白崎ライカ
138 件の小説白崎ライカ
アニメとかファンタジーが好きで、とうとう小説に手を出してしまいました。 最近はノリと勢いで詩をよく書いています! 自分の好きな時に書いてるので、 不定期投稿です。 すごい今更ですが、誤字癖があります。 どうか温かい目で見て下さると作者は喜びます! 使用しているイラストは画像生成AIで作成したものです! よろしくお願いします〜
捨てちまえ
嫌な事なんて捨てちまえ。 悲しみなんて捨てちまえ。 自分が好きなことを全力でやる。 それで良い。 それが良いんだ。 しがらみなんて捨てちまえ。 億劫な人間関係も、 宿題も課題も課せられた使命も運命も 全部全部捨てちまえ。 きっとその向こうに、 私が本当に見たかった景色があるんだ。 だから足枷になることは全部、 今からでも捨てちまえ。 そして手に入れたふんわりとした解放感と翼で、 明日へと飛ぶんだ。
あやかし新婚日記 四日目「お風呂」
「どうでしょう……?」 私は固唾を飲んで彼の返答を待った。 雪ちゃんに教わった通りに朝ごはんを作ってみたのだ。メニューは卵焼きと豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたしと目玉焼きだ。 彼はお椀によそわれた味噌汁を口に運んだ。 「うん! 美味しい!」 「本当ですか⁉︎ よかったぁ」 私は胸を撫で下ろした。 「すごい……本当に美味しい」 春明さんは緑色の瞳を輝かせて言った。 「も、もう。そんなに褒めても何も出ませんよ」 「だって、本当に美味しいんですもん。おかわりありますか?」 「はい。ありますよ。いっぱい食べてください」 「やった。ありがとうございます!」 こうして私の朝ごはんのリベンジは成功で終わったのだった。 すっかり夜は更けていった。 「ふぅ……」 僕は屋敷の露天風呂に入り、星空を眺めていた。 この露天風呂には外側を囲うように結界を張っており、僕の姿は屋敷外から見えないようになっている。これで紗代さんが入浴する際も覗きの心配はない。 「紗代さんの作ってくれたごはん、美味しかったなぁ」 どのように特訓を積んだのかはわからないが、格段に料理が上達していた。これからもあのレベルの料理が食べれると思ったら、あまりの幸せに舞い上がってしまいそうになる。 僕が紗代さんの料理の味を思い出していた時だった。がらりと露天風呂の扉が開いた。振り向くとそこにはバスタオルを身体に巻いた紗代さんの姿があった。 「紗代さん……」 タオルの隙間から見え隠れする彼女の白い肌に、思わずドギマギする。 「ご一緒しても良いですか?」 「え、あ、えっーと、はい……」 僕は顔を逸らしてそう答えた。しかしなかなか湯船に入ってこないためチラリと紗代さんの方を見ると、彼女はかあっと頬を赤く染めて固まっていた。 「えっーと、紗代さん?」 「そ、それじゃあ、失礼しますね」 「は、はい……」 彼女はちゃぷんと足を湯に入れて、ゆっくりと湯船の中に腰を下ろした。 「ふぅー……」 僕のすぐ隣に彼女がいる。肩と肩が触れ合いそうで触れ合わない絶妙な距離感がさらに鼓動を高まらせる。 「どうしたんですか? 急に一緒にお風呂なんて……」 「実は……」 彼女は少しの間沈黙したのち、その重い口を開いた。 「料理を教わりに行った時に、雪ちゃん……私の幼馴染に言われたんです。春明さんのこと好きなのかって」 「え?」 そんなことを訊かれていたのか。雪ちゃん。確か雪音さんと言う名前の雪女で、彼女の親友だと聞いている。 「そんなこと訊かれてたんですね……」 「はい……それで私は自覚がないタイプなんだって言われて……でも私、分からないんです。恋心みたいなものが」 彼女はそう言って夜空を見上げた。その横顔はとても美しかった。風呂に浸かっているせいもあってか、彼女の頬が赤く火照っており、いつもより色っぽさを感じる。 「だから、確かめたくて……自分の気持ちを。それでちょっと大胆なことをしてみようかなと……」 「そうだったんですか……」 僕は下を向いて俯いたのち、口を開いた。 「僕も、正直恋心は分からないです。紗代さんのことが好きかと訊かれたら、『わからない』って答えると思います。この結婚は政略的なもので、僕と紗代さんの婚姻は取り決められたものです。顔を見合わせたのもつい最近で、そんな中で好きかどうかなんて訊く方が逆に野暮なんだと思います。だって、これからいっぱい色んなことをして、色んなものを一緒に見て、それでお互いをことを知っていくんです。