ニア
4 件の小説俺の好きな人
いつもの居酒屋、ちょっとした記憶。 これは夢だったのかもしれない。 この日は、仕事が長引いて、明日から3日休みという絶好の日に加えて給料日だったので、居酒屋で酔い潰れるまでありったけの酒を飲むことにした。 ビール1杯目を飲み干し、もう一杯目を頼もうとした時だった、斜め向かいに座っていた、まるで天使のようにかわいい人に自然と目が止まり、心臓がバクバクと音を立て出した。 「か、かわいい…」 思わず声が漏れた。どれだけ可愛いかというと、相当飲んでいるのか今にも寝そうなとろんとした、大きくてキラキラとした目、薔薇のように赤らむ頬、少し絡まってクルクルとしている癖毛。 この人の全てが俺のど真ん中だった。 俺はその瞬間、これが運命、そう悟った。 「あのっ!!」 気づけば向かいの席に強引に座り、見惚れて黙りそうな脳をビールでくらましていた。 「君の髪、すっごーくきれぇ」 呂律が回ってないが、突然、初めて言われたこの言葉に嬉しさで顔が染め上がってくるのが分かる。 「そうか?俺のこの髪は地毛だ」 コミュニケーションが苦手な俺が精一杯振り絞って出した声、あとは、ベージュのツンツンした髪を手でクシャッとしてみせた。彼は瞬きを2、3度して、ニコッと笑い、寝た。 「……寝た!?」 まぁ、俺が店に入る前からいたので酔っていただろうと思い、今日ありったけのビールを飲むはずだった金から2人分の代金を払い、店を出た。 「これからどうしよ…」 名前も知らない彼を背負い直しながら、イケナイ事を俺の脳内は考えてしまう。 「いや、違う、そういうんじゃねぇから…!」 と、自身に言い聞かせながら首を横に振った。 電気が消えた俺の部屋のベットにドサっと彼を寝かせて、道中で買った水をゴクゴクと喉で音を鳴らして飲んだ。 「高ぇのに自販機で買っちまった、まぁ背負ったまんまだったしな」 まだ水で満たされているペットボトルをベコベコと指で押しながら酔っている脳を呼び覚まそうとした。 「ごめんねぇ」 えっ?と横を振り返るとまだ酒が抜けきっていない彼が笑みを浮かべたままこちらをみていた。 彼は、綺麗だった。
幸せ…? [第一話]
幸せ、私は幸せ。 至って普通の女の子。普ちゃんです。 「あ、」 ガシャーンッ 「また、お皿割っちゃいました。すみません」 「いいのよ、普ちゃん」 普ちゃんこと、私は幸せ。だって、毎日ご飯が食べれて、絶対に寝られる。こんなにも幸せなことってあるのかな? 私、この家でただ時間が流れるのを見ています。勉強はしなくても良いってままに言われましたから。 「普ちゃん、今日も可愛いね、綺麗だねぇ」 ママはそう言って私の髪をといてくれます。 でも、そんなある日すごいことが起きました。 「た…すけ…てぇ」 ずっと聞こえるので覗いてみると私とは正反対、髪が短くて、服はボロボロ、おまけに血まみれのお兄さんがいます。 「どうしたんですか?痛いですか?」 「…」 とりあえずバケツとハンカチ数枚を持って駆け寄りました。 「あ…りがと」 「…喋らないでください」 と言いつつも、私、今まで外の世界を知らないので、血なんて見たことなくてどうしたら良いかわからないんです。バケツの中の水とハンカチはもう血に染まってますし、傷口を抑えるしかできません。 「その…ハンカチで腕を縛…ってくれないか?」 「っ…!」 ハンカチは濡れてるので私のワンピースを破って縛りました。 「…よしっ!」 「ありがと…」 その時です。ままの足音がしたのです。 いそいでクローゼットに彼を隠して作り笑顔を浮かべました。 「あら、どうしたの?普ちゃん?」 「ち、違うの!虫がいたから潰そうと頑張ってたのよ!ほら!」 運良く蚊がいたので指を刺しました。助かりました…。 「…そうなのね!ままびっくりしちゃった。」 そう言ってままは足音をたてて部屋を出て行きました。 キィッ 「あの、良ければ私のベットにいて下さい。」 「え?」 「えっと、怪我されてるみたいなのでってえ?」 なんとさっきまであった傷が消えています。 「あっ、ごめんね。実は僕この村に伝わる伝説の鬼なんだ」 「…?鬼?村?」 『村』という場所には『鬼』がいて、それがお兄さん? 「すみません。私、外には一度も出たことがないんです」 「…それは、本当なの?」 「お、お兄さんは外の世界をご存知なのですかっ!」 「うん。まぁ、そうだけど…」 「………!!」 そんなことがあって良いのでしょうか!私は今の生活が幸せです。でも、正直言って外の世界を知って、そして、外に出られたら… 「あのっ!外はどんななんですか?さっきはなんで怪我をしていたんですか?鬼ってなんですか?」 「えっと…」 「す、すみませんっ…」 「あ、謝らないで!でも聞いても良い?『まま』って言ってたけど、それは何?外のこと何にも知らないし…もしかして監禁されてるの?」 「そんな事…は…」 あれ、確かにままって何?この人は外を知ってる、なのに何で私は何も知らないの?私っておかしいの? 「とりあえず、かくれなきゃいけないんだよね、僕」 「あっ、そ、そうで…す!ベットの下に隙間があるので、そこに毛布敷きましょうか」 「分かった。次ままが来るのはいつなの?」 「夜ご飯の時間なので、太陽が落ちてからです」 「それまで隠させてもらうよ」 「……はい」 ま…ま?
