涼風。

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涼風。

りょうかと申します

524[二]

____年 ____月____日 ____曜日 誰からも嫌われたくない。 唯一の出米損ないの僕を嘲笑ってくれ。 端から僕を褒める気なんてないなら僕に近づかないでくれ。        誰も        誰も   誰も傷つけたくないんだよ。 偶像は過ぎ去って、僕は大人になってしまった。 あの日の残像が心から離れない。 汚くなった自分を見るその綺麗な眼は僕には勿体ない。 僕なんかを見つめないでくれ。 多分、醜くなってしまうから。 時間をかけて育てた感情は誰かの思いで打ち砕かれる。 砂になった心はもう戻らない。 ないものねだりでも構わない。 僕を、 僕を、 ! ! ! ! ! ! ! ! ! ? ? ? ? ? ? 貴女の心を知っていくたびに自分の心が萎れていく。 寂れた手に近づくのも、何もかもを止めている。 喉の奥で産まれた言葉は何時か貴女に伝わるときくるのか。 止め処無い時間の流れの中に僕はいるのかい。 −わからない。 でも身を削って出した音も、 結局は誰かの鼓膜を震わすだけのものに過ぎない。 そんなものに時間をかけて、生涯を終える。 それで満足なんだ。だからなにも云わないでくれ。 愛してるなんて、自分の人生を変えるなんて。 天才なんかじゃないんだよ。    ところで貴女は?     五月蝿ぇよ。 完 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。 後書 初めて連載機能を使ってみました。 いいね・コメントお待ちしております! では。 25.3.20 涼風。

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524

わかってくれ 貴方が残していったその言葉が、絶えず部屋の隅で木霊する。 湿気った煙草はいつもより不味くて、噎せてしまった。 こんな不甲斐ないもので、貴方と繋がっていたのだ。 −こんな不甲斐ないものでも、貴方と繋がれていたのだ。− マドラーで水を掻き回す。 からからと優しい音がする。 他愛も無い貴方との会話の履歴を いつまでも消すことができないままでいる。 私だけのために綺麗に用意された食卓は、 なんだかいつもより広かった。 自分へのご褒美に買ったケーキは、 なんだかいつもよりしょっぱかった。 思い出を一つ一つ大切に抱き寄せたまま、 いなくなってしまいたかった。 貴方は、人目を忍んで積み上げた努力に 丸ごと蓋をして、完璧なさまで隠し通した。 全うしたうえで、まるで元からそうなることが決まっていたかの ように煌々と輝く一番下のそれを、当たり前のように掲げていた。 私は、それを喉から手が出るほど欲しがった。 それをこちらに渡してはしい。 いつまでも二番手で居続けたくない。 私は、眩く輝く貴方と、 その影で腐りきった私自身とを呪い続けた。 そうしてもう手遅れになった時に、 私は最下位の呼び声に大敗してしまった。 こんな容易いことで ” 一番手 ” になれたのなら、 最初からこうしていれば良かったのに。    ところで貴方は?     五月蝿いな! [2]に続く

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524[一]

?????年??月??日??曜日曇天   足が速ければ、勉強が出来れば、 話が面白ければ、甘え上手ならば、 それだけで生きていけたあの頃に戻れたならば。 起きて、働いて、怒られて、稼いで、 食べて、寝て。その繰り返しで。 あの頃の飯事(ままごと)の苦い反芻(はんすう)だった。 あの頃のまま変わらない唯一は、 この馬鹿げたごっこ遊びだけだった。 一体いつまで続くのだろうか。 いつまで続くのか。 いつまで続くのか。 いつまで続くのか。 貴方だけが居なくなってしまったあの日、 真っ赤な惨状から目を逸らしたくて。 見上げた青空に浮かんでいた飛行機曇は、 いつもより高く見えた。 頭から適る花瓶の水、隠せない青痣。 どうして貴女が私を生かしたのか。 未だにわからないままでいる。 退屈な授業を抜け出して 屋上で風を感じる度、 徴かに貴女の温度を感じる気がする。 勘違いでもいい。今はそれだけでいい。 誤魔化しでも、貴女を忘れないでいれるのなら。 これも、愛情なのかもね。 はためく制服 柔らかい風 愉快な歌 散り際の桜 隠れた太陽 涙ぐむ空 振り返らない君 ???? ?? ??????? 窓を打つ雨の音は、 私の啜り泣く声をかき消してくれる。 私よりも大粒の涙を流して泣く空は、 私に寄り添ってくれているようだった。 続

