白崎ライカ

187 件の小説
Profile picture

白崎ライカ

アニメ、ファンタジー、剣戟アクションが好きです。 最近はノリと勢いで詩をよく書いています! 自分の好きな時に書いてるので、 不定期投稿です。 今更ですが、誤字癖があります。 温かい目で見て下さると作者は喜びます! 使用しているイラストは画像生成AIで作成したものです! よろしくお願いします〜

アナザーライフ・ファンタジー 第十話「水竜」

 俺は《水竜》の詳細な情報を得ようとヴォルトさんに話を聞いた。 「《水竜》について何かわかっていることはありますか? 出現頻度であったり、特徴であったり、何でも大丈夫です」  ヴォルトさんは俺たちの眼前の席に座り、質問に答えてくれた。 「《水竜》は日没頃にリーガン湖から顔を出します。理由は分かりませんが、何度か村の者が遭遇しました。《水竜》はどうやらリーガン湖に近づく者を『ナワバリを奪い取る敵』と認識するようで、遭遇した村の者は命からがら逃げてきたようなのです。《水竜》の特徴としては蛇のような細長い体躯もそうなのですが、額にツノが生えていて、そこから魔法を行使することが可能であるようです。私が知っている情報はこれで全てです」 「そうですか……ありがとうございます」  俺は彼に頭を下げて礼を告げた。  魔獣は魔法を使用する個体が過半数を占めている。それ故に討伐困難な個体も存在すると聞く。しかし逆に言えば、《水竜》も《暴食の魔剣》の魔法奪取の対象になる。これは勝利の道筋が見えてきた。 「では今日の日没に《水竜》を討伐します。それで問題ないですか?」 「……はいっ、よろしくお願いします!」  俺は彼に向けて手を差し出した。  村長は藁にもすがる表情で俺の手を握った。  村のみんなの為にも、絶対に《水竜》を討伐するのだ。  俺はそう固く決心した。  日没になった。  俺とヴォルドラはリーガン湖の淵に座り、奴が現れるのをひたすらに待っていた。 「そろそろかな」  俺は立ち上がり、背中に帯剣していた《暴食の魔剣》に手をかけた。  ヴォルドラも隣で戦闘準備に入っている。 「そういえば、ヴォルドラは炎以外に戦う手段はあるのか?」  俺のふとした疑問に、ヴォルドラは鼻で笑って返した。 「おいおい。あまりわしを舐めるなよ。勿論炎以外にも攻撃手段はある。近接戦闘が主体になるがな」 「ふぅん。それじゃあサポート頼むぞ」 「くくく、それはお主の役目じゃ」 「まぁどっちでも良いか」  次の刹那、突如リーガン湖の水面が泡立ち始めた。 「来たぞ」 「ああ、分かってる」  泡は徐々に広がっていき、やがて湖の中心から青い鱗を持つ竜が姿を現した。依頼書に描かれていたように長細い体躯を持ち、村長が言っていたように額には大きなツノが生えていた。  赤い眼光が俺達を睨みつける。  俺は《暴食の魔剣》を抜刀して構えた。 「グルアアァァァッ!」 《水竜》は甲高い声を上げた。  そして次の瞬間、俺たちに向けて雷撃を放ってきた。  俺は咄嗟に大剣に防ごうとするが、ヴォルドラが掌から炎を放って迎撃したことで事なきを得た。金色の雷と深紅の炎が正面からぶつかり合う。 「なんじゃ、そんなものか。まだまだひよっこじゃのう」 「グルアアァァァッ」 《水竜》は雷撃が効かないと悟ったのか、その長い体躯でうねりを描き、こちらに向けて頭突きを仕掛けてきた。ツノで俺達を串刺しにするつもりなのだろう。  俺は即座に大剣を地面に突き刺し、てこの原理で自身の身体を持ち上げた。そして頭突きを回避すると同時に奴の体躯に乗り、《暴食の魔剣》でその身体を斬り刻んだ。幾千もの太刀を振るい、切り傷を負わせていく。俺が大剣を振るうたびに紫色の血液が吹き出し、奴の悲鳴が響き渡る。 「グルアアァァァァァァァァッ!」  効いている。このまま押し切れば勝てる。  しかしそう容易に事は進まなかった。 《水竜》はリーガン湖の中に潜り、俺を振り落とそうとしてきた。  俺は《水竜》の鱗に大剣を突き刺して振り落とされないように耐え忍ぶことしかできない。  まずい。息が持たない。  このままでは窒息してしまう。  どうすれば良い?  いや、待てよ。  先程《水竜》を《暴食の魔剣》で斬りつけた。すなわち奴の魔法を奪取することに成功していると考えて良い。  ならば──。 (リーガン・ボルト!)  俺は魔法を行使した。《水竜》が使用していた雷撃魔法だ。大剣を伝って雷撃が奴の体躯を迸り、《水竜》は感電する。奴は水中で暴れ回り、地表へと浮き上がった。 「ぷはあっ」  俺は酸素をありったけ肺に取り込む。  どうやら上手くいったらしい。  地上ではヴォルドラが炎を拳に纏わせていた。 「遅かったのう。あともうちっと遅ければリーガン湖の水を蒸発させていたところじゃ」  彼女は右手の拳に溜め込んだ炎を一気に放出した。  炎は《水竜》の青い鱗を焼き焦がしていく。 「グルアアァァァァァァァァッ」 《水竜》の悲鳴が響き渡る。 「まだまだへばるでないぞ。もっと楽しもう」  ヴォルドラは背中に羽を生やして、空中を滑空し、鋭利な爪で《水竜》の体表を斬り裂いた。 「グルアアァァァッ」 《水竜》は再び声を上げる。  魔法は全て奪い去ったのだ。《水竜》に残されている反撃の糸口はないに等しい。 「このまま押し切るぞ」 「言われなくてもそのつもりじゃ!」  俺は大剣で奴の体躯を斬り刻み、ヴォルドラは爪で斬り裂いた。  徐々に奴の動きが鈍くなっていき、数刻後には完全に生き絶えた。