だから、まだ好きかどうかなんて分からなくて良いと思います」 僕の言葉を彼女は静かに聞いていた。 そのルビーのような赤い瞳で、僕の方をじっと見ていた。 「そう……ですね。確かにそうかもしれません。これからですもんね。私たちは」 「そうです。これからです」 そうして僕たちは笑い合った。 「でも──」 それ以上話を広げる気はなかったが、口が勝手に動いていた。 「僕は紗代さんのことを見て、たまにドキドキしてます」 そう言い切って、はっと我に帰る。言ってしまった。つい先程まで好きかどうかわからないと言っておきながら、本音が溢れてしまった。やってしまったと頭を抱えつつも、彼女の反応が気になって思わずチラリと紗代さんの方を見る。 彼女は頬を赤く染めながらも、こちらをしっかりと見つめていた。 「そうなんですか?」 「は、はい。お恥ずかしながら……」 「どんな時にですか?」 「えっ? どんな時?」 「はい」 「えっーと……」 困った。彼女が思った以上にグイグイくる。 「紗代さんが笑ってる時……とか」 「笑ってる時……ですか?」 「はい……祝言の時もそうでした。僕が笑いかけた時、紗代さん笑ってくれたじゃないですか。あの時すごい嬉しかったのと同時に、すごくドキドキしたんです」 「それは……私、どうにかしようもないですね」 そう言って、彼女は笑ってくれた。その笑顔を見て、心臓が跳ねるのを感じた。 「でも、なんだが嬉しいです。春明さんが私でドキドキしてくれているだなんて、夢にも思ってませんでしたから。私だけかとずっと思ってました」 「え?」 「実は私、かなり余裕なかったんですよ? 春明さんにドキドキさせられっぱなしです」 「僕……何かしましたっけ?」 「春明さんと同じ理由ですよ」 「え?」 「笑顔が私をドキドキさせるんです」 「僕の……ですか?」 「はい。だから──」 彼女は再び満面の笑みで言った。 「これからも笑っていて下さいね」
あやかし新婚日記 三日目「料理と気持ち」
「ごめんくださいー。雪ちゃんいますかー?」 私は旅館の玄関で立ち止まって彼女を呼んだ。 雪女の雪音ちゃんで通称雪ちゃん。私の幼馴染だ。小さい頃から二人でよく遊んでおり、それなりに信頼している仲だ。私が春明さんのお嫁さんになると決定した時も、一番初めに駆け付けてくれたのは雪ちゃんだった。それくらい、彼女は私のことを心の底から心配してくれているのだ。 「はーい」 明るい声が聞こえてきた。雪ちゃんの声だ。 旅館の奥から白い着物を着た雪女の少女がやってきた。氷色の髪を束ね、着物の袖を紐で結んでいる。 「紗代ちゃん! 久しぶり〜」 「雪ちゃぁん!」 私は思わず彼女に抱きついた。ひんやりと冷たい彼女の温度が心地よい。 「どうしたの、紗代ちゃん? 何かあった?」 「それがね……それがね……!」 私は旅館の客間に通され、雪ちゃんに話を聞いてもらえることになった。 「お料理?」 「うん。雪ちゃんに教えて欲しいの」 「それはまたどうして?」 「実は今日……春明さんに朝ごはんを作ろうとしたんだけど失敗しちゃって……逆に春明さんにごはん作ってもらう羽目になっちゃった……」 「そっかぁ。確かに紗代ちゃん、あんまりお料理得意な方じゃないもんね。でも花嫁修行したって聞いてたから、克服したものだとばかり思ってたよ」 「もちろん修行は受けたけど、料理だけはどうしても上手くいかなくて……婚姻までに間に合わなかったの。それでそのままお嫁さんになることに……」 「なるほどねぇ。わかった。教えてあげる」 「ほんとに⁉︎」 「うん。私と紗代ちゃんの仲だもん。春明さんに美味しい〜って言ってもらえるように、頑張ろう!」 「うん!」 こうして、私と雪ちゃんによるお料理特訓が幕を開けた。特訓にあたっては、旅館の厨房の一部を貸し出してくれることになった。私が料理すると大体のものは消し炭になるので、雪ちゃんは丁寧に優しく教えてくれた。卵焼きを作る練習をしたり、お味噌汁を作る手順を学んだり、やることは沢山あったが、雪ちゃんの指導のおかげでどうにか灰にならずに済んだ。何時間も特訓をしていたからか、外は日が沈んであっという間に夜になっていた。 「え、もうこんな時間……」 「すっかり暗くなっちゃったね」 「ごめんね雪ちゃん。こんなに付き合わせちゃって」 「良いの良いの。今日はお客さんあんまり来なくて暇してたから、大丈夫」 「ほんとに?」 「うん。