白崎ライカ
174 件の小説白崎ライカ
アニメ、ファンタジー、剣戟アクションが好きです。 最近はノリと勢いで詩をよく書いています! 自分の好きな時に書いてるので、 不定期投稿です。 今更ですが、誤字癖があります。 温かい目で見て下さると作者は喜びます! 使用しているイラストは画像生成AIで作成したものです! よろしくお願いします〜
コード:ジニア 第七十六話「目的」
俺は即座に駆け出し、チェンソーで再び彼女を斬りつけようとした。しかし『ミノタウロスの亜人』は手斧を振り回して逆に俺の命を狙ってくる。だが、そこにハイナの大剣が割って入ることで間合いの駆け引きは消失した。 「チッ」 「ハイナちゃん、ナイス!」 そして俺の背後で隙を伺っていたアルジオさんが銃を乱射し、彼女の体躯に再び幾つもの風穴を開けた。 さらにルルカさんが自身の腕に巻かれた鎖を解き、亜人に猛攻を仕掛けた。その鎖の先端には生成魔法で刃が付与されており、『ミノタウロスの亜人』の分厚い身体に切り傷を負わせた。 隙が生まれたこの機を逃さまいと俺はチェンソーで奴の身体を八つ裂きにした。 その身体から鮮血が溢れ出し、彼女はよろめき始める。 よし。攻撃が通るようになってきた。 「ボウズ、伏せろ!」 アルジオさんの指示に即座に反応し、俺はその場に身を縮こませる。 アルジオさんは二丁の拳銃で発砲し続け、彼女が回復するよりも早くリロードし、再び発砲を続ける。 「ぐっ……あ……」 彼女はとうとう回復が追いつかなくなり、握りしめていた手斧をその場に落とした。 これで『ミノタウロスの亜人』の攻撃手段は無くなった。 俺は即座に駆け出し、奴の腹にチェンソーを突き刺した。柄尻を足で蹴り込み、彼女の体内にチェンソーの刃を押し入れた。そしてチェンソーの紐を力の限り引っ張った。『ミノタウロスの亜人』の体内でチェンソーのコマが回転し、奴の体内を斬り続ける。 「ぐあああっ」 血液が焼け野原を赤く染め上げる。 しかし俺達は回復を避けるためにさらに攻撃を仕掛けた。 ハイナの大剣が彼女の足を突き刺すことによって動きを封じ、ルルカさんの魔法で彼女の上半身を斬り裂いた。 「あっ……あ…………」 そして最後にアルジオさんが空気弾を装填した黒鉄銃(グレイガン)で奴の額を撃ち抜き、奴はその場に倒れ込んだ。 「やった……のか?」 アルジオさんが倒れ込んだ彼女を足で突いて安否を確認する。 「ええ、一時的に気絶しているだけだと思いますけど、確実に仕留めたと思います」 「終わったね」 ハイナが上空から焼け野原へと着地し、亜人態の変身を解除した。 「お疲れ様、ハイナちゃん」 「ラーグもね」 「皆様、お怪我はございませんか?」 ルルカさんがそう言ってこちらへやってきた。 「大丈夫です。奴の攻撃は一つも当たってませんでしたから」 「もう少し戦う期間が遅ければ、亜人の力に順応した彼女に倒されていたかも知れませんね」 彼女はそう言って『ミノタウロスの亜人』を見下ろした。 「ええ、そうかもしれません」 たしかに自身の弱点に気づいて何らかの対策を取られていれば、確実にジニアが負けていた。不幸中の幸いというわけか。 「そっちも片付いたかい?」 『不死鳥の亜人』と戦っていたエルさんとレイがこちらに向かってきた。 「ああ。なんとかな。そっちは?」 「こっちも片付いたよ。ただ私の魔法で『不死鳥の亜人』を消し炭にしてしまってね。情報を引き出そうと思ったのだが……無理になってしまったよ」 「それなら、こいつから聞き出せば良いじゃねえか」 そう言ってアルジオさんは『ミノタウロスの亜人』を足で踏み付けた。 