ヴァラク

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ヴァラク

[Embryo]連載中

Embryo一話「childhood cigarette」

 首が伸びて見えた景色は、綺麗に見えた いっそのこと、このまま同じ景色さえみえれば何か変わるだろうか 早く大人になりたい、家から出て行きたい親に殺される 日に日に増える、罵詈雑言、暴力、目に入れたくない 鬱だとか病んでるとか、痛みを全て"音"に出来れば… 「ごめんなさい…今朝、父さんの大事にしていたギター、お…俺が倒してしまったせいで… うつむいて殴られる、殴られるとちいさく体を震わせる  彼は長男の「祥川 ロイデ」 苺色のケロイドが日々の虐待の様を重く思わせる そんなロイデの謝罪を受けている父親は、トラックで輸送を生業とし今日がひさびさの帰宅だ もう誰も信用できない彼の肩に手を優しく置き、心配するなと歳を重ねた男らしい渋い声に心を打たれる 「ながらく帰ってこれてなかったんだ、すこしぐらいお前のために俺が尽くしてやる」 きっと父親も暴力に頼るものだと思っていた、自然と涙が頬を伝う 「……お前が"今やりたい"ことってなんだ言ってみろ」 わからない、わからないんだ。 高校生にもなって、情け無い姿をあらわにした事に罪悪感と申し訳なさが込み上げた 「…父さんしばらく時間をおいてから話してもいい」 ほんの沈黙が流れ、ロイデにとある物を手渡す  芸術的な顔のThe Insulated World と書かれたアルバム 久々にもらったCD、しかしファーストインパクトが強烈なアルバムと口を開けたままにらめっこしていた 気に入らなかったら返してくれていい、ただし気に入ったら毎日聴くんだ。さあギターは俺が直しておくから自由に過ごすんだ 「うん、ありがとう…」 古い家の床を軋ませながら二階へあがっていき、自部屋へと入っていく 中はひどいもんだ 洗われていない衣服、フローリングと勉強机も埃だらけでまんまゴミ屋敷 「そうだ薬飲まないと……どこだ薬…」 いつもより遅く起きてしまい、決まった時間に鬱病の薬を飲むことができなかった 不安に駆られて、薬を探す手が次第に荒くなる 遅くまで起きて、こんな時間に起きてしまった自分が悪い 反省から自責へ、呼吸から不安を逃す過呼吸に 体がぐったりとしてきた ゆっくりと、机を撫でるその指先 倒れ込むようにベッドに寝転んでしまった こんな自分が嫌い 母が俺を嫌うのも、俺がいけないんだ もっと“いい子”にならないから嫌うんだ この先はどんな人生になるのかわからなくて ぜんぶが真っ暗で仕方ない 学校にいけてない、だいすきなあの子に会いたい… 「ごめんなさい…ごめんなさい…」 ひねりだした声がよわよわしくかぼそく、深いココロのソコから テレビはあるけれど、よごれた画面でもみんな反対にキレイに笑っている ワラいたい ゲンキになりたい 戸を叩く音がかすかに響いた この優しさはきっと父親だ、黒色の心に一点の光が差し込んだ たどたどしい足取りで、弱っていた時間よりも大きい声で「いいよ」 しかし戸が激しく開かれた 心臓が跳ねる、心が締まる 目に映ったのは嫌悪の目をした母親だ 安堵した心が砕ける 「アンタ、おとうさんのギター壊したんだってね」 何言っても殴られる、恐怖で唇が動かない返答できない 「答えなさいよお!」 首を絞められ、机に頭を打ちつけられた 何度も何度も 「なんで答えないの!あたしは仕事で疲れてんのに、お前はずっと寝やがって!お父さんに謝罪もしないで!」 ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいっ!!! 「ごめんなさいごめんなさい!!」 目の前が涙でかすみ、ひずみ、焦点が合わない だんだんと呼吸もできない 死ぬかもしれない 殺されるかもしれない 謝らないまま終わる 「はぁ…はぁ…。なんで」 長く乱れたその前髪から覗く目は嫌悪から自問に変わっていた 「なんであたし、アンタみたいなの産んだんだろう」 母親はそう言い、首から手を離す 床に後ろから倒れ必死に生きようと吸う吐くを繰り返す 「……とっとと死ね」 その言葉を耳にしてからすぐに呼吸が間に合わず意識が途絶えてしまった  夢を見ることもなく、目覚めたのはあれから数時間後の午後20時 呼吸がまだ浅く、まだうまく動けない 体を横に返す すると、目に黒色の物体が 合わない焦点ゆらゆら、はっきり映ったそれはCDレコーダー 「お父さんの、あれ聴かないと。