つねきち

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つねきち

いっぱい読むぞ〜! 初投稿の作品が中二病感満載の題名でほかになかったのか少し後悔。

星屑リレー

プロローグ:星の記憶 宇宙ステーション〈エデン17〉。 地球からの距離、約3.2光年。 ここは、地球が滅びるときに人類が築いた最後の方舟。 ここにいる人たちは地球を知らない。 それは、〈エデン17〉内の学校“ジェフティ”の生徒たちも同じだった。 青い空も、風の匂いも、土の感触も、彼らにとっては教科書の中の幻影だ。 〈エデン17〉の最終目標は「地球への帰還」。 だが、地球はもう存在しない。 それでも彼らは“帰る”ために、一心に記憶の断片を集めていた。 それは、かつて地球に生きた人々の夢、物語、感情。星屑のように散らばった記憶を、ひとつずつジグソーパズルのように繋げていく。 これは、記憶を繋ぐリレー。 そして、まだ見ぬ故郷を創るための、青春の物語。 第一章:記憶の種子 「地球って、本当にあったのかな」 アオイは窓の外に広がる星雲を見つめながら呟いた。 彼女の声は、無重力の教室にふわりと漂い、隣にいたユウに届いた。 「教科書には載ってる。でも、誰も見たことない。俺たちの親も、その親も、ずっと宇宙育ちだ」 アオイは小さく頷いた。 「昨日、図書室で“記憶の種子”を見つけたの」 アオイは小さなカプセルを取り出した。 それは、かつて地球に生きた誰かの記憶を保存したもの。 「開いてみたら、青い空の下で走る少年の記憶が流れ込んできた。風があって、草の匂いがして…」 ユウは黙っていた。 彼も一度だけ、記憶の種子を開いたことがある。 そこには、雨の音と、誰かの手の温もりがあった。 「最終目標って、地球に帰ることじゃなくて、地球を“創る”ことなんじゃないか?ってお父さんがいってた。」 アオイの目は星のように輝いていた。 「僕たちがあちこちに散らばった記憶を繋いで、仮想地球を構築する」 ユウはゆっくり言葉を紡いだ。 「まるで記憶、いや、星屑のリレーだ。略して星屑リレーだね」 第二章:風の記憶 「風って、どんな音がするのかな」 アオイは、記憶の種子を掌に乗せたまま、ぽつりと呟いた。 ユウは答えられなかった。彼の知る“風”は、空調機の振動音だけだった。 「さっきの記憶、もう一度見てみる?」 アオイはカプセルをそっと開いた。 瞬間、教室の空気が揺れた。 風が吹いた。草が揺れた。少年が走る。 彼の頬を撫でる風は、まるで誰かの手のようだった。 「この記憶、誰のものなんだろう」 ユウは目を閉じて、風の音に耳を澄ませた。 「名前は記録されてない。でも、感情が残ってる。身体から湧き上がるような幸福と、少しの寂しさ」 アオイは記憶の断片を解析する装置に繋いだ。 そこに浮かび上がったのは、少年が誰かに手紙を書いている映像だった。 『この風の匂いを、草の匂いを、君にも届けたい。いつか、同じ空の下で会えたらいいね』 「この“君”って、誰なんだろう」 ユウは画面を見つめながら言った。 「もしかしたら、私たちかもしれないよ」 アオイの声が、さっきの風のように優しく吹き抜けた。 その夜、二人はステーションの外壁にある観測窓に並んで浮かんだ。 星々が静かに瞬いていた。 「地球って、風があって、空があって、地面があって、誰かを想う場所だったんだね」 「うん。種子の中の風、本当に優しかった。」 ユウはそっとアオイの手に触れた。 「僕たちで地球を作ろう。」 アオイは微笑んだ。 「うん。」 その瞬間、彼らの中に彼らの“地球”が芽吹いた。それは、記憶の中の風が紡いだ、ひとつの感情の種子だった。 第三章:星屑の継承者 「記憶の種子、共有しませんか?」 アオイが掲示板にメッセージをあげた数日後、彼女とユウのもとに三人の生徒が集まった。 一人目はリク。無口で、いつもヘッドホンをしている少年。 二人目はミナ。感情が色で見える特殊なカメラを持っている女の子。 三人目はカイ。地球のもともとの生態系を研究している。 「僕の見つけた種子には、雨の匂いが入ってた。濡れたアスファルトの記憶」 リクはヘッドホンを外しながら言った。 「私は、誰かが泣いてる記憶。