涼風。

26 件の小説
Profile picture

涼風。

閲覧ありがとうございます。秋 涼風。と申します しゅう りょうかと読みます。 自己紹介は連載→わたしという人→📄からどうぞ

眠り姫

僕の愛した人 君は眠ったまま 僕が君に落とすキスひとつ。 そのたった一つでお姫様のように、目を開けてくれるのなら 今すぐにでも眠りを覚ましてやりたい けど分かってるよ。 だってもう七年もそれを続けてるからさ。 美しいに降ると書いて美降(みふる) 僕の大好きな最愛の人。 僕に「好き」という感情をくれた人。 彼女は誕生日を迎える前日、五月二十三日。 事故により十七歳で眠り姫となった。 彼女は七年前の高校二年生の頃のまだ髭も生えていない若い僕の顔しか知らない。 今日も変わらず、僕の目を見ることも地面や空を見ることもなく、白杖を持った彼女が隣にいる。 『信号無視をした車の事故に横断歩道を歩く彼女が巻き込まれた』 当時、その場に僕もいたのだが、咄嗟に彼女を突き飛ばし、僕は転がってきた車の下敷きになり全治三ヶ月の骨折をした。 幸い彼女の身体は数箇所の擦り傷と打撲だけで済んだそうだ。 だが、破損したフロントガラスが目に突き刺さり、失明した。 でも、僕が突き飛ばした勢いのせいで、彼女は永遠に世界を知ることの出来ない眠り姫となってしまった。 ☆☆☆ 僕はついこの間、誕生日を迎え二十四歳になった。 誕生日プレゼントは、僕が大好きないちごのドーナツと赤い花。 美降も僕と同じドーナツが好き。 だけど、味はチョコレートが一番好きみたい。 僕の誕生日もチョコ味のドーナツを隣で幸せそうに食べていた。 それと、夏と青い空、あと海がきっと好き。 ♦︎日暮れ時、美術室♦︎ 時計の音 彼女が作業している音 そして僕の五月蝿い鼓動音 微かに聞こえる海の波の音。 僕は美降先輩が絵を描いている美しい横顔を眺める。 一目惚れした一個上の先輩をもっと見たくて、もっと近くで感じたくて。 たったそれだけの理由で美術部の部員になった。 彼女は暫く自分の描いた絵と睨めっこし、固まったと思えばせっせと片付けを始める。僕はすかさずお手伝いの声掛けをするべく、椅子を立つ。 美降はとても綺麗で繊細で、美しい風景画を創りだす人だった。 センパイ 影 と手を繋いで、彼女を家まで送る。 明日、十七歳の美降の誕生日には「美降先輩、十七歳のお誕生日おめでとうございます」お祝いの言葉からはじめて、見たいと零していた有名な天才画家の絵画展に一緒に行って、そして帰りには鈴蘭を渡す、そんな誕生日計画だった。 それなのに…… 「誰より君のこと大切だ」ってそう言えるかな 君の眠った顔 見ているとそんなこと思ってしまうんだ 明日起きたら何しようか 君が失ったもの全てを 僕の歌で思い出してほしい いつか 君の目が覚めたときはきっと この空を二人眺めそっと 当たり前の話をしよう 夜が明けるまで 「君より音楽が大切だ」ってそう言えるかな。 そんなこと思ってしまうんだ。 僕は元々軽音部、アコギ兼ボーカルとして活動していた。 美術部はあとからかけもちで入部した。 美降の誕生日の一週間後には一個上の代の先輩たちが引退する最後のLIVEがあった。 でも、僕は彼女が気がかりで、LIVEに集中出来なくて歌詞を間違えたり、コードを間違えたりとミスを数々重ねた。 そして、聴いていた美降に言われてしまった。 「私と音楽どっちが大事なの?」と。 いつか君が本当に目を覚ましたら この景色を見せてあげたいな そうして当たり前の話をたくさんしよう 二人の好きな食べ物の話とか たくさん 明日起きたら何しようか 君が失ったもの、全てを僕の歌で思い出して欲しい いつか君が目が覚めときはきっと この空を二人眺めそっと 当たり前の話をしよう そんな歌を一人、夕焼け空を眺め、思うままに弾き語りをする。 これを完成させて、先輩にあげたい。 僕が見つけた、この美しい青の空に出会うまでの話しも持っていくから。 眠る前、毎日必ずすること。 眠り姫の瞼に触れ、キスを落とす。 僕のキス一つ。 毎日願掛けをしたのなら、いつか目が覚めないかと思ってやっていた。 でも今は、愛情表現としてキスをしている。 あの頃の質問に答えるよ、君は僕の最愛の人。僕が愛した人。 君の居ない生活なんてきっと耐えられない。 僕は君がいないと生きていけないんだ。 美降、愛してるよ。 「なによ。いきなりはずるいよ笑、、知ってる!」 相変わらず、僕が好きと言うと君は知ってると答える。 僕はそれがとても嬉しいってこと。 愛する人に自分の愛が伝わってるってとても幸せだ。 眠り姫[完] 参考楽曲:「眠り姫」Guiano イラスト:みふる サムネイルに引用させて頂きました。 後書 バナナジュース職人様の「ボカロ二次創作!!!」に参加させて頂きました!楽しかったです 最後まで閲覧ありがとうございました。 どこかでまたお会いできたら嬉しいです。 それでは。 25.8.20 涼風。

