる凛花ちゃんがそっと 私に合図を送るようにスマホの文字で教えてくれた 席を立ち、特別支援の教室から出ると そこには忘れる事もないあの河原朝霞さんの姿が… 「久しぶりー!元気にしてた?」 「…………………」 耳が聞こえないのを知っておきながら わざと声を出しているのが分かる 『あの…何のご用でしょうか?』 手話で会話すると 彼女は無視してスマホを片手に文字を打ち出した 『そろそろ遥音に会いたい頃じゃないの』 『いえ…真城くんとはこれからも会いません』 いや…そんなのは嘘 本当は真城くんに会いたいって思う グッと我慢するように スカートの裾を握りしめる 『あっ、そう。遥音なんかこの二週間、いっさい口も開かなくなっちゃって、面白いよねー』 『それは朝霞さんが…』 『私が何…』 『…………………』 ギロリと見つめる視線は どこか怒りに満ちる中に悲しそうな眼をしていた スマホの打つ音が強くなる 『だいたいね!私は遥音が好きだったの! アンタさえいなければ、遥音は私と一緒に…』 私よりもずっと前から… きっと…好きだったのかもしれない 彼女の目から涙が溢れながらも 私はしっかりと彼女の目を捉えて見つめた 『私はこれ以上、真城くんとは会いません』 『…………………』 『それに私は障害者の分際です。障害者がよからぬ夢など見てはいけないですから…』 私はそう言って彼女にお辞儀をして 後ろを振り返る事なく教室へと戻った 教室に戻ると凛花ちゃんが待っていた 何も言わず、凛花ちゃんは私に駆け寄ってギュッと抱きしめる 私は我慢してたものが溢れて涙が溢れた 「うっ…ううっ……」 もし、耳が聞こえてたらー… もし、障害者じゃなかったらー… どんな夢が見られたのだろう 真城くんー… 真城くんの声(手話)が聞きたい
君恋-キミコイ-
第八話 「健常者と障害者」 「遥音っ…!」 「朝霞…なんでここに…」 「遥音こそ、そこの彼女とデート…?」 「…そうだけど」 彼は何やら顔が引きつっていて その上、彼の方に引き寄せられながら 私は訳が分からなくて二人の顔を見合わせる 『遠野さん、紹介するね。彼女は同じクラスの河原朝霞(かわはら あさか)』 「河原朝霞です。よろしくね♪」 河原朝霞さんー… 私よりも大人っぽくスタイルが良くて凄く美人 こんな素敵な人が同じ学校にいるなんて… 彼女は笑顔を浮かべながら そっと私の方へと手を差し出す 手を差し伸べるとギュッと力強くて痛いくらい その不適な笑みがとても怖く感じた… 「そういえば…遥音。そこの彼女さんって 確か…耳が聞こえないんだったよね」 「別に…朝霞には関係ないだろ」 「そんな事言わずにさ〜 私も彼女と仲良くなりたいんだから」 「………………」 彼は震えながら拳を握りしめていた 「えっと、遠野冬歌さんでしたよね」 「朝霞…何で遠野さんの名前を…」 「別にいいじゃない。私の情報は早いんだから」 「………………?」 二人のやり取りを見ながらも 彼女との視線が絡み合う 「あっ、ごめんなさい。突然の事で驚いたよね 耳が聞こえないんでしたっけ」 そう言って、彼女は鞄からスマホを取り出して 何やら文字を打っているようだった …………………? 「はい。これで分かるよね」 スマホ画面に映した文字ー… 『障害者の分際が遥音に近づくな』 ドクンと変な鼓動が高鳴る 「それと…」 彼女は再びスマホに文字を打ち、私に見せた 『遥音と二度会わないように、忠告です❤︎』 ニコッと微笑み 彼女はスマホを鞄にしまい込んで 「じゃあ、またね〜」と 手を振ってその場から立ち去った 突然の出来事で何がなんだか分からない このままじゃー… 私だけの問題じゃない 遥音くんにまで迷惑がかかってしまう ガクガクと震えが止まらない 「遠野さんっ!!」 地べたに座り込んだ私を支えるかのように 彼はそっと私の顔を覗き込んだ 『大丈夫…朝霞に何か言われた?』 『ううん…大丈夫。何も言われてないよ』 『本当に…?』 『うん。真城くんって結構心配性なんだね』 『それは…遠野さんの事がっ…!』 『えっ…?』 顔を赤らめる彼の視線を見つめるように 私はそっと手を握りしめた 『遠野さん?』 『真城くん…これからは会わないようにしよう』 『えっ……』 動揺を隠せない彼の顔 『今日は楽しかった。本当にありがとう』 私はそう言い残して 彼を見る事も振り返る事なく その場から離れた 私は障害者… 私達は見てる世界も住む世界も違う 叶わない夢など見てはいけないのだから
君恋-キミコイ-
