久雅永遠

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久雅永遠

ものかき。

溶接

君の電話をいつも待っていた  でも私からかけないと君はシない  午前一時の静寂  孤独は殺人だ  悪い男って分かってるけど  でも君を映すのを止めない瞳  愛とか恋とか分からないけど  君のものになりたい  ほんとは知っていた  君の特別は私じゃないって  でも止められない  君は私を振り向かない  でもフラない  どうしてなの  そっか  似ていたんだねあの子と  おめでとう  でもその子は君の汚いところを知らない  見せたくもないでしょ?  私だけのもの 2人の溶接によって作られたような女の子(私) 私は2人がいなかったら私にならなかったけど苦しむことも辛いこともなかった 私に救いは無い……

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三原色

「ねえ、見てみてー。これインスタで見たお菓子なんだけどさ! めっちゃかわいくない?」 「え、ちょーかわいい! これどこのやつー?」 二人の制服を着た少女たちがスマホを見ながら横断歩道を待っている。 制服を見るに、近くの高校生か。 仕事帰りの私は、溜息をつきながらそれを見ていた。 女子高生の「かわいい」ほど薄っぺらい言葉はないだろう。 「かわいい」という言葉は正義だ。 それを徹底的に否定する語が無いから。 「かわいくない」は否定かもしれないが、別の言葉に言い換えられる可能性を持っているため、全面否定とは私にとっては言いづらい。 それに、「かわいい」はもっと価値のある言葉なのに。 ヒールを鳴らしながら横断歩道を歩く私は、そんなことを考えていた。 「ね、何描いてるの?」 「え」 ぱっと顔を上げると、佐々美津紀(ささみずき)がいた。 「えと、あそこの」 そう言いながら私は指をさして 「あのイチョウの木を」 昼休み、昼食を早めに食べ終わった美術部の私は次の作品作りに色々スケッチをとろうと、校庭の木陰にいた。 木陰から木を描くなんて、ちょっと面白可笑しいかな、なんてどうでもいいことを考えながらスケッチを始めていた。 「へー。ちょっと見せてよ」 彼女はそう言って私のスケッチブックをひょいと持ってじっと私の絵を見つめる。 「綺麗」だ。何者にも変え難い、美しさがそこにはあった。 彼女は同じクラスで所謂一軍女子なのに、なんで私に話しかけたんだろう。 そんなことも思ったが、私の絵を見る、彼女の姿――彼女の青よりも澄んだ黒色の長い髪の毛とそれに見合った瞳、艶やかな唇、そして女性的な魅惑的なシルエット――に私は魅了されて、疑問は打ち消された。 「ねえ」 「あ、はい」 「私を、描いてみない?」 「え」 「勿論、何も無しでとは言わないからさ」 佐々美津紀は少し微笑みそう言った。 「わかり、ました」 「じゃあ今日の放課後は?」 「大丈夫です」 「待ち合わせは、ここでいい? 人気もあんまりないし」 「はい」 「それじゃ、また後で」 教室で会うけどな、と思ったが口には出さなかった。 彼女は所謂一軍女子だが、彼女の友人が騒がしい人なのに対し、大人しめな性格をしている。 まあ、でも、私はあんまりクラスメイトと喋らないから、彼女より「大人しい」のかもしれないな。傍から見たら。 待ち合わせのあの場所に向かいながらそんなことを考えていた。 終礼が終わってすぐ行くのもなんだか気が引けて、十分くらいしてから向かい始めたのだが、 「遅かったね」 「あ、ごめんなさい」 「いいよ。私が頼んでるんだし」 彼女は既にそこにいた。体育座りをして、私を待っていた。 スカートから見える白くて少し肉のある太腿に、目を惹かれてしまう。 「あの、どんなポーズがいいのでしょうか」 「私が決めていいの?」 