1
0
眠り姫

外伝2 空雲👤

「土に還りたい」 そう考えた。 グチャグチャの感情に任せ、訳の分からないままグルグルと思考を巡らせる。その度にジワ、ジワ、と溢れ出してくる生温いものは私では制御出来ないようだ。制御しようとすると情けない声を出してしまいそうになる。温もりを受け止めていた畳まれた白い紙はやがて冷たくなった。考え込んでから時間はそこまで経っていない。体感では朝日が出ているのではないか、と思う程長く感じたのだが。長そうで短いその時間、吸い続けたそれはもう紙かどうかも分からない。頬を付けたまま動かすことすら出来ないが故に、随分と前に諦めがついている。発作が出ないよう、グッとただひたすらに耐える。それはまるで金縛りのように何処も動かせず、ただピクリともせずただ横になっている。ドクドクと、止まる気配すら感じ無い液体に、最早新しい紙になど取り替える必要も無いと悟ったのはもう数十分も前のことだ。 今日が昨日に、明日が今日に変わった、その日。 やっと思うように動かせるようになったその重たい体を、いつものようにベットからベランダへと動かす。午前の時とは全くの違う。その情けない弱弱しい姿はまるで別人のようだ。思いっきり、とまではいかないものの、ベットの横で啜り泣くよりかはいくらかマシに流せる。 外に出ると私の世界は限りなく広がる。 四季は移り変わる。 春は凍て溶け、春色が広がる。 夏は緑陰と碧々しさが広がる。 秋は金穂の群れと山粧うが広がる。 冬は白銀の絨毯が広がる。 そして、花々は目覚める。 シクラメンが挨拶したな。 梅がこぼれたな。 椿が落ちたな。 桜が散ったな。 躑躅が舞うな。 紫陽花が枯れたな。 朝顔が寝たな。 向日葵が俯いたな。 葉が照れ始めたな。 金木犀が吹いたな。 木の実が自立したな。 ポインセチアが染まったな。 12ヶ月を思い出せるんだ。私はひとりじゃない! 空を見上げると雲が一部分だけない。私はそれを見てまるで「心の穴」のようだと思った。考えるより先にカメラを構え、気付けば撮った後だった。フラッシュが眩しかった。 しばらく外の空気を吸って呼吸を、頭を、体を、落ち着かせた後、再び元の場所に戻り部屋を真っ暗にして横になる。目を閉じ、大切な布団に濡れないよう、今度は吸水性のよい綺麗に、いや。不格好に畳まれた白い紙を目に押し付けて脳裏にこびり付いた××××の温もりを浮かべ、自分の腕を使い温もりを感じる。 パチ... 目をあけると窓から日がこぼれている。朝だ。朝になった。 いつの間にか寝ていたようだ。 こういう日に限って目覚めが良いのは何故なのだろうか。 夜になると感情がグルグルとして頭では追いつくことすら出来ない。弱くて泣き虫で。温もりを感じながらじゃないとこわくて眠れない、それは「わたしであり、私ではない」のだ。 ——そうだ。 ——きっと 後書 夜の住人様の「自分を語る」に参加させて頂きました! 作者の涼風。(りょうか)です この作品は『わたし』にて連載されてますので、気になった方はぜひ。 最後までお読み頂きありがとうございました。 またどこかで出会えるのを願って。 25.8.20 涼風。

