約束の場所
「やっほー」
私は、そこで待っていた人に声をかけた。
『やっほー』
柔らかくも弾むような声で返してくれたのは私の姉だ。
『今年も来てくれて嬉しいよ〜優花ちゃん!!』
そう言って、姉は私の方へ近寄ってくる。
『今日門限何時よ?』
「えーっと、5時〜」
『え何もできんじゃん!というか去年までは6時だったじゃん!そもそも、高校生にもなって門限5時ってやばくない?』
「まぁそうは言ってもね。というか誰のせいだと思ってるの?」
『うっ…ごめん…。』
私の言葉に、姉はあからさまにしゅんとしてしまった。
「うそ…ごめん。やなこと言っちゃった。」
『ううん、いいの。優花ちゃんが元気なら』
少しの間、私と姉の間に沈黙が流れた。風が、夏の熱気を飛ばすように2人の間をすり抜けていく。とても心地がいい。
『あ、そういえばさ。さっき悠人くん見かけたんだよね!ほら、昔よく3人で遊んでた。』
「あー、あの人か…。」
『めっちゃイケメンになっててさ。やーちょっと声かけようか悩んだよね!やっぱ声かけてみよっかな!』
「え、今日メイク崩れてんじゃんダイジョウブそ?」
『え、うそ…。』
すると姉は青ざめた顔で自分の顔を触り始めた。
「なんていうか、なんか疲れて見えると言うか。つけま片方取れてるし。」
『まじだ終わったー…。あーあー、これじゃあ恥ずくて声かけれないや。』
姉はぐったりと地面に倒れ込んでしまった。
「てかさ、そっちで化粧とかできるんだね。」
『そりゃあ、化粧は女の子の嗜みですからね!』
「そういう問題なの?」
『そうなの!』
地べたに這いつくばりながら――その化粧が崩れた顔を地面にめり込ませて――そう言う姉は、なんとも滑稽に思えてしまう。
「私そろそろ行かなくちゃ。」
『あ、そっか。時間だもんね。来てくれてありがとうね、優花ちゃん。』
「うん、お姉ちゃんも元気でね。じゃあ約束の場所で、また来年ね。」
『うん!またね!』
「今度は化粧ちゃんとしてきてね。」
『ほーい!』
陽気な声でそう言って、姉は空へと消えていった。
今日は8月13日、お盆だ。この日は死者が現世に帰ってくる日だと、日本ではそう言われている。今の日本人にとっては、長期休暇が取れる期間という認識の方が強い。でも本当は、亡くなった人を思い出す期間でもあるのだ。
「またね。お姉ちゃん。」
私は、誰もいなくなったそこに声をかける。私と姉の約束の場所、1年に1度だけ会える彼女の墓に。
「おい。なんでお前がここにいる?」
後ろから声をかけられ、私は思わず振り返る。そこには精悍な顔つきの青年が1人、花を携えて立っていた。
「なんでって、墓参りだけど?えーっと、悠人くん?だったっけ。」
「まさか…優希さんのか?」
「うん、そうだよ。」
「ふざけるな!!!」
喉を引き裂くような声が辺りに響く。さらに青年は私を睨み、肩を震えさせながらこう続ける。
「お前のやっていることは死者への冒涜だ!!どうしてそんな真似をする??優希さんは…優希さんは…」
「……。」
「お前が殺したんだろ…。」
私は少しだけ首を傾げて彼を見た。それからゆっくりと、彼に笑いかけた。
20XX年 X月X日
とある女子高生が、校舎の屋上から落下死する事件が発生した。被害者は山本優希(17歳)。死亡時刻は深夜、天候が雨であったため得られた情報も少なく、表向きには自殺として処理された。しかし、現場には不可解な痕跡が多く、警察は今も秘密裏に捜査を進めている。
そして、犯人は今もなお捕まっていない。