「はい、まあ…」 「じゃあ……」 そう言うと彼女はすっと立ち上がって、右手を腰に、左手を肩に置いた。 「……ん?」 「モデルってこんな感じ、だよね?」 「えと、別に雑誌みたいなのじゃなくていいんですよ?」 あ、反論的なことをしてしまった。どうしよう。これで怒っちゃったら私……。 勇気を振り絞ってぱっと上の彼女を見ると、ポーズをとったまま顔を真っ赤にしていた。 「え……?」 「ご、ごめん。どんなポーズとか考えてなくて……」 顔が赤いのに気づいたのか、両手で顔を覆っている。しかし、隠れていない耳は赤色に染っていた。 「かわいい」 はっと、思わず口を押える。 だって、あの大人しい性格の佐々美津紀がこんな私の前で表情を変えるとは思ってなかったから。 その日は結局、顔をスケッチするだけで終わったことを思い出す頃、ちょうど家路に着いた。 「ただいまー」 玄関の左側にある鏡を見て、私は結構昔よりは変わったよな、と思った。 黒縁メガネはコンタクトに変えて、髪も手入れが面倒だからショートにしていたが、ミディアム位に伸ばして、結んで整えているし。化粧もして、人前に出られるくらいの顔にはなったのかな。 あれから、毎日彼女をスケッチする日々が続いた。 てっきりもう、チャンスはないと思っていたのに。 ポーズは私が指定するようになっていた。彼女はあの辱めのようなことが半分トラウマになってしまったのだろうか。 まあいいか。この人を描けるならなんでもいい。 「美津紀さん、もう少しこっちに顔向けてください」 「あ、ごめん」 「いーえ。あ、そう言えば、見返りってなんですか」 「あ、あぁ」 まあ本当のところ、スケッチさせてもらえるだけで私は嬉しいし、見返りは別にいらないけれど、気になったから聞いてみたのだ。 「紗世さん」 「はい」 右頬に、柔らかい、感触。 いつの間にか息が触れる距離に彼女がいた。 「これが、見返り」 にこりと彼女が笑って言う。 「え、え」 その日はどうやって帰ったかあんまり記憶が無い。 それからも彼女の見返りは「キス」だった。 顔のパーツを一つ一つキスでマーキングするように、右頬、左頬、額、鼻。 そして―― 目をつぶっている私に佐々美津紀は優しく口付けをする。 「かわいい」 あの時の、唇へのキスを思い出しては、唇をなぞるのが癖になっていた。それは今でも、だ。 あの日を、私は永遠に忘れられないだろう。 その日の午後、私は画材を買いに町のアーケード街へおりていた。バスで二十分。ちょうどいい距離にある。 カラオケやカフェなど、田舎にしては、少し栄えていて、店もそれなりにある。 そう言えば、佐々美津紀の友人がここら辺で彼氏と遊ぶとか言ってたな、と思い出し、ちゃっちゃと済ませようと足早に 画材屋さんへ向かっていた。 土曜の昼過ぎだからか、人通りが多い横断歩道を渡っていると、佐々美津紀らしき人の姿を見かけた。 思わず声をかけようと近寄ろうとしたら 「美津紀ー」 「あ!」 たったったと彼女は横断歩道を渡りきって、声の主の男に近づく。 「ごめん。待った?」 「いや、ちょっと楽しみで、早く来ちゃって……」 「かわいい」 そう言うと彼女は彼の左頬にちゅっと唇を落とした。 その後、私はすぐにバスに乗って帰っていた。一粒だけ流れた涙の味は、しょっぱいが、少し苦かった。絶望とはこういう味なのだと思った。 私の日々を彩った佐々美津紀は、その唇で私の世界の明度と彩度を上げ、その唇で全てを黒に染め上げた。 あの日から、私は「かわいい」という言葉に囚われている。 彼女の言った「かわいい」という声が頭にこびり付いて離れない。 あのキスが忘れられない。 私はどうしても、彼女に対して思った「かわいい」という感情を超える何かを見つけることが出来なかった。 今日も女子高生は言うだろう、「かわいい」と。 でも、彼女へ向ける私の、この「かわいい」という感情に勝ることはきっとないのだろう。