3
1
外伝2  空雲👤

天才画家は「オレンジジュース」であると語る

突然に話が変わるのですが、あなた達に聞きたいことがあります。 『もしも、僕が二人いたら 同じことは言えますか?』 『僕が彼らのように我慢できるように見えますか?』 全校集会の時に親はみんなの前で話してました。 『人類は皆平等』という内容の貴方の妄想話を。 「先生、それは本当ですか?」 「〇〇と〇は別ですか?」 「わかります」 『わかるだけですか笑』 「お前のこと嫌いだ! と思ってるのはお前だけじゃねぇ!」 「口に出さないだけ褒めてください」 自分でも分かるくらいしつこいですし、そしてびっくりするくらい負けず嫌いですね。 僕は家族愛を知りません。 温かい食事も知りません。 人に頼るのが苦手で、男だけど絵が好きです。 とか欠点がいくつもあります。 僕の長所は、日常にある色、例えば僕の学校にあった黒板の色は#2C6B6Aです。とまぁこんな感じでぴったしなカラーコードが分かることが僕の長所です。 はい、学校生活では役に立たない長所です笑 なので、60点目指して頑張ってました 『なんてね!笑笑』 家に帰って靴を脱ぐのにしゃがんだ時、絵の具の匂いがした。 玄関前には僕の作業場に置いてあったはずのキャンパスや絵の具、筆などがビニール袋に詰め込まれていた。 あぁ、またか 僕は普段学校では思いつかないほど、リビングにいる奴に大きな声で言い放った。 かぁさん!!!!俺の好きな物勝手に動かすなと何回も言ってるだろ!!!!!これは私が稼いだお金よ!私が何しようと貴方に拒否権はないわっ!ってこの前言ってたからお前の金で買った画材は全て捨てただろ! だから自分で稼いだ!!バイト先で稼いだ得た僕の金だ! それが稼ぎ主の俺がどう使おうと俺の勝手だろ?! 捨てんじゃねーーよ!!!! 「好き勝手言いやがって! 無駄なんて言わなくていいじゃないか!」 ひとつの音をただひたすらに奏でた。 白いキャンパスに様々な色を載せ、様々な音色を響かせた。 その音を作ることで忘れ、さらに没頭した。 僕を救うのは、美術室でしか嗅がないような絵の具の独特な匂いと、絵の具を絞る音。そして、その絵の具をキャンパスに載せて広げる音。 それは両親の嫌いな匂い。嫌いにさせた匂い。 僕のすること全てが嫌いな奴の考える「絵なんてどうせ金になどならん」と否定した進路相談教師の僕の親の一番嫌な事。 なんて皮肉なのだろう。 「あのさ、進路の事なんだけど。絵を描くのが好きなんだ。 だから美大に行って絵のことをもっと学んで画家になるよ。」 返事が 聴こえない。 僕の声があいつの耳に届かなくなった。 そう悟った途端に足元の灰色の床が崩れた。 瞬く間に落下する。 身動きが取れない。 落ちていく浮遊感すら感じる。 深く深くどこまでも頭からゆっくりと。 そう錯覚する程、それは早く底の見えない場所へ沈んでいく。 僕は酷く絶望した。 それならば。 絵を美しく描くコツ18選という動画を見ながら勉強をする。 僕が美術部に入部したきっかけは、そして絵を描き絵に没頭した最初の理由は、「なんとなく」というたったそれだけでした。 こんなに頑張ってるのに、みんな僕を笑いました。 被害妄想止まりませんでしたよ。 『〇〇ちゃん進路のことだけど、明日にでもどうかな?』 その生徒のことは気にかけるんだ。 あんなに小さい音だったのに、聞こえるんだ。 その音は聞こえたんだ。 その小さな音は聴こえるのに、僕の話しかける声には気が付かない。 あぁ、違うか。 「気がついているけど、なにも聴こえない振りをしているのか」 画面の君と同じ。ヒーローポーズ。 まぁ僕はヒーローなんかではないけれど。 あぁ センスがない! あぁ センスがない! センスもないし、ピースも足りない。 だって最近の若い子は突然ピースを壊すらしいから。 一生見つからない自分の一ピースを探してました。 結果、僕は両親の思いなど気にも止めず、受験をし現役で美大生になりました。 僕の色はオレンジです。 オレンジジュースみたいなパキッとしたオレンジ色をしていると思います。 理由はなんとなくです。 22歳という若さで難関美大学を卒業した彼。 見たことの無い独特なタッチと視覚を利用して描いてます。 どれも絶望を想像して描いていると語る。 様々な人を魅了する天才青年の画家は、インタビューで好きな色などはありますかと聞かれると自分自身の色を答えたそうだ。 そして、続けて言った。 『僕には生きるセンスがないですから、この色に随分救われました。だから好きな色というより、僕自身の染まった色です』と。 そのインタビューを元に作られた記事は大ヒットをし、その青年は「オレンジジュースの天才画家」と呼ばれ、絵画界において大きな影響をもたらした人となる。 [完] 参考楽曲 僕には生きるセンスがない Music By 青谷(aoya_aotani) 二次創作 後書 モノポリー様の「ボカロに短編」に参加させて頂きました! 一つのボカロ曲をお題に、創作するのはやってみたかった事だったので、とても楽しかったです 最後までお読み頂きありがとうございました

