はむすた
75 件の小説ギャップなカノジョ。
席替えで、一番避けたかった人と隣の席になってしまった。 刺さったら痛そうなネイルに、ばちばちのメイク。 校則違反の金髪は、綺麗に巻かれて、ピンク色のヘアクリップがついている。 きつめのアイラインが引かれた大きな目は、いつも黒板ではなく窓の外を見ていた。 別に彼女のことが嫌いなわけじゃない。 ただ、私みたいな陰キャとは絶対に仲良くしてくれないだろうな、と思い込んでいたのだ。 そもそも、真面目な生徒が大半のこの学校では、全身が校則違反の彼女——高野美月と仲良くしている人なんていなかったけれど。 授業開始のチャイムが鳴り、高野さんの隣の席での、一日が始まる。 ここから二か月ほどは高野さんの隣で授業を受けなきゃいけないと思うと、すこし憂鬱な気持ちだった。 ちらりと横目で盗み見ると、やはりと言うべきか、彼女は授業を全く聞いていなかった。 臆病な私には到底真似できないほど堂々と、寝ていたのだ。 先生に見つかったら怒られちゃうのにな、なんて余計なお世話かもしれないが。 お日様に照らされ、彼女の金髪はきらきら輝いて見えた。 髪の毛が頬にかかって、ややうっとうしそうに寝顔がゆがむ。 ……思っていたより、幼い顔。 なぜだかわからないけど、目が離せなかった。 「おい天崎、聞いてんのか」 「す、すみませんっ」 いつの間にか、先生に呼ばれていた。 あたしの取り柄なんて真面目さだけなのに、なんという失態だろうか。 私は耳が熱くなるのを感じながら、恨みがましく高野さんの寝顔をにらむ。 今まで、先生に叱られたことなんてなかったのに。 別に高野さんは悪くない、それは分かっている。 でもなんとなく、この子のせいにしてみたくなった。 今度は叱られてしまわないように、しっかりノートを取りつつも、やはり視線が高野さんに引き寄せられてしまう。 ピアス穴、右耳だけでも3つあるんだなとか。 意外と唇、小さいんだなとか。 しばらく観察し続けて、はっと気づいた。 今日の私、ストーカーっぽくてきもいかもしれない。 後ろ髪をひかれるような気持で、黒板に視線を集中させる。 ボブヘアーの私でも、後ろ髪を引かれるという表現は成立するのだろうか、なんてどうでもいいことを考えていると。 「もうおしまい?」 ぽつんと小さな声が聞こえた。 「え、」 もしかして、いや、もしかしなくても。 恐る恐る、自分の左側のあの子に目を向ける。 高野さんが、机に上半身を預けたまま、私のことを見ていた。 「だから。あたしのこと見るの、もうおしまいなの?」 「ひぇ」 思わず変な声が出てしまって、心臓がキュッとする気持ちに拍車がかかる。 見ていたの、ばれてたの? いつから起きていたの? 沢山の疑問が頭を埋め尽くして、心がグルグルしてくる。 「……ご、ごめんなさい」 とりあえず謝っておこう、と軽く頭を下げると、高野さんはきょとんと首を傾げた。 「なんで謝るの」 「いや、だって盗み見るなんて、気持悪いかなって思って……」 高野さんの冷淡で少し掠れた声から、感情が読めなかった。 それほどドン引きされているのだろうか、と少し泣きそうな気持になっていると。 「気持悪いなんて、思わない」 想像と違う優しい言葉に、思わず高野さんの目を見てしまった。 「……むしろ、そういう風に見られて、ちょっと嬉しいかも」 「嬉しい?なんで、」 今度は私がきょとんとする番だった。 すると、高野さんはぽつりと言葉を机に落とす。 「だってギャルって、プラスよりマイナスの目向けられる方が多くない、? 派手だし、うるさいと思われがちだし」 思わぬ弱気な声に、ぎょっとしてしまう。 今まで勝手に、高野さんみたいな子は自信満々なものだと思っていた。 もしくは、寂しいとか思わないのだろうと。 でも冷静に考えてみれば、人間だれしも、寂しいと思う日くらいあるのだろう。 「私は、そうは思わない……。むしろ、憧れ」 「憧れ?」 自分の気持ちをさらけ出すのはすごく恥ずかしかったけれど、一生懸命に話した。 「私、自分の好きなものとか人に見せるの苦手で。