逆に紗代ちゃんの真剣な顔見てたら、私もしっかり教えなきゃって燃えてきたよ」 「え、私そんな顔してた?」 「気づいてなかったの?」 「う、うん……」 そうか。私はそんなに真剣な顔になっていたのか。自分では全く気が付かなかった。 「春明さんのこと、大好きなんだね」 ふと、雪ちゃんがそう呟いた。 無論、私の耳には届いていた。 「ふぇ⁉︎ え、いやその……え⁉︎」 顔がかあっと熱くなる。心臓がドクンドクンと脈打っているのがわかる。 「どしたの? 顔真っ赤っかだよ?」 「だって….雪ちゃんが変なこと言うからぁ……」 「別におかしなことじゃないでしょ。春明さんと雪ちゃん夫婦なんだから」 ふ、夫婦……。そうだ。私と春明さんは結婚している間柄。陰陽師とあやかしの争いを終結させることを体現した政略的な結婚ではあるが、どんな形であれ結婚は結婚。これから一生を共にする存在なのだ。 昨日の今日で考えもしなかったが、私は春明さんのことが好きなのだろうか。 「え、もしかして昨晩なんにもなかったかんじ?」 「だ、だってぇ……いきなりそういうのはちょっと恥ずかしいというか……なんというか……と、とにかく、私は春明さんのこと……好き……なのかな?」 「あ、自覚ないタイプなんだね。紗代ちゃんって」 「え? え⁉︎」 「まあまあ落ち着いて落ち着いて。でもそっかぁ。紗代ちゃん小さい頃からモテてたから、紗代ちゃんを射抜いた春明さんがどんな人が見てみたくなったなぁ」 「別に、遊びに来ても良いのに」 「いやぁ、二人の愛の巣にはそう簡単に入れないっすわ」 そう言って雪ちゃんはにししと笑う。 「……からかってるでしょ」 「んー、少し?」 「もー!」 私は四本の尻尾を使って雪ちゃんをぺしぺしと叩いた。 「うわっぷ」 彼女の顔面に私の尻尾が当たった。 「あ、ごめん」 「このー、やったなぁ〜」 彼女は両手の指をくいくいとさせて私に近づいてきた。 「仕返しだ〜、もふもふさせろ〜!」 そう言って彼女は私の耳をもふもふと揉んできた。 「きゃっ、ちょっともう、雪ちゃあん……!」 「あはは」 彼女は笑ってすぐにやめてくれた。 「なんか久しぶりにこういうかんじでお話するのも良いね。楽しい」 「うん……そうだね」 私は鍋をぐるぐると混ぜながら答えた。 「お、良いかんじだね」 「うん。ありがとう雪ちゃん」 「いえいえ〜、それじゃあ味見を」 雪ちゃんはお玉を取り出し、私が作った味噌汁をすくって口に運 んだ。 「ん! 美味しい!」 「ほんとに⁉︎」 「うん!」 「よかったぁ」 私は安堵の息を吐く。 「これで春明さんの胃袋を鷲掴みだね」 雪ちゃんはそう耳打ちしてきた。 「も、もう、雪ちゃん……でも、ありがとう」 「うん」 私と雪ちゃんは玄関に戻ってきた。 「それじゃあ、今日はありがとう。また遊びに来るね!」 「今度は春明さんと一緒に来てよ。美味しい料理と温泉でおもてなしするからさ」 「うん、ありがとう!」 私は草履を履いて、旅館を後にした。
あやかし新婚日記 二日目「花嫁修行」
朝。 チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえてきて目を覚ました。 「う……んん」 眠たい目を擦って起き上がる。 「ふわぁ」 大きな欠伸をして体を伸ばした。 結局、あの後僕たちは布団を離し、互いに一定の距離をとることで緊張を鎮めて眠りにつくことができた。流石に出会ってすぐに夜の営みというのは少々早とちりが過ぎるというものだ。 隣を見ると、敷き布団が綺麗に折り畳まれていた。 どうやら、紗代さんは先に起きているらしい。 「どこに行ったんだろう?」 僕が紗代さんを探そうと戸を開けた瞬間、ドカンっと言う大きな轟音が響き渡った。 「な、なんだ⁉︎」 それと同時に女性の悲鳴のようなものが聞こえた。間違いない。紗代さんの声だ。 僕はすぐに部屋を飛び出した。 声がしたのは台所の方からだ。 僕はすぐに階段を駆け下り、台所にやってきた。 「紗代さん、大丈夫ですか⁉︎」 そこには、黒い灰がべったりと付いた台所で頭から鍋を被って尻餅をついている紗代さんの姿があった。 これは……どう言う状況だ? 僕は彼女を起こして事情を聞いた。 「料理をしていたら、爆発した?」 「はい……」 彼女はしゅんっと落ち込んでそう答えた。 料理をしていて爆発……一体どんなイリュージョンが起きたらそうなるのか……。 「ひとまず紗代さんに怪我がなくてよかったです」 「怒んないんですか?」 