2
0
天才画家は「オレンジジュース」であると語る

気がつけば、半月-母-🌗🌓

その日は満月の日。夜中の出来事。 二人の天使がこの世に誕生した。女性は晴れて二児の母となった。 赤子の声が消毒液の香りのする白い部屋に響いている。 白い衣を纏った人達は、無事に産まれたことへの安堵で関係者が皆ほっとした表情をしている。 緊迫した雰囲気から一変し、優しい空気に包まれた。 病室の窓から仄かに金木犀の香る涼しい秋風を感じる。 その病室は東棟にあった。ベットから見上げた窓から見える空には雲がかかっていて、一部分光って見えた。 それが「ムーンライト」月光だと理解するのに時間はかからなかった。 暫くボーッと月光を見てみたら光が強くなった。雲からお月様が半分顔を出した。まるでひょっこりと私を見ているみたい。 そして、雲が流れ、反対のお顔も私を見た。 この時初めて今日が満月だったことに気がついた。 てっきり半月だと思っていた。 満月は気がつけば、半月になっていた。 あぁ、この子は私にとって満月だ。 私の腹の中でひっそりと私を見ていた。 そして今も二人の愛おしい天使はお月様と同じように私を見ている。 産後間もないせいか、その月明かりがキラキラと輝いているように見えて、眩しかったせいか、少し涙ぐんでしまった。 酷く明るく、美しい月夜だったのを今も鮮明に覚えている。 最初に産まれた姉に光月(みづき)と。 その後に産まれた同い年の弟には陽月(ひづき)と名付けた。 それから何年もかけて、私たち家族は喜怒哀楽を分かり合い、歩み寄ったり、喧嘩したり、時には離れたり、そして仲直りをしてを繰り返して私たちだけの家族の形になった。 光月が生まれた瞬間に、幸せと思ったんだよってこと、 陽月が生まれた瞬間に、会えて嬉しかったんだよってこと。 何年経っても変わらぬ事実だ。 あなた達に会えて、こうして高校生まですくすくと育ってくれた事、とても感謝している。 「菜美(なみ)、おまえが生まれた日はな、家のベランダの菜の花が満開に咲いた日だったんだ。毎年咲いてたんだが、その年の菜の花が一番美しかった。父さんと母さんはな、おまえに会えるのを楽しみにしとった。おまえの声を病室の外で聞いた時、俺はすごく幸せと思ったんだ。俺を父親にしてくれてありがとな、菜美」 私の父、じぃじの言葉は、いろんなことがあったけど、この言葉に随分と救われてきた。 心が離れそうになる時に、それでも自分は愛されて生まれてきたんだと、何度も思いだして、その度に勇気が湧くような気がして、勝手に御守りのように思って大事に心にしまっていた。 やっぱり言葉って大事ね。 いつか、光月と陽月が辛くなった時に、思い出せる言葉を伝えるのは、私の使命だと思うのだ。 あなたが生まれた日は、雲から光がキラキラと降る綺麗な満月の日だったんだよ、と。 そして、みんなあなたに会えてすごくすごく嬉しかったんだよ、と。 彼女たちがこの言葉に救われる日がくるのだろうか? 今夜も学校まで子供たちをお迎えに車を出す、はずだったのだけど、お父さんに最近いつも止められてしまうのでここ1週間ほどお迎えに行けていない。 普段なら私のことを待っててくれているはずなのに。 お父さんにはこんなこと口が裂けても言えないけれど、いつか娘や息子に子供が産まれたら話してあげようかしらね。 今日は何をしたの? なにを学んだの? 学食はなに選んで食べたの? お友達とどんなお話をして盛り上がった? 今日一日、楽しかった? そんな言葉が溢れる日常が、これからも続きますようにと願いながらお家に帰る。 あなた達姉弟が産まれた日の事を話すのが、楽しみでいる母。 もうすぐ、三児の母になる妊婦さんのお話。 気がつけば半月-母- [完] 後書 あいびぃ様の「芸術は爆発だ!」に参加させて頂きました 素敵なお題をありがとうございました! 実は私の連載作品、「桜の下で君を沫。」に出てくるキャラクターの番外的なやつです。 彼らはすでに作中に出ています。 最後までお読み頂きありがとうございました! では、またどこかで。 25.8.5

