雪月

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雪月

気が向いたら書く。 気が向いたら消す。 近くて遠い誰かの話。

夜空

気づけば夜空を見上げなくなっていた。 夜に帰る時もいつも下を向いて。 月が綺麗でもすぐに目を伏せて。 冬の空は怖い。 夏の空がいい。 だってオリオン座が見えてしまうから。 あの人との思い出を、 もう掘り返すのも恐ろしい記憶を、 思い出してしまうから。

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優しい人

「まーじでこれ大変!」 「仕方ないなぁ、私が手伝ってあげよう!」 「やったぁ!かなで、なんだかんだ言って親切!」 「かなでぇ、、、彼氏にフラれたぁ!慰めて、、、」 「大丈夫か!みよちんいい女なんだから、こんないい女振った男が見る目ないんだよー」 「うぇぇぇ、かなでしか勝たん!」 「この切符、、、落し物だねぇ。ちょっと駅員さんに届けてくるわ!」 「えぇ?かなでまじでえらすぎるー笑 いい子ちゃんやん。」 これがいつもの私。 いつもの雪月花奏。 私は誰から見ても「優しい」人。 誰かが困ってたら声をかけ、悩み相談には相手が求めていそうな言葉をかける。 別に好かれたくてやってるとか、人前だからやってるとかそういう打算があってやる訳じゃない。 かと言って純粋に優しい人という訳でもない。 ただ私は「優しい人」になりたいだけ。 だから、ちょっとダルくても誰かの手助けをして、相手の気持ちに寄り添うわけでもなくそれっぽい言葉だけを並べる。 そこに心なんてついてない。 多分私はケッカンヒンで、優しさをもつ心がなかったんだと思う。 それか、とうの昔に捨ててしまったか。 本当にこれはその人のためになる行動なのかとか、その人の心のモヤをなくしたいとか、かつてはもっていたようにも思うけれど、もう覚えていない。 優しくなれない私は、人間らしく、優しくあろうとして今のこんな私になってしまっただけ。 人々はそれを偽善者だとか言うのかもしれないし、寧ろ言ってほしいまである。 私の中で「優しさ」は憧憬の対象であり、きっと私は人一倍そうありたいと願い、人一倍それとは相反している人間なのだから。 だから、 だから今日も私は「優しい人」であり続ける。

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愛情少女

私、雪月花奏は愛すべき人に愛情が湧かない。 そんなことに気づいたのはもうすぐ二十になろうっていう頃である。 別に愛情がないわけではない。 何なら愛情深い方である。 後輩ちゃんが突然いなくなった時は声をあげて泣いたし、母校には度々わざわざ何かしら理由をつけて訪問しているし、仲の良い人の愚痴と相談には親身に聞くことに定評がある。 ただ、ただ、愛す「べき」関係に愛情を持てないのである。 「家族」とか、「友人」とか。 愛すべきだと思えば思うほど私は本当に愛しているのか不安になる。 そしてやっぱり愛してないんだなと思って絶望するときがある。 その点、愛すべき関係ではない人は気楽だ。 別に仲良くしても良いし、しなくても良い。 私が依存するのは決まってそういう関係で、愛情をもてるのもそういう関係だということがなんとなく分かった。 ちょっと仲良い後輩とか、ちょっと仲良い先生とか、たまーに緩く話す人とか。 ちょっと仲良くても「後輩」とか、「先生」って関係自体に変わらないから別に仲良くしないといけないことはないと思ってる。 少なくともそう「思う」ことが大切なのかもしれない。 そのおかげで私はその人たちに義務のない愛情をもつことができる。 でも別に愛情が湧かない相手だからといって普段冷たく接することはない。 あくまでも表面上は何ら変わらないように、まるで私もあなたのことが好きであるように接する。 私が私の心を傷つける以外誰も傷つかずに済むのだからハッピーでないかと思っている。 でも、齢十九にして問題が起きた。 私が恋をしてしまったからだ。 別に恋すること自体に問題がある訳では無い。 やっぱり好きな人にはきちんと愛情をもつことが出来る。 今までだって数度であるけれど恋をしたこともある。 大して進展せずに終わってしまったけれど。 今回の恋の問題は進展しまったことにある。 と言っても付き合うまでに進展したわけじゃない。 きちんと名も無い関係で順調に仲良くなってしまった。 彼から敢えて「友達」と名付けられることもなく無事に。 もしかしたら私から少し押したら付き合えるのかもしれない、そう思ってから気づいてしまった。 「あ、これ、「恋人」という立派な愛すべき対象になってしまうぞ」 と。 私は震えた。 そう思ってしまった自分が怖かった。 最愛の人を愛せなくなるとすれば、私は私を許せない。 小さく、自虐的でそれでいて愛情のこもった笑みを浮かべて私は決心をした。

