是呈 霊長(ぜてい たまなが)🌟小説書きつつイラスト修業してます
6 件の小説6話 『優しいあーしと、王様からの使い』
「────っし! ここなら大丈夫っしょ!」 メーシャは人気の無い裏路地に逃げ込んで一息ついた。 『ここなら大丈夫だ、近くにヒトの気配はねえからな。バカ騒ぎしても良さそうだぜ。へっ、ダンスでもするか?』 「しないし! あ、それより、何か頭とか身体が動物みたいな人がいたり、耳尖ってる人がいたりしたけど、あれは獣人とかエルフってことだよね! めちゃカワイイんだけど!」 『そうだ、俺様の世界は気に入ったか?』 「今んとこ、めちゃイイ感じ!」 メーシャは嬉しそうに『えへへ』と笑う。 『そりゃあ、なによりだ。だけどよ、ホンニン達にカワイイだとか、身体的特徴についてあんま言うんじゃねえぞ。そのへん、今ナイーブだからな』 「はえ~。人権がどう、って感じ?」 『ま、そんなもんだ』 「りょ!」 メーシャが軽い感じの敬礼をする。 「チウ~」 「そだ。さっきさ、何かみんなの言ってる事わかんなかったけど、もしかして、“言語がちがう”の?」 メーシャが手をポンっと叩いてデウスに訊いた。 『そういや、そうだな。俺様としたことが、す~っかり忘れてたぜ。へへっ』 「おい!」 メーシャは鋭くツッコんだ。 『そう怒んなって。すぐに分かるように調整すっからよ』 デウスがそう言うと、メーシャの身体が少しの間淡く光った。 『ほい! これでこの世界の言葉、方言含めて全部理解できるようになったぜ!』 「あんがと」 『おう』 「あ、でもさ、そのうちあーし自身で分かるようにしないとね。デウスから離れちゃったり、うっかり忘れた時こまっちゃうからさ」 「まあ、そうだな。その方が俺様も助かるぜ』 「おけ。がんばる」 メーシャが肩の高さで拳をぐっと握る。 『そうだ。ちょいと俺様権限で、良い感じにお前が気に入りそうな“イベント”ってやつを用意しといたんだよ。だから、そろそろ大通りに向かおうぜ』 「え、どゆこと!? あ……。つかさ、さっきジロジロ見られたし、あーしが出ていって、不審者だー! って言われたりしない?」 メーシャは一瞬テンションが上がるも、冷静になって訝し気に訊いた。 『俺様を誰だと思ってやがる……! その辺りはこう、なんだ、ちょちょいのちょいだぜ!』 「説明下手か!」 『うっせ!』 ◇ ◇ ◇ 『────よし、この辺りで待ってたら大丈夫だ』 メーシャ達は、先程の大通りに戻ってきていた。 「ちょちょいのちょいでイベント用意できるとか、そんなすごい力持ってんなら、自分で世界を救った方がはやくない? それに、こんな文明? も進んでっし、あんなタコとか、それこそ“ちょちょいのちょい”っしょ」 「チュチュウ」 『あー、気付いちまったか』 バツが悪そうにデウスが言った。 「え、ちょっと待って。あーしを騙したの?! もう世界救うの止めちゃおうかな……」 メーシャが驚いて、わかりやすく肩を落とす。 『いや。そんなんじゃねえ! 信じてくれ! お願いだ、見捨てないでくれ!』 デウスは捨てられた子犬のように懇願する。 「必死か! あはっ、冗談だって。デウスって嘘つけなさそうだもんね。理由あんでしょ、何かイベント? が来るまで暇だし、良いよ、話してみ」 鋭いツッコミを入れつつも、メーシャは優しく訊いた。 『俺様は初め、やつらと“サシ”で戦ってたんだ……。この世界のやつらを巻き込まないためにな』 デウスはゆっくりと話し始めた。 「えらいじゃん。んで?」 『だがよ、隙を突かれてな、その、なんだ、言いにくいんだけどよ……』 デウスがもじもじしてなかなか話さない。 「もう、ハッキリしな! そんなだと、あーしも力を貸せないでしょ!」 周りの目も気にせず、メーシャがデウスを叱る。 『あ、ああ。そうだな。その、身体を奪われちまってな、今、形勢が最悪なんだよ』 「……」 メーシャは黙ってしまう。 『そんで、こんな状態にしちまった俺様がこの世界のやつらにあわせる顔もねえからよ、メーシャに頼んでんだ。ま、今は”顔”どころか身体がねえんだけどな! へへっ』 沈黙に耐えられなかったデウスが、ペラペラと冗談みたいに言う。 「はぁ~!?」 今まで黙っていたメーシャが、急に大きな声を出した。 『ご、ごめんんさい!!』 怒られると思ったデウスが慌てて謝る。 「そんな大事な事をこの世界のみんなに黙ってんの? ダメじゃん! つか、やられちゃったってのより、隠される方がムカつくんだかんね!」 メーシャは容赦なくデウスを怒る。 『はい、ごめんなさい……』 勢いに負けてしまったデウスがしおらしくなる。 「ごめんなさいする相手が違うでしょ! あ~、もう! あーしがあんたの身体取り戻してあげっから、その後ちゃんと皆にごめんなさいする事! いい?」 メーシャはまくしたてるように言う。 『え、ああ、うん……』 デウスはしょんぼりとした風に返事をする。 「ほら、落ち込まない! 大丈夫、あーしが一緒にごめんなさいしたげるから。ね!」 メーシャが優しい声で気遣った。もし今デウスに体があったら、きっと背中をポンポンとされているに違いない。 『ありがてえ……。こんな親切、味わった事ねえぜ!』 そんな優しい言葉に、デウスがおいおいと泣いた。 「ヂウ~」 話を聞いていたヒデヨシまで釣られて泣いてしまう。 「ふたりとも、大げさだって。まったく……」 メーシャは少し照れてしまって頬をかいた。 「あの~、一二三(いろは)メーシャ殿ですよね? 勇者の……」 その時、腰の低い感じの兵士が声をかけてきた。 「え? あー、はい。どちらさん?」 メーシャが振り返って首を傾げる。 「ああ、これは失礼しました。私は“アレッサンドリーテ”王の使いの、ダニエルであります。メーシャ殿をお連れするよう命じられてまいりました」 ダニーは姿勢を正して敬礼をする。だが、まだ日が浅いのか緊張しているのか、ぎこちなさが目に付いた。 『アレッサンドリーテはこの国の町の名前だ。国名でもあるがな』 デウスがさりげなく補足する。 「おけ。わかった。ダニーね、よろしく。別に緊張とかしなくても大丈夫だよ」 メーシャはさらっとデウスとダニーふたりに返事をする。そして、緊張しているダニーを気遣った。 「ああ、はい。お気遣いありがとうございます。では、こちらです」 ダニエルは緊張しながらも少し笑顔を見せ、メーシャを城まで案内し始めた。