紗代さんは耳を垂れ流して、うるうるとした目で僕を見つめてきた。 「怒りませんよ。失敗は誰にでもありますから。料理、苦手なんですか?」 「はい……お恥ずかながら……」 彼女は人差し指同士をくっ付けてそう答えた。 「そうですか……」 「春明さんに手料理を振る舞おうと早起きして頑張ってみたんですが……無理でした」 そうか。僕のためにやってくれたのか。 それは気持ちだけでとても嬉しいものだ。 「ありがとうございます。その気持ちとても嬉しいです」 「ほんとですか?」 「ほんとですよ。そうだ。代わりと言っては何ですが、台所を使ってもいいですか?」 「え、は、はい。どうぞ?」 彼女は潔く台所を貸してくれた。 僕は冷蔵庫の中に入っている卵を取り出し、熱したフライパンの中に入れて解きほぐした。 さらにお湯を沸かして味噌を溶き、ねぎと豆腐を包丁で刻んで投入した。 屋敷の一室にちゃぶ台を用意し、皿に料理を盛り付けた。 卵焼きとネギと豆腐の味噌汁の完成である。 僕の料理を見て、紗代さんは終始ポカンとしていた。 「は、春明さんって料理できたんですね……」 「はい。たしなむ程度ですけど」 「すごい……いただいても良いですか?」 「どうぞ」 彼女はお椀を持って味噌汁を口に運んだ。 次の瞬間、赤い瞳がキラキラと輝いて尻尾がぴんっと逆立った。 「美味しいです! え、すごい! すごく美味しいですよ!」 どうやら、お気に召してくれたようだ。 「それは何よりです」 彼女は脅威の速さで朝ごはんを食べ終え、物欲しそうに僕が食べている姿を見ていた。 「い、いります?」 「良いんですか⁉︎」 食い気味に顔を近づけてきた。 相当僕の料理を気に入ってくれたらしい。 「どうぞ、いっぱい食べてください」 「ありがとうございます!」 しかし朝ごはんを食べ終えたのち、彼女は畳の部屋で四つん這いになって頭を抱え始めた。 「違うぅ!」 僕は皿洗いを終えて、部屋に戻ってきた。 「と言いますと?」 「春明さんのご飯はとても美味しかったです! でも、ご飯は私が振る舞いたいんですよぉー! くぅー!」 なるほど。たしかにそれも一理ある。 「よし、特訓です!」 「特訓?」 「はい! 絶対に春明さんに私のご飯を振る舞って見せます! 首を洗って待っていてください!」 「それ使い方違いますよ……」 どうやら、かなり本気のようだ。 「わかりました。それじゃあ、待つとします」 「そうと決まれば!」 彼女は俊速の速さで準備をし、どこかに出掛けに行ってしまった。 「行ってきますー!」 「い、いってらっしゃぁい……これも逆な気がする」 もう彼女の姿はご飯粒の大きさまで小さくなっていた。 油断した。 まさか春明さんの作るご飯があんなに美味しいだなんて。一連の花嫁修行は受けたが、料理はどうしても上手くいかなかった。今回こそはと気合を入れて作ろうとしたが、それも失敗に終わってしまった。 頼れる相手は、あの人物しかいない。 私は妖力を使って半透明な壁を抜け、《妖界》にやってきた。 ここはあやかしたちが住まう世界であり、人間界とは結界で隔てられている。私と春明さんが住まう屋敷はちょうど人間界と妖界の境界線にあるため、そのどちらにも行き来が可能だ。 人間界は妖界よりも発展しているらしく、様々な電子機器や機械が生活を支えているらしい。私たちが普段生活を営んでいる妖界は人間で言う温泉街のような構造をしており、江戸時代や明治時代あたりの建造物が建ち並んでいる。 「えっーと」 私はそれらの中でも一際大きな建築物を探した。妖界唯一の旅館であり、日夜多くのあやかしが訪れる場所だ。 「あった!」 入り口に墨で『ゆ』と書かれた赤い提灯がぶら下がっており、青い人魂が絶えずふわふわと浮かんでいる場所。ここだ。 私は旅館の入り口に立ち、のれんを通って中に入っていった。
ビー玉
カランコロン。 ラムネ瓶の中のビー玉が転がる。 小さな透明な地球がそこにはあった。 何者にも染めるあげることはできない、 純粋で優しい世界。 青空の下、 僕と君はアイスを頬張って、 麦わら帽子を被った君が傾けたラムネを、 僕はただ眺めていた。 これから先何があろうとも 僕は君とずっと一緒にいるのだろう。 虹色に染まる僕の世界と 純白に彩られた君の世界。 その境界線を越えるために、 僕はビー玉になって、 コロコロと転がる。 いつか君色に染まることを夢見て、 透明なこの身体に君の色が付くまで、 僕は転がる。
世界に抗え。