1
0
アナザーライフ・ファンタジー 第十話「水竜」

アナザーライフ・ファンタジー 第九話「初依頼」

 ヴォルドラが選んだ依頼書には《水竜》の絵が描かれていた。青い鱗に細い体躯を持つ竜。初めて見る魔獣だ。どうやらリーガン湖という場所に生息しているらしく、魚を食い尽くしてしまう為、近隣住民が食糧難で困り果てているらしい。報酬金額は金貨十枚。『依頼』の中ではまずまずと言ったところだろう。 「仕方ない。これで妥協しよう」  俺はそう言って依頼書を受付に持って行った。 「この『依頼』を受けたいのですが」  窓口には金髪を結いた女性がおり、依頼書を確認してくれた。 「失礼致します」  女性は依頼書を手にするとハンコのようなものを押印してこちらに手渡してきた。 「『依頼』を受理しました。ご武運をお祈り申し上げます」 「ありがとうございます」  俺は女性に礼を告げ、ヴォルドラの元に戻った。 「『依頼』、受理されたぞ。早速向かおう」 「おう! とっとと終わらせて早く肉を食らうぞ!」 「また飯のことかよ……」  相変わらずの平常運転に俺はため息を吐くしかなかった。 「そのリーガン湖にはどうやって向かうんじゃ?」 「馬車の荷台に乗せてもらおうと思ってる。ちょっと路銀を使うけど、それが一番早い」 「ふぅん、それじゃあ早く行くぞ!」 「へいへーい」  我先にと前を行くヴォルドラの背中を俺は眺めながら歩いた。  城壁付近の門に滞在している馬車の御者(ぎょしゃ)に声をかけ、リーガン湖まで乗せてくれるという者を見つけることに成功した。俺とヴォルドラはその馬車の荷台に乗り、一度街を離れることになった。  道中、馬の小休止を数回程度挟んだが半日ほどで目的地であるリーガン湖に到着した。  俺とヴォルドラは荷台から地上に降り立った。竜人族の女王様はぐっと身体を伸ばしている。 「ありがとうございました」  俺は御者に報酬を支払った。 「どうも。それではご武運を」  白髭を蓄えた御者は俺とヴォルドラにそう告げて街に戻って行った。本来は行商人なのだろう。リーガン湖まで乗せてくれたことに感謝してもしきれない。 「よし。それじゃあやるか」 「おう。それで《水竜》はどこじゃ?」 「まぁ待て。まずは聞き込みだ。リーガン湖近くの村で情報収集しよう」 「ちえ、つまらんのう」  ヴォルドラは口を尖らせて不機嫌そうな態度を取った。 「そう言うな。大事なことだ。いきなり本戦だと魔獣の手の内を知らない状態で戦うことになる。迷宮ならともかく、地上に生息している魔獣がどれぐらい強いのか分からないからな。それに被害状況も把握しておかないといけない」 「そういうものか」 「そういうもんだ」 「仕方ない。付き合うか」  ヴォルドラを説得したのち、俺達はリーガン湖近くの村を探した。リーガン湖自体は眼前に広がっており、とても雄大な湖となっている。この中に《水竜》が生息していると考えると恐ろしくてたまらない。  しばらくリーガン湖の周辺を探索していると小さな村を見つけた。古びた木造の家屋が立ち並んでいるが、生活感がない。当たり前だ。主食とも言える魚が獲れていないのだ。自給自足の生活にも限界があるのだろう。 「誰もいないな……」 「全くじゃ」  痺れを切らしたヴォルドラが声を荒げた。 「おい! 村の人間共! わしは《討伐士》のヴォルドラ・ナイグ・エグゼレーストじゃ! 《水竜》の討伐に馳せ参じた! わかったらとっとと出てこんか!」 「ちょ、お前なあ……」  相変わらずの傍若無人振りにはもはや実家のような安心感を覚えるほどだ。この振る舞いが彼女らしいと言えば彼女らしい。  ヴォルドラの言葉を聞いてか、最果ての家屋から杖をついた老人が出てきた。 「《討伐士》のお方ですか……」  枯れ枝のようなその痛々しい姿に思わず俺は口を手で覆った。病気で伏していた時の俺の腕よりも細くて弱々しい。まともな食事にありつけていないのだろう。これは一刻も早く《水竜》を討伐しなくてはいけない。 「そうです。《水竜》の討伐に来ました」 「ありがたい……なんとお礼を言ったら良いものか……皆の者、《討伐士》の方々が来てくれたぞ!」  老人の声に呼応するかのように多くの村人が外に出てきた。全員ひどく痩せ細っている。畑らしき場所はあるが、不作なのか野菜は一つも植えられていなかった。 「私はこの村の村長をしております、ヴォルト・ユーリスと申します」 「俺は《討伐士》のユキト・オルティナスと言います。少し《水竜》についてお話を聞かせていただきたいのですが……」 「勿論でございます。どうぞこちらへ」  そう言ってヴォルトさんは自身の家へ俺達を招いてくれた。 「ご自由にお掛け下さい」  家の中央には木のテーブルと椅子が置かれていた。 「うむ、苦しゅうないぞ」  ヴォルドラはすぐに椅子に腰掛ける。 「ありがとうございます」  俺も彼女の隣の席に座った。 「《水竜》がリーガン湖に住み着いてからというもの、魚が獲れなくなりました。農業も上手くいかず不作続き……皆、飢えに苦しんでおります。どうか、私達を《水竜》からお救い下さい……お願いします」 「勿論です。そのために来ましたから」  俺はヴォルトさんに向けてそう言い切った。  

