叶夢 衣緒。/海月様の猫
697 件の小説叶夢 衣緒。/海月様の猫
自己満です。 少し投稿頻度落ちてます。 ※フォロバ目的のフォローはしません。フォロバも期待できないと思います。 2023年 2月27日start 3月3日初投稿
未完成
気づいて欲しかったよ 気づいて欲しかったな ポジティブなんかじゃないんだ 明るくなんかないんだ “悩みなんてないよ” 嘘だって気づいて欲しかったな ちょっと我慢強いだけ。 「しにたい」 そう検索かけて出てくるのは 助けた気になってる人達のエゴと 綺麗事だけ みんな、みんな何かを持っていて 才能がないなんて嘆いてるあの子も 頭が良くて 実話を元にした暗い曲を書いてるアーティストも 曲が作れたり 歌が上手かったり 絵が描けたりするわけで 僕だけこの世界で生きてる価値がないなんて 神様はおかしいよね どうしてこんな出来損ないの 未完成を作ったの
忘れるもの、届くもの
人は一番最初に声を忘れるらしい あれって 思った時には もう君の声と喋り方が思い出せなくなって 焦った時には 脳に霧がかかったように 顔がぼやけてく 写真を見ても 他の表情が思い出せなくなって だけどね 最期の瞬間まで届くのも 声なんだって 遺される人、 逝ってしまう人。 忘れるもの、 届くもの。 世界は残酷だよね
誕生日
あんなに待ち望んでた 誕生日 家族に囲まれて ケーキのろうそくを吹いて たくさんのプレゼントを貰って その中心の僕は笑顔だった “毎日が誕生日だったらいいのに” とか思って “それだったらすぐ歳とっちゃうよ” なんて言われて やっぱり嫌かも… なんて思い直して いつからだっけな 誕生日が最悪な日になったのは いつからだっけな 誕生日を迎えることが怖くなったのは いつからだっけ 笑うふり 喜ぶふりが上手くなったのは そうだ 君がいなくなったあの日だからだ。
【第2回NSS】ひぐらしの声と
島にはただ一つの学校、そしてずっと家族同然に過ごしてきた幼馴染たち。 その存在が、私の心をいつも柔らかく満たしていた。放課後の教室、窓からは潮風とともにひぐらしの声が遠くから忍び寄る。それは、夏の終わりと、私たちの幼い日々の終幕を静かに告げる音だった。 高校進学には島を出なければならない。誰もが知っていたことだけど、その真実が近づくにつれ、ひぐらしの静かなその声、響きは胸の奥をぎゅっと掴む。幼なじみの笑顔、交わした秘密の約束、夕焼けに染まる砂浜――ひとつひとつが精一杯輝いて、だけど儚く散る宝石のように感じられた。 ある夕暮れ、そっと島に残る幼馴染へ告げた。 「離れても…またこの声を聴きに帰るね」 その言葉に、「うん」とだけ頷いた彼の瞳には、震える光があり、“カナカナ…”とひぐらしの声が、まるで再会の約束のように深く寄り添っていた。 フェリーの汽笛とひぐらしの声。 島を離れるその日、私は潮風に背を押されるように一歩踏み出す。けれど振り返ると、その声がまだ鼓膜に残り、心に確かな帰る場所の温もりを灯してくれている——そう信じて、歩みを進めた。
すき
きらい って言われたら悲しいし すき って言われたら嬉しいし 人間なんて単純なのに どうしておかしいって言われなきゃいけないのかな 「好き」 って言っただけなのに 君は俯いたまま 制服のスカートを翻して逃げちゃった 「好き」 って言っただけなのに "ガチっぽくて気持ち悪い” なんて言われちゃったよ 私の好きは あの子が彼氏に言う好きとは違って 友情の好きとも違って 誰にも認めてもらえない
今日も明日も
報われなくて 比べて比べて 消えたくなって それでも今日も生きている 飛んでも飛んでも 飛びきれなくて 向こう側にはいけなくて 悲しみと 塞がらない傷だけ 増えていく 傷口を広げていく 刃が 抜けないまま 今日も明日も 日常へ
「第7回N 1」沈黙の楽譜