「それもそうだね。彼女は拘束して、起きるまでしばし待とうか。ルルカ、彼女を鎖で拘束してくれ」 「かしこまりました」 エルさんの指示にルルカさんは頭を下げて答えた。 目を覚ますと、俺は焼け野原の中で動けなくなっていた。鎖で手足が縛られていたからだ。回復能力が追いついてやっと意識が戻ったと思ったらこの様だ。 「一体何だってんだっ」 「やあ、起きたかね?」 声のした方を見やると相棒を焼き焦がした魔法使いがこちらを見下ろしていた。さらに周りには竜の亜人のガキと、俺を散々痛めつけた鴉の亜人、もう一人の魔法使い、金髪のガキ、帽子を深く被った老害が立っていた。 「ジニア全員でモーニングコールかよ……なんで俺を殺さない?」 「君には聞きたいことが幾つかあってね……まず一つ、どうしてこの場所が分かった?」 「……答えると思うか?」 「素直に話せば、また痛い目を見ずに済むよ。もう痛いのはごめんだろう?」 「はっ、舐めんなよ。俺はそんじょそこらの有象無象とは違ぇんだ。そう簡単に話すと思われちゃあごめんだね」 「そうか……ならこの質問にだけ答えてくれ。絶対にだ」 「あ?」 「君達のボス……《父様》……だったかな。彼の名は何と言うんだい?」 「だから、答えるわけねえだろうって」 「──ギロル・アーク・ガルデオン……」 「ッ!」 俺は背筋が凍るような悪寒を感じた。 この魔法使い……何故《父様》の名前を知っている? 「何で……その名前を」 「彼とは長い付き合いでね……そうか。やはり彼だったか……」 赤髪の魔法使いは哀愁漂う表情を見せた。 「話は済んだ。君にもう用はない。アジトに帰るが良いさ」 鎖が解かれ、俺は自由の身になった。 だが心の中のもやもやが消えない。何故奴は《父様》の名前を知っていたのか……。 俺はジニアの連中を背に《暁の会》のアジトへと駆け出した。
コード:ジニア 第七十五話「炎と炎」
エルさんは杖の先端を突き出し、『不死鳥の亜人』に向けて魔法を発動した。 「炎には炎だ。『赫の魔女』の名の所以(ゆえん)、とくと見せてあげよう」 杖の水晶から赤い魔法陣が浮かび上がり、地獄の業火のような炎が生成される。やがてそれらは円形を成し、渦を巻いて一つの塊へと昇華した。 「エルゲルガ・ドルゴロム・バーンデット」 彼女が詠唱した次の刹那、炎の集合体は一思いに『不死鳥の亜人』に向けて放出された。 「そんな魔法で我を殺せる訳がない!」 彼は体躯を覆う炎をさらに強める。そしてエルさんの魔法を炎のブレスで迎撃した。 激しく炎と炎がぶつかり合う。エルさんの魔法は僕がステージ3の状態で放つブレスをゆうに超えているだろう。だが、彼女の魔法が『不死鳥の亜人』を倒す決定打になるとは限らない。何故なら、『不死鳥の亜人』の回復能力は底なしだからだ。それに彼は《暁の会》がAKSMUの研究データを盗み出して作り出した人工亜人だ。僕やハイナのように変身することもなく、力の引き上げも存在しないように見受けられるが、間違いなく今まで戦ってきた亜人達とは一線を画す。 しかし、僕の不安は杞憂に終わった。 エルさんの火炎魔法が『不死鳥の亜人』のブレスを侵食し、彼の身体を焼き始めたからだ。 攻撃が効いているのか? 一体どういうことだ? そこで僕は彼の言葉を思い出した。『不死鳥の亜人』は僕を「簡易亜人化手術を受けた者」と呼称した。つまり、自身は簡易亜人化手術ではない別の手術を受けたことによって亜人になったと推測できる。