だから、自分が好きなものを貫いてるのって、カッコイイと思う……ます」 いつの間にかタメ口になっていたことに気づき、慌てて敬語を付け足す。 すると、高野さんは、 「天崎さんって、案外面白い。優等生で話しづらいんだと思ってた」 とくすくす笑い始めた。 「ど、どういう意味ですか」 「ふふっ、どういう意味だろー」 少々不安な気持ちになりつつも、目は高野さんの笑顔に釘付けになってしまっていた。 純粋無垢で、かわいらしい笑顔。 想像していた強気で世慣れしたギャルではなく、高野さんはピュアで繊細な一面を持っている。 私だけが知っているのかな、と思うとなぜだかゾクゾクして、心がピンク色に染まった。 「ねぇ、天崎さん。LIME交換しよーよ」 「携帯は校則違反なので持ってきてません」 なんだぁ残念、とくちびるを尖らせる可愛い表情も。 真面目なんだね、と揶揄うような表情も。 こんなにたくさんの表情を、高野さんは今、私だけに見せている。 「……可愛すぎでしょ」 思わずつぶやいてしまい、はっと口を抑えた。 慌てて取り繕おうと高野さんを見やると、彼女は頬を真っ赤にしていて。 「ぇ、今のって何に対して言ったの」 照れ顔を手で隠す、破壊力抜群の表情。 きつめのギャルの外見なのに、初心で可愛い反応のギャップが目に焼き付いてしまい、数日間は消えなさそうで。 私の鼓動は、いよいよ誤魔化せないほどに速くなっていた。 「な、なにに対して言ったの、ってば」 「それは内緒です」 「もう、天崎さんのイジワル……」 二ヶ月じゃ足りない、ずっと高野さんの隣の席にいられたらいいのにな、なんて柄にもなく思った。
OMNIA
記念日には、オムニアの香りがする。 今年もその香りのせいで、 しっとり甘くて、きゅっと嫌な夢を見た。 あたしを、とても脆いものみたいに、そっと抱き寄せた君。 いつもと変わらぬオムニアの甘い香りに、心が染まる。 ひやりと冷たい君の手が、あたしの頬に触れる。 長い睫毛の君の目が好き。見つめあって三秒と少し、 あたしはそっと目を伏せた。 君の柔らかなくちびるを、ただ待った。 なのに、 いつまでたっても降ってこないキス。 やけに長く感じた静寂に、目を開けたときには…… 君はもう、目の前から消えていた。 君の代わりに目の前にあったのは、見慣れた寝室の天井、だけ。 しんと静まり返った部屋に、あたしの呼吸音と時計の音。 ひとりぼっちだと、この時期は寒い。 いや、本音を言ってしまうと、年中寒い。 ダブルベッドは、ひとりだと広すぎる。 「最悪な夢を見ちゃったよ」 ベッドサイドの君の写真に、ぽつんと愚痴る。 「どーせ今も、星空ん中で笑ってるんでしょ? さみしがり屋だね、だなんてからかってるんでしょ」 君は、とても優しいひとだったから、天国に行けたと思う。 数か月前は、この世に霊としてとどまっていてくれたら……なんて思っていた。 でも、触れあえないし語り合えないのに、君をこの世に縛り付けておきたくない。 だからやっぱり、しあわせに成仏しててほしい。 「早くぎゅってしてキスしたい」 君に会えるまで、たぶん七十年ほど。 重いほどに一途な君なら、天国で浮気なんかしないよね。 天国にもあるといいなぁ、君と一緒に憧れた海辺の結婚式場。 なんて、あたしの方が重いのかも。 「あたし、生きてるよ」 今日も明日も。 君が短い人生で味わいきれなかったいろんなこと、あたしが全部拾い集めておいてあげる。 いつか会えたその日には、お土産話でたっぷり自慢してやる。 だからその日が来るまで、待ってて。 寝ぼけているのか、またオムニアの甘さが鼻を掠めた。 「……ねえ、あたしのこと好き?」 大好きだよ、って、聞こえた気がした。
書きたくなってしまいまして。