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好きな季節

『好きな季節は?』 英語の授業や新年度の自己紹介など、よく聞かれる質問のように思う。 きっとこの答えの返答は、春夏秋冬のいずれかを答えるのが普通なのだろうね。 僕が答えるその一言に毎度質問者はハテナを浮かべる。 「季節が移り変わる瞬間」 君はきっと今、頭にハテナを浮かべたんじゃないかなぁ! ほらね!僕が言った通りでしょ! 「季節が移り変わる瞬間ってどういう事?」 君はそう質問をした。 少し長くなるよ と一言忠告してから話し始めた。 春夏秋冬って4回季節が変わるでしょ?冬→春・春→夏・夏→秋・秋→冬って季節が移り変わる。その瞬間を感じた時、僕は好きだなぁと思う。 え?質問は、「好きな季節」だからあってないだろっ!って? 季節が移り変わる瞬間だから、春夏秋冬のどれか一つが無くなってしまっては成立しない。なので一応「全部がすき!」って意味!だから、好きな季節は?の返答をしてる!だからあってるよ!! まぁ僕のこじつけ感は否定しないけど笑 どの移り変わりが1番好きなの?かぁー・・・それぞれに魅力があるけど、、 今の季節だと冬から春になる時期だよね。 冬ってさ、常緑樹以外の木は普段は葉で隠れてる枝も全てが丸見えで葉が無いでしょ?どこか寂しい気持ちでいるんだ。 でもそんな僕の気持ちを和らげてくれる瞬間がある。 まだまだ厳しい寒さが続く中、いち早く蕾を付け始める花がある。 その蕾がふくらみ始め少しづつ春が近づいているよと告げてくれている。そんな春告草(はるつげぐさ)こと梅が咲いた時、僕は好きだなぁと感じる。心が満たされていく感覚があるのだ。 でもね、好きな季節は?と聞かれるのも好きだけど、質問するのも僕は大好きなんだ! だから、最後に一言質問させて!!! 『好きな季節は?』 了 お読み下さり、ありがとうございます。 最後の“僕”の質問に答えてくれたら嬉しいです。 25.3.9 涼風。