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三原色

自己紹介

名前 久雅永遠(くがとわ) 年齢 16歳 誕生日 12月7日 趣味 読書,執筆,推し事 綾辻行人先生が一番好きな作家です。 ssから長編まで色々書けたらいいなと思っています。 ジャンルは色々。 書きたいことを書きたいだけ書くのが私の創作のベースになってます。 よろしくお願いします。

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自己紹介

いただきます。

 いつからだろう。  食べ物を見ると、吐き気を催すようになったのは。  母が言った。  「食べ物全てに命があった」と。だから、感謝して頂く。そのために、「いただきます」という言葉がある、と。  その瞬間、私は自覚した。  命あったもの――私と同じように呼吸をし、心臓で身体中へと血液を送り出し、脳ミソでものを考える――を命ある自分は一部にして生きているということを。    家族で食事をする。その時必ずみんなで「いただきます」を言う。  私は弱々しく震えた声でそれを言い、ごめんなさい、ごめんなさいと心の中で唱えながら口に運び咀嚼する。  そして、逆流してきそうな胃液を押し込むように飲み込む。  母に「食べ物全てに命があった」と教えてもらってから、私は食べ物を食べることに罪悪感を覚えるようになっていった。  なるだけ食べないようにし、生きるために最低限必要な分だけ食べるようにした。    私たちの食べ物の用意をするのは母でも父でも無い、そして家族でもない知らない人。でも、食べ物をくれるから、家族と過ごせているから、別になんとも思わない。  満足な生活が出来ていて、食以外のことについては、私は私なりに幸せを感じてはいた。  ある日のこと。  食事を私がいつものようにしっかり食べないからとうとう痺れを切らしたのだろうか、母が怒った。  家族一緒にいるためにはそれしか選択肢が無いと言う。  その後も食物連鎖がどうのこうの言っていたが耳を通り抜けていった。  でも正直、父も母も兄も私の二倍くらいの体重がありそうに見える。もう少し減らしてもいいんじゃないかと思うくらい。  まあ、そもそも食べ物の量も多いのだけれど、加えて私が食べない分も食べているせいかぶくぶく体重が増えていく。  知らない人は最近は食べ物を用意しながら何か言っている感じがしたが、理解できなかったので気にもとめなかった。  しかし、母や父は食べないとダメだと、家族のためにそうしろと、口うるさく言う。 「お前の代わりなんていくらでもいるんだぞ!」  とうとう愛想を尽かしたか。    いつもの通り謝罪の言葉を心の中で唱えながら食べ物を口に無理やり押し込み、軽く咀嚼して喉に通す。  そうしていると、今度はいつも何も言わない兄が口を出してきた。 「お前、俺たち家族をバラバラにしたいのか?」 「どういう、こと?」 「もう、いいよ」 「なに? いってくれないとわからないよ」 「だから、もういいんだって」  私がさらに追求しようとすると、 「お前の代わりなんていくらでもいるんだぞ!」  父が急に私に怒鳴った。  突然の怒号に私は体を飛びあがらせる。いつもは母と一緒に軽く小言を言ってくるだけなのに。  急に怒ったと思ったら、すぐに気をしぼませ、 「でもな、父さんはお前が大切なんだ……」  聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声で言っていた。  私は聞こえなかったふりをして、そのまま眠りについた。    目が覚めると、妙な満腹感があった。  口の端々に、少し粘っとした液体と、食べ物の破片がついていた。  まさか。  家族の方に目をやると、手に食べ物かついていた。    寝たら無理やり食べさせられる。  しかし、睡眠には抗えずその日から毎日のように目覚めると満足感があった。  私の体は、咀嚼を終わると条件反射で食べ物を飲み込んでしまうらしい。  私はみるみる体重が増えていった。  家族一緒がいい。でも、食べ物を食べることは私にとって、毎回十字架に磔られるような思いをする行為だった。  それに、私が生きていたら助かる命が助からない。  家族のために、食べ物たちのために、私は死を決意した。  死を…決意した。しかし、死とはどうすれば来るものなんだ?  どうしたら死ねる?   私には分からなかった。  食べ物をくれる知らない人が、私たち家族を動くものに乗せてどこか知らない場所に連れていった。  その知らない場所の知らない人と、何か話し始めた。 「…なひんしゅで…」 「これは…で、…するのがいいですよ」  ひんしゅ? なんだろう。聞いたこともない。 「家族一緒で良かった」  母がもう悔いはない、とその口調で語る。  何? なんの話しをしているの? 「次もまた家族だ」  父が独り言のように言う。 「バラバラになっても、ね」  兄が声を震わせながら言う。 「じゃあ、それではしゅっかじゅんびに入らせていただきます」  しゅっかじゅんび?   そう言うと、知らない場所の知らない人は私たち家族を一旦家に似た場所に入れて、まずは父を呼び出した。 「私が先か。じゃあ、達者でな」  父は帰ってこない。暫くして母が呼ばれる。 「じゃあね。家族一緒にいれて、過ごせて本当に良かったわ」  父は帰ってこない。母も帰ってこない。また暫くして兄が呼ばれた。 「俺が先だったか。寂しいかもだけど、すぐにこっちに来れるさ。じゃあな」  父は帰ってこない。母も帰ってこない。兄も帰ってこない。暫くして、私が呼ばれた。  何かの台に乗せられた時、肉の塊が見えた。  ああ……。  包丁が振り下ろされる。  その時、私はやっと理解ができた。  私も、食べ物だったんだ。