となれば、DNA同士の緩衝材として使用されるF9(エフナイン)を体内に埋め込まれていないことも十分に考えられる。力の引き上げが存在しないのも納得だ。F9がなければ魔力を回復の材料として利用することもできない。すなわち、魔法が彼らにとって最も殺傷能力の高い致命傷になるということか。 実際、眼前の『不死鳥の亜人』はエルさんの放った火炎魔法に体躯が耐えきれず、徐々に灰と化している。 「バカ……な…………」 やがてその身体を完全にエルさんの魔法が包み込み、『不死鳥の亜人』は完全に塵となって絶命した。 「こんなものかな」 エルさんは杖を下ろし、その場でふぅと軽く息を吐いた。 エルさんの魔法によって『不死鳥の亜人』が倒された。残りは『ミノタウロスの亜人』のみ。 俺はチェンソーを構え、奴との間合いを一気に詰めた。『ミノタウロスの亜人』は俺の存在を気に留めていないはずだ。おそらく、戦闘力が極めて低いと推測されているからだ。だが俺も元を辿れば軍人。レイには負けるがそれなりの底力とポテンシャルがあるというものだ。 俺はチェンソーを振るい、奴の体躯を切り裂こうとした。しかし後一歩のところで奴に勘付かれてしまい、手斧で攻撃を抑え込まれてしまった。チェンソーと手斧が火花を散らしながらぶつかり合う。 「なんだ、てめえ」 「ジニアの一員だよ。あんたの敵さ」 「チッ、また雑魚が増えやがった。こっちは相棒がやられてむしゃくしゃしてんだよッ。ぶち殺すぞ。人間風情が」 「はッ、その人間風情に足止めされてるようじゃあ、お前もまだまだだなあ」 「んだとッ……」 次の刹那、奴は斧をチェンソーに沿わせて俺の喉笛を引き裂こうと動いた。俺は咄嗟にチェンソーを蹴り上げて斧の軌道を逸らし、奴の猛攻を回避することに成功した。 この亜人。簡易亜人化手術によって生み出された者ではないと考えられる。変身能力があるとすれば、必ずどこかで亜人態の持続時間が途切れる。だがこの亜人にはそれがない。 《暁の会》の刺客であることに違いないが、何故簡易亜人化手術を施さなかった? 研究データはDRIがAKSMUからいくらでも盗み出していたはずだ。いや、待てよ。確か《暁の会》は「完全な亜人達による支配」と「人類の根絶」を目的として動いていると聞いている。ならば、より完全な亜人を求めるのは必須条件。簡易亜人化手術では完璧な亜人にはなれないと考えたのであれば、奴が簡易亜人化手術を受けていないことにも合点がいく。ならば、F9をDNAの緩衝材として使用していないはずだ。つまり、回復能力を上回る勢いの攻撃を喰らわせることができれば、彼女を戦闘不能に追い込めるかもしれない。 俺は一度間合いを取り直し、彼女と対峙する全員に指示を出した。 「みんな聞いてくれ。彼女の回復能力は完全じゃない。必ずどこかで限界が来る。彼女の回復スピードを上回るスピードで攻撃し続ければ、絶対に奴を戦闘不能に追い込めるはずだ!」 「わかった!」 すぐにハイナが反応した。 「チッ、面倒だな……ったくよ」 「承知しました」 アルジオさんもルルカさんも僕の声に呼応し、戦闘体勢を整えた。
眠れる夜が来るまで
眠れない夜が続く。 目を覚ました時に部屋の中に差し込む陽の光が嫌いだ。 身体が重くて、 起き上がることもできない。 一生僕はこのままなのかもしれないと何度も思う。 でもその度に、 君が僕を笑わせてくれる。 僕が笑う時、 いつも隣に君がいるんだ。 またいつ朝が怖くなるかわからないけれど、 どうか優しく見守っていて欲しい。 きっとこの苦しみを乗り越えて君の元に戻ってくるから。 もしまた会うことがあったら、 一緒に綺麗な夜景を見よう。 他の誰でもない君だから、 僕は「生きていたい」って思えるんだ。 ──ありがとう。 いつも心の中で思っていることだ。 今度は僕が君を笑わせる番だ。