皆さま、お久しぶりです。 最近は雪も降ったりして、寒い日々が続いておりますが、お元気ですか? はむすたがここを離れてから、早いもので半年が立ちました。 結論から言います。 小説を、書きたくなってしまったのです。 あれだけ大々的にお別れしておいて、少々恥ずかしいお気持ちですが、書きたくて心がそわそわして、たまらなくなってしまいました。 未完結の連載たちや、恋愛のポエム、ショートストーリー。 はむすたは、自分の紡ぐ拙い文章が、それなりに好きなのです。 なにより、執筆が好きなのです。 いつか見返したときに黒歴史になってもいい。 誰にも見られなくてもいい。 自己満足で、ぼちぼち書けばいい。 そういう気楽な思考で、再び筆を取ると言う決断をいたしました。 もしよければ、また仲良くしてくださるとうれしいです。 久しぶりに文章を書いたものですからまとまっていなくて申し訳ないです。 以上っ、はむすたでした。
みなさまへ。第三弾
夏色さいだーさま もうノベリーでは会えないですが、メッセージを残しておきます。 私より年下で、コメント欄で声優さんのこととか話すときは話しやすいのに、作品になるとがらりと雰囲気が変わる。そんなところがすごくかっこよくて、好きでした。思春期の、病みとか爽やかさとか、アオハルって感じの作品に、読んでいて深く共感してときめきました。 また、余談ですが、はむすたはさいだーさんの作品でひらがなの可愛さにはっと気づきました。 これからも、いろいろがんばってください。応援しています。 つばめさん 主にオプチャの方で、ほんとうにお世話になりました。私が声劇のサンプルを送って、どきどきしていたとき、いちばん最初に感想をくれましたね。あの頃は、声優学校で心が折れかけていたので、暖かいお言葉が心に染みました。 また、ノベリーの方でも、心が暖まり、そして少し切なくなるような作品をたくさん書かれていて、作家さんとしてもとてもだいすきです。特に「グレートジャーニー」にはすごく感動いたしました。 これからも執筆活動がんばってください。応援しています。 湯呑さんへ いつも、不思議と引き込まれてしまう作品を生み出す湯呑さんを、ほんとうに尊敬しています。私は特にカナヱさんシリーズがだいすきで、いままで何度読み返したことか。湯呑さんの作品はキャラクターが生きているように感じるんです。 また、ノベリー内ではもちろん、声当て部でもお世話になりました。ネットのコミュニケーションに不慣れな私ですが、湯呑さんが作ってくださったあのオプチャはとても楽しかったです。作品の声劇をするときはいつでもお声がけいただきたいです。絶対聞きに行きます。 これまでありがとうございました。 ここに書ききれなかったノベリストの方々にも、深く感謝と尊敬を抱いております。 ノベリーのひとたちみんなが、はむすたはだいすきだ。 ほんとうにいままでありがとう!
みなさまへ。第二弾
史さんへ 紅の跡にコメントをくれた日を、いまでも覚えています。ちょうどあのとき、ノベリーで少し落ち込んでいたのですが、史さんのコメントでちょっと自信を持てたんです。ほんとうにありがとうございます。 いつも面白い作品をいっぱい書いていらっしゃる史さんを尊敬しています。特にあなたとぼちぼち。は、可愛いなと笑って、ときにほろりとして、ノベリーの中でも上位にはいるだいすきな作品です。あと、ギャル古事記にはたくさん笑わせていただきました。 これからも、執筆活動、応援しています。いままでお世話になりました。 旅するわぽんさん 私がノベリーで最初にファンになったのがまぽわぽんさんでした。きゅんきゅんほっこりする、可愛い恋愛小説をたくさん書かれていて、恋愛小説だいすきな私は一目惚れしてしまいました。はむすたのまとまりの無いコメントにも、いつも優しく返信してくれてうれしかったです。 一度ここを離れてしまうと知ったときはちょっと泣きましたが、また戻ってきてくれてしあわせでした。 またまぽわぽんさんの小説をちょくちょく読みに来るかもです。これからも執筆活動がんばってください。応援しています。 はるきちさんへ はるきちさんがノベリーを去ってまだ1ヶ月なのに、もうすでに寂しいです。 いつも暖かいコメントや、クスッと笑えるストーリーでノベリーの雰囲気を優しくしてくれて、勝手にノベリーのママのようだなって思っていました。 また、はるきちさんの書く作品やエッセイも魅力的で、私は特に蛙を踏んでしまったお話が好きです。はるきちさんの作品って、元気ないときに無性に読みたくなるんですよね…。 またはるきちさんにどこかで出会えますように。いままでありがとうございました。