ア・プリオリ
どんなに生き急いでもすぎる時間は同じで、時に世界は無情、私に無関心。 悪を悪と決めつけたら、悪は悪になりたくてなったはずじゃなくても悪に成り上がって、そのために悪評を轟かせるのではないだろうか。 私にとってはただの言い分であっても、貴方にとっては泣きたくなるほどの事を思い起こす『異物』なのではないだろうか。 私の事情で二度と会えなくなるという事実を知った手前約束を交わしたら、貴方が悪者になるのではないだろうか。 分かっている。 分かっていた。でも理解するほどの知識、知能を生憎私は持ち合わせてはいないんだ。
本当は大嫌いだ。
私は重いランドセルを体に無理矢理引き寄せ、抱っこしました。肩紐は昨日…ううん、ずっと前にボロボロになって使えなくなりました。 小学四年生の綾美はいわゆる“いじめ”を受けているらしいんです。 「お母さん、お父さん、行ってくるね!」 明るくそう言った。でも、聞こえなかったかも。お家は汚くてお父さんもお母さんも部屋にいるのか外にいるのか分かんない。 だけど私そんな事気にしません。なぜなら、こんな私にも『給食』という平日、毎日起こるいべんとがあるからなのです。 「今日こそ鈴ちゃんと仲良くするぞ、おー!」小さな声で何度かそう言いました。 私たちの通う学校はここら辺では1番新しいので結構綺麗です。 それでも、私の机だけ彫刻刀とかで傷ついている。 「机はなにも悪くないのにな…」 机に耳を当てていると一軍グループの鈴ちゃん達が教室に入ってきました。 どうやら推しの話をしているみたいです。 すると、だんだんと声は近づいてきてハサミが私の机に飛び込んできました。 ダンッッ 大きな音がしてちょっぴり涙が出てきました。 でも私めげません。今日は唐揚げが給食に出るからです。 「ハサミは机にやったら危ないよ!だめよ!」 思い切って私は鈴ちゃん達に向かって人差し指でバツを作って言いました。 「イキんなよー!!」 鈴ちゃんはそう言って私を叩きました。今の私やっぱりめげそうです。 やっと給食の時間です。 「「いただきまーす!!」」 教室は授業中とは打って変わって賑やかになります。 鈴ちゃんも、このクラスも、お父さんも、お母さんも、大好きです! でも、唐揚げがみんな3つあるのに私だけ1つなのはなんでだったんでしょうか。 掃除の時間、鈴ちゃんに 「放課後」 とだけ言われました。みんなは分からないかもしれませんが、私が鈴ちゃんに“放課後”と言われた日は運動場のトイレの裏で嫌なことを言われたり、水をかけられたり、いろいろなあくしでんとがおきます。私は何をされるのかドキドキしながら残りの授業を受けました。 私は水をかけられて髪の毛を引っ張られました。一気に何本かの毛が抜けた時びっくりしました。でも私泣きませんでしたよ。 家に帰るとお母さんとお父さんが何やら話し合っています。 どうやら2人は“りこん”するんですって。 「綾美はさ、どっちがいい?」 私は急にこんなことを言われたので心の中で(どーちーらーに、しーよーうかな)と歌を歌って、お母さんについて行くことになりました。 本当、大人って扱いが大変なんですよ。 新しいところに行くとなったら鈴ちゃん達とも会えなくなります。その前に挨拶をと思って私はもう一回家を走って出ました。 道の途中で可愛い猫さんがいました。撫でると 「ニャーーーーン」 ってとっても長く鳴くんですね。 私は猫さんに、今日みんなより唐揚げが2個少なかったこと、水をかけられて髪の毛を抜かれて、本当は泣きたかったこと、悔しかったこと。お父さんとお母さんが仲良しでいて欲しかったこと。 でも、だんだん悲しくなって本当のこと言っちゃったんです。 「みんな、大嫌い」 涙がポロポロ落ちました。暗くなるまで猫さんとたくさんお話ししました。 私は猫さんにお礼を言って鈴ちゃんのこととかお母さんもお父さんなんか忘れて生まれて初めてとっても早く走れた気がするんです。 なので私言います。 「本当は大っっっ嫌い!」