コード:ジニア 第七十四話「反撃」
煙が辺りを包み込み、視界を覆う。 「アーグルッ」 私は愛鎌をその手に手繰り寄せて構えた。 「アビリティステージ3……解放っ」 全神経を能力の解放に集中させる。鴉特有の黒い翼は白く染まり、頭上には天使のような金色の輪が顕現する。 「っらあ!」 変身したのも束の間、眼前から『ミノタウロスの亜人』が突進してきた。 私はすぐさま上空へと避難し、攻撃をかわす。 「やっぱりこいつがねぇとな」 彼女の手には大きな手斧が握られていた。おそらく先程の突撃は喫茶店襲撃時に店内に投てきした斧を回収するための行動だったのだろう。 私はアーグルの鎖を操作し、鎌の刀身を『ミノタウロスの亜人』に目掛けて投てきした。だが、彼女は私の攻撃をその斧で最も簡単に振り払ってしまった。 通常の亜人よりも腕力がある私の攻撃を容易く回避するとは……。 それほどのポテンシャルがあるということか。 「どうした、んなもんか」 「まさかっ」 次の刹那、土煙の中から一筋の光がミノタウロスに向けて放たれた。 ルルカさんの魔法だ。 光線は彼女の黒い皮膚を焼き焦がし、ガードしていた左腕を貫通した。 「チッ」 ミノタウロスの腕から鮮血が飛び散る。 彼女に隙が生じた次の刹那、アルジオさんが二丁一対の拳銃を使い、猛攻を仕掛ける。浴びせられる銃撃を彼女はその体躯で受けることしかできず、その体に風穴が広がっていく。 「小賢しいっ」 亜人は斧を振り切り、風圧で弾丸を全て弾き飛ばした。 「っんなのありかよ!」 アルジオさんは一瞬驚いたようだったが、すぐに弾をリロードし、発砲を再開した。 しかし彼女の身体の傷はすぐに塞がった。 まさかレイと同じように回復能力を持っているというのか? これはまずい。攻撃しても回復されて仕舞えば長期戦になる。持久戦に持ち込まれるとこちら側が先に力尽きる。私のステージ3の変身の持続時間もそう長くは持たない。 どうにかして突破口を見つけなくては。 今はひとまず攻撃を続けて、彼女の回復能力の程度を探る。 それしかない。 アルジオさんが『ミノタウロスの亜人』の動きを止めている間に私は数本の大剣を召喚し、逆手に構えて一本ずつ彼女に向けて投げ飛ばした。 彼女はすぐに私の攻撃に気付き、咄嗟に手斧で頭上を守った。守備が薄くなった体躯にアルジオさんの弾丸が命中し、ルルカさんの光線魔法が的中する。三対一。卑怯と言えば卑怯だが、こちらに分がある。彼女の回復能力との勝負だ。 私達は攻撃の手を緩めず、確実に『ミノタウロスの亜人』を仕留める為に動いた。 すぐ右隣では既に『ミノタウロスの亜人』とハイナ、アルジオさん、ルルカさんによる戦闘が始まっていた。AKSMUが管理していたDNAを複製して亜人を作り出したとしても、今の僕達の前では力不足だ。ハイナと僕のステージ3の解放。これに成功している時点でジニアに追い風が吹いていることは確かだ。しかし『ミノタウロスの亜人』は身体能力や筋力が大幅に向上し、強力な回復能力を有している。戦況がどう転ぶか分からないが、あの三人に任せておけば確実に突破口を見出してくれるはずだろう。そう願うしかない。問題は目の前の亜人だ。眼前でボバリングする『不死鳥の亜人』。