黒鼠シラ
45 件の小説黒鼠シラ
【おすすめ小説】 「Impact 7」 終末世界の人々の葛藤を2つの家族を主軸に描いた物語。 【N-1グランプリ】 次回開催 開始日12/1 歴代王者 初代 美水小春 様 2代 ピリカ 様 3代 史 様 4代 有陽へいか 様 5代 花瀬詩雨 様 6代 七宮叶歌 様 7代 ひるがお 様 【King of Novelee】 次回開催 開始日10/16 歴代王者 初代 ot 様 【黒鼠シラについて】 22/6/30 投稿開始 22/12/30 第1回N-1GP開催 24/1/1 新アカウントへ移行
【第2回NSS決勝】クレーマー
「ふざけんじゃねぇ!」 突然の怒号に店内が凍りつく。どうやら俺の接客が原因らしい。 「割れたらどうすんだ」 俺がラムネ瓶を素早くカウンターに置いたのが気に食わなかったらしい。とりあえず謝ろう。 「すみませんでした」 この経験から俺は、丁寧な接客を徹底した。その結果クレームは来なくなった。 そしてバイトの子達にも丁寧な接客をするよう注意するようになった。 それは次第にエスカレートしていき、自らが客であっても店員が雑な事をすると、俺がクレーマーだったら怒られるぞと少し怒りを感じるようになってしまった。 それは暑い夏の日だった。俺はラムネ瓶をもってレジへ立つ。丁寧に瓶をカウンターに置き、「お願いします」と会釈する。しかし、反対に店員は乱雑な対応をし、素早く瓶をカウンターに置いた。この行動で俺の怒りは頂点へと達した。 「ふざけんじゃねぇ!」 怒りも冷めた頃、俺は空になったラムネ瓶を片手にベンチに座った。そして冷静になり、自らの行動に絶望した。まさか自分がクレーマーになってしまっていたとは…… ショックから俺はラムネ瓶を雑に置いた。 鈍い音がする。 「あ、割れちゃった」
【第2回NSS】究極の発明品
今の時刻は9時。学校が始まるのは11時前。 この持て余した時間を有意義なものにするべく、私はドーナツ屋に入った。 「ポン・デ・リースチョコを1つ」 私は席に着くと、これから訪れるひと時の幸福に胸を踊らせた。 練り上げられた玄人によって作られたレシピ。これを元に作られたドーナツは味が完璧なのだ。薄すぎないのは大前提として甘すぎないのも重要だ。このバランスこそがプロの所業。 楽しみが頂点に達した頃、ドーナツが運ばれてきた。 上部を包み込むように覆い被さったチョコレート、その上に振り掛けられた虹色のチップ。甘いものの寄せ集めではなく計算され尽くした甘さの調節は、一つ一つの材料を天秤に乗せてるかと思わせるほどの正確な配合の上にある。 早まる気持ちを抑えながら、体温でチョコを溶かさないようにドーナツを手に取る。 口に入らないようにナプキンの位置を調節しつつ、人類の化学の結晶とも言える究極の発明品を口に運ぶ。 もはやチョコが歯や唇についてしまうことなど気にしている暇はない。私は後の自分への遠慮を忘れ、大きな口でこのドーナツにかじりついた。 「んん……」 「甘すぎる……」
短編集 「黒鼠シラ5」
2024年12月25日公開 短編集第5集「黒鼠シラ5」 この小説は9つの話からなる短編集であり、かなり長くなってしまっているため、複数回に分けて読むことを推奨します。 ※連載機能で順番を変えられなくなってしまったため、このような形で投稿しました。 もくじ ① "5" 3P - 5P ② 灰色 6P - 10P ③ 絶歴 11P - 34P ④ 地獄へ続く行列 35P - 38P ⑤ 3億15の罪 39P - 63P ⑥ 森の音 64P - 73P ⑦ 妖精の微笑み 74P - 76P ⑧ 奪死幻影物語 77P - 134P ⑨ 愛 135P - 149P 「"5"」 5という数字は不愉快である。 10というちょうどいい数字の半分であるというだけの理由で、奇数でありながら区切りが良いとされている。 5が象徴するものはなんだろうか、 "五感" それは人間に備わった5つの感覚のこと。 "五味" それは人間が感じる5つの味覚のこと。 "五臓" それは人間に特に必要な大事な5つの内蔵のこと。 人間には手足に指が5本づつ生えている。 週の平日は5日あり、子供の日という有名な祝日は5月5日にある。 ごがつごにち ごがついつか 読み方だってごとは限らない。 極め付けは長方形と円が合わさったような"5"の見た目である。 気色が悪い。 世で使われている数字の"5"は、間違いなく過大評価されている。 私はそう考える。 「灰色」 僕は殴られた。 ほっぺを思いっきりだ。 当然痛かったし、赤く腫れたよ。 だから、思い切りほっぺを殴り返してやったんだ。 たったそれだけのこと、それなのに相手は泣き出して、被害者ヅラして先生に言いつけた。 先生はすごく怒っていた。 1時間丸ごと叱られただけでなく、放課後に親と一緒に呼び出された。 当然親にも怒られたよ。 でも、2人とも口を揃えて同じことしか言わないんだ。“女の子を殴るな”って、 僕は意味がわからなかった。 先に殴ってきたのはあっちだし、 それに男を殴った時は大して叱られないのに。 僕は困惑しながらも、半強制的に謝ることを求められた。 納得しない、そんなフラストレーションを抱えながらも僕は相手に謝った。 何故か親も頭を下げていた。 僕がやった事なのに意味がわからない。 その日帰ると、父親にも怒られた。 現場にもいなくて関係ないのに、、なんでだろう。 しかも父親も同じ事を言う。 “女の子を殴るな”ってさ。 みんな同じことしか言わなくて、なぜ悪いのか何にも分かりやしなかった。 気持ちのいい1日にしたかったのに、、 僕は困惑し、その日は一日中、暗くも明るくもない。 灰色の気持ちになった。 「絶歴」 世界中の人々全員に物語がある。 誕生から現在に至るまでの歴史がある。 それは、楽しかった思い出の溢れる“幸歴”かもしれないし、努力で成り立つ“努歴”かもしれない。 それがどんなものだったにしろ、大半は最終的には楽しくて幸せだと感じることのできる歴史を作る。 でも僕の歴史は“絶歴”。 拒“絶”され続けた“絶”望的な不幸な歴史。 この物語は、拒絶され続けた絶望的な僕の絶歴が、絶好調な絶対幸福な絶歴へと変わっていく長い人生の話である。。 僕は父が大好きだった。 とても優しくて、仕事から帰ってくると決まって僕を抱きしめてくれる。 僕の誕生日になるとケーキとおもちゃをくれて、僕がいじめられて帰ってくると僕のために学校に乗り込んででも解決してくれようとしてくれた。 そんな父が僕は大好きだった。 それは母も同じだった。いつも気にかけて家事も手伝ってくれる。 そんな父を母は心の底から愛していた。 でもある日、父は死んだ。 死因は毒物の大量摂取によるオーバードーズ。現場の状況や残っていた遺書から自殺だと断定された。 いつも幸せそうだった父が自殺をするなんてあり得ないと、当時の僕は他殺説を必死に唱えた。しかし警察は愚か母もこれには取り合ってはくれなかった。 するといつのまにか、僕は父が本当に自殺をしてしまったのだと受け入れてしまうようになった。 父が死んでから、母の性格はまるっきり変わってしまった。 家事は一切行わず、飼っていた犬の散歩も餌やりもトイレの掃除も、なにもしなくなってしまった。 なにもしなくなったというのには語弊がある。別に一日中ぼーっとしていたわけではない。 母は父が死んでからは、毎日毎日酒に溺れ自己嫌悪に陥っていた。 それは年々ひどくなり、僕や飼い犬にまで当たるようになっていった。 学校でのいじめもDVに遭い始めた頃にエスカレートした。 無視や陰口程度だったものが、いつのまにか暴力や窃盗へと発展した。 「志田裕介じゃなくて、、死んだ裕介っと、」 「おいたける、高校生にまでなってその悪口はセンスないわ」 「志田はいつになったら学校辞めるんだかな」 朝っぱらから教室で僕の悪口で盛り上がるクラスメイトの声が聞こえる。 教室に入りたくないといつからか毎朝この感情が押し上げてくるようになった。 机を見ると、横にかけておいた体操着が乱雑に広げられていた。 志田とかかれたTシャツの胸部分には志田という文字が消され、死んだ裕介とマッキーで書かれていた。 体操着を置いていった僕が悪い。これは僕のせいだ。 「おぉ、志田、お前よく今日も来る気になったな(笑)」 いじめの主犯格の中島健。 ガタイが良くて女ウケするタイプではないが、男からは人気がある。 「志田テメェ、昨日校舎裏呼び出したのに何で来なかったんだよ。」 中島の親友の田島涼夜。 いかにもヤンキーのような見た目で、喧嘩が強い。 この2人を中心に、僕へのいじめは成り立っている。 日々この2人からの暴言暴力に耐えながら生活している。 しかしそんな僕も、学校ではいじめ、家ではDVの生活にだんだんとストレスを感じ始めていた。 いじめられるたびに不甲斐なさで自分が嫌いになっていく一方で、僕を貶めている彼らも憎くなっていく。 そこで僕は、今日思っていることを彼らに伝えることにした。 「中島くん。。あのさ、いじわるするの、やめて。。」 僕が捻り出せた精一杯の一言。 これに対し中島は、予想外の返答をした。 「おー、志田が自分の意思を表明するとはな〜(笑)わかったよわかったよ、やめてやるよ」 僕は、この一言を聞いた瞬間、肩の力が全部抜けた。 このたった一言のおかげで、僕は地獄から解放されるのだと。なぜだかそう確信してしまった。 安心に浸かり、ぼーっとしていると、中島がもう一言 「いじめるのは今日で最後だ」 そう、僕の耳元でつぶやいた。 その1日は気が気でなかった。いじめるのは今日で最後ということは、まだ残りの学校での時間中にいじめられるかもしれないと、しかし、結局最後までそれは起こらなかった。 1日がおわり学校を出た。 帰り道ではずっと、学校での苦しみから解放された安心感と、家での苦しみがまだ残っているという絶望的な苦痛が残っていた。 それでも、1つの苦しみが減ったという安心感を胸に、久しぶりに上機嫌で家へと着いた。 しかしそこには、文字通りの最悪が待っていた。 「よぉ、遅かったな裕介。」 中島と田島がバットで殴りかかってきた。 痛い。 頭と背中に尋常じゃないほどの痛みが走る。 頬を血が伝う。 「志田、今日でいじめは終わりなんだからよぉ、こんぐらい我慢しろよぉ?早々に果てたら楽しくないからよぉ」 そういうと中島は、僕の胸ぐらを掴んで家のドアをこじ開けた。 「志田のババァ、テメェの息子の部屋はどこだ?」 僕の母に対してもこの態度。 しかし、母は動じなかった。 「2階よ。」 僕の部屋に入るなり、中島は僕の趣味でありコレクションしていた大量の本をライターで燃やした。 田島は勉強机をバットで壊したのちに、机の上にあった鋏で僕の右目を突き刺した。 「読む本もねぇんだし、これいらねぇよな(笑)」 何発も何発も田島の拳がみぞおちを仕留めた。 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。 気づけば部屋の床は僕の血で、一面赤く染まっていた。 「おい志田ぁ、この犬なんだ?」 ミントは僕の唯一の友達にして、唯一の救いだった。僕が自慢できる唯一の事で、毎晩毎晩彼女に泣きついていた。 「ミントぉ?ネーミングセンス終わってんな(笑)」 中島はミントの首を掴むと、真っ赤に染まった床へと投げつけた。 「や、やめてくれ、」 血で視界が霞み、意識が遠のいていた僕も、一番大切な犬が暴力されていることだけは許せなかった。 「やめろ!」 叫んだ瞬間、田島が僕の首を思いっきり殴った。 神経がやられてしまったのか、体が動かない。 「いってっ」 中島が叫びを上げる。 どうやらミントが噛みついたらしい。 「ミン、ト。そんなやつ、やっつけちまえ、、」 僕はもはや喋る気力もほぼない。 「くそ犬がぁぁ、」 中島が再びミントを床に打ち付ける。 弱ったミントは噛んでいた中島の手を話し、クンクンと泣き始めた。 「俺犬嫌いなんだよ」 田島はそういうと、僕の右目を刺した鋏で、ミントの首を刺した。 声にならないような悲鳴をあげるミントを、おもちゃのように刺して遊ぶ2人は、すごく楽しそうだった。 あぁ、僕もあぁして楽しいことがしたかったな、、、 気がついたら夜になっていた。身体中が痛く、鏡を見たら刺された右目が大きく腫れ上がっていた。 突然嫌な臭いがしてきた。 臭いの方向を見ると、血だらけで横たわるミントがいた。 ほぼ頭は取れていた。 これはすべて僕のせいなんだ。少しでも安心した僕のせい。いや、そもそもいじめられていたのも僕のせい。 いじめた奴らは、いじめたいからいじめたのだろう。それなら、いじめたいと思わせてしまった僕が悪いんだ。。。 腫れ上がった右目を鋏で刺し、腫れを引かした後、眼帯をつけて、次の日僕は学校へ行った。 「おはよう!裕介!」 朝から中島が僕を出迎えてくれた。 「裕介おはよう!」 みんなが笑顔で僕を出迎えてくれる。 僕は、乗り越えたのだ、すべてのいじめを。 その1日、クラスのみんなに優しく接してもらったことで、僕は田島と中島への感謝の心が芽生えてきた。 いじめてしまいたくなるような僕のことを、笑顔で迎え入れてくれたみんな。 絶望的な日々からいきなり、幸福な日々へと変わった日常。 田島と中島は、僕をあえていじめることで、日々の幸福の偉大さを教えてくれたのである。 彼らは僕の人生の救世者だ。 ミントも必要な犠牲だったのかもしれないと、僕はそう感じてきた。最低でクズでカスでゴミで不甲斐なかった僕に、最高の幸福を教えてくれた。 