涙の色は、淡い青だった」 ミナはカメラを確認していった。 「僕のは、詩だったよ。“君の声が風になるなら、僕は空になる”って」 アオイは微笑んだ。 「ミナの色、地球の空の色に似てるね」 彼らは“星屑リレー部”を結成した。 目的は、記憶の種子を集め、仮想地球を創ること。 記憶は断片でしかない。 でも、断片を繋げれば、物語になる。 彼らは毎日放課後、記憶解析室に集まり、種子を開いては語り合った。 ある日、ユウが開いた種子には、奇妙な映像が記録されていた。 ――地球の空の下、少年が少女に手を差し伸べる。 だが、少女は消えてしまう。 「これは…未完成の記憶?」 「夢のようなものなのかな?」 カイが首をかしげた。 「もしかして、誰かが“忘れたくない”って思った瞬間だけが残ってるのかも」 カメラの画面は淡い紫に染まっていた。 「じゃあ、僕たちが続きを創ればいい」 ユウはそう言って、手を伸ばした。 「記憶の続きを、僕たちの物語で埋めるんだ」 その夜、彼らは初めて“仮想地球”の設計図を描いた。 空の色は、涙の青。 風の匂いは、雨の記憶。 そして、光はユウの種子の続き。 「これで僕たちの地球が作れる」 ユウの声に、誰もが頷いた。 誰かの記憶が集まりひとつの星を形づくっていく。それは、かつてあった地球とは違う。 でも、確かに“誰かが生きた証”が息づいていた。 第四章:記憶の花 仮想地球〈メモリア〉は、静かに芽吹いていた。 記憶の種子を繋ぎ合わせたその世界には、空があり、風があり、誰かの想いがあった。 「この丘、あの種子の記憶に似てる」 リクが言った。彼の種子の雨の記憶が、丘の上に咲く紫陽花として再現されていた。 「この空の色、涙と寂しさの色だね」 ミナが微笑む。感情の色が、空のグラデーションに溶けていた。 彼らは、記憶を“花”として咲かせ、その記憶に入る技術を開発した。記憶の種子をポットに入れると、感情の色と音を持つ花が咲く。 「この花は、誰かが初めて恋をしたときの記憶だって」 アオイが淡いピンクの花にそっと触れると、花びらが震え、細々とした旋律が流れた。 ユウはその音に耳を澄ませた。 だが、ある日、仮想地球に“ノイズ”が走った。 記憶の花が枯れ、空が灰色に染まる。 「誰かが、記憶を拒絶してる」 カイが警告を発した。 調査の結果、ステーションの中で“記憶拒否症候群”が広がっていることが判明した。 過去を思い出すことが苦痛になり、記憶の種子を遠ざける人が増えていた。 「でも、私は信じたい。記憶は痛みだけじゃないって」 アオイは、まだ植えていない最後の種子を手に取った。 それは、彼女自身の記憶だった。 幼い頃、母の声を聞いた最後の記憶。 「あなたにも私の中にも地球は生きてるよ」 彼女はその種子を、仮想地球の中心のポットに入れたた。 すると、そこから一本の大樹が芽吹いた。 枝には、これまで咲いたすべての記憶の花が宿り、風に揺れるたび、誰かの物語がささやかれた。 「これは、お母さんとの“記憶の樹”なんだね」 ユウが名付けた。 その日から、記憶の拒絶は少しずつ和らいでいった。 花は再び咲き、空は色を取り戻した。 最終章:星を継ぐ者たちへ それから、三十年の時が流れた。 仮想地球〈メモリア〉は、今やステーションの中心的な憩いの場となっていた。 新たな世代の生徒たちが、記憶の種子を手に、花を咲かせていた。 「この花、誰の記憶?」 まだ小さな女の子が尋ねると、案内役の青年が微笑んだ。 「それは、アオイ先輩の記憶だよ。風の匂いと、誰かを想う気持ち」 青年の名は、ソウ。 “星屑リレー部”の創設メンバー、ユウとアオイの息子だった。 彼は、記憶の樹の根元に立ち、語り継ぐ。 「この世界は、誰かの想いでできている。だから、君の記憶も、きっと誰かを救う」 その言葉に、少女はそっとカバンから何かを取り出した。 それは、まだ開かれていない記憶の種子だった。 「私の記憶も誰かを助けられるの?」 ソウは頷いた。 「そうだよ。君も今日から星屑リレー部の一員だ」 ステーション内の花畑には、かつてアオイやユウたちが創り出した記憶の色が広がっていた。 風は今も、誰かの記憶を囁いている。 星屑のリレーは、終わらない。 それは、未来へと続く、光の道。

