詩月 零

44 件の小説
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詩月 零

初めまして、詩月 零(しづき れい)と言います。色んな方々の小説を拝見しながら小説の勉強中… 未熟者の小説ではありますが、温かい目で見て下さって頂けたら嬉しいです。

甘々なパンケーキ

幼い日の話ー… 家に帰るとテーブルの上に 母が作ってくれるパンケーキがあった ハチミツたっぷりの上に 溶けるようなバターが上に乗っかって 中学、高校となり 家に帰れば反抗心を剥き出しに母に八つ当たり 喧嘩が絶えない日が続く中で テーブルの上には あの日と変わらない甘々なパンケーキがあった 大人になって母親となった 私は、母が作ってくれたパンケーキを思い出す この世にはいない母の姿に目を瞑る 母が作ってくれたパンケーキ 思い出の味は今日も笑顔で溢れている

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甘々なパンケーキ

暗黒の妖狐

薄暗く何も見えない 檻の中で一人、静かに佇む 手と足に鎖が繋がれて まるで逃げる事さえもままならない わたくしは嫌われの身 暗闇のような身に纏った暗黒の妖狐 決して触れてはならぬ 決して見てはならぬ 生まれた時からずっと一人だった 孤独など寂しさなど知っている ーー汝、イキタイカ ーー汝、シニタイカ 背後から聞こえる黒妖狐の声 わたくしはフッと笑いを洩らす 何を言っている、当然だろう 私ハ死ナド恐レマイ 満月の夜 鎖に繋がれたまま わたくしは最期の命に手酌を呑み干すのだった

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暗黒の妖狐

雨の日のカフェラテ

今日は一日中、本降りの雨だった。 着ていたコートも履いてたヒールも ぜんぶがびしょ濡れで気持ちが悪い 傘を差しながら歩いて行くと たまたま見かけた珈琲店に 一休みをしようと店内へと入った 「いらっしゃいませ」 明るい声の女性店員がこちらに寄ってくる 「一人です」 「お好きな席にどうぞ」 そう言われて 私は窓辺に映る景色のカウンターに腰を掛けて オシャレな鞄の中からハンカチを取り出し 雨に打たれ濡れたコートを丁寧に拭った 「ご注文は何に致しますか?」 「…カフェラテをひとつ」 「今、カフェラテをご注文頂いた方には サービスでケーキを付けているのですが、いかがなさいますか?」 「それでお願いします。」 「かしこまりました!」 明るい声の女性店員はすぐさま 厨房の方へと向かって歩いて行った 「…ふぅ」 ため息が溢れる 朝は寝坊するし 仕事は上手くいかなくて上司に怒られる 書類は山ほどあって後輩は役に立つ訳でもない 私って一体…何なんだろう 頬杖をつきながら窓辺を見つめていた 「お待たせしました!カフェラテとケーキです」 悶々と考えている間に 注文したカフェラテとサービス付きのケーキが目の前に置かれた 「どうぞごゆっくりして下さい」 オシャレなカフェラテの香りが鼻腔を擽る …っていうか、私コーヒーが飲めないんだった 後になって後悔しながらも 一口ばかりカフェラテを口にする 「…苦っ」 ほろ苦くて口に残る珈琲の中に サービスで頂いたケーキを一口ばかり頬張る カウンター席から窓辺に映る本降りの雨模様 傘を差しながら色んな人が街中を歩いている 悩みを持つ者 壁にぶつかっている者 私もその一人として生きている 人生において 選択肢が正解か不正解かは分からない だけどもこれだけは思いたい やってきた事に意味があると信じて …ってか、なんでコーヒーって苦いの?

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雨の日のカフェラテ

シャボン玉

透明な石鹸の液が空へと向かって フワフワと飛んでいく 近くの公園のベンチに座りながら 私と親友の亜矢(あや)と一緒に 何気なくシャボン玉で遊んでいた 「懐かしいね。子どもの頃、よく遊んだよー」 「確かに、懐かしいねー」 「っていうか、何でシャボン玉なの?」 そう言ってこちらを見つめる亜矢ー… 「届きそうで届かない恋もあるのかなぁって」 「えっ!恋してるの?」 「別に〜…ただ、何となくシャボン玉って 綺麗に見えても呆気なく儚く消えてしまうでしょ?恋と一緒だなぁって思うだけ。」 「つまり、恋してるって事でしょ」 「亜矢には教えない」 「ええー!!」 ケタケタと笑い声が響く シャボン玉は息の吹き方で大きさが変わる そして、空へと向かいながら儚く散っていく シャボン玉に想いを乗せながら 私は伝えたい たとえ、さよならが訪れても あなたの優しさが好きでしたとー…

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シャボン玉

忘れ物

とある帰り道ー… いつも通る同じ道に 木陰となって人が座れるような場所に ちょこんと誰かの忘れ物が置いてあった。 それは、貴重品が入っているカバンでもなくて よく見ればお弁当箱に入れるような アルミ製の可愛らしいバッグだった。 晴れの日も雨の日も ずっとあの場所から 持ち主が訪れるのを待っているのだろう 大切なものほど勝るものはない たとえ、年月の流れを感じても あの時に出会ったもの 使いものにならないものだとしても ずっと待っている あなたが見つけてくれる日まで