田島と中島には感謝しかない。 中島は僕の大親友だ。まだ時々悪口や暴力を振るわれることもあるけど、それも愛の鞭ってやつなんだと思う。 彼は、僕の人生を幸せに変えてくれた。最高の友達なんだ。 でも、僕は、そんな親友に最低最悪なことをしてしまった。 いつも通り、田島と中島と僕で帰っていたある日、中島は僕にいつも通り、愛の鞭として僕の頭や背中をバットで殴ってくれた。これは、僕が幸福に溺れてしまわないようにするための、中島の気遣いなのである。 それなのに、僕は嬉しさのあまり勢い余って中島を思い切り押してしまった。それも、踏切の中へと。。。 その日中島は、電車が通り過ぎるスレスレのところ。つまり踏切の中で、僕に愛の鞭を打ってくれた。 これは、僕が後ろに下がることで避けれないようにするためであった。それなのに、僕は中島をむかってくる電車へと突き出してしまった。 僕は人殺しだ。。。 命の恩人を、いや、人生の恩人を殺してしまったのである。。 僕は人生を楽しく幸福に変えてくれた友達、いや、親友を自ら手にかけてしまった。 結局、田島の証言により、僕は意図的に中島を殺したとして少年院へと入ることになった。 当然の報いだ。 僕は、親殺しと同等の思い思い罪を犯してしまったのだから。。 昔、何度も母を殺したくなっていたが、その度に母は、 「親殺しは重い罪に問われるのよ」 と、そう僕に教え込んでくれた。 別に重い罪に問われるのが嫌だったわけではないが、ただ単にそんな最低最悪なことをしたくなかった。だから、毎回抑えていたのである。 しかし、僕はこれと同等のことをした。 僕は人間のクズだ。。。 人間のクズである僕を、普通は友達たちは恨むはずだ。見捨てるはずだ。しかし、田島やクラスメイトのみんなは僕を無捨てずに、定期的に遭いにきてくれた。 その時彼らがなんと言っていたのかはわからないが、遭いにきてくれたという事実だけでも、僕は救われた。 こんなにもダメで、自分のせいで人生を滅茶苦茶にしてしまったダメ人間を、クズカス人間を、みんなは見捨てないでくれた。 出所後も、自責の年に溺れながらも、みんなからの愛の鞭のおかげでずっと幸せに生きていけている。 みんなから助けられる僕のこの人生は、絶好調の最高な物だ。 自分が大嫌いで仕方がない。自分を今にでも殺してしまいたいような僕も、みんながいるからなんとか生きていけている。 今まで出会ってきたすべての生きるものに感謝している。 試練を与えてくれた、母,田島。 尊い犠牲になってくれた、ミント。 そして、人生の幸福を教えてくれた、中島。 愛の鞭を打ってくれるクラスメイトのみんな。 これは、みんなから助けられたどうしようもないクズだけど、幸せな僕の歴史。 絶対幸福な僕の人生の物語。 そして、僕の“絶歴”の全てである 「地獄へ続く行列」 目の前に地獄が見えた。 そしてその前に列をなして並ぶ者たち。 彼らがそこに並ぶ理由はたった一つ、再び自分らの家へ帰るため。それもとにかく早くである。 だから今日はいつもとは違う近道のルートで帰ることにした。 それが間違いだったとも気づくことなく。 先頭のものたちはどんどんと落ちていく。そこの見えない巨大な地獄の穴へと落ちていく。。。 私の番も近いのかもしれない、先頭のものが落ちるにつれて私もまた先頭へと近づいていく。いやだ、死にたくない、でも運命は迫り来る。 地獄へ行きたくない、、、 直後私は頭上に生き物を見た。 その生き物は2つの足で立っていた。恐ろしいほどの大きな体をたった2つの足で支えていた。 もうここは地獄なのか、、でなければあんな化け物はいないはず、、 私は絶望しつつも、なにか大きく低い音を聞き取った。辿ればそれは巨大な化け物たちから発せられていた。 私は恐る恐る聞き耳を立てて慎重に聞いてみた。 生まれて初めて見る“人間”が発している言葉を。。。 「アリさんの行列が蟻地獄に吸い込まれてるー」 「3億15の罪」 今日のプランはこうだ。 近くのコンビニから食料を調達して、そうしたら、どうしようか、まあ、いつも通り本でも読むとしよう。 無職35歳。 家族はいない。 友達もいない。 と言うかそれ以前に人間がもう存在していない。 俺は人類の最後の生き残り、もう俺以外に人はいない。話すと長くなるが簡単に言うと、すべてたった1人の男のせいだ。 道路には草や小さな木が生え、建物には蔦が絡まり、そこら中に動物がいる状態。 俺以外の人類が滅亡してからたったの1年で、人の雰囲気は完全に消えてしまった。残ったのは薄汚く自然に侵された建物だけ。 人類滅亡前に、何かサバイバル技術を習得していたわけでもない俺は、ただただ残されたコンビニやスーパーの商品を賞味期限の短いものから食べていく他なかった。 日が上っている間に散歩や周囲の散策、食料調達をし、日が落ちたら蝋燭の灯りを頼りに読書をする。この繰り返しの日常が死ぬまで続くのかと思うと、俺は気が重くて仕方がなかった。 「ぐぅ」 お腹がなった、そろそろコンビニに行く時間帯だ。 今のままコンビニやスーパーで取った食べ物で生き延びていても、いつかは尽きて飢え死にしてしまう。だから賞味期限が近いものから食べているのだが、それでもいつかは自給自足の生活をしなければならない時が来る。今は考えないようにしているが、そろそろ人がいなくなって1年が経つし、いい加減先を考えないと行けないのだが、、、 そんな暗いことを考えているうちにあっという間にコンビニへついた。 「暗いこと考えてないで明るく生きよう」 家に帰って、取ってきた缶詰と好物のグミを酒のつまみにして頬張る。 「おいしい」 でも飽きた。 毎日こんなものしか食べていない、ずっと食欲が湧かないんだ。 食後は日課である読書をする。 もう読み終わりそうな本を開き読み始めも、10分もしないうちに読み終わってしまった。俺は完全にその本のムードとなってしまっていたため、どうしても他の本を読む気にはなれない。 そうして俺は暇になった、、、 気づいたら寝ていた。 もう外は真っ暗。 夜は電気が通ってないため、完全に真っ暗になってしまう。 寝たことを後悔する。 暗いところが苦手な俺は夜のうちに寝て、明るい時に何かをしていたい。それなのに寝てしまった。 「最悪だ…」 もう一度寝ようとするも、すでに8時間ほど寝てしまっていた為、当然寝れない。 俺は諦めて起きていることにした。 やることが無いので、昼間に読んでいた本を読み返す。蝋燭の灯りしかないので、すごく読みにくい。これはすぐに飽きそうだ…。 案の定おれは10分ほどで飽きた。 読書以外に趣味がないため、やることがなくてボーッとしていると、なんだか寂しくなって来た。この日初めて俺は、自分のしたことを後悔した。 暇なので軽く俺の犯した罪を説明しよう。 ものすごく簡単にいうと、3億人を殺した後に親友15人をも殺した。 度重なる戦争からすでに人類は3億人程までに減っていたため、この罪のせいで俺は1人になってしまった。 俺がこんなことをするきっかけになったのが、アバンという名の男だ。だから全てはアバンのせいだ。 アバンは世界を震撼させた連続殺人事件、大企業爆破テロ事件など、さまざまな事件を1人で巻き起こした世紀の極悪人だった。自分が殺されてしまうかもしれないという恐怖を多くの人に植え付けると同時に、俺みたいな捻くれた少年たちの憧れの的となった。 いかにも悪そうな顔立ちと、派手な数々の犯罪。さらに逮捕された時のだるそうな態度は、多くの捻くれた悪人好きを虜にした。 俺もただの捻くれた悪人好きだったらまだよかったのだが、そうではなかった。俺は他の奴らとは違うと本気で信じていた。アバンのようになることができると。 「俺はどこで間違えたんだ。」 「罪ない人々を殺した時か?」 「3億人をも殺した時か?」 「それとも、アバンという人物を初めて知った時か?」 考えてもわからないので考えないようにした。そうして何十分もボーッとしていると、 俺はいつの間にか寝ていた。 気づいたら朝だった。 「寝れてよかった」 とりあえず朝の散歩にいく、今日はコンビニではなくスーパーなどの大きな店へ行こう。 歩き始めて早2時間。 俺は大きなスーパーにたどり着いた。 数日分の食料を調達し、本屋による。 そこで今日から読む小説を何冊か取り、俺は帰路につく。 来た道を戻り約1時間で家に着いた。家に着くとすぐに食料を食べた。賞味期限がだいぶ過ぎているが、まぁ大丈夫そうだ。デザートのツブグミを食べ、その後買った小説を読み始めた。 なかなか面白い、これは長く持ちそうだ…、 「ディアボロ・チロ…」 俺は唐突にこの名前を思い出した。誰だっけ 「ぐぅ」 腹が鳴った、もう2日も何も食べていない。コンビニなどの食料が尽きたのはとうの昔の話。 今は種などで野菜を育て、釣りをして魚を取り、鳥などを殺して肉を取り…色々な方法で食料を調達してきた。しかし、これは常に取れるものではない、だから今ひもじい思いをしている。今日もただただ小説を読むだけの1日…。 「思い出したっ」 そうだ、ディアボロ・チロは俺が殺した犯罪者の名前だ。たしか最期に何か、俺に言ってきていたんだ。 『こんな事をしても、お前が損するだけだ』 だったっけ…、確かにその通りになったな。 俺は大統領だった。 大統領として国民の意見を聞き、観衆が好きそうなことを思ってもないのにベラベラと喋り、人々の信頼を手に入れていた。 そしてそれを利用した。 俺は政府を内部崩壊させ、世界に1つしかない人類史上最悪の殺人兵器を手に入れた。 これはかつてアバンが使用していた兵器でもあった。 手に入れただけでなく、俺はそれを大量生産し、その兵器で3億人もの罪なき人々の命を奪った…。 世界に一つしかないその兵器を持っていたのがアバンだった。 彼は逮捕される寸前に武器を体内に巧妙に隠していた。むやみやたらに取り出そうとすれば爆発するように仕掛けが施されてあったのだ。しかし俺は、大統領という立場を利用して、多くの金と労力を注ぎ込みついに取り出す技術を習得した。これが俺の罪の始まりだ。 俺は今まで、アバンを殺したのは兵器を手に入れるためなのだと自分自身に言い訳をしていた。しかし本当はそうではなかった。俺は小さな頃に憧れた世紀の大犯罪者を殺すことで、自分がそれを超えた気になっていた。 全てはただの自己満足だったのだ。 あの時、ディアボロの忠告を聞いていれば… いや、あの時、アバンを殺していなければ… いいや、全てがダメだったのかな… 明日俺は56になる、人が消えてから22年も経つ。未だにいつ自分が間違えたのかの答えは見つからない。 俺は3億15人の命を奪った。 俺には3億15の罪がある。 俺は中学で習った歴史の中で、好きな人物がいる。 その人の名前は、ノートン大統領だ。 彼は史上最悪の殺人鬼アバンを逮捕した人類史に残る大英雄なのである。彼はアバンを逮捕した時、国民に対してこう言った。 『自分の考えを持つことは簡単だ、しかしそれを行動に移すことが難しい。 このアバンという男はそれを成し遂げた。 私は素晴らしいと思う。考えがどんなに極悪な事だったとしても、成し遂げるということは物凄い事なのだ。 だから、考えたこと,やるべきだと感じたことは今すぐにやれ、それが犯罪だとしてもだ。 償えない罪はない。 誰に嫌われようとも成し遂げた人は凄い人で、成し遂げられなかった人は、その程度の人なのだ。』 どんな重い罪も、他人によって公平に定められた罰を受ければ絶対に償うことができる。ということに俺は何度も救われた。 それから俺は何か考えがあれば、ノートン大統領の言葉を信じて実行してきた。その結果、俺は人類を滅ぼしてしまったのだ。 俺がずっと考えていた事である、自分がいつから間違えていたのかの答えは、ノートン大統領のこの言葉が正しいかどうかの答えと同じ気がした。 この言葉が合っていたのなら、俺は間違えてなどいない、やるべきことをやっただけだ。しかし、この言葉が間違っていたなら、俺はこの言葉を信じようと決めた時、すでに間違えていた。 この答えは俺1人では導き出せない気がする。 いよいよ食料が持たない。今年で俺は60になる、人類が消えて26年経つ。 もう3日間水も食べ物も食べていない。いつ死んでもおかしくはない。 俺は俺の中での答えを出した。ノートン大統領の言葉は間違っていたのだ。 何故なら、俺は償うことができない罪を犯したからである。 3億15の罪を犯した俺を罰する人がもういない。 この世には償えない罪がある。そして俺はその罪を犯した。 俺は中学2年生の、ノートン大統領の言葉に出会った時からずっと間違えていた。 だからと言って、恨むべきはノートン大統領ではない、自分がノートン大統領の言葉を信じた事だ。恨むならあの頃の俺を恨むしかない。 ノートン大統領の話していた、自分の考えを行動に移したものは偉いと言う話を、俺は自分に当てはめて自分は偉いと本気で信じて疑わなかった。 幼い頃に考えた、戦争まみれの世の中を平和にする夢と、アバンへの憧れから起こった悪人になる夢を組み合わせて、どっちも叶えたからだ。 俺は立派に考えたことを行動に移した偉い人だと思っていた。しかし、そうではなかった。 俺がしたのは後先考えない愚かで身勝手な行動。 ノートン大統領が今も生きていたらきっと俺を悪く言うだろう。アバンの時みたいに称賛することは絶対にない。 償えない罪はないと本気で信じ、アバンへの憧れのみに動かされ、必死の勉強の末に大統領となり、変わることのなかったしょうもない夢を叶えてしまった俺は、 この世で唯一償えない罪を犯したのだ。 