4
1

外伝1日常👤

私の朝は六時半すぎにやってくる。お母さんが何度も私の名前を呼ぶが返事もせずそのままいつも二度寝している。七時を過ぎてからやっと重たい身体を動かす。ボッーとした頭で制服に腕を通す。黒く長い髪の毛を梳かさずに黒いゴムで結いて、欠伸をしながら家族のいる一階へと降りる。 すでに用意されているほんのりと温かい朝ごはんを食べ、十分程携帯で漫画を読んでいると、アラームが鳴った。 小学生の妹が家を出る時間だ。 少女はランドセル背負って玄関へ向かった。 私は妹が家を出てから少し経ってから家を出る。 『いってきます。』 そう言って渋々玄関を出る。そして学校へと足を運ぶ。 二十五分程、外の匂いを嗅ぎながら歩いて向かう。 校舎に入ると、下駄箱に靴を置いて、上履きに履き替える。眠たい目とぼーっとした頭でクラスのある階まで階段を登り、教室に入ると先に登校しているクラスメイトに「おはよー」とそう挨拶をする。 中身のない話をしながら、やっと暖かくなってきた制服を脱ぐ。まだ寒いな、なんて考えながら中に着ている体操服になって。友人とどうでもいい話をして、チャイムが鳴ると同時に掃除を始めて。一時間目のチャイムが鳴り、そのまま六時間目まで授業を受ける。クラス内で帰りの会をして、部活に入っているのにも関わらず、そのまま家に帰る。 私の日常とはこの繰り返しである。

2
0

普段👤

毎日ずっと同じ繰り返しだった。 それはとてもつまらないなと思った。 「だから、普段しないことをしてみた。」 まぁ、これは『どうして掃除をするのか』と聞かれた時の返答なんだが。ウソは付いてない。 実際は一人でいたいとか、 家に帰りたくないとか、 なにも考えたくないとか、 そんなどうでもいい理由で始めたものだった。 なんならこんなものは後から付け加えた理由で、 なくとなくただやりたくなったからはじめてみただけだったりする。  放課後、廊下や教室、全校舎を掃除してみた。 想像以上に汚かった。ホコリがやばい量取れると気持ち良くて。 達成感を感じた。 掃除をする度に自分の心までも綺麗にされるような感覚があった。 掃除して綺麗になった姿を見ると嬉しくて。 案外楽しかった。 いつしか、先生たちによりも早く元気よく挨拶をするようになった。先生も普通に挨拶するよりも返ってくる返事も明るかった気がする。先生方に「お疲れ様〜」「今日もありがとー」なんて褒められたりもした。 ——嬉しかった。 でも何か違う気がした。 私は偽っているはずだったのに、心のどこかで楽しみにしていた。 そんな矛盾なんて忘れよう。 私はまた同じような五日間を繰り返す。 始めは掃除をする日は一週間に一回だった。 一緒に帰っている、部活が同じで小学生の時からの友人が寂しい思いをするかもしれないと思っていたから。 (ちゃんと優しい私を演じていたの、、かな?) 初めて掃除をしてから数週間が経った。 席替えで隣になったクラスメイトの沈黙な時間が気まずくて、放課後に掃除をしていることを話題に出してしまった。その話を聴いた少年は「一緒にやりたい!」と言った。話してしまった故に断るだなんて出来るわけなかった。私がうっかりしていた為に、唯一の拠り所が侵害されることとなった。  その少年とはこの時、初めて会話をしたが、彼のことは目立っていた為によく観察していた。勉強よりもゲームが好きで、勉強は出来ないけど周りに受け入れられていて、男女どちらも仲の良い男の子。まぁ、言い方を変えれば、女たらしでアホとも言えるだろうか。彼には一つ羨ましいことがある。それは「周りに自分を受け入れてくれる人が傍にいる」ことだ。私も本当のわたしを出せていたのなら、受け入れて貰えたのだろうか?なんて答えの出ない問いを自分に語りかける。今思えばこの時すでにヒビがあっていたのかもしれない。  ジメジメと蒸し暑く感じ始めたある日の放課後、いつも通り二人で掃除をした後に一緒に話をしながら帰っていたら、家までついて行ってしまった、ということもある。その数日後には彼と私と彼女の三人で帰ったこともある。今、思い返してみるとすごく幸せだったと思う。