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友情

 友達をはたいた。  その子の頬はすぐに赤くなって、その子の目はみるみる涙で満たされていった。  小学校の先生が青ざめた顔をして飛んできて、私は何も言わずにただ怒られた。 「ねえ、花奏。」  機嫌が良かったのか、隣で鼻歌を歌ってた亜子が不意にこちらに声をかける。 「んー、なに?」  適当に返す。 「昔さ、アンタが私の頬を思いっきり引っ叩いたこと覚えてる?」  物騒な話を切り出した割には彼女は楽しそうだ。 「…覚えてるよ。あの時、亜子の頬が結構腫れちゃったせいで保護者まで巻き込んだ大騒動になったし。」  亜子のお母さんから、こんな野蛮な子、二度とうちの子に近づかないでって言われたし。  あの時のことを思い出すとバツが悪い。 「あはは、そうそう。花奏が馬鹿力で引っ叩いたもんだから、えらいことになったよねー。…って、そんな不貞腐れたような顔しないでよ。」  亜子に気にしている素振りはない。  まあ、いくら腫れたと言っても、小学生が引っ叩いたくらいでは一生ものの傷にはならないし。 「不貞腐れてるんじゃなくて、苦虫を噛み潰したような顔してんの。」  あの時の先生と、亜子の両親からの非難の目と言ったら、割とトラウマものである。 「あの時に、本当のことを言えば良かったのに。」  亜子はそう軽く言う。 「だってー。」 「はいはい、わかってるよ、花奏は不器用なんだから。…それでいて優しいから私は好きなんだけどね。」  さっきまでの軽口なはずなのに、こっちを向く視線が案外真剣で照れてしまう。 「どうせ私は不器用ですよーっと。」  口を尖らせて誤魔化す。 「あー、もう、拗ねないでよ。あの時花奏がああやって怒ってくれて、私すごく感謝してるんだから。」  小学生の時、丁度十年前になるだろうか。  私は、確かにこの今目の前にいる亜子の頬を叩いた。  それは自分が思ったよりもだいぶ大事になって、しばらく亜子とは話せなくなってしまうし、野蛮な子だなんてレッテルが貼られてしまうしで大変だった。  今思えば、やり方が他にもあっただろうし、なにも、叩かなくてもよかっただろうと思うけど、語彙のない小学生の頭に血が上ったらそんなものだろう。 「いやぁ、なんか怒られてる花奏を見てたら、自分がなんてしょうもないことでクヨクヨしてたんだろって思っちゃったもんなぁ。」  亜子が快活に笑う。  あの日、亜子がボソッと言った言葉が許せなかっただけなのに。 「あのね、かなでちゃん。私、もう全部全部やになっちゃった。全部なかったことになればいいのにね。」  だって。  無性に腹が立ったから引っ叩いてやった。  方法を見直す必要があったのは認めるけど、やったことを後悔はしていない。 「あの時、花奏に引っ叩かれて、痛いし、何が起きたか分からないしで動揺して泣いちゃったけど、あの後、必死でなんでアンタがこんなことしたのか考えたなぁー。」  亜子はクスクス笑いながら言う。  あの状況なら、私でも怒りとかよりも疑問が残るかもしれない。 「結局わかんなかったから、二人きりで会うなっていう約束破って聞きに行ったもんね。」  亜子は昔から行動力は人一倍あったからな。 「そしたら、アンタ、今までどう怒られても泣きもしなかったのに、涙ボロボロこぼしながら、『全部なかったことになったら、私とあこちゃんが出会ったことまでなかったことになっちゃうじゃん。そんなの嫌だよ。』って言うんだもん。 あー、私、愛されてるなーって思った。」 「私、そんなこと言ったっけ。」 「とぼけても無駄だぞぉ?」  ちっ、覚えてるのか。 「ねえ、花奏。私、今幸せだよ。そりゃ生きていれば嫌なことだって沢山あるし、めっちゃラッキーってわけでもないけどさ、フツーに生きれて、アンタがいる、それだけで十分幸せだよ。なんかありがとね。」  亜子がふわっと笑う。 「そっか、それならよかった。」  きっと私もおんなじような顔をしているんだろう。