意識が朦朧とする中で、俺は後悔と懺悔の涙を流しながら、その場に倒れ込んだ。 すると、 目の前にかつての親友がいた。 俺が自らの手で殺めた親友だ。 彼はにっこり笑って、俺に水を差し伸べた。 縋り付くような思いで俺はその水を飲んだ。 すると彼は、俺の手を引いて上へ上へと登り続けた……。 人類史は終わった。 「森の音」 木々が泣いている。 目の前にあるのは薄暗く、不気味にたたずむ巨大な森。 密集した巨大な木々の間をすり抜けてくる風が、木々の泣き声に聞こえてくる。 その音は聞き続ければ、動物の鳴き声、日々踏みつけられる大地の悲鳴、不気味な森に捉えられてしまった何者かの恐怖の悲鳴、、何にでも聞こえてしまって仕方がなかった。 なんとも形容し難い森の不気味なオーラは、風と共に私の顔へと運ばれた。 決して力強くはないが、ぬるくゆっくりと私の頬を掠めた風は、殺気などとはまた違った恐ろしさを秘めていた。 不自然なほどの沈黙。 これが森を不気味に見せる要因の一つなのかもしれない。 そう考えるや否やその沈黙が大きな不自然に破られる。 "どん" その音は大地を伝って周囲に響き渡った。 弱者を容赦なく大地に叩きつけるような、不愉快かつ不気味で不自然な音。 脳内で音の正体を突き詰めている間に、再び不自然が起こった。 "どん" さっきよりも大きく鮮明に聞こえた。 弱者をいじめるのが楽しくなってしまい、思わず力みすぎてしまったのか、はたまたその理不尽が行われている現場が私に近づいたのか、なぜだからわからない、だがしかしその音は大きくなっていた。 "どん" "どん" 音は頻度と音量を増しながら続いていた。 大地に伝わる振動もまた、不愉快にも大きくなってゆく、、 私は思わず音への不可解ゆえの不愉快さ、さらには怒りを覚えつつ森へと少し足を進めた。 "どん" 音は足を運んでいる間にも続いていた。 私の中で芽生えた怒りは、幼子の如く小さくなることなく成長していった。 "どん" 私の慣れ親しんだ森の音を汚す不愉快を仕留めたくて仕方がなかった。 "どん" 振動が鼻先をくすぐる "どん" 私の怒りは音の音量に比例して肥大化していた。もういつ爆発してもおかしくない。 "どん" その音はついに私の目の前にまで迫っていた。 先程まで泣いていた木々が、今度は恐怖からガタガタと揺れ出した。 "どん" 私は身構える、音を大いに警戒しながら着実に森に向かって進んだ。 "どん" 私が仕留める。私が森を厄災から救い出す。 "どん" この森を、同胞を、家族を、、 "どん" 何があっても負けはしない。 "どんががが" 爆音と揺れ以外にも細かい音がし出した頃、ついに私の目の前の木が倒れた。弱者が強者に理不尽にもにねじ伏せられた。 私は相手を睨み、自らの体を中に舞わせた。 すると、相手は恐れ慄き慌てふためき出した。 「猛獣だぁぁぁあ」 「逃げろぉぉぉお」 私は巨大な殺戮兵器から飛び出した敵を爪や歯を駆使して仕留めていった。何匹も何匹も潰しては湧いてを繰り返した。 敵の攻撃は激痛、貫かれるように痛くて赤い血液が大量に溢れる、、 「なんで日本の森にライオンが、、」 潰しても潰しても抵抗してくる。 「はやく、もっと猟銃を、、」 でも私はこの森を身を挺してでも守らねばならない。 「はやく撃てぇぇえ」 愛する、森、同胞、家族、その全てを私は背負っている。 「早く仕留めろぉお」 私は強い、、 「殺せぇぇぇえ」 なにがあっても気高く戦い続ける、、 「森を切り開くけぇぇぇぇぇえ」 なぜなら私は、、、 百獣の王だから。 「妖精の微笑み」 出勤途中の私は、遠くの雲になにか小さな人影を見た。 まさかと自分の目を疑いながらも目を凝らしてみると、そこには小さな妖精がいた。 彼女は雲の上でぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねながら小さな羽をパタパタと羽ばたかせていた。 私は驚愕や得体のしれぬものを見た恐怖よりもなにかホワホワしたような幸せな感覚に包まれた。 そうしてついつい妖精を長く見つめてしまった。 見つめ続けていた私に気がついた妖精は、少し驚いたそぶりを見せると、私に微笑みかけてからぴょんぴょんと今度は雲をジャンプして移動していった。 あぁ、なんだか今日はいいことが起こりそうだ。 「奪死幻影物語」 全七話 第一話 炎 関東の小さな田舎町に僕は住んでいる。 畑作業や肉体労働を繰り返す日々、買い物に行くのだって何十キロも離れている街に行かないと行けないからすごく大変。やっと仕事も終わり休めると思った時も、すぐに母の死んだ父への思いを聞かされる。ただでさえ愛してるだのの話はつまらないのに、僕のことまで話されては気持ち悪くて仕方がない。 いつもそう思って母のことは適当に流しているのだが、時々おかしな時もある。母が僕のことを話し始めたかと思うと急に泣き出すんだ。 普段は気持ち悪いと思ってしまう母のことも、そんな時だけは慰めてあげなくてはと思ってしまう。 そう、僕もなんやかんやで母が好きなのだ。 とはいえ僕も今年で18歳。泣いてばかりの母の元を離れて一人暮らしをする時期が迫っている。 やっとこのど田舎を抜け出せるかと思うと心躍る。でも実は、ここでの生活はまだあまり長くは無いのだ。こんなに悪いことを言ってはいるがまだまだことの町では新参者だ。では田舎嫌いの僕がなぜこんなところに引っ越してきたか?その答えは僕の大好きな登山中に起こった事故にあった。。。 当時僕はまだ16歳の高校一年生。本来なら一人で大きく険しい山道を行くのは止められるはずである。しかしその日が僕の誕生日だったこともあり、母は嫌々ながらも僕のことを信頼して登山へと送り出してくれた。 亡き父は登山が大好きだった。肺がんで死んでしまう半年ほど前まで当時小学生だった僕を連れて登山をしていた。そんな父の影響もあってか僕はかなりの登山マニアで、未開の山を探索する夢を胸に込めて日々山について調べ、友達や叔父さんなどと登山をしている。 そんな僕にとって高さ500メートル程度の山は楽なものだった。 「楽しい登山になるよ!」 家を出るときに母に向けて放った言葉だ。 本当に楽しい登山になると思っていた。 あの音が聞こえるまでは、、、 ボボボ、、、 バサン、、、 メラメラ、 山の中ほどまで登ったときだった。目の前に大きな赤,緋,黄色などの色々を纏った物質が木々を破壊していた。 山火事だ。。。 僕は即座にその場を離れ110番通報し下山をしようとした。しかし急ぐ僕の足はとある声に止められた。 「助け、けて、、くれ、、、」 僕は即座に誰かが火の中にいることを察知した。 「大丈夫ですか!?」 大きな声を上げながら、僕は迷いなく大きくメラメラ燃える火の中に飛び込んだ。汗で濡れた服に灰が纏わり付きどんどん黒く染めていく。 無心で叫び、火の中を進み続けることわずか10秒、僕は燃えたぎる草の上を弱りきった状態で横たわる血で染まった男を見つけた。 すぐさまその男に駆け寄った。 「大丈夫ですか!?立ち上がれそうですか!?」 男はしゃべらない。 それでも、死んでても生きててもなんとしてでもこの火から出してやりたいという思いを込めて、僕は焼け爛れた男の熱い皮膚に触れようとした。その時だった。 突然男が服の下に隠していた青白い手を伸ばし僕の左足首を掴んだ。 生きていた。。。よかった。 僕は一時の安心にかられた。 「大丈夫ですか?立てますか?」 今度は冷静に男に問いかけ、胴を持って持ち上げようとした。 しかし、男は動こうとしない。それなのにも関わらず僕の足首を掴み続けていた。男の手を振り払おうと指を足首から動かそうとするも、びくとも動かない。 それどころかどんどん握る力が強くなっていく。 「放してください!」 俺は全身の焼けるような痛みに耐えながら叫んだ。 足を握る手はどんどん強くなる。 「放せ!!!」 僕は残った力で指を動かそうとした。それでも動かない。 まずい、全身が熱い。。。 力がだんだんと抜けていく、 このままでは意識が持たない。 ぼく、まで、死んで、しま、う、、、 今にも意識が無くなりそうな中、わずかな希望の音が聞こえた。 消防車のサイレン音、、、 わずかな希望を見出したその時、僕の記憶はプツリと途切れた。 次に僕が目を覚ましたのは病院だった。 どうやら何ヶ月もの間目が覚めていないらしい。 医師や警察は、この大きな山火事の影響でおよそ3平方キロメートルもの範囲の木々が焼失し、地面も焼け野原となったとのこと。そして、その場に居合わせた登山客二名の内、一人が全身火傷の重傷。そして、一人が死亡したとのこと。 僕は足に残った後を見て、怒りよりも男を救えなかった情けなさが勝っていた。 きっと気が動転して僕の足を掴んでいたのだろう。 僕は溢れ出てくる罪悪感に耐えきれずに泣き込んでしまった。 その山火事の事故の後からだった。 僕の周りはどんどん変になっていった。突然親友が自殺したり、母が精神病で入院したり、、、 こんなに多くの異変が起こった結果。母と僕は遠い田舎に引っ越してみることにした。母の精神病の治療も兼ねてだった。 このような事故があって、僕はこのクソ田舎に来る羽目にあってしまったのである。 今は何よりも一人立ちして、ここから離れたいと思っているが、またあのような出来事が起こるのはとても怖い。 あれからまだ一度も登山をしていない。まぁ、あんなトラウマな出来事があったら仕方ないが、僕はまだ登山したいという思いは残っていた。幸いここはど田舎で山なんか腐るほどある。 もう少し精神的に回復したらまた登山しよう。 あの事故から1年以上経った今も精神的なダメージが治っていない僕は、いつか登山することを夢に見て、今も毎日を頑張っている。。。 第二話 よの道 今日で僕は18歳になる。 僕はずっと18歳の誕生日に登山に行くと決めていた。もちろんまだトラウマはあるし、心のどこかでまたあのような悲劇が訪れるのではないかと思ってしまっていた。 しかし、そんな心配を捻り潰してしまうほどのワクワクが僕の胸の中にはあった。 久しぶりに山に行けることに心が躍る18歳の誕生日の朝、僕は目指す山からまだ暗い空に上がる緋色の星を見ながら、楽しみな気持ちを胸に家を飛び出た。 「行ってきます!」 今回登る山はとても小さな山だ。しばらくの間登っていなかったこともあって、小さめな初心者向けの山にした。ここはど田舎だし、この山の何倍も大きな山が多く存在している。今回何事もなかったらその山々にも登ろうと思って、この小さな山にした。 空が山に乗っかっているような太陽と、同じ緋色に染まっていく、、、 すごい綺麗な朝焼けだ。 でも、それと同時に2年前の今日の悲劇を思い出す。確かあの時の火もこの空と同じような色だったな、、、 昔のことや最近のこと、悪いことやいいこと。色々なことを考えながら山の麓まで歩いた。 「久しぶりの山は少し怖いな。」 僕は大きな思いを胸に込めて、この小さな山への一歩を踏み出した。 片道たったの1時間弱で登れてしまったこの山から見る景色は、これまでで1番出なくとも、確実に記憶に刻まれるような美しいものだった。 山頂でまだ食べていなかった朝ごはんを食べ、少し綺麗な空気を楽しんだのち、僕は下山を始めた。 もうすぐ山の麓に着く頃だった。それはいきなり起こった。バチバチという音と共に意識が朦朧とし、周りがいきなり真っ暗になった。薄れゆく意識の中で僕は目の前を謎の人影が歩いていくのが見えた。僕は必死に目をこらした。こいつは誰か把握しないと行けない。何故だかそんな気がした。 必死に目を凝らしてる僕を、その人影は振り返って見てきた。それの顔を見た瞬間、僕は自分の目を疑った。 そこに立っていたのは、、、僕だった。。。 意識がはっきりした時、すでにその人影は消えていた。 僕はなんだか混乱しつつも、疲れから寝てしまっていたと自分を説得した。 そうだ。もう1人の僕はただの夢の中の存在だったんだ。そのはずだ。 僕は少し落ち着いた後、夜道を歩いた。 疲れと混乱から無心に歩いた。 歩き始めて数分経った頃だった、目の前に謎の女が現れた。彼女は両腕に大量の切り傷があり、大量出血のせいかふらふらいた。 僕は彼女に走り寄り、安否を確認しようとした。 「大丈夫ですか?」 女は何も言わない。僕はどうするか分からず、少し黙り込んだ。なざなら、現在地からでは最も近い病院でも10キロほどの距離があるからである。 僕は、少し渋りながらも、 「家に来てください。この辺病院ないので、母が医療詳しいので見てもらえると思います」 と、声をかけた。喉を怪我しているのかわからないが、彼女は何1つ言葉を喋らなかった。しかし、僕が家へとリードしようと歩き出すとそのまま着いてきてくれた。 彼女のペースに合わせ、何も喋れない気まずさを我慢しながら、家へと向かった。 しかし、事態は家に着いた瞬間に急変した。先ほどまで虚ろな目をして、死にかけのような体の動かし方をしていた彼女が、家に入るなり狂気じみた目をし、ものすごい勢いで家を走り回り始めた。 僕は呆気に取られていたが、母の悲鳴が聞こえた瞬間、我に帰って悲鳴のした部屋に向かって走った。 すると、そこには滅多刺しにされ横たわる母と、その母の横に座り、母の首をナイフでギコギコと切断する女がいた。 僕は、悲しみよりも怒りよりも、絶望で膝から崩れ落ちてしまった。 僕が部屋に入ってきたことに気づいた彼女は、切掛けの首を乱暴に床に置いて、泣きながら僕に向かって一言発した。 「あんたの仇をとったわよ。。。」 僕は、この言葉の意味なんか考えなかった。