題材▶︎おもい違い あいつのピアノは、うるさかった。 静かな放課後、校舎の音楽室からいつも聞こえてくるガンガンと乱暴な和音。ドア越しでも手加減なしに響いてくるその音に、俺はずっとイライラしていた。 「なんであんなに叩きつけるように弾くんだよ……」 つい愚痴をこぼすと、隣の席の茉奈がクスッと笑った。 「中野くんってさ、音にうるさいよね」 「うるさくねえよ。ちゃんとしたピアノ聴いたら、あんなの耳障りだってわかるよ」 俺は小さい頃、クラシックをやっていた。けど、辞めた。理由は単純。コンクールで連続して負けて、自信をなくしたからだ。 以来、俺はピアノに一度も触れていない。 そして音楽室のうるさいピアノは、今でも俺の中の何かをかき乱してくる。 その音の主は、三組の佐伯樹李だった。 無口で、どちらかといえば地味なタイプ。音楽室にこもって、放課後もずっと弾いている。しかも、譜面も読めないという噂まである。 「下手なのに、なんであんなに毎日やってんだよ」 誰に聞かせるでもなく、ただ弾いて、弾いて、また弾いて。 まるでピアノに怒っているみたいに。 ある日、放課後の図書室で偶然、佐伯と遭遇した。 「あっ……ごめん。借りたかったの、これ?」 彼が手にしていたのは、ピアノの楽譜だった。バッハ、ショパン……いろんなジャンルの曲集。 「……ああ。別に、いいよ」 なぜか、俺の口から出たのは怒りではなく、呆れにも似た興味だった。 数日後、音楽室の前を通りかかったとき、また音が聞こえた。けれど、今日は少し違った。 まだ荒い。でも、どこか優しくなっていた。 気づけば俺は、ドアに耳を寄せていた。 そのとき、音が止まった。 「……誰か、いるの?」 ドアが開いた。そこには、汗で前髪が濡れた佐伯がいた。顔が驚いていたけど、俺もなぜか逃げなかった。 「……なんでそんなに必死に弾くんだ?」 ふと、口から出ていた。 佐伯は少し戸惑ったあと、ぽつりと答えた。 「……弟に、聞かせたいんだ」 弟は小さい頃に病気で、耳が聞こえなくなったという。 それでもピアノが大好きで、家にある古い電子ピアノの鍵盤に手を置いては、微かな振動で音を「感じて」いたそうだ。 「音楽って、聞こえなくても“伝わる”んだって思った。だから……俺は、あいつに伝えたいんだ。音じゃなくて、“気持ち”を」 俺は、思わず黙った。 「でもさ、俺、楽譜読めないし、教室にも入れなかったし……先生にも相手にされなかった」 佐伯の言葉が刺さった。 俺は、音が聞こえすぎたせいで音楽をやめた人間。 佐伯は、音が「伝わらない」世界の中で、伝えることをあきらめなかった人間。 「……おもい違い、してたかもな」 俺はそうつぶやいた。 音がうるさいとか、荒っぽいとか、勝手に決めつけていた。音楽をやる資格があるのは、技術のある人間だけだと。 でも、佐伯のピアノには、何かがあった。 それはきっと、聞こえない耳にも届くものだった。 その翌日から、俺は音楽室に通うようになった。 ピアノを弾く佐伯の横に立ち、指の動かし方を教え、リズムを合わせ、たまに冗談を言い合った。 「譜面、少しずつなら読めるようになる。まずはCの音、ここ」 「わかった……けど、これ覚えるの、地獄だな」 笑い合ううちに、俺の心も少しずつほぐれていった。 昔の自分を思い出すのは、まだ苦しかったけれど、佐伯となら向き合える気がした。 その冬、佐伯は文化祭で、弟のためにピアノを弾いた。 曲は、オリジナルだった。タイトルは「ふたり」。 楽譜もない、自由な演奏。 でも、会場は静まりかえり、終わった瞬間には大きな拍手が起きた。弟は前列で、目に涙を浮かべていた。 音楽が、たしかに伝わったのだ。 春、佐伯は音大の付属学校に編入した。俺は大学で音響の勉強を始めた。 あの冬以来、俺もまた、少しずつピアノを触るようになった。 「音って、形がないくせに、残るよな」 ある日、音楽室でふとつぶやいた俺の言葉に、佐伯はうなずいた。 「音は、聞こえるものじゃなくて、感じるものなんだって思う」 そう言って笑うその顔を、俺はきっと忘れない。
扉。