4話 『いってきます、いってらっしゃい』
「そだ! ねえデウス、ちょっと家に帰りたいから待ってもらっていい?」 『あん? なんでだ』 「今から世界を救いに旅にでるわけっしょ? パパとママに行ってきますしないと、心配かけちゃうじゃん」 『確かにな。んじゃあ、先そっちのゲート開くぜ? だが、まあ、手早くな』 目の前に黒や紫が混じったような渦が現れる。 「お! これに入ったら、家帰れんの? めちゃ便利だし! てか、こんな事できんなら、家から通いで異世界に行けないの?」 『無理だ。いくら俺様といえど、別の世界を超えるのはなかなか骨なんだからな。マジで必要な時だけにしてくれ』 「ほ~い。じゃ、入るね」 『ああ』 メーシャがゲートに入る。 「え、マジじゃん! 家の前に着いてる。すご!」 ゲートを越えると、高層マンションのとある部屋の前。つまり、メーシャの住んでいる家の前に着いていた。 「チウ~……」 ヒデヨシが気弱に鳴いた。 「大丈夫だってヒデヨシ! また注射されそうになったら、あーしが止めてあげっから!」 「チュー」 ヒデヨシが期待を込めた目でメーシャを見る。 「任せときな!」 そう言って、メーシャは家のドアを開けた。 「ただーまー!」 「おかえりー」「遅かったじゃないか」 挨拶をすると、メーシャの両親が出迎えてくれた。 「ごめんごめん。ちょっと、釣りしてたの」 「ま、釣りならしかたないが、遅くなるなら連絡くらいしなさい」 パパが腕を組んで言う。 「つか、よく考えたら、パパがヒデヨシに注射しようとしたから飛び出たんじゃん!」 「パパ~。ヒデヨシはもうペットなんだから、実験に使わないって、約束したでしょ?」 ママが指を立てて、呆れたように言った。 「でも、この実験が成功してたら、ヒデヨシも“スーパー”な感じになるはずで、そうしたら皆喜ぶかなと……」 ママの援護射撃で、パパはしどろもどろになってしまう。 「その、“スーパー”っていうのがどんなのかは知らないけど、言い訳は聞きません」 ママがピシャリと言ってのけた。 「ごめんなさーい……」 「ったく、ヒデヨシは家族なんだよ? もう、実験したらダメだかんね!」 「はい」 パパはふたりに怒られてしょんぼりしてしまった。 「ヒデヨシ、もう大丈夫だよ」 メーシャが声を掛けると、ヒデヨシがブレザーのポケットから飛び出してメーシャの肩に登る。 「チウ!」 そして、少し怒ったようにメーシャパパに声を掛けた。 「ああ、ヒデヨシか。すまなかった。もう実験はしないから大丈夫だよ」 「チュ~」 ヒデヨシはパパが謝ったのを確認すると満足して、またポケットに戻った。 「ヒデヨシ、なんだか賢くなった?」 ママが疑問を口にした。 「やっぱ、 そんな気がするっしょ? だから、その内なんか芸でもやって貰おうと思って」 「それは良いかもしれないね」 「ねー」 ママとメーシャが意気投合する。 『おいメーシャ、別れの挨拶すんじゃなかったのかよ! なんで玄関で話し込んでんだ』 痺れを切らしたデウスが割って入った。 「ああ、忘れてた」 「何を忘れてたんだ?」 「カバン?」 両親が首を傾げる。 「あー! カバン、それにヒデヨシのお家のケースも忘れちゃったし! 取りに行かないと」 確かにそのふたつは、先程の海の堤防に置きっぱなしだった。 『いや、そんなもん後でいいから、“行ってきます”をしてくれよ。お願いだぜ。今ゲート繋ぎっぱなしで結構疲れちまってんだ……』 デウスが切実な感じでお願いする。 「おけ。じゃあ、伝えるわ」 「メーシャ、誰かと話してるの?」 ママが訊く。 「うん」 「耳に何も付いてないみたいだけど、骨伝導かなにかか?」 「う~ん……。そんな感じかな?」 「それで、何? “伝える”って」 ママが心配そうに言う。 「えっとさ、あーし、勇者になって異世界? ってのを救うことにしたから!」 メーシャは腰に手を当て、どや顔で言った。 「「……え?」」 ふたりはポカンとする。 「あ、信用してないっしょ?」 メーシャがむっとして言う。 「まあ、にわかには信じられるわけはないだろ。そんな、勇者とか異世界とか。なあ、ママ」 パパが同意を求める。が、 「すごい! さすがメーシャね!」 「ええ……」 止めるどころか、ママは子どものように目を輝かせてしまっている。 「ね! ママなら信じてくれると思ってた!」 「あ、でも異世界って事はなかなか家に帰って来れなくなるの?」 「そうみたい」 「そっか、あんまり無理しないようにね」 「うん!」 「えっと、その、ふたりは良いかもしれないけど、僕は自分の目でその、証拠? を見てみないと何ともいえないな……」 パパが刺激しないようにそっとふたりに言った。 「ああ、やっぱ見たい? おけ。んじゃ、見といてね~」 メーシャが意識を集中させる。 「いくよ~。メーシャミラクル!」 ────ポン! 「うお!」「すごい!」 突然メーシャの手に巨大なタコの触手が現れて、両親が驚く。 