2
0
アナザーライフ・ファンタジー 第九話「初依頼」

アナザーライフ・ファンタジー 第八話「でこぼこコンビ」

「うーん、どの飯も美味いのう!」  《ギルド》にて魔石を換金したのち、僕とヴォルドラは酒場で腹ごしらえをしていた。  俺はちまちまと料理をついばむ程度だったが、彼女は相当腹が減っていたのか、大きな骨付き肉を頼んではそれを大胆に頬張っていた。  おかげで、周りから注目の視線を集めている。 「なあ、もう少しゆっくり食えよ。ご飯は逃げないから」 「何を言うか! はよう食わんと飯が冷めるじゃろうが!」 「んーまあ、そうなんだけどさぁ」  だめだ。完全に聞く耳持たない。  結局、ヴォルドラはその後も食べ続け、俺の財産の半分が消えてしまった。 「あんなにお金あったのに……」  宿の中で悔し涙を流す。  当の本人はベッドの上で飛び跳ねて遊んでいる始末である。 「にゃはは、この寝具面白いのぉ。バインバイン跳ねる」 「頼むから壊すなよ」 「分かっておるわ。全く、そうカリカリするでない。ベーコンになるぞ?」 「なんじゃそりゃ、まだ食欲あるってか? もう結構食っただろ? お前が遠慮なく食べるせいで、俺の財産の半分が消えてったんだが?」 「細いことは気にするでない! 器の大きな男にならんか!」 「いや、そういうことじゃないから……」  駄目だ。話していても埒(らち)が開かない。 「俺、少し迷宮潜ってくるから」 「んにゃ、何故じゃ?」 「どこかの竜人族の女王様が遠慮なく食べたせいで財政難だから。ヴォルドラはここで休んでてくれ」 「わかった。行ってこい行ってこい」  俺は「はぁ」とため息を吐きつつも、装備を持って《メルヘス迷宮》の下層に潜った。少しでも魔獣を倒せば、どうにかヴォルドラが食べた分の資金を取り戻せるだろう。  俺は結果朝まで迷宮に潜り、《暴食の魔剣》で魔法を獲得すると同時に魔石を大量に手に入れた。  これだけあれば収入も見込める。  朝まで潜った甲斐があった。  俺は魔石を《ギルド》に持っていき、金貨四十枚を手に入れることができた。 「帰ったよ」 「おー、遅かったな」  宿に戻ると、ヴォルドラはまだベッドの上でくつろいでいた。 「誰のせいだと……まあもう良いか」 「それで? 今日は何をするんじゃ?」 「ああ。今日は『依頼』を受けてみようと思うんだ」 「『依頼』? なんじゃそれは?」 「《ギルド》の掲示板には魔獣の討伐依頼書が貼られてるんだ。魔獣の被害に遭ってる人達が依頼を出して、申請を通ったものが貼り出されるシステムになってる。多くの《討伐士》は『依頼』を受けて魔獣を狩るのが一般的なんだ」 「ほう……それは面白そうじゃなあ」 「けどその前に、ヴォルドラも登録をしないとな」 「登録ぅ?」 「そう。《討伐士》の登録。それをしないと『依頼』を受けらんないの」 「今の世は随分と面倒になったものじゃなぁ」 「良いから行くぞ。早くしないと日が暮れる」 「ほーい」  俺とヴォルドラは《ギルド》に向かい、彼女の登録を行なった。担当してくれたのは、俺の登録の際に手続きをしてくれた女性だった。 「こちらエグゼレースト様の《ステータスプレート》になります」 「この銅板がか?」 「はい。エグゼレースト様は《討伐士》になりたてですので、ブラウンランクとなっております」 「ふぅん」  ヴォルドラは手渡された《ステータスプレート》をじろじろと見たのち、懐にしまった。 「それと、こちら『登録完了報酬』となります」   窓口の女性は俺の時と同じように、ヴォルドラに銀貨四十枚と銀貨十枚が入った革袋を渡した。かなりの金額であるため、彼女の食費は自分でやりくりして欲しいものだ。 「これはまた金が大量じゃな〜。これで肉を何個食えるか……」  ヴォルドラはジュルリとよだれを垂らしてそう呟く。 「おい。俺はもう食費は出さないからな。自分で管理しろよ」  俺は耳打ちで彼女に念を押した。 「わかっとるわい」  気だるそうに彼女は答えた。  果たして本当に大丈夫だろうか。  先が思いやられるばかりだ。 「お手続きは以上になります」  受付の女性は俺達にそう告げた。 「ありがとうございました」  俺は彼女に会釈し、その場を後にした。 「さて、次は『依頼』を探さないとな」 「魔獣どもを抹殺したくてたまらん。早う『依頼』を受けるぞ」 「抹殺って……まぁ間違ってないけどさ。それじゃあ提示版を見てみるか」  俺とヴォルドラは《ギルド》の提示版に足を運んだ。そこには様々な内容の討伐依頼書が貼り出されていた。依頼書には魔獣の絵と共に依頼文章と報酬金額が記載されており、どれも高金額のものばかりだ。多くの《討伐士》が『依頼』を受ける理由が分かる気がする。より危険と隣り合わせの仕事になるが、その分の報酬が見込める。  これは慎重に選ぶ必要がありそうだ。 「さて、何にするか……」 「これじゃ!」  僕が必死に考え込む横で、ヴォルドラは一枚の依頼書を剥がし取った。 「ちょ、少しは考えて選べよ」 「なぁに、どんな魔獣でも討伐すれば良いんじゃろう?」 「そうだけどさあ……まあ良いか。依頼書、見せてくれ」 「ん!」  そうして俺はヴォルドラから依頼書を受け取った。  

2
0
アナザーライフ・ファンタジー 第八話「でこぼこコンビ」

あとがき

皆さん、こんにちは。 白崎ライカです。 ここまで「コード:ジニア」を読んでくださり、誠にありがとうございます。 最後まで走り切ることができたのも、いつも読んでくださる皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます。 是非次回作も期待していてください。 「コード:ジニア」のように長い連載をする気力はありませんが、短い連載を幾つか書いていこうと思っています。 最後になりましたが、本当にここまで「コード:ジニア」を読んでくださり、ありがとうございました。 また会いましょう! それでは!