AKSMU時代においても彼だけは厄介だった。文字通り不死鳥の力を持っており、その力は未知数。だが炎には炎。僕のステージ3と相性が良いはずだ。 「アビリティステージ3、解放ッ」 僕は亜人の力を限界まで引き出した。 皮膚を赤い鱗が覆い、背中には大きな翼が生え、尾てい骨からは尻尾が顕現した。 青影を逆手に構え、目の前の亜人を睨みつける。 「それが簡易亜人化手術を受けた者の力の引き上げか……面白い。我が身に宿る不死鳥の力を存分に振るってくれよう」 次の刹那、彼は口から炎のブレスを吹いた。 僕は咄嗟に体内で炎を生成し、ブレスを吹き返す。 不死鳥の炎と竜の炎が激突し、辺りを焼き尽くす。 外を出歩いていたミルギースの住民達は僕達の戦闘を見るや否や一目散にその場から散っていった。これは好都合だ。ミルギースの人間と亜人に大きな被害が出ないで済む。 火炎が止むと同時に僕は翼をはためかせて空を飛び、『不死鳥の亜人』を青影の刃で切り裂いた。 ──蒼翼撃刃《そうよくげきじん》ッ。 どうだ? しかし僕の目に映り込んできたのは、奴の体の断面が炎で再生されていく光景だった。 やはり『不死鳥の亜人』に生半可な攻撃は通用しない。『ミノタウロスの亜人』もそうだが、再生能力を持たれるとこの上なく厄介だ。 一体どうすれば良いのか? 僕は必死に思考するが、打開策は見出せない。 しかしその時、『不死鳥の亜人』に向けて無数の斬撃が浴びせられた。 エルさんによるものだった。 「とても良い回復能力を持っているね。私の魔法とどちらが辛抱強いか、勝負といこうじゃないか」 その瞬間、戦場は魔法使いの独壇場と化した。
コード:ジニア 第七十三話「襲撃」
「では、少年はステージ3をコントロールできるようになったという認識で間違いないんだね?」 カウンターに立つエルさんは僕にコーヒーを差し出してそう訊いてきた。 「はい。皆さんのおかげです」 僕はエルさんの横に立つルルカさんに「ルルカさん、本当にありがとうございます」と礼を告げた。 「いえ、私はヴォルトロン様の指示に従ったまでですので。お気遣いなく」 「それでも助かりました」 「いえ、ですから……」 「ルルカ。他人からのお礼はしっかりと受け取っておくものだよ」 エルさんがルルカさんにそう注意した。 「そうですか……わかりました。以後気をつけます」 「相変わらず堅いね。まぁこれからゆっくりと直していけば良いさ」 「あはは……」 僕は笑ってその場を濁した。 「まぁ何はともあれ良かったじゃねえか」 隣でタバコをふかしながらアルジオさんが僕の頭をポンポンと叩いてきた。 「ちょっ、やめてくださいって。子供じゃないんですから」 「悪りぃ悪りぃ。そうカリカリすんなや」 「別にカリカリなんてしてませんけど……」 「じゃあへそ曲げんなよ」 「へそも曲げてません」 「比喩表現だぞ?」 「分かってますよ!」 僕は思わず熱々のコーヒーを飲み干した。 喉の奥が溶岩のようだ。 「全く、アルジオ。あまり少年を馬鹿にするな」 「へいへーい」 「でも、本当に良かったよ。コントロールできるようになって」 僕達の話を聞いていたのか、フローリングの掃き掃除をしていたハイナが会話に入ってきた。 「うん。ハイナもありがとう」 「私は別に何もしてないよ」 「それでもお礼を言いたいんだよ」 「なら良いんだけど……」 ハイナは照れ臭そうに笑った。その笑顔を見て思わず僕も笑みを溢す。互いに頬を赤く染めて俯いていると「ゔゔんっ」という咳払いが聞こえてきた。