「これ、さっき倒した黒いタコさんの足」 特に自慢するわけでもなく、メーシャは何でもないように言った。 「おいおいおい。この太さ、そうとう大きいぞ、何mあるんだ……。これ、本当にメーシャが倒したのか?」 パパが生唾を飲んで、引き気味に訊いた。 「そだよ。めっちゃ大きかったし!」 「そうか、メーシャは嘘がつけないタイプだったもんな……。はあ、そんな怪物級のサイズを相手にして、倒してしまったというなら、もう僕も止められないよ。やるならとことん、頑張ってきなさい」 パパは優しくメーシャの異世界行きを許可した。 「あんがと」 メーシャは少し照れ臭そうに、髪をいじりながら言う。 「そんな貴重な経験は、お金をだしても買えないわ。学校とかこっちの事はママたちが何とかする。だからメーシャ、無茶だけしないように、せいいっぱい楽しんできなさい。もしダメなら、すぐに帰ってきなさい。……ママが行くし」 ママが恥ずかしそうに言う。ママも、“勇者”とか“異世界”だとか、“世界を救う”というワードが大好物だからだ。 「残念、ママの出番は来ないし! あーしがちゃちゃっと解決しちゃうかんね。ね、ヒデヨシ~」 「チウ~」 メーシャが楽しそうに笑う。 「ほんと、残念。……まあ、メーシャが楽しいのが一番だけどね!」 「じゃ、そろそろ行くね」 「あ、ヒデヨシも行くのか?」 パパがポケットに入りっぱなしのヒデヨシを見て言う。 「そのつもりだけど、なんで?」 「いや、何となく聞いただけだ」 「そか。なら良いけど」 「じゃ、行ってらっしゃい。気を付けてね、ヒデヨシも」 「持って帰れそうなら、お土産期待してるぞ。ふたりとも、いってらっしゃい!」 「おけ! んじゃ、いってきまーす!」 「チュチュ~イ!」 メーシャとヒデヨシは元気よくパパとママに別れを告げた。 ◇ ◇ ◇ 「んじゃ、いっちょ世界救いに行きますか!」 カバンを回収したメーシャは、気合いを入れて言う。 「チュー!」 『期待してるぜ。何たって、俺様が選んだ勇者なんだからよ!』 メーシャの目の前に背の丈ほどの渦、ゲートが現れる。 「デウス、見込みあんね。声かけたのがこの“ギャル番長”なんてさ!」 『ギャル番長か、ぴったりだな。何ならいっそ、俺様の世界でもそれで行くか? へへっ』 「何言ってんの! 勇者は職業で、ギャル番長は“ふたつ名”。共存できっし!」 『くくっ。やっぱ、おもしれえぜ!』 「じゃ、勇者メーシャちゃん、しゅっぱ~つ!」 こうして世界を救いに、勇者は異世界へ旅立ったのだった。 そう、ギャルの勇者が世界を救うのだ!
5話 『うっかりデウスと、ハイテクなファンタジー』
メーシャの世界は夜になっていたが、この“異世界”はまだ昼過ぎくらいであった。 『まあ、昼のが何かと動き易いだろうから、時間合わせといたぜ』 デウスがメーシャに語り掛けるも、返事はこない。 『……おい、聞いてんのか?』 デウスが痺れを切らして再度話しかける。だが、 「きゅ~……」 『何やってんだ……?』 メーシャは“異世界”に着いて早々、平原の真ん中で五体投地よろしく地面に倒れっぱなしであった。 「めちゃ身体重いんですけど」 重力で頬が押しつぶされて面白い顔になりながら言う。 『あ……』 「あ! 今何か思い出したっしょ! 重要な何か! 言ってみ? お姉さん怒んないから! 言ってみ?」 『いや、絶対怒るパターンじゃねえか! ふざけんな、そんな言い方されて誰が言うんだよ!』 「いや、普通に言わないとダメっしょ。つか動けないし、ほっぺ痛いし」 メーシャは冷静にツッコミを入れる。 『ちっ。……重力がメーシャのとこの倍以上あんだよ、ここ。だから……』 「だから?」 『重力に耐えられるように調整してやろうと思ってたんだ。思うだけで、忘れちまったがよ。へっ』 デウスは悪びれもせずに冗談ぽく言った。 「へっ。じゃねえ! 調整しろし! いくらあーしでも、流石に重力は“奪えない”って~!」 メーシャが倒れたままじたばた暴れる。 『俺様に命令すんのか。ますます、おもしれえ女だぜ!』 デウスはクククと笑う。 「もう怒ったかんね! 今は姿見えないけど、見つけたら絶対にガツンといってやるんだから! 待ってなよ!」 打ち揚げられた魚よろしく、地面の上で暴れるメーシャ。 『やれるもんならな! へっ』 「く~! ……あ!」 悔しそうにしていたメーシャが突然暴れるのを止める。 『どうしたんだ?』 「えっとさ、重力なんて奪わなくていいんじゃん!」 『何でだ? これから蛇みてえに這って進むのか』 「あほか! 違うし。あんね、あーしの体重、“重さ”ってのを奪っちゃえば、別に重力に悩まなくてもいいんじゃね? ね、名案っしょ!」 『……』 それを聞いてデウスは黙ってしまった。 「あれ、そんな都合よくいかない感じ? 体重が自由自在って夢じゃん。一石二鳥だ~、とか思ったんだけど……」 『すげぇ! メーシャ、それはマジの名案だ! 考えもしなかったぜ! さっそく、やってみてくれよ。へへっ』 デウスはもう、待ちきれないといった感じだ。 「なんじゃそりゃ! まあいいや。じゃあ、いくよ~。……あ、ごめん待って」 と言いつつメーシャは中断してしまった。 『なんだよ、どうした。興が削がれちまうじゃねえか』 「あのさ、この“奪う”ってやつの決めゼリフないの? 名前とか」 『あ~、ねえな。今まで気にしたこともなかったから、考えたこともねえ』 「ってことは、あーしが勝手につけていいの?」 『勝手にしな。それはもう、メーシャの力だろ』 「りょ! んじゃ、どーしよっかな~」 相変わらず頬が地面につぶされながらも、ウキウキで考えるメーシャ。そして、待つこと10秒。 「……決めた。今度こそいくよ~。メーシャミラクル!」 