5
2
あとがき

コード:ジニア 最終話「コード:ジニア」

 リカさんの元へ法律制定の提案に向かってから一週間の時が流れた。ミルギースは相変わらず平和だ。この街並みがこれから全世界に広がる。そう考えるだけで胸が高鳴るのを感じた。  エルさんは僕達を店内に転移させてから数時間後に戻ってきた。彼女曰く「法律の内容が決まった」とのことだ。ちょうど今日の昼に生中継でリカさんが法律の公布を発表するらしい。  僕達は喫茶店を臨時休業し、テレビに釘付けになった。 「そろそろだ」  エルさんはそう言って身構える。  番組が変わり、リカさんがモニターに映し出された。 「アーデリナ国民の皆様こんにちは。リカ・カニス・ユッカと申します。ミルギースの市長を務めています。アーデリナ国民の皆さんにはこれから全世界に向けて発信するある法律の公布をお知らせしたいと思います。約千年間、人と亜人は互いにいがみ合い、争いを繰り返してきました。しかし昨今、とある亜人ユニオンが消滅してからというもの人と亜人の争いは急激に減少したように感じます。ここで一つ、『人と亜人の不可侵の法律』を制定したいと考えています。内容は単純明快。人は亜人に危害を加えないこと。また亜人も人に危害を加えないこと。これだけです。法律の名前は『規律』という意味の『コード』という単語を使い、とある武装組織の名を借りて『コード:ジニア』と名付けました。是非アーデリナ国の皆さんにはこの法律を支援していただきたく存じます。以上、ミルギース市長・リカ・カニス・ユッカでした」  そうして生中継は終了した。『コード:ジニア』。人と亜人の不可侵を約束した法律。まさかジニアの名前が使われるとは。この翌日、ニュースは『コード:ジニア』が公布されたという内容で持ちきりだった。人と亜人の両者に受け入れられるのもそう遠くない未来の話になるだろう。  そして『コード:ジニア』が全世界に制定されて、約一年の月日が流れた。  ラーグは一度ジニアを抜け、DRIの再建に尽力するらしい。少しの間ではあるが、親友が遠くへ行ってしまうことに寂しさを感じるのもまた事実だ。 「俺はDRIを立て直す為に一度ジニアを抜けるよ。ジニアに入ったのもDRIを再建する為だからな。どれくらいかかるか分からないけど、できるところまでやってみるつもりだよ」  彼は僕にそう告げた。  僕はただ「そっか」とだけ言葉を返した。 「じゃあな、親友」 「ああ。またな」  最後にハイタッチを交わし、ラーグはジニアを去っていった。  ラーグがジニアを抜けてからさらに一年の時が過ぎた。  世界はすっかり平和になった。争いはぱたりと無くなり、ジニアが活動するのも喫茶店のみになった。  僕は『cafe:zinnia』の屋上で青空を見上げていた。休憩時間にある人物を呼び出していた。今は彼女を待っている状態だ。 「レイ?」  来た。ハイナだ。 「話って何?」  ハイナは僕の隣に立ち、そう訊いてきた。 「えっーと……」  今更ながらとても緊張してきた。心臓がうるさい。頬も真っ赤に紅潮しているだろう。けれどもこれだけはどうしても伝えたい。僕は意を決して口を開いた。 「ハイナ……」 「うん」 「結婚……しないか?」 「えっ……?」  ハイナの顔がみるみる赤くなっていく。 「それって、プロポーズ?」 「うん。そう。どうかな?」 「……っ」  次の刹那、ハイナは大粒の涙を溢した。 「えっぐ……ひっぐ……っ」 「え、ハ、ハイナ?」 「ごめんね……嬉しくてつい……よろしくお願いします」  ハイナは両手を口に添えてそう答えた。 「本当に? 僕で良いの?」 「うん。レイが良いの」  彼女は涙を拭いながらそう告げた。 「ありがとう。絶対に幸せにするね」 「私のほうこそだよ。絶対に幸せにする」 「うん。ありがとう」 「あ、でも、名前、どうしよう……」 「え?」 「レイからもらった『カーネーション』って名前。すごく大切にしてるの。レイと結婚したら私『ハイナ・フォードガスト』になっちゃう……」 「それじゃあミドルネームにするのは?」 「ミドルネーム?」 「そう。カーネーションでCだから……『ハイナ・C・フォードガスト』とか、どうかな?」 「それ、すごく良い。ありがとう。レイ」 「気に入ってもらえて何よりだよ。これからよろしくね。ハイナ」 「うん!」  僕達はそうしてどちらからともなく口付けを交わした。  しかし次の刹那、屋上の扉をこじ開けてアルジオさんがやってきた。 「おい、もう休憩時間とっくに過ぎてるぞ! 仕事しろ。仕事!」 「はい! 今、行きます!」  僕はそう返答した。 「びっくりしたね」 「そうだね」 「それじゃあ行こうか」 「うん」  僕とハイナは手を繋いで店内に戻った。 「おや、二人とも顔が赤いじゃないか。どうしたんだい?」  カウンターの奥でコーヒーを淹れていたエルさんがそう尋ねてきた。 「いえ、なんでもないです」  僕はすかさずそう答える。 「それなら良いのだが……熱があるなら休んでくれよ」 「はい。ありがとうございます」  僕がエルさんに礼を言った次の刹那、カランコロンと扉のベルが鳴った。  僕とハイナは一度手を解き、扉の方へ歩みを進めた。 「いらっしゃいませ!」  喫茶店に来た客に向けて僕達は満面の笑みを向けた。