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茜色の保健室

保健室の先生が虫垂炎で入院されている間、非常勤講師として僕はこの高校にやって来た。この学校にも慣れてきたある日常の事。 授業が終わった放課後の校舎内は、保健室でいつも聞く青春の音色(おと)より、様々な音が響いている。 地面に擦れる音や地面を踏みつける音。 カキーンと音がなり、騒ぐ生徒の声。 綺麗な緑色の葉っぱ達は風で踊り、サヤサヤと音を鳴らす。 靴を脱ぎ、室内履きに履き替える。 1階の隅の家庭科室からはミシンの音。 階段を登れば、花の匂いやお茶の香り。 渡り廊下からは管楽器の音。 4階にある美術室からは画材の独特な香りもする。 色んな音色(おと)を聞くのがいつの間にか僕の日課になっていた。 そろそろ1階の保健室に戻らなくては、急ぎ気味で階段を降りていると、ピアノの音とギターの音、それと歌声が微かに聞こえてきて、僕の足が止まった。 そうか、もうすぐ文化祭がやってくる時期なのか。 後夜祭で披露するのだろうか。 しばらく聞き入ったあと、さっき聞いた歌声を元に鼻歌を歌う。なんの曲なのかは分からないが、耳に残る曲だ。 タイトルは、、文化祭で分かるかな笑 旗を掲げるためだけの銀のポールに、初夏の太陽の光が反射する。 白く塗り直されたサッカーゴールが茜色に染まる頃、彼女が来た。 「また来たのかい?」 僕は見るからに暇をもて余している女子学生に言った。 「先生、私に会いたがってるかな、って」 梅雨があがったばかりのこの時期に、白いセーラー服から伸びた二の腕はまだ寒々しい。 「まさか」と僕ははぐらかしたものの、二人分の紅茶をいれる為に沸かしていたポットの音がタイミング良く鳴った。 「ポットは私のこと、待ってたみたいだけど?」 ニッ、と笑った彼女の白い歯が、やけに生々しい。 開け放たれた窓から保健室を流れていく風が、彼女の肩まである髪をさらっていく。 一瞬、桃のような甘い香りが僕の鼻をくすぐった。 窓からグラウンドを見つめる彼女の横顔を隠れ見る。 僕は彼女の横顔が好きだった。 上向きの長い睫毛が下を向いたかと思うと、人工的なものを何も塗っていないまっさらな唇が、フッと微笑んだ。 「先生のえっち」 彼女は僕のほうを見ずにそう言って、両手を窓枠にかけて外に出ようと片足をあげた。 彼女の身体が、大きく前のめりになる。 「あぶない!!」 紅茶のカップを放り出し、僕は彼女の身体を支えた。 「危ないじゃないか!!」 僕の声に、彼女の身体がビクッとした。 「あ、ごめん。大きな声出して」 僕は彼女から離れた。 「先生が謝らなくても。私が悪いの」 彼女は両足を揃えて床に下りた。内履きズックの、トンッと床に当たる音が静かな保健室に響いた。 「紅茶は?冷めちゃったかな?」 彼女はポットのところまで歩いて言った。 「ああ。入れ直さないと」 「いいよ、勿体ない。レンジでチンする。先生のも、する?」 僕を見上げる瞳に、釘付けになる。 「なに?」 「いや、何も」 彼女は何かを察したように微笑む。 「先生って単純」 「失敬な。大人に向かって」 ついキツイ口調になってしまった。けれど、彼女は一切怯まない。 「大人が大人が、って。中身は私たちとたいして変わらないくせに」 とまともに言い返してくる。そこでやめておけば良かったのに「そうやって、食ってかかるのが子供なんだよ」と言ってしまった。 言ってしまってから、しまった、言い過ぎたかと彼女を見たが、彼女はどこ吹く風と言わんばかりの笑顔で言った。 「まだ子供だから、私。お砂糖いれたい。お砂糖ある?」 と砂糖を探し出した。彼女はさっきの事は気にしていないようだった。 砂糖はないけど・・・と、言いながら戸棚から瓶を一つ出してデスクに乗せた。 「これ入れたら甘くなるでしょ」 「あ、蜂蜜?」 彼女の目がキラキラしている。 「ねぇ早く開けて?」 「あ、ああ、うん」 彼女に言われるがまま、蜂蜜の瓶を軽々と開け、銀のスプーンを甘露の海に沈めた。 彼女がマグカップをスっと差し出してきた。 僕は蜂蜜をすくってカップに入れようとすると、「もっと。もっといっぱい」と、言わんばかりに僕を睨みつけた。 その彼女の目が、誰かに似てるなぁ、と頭をかすめたが、ただぼんやりと目の前でハニー紅茶を美味しそうに飲む彼女を見ていたら、いつの間にかそんな事は忘れてしまっていた。 「さーてとっ」 彼女は、いつもそうするように、マグカップを水道で丁寧に洗い、布巾の上に伏せて置いた。 そして 「じゃ、先生またね」 と、いつもそうするように手でバイバイをして去って行った。 誰も居ない保健室の真っ白な壁一面が真っ赤な夕陽色に染まり、昼間とのコントラストがクッキリと浮かび上がる。 