でも謝らないと…」 重い風邪を引いたかのように痛い体を庇い、一階へと歩いていく 階段が怖い 行かないといけないのに足が言うことを聞かない 牛歩、耳を傾ける 「いいの?あなた。そのギターってボーナスで買ったんでしょう?アイツをどこかで働かせて払わせましょうよ」 「いいんだ、アイツも悪気があったわけじゃない」 寂しげな音色が空気を浅く揺らす 「…それにお前にはずっとこのギターが壊れるまで黙っていたんだけど、このギターは俺が買ったんじゃないんだ」 「…え?だったら尚更、アイツが払わなきゃいけないじゃないのよ降りてきたら私が言うから!」 最悪だ、こんなタイミングで一階に来てしまった 顔があってしまった、もう逃げられない 「ロイデ!お父さんのギター弁償しなさい!」 母の圧に言葉が出せずにいると、父が優しく止めてくれた 「大丈夫だ。俺にいい案があるからお前はゆっくりしていろ」 「おいで」と安心感ある父親と共に車に乗り込む エンジンが力強く車体を奮う ふぅ〜、タバコをふかし煙を逃す 「……とう、父さん…」 父はロイデの呼びかけを無視し、ナビからスマートフォンの音楽アプリを接続する 接続されたアルバムのジャケットは、The Insulated World 「ロイデ、CDは聴いたか?」 小さく首を横に振る 「そうか、まあそうだよな聴けるわけないさ。だって母さんが怒るだろ?だと思ってドライブついでに聴いてけ」 車が発進して、心地いい振動が体を刺激する 「父さん。ギター…壊してごめんなさい」 すると、父は初めて大声で笑った 「もう気にすんなって!そんなのよりあの女の言うことなんて気にせず生きていけるよう、お前の夢を叶えてやるよ」 夢なんてないのに、そんなネガティブを顔に浮かべながら窓から外を眺めながらかわるがわる景色に癒されていた その後も会話もなしに、ただただ激しい曲に包まれている ふと、途中からその曲に耳を傾ける 流し始めから数曲、「人間を被る」 人とは趣味が被ることがあるが、決して被るものではないのになぜ人間を“被る”と? 歌詞も難解でロイデの表情はひとつも変わらない ただ、なんでか安心する 荒んだ生活から掬ってくれているような シンプルに歌詞をなぞっているんじゃない、人のつぶれた善意と醜い悪心を謳っているのかなと ボーカルの悲痛な叫び、ドラムが鼓動を奏で、ギターがぐちゃぐちゃめちゃくちゃな感情の移り変わりを表現 独特なジャケットは世界観創りではなかった 圧倒圧巻、誰にも真似できない表現力 その世界に見惚れ、聴き惚れていると車が減速した どうやら目的地に着いたらしい しかし、見渡せば見渡すほど田んぼしかなく唯一の建造物が火事で真っ黒になった廃墟らしきもの 「着いたぞ、降りる前に薬飲むんだぞ。また気絶させられて飲めなかっただろ」 父が気に入ってるお店の紙袋ごと渡してくれた 「ありがとう」 紙袋からペットボトルの水と、薬を取り出し服用する 下車、一旦ここにはこの廃墟以外には何もないものかと再び見渡す 「なにもないように見えるだろ、俺もここに初めて来た時は息が詰まったよ終わったかと思った」 冗談まじりにそう言い、悪戯な笑みをこちらに向ける 「だからこそお前には、俺と同じように特別な体験をして欲しいんだ」 “人として”成長できるようにと 「お前が今回のこの経験を気にいるんなら、俺はいつだってお前を連れてきてやる。大丈夫か?」 いまいち理解できていないがやるしかなさそうだと 覚悟し大きく頷いた 「よしいい子だ、着いて来い」 父が廃墟の汚れたドアノブに手をかけ、あらわになったのは外見とは似ても似つかぬ、小綺麗な駆け出しのバンドマンが使うスタジオのような内装だ 「あいつらはいないのか?おっかしいな、この時間に来いって言われたのに」 “アイツら”? すると、右横の真っ暗な通路から金髪の男が気だるそうにロイデを睨みながら歩いてきた その男はセンター分けで細いサイドと、後ろ髪が首元まで伸びたひと昔のロックスターの髪型、黄色い目が特徴 「“koschei”(カスチェイ)いたのか、いたのなら返事をしてくれ」 あだ名なのだろうか、それとも海外の人なのだろうか どちらにせよ珍しい名前だ 「ソイツは?