3
0
コード:ジニア 最終話「コード:ジニア」

コード:ジニア 第八十四話「制定」

「『人と亜人の不可侵の法律』……ですか?」  終業時間の店内に集められた僕達は総じて耳を疑った。エルさんからまさかそのような提案がされるとは思ってもみなかったからだ。  僕は気付けば彼女にそう訊き返していた。 「ああ、そうだ。互いに争わないという不可侵の法律が制定されれば、きっと今よりも人と亜人の争いは減少する。『人と亜人の共生』に大きく近づくんだ。《暁の会》を倒してからずっと考えていた。もっと早くこうするべきだったんだ」  確かに不可侵の法律が制定されれば、人と亜人の争いを強制的に無くすことができる。罰則があればテロ行為を起こそうとする反乱分子を抑制することに繋がるのも大きな理由だ。『人と亜人の共生』。今までは犯罪組織を潰して回るだけだったが、法律が制定されればより一層その未来に近づく。ミルギースの街並みの光景が世界中に広がるのだ。それは僕達にとって願ったり叶ったりな状態だ。 「それ、良いと思います」  僕はエルさんに向けてそう言い切った。 「私も。今よりも人と亜人の争いが減るなら、それが良いと思います」  ハイナもそう言った。 「確かにそうだな。そうすればDRIを立て直すのも手っ取り早い」  ラーグもそう続ける。 「俺も良いと思うぜ。賛成だ」  アルジオさんはそう言ってタバコをふかした。 「私はヴォルトロン様のあるがままに従います」  ルルカさんはそう言って主人の肩に手を置いた。 「みんな……ありがとう。では、早速行こう」 「行くって……どこにですか?」  僕はそう尋ねた。 「ミルギースの市役所の市長室だ。リカに直接交渉を持ちかける。転移魔法で向かうよ。手っ取り早く済ませたいからね」 「わかりました」  エルさんは杖を打ち鳴らし、僕達をミルギースの市長室に転移させた。  赤い魔法陣から解き放たれると僕達は白い壁で一面が覆われた部屋の中に立っていた。棚には幾つもの写真や賞状が置かれていた。写真の中には青い髪を垂れ流した少女が役人達と共に写っていた。これがリカさんなのだろうか。 「いきなりジニア全員でやって来るなんて、何事かな?」  声が聞こえてきた。  知らない声だ。とても透き通っていてふわふわとした声だ。僕は気づかなかったが、市長室の奥には黒皮の椅子と漆で塗られた机が置かれており、そこに一人の少女が腰掛けていたのだ。すぐにその青髪の少女がリカさんなのだと悟った。 「やあ、リカ。いきなり押しかけてすまないね」 「良いよ。別に。慣れてるからね。話に聞いてたジニアの皆々様こんばんは。リカ・カニス・ユッカでぇす」  リカさんは満面の笑みで自己紹介した。 「あー、えっーと、レイ・フォードガストです! 急に押しかけてすみません!」 「ハ、ハイナ・カーネーションです! よろしくお願いします!」 「ラーグ・アルスレッドです。よろしくっす!」 「そんなかしこまらなくて大丈夫だよ〜。リラックス。リラックス〜」  彼女はゆったりとした声色でそう告げた。  僕達は緊張でガチガチに固まってしまっていたが、それをほぐしてくれたようだ。 「あ、ありがとうございます」  僕はすかさずそう礼を言った。 「いえいえ〜」  リカさんは手を振ってそう答えた。 「それで、一体全体どうしたのかなあ?」 「リカに相談があってね」 「ほう、エルが私に相談なんて珍しいね」 「ああ、頼めるかい?」 「内容次第だね」 「では単刀直入に。『人と亜人の不可侵の法律』をミルギースから公表して欲しいんだが、どうだろうか?」 「『人と亜人の不可侵の法律』……かぁ。随分と大きく出たね」 「《暁の会》を倒した今、人と亜人の争いは無くなりつつある。最後の一手として法律で不可侵を定めたいんだ。どうだろうか?」 「うーん」  リカさんは顎に手を添えて少しの間考え込んでいた。しかしすぐに満面の笑顔で答えた。 「良いよ!」 「本当かい?」 「うん。なんかそんな気がしてたんだ。エルが私にそう提案してくるって」 「未来を見たのかい?」 「そんな大したものじゃないよ。ただなんとなくそうなんじゃないかなあって思っただけー」 「ありがとう。助かるよ」  エルさんはリカさんにそう礼を告げた。 「良いよ良いよー。それじゃあ細かい手続きはこっちで進めるから。みんなは帰って良いよー。あ、エルとルルカちゃんは残ってね。法律の内容を煮詰めないといけないから」 「ああ。わかった。それじゃあみんな、喫茶店に戻すよ」 「了解です」  僕とハイナとラーグはそう答えた。 「おう」  アルジオさんもそう返事をする。  エルさんは再び転移魔法を発動させ、僕達を『cafe:zinnia』に戻した。  

3
0
コード:ジニア 第八十四話「制定」

コード:ジニア 第八十三話「最終決戦Ⅴ」

 僕はすぐに奴が肉弾戦に切り替えたのだと悟った。  青影を握り、一歩一歩踏みしめて奴との間合いを詰める。  互いの間合いに入った途端、僕と奴は同時に攻撃を仕掛けた。僕は炎のブレスを吹いた。その炎は青でも赤でもなく、黒い炎だった。これがステージFの炎。しかし奴はブレスを難なく回避し、僕に向けて拳を振るってきた。僕は即座に青影でガードするが、その強力な一撃に刀は折れてしまい、僕の体躯に拳が命中する。 「ぐはっ」  僕はそのまま数メートルほど吹き飛ばされてしまった。廃工場の壁に激突する。頭がぐわんぐわんと揺れて血が滴り落ちる。  だが奴の猛攻は止まらない。  ギロルは瞬時に間合いを詰め、再び拳を放ってきた。僕は黒炎を纏った拳で迎撃する。互いの拳がぶつかり合うたびに大気が揺れる。  しかし僕のステージFにはまだ固有能力が残っている。  僕は即座に炎のブレスを掌に溜め込み、炎を槍に変形させて奴に向けて投てきした。ギロルは身体に纏った黒い霧を槍状に変形させて僕の炎の槍に向けて投てきする。炎の槍と霧の槍が正面からぶつかり崩れ落ちる。変身魔法を使用している今のギロルにはどうやら僕のステージFの固有能力は効かないらしい。これは完全に単純な肉弾戦になる。  僕とギロルは互いに間合いを詰め、拳をぶつけ合う。頬を殴り合ってその都度よろめきながらも攻撃を続ける。《暁の会》のアジトは泥臭い戦場と化していた。  僕は尻尾で折れた青影を拾い上げ、奴に殴りかかると同時にその体躯に刀を刺し込んだ。そして柄尻を蹴り上げて奴の体内に刃を押し込む。 「ぐっ」  ギロルは小さく声を出した。  どうやら有効打になったらしい。  僕はそのまま攻撃を続ける。  炎を纏った拳で殴り、折れた青影を引き抜いて再び斬りかかる。  ──蒼翼撃刃・重(そうよくげきじん・かさね)。  幾千の太刀を重ねて振るい続け、奴の霧の体躯を斬り刻んでいく。  ──蒼鱗万火(そうりんばんか)。  そして彼が回復するよりも早く拳を握りしめ、強力な一撃を放った。 「ああああああっ!」  声を出した。  黒い鱗で覆われた拳の渾身の一撃は黒曜石よりも硬く、奴の腹を貫通した。 「ぐはっ……!」  ギロルは口から血を吐き、その場に倒れ込んだ。 「はぁはぁはぁ」  猛攻を仕掛け続けて息が切れた。  亜人態の変身は解け、元の人間の姿に戻った。  これ以上戦うことはできない。もう全ての力を出し尽くしてしまった。  しかしそれはギロルも同様だった。奴の変身魔法は解除され、元の魔法使いの姿に戻っていた。  終わった。  終わったんだ。  僕がその場に腰を下ろすと、風穴の空いた天井からハイナとエルさんがやってきた。 「レイ! 大丈夫⁉︎」 「少年、無事かい?」  二人はすぐに僕の元へと駆け寄ってくる。 「はい。どうにか大丈夫です。それよりもギロルはどうですか?」  僕の問いにエルさんが地面に倒れ込む彼を見やる。 「傷口は回復しているようだが、気絶しているみたいだ」 「そうですか……ハイナ、ギロルを拘束してもらっても良い?」 「うん。それは勿論そうするけど、レイは大丈夫なの?」 「ああ。僕は大丈夫だから。やってくれ」 「わかった」  ハイナはアーグルの鎖でギロルを縛り上げた。  僕はふうっと息を吐いて空を見上げる。  空には太陽が昇り、地面を焼き焦がしていた。まるでエルさんと初めて会った時のようだった。  やがてミルギースの警察が《暁の会》のアジトに到着し、ギロルを含めた亜人達全二十八名を数台のパトカーに乗せて去っていった。  それからは季節が過ぎるのが早く感じられた。『cafe:zinnia』は再建され、僕達は日常に戻った。しかしエルさんだけはどこか上の空だった。カウンターの奥でひたすらにコーヒーを淹れて客に提供している。何か思い悩んでいるのかと気になり何度か声をかけてみたが「大丈夫」の一点張りだった。僕とハイナとラーグは互いに顔を見合わせて肩を落とすことしかできなかった。アルジオさんは「何も訊いてやるな。それが今は一番だ」とどこか俯瞰しているようだった。ルルカさんはエルさんの支援に徹している。  しかし《暁の会》を倒してからというもの、亜人ユニオンの武装蜂起のニュースはぱたりと止んだ。やはり世界各地の亜人達の人々への憎悪を高めていたのは《暁の会》が原因だったのだと思い知らされた。  人と亜人の争いは収束しつつあった。  そんな時だった。  突然エルさんが僕達を呼び集めた。 「みんな、今まで心配をかけたね。すまなかった。《暁の会》を倒してからというもの、人と亜人の争いは無くなりつつある。このタイミングしかない。ようやく決心が着いたよ」 「一体どうしたんですか?」  ハイナがそう訊いた。  エルさんはふうっと息を吐いて答えた。 「『人と亜人の不可侵の法律』をミルギースから全世界に発信しようと思っている。リカなら協力してくれるだろう」  彼女はそう言い放った。    

