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31 件の小説第10回N-1 やかましい幽霊たち
「さぁハルト!!ちゃっちゃと終わらせて飲みに行くわよ!!」 「お、おう……」 この時間にここら辺で開いてる居酒屋はないぞと言いかけたが、おれはグッと我慢した。 おれはハルト。どこにでもいる普通のサラリーマン……ではなく、おれの職業は見習い除霊師だ。家が古くから伝わる除霊師の家系で、その子孫のおれも除霊師を目指しているのだが…… 「うんうん、今日も子供たちの声がよく聞こえるわ。まったく、近所迷惑も考えて欲しいわね」 「何も聞こえないんだけど」 そう、おれには才能がない。幽霊を見ることも、その声を聞くこともできないのだ。 「ハルトはほんとに才能ないわね。子供たちがあんなに大声で『カエルの合唱』を歌ってるのに」 こんな夜中に何してんだよ。もう三時だぞ。 「とにかく行きましょ!ここに住む幽霊の子供たちを、ちゃんと成仏させてあげなくちゃね!」 そう言って、おれの前を歩くのは幼馴染のユウカだ。よく除霊の依頼の手伝いをしてもらっているのだが、彼女はおれよりも除霊師としての才能がある。幽霊もバッチリ見えるし、声が聞こえるどころか会話もできる。正直頼りになるのだが…… 「ね、ねぇ……門の鍵が開かないんだけど」 「それ、お前の家の鍵だろ」 「あ、ほんとね。間違えちった」 ユウカは少々アホなのだ。 こうして、おれたちは懐中電灯を片手に屋敷に潜入したのだが。もちろんおれは、幽霊の気配を何一つ感じられない。 「あ、さっそく一人見つけたわ!」 と、中に入って早々にユウカがそう言って…… 「おい、どこ見てんだよ。人様の股間をあんまり凝視するなよ」 「仕方ないじゃん。幽霊の女の子が、ハルトの股間からニュッと顔出してベロベロバーしてるんだもん」 「やめさせてくれよ!!どんな幽霊だよ!!」 「あ、ちょっと!大声出すから逃げちゃったじゃない!せっかく話そうとしたのに!」 股間に向かって話されるのは勘弁だったから、これはこれで良しとしよう。 「早く見つけに行くわよ!もう夜中に起こされるのはごめんだから!」 「はぁ……わかったよ」 ユウカ曰く、この屋敷には事故で亡くなった三人の子供の霊が住み着いているらしい。人に害を与えないなら、幽霊が住み着いたくらいで除霊する必要はないのだが。 この屋敷の隣に家があるユウカにとって、毎晩毎晩大騒ぎする幽霊たちがうるさくて堪らなかったのだという。 「あ、見つけたわハルト!男の子の幽霊があそこのソファーに立ってるわ」 ユウカにそう言われ、おれはソファーに目を凝らしてみるが……やっぱり何も見えない。 「ん、待てよ。なんか本浮いてね?」 よくよく見ると、ソファーの少し上の方に一冊の本が浮いていた。 「そりゃそうよ。あの子が読んでるんだから」 さらっとポルターガイスト起こさないでくれよ。 すると、ユウカがソファーのとこまで歩いていき、何やら独り言を言い始めた。きっと幽霊と話しているのだろう。 「……ちょっと、そんなこと言ったらハルトに失礼でしょ。確かにそうかもしれないけどさ、本人が聞いたら怒るよ?」 「おい待てユウカ。今の幽霊の言葉を通訳しろ」 「え……わかった。私が言ったんじゃないからね?この子がね、ハルトの目がゾンビみたいで怖いって……」 「目が死んでるって言いたいのか!?良い度胸だ、除霊してやる!!」 「待って待って!!この本読み終わったら、成仏してくれるって言ってるから!!」 ユウカが全力で止めてきたため、おれは仕方なく待つことにした。目の前の幽霊はというと、姿は見えないけど一心不乱にページをめくっている……気がする。 「そんな大事な本なのか?」 「この子にとってはそうね。この本は、お父さんから貰った唯一の宝物なんだってさ」 「……そうか」 おれは宙でパラパラめくれるその本を見て、少し切ない気持ちになった。 「そうだよな。成仏したら、もう本も読めなくなるからな」 待つこと数分、幽霊がもう読み終えたのか、本がソファーの上にパサっと落ちた。 「もう大丈夫だってさ」 「……わかった」 おれは持ってきた除霊の数珠を手に持ち、ソファーに向けて祈った。どうかこの子が無事天国に行けますように、と。 すると、真っ白い光がソファーを包みだし、宙に浮いていた本も消えていった。 「終わったな……」 「うん……あれ、本も消えちゃったね」 「あぁ……読めはしないけど、特別に一緒に持っていかせた」 「……ふーん、優しいとこあるじゃん」 ユウカはおれの顔を見て、なぜか笑みを浮かべていた。 除霊を完了したおれたちは、再び他の霊を探し始めたのだが…… 「そういえばさ、あの子の読んでた本ってどんなやつだった?」 「エロ本だったけど」 「エロ本かよ!!おい、天国にエロ本送っちゃったんだけど!?」 「なーにハルト、あの本に興味あったの?まぁ、ハルトも男の子だもんね!」 ニヤニヤしているユウカの顔面をひっぱたきたい衝動に駆られたが、おれはかろうじて堪えた。 ◇ その後、おれが天国にあんなものを送った天罰を怖がっていると、ユウカがおれの手を引いてどこかに連れて行こうとした。 「なー、どこ行くんだよ」 「わかんないけど……この女の子の幽霊がハルトに見せたいものがあるんだってさ」 その女の子の幽霊とやらに案内され、おれたちは一つの部屋に入ったのだが…… 「これはすげぇな」 その部屋には、たくさんの絵が飾られていた。 「この子が書いたんだってさ。すごいよね、こんな綺麗な絵を描けるなんて……ん?なになに……そっか、将来は絵描きさんになりたかったのね」 ユウカが少し悲しそうにそう言った。その言葉に、おれも少し俯いてしまう。 「ハルト、この子が最後に描いた絵を褒めて欲しいんだってさ。あそこに裏返しになってるやつ」 「……わかったよ」 もう書けないこの子のために、精一杯の賞賛を送ってやろう。そう思い、おれはその絵を裏返すと…… 『バカ』と、大きく書かれただけの一枚の紙だった。 「待って!!待ってハルト!!もうあの子は成仏しちゃったから!!こんな綺麗な絵を破らないでよ!!」 「うるさい黙ってろ!!ここにある絵なんて全部燃やしてやる!!」 結局、おれをバカにしてスッキリしたのか、その女の子の幽霊は自分で成仏していった。 ◇ ユウカになだめられたおれは、最後の女の子の幽霊を探していたのだが…… 「な、なぁ。ほんとにいるんだよな、間違いじゃないよな?」 「さっきからそこにいるって言ってるじゃん。ハルトの頭に逆さに潜り込んで、足を出して『バルタン星人』って連呼してるわ」 もう突っ込まないぞ。突っ込んでやるものか。 「で、この子は成仏してくれるのか?」 「うん、ただ最後に星を見たいってさ!」 「しょうがないな……じゃあ外出るか」 その女の子の幽霊と一緒に、おれたちは外に出た。幸い、天気は晴れだったから星がよく見える。 一人の幽霊とおれたちは地べたに座り、少しの間無言で星を眺めていた。すると…… 「もう満足したってさ」 ユウカが寂しそうにそう言った。 「わかった。除霊しよう」 「うん……」 おれは数珠を手に持ち、祈りを始めた。この三人の幽霊たちが、天国で穏やかでいられますように、と。 「え?うん、わかったわ!ちゃんと伝えとくから、気をつけて行ってきてね!」 成仏して天国に向かう幽霊に、ユウカは笑顔でそう言った。 「よし、除霊完了だな!今日もありがとな、ユウカ」 「うん!こっちこそありがとね!これで睡眠不足に悩まされなくて済むわ」 ユウカのニッコリ笑顔を見て、おれはつい頬を緩ませた。 除霊の仕事は、誰かに感謝されることも少ないし、幽霊の事情を聞いて悲しくなることが多いけど。それでもおれは一人でも多くの幽霊を救ってやりたい。と、心の底からそう思った。 「ところでさ、最後あの子と何話してたんだ?」 「えっとね。ハルトに伝えたいことがあるからって伝言を頼まれたのよ」 「そうなの?なんて言ってた?」 おれがそう聞くと、ユウカは少し苦笑して…… 「幽霊が見えないなら、除霊師なんて辞めたらって言ってたわ」 「やかましいわ!!!!」