1
0

救済👤

私はずっと隠していた。つもりだった。 もう疲れたよ。 どうせ三年経てばそれぞれ違う道に進む。 高校に行くなり、就職するなり、色々と道がある。 小学生の卒業式の時、『中学になってもずっと友達だよ。また遊ぼうね。』と言ったあの子は中学に入ってから、一度も連絡が来たことがない。 どうせこうなるんだと。 だから偽っていたのに。 だから突き放したのに、 だから、壁をつくったのに、 私はあきらめたのに。 私は確かに、絶望したのだ。 それなのに会いたくなるなんて。 希望を探しはじめるなんて。 どこかで偽りの自分もわたしも、私も、肯定して欲しいだなんて。 苦しくて悲しくて辛くて面白くてたまらない。 何も考えたくないから本を読んだ。 何度も何度もセリフを覚えるまで読んだ。 眠れないから音楽を聞いた。 歌詞を覚えるまで、何回も聞いた。 誰の声を聴いていないと眠れなくなった。 曲を聴き、本を読み、理由をつけて涙を零す。 過去に後悔し、呪いとなり、私を縛り付ける。 「簡単に過去ばかり呪う」 そう誰かが言った。 「多々相入れぬ心がひしめく、それが人間」 そう誰かが語る。 「個性はなくとも働け」って その結果手元に残ったのは 時間を殺したお給料だった。 そう誰かが歌っていた。 「根腐れした生活との心中を夢見て止まない」 そんな歌を書く。 「それでも 誰かに見つけて欲しくて 夜空見上げて叫んでいる」 私は一緒に口ずさむ。 「駆け巡る時代の中で 君が生く時限に向かえ」 そう誰かが私の背中押す。 「なんかあったら聴きに来てよ 歌うよ 何度だって」 画面の向こうで叫んでいる。 「ただ、間違いを 間違いじゃないと言いたかった。」 代わりに誰かが言ってくれた。 「まじめなはずのに全然幸せそうじゃないな」 誰かが私を勧誘している。 「あったかくして ゆっくりおやすみ」 誰かが私の隣に居て歌ってくれる。 拝啓、何者にもなれなかった僕へ。 人生にタイトルを付けるならきっとこれだ。 言葉に、歌に、文字に救われた。 確かに救われたのだ。 これだけは事実なのだ。 救済[完] 後書 この話では作品の一部分、一行引用させて頂きました。 この場を借りて引用元を書かさせて頂きます。 命に嫌われている『カンザキイオリ』 クイーンズ・クオリティ『 最‎富キョウスケ』 大っ嫌いだ『雨河雪』 生きるってなんだよ。『葵木ゴウ/午後ティー』 ミカヅキ『酸欠少女さユり』 39『sasakure.UK × DECO*27』 死に方『Usagi 3』 時空奔走Flyer『Seeka .』 人生くたばろうキャンペーン『真島ゆろ』 オフトゥン『傘村トータ』 拝啓、何者にもなれなかった僕へ。『ぽりふぉ』 以上 最後までお読み頂きありがとうございました。