3
0
コード:ジニア 第八十三話「最終決戦Ⅴ」

コード:ジニア 第八十二話「最終決戦Ⅳ」

 エルさんが攻撃されてしまった。  僕とハイナが付いていながら……不覚だ。  ギロルは杖を構え、再び魔法を放とうとモーションをとる。エルさんにこれ以上傷を負わせるわけにはいかない。 「ハイナ!」 「うん!」  ハイナは大剣を二本召喚し、それを前でクロスさせて受けの姿勢を取った。僕は背後で翼を広げ、腰に手を回して彼女の体躯を支える。  次の刹那、奴からレーザー魔法が放たれた。  僕とハイナはレーザーを真正面から受ける。なんて風圧だ。少しでも力を緩めれば容易く吹き飛ばされてしまう。僕はハイナを支える手の力をより一層強めた。 「くぅ……うぅっ」  ハイナは必死に大剣を構えてレーザー魔法に耐えている。彼女の力が尽きるのも時間の問題だ。その前にギロルを仕留めなければ。 「ハイナ、少しの間一人でエルさんを守れる?」 「うんっ……でも長くは持たないかも……」 「大丈夫。僕がその前にギロルを倒す」 「わかった……信じてるから」 「ああ」  ハイナに信頼されている。  その事実だけで身体の奥底から力が湧いてくるのがわかる。  僕は彼女から離れ、ギロルに向かって滑空した。その道中で僕はラーグとのある会話を思い出していた。  それは『cafe:zinnia』のカウンターで行われたものだった。 「ステージF?」 「そう。FinalのFだ。ハイナちゃんは既に力の段階の最終到達点に達してる。生物として別次元の存在になったんだ。あれ以上強くなることはないと思う。でもレイ、お前はまだ強くなれる可能性がある。進化の片鱗を感じるんだ」 「そうか……ステージF……ありがとう。やってみるよ」 「ああ、そうしてくれ。《暁の会》との最終決戦も近いからな」 「そうだな」  そこまでの回想が頭の中に流れてくる。  ステージFを解放するタイミングは今しかない。  ここでやる。  ここで決着をつけるんだ。 「アビリティステージF……解放!」  僕が滑空しながら全神経を力の引き上げに集中させているとある変化が起こった。身体の赤い鱗が黒く変色し始めたのだ。それだけではない。頭のツノはより太くなり、筋骨隆々な身体つきになっていく。黒い鱗を持つ『竜の亜人』。これが僕のステージF。  僕は青影を逆手で握りしめ、レーザー魔法を放っているギロルの間合いに近づいた。そして刀を下から上へ斬り上げ、ギロルが僕の奇襲に気づく前に致命傷を与えることに成功した。 「ぐっ……!」  ギロルは驚いた表情を見せる。  その体躯から赤い血が噴き出る。  同時にレーザー魔法は止み、エルさんに向けられた攻撃も防ぎ切ることができた。  僕はギロルの傷が回復する前に攻撃を仕掛けた。幾千の太刀を振るい、奴を斬り続けた。二連撃、三連撃、四連撃、五連撃。通算十八連撃もの太刀を振るった。 「ぐっあ……」  そしてその体躯に青影を突き刺し、そのまま下降し奴を地上へ叩き付けた。  その黒ローブは鮮血で染まり、ギロルはその場に倒れ込んだ。 「はぁはぁはぁ」  息が上がる。  深呼吸をしてどうにか鼓動を落ち着かせる。《暁の会》のアジトに再び戻ってきた。その建物の中ではアルジオさん、ラーグ、ルルカさんが迫り来る亜人達を必死に抑え込んでいた。しかし僕がギロルを倒したことで《暁の会》の亜人達の士気は瞬時に下がった。 「《父様》……」 「そんな、《父様》…………」 「嘘だろ……」  亜人達は武器を落とし、その場に膝をついた。  ルルカさんはその隙をついて彼らを鎖で拘束した。 「勝ったのか⁉︎」   アルジオさんが僕にそう訊いてくる。 「はい。おそらく倒したと思います」 「レイ……まさかその姿……」  ラーグはチェンソーを置いてこちらに向かってくる。 「うん。僕のステージFだ」 「力の引き上げに成功したんだな」 「ああ。ありがとう。ラーグ」 「俺は何もしてねえよ」  僕とラーグはそうして笑い合った。  しかしその次の刹那、レーザーが僕の腹を撃ち抜いた。 「ゴフッ」  僕は血を吐いてその場に膝をつく。 「レイ!」  ラーグがすぐに僕の傷口を抑える。  僕は竜の回復能力で傷を癒すと同時に背後を見た。  土煙の中でギロルが立ち上がっていたのだ。奴はまだ倒されていなかった。 「くそっ」  僕はステージFの力で即座に回復し、奴と対峙する。 「ラーグ、下がってて」 「あ、ああ」  彼はすぐに僕の後ろに身を潜めた。 「まさかここまで追い詰められるとは思わなかったよ……やるな『竜の亜人』」 「お前はしぶといな。さっきので終わりにしたかったんだが」 「そう焦るな。せっかく興がのってきたところだ。その姿、お前の最高到達点なのだろう。これだから簡易亜人化手術は面白い。良いだろう。こちらも本気でいかせてもらう」  奴はそう言って杖の水晶を自身に向けた。 「エルゲルガ・ドルゴロム・マッシュアップ」  次の刹那、彼の体躯は黒い霧で覆われた。そして二つの光る青い瞳が浮かび上がる。 「変身魔法だ。闇魔法のもう一つの属性。これで相手をしてやろう」  奴は杖を折り、ただの枝と化したそれらを投げ捨てて僕の前に立ち塞がった。        