思い出なんか必要ない。 そんなものはただ煩わしいだけだ。 青春なんて本当はつまらないし、 恋なんて夢のまた夢だ。 そんなふうに感じることがある。 雨に打たれて、 この世の理不尽と不条理を全て背負い込んで、 声を上げて必死に抗う。 それでも圧力に負けそうになって、 また立ち上がれずに地面に額を擦り付ける。 いっそ世界なんて無くなってしまえと思うけど、 全てを投げ出すにしては、 私はあまりにも恵まれすぎていた。 どうすることもできない。 無力感に苛まれて、 それでも結局は前を向く。 矛盾だ。 この世界はひどく矛盾している。 それらを一つ一つ解きほぐしていくには、 それ相応の労力が伴う。 「やってやるよ」 それでも私は、 燦然と輝く星々を背に、 この世界に抗うのである。
愛してるだなんて
恋をしている。 僕は君に恋をしている。 「愛してる」だなんて大それたことは まだ気恥ずかしくて言えないけれど、 何度でも思う。 心の底から愛してる。 これは嘘じゃない。 世界で唯一、 君のことを愛しく思えた。 これからもずっと、 大好きだよ。 夕焼けの中に夜が溶けて、 優しく世界を包み込む。 この世界は理不尽だなんて言われているけど、 それを覆せるのが君の笑顔だなんて、 思いもしなかった。 君はいつも僕の予想を超える。 それを見ているのが、 とても楽しいんだ。 君には力がある。 だからどうかめげないでほしい。 落ち込まないでほしい。 君が眠れない時は 僕が星になって君を照らそう。 泣きたい時は 僕の胸に飛び込んできてほしい。 だからずっとずっと、 笑っていてね。 約束だよ。
あやかし新婚日記 一日目「祝言と蛍」
屋敷の大広間に集まっているのは、陰陽師とあやかしたち。 長年争いあってきたこの二つの勢力は、一人の陰陽師と一人のあやかしの結婚をもって、ともに和解するという形をとった。 僕は祝言会場の正面に座り、相手のあやかしの登場を待っていた。 右端には陰陽師の権力者たちが座り、左端には狐の面をつけたあやかしたちが集っていた。 「これより、陰陽師とあやかしの婚姻儀式を執り行います」 僕の側近である爺やが霊符に書かれた進行文を読み上げる。 「はじめに新郎のご紹介をさせていただきます。陰陽師の次期当主・安倍春明様でございます」 僕は正座したまま姿勢を正し、会場の両端に座る来賓の皆様に深々と一礼した。 「次に新婦の紹介に移ります。九尾の娘・紗代様でございます」 爺やが進行書を読み上げると同時に、僕の眼前の扉が開き、白無垢に身を包んだ妖狐の少女が現れた。黄金色の四つの尻尾が背中から覗き、宝石のような赤い瞳がこちらを見つめている。その美しさに思わず鼓動が早まった。今日のこの祝言で初めての顔合わせとなったが、人形のような美貌に思わずたじろいでしまいそうになる。 彼女の周りを人魂が囲い、前方に四人、後方に四人の計八人の妖狐たちが尺八を吹き、鼓を叩き、三線を弾き鳴らしている。 まさに狐の嫁入りを体現した形だ。 やがて彼女は僕の目の前で立ち止まり、その場に正座した。 僕は彼女に笑いかけた。顔がひきつっていないか心配だったが、少しでも彼女の緊張がほぐれればと思った。彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに笑い返してくれた。その笑顔の可愛さに鼓動がドクンと脈打つのを感じた。 そのあとのことはあまりよく思い出せない。たしか互いに酒を注ぎ交わし、来賓の方々に一礼をして祝言は幕を閉じたはずだ。 彼女の太陽のような笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。 あれからずっと心臓がドクンドクンとうるさいままだ。 「これは、やられたな」 ふぅと息を吐いて心を落ち着かせた。 この後、僕と彼女は結婚生活用の屋敷に移され、そこで一夜を過ごすことになる。 僕は陰陽師たちに連れられて屋敷にやってきた。二人で過ごすにはあまりに大きく、豪勢なものだった。 入り口には妖狐たちが待ち構えており、紗代さんが待っている障子の戸の前に僕を案内した。 「それでは、ごゆっくりと」 「ありがとうございます」 僕は妖狐たちに礼を言って、扉の前に立つ。 「紗代さん。入ってもいいですか?」 「は、はいっ」 裏返った声が返ってきた。彼女も相当緊張しているようだ。 「それじゃあ、入りますね」 僕は障子を開いた。 そこには藍色の着物に身を包んだ紗代さんの姿があった。 「こ、こんばんは……」 彼女は長い耳を折り畳み、上目で挨拶をしてきた。