僕はまた、ここで彼女を待ってしまうのだろうな。 冷めた紅茶を一気に飲むと苦いアールグレイが口いっぱいに広がった。     ・・・ 僕は"彼女"を待っていた。 今日は久しぶりのデートなのだ。 デート、というより式場の下見だ。 僕はもうすぐ結婚するのだ。 「ごめんなさいね。雅晴さん、疲れてるでしょう?」 珠稀はとても優しい人で、僕には勿体ないくらいの女性だ。 カラン、カランと透明な氷がグラスの中でぶつかり合う。 キレイにピンク色に塗られた唇を小さくすぼめて、ストローをくわえた珠稀をじっと見ていたら、真っ赤な顔をして彼女が呟いた。 「見過ぎ。雅晴さんのえっち」 「あ・・・・」 「え?」 「あ、いや何でもない」 と、少しだけ動揺した。 珠稀の言葉に、違う人を思い出したからだ。保健室にやって来る女子生徒のことを。急に後ろめたい気持ちになった。 休みの日の街は人が多くて、僕は少し気後れした。 「式場、あと3つ。行けそう?」 「ああ。がんばるよ」 僕は力なくそう言って立ち上がった。 本来、僕たちの結婚式は一年前にする予定だった。 けれど、彼女の家族に不幸があり、喪が明けるまで挙式は延期になった。 ちょうどその時、僕たち2人は遠距離恋愛をしていて、ただ毎日一緒に居たいという若さゆえの情熱だけで結婚しようとしていた気がする。 だから、不謹慎ではあるが、今思えば喪が明けるまでの一年間は僕たち2人にとっては必要で大切な時間だった。 この一年間で僕たちの愛は確実に深まった。 時間をかけて、ゆっくりと2人の将来の話をした。 仕事の話。親の話。新居の話。挙式の話。 いつか生まれてくるであろう2人の子供の話。 珠稀はその、どの話をする時も幸せそうだった。 そして、今も。 「式場まわり終えたら、雅晴さんのお部屋に行ってもいい?」 そう言って振り向いた彼女の微笑みに、僕はまた惚れ直した。 「先生は、いつまでここに居るの?」 夕焼け色のグラウンドをバックに彼女が聞いてきた。 さすがにまだ半袖が寒いのか、今日は制服の上からグレーのカーディガンを羽織っていた。 僕は何の気なしに、そのカーディガンに見覚えがあったが、女物のカーディガンなどどれも同じだろうと気にもとめなかった。「今週いっぱいかな。保健の先生が無事に退院して戻ってくるから」 僕がそう言うと、彼女の口から意外な言葉が出た。 「結婚するんでしょ?先生」 僕はびっくりして彼女を見た。 「どうして知ってるの!?」 「さて。どうしてでしょう?」 と、彼女は悪戯っ子みたいに笑って 「超能力があったりして」 と言った。 「おどかすなよ。本当にどうして知ってるの?」 彼女の丸い大きな瞳はゆらゆらと紅い夕焼け色に染まっていく。 そして意味ありげに微笑むと「そのうち分かるわ」とだけ言って僕に手を振った。 「じゃあ先生、またね」 僕の最後の日になった。 昼休み。 カラン、カランと旗上げのポールに紐が当たる音が響いている。 4時限の体育のサッカーで怪我をした数人の男子の傷の手当てをして、僕のここでのお勤めは終わりを迎えそうだった。 保健室の窓から見える空には雲ひとつない。 僕はインスタント珈琲をブルーのマグカップに入れる。 一年前に珠稀がプレゼントしてくれたマグカップだ。 ポットのお湯を注ぐと、保健室に香ばしい珈琲の香りが漂う。 「先生」 驚いて振り向くと、彼女が居た。 「ああ、びっくりした。昼休みに来るの珍しいね」 「先生は今日で最後でしょ?だから早めに会いに来たの。確実に会いたかったから」 「大袈裟だな」 と僕は笑って熱い珈琲を飲む。 彼女はいつもの定位置に座る。 窓際に腰をかけて、プリーツスカートからのびた長い両脚をブランブラン、とした。 そして、購買から買ってきたであろう焼きそばパンを噛る。 僕は下を向いて笑った。 「なに?」 「いや。せっかくの珈琲の匂いが全部持って行かれたな、って」 「焼きそばパンに?」 「そう」 彼女も笑った。 「消毒液臭いよりはいいでしょ?」 「確かに」 グラウンドから柔らかな風が吹いてきた。 窓際の彼女の髪が指にまとわりついて、焼きそばパンが食べにくそうだった。 ケホッケホッッ。 彼女は焼きそばパンを喉に詰まらせたらしく、酷く咳き込んだ。 「飲み物は?買わなかったの?」 彼女は涙目で頷くと、胸を自分の手でトントンしながら、言った。 「だって、先生の紅茶飲みたくて」 「まったく。仕方ないなぁ」 と、僕は彼女に最後の紅茶を入れた。 思えば、女性に紅茶を入れたのは珠稀と彼女の2人だけだ。 2人は不思議なほど、雰囲気もよく似ていた。 「似合ってるね」 と、彼女は優しく微笑んで視線を僕の指先へ移した。 「ああ、これ」 僕はマグカップを持った自分の指を見た。 