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友情

笑顔の国

あるところに笑顔の国がありました。 笑顔の国では、国民全員が常に笑顔を絶やすことがありません。 ある日、笑顔の国に旅人がやってきました。 旅人は入国審査を済ませ、国に入ります。 すると至極当然のようにその国の人々は笑顔で迎え、旅人をもてなしました。 旅人は初日こそとても心地よく過ごしていましたが、日が経つにつれ、常に笑顔である国民をどこか気味悪く感じてきます。 とうとう三日目、旅人はようやく国民に尋ねました。 「どうしてこの国の人は、いつも笑顔なのですか?僕はこの国に来てから怒ったり、悲しんだり、不安な顔をしている人を見たことがありません。」 すると、国民は当然のように答えました。 「そりゃあ、私たちだって怒ることも、悲しむことも、不安に思うこともあります。でも、ここは笑顔の国ですから。」 ここまでだったの一度も笑顔以外の感情を表している様子を見たことがなかったので、旅人は少し意外に思います。 「かつて、この国は皆、無表情で必要最低限の会話のみをして生活をしていました。 しかし、あるとき、相手が何を思っているかわからないことが原因で内乱が勃発しました。 その時の死傷者は国の三分の一ほどで、最後に彼らは、自分たちが争っていた理由がほんの些細なすれ違いであったことを知ります。 そして、彼らはこのようなすれ違いがもう二度と起きぬよう、積極的にコミュニケーションをとり、常に笑顔でいることを誓いました。 それが私たちの先祖だと聞きます。」 彼女は笑顔で答えます。 旅人は、ありがとうございます、とだけ言って彼女の元を去りました。 旅人は丁度五日間この国で過ごしてから、国をあとにしました。 旅人は、国を出て、しばらく移動した後に日課である日記をつけました。 「十月十二日〜十七日  僕は今回笑顔の国を訪れた。  彼らは旅人である僕にも非常に友好的 であり、丁重にもてなしてくれた。    その国の人の話を聞くに、彼らは、無表情であるがために起きた内紛を悔いて笑顔でいるそうだ。  でも、僕は思う。  果たして、笑顔でいることは本当に相手と友好的に関わる最善の方法なのだろうか。  僕が思うに、彼らは、ただ無表情を笑顔に置き換えただけで、本質的に無表情であることに変わりはないんじゃないか。  彼らが本当に欲していたのは、上辺だけの、表情だけの付き合いじゃなくて、心を曝け出す付き合いだったんじゃないだろうか。  一介の旅人である僕には関係のない話だけどね。 これだから、旅をして、見聞を広めることはやめれないんだ。       fin.」

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笑顔の国

ある奴隷の少女がいた。 その少女は日々、主人に虐げられながらも主人の世話をした。 少女は、自分の名前も知らなかった。 物心がついたときにはもう奴隷として生きていて、自分が奴隷であることが当たり前だった。 主人の家の近所に1人の少年が母親と暮らしていた。 少女は少年とあまり面識はなかったが、少年は少女の姿をちらりと見た時から少女に恋をしていた。 少年は少女が主人に鞭で打たれているせいで痣や傷が絶えないことを知っていた。 ある日、とうとうみるに堪えなくなったのか、それとも大きな心境の変化でもあったのか、少年は少女の主人に抗議しに行った。 少年は、まだ幼かった。 主人が"自分の所有物だ、何をしても自分の勝手だろう"と言ったとき、ついに逆上した。 少年は肌身離さずもっていた短剣を構え、一突きに主人の命を奪った。 そして、目の前にいる少女に “もう誰にも支配されなくていいんだ、自分の人生を歩めばいいんだ、君は自由だ” と、手を差し伸べた。 少女は震えた。 歓喜ではない、安堵でもない。 彼女は、絶望に震えた。 そして、少女は泣きじゃくりながらこう言った。 “どうしてご主人様を殺したの⁉︎どうして、どうして…” 少年は呆然とした。 少女が何を言っているのか理解ができなかった。 “な、何を言っているんだ…?僕は、僕は君のためを思って…” 少年はそれ以上の言葉を言うことはなかった。 いや、なかったのではない、出来なかった。 最期に少年が見た光景は、少女が涙を流しながら迫ってくる様子だった。 少年の胸は赤く染まり、その胸元にはナイフが刺さっていた。 少女は、そのナイフを抜き、その刃を自らに向けた。 そう、少女は、奴隷の生活に満足をしていた。 どんなに酷いことをされたとしても、彼女には主人しかいなかった。 彼女は外の生活を知らない。 唯一の頼りの綱だった主人を目の前で殺されたのだ。 彼女が迷わず少年に報復をしたのも無理のない話だった。 そして、咎人であり、行き先のなくなった自分もまた要らない存在だと考えることも。 さて、貴方はこの惨劇で少女と少年、どちらが悪いと考えるか。 外の世界も他の生き方も知らず、少年の好意を蔑ろにした少女? それとも自分の価値観を押し付けて身勝手な行動をした少年? 答えなんてどこにもないだろう。 それが人生なのだから。