地面に倒れながら腕を伸ばし、足に角度をつけ、ポーズを決めた。 『……おもったより普通の名前だな』 「きゅぴーん! 勇者メーシャ、ふっかーつ!」 身体が光に包まれたかと思うと、メーシャは自身の“重さ”を奪って、すくっと立ち上がった。 『本当にやってのけた! こいつはクレバーだぜい! くぅ~』 「そういや、“奪った”やつはどこにいくの?」 余韻に浸るデウスをよそに、メーシャの頭に疑問が溢れてしまう。 『……せっかく褒めてんのにスルーか! まあいいや。えっとな、俺様が昔用意した、何でも置き場みたいな空間だ』 「何でも置き場?」 『分かりやすく言うなら“アイテムボックス”だ。今俺様は使ってねえから、ほぼお前専用みてえなもんだ。まあ、容量がいっぱいになるこたあ無いから、じゃんじゃん使え』 「めちゃ便利じゃん! いいね、いいね」 メーシャは目を輝かせてぶんぶんと拳を振る。 『ま~あ、俺様の自信作だからな! 感謝するこったな! へへっ』 褒められてデウスは天狗になるが、 「そんじゃ、とりま、あっこに見える町に行こっか」 メーシャはそれを聞いていない。平原をまっすぐ行った先に見える大きな町に夢中だった。 『いや、そこ無視されると恥ずかしいだろうが!』 「んあ? あーごめん。もっかい言って」 『悪魔か! もう一回とか、もっと恥ずかしいわ!』 デウスが不貞腐れる。 「あははっ。ごめんごめん、実はちゃんと聞いてるし。自信作なんでしょ? ほら、感謝してっから機嫌直して」 メーシャが軽い感じで謝る。 『……そ、そうか? なら良いんだけどよ』 謝罪と感謝の言葉を聞いて、デウスは機嫌を直した。 「よき。んでさ、あの町の真ん中らへん? に、お城みたいなの見えるんだけど、あれってほんもの?」 『へへっ。正真正銘の本物、しかも今も使われているやつだぜ! やっぱ、冒険のはじまりは城下町と相場が決まってるからな!』 「お~! すげー! もう行くしかないっしょ!」 そしてテンションマックスでメーシャが歩き出した、その瞬間。 「ヂウ……!」 ヒデヨシが苦しそうにポケットから顔を出した。ヒデヨシには地球の倍以上の重力が、今も体にのしかかっているのだ。 「やば、忘れてた! ヒデヨシめちゃぐったりしてんじゃん。ヒデヨシ、しっかりして。ヒデヨシー!」 ◇ ◇ ◇ 「────とうちゃ~く!」 「チウ!」 メーシャとヒデヨシが楽しそうに言う。洋風の家や店が建ち並び、賑わった町だ。 『ヒデヨシ、すっかり元気だな。あのままポックリいっちまうかと思ったぜ』 ヒデヨシは“メーシャミラクルで”身体がが軽くなり、すっかり元気になったのだ。 「ほんそれ! 心配しまくったし。元気になって良かったね、ヒデヨシ!」 「チウ~!」 メーシャの肩に乗って元気に返事をした。 ────プップー! 「うおっと!? え、なになに?」 道路の真ん中を歩いていたメーシャに、突如クラクションが浴びせられる。 「あぶな! え、今の車?」 慌てて道路の脇に移動しつつ、メーシャが驚いた。 『ん? 車だけど、そんなもん普通だろ』 「マジで……?」 メーシャは愕然として、その場で固まってしまった。 それもそのはず。メーシャは異世界と聞いて、てっきり中世ヨーロッパ“風”の文明を想像したにも係わらず、よく見れば車は普通に通っているし、すれ違うヒト達はスマホのような物まで持っている。 それに、道路は舗装されていて、遠くには高い建物まで見えた。 『なに驚いてんだ? お前んとこだって同じか近いくらい発展してんだろ。それに、こっちは普通に魔法があんだ、むしろ発展しない方がおかしいだろ、俺様の世界をなんだと思ってんだ』 「え、じゃ、じゃあ。石鹸とかの作り方知ってても無双できないの?」 メーシャがあわあわとデウスに訊く。 『ったりめーだろ! つか石鹸なんざ、メーシャの世界だって何千年も前に作ってんじゃねーか!』 「えー! いつか日がこんな来ると思って、せっかく作り方覚えたのに……。あ! じゃあ、甘いって味覚を教えてあげたり、お肉焼いてみたりして大金持ちに~、ってのは?」 一縷の望みをかける。 『ねえ! ほんと、何だと思ってんだ』 みごとにそれも断ち切られてしまった。 「ひゃー! 無慈悲だ~……」 メーシャがその場で倒れこむ。 『つか、周りのヒトたちにめちゃくちゃ見られてるけど、いいのか?』 道行くヒト達がメーシャをジロジロ見ている。確かに、当事者でなければメーシャはひとりで騒ぐ、おかしな人にしかみえないだろう。 「ほんとだ、みんな見てんじゃん。つか、なんかみんなファンタジーだ……」 『ごら、見とれてねえでさっさとズラかるぞ。おかしなヒトなんて思われたら勇者の名に傷がついちまう』 「────?」「────!」「────……」 周りの人達は、メーシャを見ながら何やら言っている。言葉は分からないが、良い事を言っている風には見えない。 「ん? 何言ってんだ? まあいいや、とりま、退散だー!」
3話 『めちゃつよなあーしと、おっちょこちょい』