「昨日、買ったんだ」 結婚指輪だった。 挙式までの間、離れているのが不安だからと珠稀からの提案でお互いの薬指にはめた。 僕の指は節が太くて根元が細いから、銀色の輪っかは不恰好にもくるくる回る。 「一緒に住んだら太るかな」と僕が呟くと「奧さん、お料理上手なの?」と彼女が興味ありげに聞いた。 「ああ。うまいよ。何作っても」と自慢したら「はいはい。ご馳走様ですぅ」と彼女は笑って続けて語った。 「ありがとうと、ごめんなさいと、美味しかったって言葉、ちゃんと言わなくちゃダメだよ先生」 と、彼女は年上の女性みたいに諭した。 「なんだよ、急に」 「男はね。一緒に居るだけで安心して、大事な気持ちを言葉にするのを忘れちゃうから。女はね、いつもいつでも優しい言葉を待ってるんだからね?」 なんだかドキッとした。 僕は最近、珠稀に気持ちを言葉にできているだろうか? 「人と人はね。限られた時間があるから幸せなの。永遠じゃないの。だから、幸せな一瞬一瞬をちゃんと言葉にして伝えてあげて。きっと、ただそれだけで奧さんは幸せだと思うからさ」 「そういうものかな?」 「そういうものだよ」 彼女はそう言って、両脚を揃えて窓からトンッと床に降りた。 キーンコーンカーンコーン。 「やば。5時限遅れちゃう!」 彼女は慌てて僕の前を通り過ぎてから 「ごめんね、先生。これ洗っといて」 と、紅茶が少し残ったカップを僕に渡した。 「あ、うん」 とカップを受け取る。 「先生」 見ると、彼女の満面の笑みがそこにあった。 「末永く、お・し・あ・わ・せ・に!」 その、あまりの可愛さに面食らっていると、彼女がキャハハっと笑いながら走って行った。 弾むような足取りで。 誰も居ない長い廊下を彼女の靴音だけが心地よく響いていた。 彼女と会ったのは、その日が最後だった。     ・・・ 「雅晴さん!珠稀さん!おめでとう!」 「ご結婚おめでとうございます!」 「おめでとうっ!!」 森の中の湖のほとりにあるロイヤルウェディングガーデン。 木々に囲まれた白いチャペルが珠稀のお気に入りだ。 真っ白なウェディングドレスに身を包み、履き慣れない高いヒールを気にしながら、珠稀は僕の腕に手をまわして、ゆっくりと階段を降りてくる。 気心の知れた人たちの笑い声。色とりどりのフラワーシャワー。森からは小鳥のさえずり。湖畔には光のガーデン。大好きな人の笑顔。 僕は幸せだった。 ビュッフェスタイルの飲み物やオードブル。ピアノもあるから音楽も楽しめる。友人たちも楽しそうに笑っている。 人々の合間をぬって、お互いの両親が居る席に挨拶に行った。 珠稀の母親と僕の母親がハンカチで目を押さえて笑い合っていて、それを見た珠稀も涙ぐんで僕に微笑む。 「いやぁ、良い式だったよ、雅晴くん」 珠稀の父親も感極まっている。 「本日は、ありがとうございます」 と、頭を下げた僕の視線にふと、入ってきたのは・・・あれは・・・・。 僕は固まった。 なぜ、、ここに彼女が!? 「雅晴さん・・・・!?」 珠稀が、うつむいた僕の腕に優しく触れた。 僕の両目から溢れ出した涙が、とめどなく流れては落ちる。 僕は、両親の席に立て掛けられた写真立ての中で微笑む、屈託のない笑顔から目が離せないでいた。 「この子は・・・・?」 やっと出た僕の言葉に珠稀が言った。 「雅晴さんは初めてだったわね・・・妹の水樹よ。水樹、こちらがあなたのお兄さんになった人よ。雅晴さん」 珠稀の腕の中に微笑む写真は遺影だった。 それは一年前に亡くなった珠稀の妹で、そして、僕が居た保健室で毎日のように会っていた生徒であった。 涙を拭き、僕はその見慣れた笑顔に挨拶をした。 「初めまして、水樹さん・・・でも、初めてって感じはしないな・・・」 彼女は、自分の大切な姉の結婚相手がいったいどんな奴なのか、一目見ておきたくて僕に会いに来てくれていたのだろうか? 熱くなる目頭を堪えながら、僕は訳の分からない温かい想いで胸がいっぱいになった。 湖畔が夕焼けで真っ赤に染まる。 彼女が振り向いて「先生、びっくりしたでしょ?」と、微笑んでいる気がした。                                        了 はじめまして。涼風。(りょうか)と申します。 今作の 茜色の保健室 が初投稿となります。 趣味で長編小説を書いているのですが、たまには短いのも書きたい!って事で生み出した作品達を投稿していきます。 不定期の投稿となると思いますが、どうぞお付き合い下さい。 最後に。 お読み下さり、ありがとうございました。 25.3.6 涼風。

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