缶コーヒー
コーヒーが苦手だ。理由はシンプル、苦いからだ。 ……半分は嘘だ。コーヒーを見ると、好きだった人を思い出してしまうから苦手だ。 初恋の人だった。とても可愛くて、寡黙で、時より見せる笑顔が素敵な人だ。 家の方向が同じで、ときどき一緒に帰る仲だった。教室では誰かと話している姿を見なかったけれど、帰り道ではぽつりぽつりと他愛もない話をしてくれた。 帰り道、彼女はよくコーヒーを自販機で買っていた。それ美味しいの?って聞くと、美味しいよと笑って答えてくれた。中学生によくある「背伸びしてブラックコーヒーを飲んでいる」という感じではなく、単純にコーヒーが好きなのだと言っていた。 ある時から、私も一緒にコーヒーを飲み始めた。正直言って不味かった。苦いし、少し酸っぱい。彼女には無理して合わせなくていいよと言われたけど、それでも我慢して飲んでいた。 バレバレの見栄。それでも、彼女にカッコ悪いところは見せたくなかったのだ。 無理して飲む私を見て、彼女はくすっと笑ってくれた。 苦いはずのコーヒーが、少し甘かった。 ある夏の日。いつものように缶コーヒーを片手に歩き、気が付けば彼女の家の前まで来ていた。今日もあっという間だったなと、そう思って「またね」と言おうとしたその時…… 「今日親いないんだけど、うち寄ってく?」 頭の中が真っ白になった。恋愛なんて何も知らなかった中学生の私は、その一言だけで心臓がうるさいくらい鳴っていたのを覚えている。 数秒の沈黙。そして…… 「あ、ごめん。テスト近いから帰って勉強したい」 チキった。まじでチキった。ほんとに何してるんだと、過去の自分を全力で殴りたい。 「そっか……じゃあまたね!テストがんばろうね!」 彼女は寂しそうに笑って手を振り、私はその笑顔を見送りながら帰った。もちろんテスト勉強なんて捗らず、テストが終わったら今度こそ遊びに行こうなんて思っていた。 でも、その約束は二度と叶わなかった。 テストが終わった後、彼女は学校に来なくなった。毎日教室を見に行っても、彼女の姿はどこにもない。一日、また一日と時間が過ぎ、心配になって友人に尋ねると目を逸らしながら教えてくれた。 「……あいつ、いじめられてたらしい」 私は言葉を失ったまま立ち尽くしていた。そういえば、教室ではいつも一人だった。そういえば、笑うのは帰り道ばかりだった。思い返せば、気付けることはいくつもあった気がした。 何も気付けなかった自分に腹が立ち、それと同時にあの日の出来事が鮮明に蘇る。 あの日、家に誘ってくれた彼女は何か話したかったのだろうか。助けを求めようとしていたのだろうか。それとも、本当にただ遊びたかっただけだったのだろうか。答えは分からない。もう確かめることもできない。 後悔。後悔。後悔。 ただひたすらに、その言葉だけが頭を埋め尽くした。この日を境に、私はコーヒーを飲めなくなった。 月日は流れ、私は大学生になった。あの出来事以来、彼女には会えていない。成人式や同窓会も彼女の姿はなかった。風の噂で、どこか別の県に引っ越したと聞いた時は少しホッとした。まだ、彼女は生きて元気にやってくれているのではと思えたからだ。 実家に帰省中、ふと私は彼女との思い出である自販機に足を運んでみた。撤去はされていなくて、昔のままそのままだった。商品のレパートリーは少し変わっていたが、彼女の好きなコーヒーは残っていた。 私はお金を入れてコーヒーを買ってみる。ガタンと音を立てて出てくる缶を手に取ると、ひんやりとしていて気持ちがいい。ふと、これを美味しそうに飲んでいた彼女の顔が浮かんだ。 彼女は元気にしているだろうか。もしもう一度会えるなら、あの時何もできなかったことを謝りたい。自己満かもしれないし、もう好きだなんだっていう気持ちがあるわけではないけど。ごめん、と一言だけでも伝えたい。 もう二度と会えないのなら、どうか元気で幸せになって欲しい。そう思いながら、私は手にした缶コーヒーを口に流し込む。 「にが……」 あれから十年近く経っても、やっぱりコーヒーは苦かった。
初めて異文化交流した話
どうもこんにちは。暑いですね。暑くてゆでだこになってしまいそうです。 最近全然ネタを思いつかないため、今回は私が初めて中国の方と異文化交流した時の話をしたいと思います。 友達と東京のクラブへ遊びに行った時のことです。フロアでお酒を飲んでいたら、綺麗なお姉さんに声をかけられました。 「お、これはチャンスでは?」 なんてテンションが上がった私は話しかけてみたのですが、どうにも返事が返ってきません。不思議に思っていると、その人がスマホを見せてきました。 『私は中国人です。一緒にお酒を飲みませんか。』 Google翻訳で入力した文章が表示されていたんです。 私は察しました。この人、日本語話せないのだと。 中国語なんぞまるで話せない私は、仕方なくなけなしの英語で自己紹介したわけですよ。そしたらその人がまー流暢な英語を話しはじめましてね。すごかったです、ペラッペラでした。 いや、私そこまで英語話せないんですけど……。 そんなこんなで、私はカタコト英語とGoogle翻訳を駆使しながら会話を続けました。 ここでは、その中国人の方をAさんとしておきます。Aさんは友達のBさん、Cさんと日本旅行に来ており、日本は初めてだそうです。しかも世界中を旅行するのが趣味らしく、交換したインスタにはヨーロッパやインドネシアなど様々な国の写真が投稿されていました。まじですごかったです。 その後クラブを出て、Aさんともう一軒飲みに行くことになりました。適当な居酒屋に入って話していると、途中でBさんとCさんも合流。まー正直綺麗な方達でした。 中国人女性3人対まともに英語も話せない日本人1人。 これ大丈夫?金取られない?と警戒しました。それか店を出たら怖いお兄さんが待ってるパターンか。 ……もちろん何もありませんでした。疑ってごめんなさい。 話してみると3人とも気さくで、とても楽しい人達でした。Aさんは次の日横浜に行くらしく、私は「明日、一緒に横浜へ行こう」と誘われたため、行くことにしました。なんか面白そうだったので。 翌日、待ち合わせ場所へ行くと迎えに来たのはAさん……ではなく、Aさんが借りたレンタカー(中国人の運転手付き)でした。え、この人お金持ち?って思いました。 車内は運転手さん、中国人女性3人、日本人1人という何とも不思議な空間。緊張して手汗はだらだら。幸い運転手さんは日本語が話せたので、気を遣って私の話し相手になってくれました。本当にありがたかったです。 車に乗って少し経つと、薬局へ寄りたいと言われたので案内しました。薬局へ着くなり、Aさんは次から次へと商品をカゴへ入れてたので私は荷物持ちしてました。 