3
0
コード:ジニア 第八十二話「最終決戦Ⅳ」

コード:ジニア 第八十一話「最終決戦Ⅲ」

 少年とハイナ君がギロルを掴んで宙に放り投げてから数刻の時が経った。  戦況はどうなっているだろうか。二人とも空中に向かってしまったため、状況が分からない。  その時だった。 「お前達、何者だ!」 「《父様》に何をした!」  騒ぎに気づいた《暁の会》の亜人達が部屋に押し寄せてきた。  どうする?  転移魔法で全員どこか別の場所へ転送するか?  いや、もし街に彼らが放たれてしまえばテロ行為に走るかもしれない。安易に彼らを転移させるのはかえって危険だ。  どうすれば良い?  私が必死に思考しているとルルカが声をかけてきた。 「ヴォルトロン様。こちらは私達にお任せください!」 「ええ、レイとハイナちゃんのところに行ってあげてください。ステージ3を解放してるからって二人だけじゃどうも不安だ」  ラーグもそう告げる。 「さっさと行け! そんでちゃっちゃと決着つけてこい!」  アルジオはそう言い放った。 「みんな……すまない」   私は浮遊魔法ですぐに二人の元へと向かった。  ***  私とギロルは互いに杖を構えたまま静止状態に入る。互いの一挙手一投足が致命傷になりうるからだ。 「どうした? 来ないのか?」 「そっちこそ。固まっているように見えるが?」 「ふん。来ないならこちらからいくぞ」  先に仕掛けたのは奴だった。  ギロルは杖からレーザーを発射した。  私も咄嗟に光線発射魔法で応戦する。  魔法が正面からぶつかり合い、大気を揺らす。風圧が押し寄せ、浮遊魔法で立っているのがやっとの状態になる。  やがて魔法が止み、再び静止状態になる。  次に仕掛けたのは私だった。  再び光線発射魔法で奴の視界を塞ぎ、光線を撃ち終えると同時に浮遊魔法で間合いに入り、水晶から伸びた鎌でギロルに切り掛かった。奴は杖で攻撃を受け止める。  互いの力が拮抗し、ギリギリと杖が軋む音が響く。  私は即座に体勢を変え、鎌を横一直線に振り切った。  奴の体躯は数メートルほど吹き飛んだが、すぐに浮遊魔法で勢いを殺すことに成功した。  ギロルは私を睨みつけると同時に召喚魔法を使用した。呼び出したのは三つの頭を持つ龍だった。山吹色の鱗に覆われた細長い身体がうねりを描き、それぞれの頭が私を見やる。そして一斉にブレスを吹いた。私は即座に防御魔法を展開して炎を防ぐ。しかし奴の猛攻は止まらない。三頭の龍から放たれる炎のブレスは大気を焼き焦がす。このままでは防御魔法のバリアがもたない。そこで動いたのが少年だった。彼は青影を両手で握りしめ、竜の首元まで滑空して近づき、その喉を切り裂いたのだ。彼は宙を飛び回って三頭の龍を殺した。  龍は致命傷を与えられて消滅する。  少年はそのままギロルの元へと滑空し、竜の尾を奴の身体に巻きつけた。そしてそのまま上昇し、空中にギロルを放り投げる。宙に放り出されて身動きが取れない彼に向けてハイナ君の猛攻が襲い掛かる。無制限伸長魔法で極限まで伸ばしたアーグルの刀身でギロルの体躯を切り裂いた。奴の腹から鮮血が噴き出る。ハイナ君はさらに数本の大剣を召喚し、彼に向けて投てきした。ギロルはすぐさま浮遊魔法で足場を確保し、大剣を避けきった。  やはりそう簡単に攻撃を通らないか。  それに奴は一度死んだ身。回復魔法をその身に施していても何も不思議ではない。よく彼の身体を観察すると先程アルジオに撃たれた傷も回復しているようだった。おそらくハイナ君が与えた傷もすぐに回復することだろう。  ならば回復魔法が追いつかない速度で奴に致命傷を与え続けるだけだ。  私は魔法で一体の巨大なゴーレムを召喚した。ゴーレムの頭を足場にして奴と対峙する。ギロルは私に向けて火炎放射魔法を放ってくるが、私は光線発射魔法で迎撃した。そしてゴーレムを操り、ギロルの体躯を掴み上げると同時に再び空中に放り投げた。  その隙を狙って少年が炎のブレスを吹いた。  深紅の炎を全身に浴びたギロルの体躯は黒く焼け焦げるが、即座に回復する。黒ローブはボロボロになり、フードが剥がれて黒髪が露出する。 「どれだけ攻撃しようと無駄なことだ」  ギロルは杖を打ち鳴らした。  辺りを黒い霧が覆う。  まずい。ここで闇魔法を出してきたか。空中にいては魔法の対象を絞ることが困難になる。少年とハイナ君の両者に解除魔法を付与するのは不可能だ。  しかしその考えは杞憂に終わった。  少年とハイナ君は翼をはためかせて黒い霧を霧散させていた。確かに黒い霧さえ吸い込まなければ闇魔法にはかからない。二人は既にこれまでの戦いで自身を防衛する術を身につけていたのだ。 「流石だ。少年、ハイナ君」  私は即座にゴーレムの魔法を解き、防御魔法を展開して黒い霧を追いやった。  霧が止むのを待ってから火炎放射魔法を放った。ギロルはレーザー魔法で迎撃する。互いの魔法がぶつかり合い、拮抗する。しかし勝利したのはギロルだった。彼のレーザー魔法が私の肩に命中する。 「ぐっ……!」 「エルさんっ」 「エルさん!」 「大丈夫だ」  私はすぐに体勢を立て直す。浮遊魔法を自身に使用しているため、回復魔法をかけることができないが、肩に魔法が貫通したなんてどうと言うことない。  私はその場でボバリングし、ギロルを見やる。 「さあ、続けようか」  ギロルはそう言って不敵な笑みを溢した。