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勇者、怪盗はじめました!3 〜試験開始!〜 四話&五話〜

四話目! 〜盗みとは?〜 宿泊施設に案内された夜、俺はベッドの上で天井を見つめながら考えていた。 ――盗みの美学、か。 勇者だった頃は、盗むなんて考えたこともなかった。 奪うより守る。壊すより癒す。そんな力の使い方しか知らなかった。 でも今は違う。 このアカデミーでは、“盗むこと”が美しさになる。それをどう語るかが、明日の試験のテーマだ。 「……俺にとっての盗みって、何なんだろうな」 翌朝。 教会の大聖堂のような場所に集められた俺たちは、順番に壇上へと呼ばれていった。 仮面をつけた試験官が静かに名前を呼ぶ。 「次、セレナ=ヴェイル」 白銀の髪の少女が、静かに壇上へと歩いていった。その背筋はまっすぐで、まるで“盗み”そのものに誇りを持っているようだった。 白銀の髪の少女、セレナ=ヴェイルは、まるで舞台女優のように一礼し、語り始めた。 「怪盗とは、痕跡を残さず、心を乱さず、ただ美しく消える者。盗みとは、秩序の中に潜む静寂の芸術。完璧な計画と、無駄のない動き。 それこそが、私の美学です」 その声は澄んでいて、冷たいほどに整っていた。 会場の空気が張り詰める。誰もが息を飲んでいた。 「……以上です」 セレナは一礼し、静かに壇を降りた。 その瞬間、俺の中で何かがざらりと逆立った。 ――それって、ただの“作業”じゃないか? 「次、カズト・クロヒラ※」 俺は壇上に立ち、深呼吸をしてから、言葉を紡いだ。 「俺にとって、盗みってのはもっと……芸術的で、感情的で、色鮮やかで心を震わせるものだと思う」 ざわ、と空気が揺れた。 「たとえば、“誰かのために盗む”とか、“魅せるために奪う”とか。そういうのが、俺の美学だ。盗まれたことに気付き、盗みの手際に感動し、心がざわつく。それが、俺の理想の盗み」 ーーそう。怪盗◯ッドみたいに……。 セレナがこちらを見ていた。 その瞳は、氷のように冷たく、そして――少しだけ揺れていた。 「……あなたのような感情に流される者が、怪盗を目指すなど滑稽ですね」 「じゃあ聞くけど、あんたの盗みって、誰の心を動かすんだよ。ただ綺麗に消えるだけなら、誰も覚えてないじゃん」 「覚えられる必要などありません。“痕跡を残さない美”こそが、怪盗の理想です」 「俺は違う。“盗まれたことに気づいた瞬間、心が震える”。それが、俺の美学だ」 試験官の仮面が、わずかに揺れた。 「ふむ……面白い。では、最終日“潜入と脱出”の試験。お二人には、同じチームで挑んでもらいましょう」 「はぁ!?」「冗談でしょ!」 二人の声が重なった。 険悪な空気のまま、次の試験が始まろうとしていた。 ※カズト・クロヒラ・・・       黒平和人。主人公の名前 五話目! 〜最終試験〜 二日目、三日目とメビルスの助けもあり無事に試験を終えた俺は実技試験会場の入り口に向かっていた。 最終試験は、空中宝物庫へ潜入し他チームと競い合いながら“本物の”宝を盗みだすと言うもの。“盗み”の本質に触れる試験で、俺はこれまでにないほど緊張していた。 これまでの美学審査や模擬潜入とは違う。 ここでは、誰かの目を盗み、誰かの心を揺らし、そして――本物の宝を奪う。 試験官は言った。 「この試験では、初日に発表したあなた自身の“盗みの美学”が問われます。盗む手段・手際、盗んだ後に何を残すか――すべてが評価対象です」 俺は、静かに息を吐いた。 セレナは、隣で静かに魔法の準備をしていた。 彼女の盗みは、完璧で、静かで、残さない。 正直、俺だって何も残さず盗む。それが理想だと思っている。でも何かが足りない。 「足引っ張らないでよ?」 セレナが、俺に向かって言った。 「あぁ!そっちこそな。俺の美学とどちらが正しいのか見極めようじゃないか!」 「望むところよ!」 空中宝物庫への転送陣が、淡い光を放ち始める。 俺たちは、光の中へと歩み出した。