初めて知ったんですけど、外国人旅行客は免税で買い物できるんですね。でも会計はなんと6万円超え。買いすぎでは?と思わず心の中でツッコミました。 その後の流れはまぁ観光ですね。横浜に着いた後、昼ごはんに高そうな焼肉を食べて、赤レンガ倉庫に行って、観覧車に乗って、夕ご飯に天ぷら食べてその日は終わりました。とても楽しい1日でした。 その次の日、私は新幹線の駅にAさん、Bさん、Cさんを見送りました。短い間でしたがとても楽しかったとお礼を言い3人とは別れました。 ちなみにこの3日間の交流で私は一銭も払っておりません。高そうなご飯代も、交通費も全部Aさんが払ってました。まじで何者なんでしょうね。年齢が26歳って言ってたので何の仕事をしているか気になりましたが、結局最後まで聞けませんでした。実はマフィアの娘ですとか言われたら怖いじゃないですか。 さて、ここからが今回一番面白かった話です。Aさんと話す中で、中国について色々教えてもらいました。もちろん中国はとても広い国ですし、人や地域によって考え方も違うと思います。そのため、ここからの話はふーんそうなんだくらいに留めていただければ幸いです。 「中国人の遠慮に対する〇〇」 中国の言葉で「謝謝(シェイシェイ)」というものがあるじゃないですか。ありがとうを意味する言葉ですね。前述した通り、私はその2日間でお金を払っていないため、私は何かご馳走になるたびに「謝謝(シェイシェイ)」と言っていました。 するとAさんが、 「そんなに謝謝ばかり言うのは良くないよ」 と教えてくれました。 Aさん曰く、中国では親しい人に良くするのは当たり前だから、謝謝を連呼してしまうと英語で言うところのNo thank youの意味になってしまうそうです。私が親しい人かどうかは置いておきますが…… つまり、遠慮しすぎるのが好ましくない文化があるわけです。正直驚きましたね。思いやりや謙遜が当たり前の日本と真逆じゃないですか。 あと私のこれまでの中国人のイメージって、結構遠慮しない人やマナーが悪い人が多いイメージがあったんですよ。そのことを正直に伝えると、 「日本人は遠慮がちな人が多いから、日本人から見た中国人は、遠慮を知らない少々図々しい人達に見えてしまうかも。でも、ほとんどの中国人は最低限のマナーは守るし、動画とかで見るマナーが悪い人は一部の人だけだよ」 と、話してくれました。 なんか、日本人とそう変わらないだと私は思いました。 何というか、今までの中国人への偏見が一気に覆された気がしましたね。 「中国人の若者は〇〇」 車で話してる中で何故か政治の話になったんですよね。私も今の日本の政治についてどう思う?って聞かれたのでこう答えました。 「今の若者はほとんど政治に興味ないよ」と そしたらAさんは笑ってこう言いました。 「中国人の若者もほとんど政治に興味ないよ」 なんだ、一緒じゃないか。 ちなみにAさんは某アメリカ大統領のことは嫌いだそうです。 また、今の中国の若者は結構英語を話せる人が多いらしく、グローバルだなぁとも思いました。私も英語を勉強しなくてはなりませんね。 「中国人のご飯事情」 これも驚いたのですが、中国にはご飯を食べる際「いただきます」や「ごちそうさま」を言わないそうです。そもそもそんな言葉はないらしく、私が食べる前に言ってるのをまじまじと見られました。 せっかくだったので、私はAさんに「いただきます」「ごちそうさま」「ありがとう」「どういたしまして」あたりを教えてあげました。 あと調子に乗っていくつか下ネタ教えときました。素直に復唱していたのでちょっと申し訳ない気持ちになりましたが、笑っていたので良しとします。 「中国人のご飯事情2」 ご飯を食べ終わった時に気になったのが、Aさん達はやたら料理を頼んで結構残しちゃってたんですよね。私もそこまで食べれる方ではないので、食べれる量だけ注文しようと提案したらこう説明されたんですよ。 「中国では、お店で食事する際に料理を全部平らげてしまうのはマナー違反である」 これも日本と真逆ですね。日本ってご飯残すと結構怒られますからね。 逆に中国では、「ご飯を全部食べる=満足していない」「ご飯を残してしまう=もうこれ以上は食べれません、満足です」って意味になるそうです。また、食べきれないくらい多く注文することが、お店に対するチップにもなるそうで。もし中国に行った際は試してみようと思ってます。 こうして3日間の異文化交流は終わりました。面白いですよね。海一つ跨いだだけでここまで文化が変わるんですよ。 今はネットが主流の世の中ですので、様々なイメージや偏見があると思います。特にネガティブな情報は広まりやすいですから、他国に悪いイメージがある方もいると思いますし、それが正しい場合もあるでしょう。 しかし例え国が変わっても、そこにいるのは私達と同じ人間なわけで。私たちと同じようにご飯を食べ、笑い、悩み、必死に生きているわけで。 もし、あなたが他国の方と話す機会があったなら、どうか悪い偏見やイメージを一旦捨てて欲しいです。相手をあなたと同じ1人の人間として見て、偏見ではなく対話で判断して欲しいです。そのために、私達には言葉があるのですから。 どうかこの世界の人達が、お互いに分かり合える平和な世の中が来ますように。
おかあさん だいすき
わたしは だいすきな おかあさんがいます おかあさんは せかいいちやさしい おかあさんです おかあさんが つくった らーめんは せかいいちおいしいです あ おかあさん みてみて てすとまんてんとれたの えへへ すごいでしょ おかあさん どうして どうして びりびりにしちゃうの ごめんなさい じがへたで ごめんなさい ごめんなさい わるいこで ごめんなさい いいこになるから いいこになるから だからね ぶたないで おかあさん あ おかあさん きょう おたんじょうびだよね みてみて おはなとってきたの きれいでしょ ぷれぜんとだよ おかあさん いたい いたいよ ごめんなさい おはなとってきて ごめんなさい ごみばこに ないないするから ぶたないで おかあさん あ おかあさん なんでないてるの どこかいたいの おとうさん いなくなっちゃったから ないてるの わたしが よしよししてあげるね あ いたい おかあさん いたいよ ごめんなさい ごめんなさい うまれて ごめんなさい いきてて ごめんなさい おかあさん おかあさん おねがい あけて なかに いれて さむい さむいよ ごめんなさい わるいこでごめんなさい なにもしないから しずかにするから おかあさん なかにいれて あ せんせい こんにちは どうしたの せんせい おかあさん いまいないよ どうしたの あ これ だいじょうだよ ぜんぜんへっちゃらだよ わたしがわるいこだから いけないの うん おかあさんのこと だいすきだよ せんせい どうして ないてるの あ せんせい きょうはね たなばたなんだって おねがいごとかくと かなうんだって なににしようかな なににしようかな そうだ これにしよ 「おかあさんと もっとなかよくなれますように」 あ せんせい どうしたの このひとたち だれ まって まって どこにいくの どこにいくの おかあさん どこにいくの やだよ やだよ つれてかないで おかあさんを つれてかないで せんせい おねがい おかあさん まだかな はやく むかえきてほしいな まだかな まだかな さびしいな さびしいな あ わがままいったら おこられちゃうな わたしは いいこだから がまんできるよ おかあさん あ せんせい ひさしぶりだね うん げんきだよ でもね おかあさんが ぜんぜん むかえきてくれないんだ でもね わたし いいこだから ちゃんと まってるんだ えへへ えらいでしょ あ そうだ きょうはね たなばたなんだって せんせいも おねがいごとしよ わたしもね おねがいごとしたよ みてみて せんせい 「おかあさんと またくらせますように」