4
0
コード:ジニア 第八十一話「最終決戦Ⅲ」

コード:ジニア 第八十話「最終決戦Ⅱ」

 ギロルが地面に落下すると同時にラーグとルルカさんが彼の元へ駆け出した。ラーグは刀型のチェーンソーで斬りかかるが、即座に展開された防御魔法によって防がれてしまう。 「くそっ」 「アルスレッド様。そのまま続けて下さい!」 「──わかりました!」  ルルカさんの指示にラーグはチェーンソーの糸を引いて刃を回転させる。やがて防御魔法のバリアは徐々に削れていき、再びギロルの体躯が露出した。  その一瞬の隙をルルカさんは見逃さなかった。  彼女は両腕の鎖を解き、魔法で先端に刃を生成してギロルに向けて投てきした。  しかしギロルはすぐに攻撃に対応した。即座に杖を盾に変形させてルルカさんの猛攻を防ぎきったのだ。先程から彼は防戦一方だ。こちらへ攻撃をしてこない。おそらくこちら側の手の内を全て出し尽くさせてから反撃するつもりなのだろう。長期戦に持ち込まれて仕舞えばジニアが不利になる。ならばどうするか。短期決戦に持ち込むほかない。 「ハイナ」  僕は隣で浮遊する少女に声をかけた。 「何?」 「ステージ3を解放しよう。ギロルは僕達の技を全部出し尽くさせてから反撃に出るつもりなんだと思う。だったらこっちはその考えを逆手に取れば良い。ハイナと僕のステージ3なら、奴が防御魔法を展開するよりも前に攻撃できる。どう思う?」  僕の問いかけに彼女はすぐに頷いた。 「分かった。それでいこう」 「よし、やろう」  僕とハイナは同時にステージ3を解放した。  そしてギロルの元へと滑空して近づき、ハイナの鴉の爪で奴を掴むことに成功した。やはりステージ3の機動力なら防御魔法を展開される前に攻撃に転じれる。推測がうまくはまった。 「ハイナ。そのまま上へ」 「わかった!」  ハイナはギロルを掴んだ足を蹴り上げ、廃工場の天井を突き破った。 「ぐっ」  生身の身体でハイナの攻撃を喰らったのだ。ただで済むはずがない。予想通り、ギロルは小さく声を出した。ミシミシと骨が軋む音が響く。  ハイナはそのままギロルを空中に放り投げる。  奴は廃工場から数メートル離れたビルに衝突した。  僕はすぐに空を飛んでビルの壁に磔(はりつけ)になっている彼に向けて炎の斬撃を放った。  ギロルも斬撃魔法を放ち、互いの攻撃がぶつかり合う。  大気が揺れると同時に視界が土煙で覆われる。  奴はその隙を狙って火炎放射魔法を放ってきた。  僕は咄嗟にブレスを吹いて炎を静止させる。 「予定変更だ。皆殺しにしてやる」  ギロルはそう小さく告げると杖を前に突き出した。 「エルゲルガ・ドルゴロム・ブラックホール」  杖の水晶から極小の渦巻きが顕現し、徐々に一つの巨大な渦へと形を変える。その渦巻きは周囲のあらゆるものを吸収し始め、さらに肥大化していく。間違いない。ブラックホールだ。僕はすぐに翼を目一杯広げて空中で踏ん張った。いまにも吸い込まれそうだが、どうにか耐え凌いでいる。しかしそれも時間の問題だ。  その時だった。  奴はさらに詠唱を始めた。 「エルゲルガ・ドルゴロム・アイスシェーン」  氷の針が生成され、こちらに向けて飛ばされる。  まずい。ブラックホールに吸い込まれないよう努めるので精一杯だと言うのにこの状態で攻撃されてしまえば確実に仕留められる。しかし氷の針は炎によって溶解した。 「させないよ」  エルさんが魔法を防いでくれたのだと悟った。  赫の魔女は宙に浮遊したままこちらへ近づいてきた。 「少年。もう少し踏ん張っていてくれ」 「わかり……ましたっ」  エルさんならきっとどうにかしてくれる。  賭けるしかない。  彼女は杖に魔力を込め、水晶から巨大な鎌を顕現させた。これも生成魔法の一種なのだろうか。  エルさんは杖を振りかぶり、一思いに振り切った。鎌から放たれた斬撃はブラックホールを最も簡単に切り裂いた。  ブラックホールが消失したことで身体の自由を取り戻した僕は再びギロルと対峙する。 「エルさん。ありがとうございます」 「どうってことはないさ」  彼女はそう言って微笑んだ。 「レイ、エルさん、大丈夫ですか?」  ハイナが僕達の安否を気にかけて飛んできた。 「うん。どうにか大丈夫だよ」 「よかった」  鴉の少女は胸を撫で下ろす。 「それよりも奴だ。反撃に出てきたということは殺しにかかってきているね」 「ええ」  僕達はギロルを見やる。  彼は白い無地の仮面を外し、こちらを睨みつけた。  暗闇を体現したかのような瞳が僕達を捉えている。 「そろそろ組織の亜人達が騒ぎに気づく頃だ。お前たちのお仲間は蜂の巣に放り込まれたも同然だ」  ギロルは低く芯の通った声でそう告げる。 「なあに、私達の仲間は優秀だ。君たちのように薬でドーピングしなくても勝てるさ。私は彼らを信じて、君と対峙することを選んだんだ」 「ずいぶんと仲間を信頼しているらしいな」 「それが仲間というものだ」 「くだらん。実にくだらない。結局、人も亜人も死ぬ時は一人だ。仲間など必要ない」 「ならどうして組織を作った? 何故同士を募る?」 「同士? 違うな。『真の亜人』を志す者達が勝手に集まっただけだ」  彼はそう言って、杖を構えた。 「話は終わりだ。殺してやるからかかってこい」 「ならばこちらも出し惜しみはしない。全力で行かせてもらうよ」  エルさんも杖を構え、互いに戦闘体勢に入った。

3
0
コード:ジニア 第八十話「最終決戦Ⅱ」