1
0

変容👤

笑顔を振り撒き、周りに優しいイメージを持たれている。 その仮面を取った時、私はどんなカオをしているのだろうか。 —私は周りとは違う。 始めは幼少期。幼稚園児だった頃。 植物の名前を答えたとき、先生に褒められたのがきっかけだった。 やがて近くにいたこん虫と鳥にも手をつけた。名前が分からなかったら、特ちょうを覚えて、家に帰ってから調べて覚える、それが私にとって当たり前だった。 「でも、その当たり前を周りはしないことを知った。」 「女の子なのに」 「女の子らしく」 「貴女は女の子」 そんな言葉たちが頭で木霊する。 好きなことを全力で語ることはいけないことなのか。 好きなモノに触れたいと思うのはいけないことなのか。 好きなヒトの傍に居たいと思うように、 好きなモノの傍に居たいと思うことはいけないことなのか。 そこまで否定する意味が分からず、 沢山の言葉の数々に傷ついた私は、 それから偽り、隠し遠ざけることにした。 『わたし』が泣いていたから。  まず最初に、植物に語りかけることを諦めた。 独り言にしか思えなくて気持ち悪いと言われたから。 私はちゃんと、目の前にいる踏まれても尚、花を咲かせようとする植物に話しているのに。 皆はそれを変だと言う。 だから目の前で語りかけることを辞めた。  次は、昆虫を触るのを諦めた。 周りが私を酷く気持ち悪がったから。 代わりに今の流行りを教えて貰っていた。 聴くだけならどうにでもなったから。 でも、私はそんなものどうでもよかった。 本心は帰って朝、分からなかった植物の名前を知りたいって思っている。 でも、口に出さない。出してはならない。 傷つかないように、わたしを守るために隠すと決めたのだから。  その次は、昆虫の名前を出さないように努力した。 『その害虫の名前を出さないで、聞くだけで気持ち悪くなるから。』と、当時友達だった人に言われた。 私の親友を。私のやり方を。私のこれまでを。 自身の存在丸ごと全て否定されたような気持ちになった。 同時にそいつを殴りたくなる衝動に狩られた。 こんな奴と私は同じだということが、それが酷く気持ち悪くて怒る気力も湧かなかった。 「ごめんね。」 「次から気をつけるね。」 でも本当は「害虫はお前らの方だ!」と言いたくなる。 でもそう思っていることを知られてはならない。 知られてしまったら、あの時のように私の全てを否定されてしまう。 でも、一つだけ言えることがあった。 昆虫たちに…いや、自然界で生きている彼らにとって、人間は自然の摂理から逃げた大きな敵でしかないという事。 勿論、私も含まれている事。 それにわたしが苦しんでいることに気づいていないフリをしている事。 それから嘘の、取り繕った私に出来た、くS、、共に過ごした人たちと一緒に小学校を卒業した。 学校が変わると一緒に過ごした子は私が住んでいる学区と違かった為に別れてしまった。 偽りで出来たはずだったのに、離れられて一人になれて嬉しいと思わなければいけなかったのに、家に帰ってから何日間か涙が枯れる事はなかった。 過呼吸を起こしかける日もあったし、寝れない日もあった。 それでも頑張って隠してきた。 頭痛も。 吐気も。 胃痛も。 腹痛も。 泣き腫らしたその赤い目も。 怖くて、眠れないのも。 でも何が恐いのか分からないことも。 睡眠が取れないせいで隈が出来た事も。 心のどこかで殺したいと思っていることも。 頭の隅で死んでしまいたいと思っていることも。 、、、自分自身の事も この頭の隅で私に語り掛けてくる人も。 ーわたしを否定したのは すべて誤魔化してきた。 隠してきた。 避けてきた。 逃げてきた。  中学に上がる頃には、ちゃんと普通の人として過ごしていた、はず、、 周りに気を使って、ボロが出ないように。 すらっと平気な顔で事実と混ぜながら沢山の嘘を重ねる。 事実を混ぜた嘘の方が吐きやすいことに気がついた。 教室の隅にいる子に話しかけて、何人か友達と呼べるような子をつくって、一年間ずっと傍で過ごす。 我ながら上手くやっていたと思う。

2
0

🌸再び幸せが訪れる(2)