子供嫌い
子供は嫌いだ。 すぐ泣くし。 やめてって言っても危ないことするし。 自分のオムツすら変えられないし。 寝て欲しいのに全然寝てくれないし。 関わるメリットなんて何一つない。 「あ…あぅ!……あ…ぱぱ!……」 「あ!あなた聞いた??この子、今パパって言ったわ!」 「………………うん。」 その小さな手を握ると、とても暖かかった。 子供は嫌いだ。 自分の思い通りにならなければすぐ泣く。 やめろと言っても、人前で騒ぎ立てる。 学校で喧嘩をしたと、また先生から連絡が来た。 どれだけ迷惑をかければ気が済むんだ。 「あ……パパ。」 「……どうした?」 「おしごとがんばってね!」 「…………あぁ。」 その日は、なぜかいつもより頑張れた。 子供は嫌いだ。 何を考えてるかさっぱりわからないからだ。 最近は口も悪くなってきた。 部屋に行けば、「勝手に部屋に入るなクソオヤジ!」などと暴言を吐かれる。目上の人に対する敬意すらないのか。 「あ、あなた〜。」 「どうした?」 「これ……」 妻から渡されたのは、綺麗に包装された細長い箱だった。 「あなた来週誕生日でしょ。ちょっと早いけどプレゼントだって。まったく、あの子も自分で渡せば良いのにね。」 「……。」 箱の中身は新品の万年筆だ。きっと自分の、決して多くはない小遣いで買ったのだろう。……感謝の気持ちがあるのなら、直接渡すのが礼儀というものだ。全く何もわかっていない。 おれはそっと、スーツの胸ポケットにそれをしまった。 子供は嫌いだ。 最近、夜遅くに帰ってくることも増えてきた。 化粧やらファッションやらで色気付いてきた。 変な男でも寄ってきたらどうするんだ。 そんなおれの心配も考えて欲しいと、心の底から思う。 「あの子、彼氏に振られちゃったらしいのよ〜。」 「……そうなのか?」 リビングに行くとテーブルに突っ伏して啜り泣いているのを見つけた。 「……彼氏に振られたくらいでメソメソしてたら、この先が思いやられるな。」 「……うるさい、クソ親父。あんたには分かんないでしょ。」 「分かる。……父さんが母さんと出会うまで、何回振られてきたと思っているんだ。」 「………………ふふっ、何それフォローのつもり?」 彼女は赤く腫れた目を擦り、少し笑ってくれた。 子どもは嫌いだ。 手塩にかけて育てても、いつか離れて行ってしまうから。 決して寂しいわけではない。 だが、治安の悪い都会のどこが良いというのだ。 「じゃ、行ってくるね!」 「えぇ、行ってらっしゃい。大学生活満喫するのよ!ほら、お父さんも何かないの?」 そう言われても困る。言いたいことはいくらでもある。 夜更かしするな。 変な男に騙されるな。 ご飯はちゃんと食べろ。 …………。 「風邪……引くなよ。」 「いや、ゼフかよ。」 彼女は呆れたように笑った。 「お父さん、お母さん、ここまで育ててくれてありがと!じゃあ……行ってきます!」 スーツケースを引く音が少しずつ遠ざかっていく。振り返ることなく歩いていく後ろ姿は、いつの間にか大きくなっていた。 「あらお父さん、泣いてるの?」 「……これは汗だ。」 外はまだ肌寒いのに、目から出る汗は止まらなかった。 「あ、お父さんただいま〜!!」 ある日、都会に染まった彼女が久々帰ってきた。 今時の言葉遣いになってるし。 見た目はギャルそのものだし。 こんな風に育てた覚えはないのだが。 「お父さーん」 「なんだ。」 「振袖、変じゃない?」 赤い振袖に身を包んだ娘が、照れくさそうに立っている。ついこの前までランドセルを背負っていたはずなのに。 「……別に」 「ええ〜。」 「似合ってる。」 「ふふっ、ありがと。」 彼女の笑顔は、昔と何も変わっていなかった。 ある日、彼女がろくでもない男を家に連れてきた。 「娘さんをぼくにください!幸せにしてみせます!」 気に入らない。 礼儀正しいのも気に入らない。 真面目そうなのも気に入らない。 娘を見る目が優しいのも気に入らない。 「……お父さん?」 妻に肘で小突かれる。 「いや……」 おれは男を見てこう言った。 「娘を泣かせるな。」 「はい!」 即答なのが、少しだけ癪だった。 ……いつかは誰かのものになってしまう。そんなことは分かっていたし、想像もしたくなかった。でも、純白のドレスを纏った彼女は信じられないほど綺麗だった。 バージンロードの前で腕を差し出すと、彼女は少し照れながら手を添えた。 「お父さん。」 「なんだ。」 「今までありがとう。」 「……まだ早い。」 「え?」 「結婚してからが本番だからな。」 彼女は小さく笑ってくれた。 昔、小さな手でおれの指を握っていたのに、今はおれの腕を支えて歩いている。一歩、また一歩。歩くたびに、胸の奥が苦しくなる。祭壇の前でおれは彼女の手を、新郎へと託した。 「幸せになれ。」 そう呟くので精一杯だった。 やっぱり子どもは嫌いだ。 手がかかるし。 心配ばかりさせるし。 金もかかるし。 ——こうして何度も泣かされる。 ふと胸ポケットを触ると、あの日もらった万年筆がひっそりと収まっていた。
第九話 社交の場では笑顔が大事♡
『もしもし〜、ハロー!私はキラリ!いずれ世界を救う魔法少女だよ♡』 「……もしもし、田辺だけど。ちょっとお願いがあってな。」 『ん〜?』 ベッドの上で寝転がりながら、彼女は気の抜けた返事をした。 「今日の夜の懇親会、また参加頼めるか?」 『えー!!私今日休みなんだけど〜!!』 「奇遇だな、おれもだ。」 『……なーんで私なの?』 「会長のご指名だ。」 『あー……そういうこと。』 一瞬で察したキラリは、盛大にため息をついた。 『あのエロオヤジの相手きついんだけど〜。』 「すまん、おれもそれは耐えてくれとしか言えない……。」 『…………夜ご飯奢ってくれたら行く。』 「いいよ。何でも奢るわ。」 『ほんと!?じゃあ、いつものとこがいいな。あと、準備終わったら迎えきて。』 「了解だ。ありがとう。」 電話を切った後、彼女はしばらく布団に埋もれていたが、やがて観念したようにもぞもぞと這い出した。せっかくの休日だというのに、本当に面倒な話である。 都内某所。高級ホテルの大宴会場は、シャンデリアの光に照らされていた。会場にはスーツ姿の男女が大勢集まっている。スポンサー、政治家、官僚、防衛関係者。テレビで見たことのある顔も少なくない。そんな中、一際目立つ桃色の髪の少女がいた。 『ねぇ田辺。私はいつからお偉いさんの見世物になったんだい?』 「……すまん。」 そうぼやきながらも、彼女は笑顔を崩さない。しかし、その顔には疲労が滲み出ている。無論、隣でボディーガードをしている田辺も同様だ。 魔法少女の戦闘フォームに変身し、純白と桃色のフリルドレス姿になった彼女は注目の的だ。事あるごとに世のお偉い方に声を掛けられ、あれこれ頼み事をされ、写真を撮られ、しまいには勝手に見合い話まで持ち込まれる始末だ。 「まぁでも流石というか、当然というか。