「足だけもらって許したげようと思ったけど、あんた調子に乗ってんね? 成敗すっから、覚悟しろ!」 ビシッ!! っと指を差した。 ────キュルル。 タコは足を振り上げる。が、 「あ、待ち!」 メーシャは待ったをかけ、急いで靴と靴下を脱ぐ。 ────キュル? まさかの待ったでタコは攻撃を一瞬止めてしまう。 「おけ。じゃ、突撃~!」 二度その場でジャンプし、メーシャはタコに向かって走りだした。 ────デュッポ! タコは気を取り直して先制攻撃。スミを連続で吐き出す。 「来たな~? そんじゃ、こうだ!」 スミの球をいくつか避けつつ、 「ひょい、ひょい、ひょい!」 丁度いい場所に来たスミを手で受けて、そのいくつかを“奪った”。 因みに、奪ったスミはどこか異次元にでも収納されるのか、奪った瞬間にその場から消える。 「ちょ、あぶね!?」 “奪う”ことに意識を集中させすぎて、いつの間にかスミが目前に迫っている。この距離では流石に避けきれない。 「ガードだ!」 咄嗟に手に持っていた触手でスミをガードするが、タコはその場から動かないのをいいことに、マシンガンの如くスミを撃ちこんだ。 「ほ、本気か! 攻撃、重たいんですけど……!」 暫く撃ち続けると、タコの口は赤熱し、『シューッ』という音を立ててスミを出すのを止めた。 「ふぃ~、終わった? やっぱ、威力すご過ぎ……! あーしの周り穴だらけじゃん!」 スミを受けた砂浜は、メーシャが居た所を除いて大きなクレーターのようになっている。 ガードに使った触手も、ボロボロだ。 「あちゃー。使えてあと一回だな~。ん? 待って、これいけるかも?」 メーシャは何かを思いついた。 ────キュルル! が、タコは待ってくれず、今度は触手による叩きつけだ。 「見切った!」 運動神経の良いメーシャは叩きつけを華麗回避して、 「にしししし!」 何かをたくらんだように笑って、触手に飛び乗る。 ────キュルル! メーシャを振り落とそうと、タコは触手をばたつかせながら引っ込める。 「おわっと! で・も! 裸足だから関係ないし!」 左手と足の指で触手を掴んで堪える。そして、なかなか振り落とされないメーシャを見て、タコは次に巨大なスミの球を吐き出した。 ────デュ~ッポー! 「おわっと! これでおしまいか」 ガードに使った触手がもう使いものにならなくなったので、メーシャはそれに見切りをつけて捨てる。 ────キュルル。 タコが触手でメーシャをつかみ取ろうとする。が、 「ちょうどイイじゃ~ん。も~らい!」 メーシャに新しい武器(タコの触手)を与える事になってしまった。 ────デュッポ、デュッポ、デュッポ! 怒ったタコはオーバーヒートなぞ気にもせず、連続でスミを吐き出していく。 「お、ボーナスタ~イム! もうずっと、あーしのターンじゃん!」 メーシャは左手をゆっくり離し、スミの弾幕をどんどん奪っていく。 「もういいや」 数十発のスミを手に入れた後“奪うの”を止め、メーシャはふらつきながらも触手を登り始めた。 「こういうのは勢いだ!」 ────デュッポ、デュッポ! その間もタコはスミを吐き続けるが、 「無駄、無駄、無駄~!」 メーシャは先に奪った方の触手でスミを打ち返してどんどん進む。 『ヘっ。なかなかやるじゃねえか!』 「チッチュチー!」 ここまでくれば、もはや誰にも止める事は出来ない。そして、 「着いた!」 メーシャはタコの頭の所まで辿り着き、右手の触手を構えてにやりと笑う。ここまで来ればタコも攻撃ができず、もう待つばかりだ。 「デウス、さっき“送って”って言ったっしょ。それって、“奪った”ものを“出す”こともできんだよね?」 『ああ、そういうこった』 「おけ。んじゃ、見とけ~……」 メーシャが空いている左手に意識を集中させると、先程“奪って”収納されたスミが、だくだくと溢れて宙に漂う。 「もっと小さくして~」 今度はスミが凝縮されていき、 「こんなもんかな」 ハンドボール程の大きさになった。 「で、タコさん。覚悟はできてんね?」 準備万端のメーシャは、タコを睨みつける。 ────キュル~。 「今更かわいい声出しても無駄だし! じゃ、いくよ~!」 『いっちまえー!』「チウー!」 左手のスミボールを少し浮かせて、 「今日は、タコパだー!!」 ────カッキーン!! メーシャはタコの頭目掛けて、触手でスミボールを打った。 ────ギュルー!! 『ぃよっしゃぁー!!』「チュー!!」 「こりゃ痛そうだ……」 スミボールが直撃したタコは、その一撃のもと倒された。 「とうっ。……しゅた。やっぱ、あーし最強! ついでにレベルアップだ~」 メーシャはタコから飛び降りて、勝利のポーズをとった。 ◇ ◇ ◇ 「まっずー!? なにこれ、ザラザラして、にがくて、臭いんだけど!」 手に持っていた触手を齧ったはいいが、あまりのまずさに『ぺっ』と吐き出した。 『そりゃ、普通のタコじゃねえからな』 「やっぱりかー。おじさんも、うすうす思ってたんだけど。やっぱりかー」 釣り竿を返してもらったおっちゃんが、苦笑いしながら言った。 「もしかして、これ普通のタコじゃないの?」 まだ口にまずさが残っているメーシャは、渋い顔をしてデウスに訊いた。 『ああ。もともとそいつは“この世界”のミズダコだったんだ。だが、怪物にされた』 「え、ちょい待ち。その言い方だと、別の世界があって、誰かが美味しいタコをまずくしたってこと?」 『そうだ。そして、その“誰か”ってのは俺様のいる世界でも暴れやがっているんだよ。んで、ヒトも動物もモンスターも、あんな怪物に仕立て上げて仲間にしてんだ』 「モンスターとか、やば……。ワクワクじゃん。あ、でも、なんでこの世界にきたの?」 メーシャは目を輝かせる。 『たまたまだ。ま、俺様の世界に比べりゃ侵攻は大したことなさそうだがよ』 「え、じゃあ、デウスの世界は怪物だらけってこと? やばいじゃん」 『……突然だが、俺様の世界で“勇者”やってみねえか?』 「“勇者”か、めちゃ良い響きしてんね……。あ、でも、あーしの世界もあんなのが増えんだよね。勇者が自分の世界離れてもいいわけ?」 『当分は大丈夫だ。あのタコああ見えて隊長クラスでな、あいつを倒しちまったからには、暫く警戒して手も出してこねえよ。 それに、何かあればこの世界にも戦う準備があんだろ? 心配ならちゃっちゃと俺様んとこ救っちまえばいいじゃねえか』 「……確かに。