みなさまへ。第一弾
特にお世話になった、みなさまへ——。 (お名前出してごめんなさい、嫌でしたらコメントで教えてくれたら消します) (あだ名で書かせていただく方もいます、ごめんね) になっちへ。 ノベリー始めたころから、ずっと交流がありましたね。 になっちの紡ぐ、月光やクラシックの似合う、静謐な世界がすきだよ。 になっちの作品の更新をずっと心待ちにして、「あ、新作ある!」って喜んでたの。 そして、毎回想像を超えてくる素敵な作品に出逢えて……本当に、同い年とは思えないほど世界観が完成していて、作家としてすごく尊敬できます。 ずっとファンでいる、って言ってくれたことも、執筆の励みになってたよ。 ハリポタ語るのとか、楽しかったね。今までいっぱいおしゃべりしたね。いつかになっちとはリアルでも喋ってみたいなぁ。 本当に大好きです。いままでありがとう。 私も、ノベリーを離れたって、ずっとになっちのファンです。 また作品読みにくるね。 四季人さまへ。 いつも丁寧に、執筆のいろはを教えてくれました。 作品にくれるアドバイスも、厳しくなく、でも適切で、すごくありがたかったです。 きっと、四季人さまの教えがなかったら、私はまともなストーリーを作れなかったと思います。 またいつか、四季人さまの魅力的な作品を読みに来ます。 四季人さまが書く百合が、特に大好きでした。 あと、猫文も、先輩とゲームするお話も……あぁ、好きなのがありすぎます。 四季人さまの素敵(という一言で表してしまうのは全く足りない気がしますが)な作品をたくさん読めて幸せでした。 成人したら読みに行くと約束した作品も、絶対に忘れないです。 今はもう、このメッセージは届かないかもしれないけれど……。 ほんとうにありがとうございました。 あーちゃんへ。 またあなたと喋りたいです。 本当はあーちゃんがここに戻ってくるのを待とうと思ってたんだけど……。 ごめんね、待てなかったの。 またあーちゃんの、不思議な世界観と魅力を味わいたいです。全部の作品が、すごくかっこよくって、好きでした。そんな大好きなあーちゃんの作品にはむすたが出てきたときは、もう狂喜乱舞だったよ。 もっといろんな作品も見てみたいです。 コラボも、まだ途中だったよね、いつか続きを書こうね。 だいすきだよ、短い間だったけどありがとう。 市丸あやさまへ 勝手に、はむすたのお姉ちゃんのように思っていました。 小説のこと、化粧品のこと、優しく教えてくれてありがとうございました。 頼りになるなぁ、素敵な人だなぁ、って憧れでした。 死花の完結おめでとうございます。すべて、堪能させていただきました。 あやさんの書く、繊細な恋模様、愛のあまりの激情、すごく好きです。 そして私はこれからもずっと真嗣さんを推していきます……💗 また、ブルースターをつづる、の方に以前感想をくれたとき、とても励みになりました。 コミケの話も、叶いはしませんでしたが、自分の作品がもっと人の目に……!と思うだけで執筆のモチベが上がりましたし、すごく嬉しかったです。 私の作品のシリーズは、もうネットには出さないけれど、満足するまで書いて完結させるつもりです。 今まで本当にお世話になりました。 海月さまへ 私、人に見せるイラストを描くのが初めてだったんです、あの曲のサムネで。 すごくどきどきしていたし、下手かも……と自信を無くしていましたが、海月さまのかっこよく聞いていて引き込まれる音楽と合わさると、何だか自分のイラストも好きになれました。あんなに凄い曲を高校生で作れるなんて、尊敬します。 また、プロセカの企画の方でもお世話になりました。うちの輪虎は、海月さまのキャラとかかわりが深く、だからサイドストーリーで関係性を描くのがとても楽しかったです。もっと書きたかったなぁ、プロセカの企画作品。 海月さんの書く作品は、どれも設定から面白くて、人のこころを丁寧に描いているところが好きでした。ログアウトしても、また読みに来ようかな。 これからも、執筆・作曲ともに頑張ってくださいね。応援しています。