こういう時の社交スキルは大したもんだ。やっぱ良子さんの子だな。」 『……母さんなら、もっと上手く媚びるんじゃない?』 「いや、言い方よ。」 そんな軽口を交わしていると、人混みの向こうからふくよかな男性が歩いてきた。両脇にはメイド姿の美女を連れている。会場の空気にまったく馴染んでいないのに、なぜか誰も突っ込まない。 「やぁやぁキラリ、相変わらず可愛いな〜。」 『げ……あ、ううん!お久しぶりです、会長!お元気そうで何よりです。』 「あぁ元気だとも!キラリはどうだ?最近困ってることはないか?なんでも私に言ってみたまえ。」 そう言って、会長は当然のようにキラリの肩へ手を回した。顔が近いうえに香水と酒の匂いが鼻につく。 『あはは……お気遣いありがとうございます。』 営業スマイル。満点。内心は零点だった。 「そうだ。今夜この後、食事でもどうだね?」 『あーすみません、今日はちょーっと予定があるので別の機会に……。』 「そうかい?残念だ。では、また別の機会に誘おうか。」 彼は少し苦笑した後、キラリの隣にいる田辺に目を向けた。いや、睨みつけた。 「おい田辺!」 「はい。」 「最近ちゃんとやってるのか?」 「やってますよ。」 「間違ってもキラリに面倒かけるんじゃないぞ、いいな?」 「会長、なんでぼくには喧嘩腰なんすか。面倒かけられてるのぼくのほうっすよ。」 「ははは!冗談だ、お前の働きには期待しているからな。馬車馬の如く働いてくれ!」 「うっす。定時厳守で頑張りやす。」 会長はそう笑うと、不意に田辺の肩へ腕を回した。そして周囲に聞こえないよう顔を寄せる。 「……あと、良い子がいたら紹介してくれ。もちろん、お前にも回してやる。」 彼は最後にそう耳打ちして去っていった。 『……エロオヤジ。』 「……まぁ、会長はそういう人だから。」 キラリと田辺は目を合わせ、はぁと溜息をついた。 「あらぁ〜、2人してなーに辛気臭い顔してんのよ。」 野太い声が響く。振り返ると、周囲の男たちより頭一つ大きな巨体がずんずんと歩いてきていた。黒いドレスの上からでも分かる分厚い胸板。丸太のような腕。そして艶やかな化粧。筋骨隆々のオネエがそこに立っていた。 『あ!クマノミさん!なんかすごいムキムキですね。』 「そうなのよぉ〜! 最近筋トレにハマっちゃって!筋肉ホルモン増し増しよ!」 彼?は自信満々に力こぶを作るが、着ているドレスの袖が悲鳴を上げていた。 「こんにちは、キラリちゃん。田辺ちゃんも久しぶりね。そんな顔してたら運気下がるわよ?」 「お久しぶりです、クマノミさん。勘弁してくださいよ。ぼく今日非番だったんですよ。」 「あらあら、こんな美少女のボディーガードできるのよ?もっと喜びなさい。ね、キラリちゃん。」 『そーだそーだ。』 「お前なぁ……。」 キラリはケラケラ笑っている。すると何かを思い出したように手を叩いた。 『あ、そうそうこの前はありがとうございました。これお礼の分です。』 そう言って、彼女は札束の入った封筒をクマノミに渡した。 「あら、ありがと。私の性転換魔法が役に立って何よりだわ。でも、あの後私も楽しんじゃったから、お代は半分でいいわよ。」 『いやぁ、でもクマノミさんには色々お世話になってますし……。じゃあ、次依頼する時の前金ってことで!』 「あらあら、口が上手くなったわね!じゃあ、何かあったら私を頼りなさい。田辺ちゃんもね!」 「うっす。」 そんな和やかな空気を切り裂くように、突然大きな声が響いた。 「魔法少女キラリ!!」 『ひゃっ!?』 突然背後からでかめの声を掛けられた彼女は、思わず体をビクッと震わせる。振り返ると、赤と黒のドレスを纏った赤毛の少女がそこに立っていた。 「今日という今日はあんたに文句を言ってやる!」 『え……君だれ?』 「はぁぁぁぁ!?」 赤毛の少女は今にも噛み付きそうな顔で一歩踏み出した。 「私よ!私!!魔法少女ヒバナ!!あんたと何回か任務で一緒になったじゃない!!」 『えー……あー、ごめん。私忘れっぽいんだよね〜。』 「忘れっぽいですって??舐めるのも大概にしなさいよ!!」 目の前の少女は地団駄を踏んでいる。 「あの時も、この前の任務も……あなたが全部めちゃくちゃにしてったんじゃない!!」 ヒバナの怒鳴り声を聞きながら、キラリは首を傾げた。 ――そういえば、そんなこともあった……のかな? 一方ヒバナの脳裏には、キラリとの共同任務の記憶が蘇っていた。
小説ではありません。二
あ、どうもこんにちは。夏ですね。暑いですね。冷房使いすぎて電気代の請求が怖い季節になってきました。 さて、私事ですが。私は夏の期間、母の手伝いも兼ねて小学校の児童会のバイトをよくやるんですね。バイトと言っても、子供たちの面倒を見つつ一緒に遊んでるだけです。 そこで、子供達とは良くゲームをしたりします。しかし、もう成人している人間が一回りも下の子供相手に本気出すわけにもいかず、ゲームでは手を抜いているわけです。うまいこと加減して良い具合に負けてあげる……言わば接待ゲームですね。まぁ子供相手だけでなく、良くしてくれるバイト先の先輩とかにも良くやりますが。 でも小学生ともなってくると、中には生意気なクソガ……ゲフンゲフン、ちょっとヤンチャな子もいるんですね。そういう子に接待ゲームなんかして負け続けると、いつしか調子に乗り始めるわけですわ。 「えー先生弱すぎwww 雑魚じゃん!!雑魚雑魚!!」 「あはは〜、先生また負けちゃった。〇〇君強いね〜(いてこますぞクソガキ)。」 みたいなやり取りをするんですよ。まぁ?私はれっきとした大人ですし?子供の言うことなんかいちいち相手にもしてないわけで。 でもある日、その子(仮にA君としましょう)がボードゲームを持ってきたんですね。中身は将棋やチェス、オセロなど。運ではなく、それなりに実力差が出るゲームです。それを持ってきたA君はまた言うわけですよ。 「先生ゲーム弱いしバカだから、おれ余裕で勝てるわwww」 ——カッチーーン。いいでしょういいでしょう。まぁ?別に煽られてムカついたわけではないですし?こんな調子だと、いつか人様に迷惑かけてしまうかもしれませんし?そう、これは教育です教育。仕方のないことなんです。 幸い、私は将棋もチェスもオセロもスマホアプリでやっていた時期があったため、並の人間……それも小学生相手なら勝てる自信がありました。 そして勝負が始まり、私は大学のテストを受ける時よりも集中力を使い、A君を完膚なきまでにボコボコにしました。 そしたらギャン泣きしちゃった笑 私が勝利の余韻に浸っていると、他の指導員の方が様子を見に来ました。事情を説明すると、 「大人気ないことしないでください。」 そう一言お叱りを受けました。流石に我に帰った私は、目の前で泣きじゃくる子供を見て良心がひしひしと痛むのを感じました。 ここまで色々話しましたが、私の名誉のために言うと別段子供が嫌いとかではなく、ただちょっと生意気な奴をからかってやろうと思ったらこうなったのです。ちゃんと謝りましたからね? しかし、私は思うのです。将来、自分が子を持つことになった時、子供と遊ぶ時が必ず来るでしょう。その時はどのくらい手加減してあげるべきなのか、と。何歳になっても接待ゲームをしていたら、絶対調子に乗って痛い目見る事は目に見えているじゃないですか。それもまた成長するためと言われたら、その通りかもしれませんが……。 皆さんはどう思いますか?