※この話は「再び幸せが訪れる(1)」の続きとなります。 まだ(1)を読んでいない方は 『連載→桜の下で君を沫。→再び幸せが訪れる(1)』 で読むことができます!よければそちらから読んで頂くと👌 次のページから本編です ねぇ、もう四年目になるんだって。 ナっちゃん私いつまで待てばいい? レナがずっと憧れていた高校生、もう終わっちゃうよ 私の制服姿もう見られなくなっちゃうんだから起きてよ、、 そう言いながらレナに額をコツンとぶつけるような形で下を向く。 横髪が彼女の顔を隠した。 「桜見に行こぉょ」 そう投げかけた言葉は、少女にしか聞こえない程小さな声だった。 またしても返答はなく、ただ機械音だけが病室に響いている。 もう一度さっちゃんって呼んでよ。ナっちゃん 望みの低い、ほぼ叶わぬ願いなのはとうの昔に理解している。 頭では分かってるのに。 それでも、妹のルナちゃんの声が脳裏にこびりついて離れない。 どうしても忘れられない。 あの頃のように無邪気に私の名を、さっちゃんと呼んで笑って欲しい。 『もう一人で見るのは飽きたよ。また一緒に桜を見に行こうよ』 これは私と、私の大切な幼馴染の忘れることの出来ない過去の出来事だ。 再び幸せが訪れる[完] 最後までお読み頂きありがとうございました。

2
0

[募集作品]拝啓、親愛なるあなたへ。

—彼 拝啓、親愛なる貴方へ。 僕は人生で初めて告白をした人と今、お付き合いをしています。 出会った当初は僕が大学三年生、君は一年生だった。 桜が散りつつある暖かい春日和で、 風が吹く日だったのを鮮明に覚えている。 新歓が終わった帰り道だった。 僕と君はそこで初めて出会った。 茜さす世界 零れ桜の舞 微笑む桜人 ―綺麗だ。 「あのっ!好きです!」 考えるより先に身体が動いていました。 でもあの時、行動して良かったと心の底から思います。 まぁ結果論に過ぎませんが。 彼女は寝る前に「昨日よりも幸せにするね」と言ってくれます。 僕は毎日本当に幸せです。 だから、僕の全てを持って君を幸せにします。 決意表明としてここに残します。 僕は貴方の事、誰よりも知っています。 生きてここまで歩いてくれて、本当にありがとう。 大丈夫だよ。 未来では、愛する人と怖いくらいに幸せな日々を過ごしてるから。 ずっとそばにいるよ。 僕より。 —彼女 桜の開花宣言が発表されてから一週間。 大学の新歓に心配な気持ちを抱えながら参加した。 桜が少しずつ散り始めた暖かい春日和。 花見日和な日だった。 新歓も終わり、日も傾き始め空は茜色に染っている。 あの!と声を掛けられた気がして、後ろを振り返るとそこにいたのは、一人の男の人。 彼を見た時、胸の鼓動を激しく感じているのは「好きです」そう聞こえたような気がしたからでは無い、違う理由だと強く確信していた。 「えと....新歓に出ていらした方、ですよね?私になにか?」 彼とお付き合いをはじめたのは、それから2年経った私の大学卒業日だった。 目に見える大きな愛を持って校門前にいたあなた。 赤いチューリップや赤いアネモネ、カスミソウにガーベラ、それと赤いバラ。 とても綺麗で、素敵で、見た事のない大きな花束。 それと花束とは別に手にしているマリーゴールド。 今まで貰った中で一番純粋な愛だった。 「卒業おめでとう。」 『ありがとう。』 彼は「僕が君に贈れる最大限の愛なんだけど、、受け取ってくれる?」そう言いながら花束を渡してくれた。 「「永遠に変わらぬ愛」」 二人は笑いあった。きっと照れ笑いだったと思う。 フワッとまだ少し冷たい風が私たちを包んだ。 地面に先に落ちていた桜が舞い上がった。 その瞬間は、眩しいくらいに暖かかった。 まるで出会ったあの頃みたい。 そう思っていたら彼が言った。 「ねぇ、今のみた?!まるで出会った頃みたいじゃなかった?!」 「えぇ、みてたわ」 キラキラと目を輝かして言ったあなた。 いい意味であの頃から変わっていない私の愛する人。 歩くことの出来ない私に君は綺麗だと言ったあなた。 幸せが口癖で、何かするたびに私に言う。 「僕、いますごく幸せだ」 彼は幸せにしてくれるからと言って、私にたくさんの愛と幸せの言葉をくれる。 だから、私も彼の言葉で幸せになったように、 彼にも私と同じように私の言葉で、幸せになって欲しい なんて言ったらどんな反応をするのかしら笑 私はきっと、この人と同じ墓に入ると思った。 完 航様の「青春物語」に参加させて頂きました! 最後までお読み頂きありがとうございました。 またどこかでお会いできたらとても嬉しいです。 では。 25.7.25 涼風。

5
2