頬はまるでりんごのように赤く紅潮していた。それもそのはずだ。畳の部屋の中には敷き布団が二つ繋げて敷いてあり、夜の行為を前提として部屋が用意されていたからだ。 「こ、こんばんは……」 思わず僕もかあっと赤くなって、その場で頭を下げる。 「どうぞ、入ってください」 「は、はい」 僕は部屋の中に入って、入り口付近に座った。 「なんか、落ち着きませんね……」 僕は話題を振ろうと必死だった。 「そうですね……」 彼女は頬を赤く染めて下を向いていた。 しばらくの沈黙が場を支配したのち、僕は口を開いた。 「あの……少し外に出ませんか?」 「え?」 「その、ここは妙に落ち着かないと言いますか……」 「確かにそうですね。少し出ましょうか」 彼女はそう言って快諾してくれた。 「それじゃあ」 僕は手を差し出した。 「行きましょうか」 「ひゃ、ひゃいっ!」 うわずった声を出しながらも、彼女は僕の手を取ってくれた。 僕と紗代さんは手を繋いだまま屋敷の庭園にやってきた。 「うわあ、すごいですね!」 彼女は尻尾を振って喜んでくれた。 庭園の装飾は気合が入っており、金魚が泳ぐ池や岩の置物、盆栽などが用意されていた。地面は白い石で埋め尽くされており、岩で作られた一本道が僕たちを出迎えた。 「そうですね……ちょっと気合い入りすぎな気もするけど」 「ふふ、たしかに。金魚もいるんですね」 その時、少し強い風が吹いた。 「きゃっ」 紗代さんはゆらりと体勢を崩し、僕の胸にぽすっと頭を預けた。 「あ、あの、ごめんなさい」 「大丈夫ですよ。紗代さんは大丈夫ですか?」 「はい。私はなんとも……」 その次の時だった。風が吹いたことで庭園に植えられていた草木が揺れ、そこから無数の黄色い光の玉が宙に舞い上がった。 「これは……」 「蛍ですね」 僕はそう答えた。 「蛍……」 「初めて見ますか?」 「はい……綺麗ですね」 彼女はそう言って優しく微笑んだ。 「そうですね」 僕は彼女の手を強く掴み、その光景を眺めていた。 「紗代さん」 「はい?」 「これから、よろしくお願いします」 僕はそう言って笑いかけた。 僕の言葉を受けて、彼女は頬を綻ばせた。 「はい。こちらこそよろしくお願いします」 僕たちは蛍が舞う庭園で、しばらく悠久の時を過ごした。
霊能探偵 ファイル14「鏡の中の亡霊・中」
気がつくと、僕は体育館倉庫の中に閉じ込められていた。 何だ……一体何が起きた。 「お前達を鏡の中に招き入れた。もう出ることはできない」 声が聞こえてきた。 眼前に巨大な鏡が現れ、男の顔が口を開いていた。 「何だと……」 「一生をここで過ごすのだな」 「このっ……!」 僕は手で銃の形を作り、奴に向けて霊力の弾丸を発砲した。零明流霊術・蒼極砲《そうきょくほう》だ。 しかし奴の顔面に弾丸が当たったと思った途端、男の霊気は消え去り、鏡が粉々に割れただけであった。 「くそ……っ」 完全に油断した。どうやらサユキとも隔離されてしまったらしい。だが彼女も鏡の中に吸い込まれたのだ。きっとこの世界のどこかにいるはずだ。それに神木さんの友人や他に囚われた学生達もここにいる可能性がある。 まずはこの倉庫の中から脱出しなければ。 僕は扉の前に立つ。 無論、鍵はなく、扉は鎖で丁寧に縛られている。 僕は霊刀を構え、鎖に目掛けて振り下ろした。 ガギンっという重厚な金属音が響いたのち、鎖は両断された。 扉を蹴破り、倉庫の外へと抜け出す。 空には万華鏡のような紋様が浮かび上がり、校舎の輪郭はぐにゃぐにゃに歪んでいる。 本当に鏡の世界に放り込まれたのだと思い知らされる。 「行かないと!」 僕は校舎に向けて駆け出した。 「う、うーん」 目が覚めると、校舎の天井が視界に入り込んできた。辺りには並んだ教室と窓ガラス。 どうやら、廊下に倒れていたらしい。 「あれ? 私、どうして──」 確か鏡の中の男と交戦して、何か男が術を使って、鏡の中に吸い込まれて……。 ということは、ここは鏡の中? 「そんな、嘘……」 すぐに立ち上がり、窓の外を見る。 空には何とも形容し難い不思議な模様が浮かんでいる。建物の輪郭が曲がり、芯が通っていない。 悠斗さんともはぐれたようだ。一体どうすれば……。 そんな時だった。 「あの、大丈夫ですか?」 ふと、声が聞こえて来た。女性の声だ。 「誰ですか?」 「私、冴島ゆかって言います。あなたもあの男に……?」 ふと目をやると、教室の扉の隙間から一人の女子生徒がこちらを見ていた。 