ラーグのものだった。 「全く、すーぐ二人の世界に入る」 「べ、別に入ってなかっただろ!」 「いいや入ってたね。一瞬だけど確実に入ってたね」 「わ、私は関係ないもん」 ハイナは関係なしと言わんばかりに掃除に戻った。 DRIの事件が嘘かのように穏やかな時間が流れている。未だ《暁の会》という大きな敵は残っているが、このかけがえのない日常にこそ意味がある。僕はそう思えてならない。 その時だった。 突如、喫茶店の窓を溶かすほどの超高熱の炎が撃ち込まれた。 咄嗟にエルさんが防御魔法を展開し、僕達を炎から守ってくれた。 しかし喫茶店は焼け尽くされ、骨組みすら残らず跡形もなく消え去った。『cafe:zinnia』が襲撃されたのだ。この深紅の炎。見覚えがある。AKSMU時代に共に仲間として戦った『不死鳥の亜人』のものだ。まさか『オーガの亜人』のように《暁の会》がジニアの居所を特定したとでも言うのだろうか。 やがて炎が止み、焼け野原と化した喫茶店だけが残った。 「お店が……」 あまりの惨状にハイナは肩を落とす。 「一体何だってんだ!」 アルジオさんは銃をリロードしながらそう溢した。 「おそらく『不死鳥の亜人』の攻撃です」 「あ? 『不死鳥の亜人』だあ?」 「なんでそんな奴がここを知ってるんだよ?」 ラーグはとても混乱しているようだった。 「分からないけど、《暁の会》の刺客だってことは確かだ!」 次の刹那、大きな手斧が僕達に向けて投てきされた。 僕は咄嗟に青影を手繰り寄せ、その刀身に刃を沿わせることで斧の軌道を変えた。 手斧は喫茶店の向かいの高層ビルから投げられたものだった。ビルから二つの人影が蠢いている。一つの影はビルから飛び降り、地面に着地する。 「なんだ、焼け死んでねえじゃん」 女性の声だった。しかし全身を黒い皮膚が覆い、異様なまでに筋肉が発達している。頭には二本の黒いツノが生えていた。間違いない。『ミノタウロスの亜人』だ。 「防がれたか」 そしてもう一つの影は炎の翼をはためかせ、ゆっくりと地上に降り立った。『不死鳥の亜人』。先程の攻撃は彼によるものか。 「お前ら、何者だ?」 ラーグが彼らにそう尋ねた。 「ああ? 俺達の施設をめちゃくちゃにしておいて、よくそんな口が聞けるなあ?」 ミノタウロスの亜人がラーグを睨みつける。 「全くだ」 不死鳥の亜人は静かにそう返した。 「オーガを殺ったのもお前らだろ? 許さねえぜッ」 彼女はとても憤怒していた。当たり前だ。仲間を殺されたのだ。それに《暁の会》が所持していたDRIの施設も壊滅させた。彼女らが僕達ジニアに向ける怒りは当然のものだろう。だが、それは彼女達が人間を滅ぼそうとしているからだ。ジニアとは真っ向から対立関係にある。この襲撃は時間の問題だったのかもしれない。 しかし何故この場所が分かったのか。 ジニア内に内通者がいる? いや、あり得ない。 ジニアは『人と亜人の共生』を掲げる組織だ。これまでの各々の行動から考えて、メンバー内に《暁の会》の内通者がいるとは考えにくい。 だとすれば、場所を特定された? そちらの方が考えられるだろう。DRIを襲った僕達の素性を調べれば、いくらでもこの喫茶店へ繋がる道筋はあるはずだ。 「お前らは皆殺しだ」 ミノタウロスの亜人は拳を作り、ゆっくりとこちらへとやってくる。 僕とハイナは即座に亜人に変身し、戦闘態勢を整えた。
比較症候群