んじゃ、やったげる! 隊長かなんかを軽くひねっちゃうこのメーシャさんがいれば、100人力っしょ?」 『決まりだな……!』 「それに、めちゃ面白そうな話が転がってんのに、無視するとか論外っしょ!」 『ほんと、話が早くて助かるぜ!』 「壮大な話だなあ……」 釣り人のおっちゃんが、感心したように呟く。 「おっちゃん、聞いてたの?」 「え? ああ、聞こえていたよ。お嬢ちゃんの話も、この頭の中に流れて来る声も」 「あーしだけじゃなかったんだね。つーことは、仲間だ!」 『……』 「そだ、ヒデヨシは一緒に行くとして、おっちゃんも来ちゃう? 世界を救いに」 「いやいや。おじさんはもう若くないし、心穏やかに過ごしたいかな」 「そっか。残念だけど、それもまた人生だね」 『切るの忘れてたー!!』 デウスが叫ぶ。 「ちょっ!? 耳というか、頭がキーンってなったんですけど!」 「いったたた……」 「ヂュ!」 メーシャとおっちゃんが頭を押さえる。ついでにヒデヨシも。 『俺様としたことが、メーシャだけにするつもりが、周辺全域にテレパシー送っちまってたぜ! くぅ~』 デウスは声だけなので分からないが、もしここにいるのであれば激しく悶えているのが判る程、声から恥ずかしさが窺えた。 「ま、まあ、おじさんは気にしないから。ええ、世界を救うんでしょ? さあ、行っておいで」 おっちゃんがデウスに気を使う。 『ニンゲンに気を使われるなんて。恥ずかしいったらねえぜ……!』 「ほら、もう! デウス、おっちゃん困ってっし!」 メーシャが腕を組む。 「いやいや、気にしなくていいから。じゃ、じゃあ、おじさんは行くね? ここにいても迷惑だろうし」 おっちゃんは、苦笑いして荷物を纏める。 「なんかごめんね、おっちゃん。気ぃ使ってくれて、あんがと!」 『俺様の声を聴いたのは、内緒にしてくれ……。な?』 デウスがしおらしく言った。 「はは……。言われずとも、誰にも言わないよ。若気の至りは誰にでもあるしね。じゃあ、気をつけて」 「ばいばい、おっちゃん!」 メーシャが手を振る。 『へっ、助かるぜ! じゃあな、ニンゲン』 デウスもゴキゲンでおっちゃんと別れを告げた。
2話 『ちょっと抜けてる俺様なデウス(神さま)と、“奪う”力』
「ぶくぶくぶく……」 急に海の中にさらわれ、メーシャは思わず口から空気を吐き出してしまう。このままでは溺れてしまうだろう。 「ばべりぶびびびべばるび!(返り討ちにしてやるし!)」 それでも、メーシャには諦める事なぞ頭の片隅にもなく、何度も触手にキックを食らわせる。 「ばぼばりび、ぶるんばばら!(たこ焼きに、するんだから!)」 とは言ってもメーシャは人間。水中で呼吸できるわけでもなく、下手に言葉を発して空気を捨ててしまった代償は大きかった。 ものの1分と経たずに肺の空気が無くなって、苦しさのあまり思わずもがいてしまう。 『こうなったら、足一本だけでも奪って、逃げるしかないっしょ!』 空気が無くどんどん深い所にさらわれようとしているこの状況にも係わらず、メーシャは諦めるどころか一矢報いようとしていた。 『────気に入ったぜ!』 いかにも俺様系な声が頭の中に響く。 『こんな大変な時になんなの? 空気読め! あ、つか、何の用?』 メーシャは触手に噛み付きながら頭の中でツッコミを入れる。 『……力が、欲しくねえか?』 声は、気を取り直して語りかけた。 『力って、何の事? 今の感じからして、このタコを細切れにする力?』 『物分かりがいいじゃねえか』 『でも、なんであーしなの? しかも、何で今し!』 『絶体絶命じゃなけりゃ、別に“力”なんていらないだろ』 声は冷静に言った。 『……確かに』 『そして、何で貴様かだったな? 喜べ、一二三(いろは) メーシャ。貴様は選ばれたんだ、この俺様にな! へっ』 声は偉そうに笑う。 『え……。何であーしの名前知ってんの? 誰なの? 引くんですけど。つか、選ばれたって、詐欺師かよ』 『あー! うるせえ! 俺様の事は“デウス”と呼べ。で、力が欲しいのか欲しくないのか、どっちなんだよ!?』 声はやけくそで本題に入った。 『よくわかんない人のいう事なんて聞けるわけないじゃん。……あれ、今なんであーし苦しくないの?』 『チュー!』 ほんの少し前まで酸欠でもがいていたのに、今は全く苦しく無かったのだ。 ついでにヒデヨシも元気いっぱいだ。ついでのついでに、今も尚タコはメーシャを海の底へと引っ張り続けている。 『俺様が一時的に空気を“送って”んだよ。言わせんな』 『……意外にいい人じゃん! てかめちゃ便利だし! おけ。その“力”ってやつ、使ったげてもいいよ!』 『へっ! やっと俺様の凄さに気付いたのかよ。って、ついでに言っとくが俺様は人じゃねえからな!』 『わかったわかった。ですっち』 『ですっちってなんだよ。デウスだって言ってんだろ。ほんと調子狂うぜ。……まあいいか』 メーシャの身体全体が淡い光に包まれる。 『それきた!』 『っし。じゃあ、メーシャ。奪いたいんなら、思う存分“奪っちまえ”。足一本てな謙虚な事言ってねえで、全部まるごとな!』 ◇ ◇ ◇ ────ザッパーン! メーシャとタコ、そしてヒデヨシが沈んで静寂が支配していた水面に、突如水柱が聳え立った。 「お嬢ちゃ~ん!」 「ただまー!」 メーシャが砂浜に着地する。 野次馬の皆さんはどうやら解散したらしく、もう釣り竿のおっちゃんしか待っていなかった。人が引きずり込まれてしまうという恐ろしい事態に、お祭りは解散。皆逃げ帰ってしまったのだろう。 『俺様が与えるのは“奪う力”だ。それ、やってみろ』 「いや、どうやって!? うぉわっと!」 