なぜなら、それ以上に驚き、絶望感に駆られることがあったからである。先ほどまで虚で死にかけだった彼女だが、顔を合わせたときに、それが誰だかわかった。 そう、それは、小学,中学時代に可愛がってくれた叔母さんだった。 あんなに可愛がってくれた。いい人なおばさんが、意味わからないことを言いながら僕の母を殺した。 僕の治りかけていた精神は再び絶望に突き落とされた。 第三話 胸騒ぎ 今考えると、僕はこの日が訪れることを知っていたのかもしれない。 たしかに、随分前から胸騒ぎはしていたからな。。。 散々な目に遭い続けていた僕だが、母の死などの要因によって引き起こされた精神病にこれまた悩まされた。 日に日に良くはなっているのだと医師からは聞くが、僕はそうは思えなかった。 しかし、そんな僕の意見は聞き入れられることもなく、早くも退院の日は訪れた。 僕は退院した後、もう使われることのない古い屋敷に父親代わりのジムと共に引っ越した。ジムはとても器用で、持て余した巨大な屋敷の部屋達を全て綺麗に整理した。 それにジムは人柄もとても良く、僕の話し合い手となった。 そして、今日19歳を迎える僕は懲りずに再び山へと出かける。今日の山はこの周辺の住民なら知っている非常に大きな山である。 ちょうど1年ぶりの登山は1年前のものと同様、楽しみでもあったがどこか不安もあった。しかしいざ山を登り始めると、久しぶりに自然の世界ににたった1人で入り込めた楽しさや嬉しさが湧き上がってきた。 三度目の正直と言うべきなのか、今回の登山では特に悪いことは何も起きなかった。 しかし、この日の朝から感じていた胸騒ぎは、単なる思い込みや考えすぎだと言うわけではなかった。 そう、それは1日の疲れを食事と湯船で癒した後に起こった。ジムと部屋で並んだ二つのベットで話しながら寝落ちしそうになっている時だった。 楽しさと眠さでなんとも言えない感じになっていた僕の横から、 「バシャ」 と廊下を挟んだ反対側にあるトイレから、流れる音が聞こえた。 ジムも僕もこの部屋にいる状態でトイレの流れる音。。。 初めはこのボロボロな家を怖がって霊が出るなどと言う噂を立てていた子供達が入ってきたのではないかと思ったのだが、そうではないらしい。直感でわかる。これは僕にとってとても悪いことなのだと、、、 トイレのドアが「キイィ」と音を立てて空く音がした。 ジムと僕は顔を合わせながらガタガタと震えている。 ギシギシと廊下の床が軋む音が聞こえる。 "来る" 何かはわからないが、きっと僕にとっては悪いものが。 「カチャ」ドアノブに手を置く音がした。 僕は息を呑む。 少しずつ捻られていくドアノブは、僕の心臓をぐっと縮ませた。 捻り切られたドアノブはそっと部屋の中へと押されていった。 そうして、 ドアが開いた。。。 第四話 そこにいるのはだれ ドアは開いた。。。 ジムと僕は大声を上げた。なぜらならそこには実際に人がいたから。猫などの野生動物ではない、人がいたからだ。 ドアから薄暗いこの部屋に入り込んだ謎の影は、僕に視線を送りニヤリと笑うような素振りを見せた。 別に口元や目元が見えたわけではない。ドアの横から薄暗い部屋の中でも圧倒的な負の存在感を誇るその陰は、確かに笑うような気配を帯びた。 その影は決して明るくなることも近づいてくることもなかった。 しかし、僕はだんだんそれの正体に気づき始めてあることに気がついた。ジムは僕とその陰を恐れ、なるべく離れようとベッドから落ち床を伝った。 もちろん僕もその陰の状態に気がついた。 それは見覚えがあるものであった。 さっきまで薄気味悪いと思って見ていたその色のない黒い負のオーラが、次第に鮮やかな色合いでメラメラと燃える炎のように見えてきた。 燃え上がる炎の中で黒く輝きながらたった1人だっていたその陰は、、、 僕だった。 不思議と冷静だった。 その陰には見覚えがあった。それはもちろんそれが僕の形をしていたからでもあるのだが、違う見覚えがあった。僕としての見覚えではない、陰としての見覚えだった。 この陰はあの夜。あのよ道で見たものだった。 突然暗くなり何か不吉なものが産まれ瞬間に居合わせたような、自分にとっての最悪が誕生したようなそんな最悪な気分に見舞われたあの時、きっとこの陰、いや俺は誕生したのだろう。 部屋は燃え盛る炎とは対照的にどんどん寒くなっていった。 「そこにいるのはだれ」 そこには陰の俺がいる。そんなのは分かりきっている、でももっと違う気がしたこの炎はもっと違うものなのだと思った。 俺はそれを知っていて、それも俺を知っている。 それはきっと俺にとっての恐怖の象徴。 あの日の山火事だ。。 燃え盛る炎はどんどん強くなる。次第に俺やジムをも包み込むほどになった。 俺は自分が燃えることや家が燃えていくことなどどうでもよかった。 それほどまでに炎の中に見入ってしまっていた。 炎の中の陰に、、、 いや、陰だけではない。 炎の中には2つの影があった。 立っている影と、その足元で燃えている影。 そう考え、炎をじっと見続けている間も、家は朽ち果てジムは炎の中を苦しみ続けた。 炎という名の恐怖に包まれた俺は、先ほどまで自分だと思って見つめていたその陰が自分では無くなっていることに気づいた。 そして、そこにあったのは、これまで俺が否定し気付くことのなかった真実の光景だった。 燃え盛る炎の中に立つ1人の男と、その下で燃えて苦しみ続ける俺。 「俺は死んでいた。。。」 その事実に気づいた時には、嘆き苦しむジムの姿も綺麗に飾られた家の家具達も全て消えていた。 がらんとした家にあったのは炎と俺の死んだという事実だけだった。ようやく真実を知った俺は気がついた。 今日地獄が迎えに来る。 気づけば俺は地獄にいた。 辺りを見回しても一面炎でしかなかった。 しかし司会のはるか先に2人の人影が見えた、男と女だ。 2人とも見覚えがある。 女は俺が助けた。 男は俺を殺した。 2人を見つめ続け、そして2人の顔がはっきりしその時。 俺の中では一つのはっきりした感情が浮かび上がった。 これまで感じたことのなかったもの。 これまで愛に満ち溢れていた心の中 今は何もない心の中。 そこには 気づけば恨みがあった。。。 第五話 地獄の中 今考えると、俺はこの日が訪れることを知っていたのかもしれない。 恨み、屈辱、地獄で焼かれ続ける苦しみ、これらの感情は日に日に大きくなって行った。 何せ俺はこの地獄で何日も何週間も何ヶ月も過ごしているからな。 色々な負の感情が湧き上がり、拡大し続ける中で俺はとある一つの感情が台頭した。 「復讐」 俺は俺の肉体を殺した山火事の男、そして俺の心を殺したよ道の女、この2人の命を奪いたくて仕方がなかった。 俺はこの地獄の炎に焼かれ続け、苦痛を耐えているうちに、炎の先に何かが見える気がするようになった。 あの男だ。 奴は怪我も完治して呑気に廃病院で友達と肝試しをしていた。 さらに炎の中をまじまじと見つめると、あの女が檻の中で笑っているのが見えた。 にくい。。。 俺は心の底から彼らの死を望み、それが訪れればきっと地獄から消えても構わないとさえ思った。 そうして常に、朝も昼も夜もあの2人の死を願い続けた。 その結果ある日、俺は2人が死んだことを炎の中から知った。 俺が呪い殺したのだろうか。 そんなのはわからない、しかしあの2人が死んだという事実は俺をとても励ました。 しかし、あの2人を殺した後も地獄で送る日々は変わらなかった。 まだまだ俺は炎にいる。 俺は燃えながら過去を思い出した、 廃墟の屋敷を友達と肝試しに行った時だ、謎の男の霊が出ると噂の屋敷だ。 そこはそこそこの都会の果てに位置しており、多くのオカルト好きが訪れる場所だった。 そこで俺は多くの霊を見た。燃える男の霊、首のない女の霊、うめき苦しむ男の霊など、数えればキリがなかった。 そういえば、今あの屋敷はどうなっているだろうか、、、 いや、違う。 そうじゃない。 これは俺の記憶なんかじゃない。 むしろ反対だったんだ。 俺は使われない廃墟に住み着いた幽霊で、自分が死んだことも知らずに呑気に暮らしていたのだ。 ジムや家具など妄想のものに囲まれながら、かりそめの幸せの下で暮らしていたのだ。 家に入ってくる邪魔者を排除しながら。 きっとそれが地獄の閻魔様の目に留まったのだろう、彼は死神を俺の元へ派遣し、地獄へと送ったのだ。 あの夜の胸騒ぎはおこるべきして起こったものだった。 全てのあの山火事から決まっていたのだ。 俺は絶望しながらも、ようやく字母の記憶を思い出した。 それは至って平凡などこにもいそうな子供の記憶だ。 おもちゃをもらった時、友達ができた時、その友達と遊んだ時、親と遊んだ時、さらには、親が死んだ時、友達が死んだ時、そして自分が死んだ時、色々な瞬間に合わせて色々な感情が生まれる。 嬉しさ、楽しさ、悲しさ、切なさ、そして怒り、欲望、貪欲、、、 俺は今久し振りに猛烈に欲しいものが産まれた。 俺は16で死んでから何年も死んだと気付かずに生活し、そして何ヶ月も地獄で生活している。 最後に物が欲しいと感じていたのはおそらくまだ10つも歳をとっていない時だ。 しかし俺は、確かに今欲しい物があった。 俺は命が欲しかった。 第六話 命 俺は炎の中で自らに呟き続けた。 「命がほしい」 再び生きる人間として友達や家族と会い、共に楽しい時間を過ごしたい。 分かち合い、時にぶつかり合う。そんなことを待たしたい。 この地獄で炎に炙られ始めてから、おそらく10年は経っている。いつまで続くかわからない地獄の中で一つのことを思い続ける。 半狂人になりながらも命を求め耐え続けていると、幻か現実か、炎の先に細い一本道が見えた。 それが実在していることを信じて、俺は足を踏み出した。 10年振りの一歩だ。 確かにその道は実在した、しっかりと上を歩くことができて、果てない道の先にも微かな希望が見える気がした。 俺は歩いた、微かな希望を求めて歩き続けた。 それが何日も、何年もかかったとしても、行く価値が必ずあるから、俺は長い年月歩くとこを覚悟して歩いた、終わりがないとさえ思えた。 そのうちこれは全部幻で妄想しているだけなのではないかとさえ思えてきた。 それでも俺は進み続けた。 まだまだ道は続く、そう思いながら歩いていたある日、俺はいきなり道から落ちた。横に落ちた訳ではない、確かに進行方向に穴があったのだ。 その長い落下は炎の崖を伝っていくものだった。しかし、横には炎の壁があるにもかかわらずなんだか肌寒く心細い気がした。 気がつくと俺は、真よ中の学校にいた。 目の前には長い長い廊下が見えた。何が起こっているのか把握できずに混乱しながらも、何十年ぶりともなる沈黙を味わいながら、何かモヤモヤした怒りのような感情が湧き上がってきた。 "復讐"この二文字が頭の中をよぎる。 俺は命を求めて、いや、復讐を求めて廊下を進み出した。 一歩一歩、あの地獄の細い道を歩いている時のように着実と歩き出した。 しかし、次第に俺の中には焦りと早くしたという急ぐ気持ちが生まれた。 俺は、壁を伝い天井の火事の時の消化用の穴へと爪を引っ掛けた。 そして、サソリやゴキブリのごとく天井を四つ足で駆けた。 我ながら恐ろしい幽霊のようでいい気はしなかった、しかし急ぐ気持ちを抑えるためにも、この方法で廊下の奥まで走った。 そして、廊下の一番奥にある階段に到達した時、俺は求めていたものを見つけた。 そこには、肝試しか何かに来ている中学生が6人いた。 心の底から出る欲をおさえきれず、俺はケタケタと笑いながらその子供たちに降りかかった。 命を奪うのは簡単だった。 自分が簡単に奪われたからなのだか、それは予想よりもずっと簡単だった。 泣き喚く子供たちを見て俺は笑うしかなかった。 6人を殺し終わると、俺は階段の手すりを伝って物凄い勢いで階段を降り、校庭へと出た。 復讐を、そして命を、、、 俺は何も考えずに体が動くがままに子供に女、とにかく通行人を殺しまわっていった。 「もっともっともっと」 俺はがむしゃらに殺して回った。 もう何のために殺しているのかすらもわからなくなりながら、、 9...10...11... あぁ、もう何人殺したのかもわからなくなってしまったよ、、、 気づくと俺は再び地獄にいた。 あれが現実だったのか妄想だったのかはわからない、しかし、快感は体と心に確かに刻まれていた。 しかし、手を見ると手は血で真っ赤に染まっていた。 あいつらの血だろう、、、 あれは現実だったのだ、きっと強く願った俺の思いは地獄の閻魔様に届いたのだ。そうして俺に復讐をさせてくれた。 ふっ、ふはは もう、全てが笑えてきた。でも、今何も無くなった。 先ほどまでの高揚感や愉快感は全て一時的なもので、なくなってしまった。。。 冷静になって自分の手を見て、ようやく気づいた。 復讐は確かに叶ったかもしれない、、 でも、俺はもう死んでいるんだ、いくら人を殺したってその事実が変わることはなかった。 命なんて取り戻せるはずなかったんだ。。。 俺はもう何もできないのだ。 どんなに願っても命は手に入れられないから、、、 俺は絶望し、炎の中に座り込んだ。 第七話 運命 俺は泣いた。何度も何度も泣き続けたさ、 何もできずに永遠と火に炙り続けられる、そうして死をまつ。 この空間に閉じ込められた俺にはこんなにも少ない選択肢しか与えられない。 今思えば、歯車はあの山火事で狂い出してからもう止まること絶対になかったのだと思う。 あの夜、よ道で感じた謎のバチバチ音と見えてしまった謎の影、、、きっとあの瞬間、死を理解してなかった俺を地獄へと送くるための死神が生まれたのだろう。 