今までありがとう。
描写が、すきです。 はるかぜが髪を揺らす。 ゆうやけが頬を染める。 そんな描写を丁寧に織りかさね、 空間をつくる。 空間の上で、恋をする、喜ぶ、喧嘩する。 そういうことを創るのが、 ほんとうにすきなのです。 でも。いや、だからこそ。 今のここで私は、自分のすきな空間を描けない。 ひとに自分の作品を知ってもらいづらくなった。 他のかたの作品を見つけづらくなった。 そんなことだけど、 積み重なっちゃえば。 私は、描けないのです。 よわい人間なので。 はむすたは、7月31日の午前九時、 ノベリーでの活動を終了します。 参加途中の企画もあったのに、申し訳ない。 本当に、あやまります。 今まで、皆様に支えられてきた作品たちは、 消しません。 ずっと、残しておこうと思います。 今まで、本当にありがとうございました。 ノベリーが、このあったかい場所が、だいすきです。 また、特にお世話になったみなさまに残りの数日でぼちぼちメッセージを書いていくので、 ぜひ目を通していただけたらと思います。
はむすたるーむ ふぁいぶ
か「」く「」し「」ご「」と「 を観てきました。 元々原作の大ファンだったので、原作片手にワクワクドキドキしながら見てきたら、想像以上に良かったです……。 普段自分のスタンスとして、実写映画を見るときは、原作と違う作品として楽しむ、というのがあるんですね。なぜなら、原作はあくまでも小説で、映像で可視化されることによって違うと感じることも多いだろうし、そもそも自分が想像していたキャラと全く同じ顔の人っていないし。 でも、か「」く「」し「」ご「」と「 は、もちろん原作と全くいっしょではないし、設定がいくつか違うところもあるんですが、すごく原作へのリスペクトを感じる映画でした。ちゃんとリンクすべきところはしている、キャラたちもちゃんと原作で出会ったあの子たち。 私の推しはパラちゃんなんですが、パラちゃんの実写化もめちゃくちゃ良かったですね。演技が説得力あって、パラの強さと弱さみたいなのをよく伝えてくれる演技だったから、すごいなぁって。 特典も豪華でしたね。対談に、描きおろしの原作の続編小説。最高ですよね。 住野よるさんの作品を、これからもずっと追っていきたい。 めっちゃ強く、そう感じました。 詳しい感想は書きすぎるとネタバレになっちゃうからこの辺で。 か「」く「」し「」ご「」と「 オススメです!!
猫のみちしるべ、終点は。
思えば、恋のきっかけなんて、いつも些細なことだった。 初恋は幼稚園、なわとびを教えてくれた二歳上の少女。 次は小学二年生、隣の席で消しゴムを貸してくれた女の子。 そして、中二の時に落ちた三度目の恋——これが現在進行形のやつ。 三度目といえど、恋への慣れはなく。 四年弱、セサミへの想いを不器用に抱きつづけている。 抱き方も合ってるか分かんないまま、ずっと。 セサミへの恋に気付いたあの日は。 すごく暑い日だった……気がする。 * * * * * * * * * * 終業式の日、俺はいつも通りカイトと帰ろうと思って、彼が待つはずの校門に向かおうとしていた。 そしたら、猫を見つけてしまったのだ。 真っ黒で毛並みの綺麗なやつ。 俺は、吸い寄せられるようにそいつに近寄っていった。 「あんた、そんなとこで何やってんの」 じりじりと距離を詰め――逃げなかったから、撫でてみようと思った。 もう一歩、あと一歩……。 「あ、馬鹿!」 ふいに黒猫に、手に持っていたパスケースを盗まれた。 「ちょっ、待ってよ」 すばしこい黒猫の後を追っていくと、奴は学校の裏庭に入っていった。 終業式の裏庭なんて、人が告白してるかもしれないのに、野暮なやつだ。 裏庭には、誰もいないように見えた。 黒猫は、ちらりと俺を横目で見て、優雅に端の低木の方へ歩いていった。 「いい加減パスケース返せって、猫」 今度は逃げられないように、そろり、そろりと歩み寄る。 