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忘れ物

花火

これが花火ー… 作り込んだ人の魂を感じる 色彩が溢れるくらい 大きな音が胸の奥で響いている 「きれい…」 人間はこんな綺麗な花火を見て楽しむのか 一人静かに佇む 私めは誰にも気づかれる事なく今日を迎えた 目を瞑り、元の姿へと戻った 光浴び影映るその姿はまるで猫 私めは猫… 年老いた猫… 名のない猫でありながら 今日という最期の日を 人間共たちに誰も気づかれる事なく 花火だけが 私めを色鮮やかに見つけてくれるのだった

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花火

夏の雨上がりの匂い

私は緑いっぱいの森林の中を走る 蝉の鳴く声 降りしきる雨の強さに打たれながら 白いワンピースの裾から垂れる雨の雫 濡れた裸足は泥まみれ 何も考えてはいない ただひたすらに光のある彼方へ 雨の王様 私は見てみたいの 夏の雨上がりの匂いをー…

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夏の雨上がりの匂い

アクションゲーム

僕には、お兄ちゃんがいる 勉強もスポーツも出来て 僕が嫉妬するくらい “負け”という文字を見た事がない 僕が這いあがろうとすれば お兄ちゃんは僕の上を行ってしまう ただ、僕には得意なゲームが残っている 好きなキャラを選び 三ポイントを取った方が勝利という いわゆるアクションゲーム ゲームだけは負けたくない …なんて思っていても お兄ちゃんは強くてあっさり勝ってしまう だけど、そんなある日 お兄ちゃんと一緒に いつものアクションゲームをプレイしていたら いつも負けてばかりの僕が 初めて“引き分け”という文字を見たのだった “ダブルKO”という 格闘ゲーム内では全くの稀な話 そんな時、お兄ちゃんは ふと僕の顔を見つめてきた 「強くなったな…」 あまり言わない言葉が耳に残って 僕は胸の辺りがとても熱くなった お兄ちゃんの存在が 僕を強くしてくれるから だから今日も僕はお兄ちゃんと戦うのだ

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アクションゲーム

サイダーポンチ

「ただいまー」 仕事が終わって誰もいない家にただ一人 夜になっても蒸し暑さは変わらない ちょっと喉が渇いたからビールを… ん……? 冷蔵庫の中にサイダーが入ってる いつ、買ってきたんだっけ? あっ、そうだ!アレが食べたくて買ったんだ 私は咄嗟に思い出した“アレ”を作ることにした 果物の缶詰めを開けて ガラスボールに果物を入れる そこにしゅわしゅわした炭酸サイダーを入れれば完成! 懐かしいなぁー… 学生時代、食べたよね〜 この味… 果物の甘さと 炭酸サイダーのしゅわしゅわが一緒になって踊る まるでダンスしているみたいに あっー…でも… やっぱりビールが飲みたい …なんてね

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サイダーポンチ

君恋-キミコイ-

第十話 「告白」  青くて白い雲ー… 合わさった空が果てしなく続くー… 今日も変わらない空が私を迎える 二時限目の授業が終わって休み時間となり 廊下は人集りでいっぱいでも声などいっさい聞こえない 窓の前に立ってそっと深呼吸をする 空は自由だ…ってそう思う そのまま廊下に出てお手洗いに行く途中ー… 誰かがこちらを見つめている …………………? 「遠野さんっ!!」 その姿がはっきりと映って私は驚いた …真城くんっ!! 私は急いで、後ろを振り返り 教室へと戻ろうとした瞬間ー… 彼は足早に私の手首をガシッと掴み、 身動きが取れなくなった 『真城くんっ!離して!』 『僕はこの手を離さないっ!』 グッと引き寄せられるように 気がつけば私は彼に抱きしめられていた 必死にもがく… だけど抱きしめる力が強くて離れることが出来ない 「会いたかった…」 くすぐったいくらい耳元で何か言っている 彼は私の顔を見つめながら その瞳をずっと逸らす事はなかった 『真城くん、あの時言ったよね。もう会わないって』 『ちゃんと理由も言わないで離れるのは違うと思う』 『別に私達は付き合っている訳じゃ…』 『そうかもしれない… でも僕はずっと遠野さんの事が好きなんだ』 えっー… 抱きしめられて息が届くくらい 真っ直ぐな目で私を捉えて見つめている 『私は、障害者の身だよ。音だって聞こえない。 真城くんの声だって聞こえないのに… そんな私と居たって疲れるはずだよ』 『僕は一ミリたりともそんな事を思った事はない。だって、僕はずっと見ていたから…遠野さんのことを』 『えっ…………』 あの日、雨が降っていた入学式での事をー… 『だから君が障害者だという肩書きがあるのは確かに辛い事だし、僕が代わりになれるような簡単じゃない事も分かっている。それでも僕は、遠野さんの耳が聞こえなくても、僕が君の耳となりたいんだ』 真城くんー…… 『僕と一緒にいてくれませんか?』 私は幸せになってもいいのかなぁ… この先、どんな幸福があって不幸があっても 私は彼を信じて乗り切れるかなぁ… でも…見てみたかった 新しい何かに会えて 新しい景色に出会えるのなら 私は、そっと彼の手を握りしめて 真っ直ぐに見つめた 『好きです。真城くんー…』 風が吹き抜ける 私達は小さな口付けを交わしたのだった

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君恋-キミコイ-