あの女が、いや叔母さんが俺の母さんを殺したのも後からなぜかわかった。。。 俺を溺愛してくれていたおばさんは、俺の母さんが俺が登山に行くことを許したのが死んだ原因だと、母を責めていたのだ。精神的に参ってしまった叔母さんはついに母を手にかけたのだ。 俺の復讐の心と怨念は、生き霊となって夜の学校に現れ、多くの人々を殺した。 この罪は重い、きっと俺は地獄にさえもいられなくなるのだろう。。。そうしたらどこに行くのだろうか、、 さらなる地獄か、それともそれこそが本当の死なのだろうか。 俺はまだ命が欲しいと思っている。でも、これが叶わぬ願いだということはわかっている、俺は大罪を犯した。おそらく、俺はこの先何度死んで何度地獄にこようとも、罪何人の命を奪って自らに命を灯そうとするのだろう。 俺はそんな幻想を見ていたのだ。自らの死を奪い永遠に復讐のために生きながらえる幻想を、、、 そんなくだらないことで人の命を奪うなんて、、、今では考えられない。。。 でも過去の俺はこの罪を犯した。自分のことだから何となくわかる。俺はもうすぐ消えるのだ、この地獄からも。。。 運命は迫り来る。そして来る来る、、何をどうしても避けられない。俺の場合はあの山火事からもう止めることはできなくなっていた。 そんな運命の赤い炎の先にも確かなのは、夕日と海。 俺は思い出す。 まだ俺が幼い頃だ。 母さんに海に連れて行ってもらった、一日中泳いだり遊んだりして遊んでもらう。もちろん疲れて眠くなるが、楽しさが終わるのが嫌だから、帰りたくない帰りたくないと喚く。 それでも、夕日がさした時は泣きながらも帰らなければいけない。 これが運命だ。 俺はここで死ぬ。 ずっとわかっていた。炎に焼かれ始めてから、あの細い道を歩いていた時も、、、 いや、あの日の山火事で死んだ時から、わかっていたのかもしれない。。。 俺はだんだん意識が消えていく、まるであの山火事の中の時のように。 そうして俺は意識を失った。今度こそ終わりなのだと悟りながら。 そんな死の瀬戸際でも、 かすかに夕日と海で遊ぶ自分が見えた。 「愛」 この世界は腐っている。 俺はそれを正すために送り込まれてきた。 俺の正体は誰にもわからないだろうが、ここで俺の奇妙な体験を語っておきたいのだ。 俺は人々の闇を見ることができる。闇は人の中でどんどん成長していく、その闇を抑えることのできる人間は少ない。 それが問題なんだ。 俺が初めてこの人間界に行った場所には、闇を持っていない人はいなかったさ。 人間は闇に溢れている。 ある日、俺は人間の言う警察たるものに捕まってしまった。 いまから事情聴取なるものが始まるらしい。 「単刀直入にとう。なぜやった?」 警察は人間たちの中では正義のヒーローらしい。それなのになぜ、悪を成敗するという模範的正義の働きをする俺を捕まえるのだろう。。。 「あんたらと同じく、闇を消し去ったのみだ。」 「やっぱそれかよ、、、ずっと闇を消したの一点張りだと聞いていたのだが、、、」 警察はすこし困ったような、呆れたような顔をした。 「本当に、どうすればいいんだかな〜」 人間界では、闇を持つものをすぐに消すのではなく刑務所というところに入れて、行った悪行に応じて裁きを与えるらしいのだが、なぜか彼らは私もそこに入れたのだ。 窮屈で退屈で臭くてつまんなくて、、、最悪の空間だった。裁きに適していると言えるだろう。 しかしながら、私には到底説明がつかないような奇妙なことに気がついた。 囚人と呼ばれる罪人たちに、闇を持つものが1人もいなかった。 しかもだ、裁いている警察達が全員闇を持っているのだ。。。 わけがわからない。ここの刑務所だけが可笑しいのだろうか、それとも人間界がおかしいのだろうか、 まぁ何がなんであろうと排除するほかない。。。 刑務所での出来事を終え、前の様に出会い次第闇を持つものを排除する生活を再開した。 そんなある日、殲滅教と呼ばれる団体にあった。 彼らは俺と同じ境遇にいた。 彼らは、闇を抱えた人間達に救いの手を差し伸べ、闇を滅ぼし仲間として迎えることを使命と考えており、神からのお告げとして遵守していた。 初めこそは排除せずに救おうとすることに違和感を感じていたが、話していくうちに彼らの考えに納得し、強く共感するようになった。 人間は全員おかしいわけではなかったのだな。 初めてそう思うことができたのである。 あぁ、騙されたよ。。。 殲滅教は詐欺団体だ。救うというのは全てデタラメだった。彼らの本拠地に行った時だ。 おれは全員が集まる部屋にはいる前から、なんだか違和感は感じていた。なんだかあやしいとな。 しかしその部屋に入った途端その予感は確信へと変わった。それも恐ろしいほどの確信へと。 そう、なぜだか殲滅教のメンバーは、全員が闇を抱えているのだ。 本当に意味がわからない。しかし、これで確信することができた。人間は間違っている。もう2度と信じてはならないと。。。 「排除だ」 人間のことを知れば知るほど、愚かな生き物だとわかる。 人間は暗黙のルールとして、強い闇を持つもの同士でないと、子孫繁栄をしてはならないらしい。 こんな極悪非道な民族があるだろうか。 しかも、人間史の中で、マザーテレサと言うものが出てきた。彼女は闇を救いと考え、人々に闇を良いものと教え、抱くべきと導いたのだ。 そんな極悪人でさえも人々はたたえ、後世へと語り継いで行った。 もう、本当に馬鹿馬鹿しすぎる、、、 ここまできたら、闇を持つものを全員排除するほかない。 さようなら人間、、、 愚かな生物よ。。。 闇を持つものを全て排除した。素晴らしいことをした。これで人間達、、いや地球は救われた。そのはずなのに、人間は破滅に向かっていってしまった。 もう訳がわかんない。。。 先ほど俺の目の前で最後の人間が、、いや、闇が葬られた。闇を持つ、、つまり悪人であった彼女は死ぬ直前まで何やら男の名前を叫んでいた。 どうせ、極悪非道な下等生物の叫びだと、おれは聞く耳を持たなかった。しかしながら、彼女が最後の最後に叫んだ一文が、頭の中をなん度も反復していた。 「私は死んでも、、あなたのことを、愛しているからね、、、」 人間を救う担当に抜擢された俺は、その救うべき人間達を滅ぼしてしまった。 これは、もちろん仕事即首だ。それどころか、一族滅亡加担罪で死刑判決が出る可能性さえあるのだ、、、 もう、困惑でしかない。。。 あの女の言葉を考えているうちにようやっと理解した。 俺になされた命令は闇を排除することだった。 しかし、俺は思い違いをしていたのだ。 そのけすべき闇は人間にとっての闇のことであり、俺にとっての闇ではなかったのだ。 こんな簡単なことだったのに、俺は思い違いをしていたせいで、いま全てを失いそうになっている。 しかもだ、よりによって俺にとっての闇、すなわち俺が殺した人間達の持つ心は、、、 人間にとって一番大事なものだったのだ。 人間が生きていく上で多ければ多いほど幸福になるもの。 俺は愛を持つ人間を殺し続けていたのだよ。。。 人間が滅びて無理もない。 あの女は死の淵でも愛を叫んでいた。もう、本当に意味がわからないよ。 まぁ、構わないさ、もとよりどうでも良くなっていた人生だからな。愛なんてくだらない、、、 はぁ、 愛は2度も俺を貶めたのだな。。。 あとがき 黒鼠シラです。 最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。 この文を書いているのは、この短編集を完成させてから1年ほど後になってます。収録作品によっては2年前に作ったものもあります。そのためかなり至らないものが多かったと思います。 リメイクしようにもあまりモチベーションがないので、至らない点の改善は次回作(短編集)でしたいと思います。 次回作 短編集「number 6」 2025年10月1日公開予定 こちらも本作同様に作品掲載の順番や、内容などかなりこだわって作ってますので、是非是非ご覧ください。 それでは、改めまして最後までありがとうございました。
第7回 最終決戦結果発表
ついに第7回N-1の優勝者が決まりました。 今回の大会は、前回に引き続き1人も辞退者がいませんでした。 第5回,第6回大会王者も参加する中、トップが決まりましたので報告します。 では早速第3位、第1位、第2位の順番で発表します。 ※敬称略 第3位は…… EN.8 花瀬詩雨 492点 です! 史上初の3度目の決勝進出を果たしましたが、惜しくも敗れてしまいました。今回もすごく面白かったです! 第1位、優勝者は…… EN.15 ひるがお 531点 です! 初参加からの優勝おめでとうございます! 2作とも本当に面白かったです! 第2位は…… EN.1 ot 513店 です! 準優勝おめでとうございます! 前回に引き続き文章力や表現がピカイチで圧倒的でした! 2大会連続準優勝と惜しい結果になってしまいましたが、個人得点としては歴代最高得点と並ぶ点をつけさせてもらうほど面白かったです! では、そんな感じで第7回大会は終了となりました。 初代王者 美水小春 2代王者 ピリカ 3代王者 史 4代王者 有陽へいか 5代王者 花瀬詩雨 6代王者 七宮叶歌 につづいて7代目王者となったのは「ひるがお」でした! 本当におめでとうございます! それでは、次回第8回大会で会いましょう! 本当に参加者の皆様はお疲れ様でした!ぜひ次回も参加お願いします! 審査員の方も約1ヶ月間本当にありがとうございました!そしてお疲れ様でした! 第8回N-1グランプリの投稿予定日は、2025年12月1日です! ではまた!以上黒鼠シラでした! 各審査員の点数 「ひるがお」 黒鼠シラ 94点 つきみ 83点 「ot」 黒鼠シラ 97点 つきみ 74点 「花瀬詩雨」 黒鼠シラ 83点 つきみ 81点
第7回 一回戦結果発表
一回戦が終わりましたので、まずはその結果発表をしていきたいとおもいます。 第3位、第2位、第1位、の順番で発表し、その後に一気に下位を発表します。 今回はいつにも増しての高いレベルの大会となりました。正直審査はものすごくむずかしく、決勝進出の3枠に入れるレベルの人が5人以上いました。なので決勝進出が叶わずここで落ちてしまった方も、自信を無くさずに頑張ってください。リベンジしたいと思ったら、12月に第8回大会を開催しますので、是非是非参加してください。 ※敬称略 一回戦第3位は、、、 EN.1 ot 498点 です! 前回に引き続き決勝進出となりました。2大会連続での決勝戦は相当難しいことなので、この勢いのまま優勝目指して頑張ってください! 一回戦第2位は、、、 EN.8 花瀬詩雨 510点 です! 5代目王者が史上初の3度目の決勝進出となりました。王者の決勝進出も第5回大会での史さん以来2度目の快挙です! 史上初のV2目指して頑張ってください! それでは、最終決戦へ進める最後の1人、 一回戦第1位です、、、 EN.15 ひるがお 534点 です! 初出場にして点差をつけての1位通過となりました!打倒優勝候補で引き続き頑張ってください! それでは、その他の順位です。 第4位 EN.2 七宮叶歌 495点 第5位 EN.14 Tentomushi 486点 第6位 EN.7 ゆるる 483点 第7位 EN.9 紫陽花 477点 第8位 EN.5 実々 468点 第9位 EN.11 叶夢衣緒。 450点 第11位 EN.10 山田ヤマダ 438点 EN.13 塩田ナナシノ 438点 第12位 EN.4 後川 435点 第13位 EN.6 レイン 423点 第14位 EN.12 星降夜 318点 みなさま本当に色々な種類の面白い話をかいていて、読んでいてとても楽しかったです! 何度も言いますが、今回は本当に高レベルですので、どうか自信だけは無くさないでください。 それでは、最終決戦への案内です。 ルールは一回戦とほとんど変わりません。 ・お題に関して お題は、「昭和な博士」「右折」「1906年」です。 この中から1つを選んで話を書いてください。お題がわからないほどでなければ逸れても大丈夫です。 ・締切やタイトルに関して 締切は、8月21日24時までです。なるべく早くの投稿をよろしくお願いします。 また、タイトルの前に必ず「第7回N1決勝」と書いて投稿してください。(検索で出てくるようにするためなので、一文字一句完コピお願いします。) ※募集機能は決勝では使いません といった感じです。 審査に関しては1回戦と全く変わらないので、引き続きよろしくお願いします。 それでは、頑張ってください! 各審査員の点数 EN.1 黒鼠 92点 つきみ 74点 EN.2 黒鼠 88点 つきみ 77点 EN.4 黒鼠 69点 つきみ 76点 EN.5 黒鼠 80点 つきみ 76点 EN.6 黒鼠 66点 つきみ 75点 EN.7 黒鼠 86点 つきみ 75点 EN.8 黒鼠 89点 つきみ 81点 EN.9 黒鼠 81点 つきみ 78点 EN.10 黒鼠 67点 つきみ 79点 EN.11 黒鼠 70点 つきみ 80点 EN.12 黒鼠 30点 つきみ 76点 EN.13 黒鼠 71点 つきみ 75点 EN.14 黒鼠 88点 つきみ 74点 EN.15 黒鼠 93点 つきみ 85点 想像とかけ離れた点数で内訳が気になる方がいましたら、コメントで聞いていただければ答えられると思います。 (あまり説明等が得意ではないのでわかりづらくなってしまうかもしれないです)
第7回 小説で競って1番決めませんか?