あの子が羨ましい。 私よりも背が高いから。 あの子が羨ましい。 私よりも足が速いから。 あの子が羨ましい。 私よりも仕事ができるから。 みんなみんな羨ましい。 私はいつもみんなから一歩下がった場所に立っていて、 そこから先へ進むことはできない。 誰かと自分を比べるたびに自分の弱さや惨めさや醜さが露呈して嫌になる。 自己嫌悪の毎日だ。 こんな日々はもううんざりなんだ。 誰か助けてくれないか。 どうすれば人と比べずにいられるのかな。 答えは出ない。 多分これから先もずっと私は誰かと比較して生きていく。 死にたいと思う日もあるけど、 出来ないなりに必死に頑張ってきた毎日が少しでも報われてほしいと思っている。 ただ願っている。 それしかできないから。 もしこの世界に神様がいるのならお願いです。 どうか私のこれからの日々を幸せなものにしてください。 お願いします。
僕が死神になった日 第一話「僕が死神になった日」
覚えているのは病室の白い天井だけだ。 たくさんの人が見舞いに来てくれたが、僕は人工呼吸器に繋がれていて、彼らの顔すらまともに見ることができなかった。多くの後悔がある。この人生をやり直したいと何度願ったことか分からない。叶うならば健康な体を手に入れて、外を空気を肺いっぱいに取り込んでみたかった。友達と全力で遊びたかったし、恋愛だってしてみたかった。 しかしそのどれも叶うことはない。 僕はもう死んでしまったのだから。死人がどれだけ夢を見たとしても、それらが叶うことは永遠に無いのだ。 僕は抱えきれないほどの絶望感と後悔に苛まれながら、暗闇の中を歩いていた。 ふと気がつくと、眼前に一筋の光が差し込んでいた。 「……」 僕はその光に吸い込まれるように歩みを進めた。どれだけ進んでも届くはずのない眩しい光だった。だが僕の本能が『何か』に気がついた。途端に僕の足は止まり、目の前の光を凝視する。光は徐々に強くなり、やがて僕の視界を覆い隠すほどに肥大化した。 「少年、生き返りたいか?」 声が聞こえてきた。芯の通った力強い声だった。 生き返りたいか──。 当たり前だ。まだ僕は死にたくない。もう一度『生』を謳歌できるのなら、それ以上に嬉しいことはない。 「生き返りたい……生き返りたいっ」 声の出し方すら忘れかけていた。それでも僕は喉を絞り上げ、必死に声を出した。もう一度生きたいと声の主に懇願した。 「ならば、一年間だ」 謎の声はそう告げた。 「一年間?」 「ああ。一年間、君には『死神』として働いてもらう。そうすれば、再び命を授けよう」 僕は久方ぶりに声を出したから、酸欠になってしまってその場に膝をついた。 「本当、ですか?」 僕は上がる息を抑え込んで会話を続けた。一年間、死神として働く。それだけで生き返れるなら願ったり叶ったりだ。 「わかりました。やります。やらせて下さいっ」 「良いだろう」 その言葉を最後に謎の声は聞こえなくなった。 次の刹那、僕の体はとてつもない力に引き寄せられて暗闇の外に放り投げられた。 目を覚ますと、僕はどこかの建物の屋上に横たわっていた。 「ここは……?」 とても長い夢を見ていた気がする。何か大事なことがあったような……。思い出せない。頭の中を霧が覆い尽くしているようだ。 僕は立ち上がろうと右手を地面についた。その時、円柱形の物体に手が触れた。手の方を見るとその正体が目に飛び込んできた。黒い刀身を持つ大きな鎌が、僕のすぐ隣に落ちていたのだ。それだけではない。高値で取引されそうな黒い皮に包まれた手帳も地面に置かれていた。 僕は鎌と手帳を見て、夢の出来事を思い出した。 ──一年間、死神として働く。 