タコはまたメーシャを引きずり込もうと触手で足を引っ張る。 『しゃーねえなぁ。良く聴け? ゴホンっ。 相手の持ってるもん、全部見透かしちまえ。 そんで、離れてたって良い。まあ、やりかたは決まってねえがな……。 簡単なのは、奪いたいもん強く意識して、引きはがすみてえにジェスチャー? みたいにすんだよ。わかったか?』 「説明下手か! ま、いけるっしょ!」 メーシャは目を集中させてタコを睨む。すると、メーシャの茶色の瞳がかすかに光った。 『軽いな! 普通はあたふたするところだろ』 「いや、お前が言うなし! てか、こんなピンチ燃えるんですけど!」 メーシャのモットーの『面白そうなことはとりあえず試してみる。やるときはやるけど、基本軽いノリで』と、ゲーム好きが相まって、今メーシャを満たしているのは“ワクワク”と“ウキウキ”だけだった。 因みに日常でも、喧嘩や動物の脱走、横断歩道であたふたする大荷物のおあばあちゃん等“非日常的展開”に出会うと、すぐに首をつっこんではなんでも解決していくので、一部の人から“ギャル番長”なんて呼ばれる程だ。 因みに、その呼び名はメーシャ本人も気に入っている。 「難しい。何か、数字とか、名前? とか見えるし、色んな線? が見えるけど……」 『それがそいつの持ってるもんだ。目視でロックオンして。ほら、攻撃くんぞ!』 「うっさい。今品定めしてんの!」 ────デュッポ! タコがスミの球を吐く。 『今だ!』 「え? うぉっと!」 反応しきれず、メーシャはジャンプしてスミを避けた。 「めちゃ危ないんですけど! 穴開いてっし!」 スミが当たった地面には大穴が開いていて、もしこんな攻撃を受けでもしたら、いくらギャル番長と言えど、ひとたまりも無いかもしれない。 『おいおいおい。今のイケただろ』 デウスは呆れたように言う。 「は? 初めてこんな事すんだから、黙って見てろし!」 メーシャは怒って、ささっと後ろ髪を束ね、邪魔にならないようにした。 「もう怒ったかんね」 タコはまたスミを吐こうと予備動作に入る。 「今だ!」 ────デュッポ! タコは先程同様に、メーシャに向かってスミの球を飛ばした。 「せ~……のっ!」 ────────カキーン!! 『え?』「チュ?」「あれはホームランだな」 メーシャは咄嗟に足に絡みついていた触手を“奪い”、それで飛んできたスミを遠くまで打ち飛ばした。 「どんなもんだ!」 メーシャが触手をぐるぐると振り回しながら叫ぶ。 タコの触手があった部分は特に血も出ず、まるで初めからなかったかのように滑らかだった。 『へっ! おもしれえ女!』 「えっへん!」 メーシャはどや顔で腰に手を当てる。 『気ぃ抜くんじゃねえ!』 ────キュルルッ。 「へ? ────ぶへっ!?」 デウスが注意を促すも、メーシャはタコの叩きつけを諸に受けてしまう。 「いった~い! 女の子の顔殴るとか、普通にありえないんだけど……!」 メーシャは数メートル吹き飛び、尻餅をついてしまった。攻撃が直撃した頬は熱を帯びて赤い。 「ちょい、ヒデヨシはそこで応援でもしてて。あーし、あのタコにガツンといってくっから」 そう言いつつポケットからヒデヨシを出して、少し離れた所に降ろす。 「チュイ!」 「いいこ!」 メーシャはヒデヨシの頭を撫でる。 「足だけもらって許したげようと思ったけど、あんた調子に乗ってんね? 成敗すっから、覚悟しろ!」 ビシッ!! っと指を差した。
『ギャルなあーしと、めちゃでかいタコ』
とある海辺の堤防にて、ひとりの女子高生がたこ焼きを食べていた。 「あちゃ~。たこ焼き冷めちゃってるし……」 毛先に青のメッシュの入った茶髪を、クルクルと指で回しながら女子高生がぼやく。 「まー、美味しいからいっか! しかも、今日暑いし」 しかし、一瞬で気を取り直し、茶色の革靴をプラプラと足で遊びながら、たこ焼きをもうひとつ口に放り込む。靴下が土踏まずの所まで下がっているのは、蒸れてしまったからで間違いない。 この女子高生は、"一二三(いろは)メーシャ"。高校二年生の女の子、先にも書いたが茶色の瞳で、茶髪の髪に青のメッシュが入っており、ピンクのリップはお気に入りのモノしか使わない、制服もちょいちょい着崩し、靴下はカワイイもの以外ははかない、『面白そうなことはとりあえず試してみる。やるときはやるけど、基本軽いノリで』がモットーの、いわゆる“ギャル”だ。 メーシャはウイルス研究をしている父と、専業主婦をしている母、そして真っ白な毛と赤い目を持つハツカネズミのヒデヨシの、3人と一匹の家族である。 ゲーム好きの母の影響でメーシャは小さい頃から空想の世界が大好きなので、ゲーム的、アニメ的シチュエーションは大好物なのだ。 「あ、タコふたつ入ってっし。あーし、やっぱツイてんね!」 学校指定の青ブレザーのボタンを外し、赤いネクタイを緩める。 「やば。ソースこぼれちゃったし」 灰色のスカートの裾に落ちたソースを急いで指で拭きとるが、くっきりと染みになってしまった。 「あちゃー。またママに怒られる」 と言いつつ、女子高生は一切困った顔をせず、もうひとつたこ焼きを頬張る。 「チュー」 「あ、ヒデヨシ起きたの? おはぴ」 カバンの横に置いていたクリアケースの中にいたハツカネズミが、目を覚まして鳴いた。 「つか、パパめちゃ酷いんですけど。ヒデヨシによく分かんない注射打つとかさ」 「チュー……」 このハツカネズミがヒデヨシだ。 「つか、あの注射なんだったんだろーね? なんか、研究の成果だー! って言ってたけど」 食べ終えて空になった容器を小さめのごみ袋に包んで、無造作にカバンに突っ込む。 「あ、もうこんな時間か。どーりで太陽が赤いわけだ! あはっ」 スマホには18時と表示されていて、海を照らす日の光は夕方のそれだった。 