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咎

没個性少女

わがままじゃいけない、 怒りっぽくてもいけない、 泣き虫でもいけない、 ヘラヘラしてるだけでもいけない、 私はどれにも該当しない「いい子」だったはずなのに、 どうして今は、あのときわがままだったあの子が、 あのとき怒ってばっかだったあの子が、 泣き虫だったあの子が、 いつも笑ってたあの子まで、 みんな輝かしい未来を歩んでるんだろう。 なんで私はここまで没個性なんだろう。 大人の言う通りに動く偉い子だったのに。 人が困ってたら手を差し伸べられる優しい子だったのに。 悲しくなったら誰にも心配かけないように隅でシクシク泣いている子だったのに。 どうして個性が大事で、自分の道を歩まないといけなくなるんだろう。 誰も個性的でいろ、だなんて言わなかったじゃないか。 みんな違ってみんないいならどうして没個性は許されないの? 「違う」のベクトルが違うの? それとも悩むのは今だけなのかな。 大人になったら、社会に出たら、代わりの効く摩耗されるだけの歯車の一部にすぎないのかな。 私にはそれでもいいのかもしれない。 私に主体性なんてないし、言われればなんでもやるよ? 口答えもしないし、勤勉で真面目な人間だよ? そんなの、ロボットと変わらないって? あはは、それで十分だよ。 だって、没個性だもん。 そうだ、生きている意味も、死ぬ意味もない無個性だもの。 社会のためになるのなら「幸せ」なのかもしれないね。

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没個性少女

そこにはとても、とても大きい箱があります。 その箱には何でも入れることができます。 その箱は、何かを拒んだり、選んだりなんてしません。 じゃあ、その箱をひっくり返したらどうなるでしょう。 当然、箱の中に残るものなど何一つもありません。 箱は必死でたくさん、たくさんモノを入れて自分のナカミを作ります。 そして、蓋をして、周りと同じ、きちんと中身のつまった立方体であるように見せかけようとします。 でも、どうやらそれでは駄目なようです。 ふとした時に、蓋が開いて、あるいは、開けられて、ナカミを確認されてしまう。 そして、ナカミを取り出されて、こう言われるんです。 「お前の中には何もないんだな。」って。 箱は、悲しいと思う感情はありますが、それを言われたことに対する怒りは湧かないのです。 だって、箱の中身は空っぽなのだから。 そして再びナカミを入れて、素知らぬ顔をします。 僕はみんなと変わらないんだよ、と。 当然ながら、空っぽで異質な箱には友達がいませんでした。 箱にも自分がとてもつまらない存在だという自覚がありました。 箱は、考えて、考えて、考えて、一つの結論を出しました。 そうだ、中身がないっていうんだったら、言葉で取り繕おう。 どんなにつまらない話も言葉の魔法で面白く、 どんなに空っぽな僕でも言葉のテープでぐるぐる巻きにして。 そうやって、僕が空っぽなことを完全に隠してしまえばいいんだ、と。 そうして今現在の、「箱」こと花奏が誕生したのでした。

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箱

恋心(仮)