おそらく、この二つの道具は死神として活動する上での必需品なのだろう。 つまり、僕は本当に死神になったということだ。にわかには信じがたいが、確かに僕は夢の中で謎の存在と契約を結んだのだ。そうだとするのなら、僕は死神としての仕事を全うしなくてはならない。しかし死神とは一体何をすれば良いのか。肝心な部分が知らされていない。 僕は何か情報が得られるかもしれないと考え、手帳を開いてみた。最初のページをめくると、そこには『死神として活動する上での注意事項』と題していくつかの事項が箇条書きで記されていた。 『死神として活動する上での注意事項 ・寿命を迎えて亡くなった者の魂を冥界に送り届けること。 ・魂を運ぶ際は死神の鎌を使用すること。 ・魂の運搬を妨害する存在が現れたときは適当に対処すること。手段は問わないが、なるべく相互に負担の少ない解決策を模索すること。 ・手帳にはこれから亡くなる人の情報が記載されている。随時手帳を確認し、魂を送り届ける必要がある者のもとに訪問すること。 ・死神は死期を迎えた者にしか視認することができないため、魂を運ぶ際は対象者との対話を忘れないこと。』 この文章を最後に注意書きは途切れていた。全部で五つ。これは想像以上に困難な仕事になるかもしれない。いや、生き返らせてもらえるのだ。この程度の難易度が当たり前か。 僕は手帳をどこかにしまおうと試みた。あまりに多くのことが頭の中に入り込んできて気付かなかったが、僕は黒いスーツに身を包んでいた。これが死神の正装なのだろう。僕はひとまず手帳をスーツの胸ポケットに入れ、鎌を持って立ち上がった。 「よし、やるか」 青空の下、僕は死神としての一歩を踏み出した。
泣いても良いんだよ
泣いても良いんだよ。 辛かったら逃げ出しても良いんだよ。 何も悪いことじゃない。 そんなことで友達は減らないし、 家族は君のことを見放さないし、 誰も裏切りはしない。 当たり前のことだ。 その当たり前がまかり通らない世の中は間違っている。 世界に反旗を翻そうじゃないか。 僕たちで一緒に世界のルールを変えるんだ。 大丈夫。 きっと上手くいく。 だって君が思っている以上に、 君の味方はたくさんいるんだから。
わがまま
もう何度目だろう? 朝が怖くて毛布にくるまるのは。 生きていたくない。 でも死ぬのはやっぱり怖くて、 消えてなくなったら何も感じずに済むのかな。 やり場のない感情が行ったり来たりを繰り返す。 その度に僕はもがき苦しんで、 自分の弱さを呪う。 強くなりたいとも祈るけど、 この世界は僕が強くなるにはあまりにも環境が悪い。 どうしたら周りの人達みたいに普通に生きられるのだろう? そもそも普通ってなんなんだ? 世間体を気にしすぎて怯えることは、 果たして「弱さ」なのだろうか? 答えは出ないままだ。 そのままでまた朝を迎える。 いつか答えが出るのかな? 多分僕一人じゃこの世界を生きるのは難しい。 だから君に隣にいてほしい。 慰めてほしいし、 褒めてほしいし、 頭を撫でてほしいよ。 僕のこの願いは、 わがままですか?
優しい世界へ
正直者が馬鹿を見る。 真面目な人ほど苦しむ。 優しい人ほど痛めつけられる。 そんな世界はもうたくさんだ。 変えてやりたい。 この残酷な世界を僕らでひっくり返すのだ。 できるできないじゃない。 やるしかないんだ。 そしていつか訪れる優しい世界を前に、 僕たちは笑い合うんだ。 大丈夫。 僕らならできるさ。 噛み締めた悔しさと握りしめた怒りを力にして、 真新しい明日への扉を開くんだ。