炭酸ジュース
2 件の小説夏と泡沫。
暇だなぁ、とエアコンが効いた教室のなかで、夕夏は思う。 高校2年生の夏。 自分の指先を弄りながらぼーっとしている私の耳に、数学の先生が方程式を説明する声が耳を通る、が。 一ミリも理解できなかった。元より夕夏は勉強が大の苦手だ。そして教科が数学ときた。 二次方程式がこうだから次に素因数分解するなんて、理解できるはずがないのだ。 「……はぁ」 小さくため息をついたその瞬間。 「夕夏、また聞いてないでしょ」 隣から小声が飛んできた。 びくっと肩が跳ねる。 視線を横に向けると、そこには涼しげな顔でノートを取っている彼女涼花がいた。 黒髪のストレートに、無駄のない整った横顔。 成績優秀、真面目、そしてちょっとだけ意地悪。 「聞いてるし……」 「嘘。今ぜったい“帰ったら何食べよ”とか考えてた」 「え、なんで分かんの」 「当たってるじゃん」 くす、と涼花が笑う。 その笑い方が、なんだかずるいと思った。 ほんの少し口元が緩むだけなのに、目が優しく細くなるから。 「……なに」 「いや別に」 夕夏はぷいっと前を向く。 けれど、なんとなく頬が熱い。 「放課後、残る?」 「え?」 「数学。教えてあげる」 さらっと言う涼花に、夕夏は思わず目を瞬かせた。 「いや、いいよ別に……どうせ分かんないし」 「分かるまでやるの」 即答だった。 「え、スパルタ?」 「夕夏がバカなだけ」 「ひど」 むっとするけど、なぜか嫌じゃない。 むしろ、 「……じゃあ、ちょっとだけ」 気づけばそう答えていた。 「うん。ちょっとじゃ終わらせないけどね」 また、あの笑い方。 夕夏は小さく息をつく。 そして今度は、ほんの少しだけ嬉しそうに。 (……まあ、いっか) 窓の外では、蝉の声がじんわりと響いていた。
最期
学校は嫌いだ。 だって、皆んなと話を合わせなきゃいけない。 最近流行っているダンスも、食べ物も、全部、私からしたら、何が面白いんだろう?という感じだった。 だから、空気が読めない私は、あっという間に不登校児になった。 小学校までは良かった。友好関係も多分それなりに上手くはやれていたと思うし、実際、友達とも仲が良かった。 問題は中学校だ。中学生になってから、皆んな、それぞれの『グループ』に入る様になった。 他人と話が合わない私は、『グループ』にも入れず、話も合わず、1人で本を読んでいるしかなった。 そしてそのうち、不登校児になった。 時は残酷だ。時間に流されるがまま、大人になった。 でも、不登校児の私が、立派な大人になれる訳がなかった。 まず共感性がない。 話が合わない。 何を言われても、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、 あ 体が重力に従って地へと堕ちようとしている。 びゅうびゅうと耳元で風がふいている。 コンクリートで作られた地面が、すぐそこに。 目を開けると、満月が淡く光っていた。 こんなことになるなら、せめて。 「もう、なんでもいいから、人生やし直したいな」 これが私の見た、最期。