第七話 「遊園地」 ガヤガヤと人で賑わう 親子連れやカップル達がとても多い まだ約束の時間にもなっていないのに 私は、早くから遊園地の入り口付近で 緊張しながら待っていた 今日のお洋服はお気に入りのワンピース 白い生地の中にピンクの花柄が散りばめられていて、 女の子らしいかなと思って選んだお洋服 デート…じゃないのは分かっているけど ソワソワしながら待っていると 遠くの方から息を切らしながら 走ってくる姿が見える …真城くん!! 息を切らし、『遅れてごめん』と手話で交わすと 私は咄嗟に彼の背中を摩(さす)った 『ありがとう。もう大丈夫だよ』 いつもは制服姿の彼を見ているけど 今日は一段と雰囲気が違くて大人っぽい 彼の視線が絡み合い、思わずドキッとする 『そういえば遠野さんの洋服…かっ、可愛いね』 『えっ、あっ、ありがとう』 ドキドキしながら何度もお辞儀を交わすと 彼は満面の笑顔を浮かべた 『とても楽しみにしてたんだ。だから今日は思う存分楽しもうね。遠野さん!』 『うん!』 私達はチケットを握りしめて 遊園地の中へと入った ジェットコースター、メリーゴーランド、 お化け屋敷、カーレース、ウォーターコースター どれもこれもが迫力があって楽しくて 時間さえ忘れられた 私でよかったのかなぁ…なんて思ったけど 真城くんも楽しそうに笑っていて それが何より嬉しかった お昼ごはんも食べて 再びアトラクションに乗って 閉園時間になるまで遊び尽くした そして、気がつけば夕暮れの空へと変わっていた 『はあ〜楽しかったね』 『いっぱい遊んだね』 『遠野さん、疲れてない?』 『大丈夫だよ。真城くん、今日はありがとう』 『よかった。遠野さんが楽しんでくれて』 彼はニコッと笑顔を浮かべ 私にとって素敵な思い出が作れたような気がした 『お家まで送るよ』 『ありがとう』 遊園地の出口へと向かい、帰ろうと思った瞬間… 突然、一人の女の子が私達の目の前へと現れた 「遥音っ…!」
君恋-キミコイ-
第六話 「きっかけ」 『ふーゆーか!』 凛花ちゃんのスマホ画面が私の方へと向けられる 『凛花ちゃん、何か楽しそうだね』 『そりゃ、そうでしょ。今から体育館で…』 『ち…違うと思うから』 『何も言ってないけど、何が違うの?』 『何もないけど…もう〜からかわないで』 スクールバックに教科書や筆記用具… そして、彼から貰ったお手紙をそっと入れる 凛花ちゃんはニヤニヤとした顔で 『いってらっしゃい』と手を振りながら 私は何が起こるのか分からない心情とともに 特別支援の教室を後にした 体育館に着くと、何やらバッシュの音が聞こえる キュッキュッとした靴の音 私は静かに覗くと真城くんの姿が見えて バスケに集中している この間、落としたユニフォーム姿で ドリブルしながら綺麗なレイアップシュート 汗を拭う彼の姿にドキドキが止まらなかった 転がり落ちるボールは私の方へと近づき それに気づいた彼は ニコッと満面の笑顔を浮かべた 『来てくれたんだね』 バスケボールを拾い上げ、手話で会話する 『真城くんってバスケが上手だね』 『ありがとう。そう言って貰えて嬉しいよ』 『その…お手紙の事なんだけど…』 『あぁ…その…』 彼は後ろを向いてしまって顔が見えない 耳が少しだけほんのり赤くなっている ……………? 「…あの…その…」 ……………? 声が聞こえない 両手でバスケボールを回転させながら 落ち着きがない彼の姿 『真城くん…?』 『あ…あの…実はね遊園地のチケットが二枚あって、 その…遠野さんを誘いたくて呼んだんだ』 『そうだったんだね。いいね!遊園地!』 『明日は週末だし、部活も休みだから… もしよかったら明日でもどうかなぁって』 『うん、大丈夫だよ』 『よかった…ありがとう』 遊園地かあ… 楽しみだなぁ…真城くんと… …って、これって… 早まる鼓動が高鳴る ただー… 彼の見つめる視線はどこか言いそびれた顔だった
思い出の制服
娘の部屋に入る 誰もいない、電気の灯りもついていない ただ、綺麗に整理整頓された部屋だけが残されていた 部屋に入ると 娘が愛用していたクローゼットの前に立つ 開けてみると 懐かしの高校生の頃に着用していた 夏服、冬服の制服が飾られてあった あら…懐かしい 衣替えの時期になると 娘はいつも『クリーニングお願い』って言って 頼まれることがあったっけ 夏服の制服を取り出すと 娘の匂いがほんの少しだけ傍にいる気がして 綺麗な制服をギュッと抱きしめる 娘へー… 結婚おめでとう お父さんとお母さんはいつもあなたの味方です