本日より第7回N-1グランプリを開催いたします。 【N-1グランプリについて】 N-1グランプリは、 一回戦と決勝戦の2部構成となっており、お題に沿って書いて頂いた小説を審査員が審査し、一番面白いものを決める大会となっております。 決勝戦に進めるのは上位3名のみとなりますので、まずは一回戦を勝ち残れるように頑張ってください。 【参加者募集に関して】 (※審査員希望者)と出場希望者を募集します。 参加方法は、この投稿にいいねをして、コメント欄に希望する参加方法を書くことです。(審査員希望,出場希望のどちらかわかるように書くこと。) コメントに主催者のいいねがつき次第参加となります。 審査員はMAX5人までです。また、今回から希望するにあたって資格を設けましたので、それを満たしていない方は出場希望を推奨しております。 参加締め切りは8月14日までとなりますので、お早めに参加お願いいたします。 ノベリーの現機能的につぶやきがフォロワーにしか行き届かないので、どんどん宣伝してもらえると助かります。 ※審査員希望をするには以下の資格のどれかしら1つ以上を満たしている必要があります。 ・N-1グランプリで1回以上審査員を行ったことがある ・N-1グランプリに3回以上出場したことがある ・N-1グランプリの最終決戦(決勝戦)に1回以上進出したことがある それでは参加表明をコメント欄にされた方からこの先の詳細を読んでください。 【出場希望者】 現在14名 (敬称略) EN.1 ot EN.2 七宮叶歌 EN.4 後川 EN.5 実々 EN.6 レイン EN.7 ゆるる EN.8 花瀬詩雨 EN.9 紫陽花 EN.10 山田ヤマダ EN.11 叶夢衣緒。 EN.12 星降夜 EN.13 塩田ナナシノ EN.14 Tentomushi EN.15 ひるがお 【審査員希望者】 現在1名 (敬称略) EN.3 つきみ +黒鼠シラ 【大会概要】 ・文字数に関して 文字数は5000字までです。オーバーすると、10文字につき1点を合計点から引かせていただきます。 ・お題に関して お題は、「戦争」「白い喪服」「おもい違い」の3つから1つ選んで作品を描いてください。お題がわからないほどでなければ逸れても大丈夫です。 ・締切やタイトルに関して 締切は、今日から8月14日24時までです。なるべく早くの投稿をよろしくお願いします。(15日には結果発表と決勝戦に関する投稿をします。) また、タイトルの前に「第7回N1」と書いて投稿してください。また可能な方はハッシュタグ機能の方で#N7と書いていただけると助かります。(全て半角) ・募集機能の活用に関して 今回の大会から、これまでになかった新機能の活用をしたいと思います。とはいえ、急な導入でまだ使い方もわからない方もいるかもしれませんので、募集の方にも作ってはおきますが、そこに投稿せずに今まで通りの形で投稿しても構いません。 募集機能に投稿するにしても、今まで通りに投稿するとしても、条件は同じです。投稿後の報告、タイトル前の記入事項等は全て守ってください。 ・その他 無断無投稿はやめてください(次の大会を出禁にします) 投稿後の加筆や修正はお控えください。審査員が大変になってしまいます。(バグ等の不具合の修正の場合は、私に詳細を報告した後であれば修正して結構です) 日本語以外の言語での参加はやめてください。ノベリーの仕様上読みずらいのと、審査員が読めない場合があるため。 投稿したらここのコメント欄にコメントお願いします。 一回戦上位3名は最終決戦へ進出し、もう一つ作品を描いていただきます。最後までお付き合いいただけない方は参加をお控えください。 その他質問や要望がありましたら、ここのコメント欄にお願いします。 【重要】 殿堂入りに関して。 今回より新たに殿堂入りシステムを導入いたします。殿堂入りする条件は以下の通りです。 ・N-1グランプリを2連覇すること ・N-1グランプリを2回優勝すること+その4つの小説の中で1回以上得点560点以上を獲得すること ・N-1グランプリを歴代最高得点(582点)を更新した上で優勝すること これらのうちいずれか1つ以上を達成すると殿堂入りできます。 殿堂入りを達成すると以下のことが起こります。 ・N-1グランプリの出場資格を失う(審査員としての参加は可能) ・黒鼠シラが、殿堂入り達成以降に投稿されたすべての小説(連載は除く)を拝読した上で、いいね、コメントをする。(してほしくない等の要望があればお応えします) ・殿堂入り後のN-1グランプリのすべての大会にて、募集投稿の最後に自身の小説を1つ紹介する文を載せられる。(N-1グランプリの募集投稿はかなり閲覧されますので宣伝効果は大きいかと思われるため) 1つ目を除いたものは希望制となりますので、嫌であればなしでも大丈夫です。 条件はかなり難しいですが、是非殿堂入りを目指して頑張ってください。 【審査に関して】 審査員はもちろん、出場者の方も読んでください。 審査員は一人100点満点で評価してください。それを集計し、これまでの大会に合わせるために全審査員の合計点の平均を取り、残りの空きの人数の点数として加算します。 今回からいいね点は廃止に致しますので、6人の審査員の600点満点での審査となります。 採点基準は、 49点以下 面白くない 60点 面白い 80点 非常に面白い 90点 プロ並みに面白い 100点 これまで読んだ作品で最も面白い 面白いという単語を基準に使ってはいますが、技術的なものなど、様々な観点での審査をお願いします。 という感じです。審査員の方は、必ず14日までに審査結果の方をここのコメントにしてください。 名前を書くのは面倒だと思いますので、エントリーナンバーで描いてください。(くれぐれも間違えないように) 以上が説明になります。 基本的には辞退や未提出は認めていないので、よろしくお願いします。 ※最後まで読まれた方は、合図としてハッシュタグから"#最後まで読んだらいいね"に飛んでいただき、そこにある「N-1グランプリの歴史」いう投稿にいいねをしてください。 すでにいいねされている方は一度いいねを外したのちに再度いいねをお願いします。(通知に残すためです。) それでは面白い作品を期待しています。頑張ってください。
歪んだ愛
私は奴らが好きだ。失敗や挫折を繰り返し、成長していく様を身近で見るのは私の親心をくすぐった。 しかし、だんだん奴らの私への態度は変わっていった。きっと奴らは無意識なのだろうが、私からしたらいじめを受けているようだった。奴らは私の体では耐えられないことをした。これにより私は体調を崩した。高熱と埃まみれで汚れた体。これは私の心身を蝕むには充分だった。 それでも尚、私は奴らが好きで、このような行為をあらためさせたいと思った。そこでついにやり返す事にした。 冷たい水をかけたり家に火をつけたりする私の行為は何人かに大怪我を負わせた。それでも続けた。なぜなら私は、歪んでいたとしても奴らに愛を抱いていたからだ。 しかしそれでも奴らは治らなかった。癌の如く私を蝕み続けた。そしてついに私は覚悟を決め、死人が出るかもしれない、大きな行動を起こす事にした。 私の行為は家々を壊し、火災を起こし、大きな波を呼ぶだろう。しかしここまでしないと人類は母なる大地のありがたみに気づかない。私の上に住んでいく以上、奴らは私の癌であり続けるわけにはいかない。 私を、母なる大地を、地球を、大事にしてほしい。
King of Novelee 結果発表
お試し企画と言いつつ、途中で投稿を消してしまった方を含め13人という想像以上の方々に参加していただけました。ご参加くださった皆様、本当にありがとうございます。 この投稿は、募集の方にも書いてあったようにTOP3の発表をするために出します。そのため、その下の順位は公開いたしません。 それでは早速結果発表に移ります。 ※募集の方でも書きましたが、評価は黒鼠シラ1人によって行われているため、多少の偏りや不満点が生じる場合がありますが、あくまでも小規模企画ですのでご了承お願いします。 それでは、3-2-1の順番で発表します。 第3位は、、、 「止まないノイズ」の七宮叶歌さんです! おめでとうございます! 第2位は、、、 「飛ぶ」のKさんです! おめでとうございます! 第1位は、、、 「Dignity」のotさんです! 優勝おめでとうございます! というわけで、今回の優勝はotさんとなりました。 想像以上の人数が参加してくださった上に、想像以上にレベルが高かったのですごく満足です。 約1週間、企画に付き合ってくださりありがとうございました。 8月1日より「第7回N-1グランプリ」を開催いたしますので、是非そちらも引き続きご参加お願いします。 King of Noveleeは今後も不定期で行っていきたいと思います。予告等はございませんので、参加したい方は是非フォローしてつぶやきを見れるようにしてください! それでは、8月1日にN-1で会いましょう
"弾痕と失われた命" 世界がいかにして救世主を必要としたのか。
私の眼前を弾丸が通った。 普通の状況であれば信じられないだろう。というか驚愕から腰を抜かしてしまうかもしれない。しかし、現状は普通とは程遠かった。 通常なら、不幸中の幸いで弾に当たって死ぬことがなかったと喜ぶかもしれないが、私はそうではなかった。私はそもそも弾丸が放たれたことに喜びを覚えたのであった。話すと長くなってしまうので割愛するが、弾丸が放たれていなければ、この無秩序な社会において私は甲羅のない亀も同然だっただろう。暴徒化した民衆にどんな卑劣なことをされたことだろう。しかし、弾丸が放たれたことでそれは回避された。 やはり私は正しかった。あの正義感に満ちた偽善者であれば、躊躇せずに弾を放てるだろうと踏んでいた。どんなに心が黒く染まった奴でも、人間社会で無双する大男でも、この行動はできなかっただろう。だからこそ私は裏をかいた。"紅の弾丸"を"精神の銃"に装填して、ただの自分が大好きな小娘に手渡した。そして大いなる報酬と目的をちらつかせて彼女の正義感を煽った。その結果、この通りになった。状況はわからないが彼女は時間通りに、いや、時間よりも前に"引き金を引いた"。 汚職や襲撃事件の連発により崩壊した政府は、もはや世界の統治など眼中にはなかった。とにかく生き残りたいという意志が見受けられるのみだった。世界平和に命を捧げた公務員たちは、世界を捨てて自らの命を選んだ。その結果、世界の暴徒化はより一層極まり、もはや修復不可能な地点にまで到達してしまったのである。 そこで私は、長年研究していた人間の本質に関する事柄についての論文をまとめ、自分の経営する武器製造会社へと向かった。そうしてそこで社員全員、いや、生き残っていた社員全員と言うべきだろうが、まぁとにかく集まった社員たちに向けてスピーチをした。 内容を要約するとこんな感じになる。 一度無秩序な社会が定着してしまった時、人々は平和な方法では秩序を取り戻せない。それはいつの時代も共通することだった。大量の人死がでるのにも関わらず、腐敗した国を立ち直すために革命をおこなってきた。これこそがこの意見を裏付けている。そして今、私たちが直面している現状こそが、歴史に習う限り革命を必要とする事態なのだと私は考える。しかし、これまでの様な新たな国の統治を目指した革命はもはや意味を持たない。国民は政府を打倒するために暴徒化したわけではないからだ。もっと言うと、国民が団結していたわけではなかったからである。こんな状況で必要なのは、圧倒的な恐怖。第二次大戦でいう原子爆弾である。そこで私は、この会社で開発した"不停止の弾丸"を使うことはできないだろうかと考えた。この弾丸は放たれれば永遠に止まることはなく、加速しながら地球を回り続ける。この恐怖の殺人兵器を駆使すれば、民衆を落ち着かせたのちに、恐怖による支配を主体とした、新たな世界を作ることができると考える。恐怖主義とでも言おうか。これらのことを踏まえて、私はみんなに力を貸してほしい。この方法で共に世界を変えたいのだ。 私たちは狙撃手(偽善者)に正確な座標を指示したのちに、国民に対して宣戦布告を行った。いや、殺害予告という方が正しいだろう。 だが、当然ではあるものの人々は私の話は全く信じずに、生意気な態度に腹を立てた。そうしてひどく怒り私たちに襲いかかってこようとした。だからこそ私は弾丸が目の前に迫った男の頭に風穴を開けて行った時、ひどく喜んだのである。 この計画はまさに殺人だ。いや、もはや死者数のレベルを考えればテロに等しい。恐怖による支配はできる。今起こったことは大衆にとって恐怖でしかなく、先ほどの私への嘲笑と怒りは恐怖へと昇華されて行く。今私が隕石が降ってくると言えばみんなは信じるだろう。それほどに恐怖主義は恐ろしく簡単で単純なものなのだ。 この計画は支配を可能にするかもしれないが、放たれた弾丸はなんの意味も持たずに人を殺しながら進み続けることになってしまう。だから私はその弾丸の生み出すエネルギーの有効利用についてもしっかりと考えておいていた。弾痕と失われた命は、今後の世界へと確実に繋がっていく。 崩壊してしまった秩序を戻すためには、血が流れることは避けられない。1番悪いのはなにも試さずにただ諦めて終末の世界を生きていくことだ。だからこそ、試すだけでも褒められるようなことなのにも関わらずほとんど成功まで運んでしまった私たちは、人類史に名を残す英雄になるだろう。 私は、いや、引き金を引いた彼女は、このようにして世界を救うことができたのであった。
Impact 7