「そうみたいです……あなたもですか?」 「はい……放課後に委員会の仕事でB館の掃除をしなきゃいけなくて、鏡に触ったら吸い込まれて……」 彼女はひどく怯えていた。 私は扉を開けて、彼女を抱きしめた。 「もう大丈夫です。よく頑張りましたね。あなたの事は私が守ります」 「冷たい……」 「あ、ごめんなさい。私、雪女なんです」 「え?」 「依頼でこの件に関わって……鏡の中の男と交戦したんですけど、この通り、負けちゃいました」 「そうなんですか……依頼って?」 「探偵の助手をしているんです。神木さんという方から『友達を助けて欲しい』と依頼を受けました」 私が「神木さん」と名前を出した時、彼女はぴくりと体を動かした。 「え……神木ってもしかして、神木柚葉ですか?」 「──あなたがもしかして、神木さんのお友達ですか?」 「は、はい。そうです」 私は思わず胸を撫で下ろした。 「無事でよかったです。一緒にここを出ましょうね」 「は、はい……」 彼女が涙を流してそう告げた直後だった。 件の男と同じ霊気が大気に充満し始めた。 それらは形を成し、やがて背丈の高い化物へと姿を変えた。 「ひ、ひぃ」 「こっちです!」 私は彼女の手を引いて、廊下を駆け出した。 しかし行く手にも全身銀色の化け物が現れた。 「そ、そんな……」 「大丈夫です」 私は氷の針を生成し、化け物に向けて飛ばした。だが、化け物の体は鏡で構成されているようで、私の針は奴の体を通り抜けてしまった。 「ッ!」 この化け物達には、私の氷は効かない。 あっという間に周りを囲まれてしまった。化け物は全部で三体。これから増殖するかもしれない。 一体、どうすれば──。 ふと、着物の帯に差していた小刀に手が触れた。 「そうだ、これなら!」 私は帯から『封魔刀』を手に取り、左手で刀を抜いた。 刀身からは地獄の炎が燃え上がり、妖気が私の左半身へ血液のように拡がっていく。 私は『封魔刀』を振りかぶり、化け物に斬撃を与えた。業火によって鏡は焼けただれて溶けていく。やがて三体のうち一体の化け物は、跡形もなく溶けて無くなってしまった。 「これなら戦える!」 私は炎を纏った小刀を構え、鏡の化け物達と対峙した。 校舎に入った途端、地獄の妖気を感じ取った。 「この妖気……『封魔刀』か」 稲荷さんからサユキが授かった宝物のうちの一つ。この焦げ付くような妖気は、彼女がそれを抜いた結果なのだろう。 サユキが戦っているのだ。僕も自分にできることをしなくては。 今僕がいるのは昇降口。先程と同じB館だ。つまり鏡が大量に置かれていたあの教室に入ることができれば、何か脱出の糸口を掴むことができるかもしれない。 僕はすぐにあの教室を探し出した。 教室の扉を開け、中に入る。 そこには、一人の男が背を向けて座っていた。一瞬連れ去られたこの学校の生徒かと思ったが、彼は霊気を発していた。生者で霊気を発することができるのは霊能者と陰陽師だけだ。死者であれば話は別だが、彼が死者である確証もない。 どっちだ? 「何者ですか?」 僕は刀を構えて尋ねた。 「お前達をここに招き入れた者だ」 奴はそう言い放ち、立ち上がった。 こちらに振り向くと、その素顔が露わになる。間違いない。僕達をこちらの世界に送り込んだあの男だ。 「ここを見破るとは、流石だな」 「こんな事は誰でも思いつく。ただお前に太刀打ちできないだけ だ」 「お前は太刀打ちできると?」 「やってみるか?」 次の刹那、僕は奴に目掛けて刃を振るった。
霊能探偵 ファイル13「鏡の中の亡霊・上」
探偵業の朝は早い。 依頼人がいつ何時訪れてもいいように備える必要があるからだ。 僕とサユキは事務所でそのまま寝泊まりしているため、あまり心配することはないのだが、備えていて悪いことはない。 僕は朝五時に起床。軽く事務所を掃除したあと、キッチンで朝食を作る。サユキの分も作るため、食費が前よりも倍になったのが少し痛手ではある。だが、彼女もあれから僕によく尽くしてくれている。僕もできる限り彼女に還元しなければいけない。 冷蔵庫から卵を二つ取り出し、熱したフライパンに割って落とす。まだ眠気が残っているが、何とか意識を保ってベーコンエッグを作る。いつも僕が調理を終えた段階でサユキが起きてくるため、二人で朝食を取る。 「サユキはどう? 探偵業には慣れてきた?」 僕がベーコンを食べながらそう尋ねると、彼女は笑って首を傾げた。 「どうでしょう……まだあまり実感がないというか」 「でも幽霊列車の時も土蜘蛛の時も、僕はすごく助かったよ。