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いただきます。

キスツス・アルビドゥス

僕は、やることなすこと全部「上手くできない」。  生まれた瞬間から、こういう人生だって決まっていたのかもしれない。  初めてこの世界の空気に触れた時、僕は上手く泣けなかった。  助産師たちがゆする等の行為をした上で小さく弱く泣いた。  幼稚園に入って、初めて同じ組の子に話しかけられた時、  「おなまえ、なんていうの?」  「え、えと」  ごにょごにょと言っていると相手は飽きてしまったのか  「きこえないよぉ。つまんなーい。ぼく、ほかのこのとこいくね」  「あ……」  上手く返せなかった。  これは小学生になっても中学生になっても、高校生になってもそして、社会人になった今も、だ。  なし崩しに近くに置いてくれていた高校の時の友達との会話が弾むことは一度も無く、ただ話を聞いて相槌を打つタイミングさえも分からず、黙ってニコニコしている癖がついた。  そんな友人とも呼んでも良いのか分からない人たちともいつの間にか連絡は無くなり、見知らぬ人同然状態となった。  成績もそうだ。小学生の頃は、「頑張りましょう」中学生・高校生の頃は、「二」常にほとんどがそれだった。  僕の人生に「成功」の二文字は無い。  父も母もそんな僕に「期待」の二文字を寄せることは無かった。  でも、「彼」が現れた。  「彼」も僕と同じように失敗が多かったみたい。それでか、話が盛り上がらなくたって、僕が上手く話せなくたって、一緒にいると楽しい、落ち着く。  初めての感覚。  男とか女とかそんなの関係なく「彼」自身を好きになり、「彼」とはいつしか恋仲になっていた。  僕の全てを受け入れて、僕を欲してくれる、初めての人だった。  「え? な、なんて?」  「だから、俺結婚すんの」  言葉が、消えた。  「彼」とはキスもセックスもした。  愛し合っていた。そう少なくとも僕は思っていた。  でも、違った。  「言ってなかったっけ。俺、女の幼なじみがいるんだよ。そいつと結婚する」  「そ、それは、き、決まり事とか、なの?」  「許嫁みたいな? そんな感じらしい。まあでも、そいつと結婚すれば俺は両親から離れられるし、女抱けるし。それにあっちは俺の事好きらしいから、ウィン・ウィンの関係みたいな?」  また、言葉が、消えた。  僕を、  僕を、  僕を、  「僕を、選んで、くれない、の」  咄嗟に溢れ出た言葉は、相手の顔をぐしゃりと歪めさせた。  「俺、そういうの嫌いっつったよな」  「あ、あの」  「結婚は俺が決めたことだ」  「……ごめ」  「お前、やっぱり俺とは違ったんだな」  「え」  「俺はお前とは違う。お前みたいな奴とは、違う」  そう自分に言い聞かせるように「彼」は言いながら、僕の所に来ることは二度となかった。  そして、泣きっ面に蜂か、先日、僕は仕事をクビになった。  大きなミスをしたのでは無い。  今までの小さなミスが積もり積もって、とうとう、会社にさえも、愛想をつかされたのだ。  社会が、みんなが、この世界が、僕は必要ないと言っている。    もう、生きる必要も無い。  その衝動に突き動かされ、携帯のコードをドアにひっかけ、自らの首にもかけ、体重を落とす。  「あ、あぅ、がっ…」  体は勝手に命を手放すのを拒否して反射的にじたばたと手足を動かし、喘ぎ声を出す。  その時、  ガタンっ  ものすごい音がした。  頭に鈍い痛みが走る。  気がつけば僕は頭を床に打ち付けていた。  失敗、した?  僕の衝動はさらに加速し、バスに乗って近くのホームセンターで太い縄を買った。  帰宅し、すぐさっきと同じようにドアに縄をかけ、首にもかけ、体重を落とす。  さっきよりも首が締まっていくのがわかる。  情けない喘ぎ声と体の抵抗はより激しく出ていた。  その時、  ガタンっ  いたい。  また?  縄が太すぎて、僕が暴れすぎて、ドアノブから縄が滑り落ちてしまったようだ。  衝動は止まることなく、僕を突き動かす。  カッターナイフを取り、首に当てる。  歯と歯の間から盛れる荒い息だけが、部屋の生を示していた。  意を決してつぷりとナイフの先を首に入れ込もうとした時  「あんたー、入るよ」  玄関から声がして驚き、思わずカッターから手を離す。  カタンっと床に静かに落ちた。  まるでいつものように。  さっき命を奪う凶器とさせられていたものは、自分よりも当たり前にそこに存在を許されているようで、非常に憎たらしかった。  声の主は母だった。  「何してるの? 連絡全然寄越さんから、食べ物だけ持ってきたのさ」  目は、笑っていない。  「もう親離れした子をいつまでも心配して面倒を見る親」を演じたいだけの女。  女はレジ袋を置くとすぐに帰って行った。  その後も何回も自分を殺めることをしようとしたらなにかと邪魔が入った。  宅配便が来たり、某社の受信料請求が来たり、宗教勧誘が来たり、はたまた、間違い電話や、物が落ちたりなんて。    何回やっても「できない」なぁ……。  その時、僕は気づいてしまった。  僕は、やることなすこと、全部「上手くできない」ということを。  僕の人生に「成功」の二文字が無いことを。  

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キスツス・アルビドゥス