「えー、京也くんって花奏ちゃんのこと好きなんじゃないのー?」 「私もそう思ったー!花奏にだけ態度違うもん‼︎」 「え、えぇ?、そんな事ないと思うけどなぁー?」 放課後に友達二人に茶化されて、驚き半分、困り半分、嬉しさ少々っていう気持ちになる。 私は、京也くんのことが好きだ。 でも、同時にこの先輩後輩っていう関係に居心地の良さを感じている。 だって、私が男の子とこんなに仲良く出来るなんて初めてのことだし、この関係を壊したくなんてないよね。 …本当は、逃げなのかもしれないけどさ? でも、気まずくなりたくないもん。 「あ、せんぱーい、こんにちはー。」 噂をすればなんとやら、京也くんじゃん。 胸が高鳴る。 「おー、おつかれぃ!」 …うん、今日も「先輩」でいられてる、大丈夫。 「先輩、先輩、今日、面白いことがあったんですけどねー ……で、ーーーで………、こんなことがあってー…」 彼が楽しそうに部活前まであったことを語ってくれる。 本当はこの時間が大好きで、好き好きオーラを放ちたい気持ちはあるんだけど…。 ……まあ、迷惑だよね。 彼はきっと本当は、誰でもいいんだよ。 たまたま都合よく話を聞いてくれる人がいるってくらいにしか思ってないよ。 まさかそんな、私のことが好きだなんてそんなことない。 ……そんなことないって思いながらどこかで期待してる私もいたりするんだけどさぁ……。 「京也くんまた大きくなったんじゃない?いーなー、男の子は!」 「先輩、卒業する頃にはまたパートで一番背が低くなるんじゃないですかぁ?」 「もー!一番気にしてるんだから!一年生はまだ育ち盛りだよねぇ…」 こういうたわいも無い会話が大好きで、たったこれだけの会話なのに、幸せで胸がいっぱいになる。 この時間が永遠ならいいのに。 現実はそう甘く無いけど。 今日でもう引退しないといけなくて、受験モード突入だ。 一個下の彼とはもうこうやって話す機会も無くなってしまう。 私の虚勢がバレないように、本当はここで告白して、離れたくない、嫌だって泣き出さないようにグッと堪えながら笑う。 「じゃあ、京也くん、バイバイ。」 「お疲れ様でしたー。」 あまりにもいつものようで拍子抜けしそうになる。 これで最後なのに、これでもう会えなくなるのに、こんなのでいいのかな? ……いいんだ、だって、私がもうずっと前に決めたことなのだから。 告白はしない。 ずっと、これからも、この先も、京也くんは私の可愛い可愛い後輩であって、間違っても想い人なんかじゃない。 そう心に誓って立ち去った。 ーーーーああ、あれだけ心に誓ったはずなのになぁ。 三年経った今でも、頻繁に彼のことは思い出す。 あの子が私に声をかけてくれてたのは、彼も私に恋をしていてくれたのか、本当に誰でもよかったのか、どんな心境だったんだろうか。 私にもう少しの勇気があれば、なにか変わっていたのかもしれない。 ………今の私に出来ることは、どこかにいる彼の幸せを願うことだけだね。

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恋心(仮)

そこら辺にいる普通の高校生女子の独白

「花奏、どうしてあなたはいつもこうなの?」 「私はあなたのためを思ってやってあげてるのに‼︎」 今日も母親がヒステリックに怒り出す。 私はこんな生活にうんざりしていた。 高校三年生、あと半年すれば大学生になれる予定である。 あと半年の辛抱、そうわかってても窮屈なのには変わりがない。 今思えば、この「母親」とは、そもそも馬が合わないのである。 置かれた環境が違えば、性格も変わってくる。 教育によって、保護者の慣習によって、その人の常識が決まってくる。 とは良く言ったものだが、私はその割には、この人に似ていなさすぎた。 私はいかんせん、この「常識」を毛嫌いしている。 それは自分の常識が他と逸脱しているのを理解しているからである。 生まれた時には既に父親がいなかった、というのは一つの例に相応しいだろう。 だから、自分の常識よりも他人の常識の方が信頼に値すると思っているし、逆に他人の常識も、100%正しいとは思っていない。 そんな私だから、この目の前にいる自分の「常識」を押し付けてくる母親が苦手なのである。 終いには、 「アンタは常識を知らないからそんな事言えるけど、世間はそんなに甘くないんだからね。」 だそうだ。 なんだそれ。 「世間」って誰だよ。 その「世間様」は所詮あなたの中にしか存在しないもので、 あなたの常識だって、本来の意味の「世間」からしたらきっと外れているんだ。 そんなの馬鹿みたいじゃない。 そう思う私の方がおかしいのだろうか。 私はとにかく狭い社会が嫌いである。 家族とか、学校とか、そういう「常識」を否応がなく強要される社会が。 特に家族だなんて、私には母親だった1人しか存在しない。 私はこのたった1人の人の「常識」を教え込まれている。 その事実がとにかく窮屈で仕方なく思う瞬間が確かにある。 …とまあ、ここまでタラタラと内容があるような、ないような話を、万人には理解されないような話をしてきたわけだけど、 別にこの母親が嫌い、というわけでも、学校が嫌いで嫌いで仕方がない、というわけでもない。 こんなに苦手な母親でも、やっぱり好きか嫌いかと言われれば、好きに変わりはなく、 学校も好きが嫌いか、と言われれば、同じく好きの部類に入るだろう。 結局のところ、こうやって難しい言葉とか、よくわからない思想とかを並べてみたいだけであって、何かを起こすわけではサラサラない。 だって、普通の、どこにでもいる高校生だもん。 仕方ないよね。 親に勘当とかされたくもないし。 そんなことより今日買ってきたケーキでも食べよ。

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そこら辺にいる普通の高校生女子の独白