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勇者、怪盗はじめました!3 〜試験開始!〜 四話&五話〜

勇者、怪盗はじめました!2 〜怪盗アカデミーの中〜

三話目! 〜入学試験〜 光が収まると、俺は庭園のど真ん中に立っていた。 チューリップ、向日葵、梅――季節感ゼロの花々が一斉に咲き乱れている。まるで夢の中みたいだ。 「ほら、あそこ。紫のドーム屋根の建物に行けばいいらしいわ」 メビルスが指差した先には、煉瓦造りの重厚な建物。紫色のドーム屋根が特徴的で目を引く。 ふうん……どうやら転送は成功したらしい。 でも、いつもならメビルスと張り合って解説を始める“大賢者”の声が聞こえないな? ――と思った瞬間、背後から声がした。 「ここでは、賢者・百科事典等のスキルは封印させていただいております」 「うわっ!びっくりした!」 振り返ると、そこにいたのは黒髪のハーフエルフ。メイド服姿なのに、ただ者じゃない雰囲気が漂っている。 隙のない立ち居振る舞い。溢れ出る魔力。そして、まるで空間に穴が空いたような“存在感のなさ”。 「……あなたは?」 「私は案内役兼校内警備担当のジビアと申します。あなたは入学希望者ですか?それとも……うちの生徒を狙うゴミですか?」 「……ゴミだったら?」 恐る恐る聞いてみると―― 「即刻、排除いたします」 ちょっ!殺意むき出し⁈怖すぎるんだけど! 「あわわわわ!入学希望者です!」 「では証拠として、これまでのメルウェール※との関係や、アカデミーに入ろうと思った理由をお話しください」 俺は勇者として召喚されたこと、役目を終えて返送されたことをすべて話した。 ジビアは一通り聞くと、無言でうなずき、紫のドーム屋根の建物――総合管理館へと案内してくれた。 「ここは怪盗アカデミーの中心施設です。あなたには二週間後に行われる入学試験を受けていただきます」 「入学試験?」 「はい。怪盗としての適性を判断する試験です。一ヶ月に一度行われ、何度でも挑戦可能です」 さらに聞けば、アカデミーでは定期テストや学園祭で進級が決まり、試験内容は運次第。 そして―― 「テストを受けるかは自由ですが三回連続でパスすると退学となります。ここでの退学は“死”と受け取って構いません」 ……怖っ! ーー二週間後 『告:怪盗アカデミーの年間合格者数は約20人。一度の受験者数は100人を超えます。頑張ってくださいね♡』 「おう!メビルスもいるし、なんとかなるだろ!」 気合を入れて、幻魚の鱗製の扉をくぐる。 すると、目の前に広がったのは――総合管理館の真っ白な空間。 ジビアに案内された先には、すでに多くの参加者が集まっていた。 人間、亜人、精霊、オーク、ドラゴンまで。まるで異種族博覧会。 「あわわ……こんなにいるのか⁈入学できるか心配になってきたぞ」 「シャキッとしなさいよ!ほら、誰か来たわよ!」 メビルスの言葉に目を向けると、仮面をつけた竜人族が壇上に立っていた。 「入学試験参加者の皆さん、これより試験内容の説明を行います。資料にも記載されていますが、よく聞いてください」 〜試験スケジュール〜 1日目:美学審査   怪盗としての理想像や“盗みの美学”を語る 2日目:身体能力検査   ステータス値やスキルを測定 3日目:情報収集模擬試験   仮想集落「エルフ・獣人・ドワーフ」のどれかに潜入し、伝統技術を盗み出す 4日目以降:実技試験   空中宝物庫にチームで侵入し、宝を盗み出す 「試験は合計七日間※2です。それでは、宿泊施設へご案内いたします」 ※メルウェール:異世界の一つ。日本やアメリカがあるこの世界は“ルートピア” ※2怪盗アカデミーの亜空間に入っている間、現実世界では“存在していなかった”ことになる。出れば元に戻る。

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勇者、怪盗はじめました!2 〜怪盗アカデミーの中〜

消しゴムの跡 (考察お願いします。)