そして、猫が低木の前で立ち止まった。 ——今だ! 俺は一気に距離をつめ、猫からパスケースを奪い返した。 「人間をなめたらだめだかんな~」 べぇ、と黒猫に舌を出すと、そいつは背を向けて歩いて行った。 反省の様子なし——猫だからいっか。 俺も帰ろう、と低木に背を向けた、その時。 わずかに、衣擦れの音が聞こえた。 低木の裏に、誰かいるようだ。 誰がいるのか見ようとして、ためらって、助けを求めているかだけ確認することにした。 「あの、誰かいるんすか?」 声をかける。 ……返事なし。 「覗いていいっすかー。いいですねー。」 なんとなく気になってしまったので、勝手に了承を得たことにして、低木の裏へ回る。 すると、そこには。 「……エンの馬鹿、なんで来たの」 「……セサミ?」 よく知った奴がいた。 カイトの幼馴染の一人で、俺ともたまに喋る女子。 目つき悪めな子で、最初は俺の子と嫌ってるのかと思ってたけど、数か月経って通常運転だと気づいた。 「セサミ、なんでここに」 「あっち行け」 「えー、ひどいっすね」 ぷぅ、と頬を膨らませると、返事は返ってこなかった。 なにか様子がおかしい。 普段のセサミは、口は悪いけど、普通に喋ってくれる奴だ。 それが、こんな風に黙り込むなんて。 もしかして体調でも悪いのだろうかと、セサミの前にしゃがみこむと…… 「……セサミ」 彼女は、静かに泣いていた。 「どっか痛い?」 「……ほっといて」 「深く干渉しないんで、大丈夫っす」 そう言って、静かに彼女の答えを待つ。 人が泣いているのはニガテだ、特に仲いい奴だと。 こういう時、自分には何ができるか分からない。だから、せめて、そばにいるだけでも。 できるだけ泣き顔を見ないように、目を逸らしていると、セサミの息遣いが聞こえた。 「……痛い」 「絆創膏、いる?」 もってないけど、と付け足すと、セサミは小さくつぶやいた。 「……こころが、痛い」 「そーすか」 再び、沈黙。 彼女の声を、待つ。 蝉の声がうるさかった。 「……カイトが、ミィとあそびに行くんだって」 「夏休み中?」 「そう」 それが泣くことにどう繋がるのか分からないが、とりあえず相槌を打つ。 次のセサミの声は、すこし、ふるえていた。 「二人でいくんだって」 「ふむ」 俺は、カイトのミィへの恋心をとっくに知っていた。 でも、いや、だからかもしれない……。 「エン、それってデート……だよね」 今まで、静かにセサミがカイトに向けている恋情に、気づきもしなかった。 「セサミはカイトのこと……」 「馬鹿みたいでしょ、あいつが誰を好きかなんて……」 とっくの昔に、知ってるのに。 そうつぶやく声は、濡れていた。 どうすればいいのか分からなかった。 こんな複雑な恋を目の当たりにするのが、初めてで。 だから、とりあえず立ち上がった。 ダッシュして自販機に向かい、カルピスを二本購入する。 なんで俺が人のために走っているんだろう。 ほんの少し、疑問に思った。 そして、また裏庭に戻った。 もう帰っちゃったかな、と思ったが、セサミはまだそこにいた。 「セサミ」 「……帰ったのかと思った」 「要りますか?」 カルピスを彼女の濡れた頬にあてた。 「暑いんで、冷たいもの飲んだ方がいいっすよ」 セサミは、ペットボトルの冷たさに少しびくりとしてから、それを受け取った。 「……ありがと」 「いや、別に」 泣いている彼女にできることが、好きな飲み物を買ってくることくらいしか、思いつかなかった。 「……うん、美味しい」 ぽつりと、セサミが言う。 彼女の前に自分も座って、カルピスを飲んだ。 そっとセサミを窺うと、もう涙は止まっていて、ほっとする。 そんな風に、安心して、油断してたからだろうか。 もしくは、暑さで頭がぼうっとしていたのかもしれない。 俺は、いとも簡単に落ちてしまった。 「ありがと、エン」 笑顔のセサミに、落ちてしまった。 瞬間、手のひらの、ペットボトルの冷たさを、感じなくなった。 心臓が、わずかに揺れる。 セサミの笑顔はレアで、だから嬉しかった。 