第八話 お姉ちゃん
仕事終わりの人波が、駅前の広場へ絶え間なく流れ出していた。 改札口が開くたびに、黒や紺のスーツがあふれ出し、誰もが家路を急ぐ。高架を走る電車の音、信号機の電子音、どこかの居酒屋から漏れてくる賑やかな声。夕暮れはとうに過ぎ、街は無数の看板と街灯の光で照らされていた。 そんな中、彼女は街路樹のそばに立っていた。お気に入りの服に身を包み、長い黒髪はゆるく巻かれ、小さな銀色のピアスが街灯の光を受けて揺れている。 『あ!!』 彼女の視線が改札口へ向く。人波の向こうに見慣れた姿が見えたからだ。黒のワイドパンツに白いブラウス。ネイビーのロングジャケットを羽織ったその姿は、人混みの中でも自然と目を引いた。落ち着いた大人の色気があり、すれ違う人が思わず振り返るほどだった。 『お姉ちゃん!!』 大きく手を振ると、姉もこちらに気づいて笑みを浮かべる。嬉しくなった彼女は駆け足で姉の元へ行き、盛大にハグをした。 「久しぶり!優子、元気にしてた?」 『うん!めっちゃ元気!』 「そう、良かったぁ。来るの遅れちゃってごめんね。」 『全然大丈夫だよ!』 「じゃ、行こっか。お店は予約してあるから!」 駅前の喧騒から離れ、2人は大通りの少し先の高層ビルに足を運んだ。専用のエレベーターを使い、向かう先は最上階。広がったのは静かな空間だった。磨き上げられた大理石の床。間接照明に照らされた落ち着いたロビー。大きな窓の向こうには夜景が広がり、街の灯りが宝石のように輝いている。 「予約の井原様ですね。いつもご利用ありがとうございます。」 2人を迎えたのは、身なりの整ったウェイターの丁寧な接客。案内されたのは窓際の席だ。夜の街を一望できるここは、まるで空中に浮かんでいるようだった。 「そういえば、これ見たわ!」 席に着くなり、姉は一冊の雑誌を取り出した。タイトルは「魔法少女キラリの大活躍!!」。表紙には先日撮影した写真が使われている。 『あ、それ!』 「そう!魔法少女キラリの特集と写真集。すごいわ優子!可愛く写ってて、お姉ちゃん鼻が高いわ〜。」 『えへへ、可愛いでしょ。』 「ただ……ちょっとこの衣装は大胆ね。私が言えたことじゃないけど、変な人が寄ってこないか心配よ。」 『大丈夫だよ!そんなやつ、返り討ちにできるから!!』 「ふふっ、さすが世界を救う魔法少女ね!」 そう話していると、ウェイターが慣れた手つきで豪華な料理を運んでくる。真鯛のカルパッチョや牛フィレ肉のグリルなど食欲がそそられる。そして、最後はグラスに赤ワインを静かに注いだ。窓の外の夜景を映したワインは、まるで赤い宝石のように輝いていた。 『なんかドラマに出てきそうな料理だね。』 「えぇ、ここの料理は絶品よ。」 『うん、見てるだけですごく美味しそう。あんまこういうとこ来ないから嬉しい。』 「それなら良かったわ。じゃあ、優子の最近の活躍を祝って。」 そう言って姉はグラスを持ち上げる。 「お疲れさま、優子。」 『ありがとう、お姉ちゃん!』 軽くグラスを合わせると、澄んだ音が夜景の広がる店内に響いた。 料理はどれも美味しく、会話も途切れることはなかった。優子は姉の笑顔を見ながら、この時間がずっと続けばいいのにと思う。お互い忙しくてなかなか会えないからこそ、こうして向かい合って話せる時間が嬉しかった。 しばらく他愛もない話をした後、優子は姉にこう尋ねた。 『お姉ちゃんは最近どう?何かあった?』 「あ、実はね……」 姉は少し照れたように笑った。 「彼とね、結婚することになったの。」 『えっ……ほんと?』 「うん!」 姉は嬉しそうに頷く。 『そっか……。』 優子は思わず言葉を飲み込む。驚いたわけではない。姉が彼のことをずっと好きだったのは知っている。それでも胸の奥が少しだけざわついた。 『おめでとう、お姉ちゃん。』 「ありがとう!」 姉は柔らかく笑った。 「付き合ってから長かったなぁ。」 『どのくらいだっけ?』 「もう5年になるかな。途中で別れたりもしたけどね。」 姉は苦笑しながらこう続けた。 「でも結局あの人しかいなかったんだよね〜。」 『……お姉ちゃん、ずっと好きって言ってたもんね。』 「ふふっ、そうね。それに、最近やっと落ち着いてきたし。」 『お仕事も順調なの?』 「うん。」 姉はどこか誇らしげに言った。 「彼、今月もナンバーワンだったんだって。」 『そっか……すごいね、彼氏さん。』 「でしょ?」 まるで自分のことのように笑う。 「ほんと頑張り屋さんなの。」 『……結婚式はやるの?』 「うん、やるつもり。彼がお店を辞めてからかな。」 姉は少し遠くを見るような目をした。スマホを取り出し、待ち受け画面をちらりと見る。 「今すぐってわけにもいかないし、私もまた中国に行かなきゃいけないから。」 『……なかなかハードだね。』 「まぁね。向こうの方がお金になるから。」 そう言って姉はワインを飲み干した。 「もう少しだけ頑張らないとね。」 『……あんまり無理はしないでね?』 「わかってるわ!」 姉はいつものように笑った。優子はそれ以上何も言わなかった。その笑顔を見ていると、不思議と大丈夫な気がしてしまうのだ。 2人が食事を終えた頃には、時計の針は9時を回っていた。 『美味しかった〜。』 最後のデザートまで食べ切った優子は、満足そうにお腹をさする。 「そんなに喜んでもらえると連れてきた甲斐があるわ。」 会計を済ませた姉に続き、二人は店を後にする。静かなロビーを抜け、専用エレベーターへ乗り込む。ゆっくりと下降していく箱の中で、ガラス越しの夜景が少しずつ遠ざかっていった。そのまま1階に着き、外に出た2人を夜の街の空気が包み込んだ。 『気持ちいいね。』 「そうね。」 見上げれば、雲の切れ間から小さな月が顔を覗かせていた。大通りにはまだ多くの人が行き交っている。飲み終わりの会社員や楽しそうに笑い合う学生グループ、手を繋いで歩く恋人たち。 『まだ結構人いるんだね。』 「この辺りは夜でも賑やかだから。」 信号待ちをしながら姉が答える。道路の向こうでは大型ビジョンが鮮やかな映像を映し出し、飲食店の看板が競うように光を放っていた。 『次はいつ会える?』 「うーん、お仕事次第かな〜。またこっちに戻ってきた時に連絡するね。」 『わかった……。お姉ちゃん、あんまり危ないとこは行かないでね?ちゃんと連絡してね?』 「大丈夫よ。お姉ちゃん慣れてるから!」 『……うん。』 2人は駅前へ向かってゆっくり歩いた。先ほど待ち合わせをした広場も、今は人通りがまばらになっている。改札口の上にある電光掲示板には、次の電車の時刻が表示されていた。 「じゃあ、ここまでね。」 『うん。』 足を止める。さっきまで途切れることなく続いていた会話も、別れ際になると不思議と言葉が少なくなった。 優子は少しだけ視線を逸らしながら言う。 『今日はありがとね。』 「どういたしまして。」 『ご飯もおいしかったし、楽しかった。』 「私もよ。」 姉は柔らかく微笑んだ。 「じゃあまたね、優子。」 『うん、お姉ちゃんも元気で。』 姉の姿が改札の向こうへ消えていく。彼女は寂しそうに、その背中を見つめていた。いつまでも、いつまでも。 『幸せなら、オッケー……だよね?』 夜空を見上げると、街の灯りに負けそうな小さな星が、ぽつりと瞬いていた。胸の中に残る気持ちを抱えながら、彼女もまた自分の帰る場所へ向かって歩き出した。 この夜が、姉との最後の思い出になることを。彼女はまだ知らなかった。