霧が晴れぬ街に、一つだけ光る扉があった。 リルは12歳の誕生日、祖母からその扉の鍵を渡された。 「選ばれた子だけが“向こう側”へ行ける。けれど、望んだものを手に入れるには、何かを置いてこなければならない。」 祖母の言葉も、扉の伝承も、ずっと昔話だと思っていた。だが鍵を差し込んだ瞬間、そこにはこの世のものとは思えない世界が広がっていた。 空は紫、足元は星のかけら。無数の扉が宙に浮き、開くたびに違う世界が覗く。 「君が新しい来訪者か」 声の主は、真っ白い肌と髪を持つ綺麗な少年だった。 「ここでは願いが形を持つ。だが、願いの重さは対価で決まる」 リルは考えた。 私の願い事。それは、 母を病から救うこと。 「それが君の願いならば、君自身の未来を差し出せ」 「未来?」 「君の余生をだ。その分君の母は生きることができる。この願いを実行するかは君次第だ」 リルは硬く鍵を握りしめた。 俯いた時に目に入った自分の手は震えていた。 悩んだ末に、うなずいた。 少年が霧をまとわせ、リルの胸に扉の光が宿った。 その瞬間母の病は癒え、街の霧も晴れた。 リルは顔を上げて微笑んだ。 どんな大人になるかを夢見ることは許されない。 だけど、これが自分の選んだ未来だった。 リルがいなくなった街で、祖母がぽつりと言った。 「選んだ道が正しいかなんて、誰にもわからない。でもね、誰かのために未来を差し出した子は―きっとどこかで新しい扉を見つけるよ」 祖母は空を見上げた。そこには新しい星がひとつ、瞬いていた。
未来に進む
港の見える小さな町で、舞花は最後の冬を過ごしていた。高校生活も残すところ、あと数週間。 駅のホームで電車を待つ時間、放課後の空気の匂い、制服のポケットに残る寒さ―すべてが終わりに向かっているような気がして、胸が少し痛む。 舞花には、言えなかった想いがあった。 美玖、幼稚園の頃からの幼馴染。声がよく通って、誰にでも優しくて、けれどどこか遠くを見ているような目をしていた。最初はただの幼馴染だった。でも、気づいた時にはただの“友達”“親友”ではなくなっていた。 美玖のよく響く声が、長い茶色っぽい髪が。制服のリボンを解く仕草が、頭のどこかにこびりついている。舞花の心は、それからずっと美玖ので満ちていた。 おかしいってわかっていたからこそ、関係が崩れてしまうことが怖かったからこそ。 想いは伝えられないまま、季節は巡っていった。 卒業式まであと数日というある日、美玖が引っ越すことを打ち明けられた。美玖の父親の転勤で、卒業を待たずに都会へ行くのだと。胸がぎゅっと縮こまった。卒業式してしまったらもう会えないかもしれない。 その夜、舞花は震える手で便箋に向かった。 美玖へ ずっと言えなかったけど、私は美玖のことが好きです。 友達じゃなくて、もっと違う、“好き”です。 笑う顔も、真剣に話を聞いてくれる横顔も、誰にでも優しく接するところも。 ずっと仲良くしてくれてありがとう。 伝えたいことは沢山あるのに、なんでか言葉にできないや、 ただ、これだけは伝えておきたかった。 ありがとう。ずっと、好きでした。 舞花 その手紙を、翌朝こっそりと美玖のロッカーに入れた。誰にも見られないように、息を潜めて。 けれど、美玖はその日、学校に来なかった。 そしてそのまま、彼女が姿を見せることはなかった。 手紙が届いたのかどうか、それすらわからなかった。 スマホもある、新しい住所だってわかる。連絡の手段はいくらでもあった。 だけど、なぜかできなかった。怖かったのかもしれないし、新しい生活を始めた美玖を縛り付けたくはなかったのかもしれない。都会の暮らしが充実している証であるように美玖から連絡が来ることもなかった。 私達の10数年の友情は消えていた。 卒業式の日、校庭の桜はまだ咲きかけだった。あの春、花は少し遅れていた。舞花はひとり、美玖のロッカーの前にいた。確認したかったけど、開けることはできなかった。 時は、静かに過ぎていった。 それから5年が経った。大学を卒業し、東京で就職し、毎朝の満員電車にも少し慣れてきた頃。ある日曜日、舞花はひとりで近くのカフェに入った。注文を終えて席に着くと、誰かの視線を感じた。 「……舞花?」 顔を上げると、そこにいたのは―美玖だった。 思わず言葉を失った。5年ぶり。あの春以来だった。 「久しぶりだね。こんなとこで会うなんて」 私達は手を取り合って再会を喜んだ。 