「そろそろ帰ろっか。流石にもうヒデヨシを実験に使ったりしないっしょ」 女子高生はヒデヨシに語りかける。 「チュウ……」 「大丈夫だって! もしもん時は、あーしがガツンと言って謝らせるし。でも、ヒデヨシもパパを許したげて。あんね、パパは最近流行ってるウイルス? ああ、実はナノマシンだったんだっけ? をね、解明しようとしてんの。みんなのために。だから、ね?」 「チュー!」 ヒデヨシは、メーシャの父がウイルスの研究をしている際に逃げ出してしまって、たまたまメーシャの所に迷い込んだのがキッカケで飼い始めた。 「つか、ヒデヨシ。なんか今日は物わかりいいね! なんか一発芸とかいけんじゃね?」 「チュチウ」 ヒデヨシが返事をしているみたいに鳴く。 「お、マジで? もしかして動画とか撮ったら、億万長者になれるっしょ」 ギャルはそう言っておもむろにスマホを触り出した。 「ちょいまち……。今動画の準備すっから。……おけ!」 ギャルがヒデヨシにカメラを向ける。 「いくよ? スタートって言ったら、なんかめちゃくちゃバズりそうなギャグやってね。ちなみに、最近あーし刺激に飢えてっから、そこんとこ、よろしくね」 「……」 ヒデヨシは固まってしまう。いくらハツカネズミでも、無茶ぶりだってことを理解したに違いない。 「さ~ん、に~い……」 悪魔のカウントダウンが始まる。 「い~ち。……えっ、ちょっと待って」 メーシャが何かに気をとられたおかげで、ヒデヨシは悪魔のカウントから逃れる事ができた。 「なんだなんだ?」 少し離れた砂浜のところに、何人かの人だかりができていて、騒ぎになっている。 「ねえ、あそこ騒がしくない?」 「ヒデヨシ、ギャグはまた今度だ。ちょい、あそこ行ってみよ! なんか、おもしろそう」 「チ、チウ~……」 気が抜けたヒデヨシがペタリと座り込む。 ヒデヨシもメーシャに負けず劣らずツイてるのかもしれない。 「ほ~ら、ヒデヨシも行くよ!」 メーシャはスマホとヒデヨシをささっとブレザーのポケットに入れると、騒ぎになっている場所に向かってダッシュした。 「うぉっ! 靴脱げた! と、とっと~! セーフ」 走っていると靴下と靴が脱げてしまって、こけそうになるもなんとか堪える。 「忘れてた。……おけ! じゃ、気を取り直していくよ~」 そして、靴下と靴をしっかり履き直すと、今度こそ騒ぎの場所まで走って行った。 ◇ ◇ ◇ 「なにこれ!」「触手か?」「すごい!」「こわ~い」 近づいてみると、何やら巨大な触手らしきものが浜辺に横たわっていて、その周りで10人近くの人がスマホで撮影したり、話し合っていたり、騒いだりしていた。 怖がっているような言葉も耳に入ってきたが、実際は皆このライブ感を愉しんでいるようで、危機感はさほども感じられない。 「ちょ、なになに?! えっ、待って。つか、この触手でかくね? たこ焼き何個分!?」 到着したメーシャは、目を輝かせてその触手を見る。確かに今地上に出ている部分と、海の中に隠れて居る部分を合わせると、相当な大きさである。 しかし、触手の色は真っ黒で、ザラザラしていて、お世辞にも美味しそうには見えない。 「ゲテモノは美味しいって、パパいってたし! いっちょ釣り上げちゃお!」 メーシャは周りを見回して、釣り人のおじさんに目を付ける。 「お、良いの見っけ! おっちゃん、それ貸して」 「え、これ? まあ、いいけど……。なんで?」 「触手出てるけど、身体はまだ海ん中っしょ? 釣って、みんなで食べよ!」 「あれを食べるのかい? 止めた方が良いって……」 「だいじょび。タコだし、きっと美味しいって。ほら、良いから貸してって」 「ああ、はいどうぞ。でも気を付けてね」 メーシャは近くにいた釣り人のおじさんに、いい釣り竿を借りた。 「なんだなんだ?」 「釣り上げるらしいよ」 「俺食ってみたいかも……?」 「え~、やめときなって」 野次馬の皆さんは、思い思いに語り、メーシャを見守る。 「うし、いくよ。せーのっ!」 メーシャは釣り竿を投げて、恐らくタコの身体がある場所に糸を垂らした。 ────チャポンッ。 「……」 しばしの静寂が訪れ、漏れなく皆、固唾を飲んだ。 「……」 そして、何事も無く時間が流れ、少し皆の頭に不安が過った、その時。 「……来た! うぉっ?」 糸が引っ張られ、それに応じてメーシャの体も引っ張られる。 「おも! めちゃやる気じゃん。したら、あーしだって、負けないかんね!」 メーシャは何とか踏ん張り、懸命に竿を引っ張り、リールを巻く。 「お嬢ちゃん、がんばれ!」「やっちまえ!」「おねえさん頑張って!」 野次馬の皆さんがエールを送る。 「うぉ~! めちゃ、みなぎってくるんですけどー!!」 メーシャのリールを巻く勢いが良くなり、それに対応して水面のバシャバシャも次第に近づいてきた。 「あと、もうちょい……!」 バシャバシャはもう目前で、水の中の黒い影が皆の居るところからでもはっきり見える。野次馬の皆さんの興奮もたかまって、もはやお祭り状態だ。 「これで決めるし! とりゃぁ~!!」 ────ザップーン。 「釣れたしー!」 「「「うぉー!!」」」 見えているところだけでも10mを超えそうな巨大な黒いタコが浜辺に打ち上げられると、メーシャ含め、ここにいる皆全員で雄たけびを上げた。触手の太い部分は丸太の様に太い。 「ミズダコにしちゃ、でかいし黒いな。新種か?」 おっちゃんが分析する。 「とりあえず一口いっとこ! ……へ?」 ゴキゲンで触手に手を掛けた。だが、いつの間にかメーシャの足に触手が巻き付いていて、 「あ~れ~!」 海に引きずり込まれてしまった。 「お嬢ちゃ~ん!」