タイムマシン
「蓮……今日もやってるのか?」 ガレージのシャッターをくぐった瞬間、むわっとした熱気が全身を包み込んだ。その暑さに思わず顔をしかめる。 「あぁ、陽介か。」 蓮はそう答えて、こちらに一瞥することなく目の前の機械をいじり始める。金属部品の匂い、無数の配線、見たこともない装置。いつ来ても変わらない光景だった。 「相変わらずあっついなこの部屋。」 「まぁ夏だし。」 額に滲んだ汗もお構いなしに、蓮は機械の端子を繋いでいる。おれは近くにあったパイプ椅子へ腰を下ろし、ため息をついた。 「なぁ、おれ達もう三十だよ。いい加減、安定した仕事探して、家庭持つとかしないの?」 「ないな。」 間髪入れずの即答に、おれは思わず苦笑した。同級生たちは家を建てたり、子供を育てたり、出世競争に頭を悩ませたりしている年齢だ。それなのにこいつは……あの時からずっとここに籠っている。 「おれにとって、これを完成させることが最優先事項だ。」 「……老後の貯金とかは?」 「金なら問題ない。副業で売ってるガラクタが結構売れてるから。」 「まじかよ、この天才め。」 おれがそう言うと、蓮は少し肩をすくめた。 十四歳で海外の大学へ飛び級し、何かの論文を書けば研究者が騒ぎ、適当に作った装置をネットへ流せば企業が群がる。平凡なサラリーマンのおれとは別世界の人間だ。 そんな天才が作ろうとしているのはタイムマシンだ。過去や未来を行き来する、誰も実現できなかった夢の機械。歴史上、それに挑んで敗れた人間は数え切れない。 以前、興味本位で仕組みを聞いてみたことがある。 『……一般相対性理論がどうのこうので……超伝導リングがどうたらこうたら……因果律そのものが…………』 結果、五分も聞かず理解を諦めた。おれのチンケな頭は圧倒的情報量を処理できなかったのだ。 蓮がタイムマシンに執着している理由は、死んだ妹を救うためだ。 十五年前の不運な事故。下校中、暴走したトラックが蓮と妹の紫苑に突っ込んだ。衝突の直前、紫苑は蓮を突き飛ばし、そのまま轢かれて死んでしまったのだ。 おれは今でも覚えている。葬式の日の蓮の顔を。泣きもせず、ただ何かが壊れたみたいに静かだった。 そして数日後、こいつは言ったのだ。『タイムマシンを作る』と。当時は誰も本気にしなかった。おれもそうだ。でも十五年経った今、蓮を笑う人間は一人もいない。 「ここが違う……?いや、やっぱりここをこうして……。くそっ!!もう少しで完成しそうなのに!!」 妹を助ける、そのためだけに十五年。常人ならとっくに諦めるであろう苦行の道を歩き、タイムマシンはついに完成間近まで来ていた。やっぱりこいつは天才だ。 「紫苑を助けられたらさ。」 気づけば、おれはそう口にしていた。蓮の手が一瞬止まる。ほんの一瞬だけ。 「また三人で遊びたいな。」 静かな沈黙が落ち、機械の駆動音だけが流れていく。 「そうだな……。色んなとこ連れてってやりたい。」 蓮が少し笑ってそう言った。その顔は昔のままだった。妹の話をする時だけ、こいつは十五年前の兄に戻るのだ。 「兄妹で旅行行けばいいじゃん。」 「ありだな。そん時はお前も来い。」 「え?なんでだよ。」 「紫苑が喜ぶから。」 「そうなの?」 「うん。あいつ、陽介のこと好きだったんだよ。」 「……は?」 思わず変な声が出た。 「……まじ?」 「まじ。」 「全然気づかなかったんだけど。」 「だろうな。」 蓮が苦笑する。 「あいつは恥ずかしがり屋だったから。本人も最後まで言えなかったし。あの日だって、バレンタインのチョコ買いに行こうとして……それで……」 言葉が途切れる。沈黙が流れ、部屋の温度が少し下がった気がした。もちろん気のせいだ。それを察したおれも蓮も黙ったままだった。十五年経っても、傷は簡単に治らない。 「おれ、そろそろ行くよ。完成するといいな、タイムマシン。」 「……あぁ。まー今夜あたりまた起動実験してみる。」 「できたら教えてな。」 「もちろん。」 ガレージを出ようとしたおれを、蓮は不意に呼び止めた。 「陽介。」 「ん?」 「ありがとな。」 「……急にどうした。」 「……別に。」 視線を逸らす蓮を見て、おれは少し笑った。ありがとな、その言葉が妙に胸に残っていた。 その夜のことだった。蓮から急にLINEが来た。 『陽介!!ついにタイムマシンが完成したぞ!!』 そのメッセージを見た瞬間、思わずベッドから飛び起きた。 「まじか!!」 すぐに返信しようと、文字を打つ手が震えてしまう。 『おめでとう!!よくやったわ、まじで!!』 『さんきゅ!!』 大切な友人が、積年の夢を叶えたのだ。おれは自分のことのように嬉しかった。 『完成はしたけど、制限が色々ある。使えるのも一回だけだ。』 『一回だけ?』 『ああ。でも十分だ。』 続けてメッセージが届く。 『今から行ってくる。』 短い文章だった。けれど、そこに込められた覚悟は痛いほど伝わった。 『ほんとに行くの?』 『もちろんだ。十五年かかったんだぞ。』 『わかった。気を付けろよ!あと、成功したら連絡してくれ。』 少し間が空いて、やがて返信が来た。 『任せろ。』 それが、おれと蓮の最後の会話になった。 スマホの画面を見つめながら、おれは小さく笑う。十五年かけて、あいつは本当にやり遂げたのだ。馬鹿みたいな夢を。誰も信じなかった夢を。妹を助けるためだけの夢を。 友人の吉報を祈り、おれはそのまま眠りに落ちた。その夜は、不思議なくらいよく眠れた。 ……。 …………。 ……………………。 夏の終わり。空が高く、風が涼しい穏やかな日に、おれは妻と墓参りに来ていた。 「もう十五年になるんだね。」 彼女が小さく呟く。 「早いもんだな。」 「うん……。」 二人で墓前に花を供える。墓石にはおれの友人の……蓮の名前が刻まれていた。 「あの時お兄ちゃんが助けてくれたから、私は……。」 彼女は空を見上げてこう続ける。 「たまに思うの。もし、私じゃなくてお兄ちゃんが生きてたらって。