サユキがいなきゃ解決できなかっただろうし」 「そうですか? そう言ってももらえると嬉しいです」 「うん」 朝食を食べ終えると、食器等の片付けはサユキが担当してくれる。 彼女が後片付けをしてくれている間に、僕は事務所の看板を『close』から『open』にひっくり返す。 そして扉を閉めようとした時、一人の女子高生が駆け寄ってきた。 「あの、ここって『白神探偵事務所』ですよね?」 「そうですよ。ご依頼ですか?」 「はい。良いですか?」 「もちろん。どうぞ」 僕は彼女を探偵事務所の中に招き入れた。 「ここで待っていてください」 「は、はい」 彼女を事務所のテーブルに案内し、サユキに依頼人が来たことを告げた。 「どうぞ」 サユキがお茶を出し、女子高生は「どうも」と頭をぺこりと下げる。 僕はソファに腰掛け、依頼内容を細かく聞いていく。 「お名前を伺っても良いですか?」 「は、はい。神木柚葉と言います」 「神木さんですね。それでご依頼内容はどういったものでしょうか?」 僕はそう尋ねると、彼女は一度俯いた。しばらくの沈黙が流れたのち、神木さんは重い口を開いた。 「……友達を、助けて欲しいんです」 「というと?」 「私の学校には噂があるんです。放課後、校舎B館に置いてある鏡を見ると、鏡の中に引きずり込まれる……って。それで、私の友達が委員会の仕事でどうしてもB館に行かなきゃいけなくなったんです。私は止めたんですけど、友達は『大丈夫だから』って……そこから何時間経っても、友達は帰ってきませんでした。家にも帰っていないらしくて……鏡の中に連れ去られたんだと思います」 「なるほど」 僕は彼女の話をメモしつつ、状況を整理した。 「では、一旦校舎のB館を調査してみます。おそらくですが、雲外鏡という怪異の仕業だと思うので」 「雲外鏡……ですか?」 「ええ。鏡に扮した怪異なんです。特段悪さをするような怪異じゃないんですが、個体差があるので。何かあるんだと思います」 「わかりました……よろしくお願いします」 彼女は深々と頭を下げた。 「お任せください」 時刻は午後四時半。 僕とサユキは彼女が通っているという高校に足を運んだ。 事務員に許可をとり、校舎の敷地に入らせてもらえることになったため、僕達は地図を見ながらB館を探した。 「あった、ここだ」 特別何か強力な妖気を発しているわけでもなく、ごく普通の高校の校舎といった印象だ。 「ひとまず、例の鏡を探してみよう」 「わかりました」 僕とサユキは二手に分かれ、件の鏡を探そうとした。 しかし、僕達はこの校舎の恐ろしを目の当たりにした。 鏡は二階と三階には一切なく、一階の空き教室に集中して置いてあったのだ。その数、大小合わせておよそ数十個。これほど大量の鏡がなぜ一高校に集まっているのか。とても不気味な光景であった。 「なんだ……これ」 「なんていうか、すごく不気味ですね」 「これじゃあ、どれが例の鏡か分からないな」 「目撃者がいない以上、完全に噂頼りですもんね」 「さて、どうしたものか」 その時だった。 突如、教室に置かれたすべての鏡に男の顔が浮かび上がった。 「立ち去れ」 男はそう告げた。 「何者だ?」 雲外鏡だと踏んでいたが、推理が外れた。彼が発していたのは妖気ではなく、霊気だったのだ。 「誰でもない。良いから立ち去れ」 「そういうわけにはいきません! 攫った人達を返して下さい!」 サユキがそう言い放った。 「それはできない相談だ」 やはり、高校生を鏡の中に連れ去っていたのはこの男のようだ。 「なら、力づくで連れ戻す」 僕は刀袋から霊刀を取り出した。 「部外者が……俺の邪魔をするな」 霊気が強くなった。 奴は鏡の中から無数の手を伸ばし、僕達に向けて攻撃を仕掛けてきた。 「閉栓結界!」 僕は結界を張り、奴の攻撃を弾き飛ばす。 しかし、鏡から現れた無数の手は触手に姿を変え、結界を穿とうとしてくる。 「もたないか……?」 「私に任せて下さい!」 「頼んだ」 サユキの言葉を信じ、僕は閉栓結界を解いた。 「創成・氷針《こおりばり》」 彼女は妖術で鋭い氷の針を生み出し、触手に向けて一つ一つ打ち込んだ。触手と針がすべて真正面からぶつかり合い、やがて互いに消滅する。 教室の中で繰り広げられる激しい戦闘は、サユキの妖術によって一時停戦となった。 「こうなれば……!」 突如、奴の霊気が強まった。 次の刹那、僕とサユキの体は凄まじい引力によって鏡の中に吸い込まれた。