速水実弥
16 件の小説第六話 幸せな見舞い
「母さん」 涼し気な病室のカーテンが揺らぐのと同時に、1人の少年の声が木霊する。 「そら、来てくれたの」 「四月一日招子」と書かれたベットに横になる黒の髪と少しやつれた顔がこちらを覗いた。 「いつも来てもらっちゃって悪いね」 「気にしなくていいよ 母さん体悪いんだから、今ぐらいゆっくりしないと」 ベッドの脇の机には美しい花々と簪がコトンと音を鳴らして置かれ、慣れた手先でビニールに包まれた花をバラしていった。 その姿は、お世辞にも高校生とは言い難い雰囲気を帯びていた。 「そら、髪結んでくれない?」 「もちろん」 これはルーティーンだ。 いつも見舞いに来た時は髪を結う。 1本の簪でまとめる簡単なお団子ヘアだが、黒い髪に簪が映えていて蒼空も招子もお気に入りの髪型だった。 「お客様〜これでよろしいですか〜」 「大満足ですよ〜」 クスクスと笑いながら言葉を交わす。 蒼空にとってこの空間は幸せなものだった。 「もう桜も散っちゃったねぇ」 「そうだなぁ…今年は外に出て桜見れた?」 「うん、お医者さんが“病院内だったら外出てもいい”って許可出してくださったから」 …それから時間まで話すこと20分。 「じゃあ、そろそろ帰るよ 体、気をつけてくれよ母さん」 「ありがとう。またね」 暖かなハグを交わして病室を後にする。 誰がなんと言おうと、俺にとってこの時間は 幸せなんだ。
紅
母は美しかった。 いつも母は出かける前、仕事に行く前であっても、真っ赤な口紅を塗っていた。 それを見るのが俺は好きで、毎日の日課のようなものであった。 ある日、あまりにも俺が食いつくように見るものだから母は俺に言った。 「塗る?」 その言葉に胸を躍らせる。 もちろん頷く。母の方へ向き目を閉じる。 母の柔らかい暖かな手が俺の頬を包む。 俺はあの言葉が忘れられないんだ。 暖かく、でもどこか冷たくて。 母の強さを表す、適当な言葉だった。 綺麗だったなぁ。あの時の母さん。 「真っ赤な紅を引きなさい。 戦う自分を飾るために」 「綺麗」 まさか俺が母さんに紅を引く日が来るとは思わなかったよ。 「ねぇ!あなたの女性のタイプって何?」 「え、あぁそうだな」 “紅”が似合う人かな 一輪の赤いゼラニウムが揺れた。
雑談しようぜ。
誰にも見られないわたくし、速水実弥の雑談コーナーです。 まぁ何から話そうかなと思うんですが、まずはわたくしの自己紹介をしましょうかね。 名前は速水実弥といいます。 あと支部で「もももも」という名前でたまにイラストを投稿しています。 好きな食べ物はコーヒーゼリーとピーナッツチョコ。チョコは苦いのが好きです。 性別はお察ししたいただいて、年齢は…まぁ…ご想像にお任せしましょうか。 これでもわたくしガチのオタクをやらせていただいています。詳細は支部で… 自己紹介はこれくらいですかね。 最近驚いたことを話させてください。 わたくし、生粋の妖怪ウォッチファンなんですね。初恋はエンマ大王に捧げたタイプの人類なんですけど。CV木村良平はずるいでしょう。 妖怪ウォッチには実写版映画があるんですが、そこでエンマ大王が出てくるシーンがあるんですよ。そしたらエンマ大王、誰が演じてたと思います? 山﨑賢人さんだったんですよ。 え???????ど??? えっやまざ、えあ顔かっこいい…似合っちゃうんだイケメンって。 これがリアルな反応でしたね。 いやーかっこいいですね。山﨑賢人さん。 個人的アニメの実写版だとゴールデンカムイの杉元佐一っていうね、主人公なんですけど、その子を演じてる賢人さんえぐいイケメンなんでおすすめです。 なんか気づいたら500文字にまでなってたんでこれで… 今日もみんなのありのままで、程よく頑張ろうね。 じゃ。
透明
僕はずっと、透明だった。 クラスの誰からも話しかけられず、誰かに話かけることも出来ない。言葉が喉に突っかかって出てこない。 先生に名前を間違えられても訂正できない。 ある日、図工の授業の後の話だった。 1人の少年が僕に話しかける。…僕に? 「なぁ、お前の作品めっちゃすごかったな」 驚いて声が出ない。まさか僕に話しかけるひとがいるなんて。 「み、見てたの?」 「当たり前やん。あれ、俺めっちゃ好きやったなぁ。なんか、綺麗で」 この子は関西から転校してきた子で、明るくクラスの中心って感じだった。 誰かを笑わせるのが上手だった。 「ありがとう」しか言えなかったけど、本当はすっごい嬉しい。初めて自分を見て、褒めてくれる人に出会えて。 「あれ、“透明”って作品名にしたんやな」 「うん。いいでしょ」 あれから僕たちはちょこちょこ話すようになった。給食の班とか、体育のペアとか。あれほど憂鬱だったのが楽しいものに変わった。 「…ええなぁ。見えないもんがちゃんとそこにはあるってこっちゃな」 現在、高校生。彼とは未だに交友関係が続いている。顔がいいもんでよくモテる。 …ちょっと羨ましいと思うのは仕方ない。 透明だった僕に色をつけてくれたのは君だった。 色をつけてもらうまでがつらいけれど、つけてもらうために頑張ってみれば、 ーー世界はきっと暖かい。