お兄ちゃんなら、きっとすごい発明とかして色んな人に必要とされたんじゃないかって……。」 「……そんなこと言うなよ。それに、もし紫苑が死んでたとしても、あいつならどんな手を使っても助けようとしたさ。」 「……そうかな?」 「あぁ、だってあいつシスコンだったし。」 おれがそう言うと、彼女は少し苦笑した。 「確かに。」 「何なら、人生全部賭けてタイムマシンでも作ったんじゃないかな。」 そう言ってから、胸の奥が熱くなった。『タイムマシン』その言葉が、なぜか頭に引っかかる。何か大切なことを忘れてしまったみたいに。 「……蓮なら作れたかもな。」 冗談めかしてそう言うと、彼女はふふっと笑った。 「そうだね。お兄ちゃん天才だったもん。」 「そうそう。」 その時、雲の切れ間から差し込んだ陽射しが墓石を照らした。刻まれた名前がわずかに光を反射している。おれはしばらくそれを見つめたあと、静かに口を開いた。 「蓮、お前の大事な妹はおれが守る。」 彼女が驚いたようにこちらを見る。 「絶対幸せにする。」 おれは彼女のお腹に目を向けた。その中には新しい命が宿っている。彼女の伴侶として、彼女の兄の友人として、そして生まれてくる子の父親として。今度はおれが、必ず守ってみせる。 「だから安心してくれ。」 彼女は少し目を潤ませながら笑った。 「ありがとう。私、今すごく幸せだよ。」 その瞬間、遠くから聞こえていた蝉の声が不意に途切れる。墓地を包んでいた静けさが、どこか心地いい。 「紫苑、そろそろ帰ろっか。」 「うん。」 帰り際、彼女は墓石に向かって手を振った。 「また来るね、お兄ちゃん。」 墓前に供えた花びらが一枚、ゆっくりと石畳へ落ちた。まるで長い旅を終えた誰かが、ようやく肩の荷を下ろしたみたいに。
第七話 スキャンダルにはご注意を!!
『ハロー!私はキラリ!いずれ世界を救う魔法少女だよ♡今日は宣伝のために、雑誌用の写真撮影してま〜す!』 眩しい照明が降り注ぐスタジオの中央で、彼女は満面の笑みを浮かべた。 肩や脚を大胆に露出した衣装は、一般的なアイドルのグラビアと比べてもかなり際どい。それでも彼女は慣れた様子でポーズを決め、次々とシャッターを切られていく。 「はい!オッケーです!一旦休憩入りまーす。」 『ふぅ……ずっとポーズしてるのも大変だね〜。』 張り付けていた営業スマイルを少しだけ緩めながら、彼女は楽屋へ戻った。椅子に座り、押し寄せる疲労感を感じていたところ、マネージャーが紙コップを差し出してくる。 「お疲れ様です!どうぞ!」 『わぁ、レモンティー! ありがとうございます!』 大好物を受け取った彼女は、嬉しそうにそれを一口飲んだ。 『まだ撮影続きそうですか?』 「それが……。」 マネージャーは少し困ったような顔をした。 「実はディレクターとADが揉めてまして。」 『あー。さっきから怒鳴り声聞こえてましたね。』 その瞬間、まるで噂をすれば何とやらと言わんばかりに、隣の部屋から怒声が響いた。 「こんな写真で売れると思ってんのか!!」 壁越しでもわかるほどの大声だった。 「世間はもっと過激なもん求めてんだよ!!」 「ですが……彼女は政府公認の魔法少女です。炎上したらスポンサーどころか警視庁まで来ますよ……。」 「そんなことは百も承知だ!だからこそギリギリを攻めるんだよ!」 彼女はレモンティーを飲みながら小さくため息をついた。 『面倒な予感しかしないなぁ。』 数分後。 スタジオへ呼び戻された彼女の前にADが現れた。しかし、その表情はどこか沈んでいる。 「キラリさん……。」 『どうしました?』 「その……次の撮影なんですが。」 ADは申し訳なさそうに衣装を差し出した。それを見た瞬間、彼女は思わず眉をひそめる。 布面積が極端に少ない。雑誌のグラビアというより、AVを想定しているような代物だった。 『えっと……これは?』 「すみません……。」 ADは肩を落とした。 「僕も反対したんです。でもディレクターがどうしてもって。」 苦しそうな声音だった。 「本当はこんなお願いしたくないんですけど……立場上、逆らえなくて。」 彼女はしばらく衣装を見つめたあと、小さく笑った。 『ちょっと待っててください。』 彼女は足早に、ディレクターが待機している楽屋へ向かった。 ノックもそこそこに扉を開く。 『ディレクターさん、少しいいですか?』 「ああ、キラリ君か。」 ディレクターは椅子にもたれながら笑みを浮かべた。 「新しい衣装は見たかい?」 『見ました。』 「どうだい? 君の魅力を最大限に引き出せると思うんだが。」 『いやぁ……ちょっと布が少ないかなって。』 「そうかな。まぁ、今どき清純路線だけじゃ弱いんだよ。」 ディレクターは肩をすくめる。 「話題にするには、少しくらい攻めないとね。」 『でも、今回はアダルト向けの企画じゃないですよね?』 「そんな細かいことは気にしなくていいんだよ、キラリ君。」 ディレクターのその態度に彼女はうんざりした。この人は、自分が押し切れると思っているのだと。 『仕方ないですね。じゃあこれを。』 彼女は懐から一枚の写真を取り出し、それをディレクターに見せつけた。 「なんだそれは?」 ディレクターは何気なく写真を受け取った。そして、それを見た彼の表情はみるみる凍りついく。 深夜のホテル。若い女性。腕を組みながら入館する自分の姿。どこからどう見ても、言い逃れのできない一枚だった。 「な、なぜ……。」 『この子、最近話題のアイドルグループの子ですよね?しかもディレクターさんは既婚者だし、これネットにばら撒いたら面白そうですよね。』 「……脅しのつもりか?」 『そんなつもりはありませんよ♡』 「……。」 『それで、私の撮影衣装なんですけど……。』 「わかった!!すまない、さっきのは軽い冗談だよ。あはは……撮影はさっきのやつでいいから。」 冷や汗ダラダラでそう言うディレクターに、彼女はニッコリ笑いかける。 『ですよね!冗談ですもんね!あとADさんのこと、あんまいじめないであげてくださいね!』 彼女は軽くウインクをして、楽屋を去っていった。 その後の撮影は驚くほど順調に進んだ。余計な横槍も入らず、スタッフの空気もどこか明るい。予定通り全工程が終了した頃には、すっかり日も傾いていた。 「キラリさん!」 帰り際、ADが駆け寄ってくる。 「今日はありがとうございました!」 『いえいえ!ADさんもお疲れ様です!』 「撮影の時はすみませんでした。急な衣装変更、ディレクターが考え直してくれたんですけど、何かあったんですか?」 純粋な疑問を向けられ、彼女は人差し指を唇に当てた。 『乙女の秘密です♡』 スタジオを後にした彼女は、密会写真を「#業界の闇」のタグを添えて投稿した。