そして、それ以上に…… 好き。 セサミが好きだと、強く思ってしまった。 でも、恋にも何にも気づかなかったふりをして。 「そろそろ帰りましょうか」 「うん」 カイトは先に帰ってしまったようだったので、ふたりで帰路につく。 他愛ない話を交わしながら、のんびりと歩いた。 彼女の話し方も、表情も、今まで以上に可愛くて。 やっぱり、これは、そういうことなのだろう。 ただ猫を追いかけていったら、終点は恋のおとしあなだった……なんて。 カイトに話したら、笑って面白がるだろうか。 恋なんて面倒なだけなのに、 なんで何度も繰り返してしまうのだろうか。 「ま、こういうのは理屈じゃないか」 「なんか言った?」 「いえ、何も」 蝉の声は、やっぱりまだうるさかったけど。 この帰り道が一生続いてしまえばいい、と思った。
ダブルデート、だとか
「エン! なぁ、夏祭り行かね?」 「えー……急に何」 だるい、という気持ちを隠そうともせず、目だけ上げる友人。 ……今日もいらつくぐらいにイケメンだ。 「お前、そんな眠そうにしてると、せっかくの顔が台無し」 「え、俺よりカイトのがかっこいーのに」 「そういうのいらねーから!」 「お世辞じゃないんだけど」 そして、人たらし。 だからモテる。 「で、夏祭りってなに」 「さっき、ミィにラインで誘われた。セサミも来るらしーぜ」 ラインの画面を見せると、エンはがばっと顔を上げた。 「セサミ来るなら行くわ」 普段真っ黒な目にハイライトが入っていて、本当に分かりやすい奴だと笑ってしまう。 「てか、ダブルデートじゃん、最高」 「お前がいつセサミと付き合ったっていうんだよ」 思わずツッコミを入れると、エンは目をぱちぱちとさせた。 そして、意外そうに首を傾げた。 「てっきり、"ダブル”の方に突っかかってくると思った」 一瞬言っている意味が分からなかった。 しばし思考ーーハッと気づく。 「お前そういうの本当よくねぇ! 俺はミィとそういう関係じゃねーんだって!!」 エンは、こう見えてからかい好きなやつだ。 自分が恋愛感情あけっぴろげだからって、俺のコレまで恋だって言うのは、本当に悪い。 「いい加減、認めちゃえばいーのに」 「だから、ちげぇって!」 顔が熱くなるのを感じて、あわててそっぽを向いた。 「……祭り、行くって返事しとくからな」 「話題変えるのあからさますぎ」 「うっせえ!」 あーもう、ほんとに悪い奴。 こいつと初めて出会ったのは、中学一年生の春。 入学式後の自己紹介で、 「特技はフリーハンドで円を書くことです」 と言ったエンを、正直変なやつだと思った。 でも、実際見せてもらったら、ちゃんと正確な円で、一緒に見ていたセサミとミィと、すごく驚いてしまった。 エンというあだ名をつけて、親友と呼べるほど仲良くなるまでに、それほど時間はかからなかった。 あれからずっと、基本的にはいつもミィ、セサミ、俺、エンの四人で遊んでいる。 セサミもエンもいい奴だってことは知っている。 だから、どのタイミングでエンが惚れたのかは知らないが、ふたりが上手く行ってくれればいいと思う。 だけど、いつか。 いつか、この二人が付き合ったら、もう四人では遊べなくなるのだろうか。 素直に応援したいのに、そんなことを思ってしまう自分が、ずっといる。 どうしても、消えない。 少しもやもやしながらスマホを操作していると、ふいにエンが口を開いた。 「カイト、ミィの浴衣姿たのしみにしてるでしょ」 ……まじで、こいつ。 「うるせえ、ばーか!」 「え、見たくないの?」 そう聞かれると何も反論できないこと、知ってるくせに。 急いで話題を変える。 「お前だってセサミのそういうの、見たくて仕方ねーんだろ」 「うん、めっちゃ見たい」 飄々と言いのけるエン。 変人なのは、中学の頃から変わっていない。 「みんなで写真とろーね、祭りの日」 「エンは、セサミの浴衣写真ほしいだけだろ」 「あ、ばれた?」 くだらない話が、放課後の教室を賑わせる。 だけど、本当は。 頭の中で、ミィの浴衣姿を想像するのが止まらなくって。 ……どれもこれもエンのせいだ。