中学の美術室。棚の奥に、誰も使わない古い消しゴムがあった。 灰色で、角が丸く、触ると少し湿っている。 「それ、使わないほうがいいよ」 先輩がそう言ったのは、去年の文化祭の準備中だった。 理由は聞けなかった。先輩はその後、転校した。 それから数ヶ月後、僕はその消しゴムを使った。 スケッチブックに描いた自画像の目が、どうしても気に入らなかったから。 消しゴムを押し当てると、紙がざらりと音を立てて削れた。 目の部分だけ、綺麗に消えた。 でも、消したはずの目が、机の上にうっすらと浮かんでいた。 紙の外に。木目の上に。僕の目が。 その日から、鏡を見るのが怖くなった。 鏡の中の僕は、少しずつ違って見えた。 目の位置が、ほんの少しずれている。 まばたきのタイミングが、遅れる。 ある夜、鏡の中の僕が笑った。 僕が笑っていないのに。 翌朝、美術室の棚に、もう一つ消しゴムが増えていた。 灰色で、角が丸く、少し湿っている。 僕の名前が、うっすらと刻まれていた。

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消しゴムの跡 (考察お願いします。)

勇者、怪盗はじめました! 〜唐揚げと怪盗アカデミー〜 一話&二話

「おつかれさまでした。それでは、ルートピアへの返送を開始します」 神官の凛とした声が響いた瞬間、足元の転送陣が淡い光を放ち始めた。 その光が俺の身体を包み込み、ゆっくりと空間が揺らぎ始める。 ――帰るんだ。あの世界へ。 光の中で、俺は自然とこれまでの記憶を辿っていた。 最初にこの世界へ飛ばされてきた時。 何が何だかわからなくて、あの神官にずいぶん迷惑をかけたっけ。そういえば、あの人の名前、結局なんだったんだろう? 初めての冒険。ゴブリンとの遭遇。 怖かったな――いろんな意味で。 でも、あれが始まりだった。俺の“勇者”としての日々の。 それに比べて、今の俺は強くなった。魔法も、剣も。この力、あっちの世界でも使えるのかな?もし使えるなら……何をしよう。 母さん、芽衣、元気かな。 そんなことを考えているうちに、光の向こうに見慣れた街並みがぼんやりと浮かび上がってきた。 俺が育った街。 俺が、勇者になる前の俺だった場所。 でも――今の俺は、もう“ただの俺”じゃない。 新しい人生が、ここから始まる。 一話目! 〜神官メビルス〜 「ただいま」 重たい足取りで玄関のドアを開けると、揚げ物の香ばしい匂いが一気に鼻をくすぐった。唐揚げだ。間違いない。 ――ああ、帰ってきたんだ。 その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなって、力が抜けて膝が笑った。安心感と懐かしさが、身体の芯まで染み渡っていく。 親子喧嘩で家を飛び出したのは覚えてる。でも、異世界に飛ばされてから15年も経てば、さすがに怒りも薄れる。喧嘩の内容なんてもう思い出せない。むしろ、思い出せないくらいくだらない理由だったんだろう。 玄関でへたり込んでいると、妹の芽衣がパタパタと走ってきた。ってしまった!芽衣が少しも成長していない!ということは、この世界では俺は家を出てからすぐ帰ってきたことになるんだ! 「お兄ちゃんったら、もう帰ってきたの⁈まだ5分も経ってないのに!やっぱりお母さんの唐揚げの誘惑には勝てなかったか〜!」 「うるせぇよ…」 言い返しながらも、涙が勝手にこぼれてきた。 「うわ〜泣いてるし!慰めてあげないもんね〜!」 そう言いながらも、芽衣は隣に座って、そっと背中を撫でてくる。その手を振り払って、俺は自分の部屋へと逃げ込んだ。 「気を取り直して、まずは…」 『フレア!!!!』 指先に、小さな火が灯る。 「おぉ!こっちの世界でもちゃんと使えるじゃないか!神官さま、ありがとう…!」 「フン!ワタシを誰だと思ってるのよ💢シュライヴァ王国王室直属の神官、メビルス様よ!」 突然、煙が立ち込めて、魔王討伐の相棒――いや、足を引っ張ることのほうが多かった神官メビルスが現れた。 「うわっ!ダメ神官いたのか!てか、王室直属なのに、なんでこっちに?」 「うっさいわね!好きで来たわけじゃないのよ!特別任務よ、特別任務!」 