ノア・イヴェルトはこんな言葉を残した。 【人間とは貪欲であり、冷静でなく、なにより自己中心的である。】 欲しいものが手に入ればもっと高みを求めたくなる"貪欲" 生きるか死ぬかなどの本当に大事な時には焦って誤った判断をしてしまう"非冷静" 本当に求めるもののためなら他人のことなどどうでもいい"自己中心的" 2025年現在でも当てはまる、いわば人類の性。このような事実は時代を超えて語られることなのである。それをノア・イヴェルトは証明した。 ノアが産まれたのは、はるか1500年以上前の西暦519年。幼い頃から人間の本質について考え言葉にすることができる天才で、親や周囲の人間は彼のことを揶揄い半分に「小さなソクラテス」と呼んだ。 彼の考え方や言葉遣いは年齢を重ねるごとに巧みになっていき、周囲の人間を魅了するようになっていった。 齢が10を迎えた頃には早くも哲学者として大人達から評価されるようになっていた。さらに彼は、幼き天才哲学者としての地位を不動なものとするべく【人類不共存論】という本を書き上げた。冒頭の言葉はこの本からの抜粋である。人間というものの愚かさを語ったこの著書は世界的に有名になった。 しかし、人々はノア・イヴェルトという男の名を聞いた時、哲学者という言葉よりも先にとある言葉が出てくる。 "預言者"である。 彼は、彼を神と崇める宗教が流行るほどに預言に優れていた。些細なことから重要なことなど、様々な種類の予言を的中させてみせた。 絶対に当たる預言者として世界的に有名になった彼は、晩年である西暦540年まで幾千もの預言書を書き綴り続けた。 しかしながら預言者である次に、彼は性格の悪さでも有名であり、それゆえに彼の預言書の多くは非常に難解なのであった。それは彼の最も有名な預言にも言えることだった。 【7 Impacts (セブンインパクツ)】 現在まで一度も外されることのなかった絶対的かつ絶望的な預言。歴史上起こってきた最悪の出来事を予言しており、その信憑性は異常なまでに高い。 さらに皮肉にもこの預言こそが最も難解なものであり、今だに解明されていない部分が多くある。そして解明されてなくともわかるほどに確実性のある預言だった。 そんな預言の内容はこうだ。 【 Impact 1 541−750 解明不可能文字 Impact 2 1331−1855 解明不可能文字 Impact 3 1855−1960 解明不可能文字 Impact 4 1914−1918 解明不可能文字 Impact 5 1939−1945 解明不可能文字 Impact 6 2020−2022 解明不可能文字 Impact 7 2025− この文はすべて事実で、近い将来起こるであろう、愚かな人類への復讐だ。 空はいつまでも青く、 我々に落ちてくることはない。 それでも愚かな人類は息絶える、 それも最も皮肉な方法で。 この為、私はこの世で最も重い罪を犯した。】 この預言書には2種類の文字が使用されており、後半のみ解読に成功している。 ここに記された7つの預言には解明不可能な文字が利用されており、おそらく出来事の起きる年と期間であろう数字がわかるのみである。しかし、これらの数字はすべて実際に悲劇の起きた時代を指し示しており、全ての預言が当たっていることになる。 そんな外れることのない預言者を見た人類は、一つの疑問に当たった。 Impact 7(インパクトセブン)である。 この預言には、悲劇がはじまる年である2025年は書かれているものの、終わる年の記載がないのである。これは単なる書き忘れなどではなく、2025年にはじまる悲劇に終わりがないことを示しているのではないかと考えられた。 終わることのない悲劇……人類の終末。 次第に人々は2025年に訪れるImpact 7によって人類は滅ぶのではないかと考えるようになっていき、対策をとる者まで現れ始めるのであった。 【バヂス・デフリッソン】 「Impact 1 ペスト第1のパンデミック Impact 2 ペスト第2のパンデミック Impact 3 ペスト第3のパンデミック Impact 4 第1次世界大戦 Impact 5 第2次世界大戦 Impact 6 コビット19のパンデミック そしてImpact 7 は人類の終末…か」 「にわかに信じがたいけど、1500年前からある有名な預言だもんね……」 「あぁ、世界大戦どころか、人類が直接巻き起こしたわけでもないことまで当ててるからな」 「信じざるおえないのかな」 「残念だけど、今年で世界が終わるのは絶対だろうな。そうなると俺らにできるのは対策だけだ」 「お金はあるのよ、私たちはともかく、何があっても子供達だけは生き残らせましょう」 「しかし、子供達だけが生き残ったところで荒廃した世界しか待ってないんだぞ?」 「じゃあなに?自分の子供達を救わないの?死ぬのが決まってるのに大丈夫だよって言い聞かせるの?」 「ちがう、家族、近所、この街の人、みんなを救う」 預言のことは聞いていた。 いや、聞いたことがない人なんていないだろう、それほどに有名で影響力をもつ預言だったからな。 自分たちが長い歴史の中に生きていると、西暦の数字が刻まれるたびにそう感じられた。 歴史が好きな俺にとってそれは嬉しく、なんだか不思議な気持ちにさせるものだった。しかし、2025年が近づくにつれ、次第にその気持ちは薄れていき、ついには恐怖心だけが残るようになった。 誰もが信じたくなかった、真っ当に受け入れたくなかった、そんなImpact 7はついに今年である。 どのように滅亡するかはわからない。 翻訳どうこうの前に、そもそもImpact 7の下にはなにも書かれていなかった。 各国の首相は滅亡を恐れてか、これまで強気に出ていた相手国等にもあまり介入しない体制をとっている。そのため、戦争による滅亡は考えがたい。 しかしながら、この状況を逆手にとって逆に戦争を始めるずる賢い国もあるかもしれない、そうなると滅亡方法は本当に見当がつかない。しかし今のところ有力なのは、この頃大雨や地震が多発していることから、何かしらの自然現象での滅亡であり、人々はその対策を取る必要がある。 俺は社長である。 24歳で大学をでて、直後に2万ドルを元手に会社を起業。最初は業績が伸びずに倒産寸前を何度も経験していたが、現在の妻であるジェスに社長の座を譲り、自分は下部で直接指揮を取り本格的に事業に関与し始めた結果、業績は飛躍的に伸び始め、俺が30になる頃には世界有数の大企業となっていた。 このため、俺はたんまりと財産を蓄えている。この時に備えて、この小さな街の住人全員が生き残れるほどの巨大なシェルターを作り、大量の食料を蓄えた。 すべてはなるべく多くの人間を生き残らせて、新しくはじまる世界をより良いものにするため……。 【ノーマン・ケドコイル】 2025年に人類が滅ぶ。なんども聞いてきた一節だが、ここまで身近に迫るともはや恐怖感もない。自分の死なんてどうでもよく感じてくる、しかし、妻子の死はどうでもよくなんかなかった。だから必然的に俺にも生き残る方法を模索する必要性がある。 「あなた、金具、持ってきたよ」 「ありがとう、そこ置いといてくれ」 そこで私はシェルターの必要性に気がついた。シェルターはシェルターでも核シェルターだ。これがあれば大きな温度差や衝撃にも耐えられる。妻や子供どころか私さえも生き残ることができる。 「あと、マイナスドライバーたのむ、でかいやつだ」 「はい、すぐ持ってくる、それと水飲む?」 「氷水作っといてくれ、後で飲むから」 核シェルターがあれば全てが丸く収まる。すべてにおいて最も効率的で安全なのである。しかし、ひとつ問題点があるとすれば、それは価格だ。現状終末に耐えうる核シェルターは何十万ドルもする。なんなら需要が増し高騰している今となっては何百万ドルあっても買えないほどだ。 「鉄板押さえてて」 「はい、こう?」 「もうちょっと強く」 「こう?」 「おし、今度は反対側行くぞ」 だから私は自作することにした。世界でいちばん頑丈な核シェルターを。 猶予がどれほどあるかはわからない、だからこそ慎重かつ迅速に作らなければならない。これは一種のチキンレース的なものだ。はやく完成させて中に入れば、いつくるかわからない大災害を恐れながら生きる心配がなくなる。しかし、あまりにも時短のために作業をおろそかにして仕舞えば……、逃げた先に待つのは死だ。 「今日はここまでだ」 「はい、水机に置いといたから」 「わかったよ、夕飯早めに頼む、明日は早く起きてカロライナのホームセンターいくから」 正直だいぶ焦ってるし、早く完成させたい。それゆえに作業はおろそかになりつつある。 それもそのはずだ。日付はすでに4月25日であり、はやくも夏が迫っている。来年の夏に家族で過ごすためにも、私はがんばらなくてはならない。 【バヂス・デフリッソン】 「みなさん、係員の指示に従って動いてください、遅かれ早かれ全員入れますから」 「非常時ですので今こそ冷静にお願いします」 避難はなるべく早い方がいい。いつくるかもわからない大災害に怯えて生きるのは嫌だからな。 「あなた、こんな人数入るの?」 妻のジェスは初めから街の人々を救うことには乗り気でなかった。その証拠に一度たりとも協力してくれなかった。 「ジェシー、大丈夫だから、荒廃した世界に生きているのが俺たちだけだったら寂しいだろ?それに子供達の世代で人類は朽ちてしまうことになる。近親相姦するわけにもいかないからな」 こうやっていってもやはりジェスは不機嫌そうな顔をしている。 「いいわよ、私たち家族さえ生き残れれば。法も秩序もないような終末後の世界がいいわけないじゃない」 彼女の俺を見る怪訝な目はますます強張ってゆく。まぁ、たしかに彼女の言うことも一理あるからな。 「気持ちはわかるが、法や秩序は作ることができても、そう簡単に大量の命は作ることができない。だからこうしないとだめなんだよ」 彼女の目つきは変わらない。変わらないどころかさらに機嫌を損ねたようで黙ってどこかへいってしまった。 そんな、夫婦関係もあまりうまくいかなくなってきた頃、事件は起きた。 「速報です。カリフォルニア州各地で起きた暴動は、死者500人、怪我人2000人とどんどん被害を出しております。発生要因はやはりImpact 7であると推測されております。シェルターを自力で手に入れられない人々が暴徒化したものと考えられております。続報入り次第お知らせします」 たしかに考えてみれば当たり前だ。 人類は滅ぶと分かっていても何もできない人間が一定数いる。家族どころか自分も救うことのできない人間が。そんな彼らが暴動を起こすことは容易に考えられる。むしろ予想していなかった政府の方がおかしいと言える。 しかも、この状況はうちの国だけで起きているわけではない。他国籍の知人の情報によると、各国でこの暴動は起きている。とくに発展途上国では過激で、テロ組織が政府役人を殺傷する事件も起こっている。 暴動による総合死者数はすでに1万を容易に超えているだろう。 俺が早期に避難開始をした理由はこれでもある。暴動がおきると、助かるはずだった命が助からなくなってしまう可能性がある、だから早めに避難を完了させて、危ない人間をシェルター内から隔離する。これにより避難生活が長期化した場合でのシェルター内での食糧争い等も避けれる確率が上がる。 「エマ、リタ、ジェシー、お前達は俺の命に変えてでも守るからな。約束する。」 【ノーマン・ケドコイル】 「だからバカバカしいんだよ!」 「教育を受けてないのか?それとも私たち家族を皆殺しにしたいのか?」 「ちがう、ペラペラな預言書1枚を信じてそんなに必死に対策するのがバカみたいなのよ」 なぜだ、シェルターの完成は近かった。全てが計画通りに進んでおり、このままいけば来週にはシェルター内での生活を始められるほどだった。それなのに… 「とにかく私はこんなバカバカしいことにはもううんざりなの」 「ふざけるな、私は至って真剣なんだよ、なんでそれがわからないんだ」 妻はImpact 7を一切信じていなかった。核シェルターを作り生き残ろうとすることをバカバカしいと否定した。夫の私がここまでら真剣に作っているというのに、彼女はカルト宗教に騙されるバカな人間を嘲笑うかのように私を見ていたのだ。 「なんでだ、世界大戦どころか、人為的でないウイルスのパンデミックまで細かく当てた預言なんだぞ?信じるに足る理由は充分あるんだぞ?なのになんで……」 「とにかくあなたなんかといたらリアムまでおかしくなっちゃう。生き残りたいなら1人でシェルターに入ればいい。私はリアムと出ていくから。」 妻のこの、怒ると突拍子もないことを言う癖は若い頃からわかってた。でもここまでとは……。 「自分が何言ってんのか分かってるのか?リアムをおかしくするどころか、お前は殺そうとしてるんだぞ?」 私はてっきり妻も多少は協力する気があると思っていた。でも違った、彼女はこの期に及んで息子を連れて出ていくと言い出した、いくら妻でも信じがたいし許し難い。 「バカな預言を信じて家族の時間を犠牲にしてでもシェルターを作っていたのよ?それも何ヶ月も毎日」 「それは今後みんなが生きていけるようにするために必要な犠牲なんだよ、なんでこんなこともわからないんだ」 「よくもこき使ってくれたわね、絶対に許さない。」 彼女はおかしくなってしまったのかもしれない。いや、きっとそうだ。預言が恐ろしく仕方がないんだ、だから現実逃避してるんだ。 仕方がないよ、そりぁ私だって怖いさ、でも向き合って生き残る策を考えてる。それなのに、あの女は…… 【バヂス・デフリッソン】 「街の人は全員入ったわ、完全封鎖準備にとりかかりましょ」 ジェスはまっすぐな瞳を俺に向けてそう言った。真っ当で濁りのない綺麗な目で。 「何言ってるんだ?まだこのシェルターには100人分の場所と120人分の食糧が余ってるんだぞ?少なくとも100人、押し込めば120人も入れる。まだ閉めるわけにはいかない。」 救える命は全て救う。 そうしないと終末後の世界で生きていくことはできない。自分勝手では新たな文明が発展しない。俺たちは生き残ることは大前提として、その先を考えていかないとならない立場なのだ。 「何言ってるのよ、もう充分人はいるでしょ?数えきれないほどよ?これ以上は誤差よ」 「ちがう、1人でも多く助けるんだ。目先の安全を求めているようでは新たな世界は発展しない。」 「ちがう、たしかにあなたの言うとおりあたらしい世界も大事よ?でもそれ以前に確実に生き残らなければならない。ニュースみてるの?暴動の」 暴動のニュースか、たしかに久しく目にしていない。しかし問題はないはずだ、暴動なんてできることはたかが知れてる。このシェルターには数百人の人員と大量の武器、さらには隕石の衝突も防ぐことができる硬い壁があるんだ、武装した人間の集団程度ではどうにもなんない。 「バカか?暴動なんて……」 「大型シェルターでテロがあったのよ。それも一回じゃない、世界各地で多発してるの。もう暴動による死者の合計は100万を裕に超えてるわ。私は家族のことだけを思っていってるんじゃないの、ここにいる助かる予定の人全員のために言ってるのよ。」 「俺たちは大丈夫だ。他のシェルターとは違う。爆弾,毒ガス,小型ミサイル……ありとあらゆる状況を仮定して大量の武器を蓄えている。武装集団にまける筋合いはない。」 そうだ、俺たちは、俺は違うんだ。この身一つでのし上がってきた男だ。そんな男が運営するシェルターが簡単に攻略されるわけがない。 「でも何があるかわからないじゃな……」 「大丈夫、ここは絶対安全だ。」 【ノーマン・ケドコイル】 「ふざけるな!」 殺してやる、私を裏切りやがって…財産も息子も全て奪って逃げていくつもりなんだろ、そうはさせないぞ。 「ふざけてるのはどっちよ、あなたみたいなイかれたカルト信者と一緒に居れるわけないでしょ!」 彼女は銃をもっている。対して私は丸腰、いや、いざと言うときはこれを使うしかない。 「お前はどうでもいいんだよ、出て行きたいなら出ていってくれて構わない。でもリアムは置いていけ。」 「大切な息子をあんたなんかのところに置いていけって?かなり無理があることを言ってるのわからない?」 この女絶対に殺してやる。逆にこいつの全てを奪ってやるよ。 「私がどれだけ真剣に作業してたかわからないのか?私がどれだけ真剣に、お前たちを生き延びさせてやるために、長時間にわたって肉体労働をしてたかわかるか?」 手に小石を握る。 怖くもないのに指先がプルプルと震えている。それはまるで獲物を狩る前の猛獣が武者震いしているかのような、そんな興奮からくる震えだった。 「何言ってるのよ、全部洗脳されてやったことでしょ?」 「ちがう」 「あなたは私たちなんてはなから大切じゃなかったのよ」 「ちがう」 「大切ならなんであんなに手を上げるの?リアムにも私にも、何回もやめてって言ってるのに暴力をふるうの?」 「ちがう」 「なにも違わないわよ!あなたは自分を人並みに優れた家庭を守る父親だと思ってるかもしれないけど、ただのDVやろうなんだよ!」 「ちがう」 「ちがう、ちがうって、そうやって頭ごなしに否定することしかできないのは本当は嘘なんかじゃないからよ!いい加減認めてよ!このクソ男!」 「俺のことなんも分かってねぇくせによ!」 俺は手に握っていた小石を思い切り彼女に向かって投げつけた。 あわてて彼女は俺に銃口を向けて発砲してきた。しかしそれは、痛んだ額を利き手で抑えながらの適当な発砲だったため、俺とは全く違う方向へ飛んでいき「カン」と鈍い音を立てて、シェルターの装甲に穴を開けた。 苛立ちが増す中、俺は簡単に銃を取ると、彼女の命に終止符を打とうと引き金を引いた。 【バヂス・デフリッソン】 「これで合計795人」 「私たちを入れたら98人よ」 「食糧計算的に言ったらあと2人入るな」 「もう充分でしょ?