第五話 わたぬきそらの文字レッスン
「これで“あまつきいなり”」 「なるほど」 かれこれ30分ほどレッスンは続いている。 なかなか飲み込みがいいからこちらも教えがいがあるってもんだ。 そういえば、 「もうそろそろ行かなくちゃな」 「どこに?」 「母親の見舞い。早く行かないと看護師さんに怒られちまう」 文字の練習のために使ったノートやシャープペンシルやらをカバンへと放り込むと、なにやら袖に小さな違和感を感じた。 「もう、行ってしまうのか」 顔こそは見えないもののなんだか悲しげな声である。まるで名残惜しいような… 「これ、持っとけ」 何を思ったか俺は簪を稲利へと渡していた。 三本も持ってきたんだから一本くらい大丈夫だろう。 「また来るからそんな顔すんなよ」 頭を数回ポンポンとし立ち去る。 「ありがとう‼︎」 後ろから大きな声で聞こえる。 …次はいつ行くとしようかな。
第四話 共有
「 …とまぁそんなとこ!」 「ほぉ…」 一通り“狐人”について稲利に教えてもらった。 能力…か…。 「変化の術的なのも使えんの?」 「使えるぞ。狐人なら誰でも使える。でも私はいまいち苦手だな。使えるけど長時間の変化は無理だ。変化の術は身の回りだと…母上が一番上手い。」 「はえー…。なんか…現実って感じがしないな。」 「まぁ無理もない。 …というか!!ニンゲンのこと教えてくれよ!!」 食い気味。怖いって急に。 「教えるっつったって…何教えればいいのか…」 「んー…。そうだな〜…。…じゃあまず、“モジ”とやらについて教えてくれよ!」 「それくらいだったら別にいいけど…」 わたぬきそらの文字レッスンの開講である。
カレンダー
キュッ マジックの音が部屋に木霊した。 カレンダーに毎日、1日の終わりに丸をつけていく。 もうこの音は聞き慣れてしまったほどだ。 この音は“1日の終わりのチャイム”。 カレンダーをめくる音は、“1ヶ月の終わりのチャイム”。 カレンダーを取り替える音は“1年の終わりのチャイム”。 そしてこれを総じるならば、“人生のカウントダウン”だろう。 そう思うとマジックの音が悲しくて、何処か愛おしくて、美しいと思ってしまう。 人は朽ちていくのだ。 でも、そんな重いものでは無いと思うんだ。 人生なんて死ぬまでの暇つぶしでしかないんだから、 せいぜい死ぬまでカレンダーに丸でも書いていようかな。
好き
あなたが好きだったの。 いや、“だった”はちょっと違うかも 今も好き。 でもあなたの好きはあたしとは違ったから ごめん。ごめん。 これは罪滅ぼしの言葉。これはあなたを幸せにする言葉。 効果は無いかもしれないけど、一応受け取ってね。 あなたの少し冷たい手が好き。 あなたの猫背気味な背中が心地よかった 疲れた時少し甘くなるその声も 全て愛してる 孤独を煮つめたこの夜はいつまで経っても終わってくれない。 おねがい、冬の寒さよ。 この恋と涙を凍らせて
今生
狐人。 其れは戦好きで人間が嫌いな種族。 嫌いが故に、自分達の縄張りに侵入した人間は問答無用で襲いかかり、時には 帰らぬ人になる場合がある。 天月家は非常に気高く崇高な家系である。 実力主義、完璧は当たり前。 そして彼女、天月稲利は期待通りの素晴らしい才覚をもった少女だった。 狐人は生まれた瞬間から神様の恩恵、「能力」を付与される。 稲利の能力は「火炎」。 あらゆるものを燃やすことが出来る。 最高火力を出せば鉄だって溶かせる。 コントロールも稲利にかかれば容易いものだった。 …だが、彼女の父が其れを利用して人間を狩ろうとしたのがいけなかった。 そう、全ては「合理的」と「反骨心」がすれ違うことによる、長期に亘った「親子喧嘩」であった。
原点
古い書物だ。表紙には何か書かれているが…読めない。 この書物を読みますか? ▼読む ページをめくった… 遥か昔、地上にある生物が生まれた。 その生物には、狐の耳、尾が付いていた。 よって、その生物を “狐人” と呼ぶことにした。 狐人は聡明である。 故に瞬く間に人知を超えた文明を作り出した。 人間とも友好的な交流を養ってきた。 米、青銅、住居、衣服の伝来も、交流の賜物。 だが、その“友好的”も長くは続かなかった。 … 引き金は????人の??少??だ?? 墨で書かれたであろう文字が所々滲んでいて読めない。 読むのを中断しますか? ▼はい 書物を閉じた…