「つまり、厄介払いされたってことだな」 「ウギ〜〜!」 怒ったメビルスが飛びかかってくるが、俺の自動防御魔法が発動して、彼女は床にグデ〜っと転がった。 さて――これからどうする? もう正義のヒーローは飽きたし、やろうと思えばこの世界を滅ぼすことだってできる。どうせなら、思いっきりカッコよく注目されたいな〜。 「ちょっと!今、すっごく悪いこと考えてなかった!?そんなの許さないんだから!」 「考えてないってば!」 「フン!アンタの考えることなんて、ぜ〜んぶお見通しなんだから!」 ――困ったな。何をしようとしても、メビルスに監視されてるんじゃ楽しめない。…そうだ! 「メビルス、母さんの唐揚げ、食べたくないか?」 「そんな手に乗るもんですか!」 「そっか〜残念だな〜。母さんの唐揚げ、天使になれるくらい美味しいのに。そっかそっか〜食べないんだ〜。かわいそ〜。」 メビルスはそっぽを向いたまま、プルプルと震えている。よし、あと少し! 「皮はカリッとしてて〜、中から油がジュワッと…」 「食べる!食べるわよ〜!」 「よし、交渉成立!メビルスは俺の言うことに従う!」 「ちょっと!そんなの聞いてないんだけど〜!」 「お兄ちゃ〜ん、ご飯できたよ〜!」 「さぁ、行くぞ!」 「キィ〜〜〜」 二話目! 〜怪盗アカデミーへの扉〜 母さんの唐揚げで機嫌が直ったメビルスは、異世界から返送された勇者や迷い人たちがよく集まる団体について教えてくれた。 「えっとね、一番多いのはサーカス。次が…れーばいし?あと、裏社会のリーダー育成とかで“怪盗アカデミー”なんてのもあるみたい…」 「えっ!?怪盗アカデミー!?行きたい!行きたい!行きた〜い!」 「だから!許さないって言ったでしょ〜!」 「母さんの唐揚げ、誰が食べたんだっけ?」 「……わかったわよ。トカゲ地区の魔力波動が3.2の場所に、幻魚の鱗でできた扉があるから、そこに行けってさ」 「えっ、それってめっちゃ目立つんじゃ…?」 「バーカ!一般人には見えないのよ!」 「よし、明日行こう!」 「さて問題です。明日は何曜日でしょう?」 「……水曜日?学校……破壊してしまおう!!」 「ヨシくんは?羅奈先輩は?みんなと会えなくなるかもよ?」 「あっ……って、なんで知ってんだよ!」 そんな感じでメビルスと口げんかしながら、夜は静かにふけていった。 そして今日は日曜日。俺はメビルスと一緒に、怪盗アカデミーの集合場所へ向かっていた。 「ねぇメビルス、怪盗アカデミーってどんなところだと思う?」 「知らないわよ!」 「まぁまぁ、そう怒らないで」 『告:現在地の魔力波動、3.1』 俺の頭の中に、AIの自動音声ガイドのような声が響いた。 「おぉ!大賢者様〜!こっちでもちゃんとサポートしてくれるんだな〜!」 『解:主人を知識面でお守りするのが、この“大賢者”の役目でございますから❤️』 「頼もしいな〜大賢者様〜」 「ちょっと!アタシを置いて会話進めないでよ!」 『告:現在地の魔力波動、3.2』 「おっ、ついたみたいだぞ!」 目の前には、異世界の王宮で見かけた白く虹色に輝く扉が、静かに佇んでいた。 ただし、設置場所は王宮ではなく――なんと、道のど真ん中。 扉の向こうには何もない。ただ一枚、ぽつんとそこにあるだけ。それを通行人たちはまるで扉などなにも存在しないかのように、扉をすり抜けて歩いていく。 「さぁ!魔力を流しながらドアノブを回すのよ!」 「うえぇ…開けても、ただ道に戻るだけだったらどうしよう…」 『解析開始。扉の仕組みを解析……成功しました。あの扉は一種の“転移門”と考えられます。行き先の解析……失敗しました。別次元の亜空間であると推測されます』 「別次元!?」 「さあ、行くわよ!怪盗アカデミーが待ってるんだから!」 「なんか俺より乗り気じゃないか……?」 俺は深呼吸をして、魔力を指先に流しながら、ゆっくりとドアノブに手をかけた。 ――カチリ。 扉が開いた瞬間、まばゆい光が視界を包み込んだ。

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勇者、怪盗はじめました! 〜唐揚げと怪盗アカデミー〜 一話&二話