次の来客が大人数だったらどうするのよ?生き残りをかけたジャンケンでもしてもらうの?もういい加減閉めましょう?」 なるべく人を救いつつも、暴動は確実に避けたい。ならばやむおえないか……。 「あぁ、閉める準備に取り掛かろう」 「急ぎましょ、暴動でほとんどのシェルターは破壊されてしまっているのよ、しかも何が救いようがないって、暴動を起こしたテロ集団が、結局は食糧とかのことで仲間割れして、殺し合いの果てに全員死ぬのがほとんどなのよ」 「被害者は?どのくらい増えてるんだ」 「もう推定だと死者数は裕に億を超えてるわ、発展途上国の多くは壊滅状態。みんな冷静じゃないのよ、自分のことだけを考えてる……じゃなきゃこんな無意味な殺戮できないわ……」 「これでは災害の前に人類は滅んじまいそうだな……」 【ノーマン・ケドコイル】 「カチッ」 彼女の額に開く予定だった小さな穴は見当たらない。 弾切れか 「リアム!」 彼女は隙を見てリアムを連れて走り始めた。 なんとも哀れなのだろうか、額に大きな怪我を負った女が、齢3つ程度の子供を連れて命からがら逃げ出すとは…… 俺は、隠していた小さな手榴弾を手に持つと、どこに投げるべきかと照準を合わせ始めた。 しかしそうしている間に彼女と俺の距離は遠くなるばかり、今の疲れ果てた俺の腕力では少々不安が残る。 「待ってろよ?今父ちゃんが行くからよ」 【ニーナ・ケドコイル】 あの男本当に狂ってる……、いくら普段から暴力をするような男でも本気で殺しに来るとは思わなかった…… 弾切れとはいえ、銃は置いてきてしまったし、きっとあいつは他にも武器を持ってるだろうな…… どうすれば自分とリアムを守ることができるか、このまま走ってるだけではいつか追いつかれて2人とも殺されてしまう。 足が痛い、体が重い、リアムを抱き上げている手も千切れそう、どれだけ走れば安全なのかもわからない、でも走るしかない…… ノーマンの足音は聞こえない、でも休むことができるほどに切り離したわけではないだろうし、死ぬリスクを賭けてでも茂みに隠れたりはしたくない。 ほんとうにどうすればいいのよ…… 【バヂス・デフリッソン】 「まだなのか?もう何時間経った」 「完全封鎖なんてしたことなかったから、外壁扉が錆びて動きづらくなってるの、だからまだ時間かかりそう……」 「まぁ大丈夫だ、時間がかかるといってもものの数時間だろ?これまで大丈夫だったんだ、最後の最後になにか起こることはないだろう」 そうだ、ここまで全ては順調。ここには800人弱の人々がいる、仮に他の人類が完全に滅んでいてしまったとしても俺たちだけでやっていける。 いや、はなから他のシェルターには期待しちゃいない。 人間とは本当におかしなものだな…… 愚かにも世界は自分たちのためにあると信じ込んでしまっていた。そうして他の者達を顧みずに文明を進めてきたんだ。だから、こうして自然が復讐してきた。ただ見守ってくれていた青い空が雲に覆われて降りかかってくるんだ。とんだ自業自得だな。 俺が作る新文明は絶対にそうはさせない。 きっと何万年も続かせるんだ…… それが、世界的大企業を作り上げた、たった1人での仕上がってきた俺の、使命なんだ。これが成功しなければ全ては意味がなかったことになってしまう。妻から社長の座を奪ったことも、そもそも会社を立ち上げたことも、俺が生まれてきたことも……。 「錆びはほとんどなかったよ、意外と早くなんとかなりそうね」 「それならなによりだ」 このシェルターは俺の人生そのものだ。俺の努力の結晶の全てが詰まっている。 食堂を兼ね備えた小さな広場、さらには相部屋にはなるものの、プライバシーの獲得ができる大量の部屋。定員を遥かに超えた人数を収容してもなお、多少の空間の余裕が見られる。さすがは俺の設計したシェルターだ。 新しい世界の最初の英雄は俺だな。 「一応テレビつけとくわよ、とんでもないニュースが入ってくるかもしれないから」 「あぁ、ありがとうな」 最後にもう2人、生存者が飛び込んできたら完璧なんだけどな…… 【ニーナ・ケドコイル】 ペースが落ちてきた。とうとう私も体力が限界なのね…… 「ごめんねリアム、もうお母さん無理かもしれないわ……」 なんとなく近くまで来ている気がする、決して足音が聞こえるわけじゃないけど、なんだか死期が迫ってる気がする。 もはや諦めて殺されてしまいたい。ノーマンの隠し持ってる武器が爆弾だとしたら簡単に殺されることができるのに…… もはや今できる願い事の内容が、元夫の自分たちを殺すための武器が爆弾であることだなんて、精神的にも限界なのかもしれない。 諦めたくない。死にたくないし、あいつに殺されるのなんて悔しくて仕方がない。リアムの未来だって守ってあげたい。 でも、もう、方法が…… 彼が私たちを怒りのままに殺して1人でシェルターに篭るなんて…… シェルター…… シェルターだ。 確か隣町のデフリッソン社長が巨大なシェルターを作って街の人を避難させたとか…… 噂でしか知らないけど、今は一か八かこれにかけるしかない…… 「リアム、お母さん最後に頑張るからね……」 【ノーマン・ケドコイル】 「殺してやる殺してやる」 バカな女だ、この辺りはこの間の大雨で地面が泥濘んでいて足跡が残りやすい。 位置がバレバレだ。 にしてもこの方向って、あいつ街に出たのか……? 【バヂス・デフリッソン】 準備は予定よりも早くに完了し、シェルターの完全封鎖が始まるという、その時だった。 突然正面入り口から音が聞こえた。 「開けて!お願い助けて!」 必死に誰かが叫ぶ声だった。別にImpact 7が始まったわけではないため、ここまで焦って助けを求める人が現れるのなんて予想していなかった。 「あなた?どうかしたの?」 ジェシーが駆け寄ってきた。 「わからない、誰かが玄関口で助けてって叫んでる」 俺はジェシーと玄関に向かいながら話した。 「Impact 7が始まったわけじゃないわよね?」 ジェシーはすこし焦りながら尋ねる。 「いや、それはありえない。テレビでもラジオでもなんの異常も報告されてない」 もしかして暴動か?誰かが命ガラガラ逃げてきたのか? 「女の人が小さな子どもを抱っこしてる、しかもおでこから血が出てるわ」 ジェシーが玄関口モニターを確認して言った。 「開けよう、2人だけなら匿える」 俺はジェシーに扉を開けるよう促すと、これから入ってくる怪我人を手当てするための救急箱を取りにその場を離れた。 【ノーマン・ケドコイル】 見つけたぞ あの野郎シェルターに逃げ込む気だな? ゆるさない、そんなの絶対にゆるさない。 俺の作ったシェルターに風穴開けといて。 散々騙されてるだとか言っといて、本当は俺を置いて自分たちだけ助かる気だったのか。 ふざけやがって…… シェルターごと破壊してやる。 【ニーナ・ケドコイル】 「開けて!お願い助けて!」 後ろからいよいよ足音が聞こえ始めた、もう間近にノーマンが迫っている。 「お願い!開けて!」 「早く!」 殺される、私もリアムも、いやだ、こんなところで死にたくない、Impact 7も馬鹿みたいだけど、ノーマンに殺されるのが1番バカみたいよ。 「お願い、お願いだから助けて!」 私の悲鳴にも近いような叫び声が空虚な街に響き渡る中、ついにドアは開いた。 「どうしたの?」 中から出てきたのは女性だった、どこかで見たことある女性。おそらくデフリッソン夫人だろう、しかし今そんなことはどうでも良かった。 私は文字通りシェルター内に倒れ込むと、必死にドアを閉めるように叫んだ。 「来てるの!あいつが!」 しかしどんなに焦って叫んでも目の前の女性は冷静ですぐには動かなかった。 考えてみれば当たり前だ。急に現れた血まみれの女が気が狂ったかのように叫んでいるのだから、混乱してしまうのが普通だし、考えてみたら入れてくれただけで奇跡と言っていいだろう。しかし今はそんな人間らしいことは言ってられなかった。 「ボケっとしてないで締めてよ!早く!」 命の恩人になりうる人物にこんな言葉を浴びせるのは人間としてあり得ない。しかし私はそれほどまでに追い詰められ、必死になっていた。 しかし、その必死さが彼女に伝わった頃にはもう遅かった。 【バヂス・デフリッソン】 謎の来客者のケガの手当ての為、救急箱を取りに行き、玄関へと戻ろうとしていたその時、突然大きな罵声が聞こえた。 「よくも主人を裏切りやがったな、このクソ女」 「やめて!お願いだから、私が全部悪かった、出ていくのも辞めるから!Impact 7も信じるから!」 来客は女と子供だったはず。それなのに聞こえてくる声には男のものが混じっていた。 何事だと俺は駆け足で玄関へ向かった。 「ふざけるな、何を今更言っているんだお前は」 「ごめんなさい、本当に思ってるわよ、だから一緒にここに匿ってもらいましょ?そうしてImpact 7が終わったらあなたが言った通り旅行したり遊んだりしましょ?」 「もう2度と俺に舐めた態度を取ったりしないのか?」 「えぇ、絶対にそんなことはしないから、一生死ぬまであなたの妻であり続けるから、家族であり続けるから!」 玄関にいるのはモニターで見た2人と見知らぬ男、先ほどよりは落ち着いているもののすこし取り乱している様子だった。 「ジェシー、なぜもう1人入れたんだ?シェルターの許容人数はあと2人だったんだぞ?」 ジェシーは少し困った顔をして、 「ドアを閉める前に駆け込んできたのよ」 と答えた。 しかし、そんな俺とジェシーのやり取りなんて聞こえないかのように2人の会話は続く。 「お願いだから、許して、ノーマン」 女は泣きながら男に縋り付いていた。 「もう俺をコケにしないんだな?」 「もちろんよ、自分の時間を削ってでも私たちを助けようてしてくれてただなんて、本当に感謝しかないわ」 「俺から逃げないんだな?」 「逃げない、絶対に逃げないから」 だんだんと2人が落ち着きを取り戻していくにつれて、シェルター内には温和で静かな雰囲気が戻りつつあった。2人の会話は続きながらも、微かにテレビの音が聞こえ始めていた。 「だからお願い、もうこれ以上おかしなことをしないで」 女はもはや土下座に近い体制になりながら男に頼み込んでいた。 「わかった、俺もすまなかったよ、ここで家族3人、Impact 7が終わるまでくらそう」 男は、先ほどの怒鳴り声からは想像できないほどに落ち着いた口調でそう語った。 この一件が落ち着いたのは良かった、しかし、結論は俺に取って、いやここのシェルターにとっては都合の悪いものだった。 「割り込むようで申し訳ないのだが、ここの定員は初めに来た2人でいっぱいになってしまったんだ。悪いが後から来た男には出ていってもらわなければならない」 正直言ってきつい言い方ではあると思った。 しかし俺は、急に土足で家に踏み込んできて大喧嘩を繰り広げていた他人に少し腹が立っており、早く出ていってもらいたい気持ちでいっぱいだった。 ここに至るまでの経緯なんて俺の知ったことではないし、単なる夫婦喧嘩だろうとたかを括っていた。 しかし、それが良くなかったのかもしれない。 「やっぱりかよ……やっぱり俺をコケにしているんだろ?お前らはじめからグルだったんだろ?俺だけシェルターから追い出して殺すつもりでいたんだろ?」 男がどんどん興奮していく。 先ほどの静けさが信じられないほどに彼は怒り始めた。 「仕方がないんだ、嫌なら家族で出ていってもらっても構わない」 見た感じ男は武装していないし、玄関も閉まっている為仲間も呼べない。俺はこれが暴動に発展するとは思えなかった。 しかし、現実は違った。 「ふざけるなふざけるなふざけるな」 男の怒りは目に見えてエスカレートしていった。 「殺してやるよ、お前ら全員。俺だけが死ぬぐらいならそっちの方がマシだ」 男は腰につけていた小さなカバンから、拳ほどの大きさの小型爆弾を取り出すと、起爆ボタンをすぐさま押した。 「やめろ!」 そう言うことはできても止めに行くほどの時間はなかった。それほどに唐突な出来事だった。 しかしこの爆発までの1秒余りの時間の中で、俺の脳裏には様々な事柄がよぎった。 まず、後悔。これまで起こった出来事の多くを甘く見てしまっていたことへの後悔。 そして、恐怖。自分が築き上げてきた全てのものが、自分と一緒に破壊されてしまう恐怖。 そして…… なんだ、何が起こったんだ? 体が熱い。 全身が溶けてしまうような感覚。 そして痛い、少し遅れてやってきたけれども、確実に身体中に響いている。 あぁ、爆発だ。 思考が追いつけないほどに唐突な爆発。 体の多くの感覚がない。 死ぬんだな。 俺も、 家族も、 シェルターのみんなも…… 死の淵の刹那、静まり返ったシェルター内で、本物かどうかも怪しいラジオの音だけが聞こえる中、俺はようやく全てを理解した。 〝暴動の激化により総合死者数は10億を超えました〟 ラジオの音が妙に頭に響いてくる。でもそれ以外に何も聞こえない。もうみんな死んでしまったのだろうか……? いやきっとそうだ。あの小さい爆弾でも、シェルター内の貯蔵されていた爆弾に引火すれば、全員を殺すほどの威力の爆発は容易に起こせる。対策が凶と出たってわけか。 きっとここのシェルターだけではないんだろうな。全世界にある全てのシェルターは、いや、生き残りの人々はここと同じ運命を辿るのだろうな…… Impact 7…… ノア・イヴェルトの詳細はわからないが、きっとものすごく賢かったのだろうな……。 きっと、Impact 7は初めからなかったんだろう…… 彼はわかっていたんだ……、人類が、当たり続けてきた預言書の嘘に気付けずに……、争いを、起こし……、そうして、滅びると、言うことに……。 7つの衝撃……、たしかに、後半は、人類の愚かさから、きたものが、多かった、な……。 【ノア・イヴェルト】 人間とは貪欲であり、冷静でなく、なにより自己中心的である。 自らの欲望通りにことが運ばれなければ怒りを覚え、理不尽にもそれを他人にぶつける。 自らと違う思想を認めることができずに、結局は暴力で蹂躙しなければ気が済まなくなってしまう。 慢心すれば隙がうまれ、低い人々がその隙をついて、自分たちのところまで引き摺り落とそうとする。 いつまでも共存しようとせずに争いだけを繰り返す。 だから彼らはきっとわからないだろう。 空はいつまでも青く、 我々に落ちてくることはない。 それでも愚かな人類は息絶える、 それも最も皮肉な方法で。 この為、私はこの世で最も重い罪を犯した。 自然が人間を絶滅に追いやるほどに裏切る日などこない。 しかし人間は、自分たちの知能によほど自信があるのか、自分たちを疑うことはせずに周りばかりを疑う。このため、自然を裏切り、自分たちにも裏切られる形で、皮肉にも滅ぶ。 しかしもっとも愚かなのは私自信である。そもそもこの預言書が作られなければ、人類は、くすなくともここまで早くに滅ぶようなことはなかった。 ただの好奇心だったのかもしれない。6回に渡り預言を当てれば、どんな理不尽なデタラメも信じられるのではないかと言う、ある種の実験だったのかもしれない。しかし、このような軽いことで人類は滅んでしまう。 だから私はこの世で最も重い罪を犯した。 Impact 1 541−750 人類は自然に侵略される Impact 2 1331−1855 人類は自然に抗い始める Impact 3 1855−1960 人類は自然に打ち勝つ Impact 4 1914−1918 新たな敵を同胞内で見つける Impact 5 1939−1945 そうして種族内で争う Impact 6 2020−2022 再び自然の恐ろしさを知る Impact 7 2025− 歴史は繰り返す。 これにより、いや、こうならなくとも、 人類は滅ぶこととなるだろう。