美玖は昔と変わらず、穏やかな笑顔をしていた。けれど、大人びた雰囲気が加わっていて、どこか少し、遠く感じた。 話を聞けば、美玖も東京で働いているらしい。偶然、近くの会社で打ち合わせがあったという。数分だけだったけれど、二人はまるで時間が巻き戻されたように、昔の話をした。 そして、別れ際―舞花は心を決めて、聞いた。 「あのとき、手紙……読んだ?」 美玖は少し驚いた顔をしたあと、首をゆっくりと横に振った。 「……え? 手紙? ごめん……全然、知らなかった」 その瞬間、胸の奥で何かがふっと消えた。 ああ、やっぱり。届いていなかったんだ。 でも、不思議と涙は出なかった。 「そっか。ううん、なんでもない」 微笑んでそう言った舞花に、美玖は何かを感じ取ったようだったが、何も聞かずに「またどこかで」と言って別れた。 それが、舞花が美玖に会った最後だった。 今でも、時々思い出す。 あの手紙。あの日の港の風。言えなかった言葉。 だけど、後悔はしていない。 あの気持ちは、本物だったから。 たとえ届かなかったとしても、誰かを本気で想った季節があったことは、人生の中で、きっと大切な光だ。 たとえ、あんなに長い間一緒にいた絆が一瞬にして消えてしまっても。 舞花は今日も、忙しない東京の街を歩く。 春の匂いが少しだけ、あの港町を思い出させた。
合作企画 魔法が解ける、その前に。 前日譚 瀬亜side『未来と生きる希望』
ぽつ、ぽつ、ぽつ。 窓の外から聞こえる雨音が、リズムのない子守のように、静かな保健室を満たしていた。 誰もいない部屋。真っ白な天井が雨に霞んだ空と重なって、まるで世界の色が少し薄くなったみたいだった。 瀬亜はそっと体を起こし、窓の外を見た。苦しさと情けなさで雨に漂れる校庭がどこか滲んで見えた。 「…また、途中で倒れちゃったな…」 苦笑まじりに呟いて、瀬亜は少しだけ息を整えようと深く呼吸をした。冷たい空気が流れ込んできて息を吸おうとするたび咳が止まらなくなった。 今日は体育の授業だった。無理をしないようにって言われていたけど、みんなと同じように走ろうとして、途中で視界が真っ白になった。 「ごめんね、って…言いたいけど…みんな、やさしいから…」 だからこそ、申し訳なさが胸に残った。自分はいつも「大丈夫」と笑うことしかできない。 …だけど、雨の日は、少しだけ楽になる。 理由はわからないけど、昔からそうだった。雨の匂いを吸い込むと、胸の奥のざわめきが静かになっていく。 それが不思議で、でも少し嬉しくて。 瀬亜はふらつく体を立て直してベットから降りて窓辺に歩いていくと、雨に薄れた校庭を見つめた。 「ねえ、雨さん。今日も、ありがとうー」 そっと窓を開ける。 ひんやりとした空気が類をなで、細かな雨粒が手のひらに落ちてきた。 そのときだった。 「…え?」 手のひらに落ちた雨粒が一まるで意志を持ったように、ふわりと宙に浮いた。 目の前で、水の粒がふるふると震える。 驚いて声も出せないまま、瀬亜はその動きをただ見つめていた。 「これ…」 彼の手のひらに吸い込まれるように、雨粒が染み込んでいく。そしてその瞬間、いつも感じる胸の痛みと少しの体育の後から消えない締め付けるような息苦しさがふっと和らいだ。 体が…軽い。 視界が、明るくなる。 まるで水が、瀬亜の中の何かを癒してくれたようだった。 「…ぼく、なんでこんなこと…できるの…?」 水は彼の周囲に集まり、空中で踊るように形を変え始めた。細く、鋭く、しなやかな光の帯一やがて、それは一本の“剣”の形になった。 それは刃のようでいて、触れれば消えてしまいそうなほど透明だった。 けれど、それを見つめる瀬亜の胸には、確かな熱が灯っていた。 「…夢、、なのかな」 静かな保健室に、雨音が優しく響く。 まるで夢じゃないよと答えるように。 瀬亜は、そっと微笑んだ。 「ありがとう…ぼく…この力、大事にするよ」 握りしめた手の中に、かすかに残る水の感触。 それは、ただの魔法ではない。 雨の日にだけ与えられた、小さな祝福一そして、彼が“生きている”と感じられる、たったひとつの確かな証だった。