お前の連れか」 怖い顔をしながらこちらに近づいてきて、指で軽く胸を小突いてきた 「お前の話は少しばかり親父から聞いた。わからない事があるのなら何でもいいから言え」 ぎこちない返事で、圧から逃げる koscheiはポケットに手を突っ込み、ボックスからタバコを取り出す 「吸うか?」、父親は「ああ」と相槌を打つ が、聞いていたのは父親ではなくロイデにだった 「お前、いくつだ?」 未成年と答える、鼻だけで笑われる 「だろうなあ」 背を向けた火付け姿、煙は天に昇る死者の魂 空調のせいで顔に襲いかかり、思わず咳き込んでしまう 父親が吸っているものとは違う香りが一瞬、鼻をよぎった 「koschei、今日は何のタバコを…?」 口を手で押さえて問う 「Peaceだ」 平和…タバコなんかに? 「……ねえ父さんここは何をするとこ?」 父親が答える前にkoscheiが煙を被り匂いがついたマイクを手渡す 「俺の見た目とこの内装でだいたいわかるだろう?ほら、曲をかけるから歌え」 無茶苦茶すぎる、曲なんて聴くだけで精一杯なのに歌え? しかし、断れば何をしてくるかわかったもんじゃない 手を震わせながらマイクを受け取るが、視点も震えてきた 「ほんとこいつなんかに期待していいのか?」 「やれるだけやろう、初めましてなんだしさ」 冷たい相槌が余計に緊張を強める 床ばかりみている最中、父親の車で流れていたアルバムとは違うのを流すと 「この曲はまだ簡単な方、大体のリズムやら音程、“京”さんの“クセ”さえ理解すればお前でもいける」 呼吸一回の暇もなくかけられる 寂しげのイントロ、弱々しい声のようなギターが加わり、誰かが背中をさするようなドラム 日記に感情をのせる歌い方のボーカルに、何とか追いつこうとするが当然うまく行くわけもない 歌詞の内容を理解する暇もない、曲の雰囲気を意識する暇もない しかし、koscheiが言っていたクセを間奏で頭から出しながら歌い続ける 「腐敗とドレスと片足の少女 抱き抱え」 最後の一文だけはボーカルによせて歌いあげることができた 終わったのはいいもののどっと疲れがこみあげる 「まあいいんじゃないか?十点満点だとしたら二点だけどな。……ところで、なにか不思議に思ってそうだな」 それもそうだ会っていきなり、歌えだの言われて懐疑な面持ちになるに決まっている 「お前には…俺たちのバンドのボーカルになって欲しいんだ」 また無茶なことを… と言おうとした時に父親がストップをかけた koscheiは少し眉をあげかすかに驚いた様子 「珍しい、お前が口出しするなんてな」 「今のロイデには無理なんだよ、なにせ生活が安定してないんだ頼むそんなに時間はかけない!待っててくれ」 右人差し指の中指の間にタバコを挟み、肩を落とす 「まあいいさ。お前は今までのやつと違って度胸がある初めてだろうと、何事にも挑戦するという“度胸”がな」 ロイデは左腕に右腕を重ね下を向いていた 両瞼が目を半分隠す 「……ありがとうございます」 悪者の上司が部下のミスを見逃し、二度目は「処刑」と言わんばかりの緊張感 ロイデは考える、流転と流転と しかし目をあげれば、koscheiの鋭い目つきに決断を急かされる 沈黙は約十分 「……なあ、今日は難しいか?」 首を横に強く振る その瞬間、koscheiは気づいた 「お前いい顔になってるじゃないか……もういいぞ。言葉はいらんお前のその顔が答えだ。俺にそんなキツい顔をした奴はいない」 口は笑っているが目が笑っていない 「……信じていいんですか?」 絶望という大便とゲロのゴミ溜めの中でギリギリ笑えている、どこか切なさもある 「僕はkoscheiさんのことをよく知りませんし、良くも思ってないです。無茶振りはするしあたりは強いし……」 ロイデは人が変わったかのように決意した表情で、一歩前に出て距離を縮める 「教えてくれると嬉しいです。何で僕みたいなやつを誉めたんですか、なんで僕の父と組んでこんな事を」 机を指でリズムを刻み、口を歪めながらよそ見をする いつも通りの彼の表情になった途端、重い口を開けた 目的は、世の中のDIR EN GREYを知らない者達にDIR EN GREYのように「痛みに寄り添い、その痛みを発散、新しい自分へと“昇華”させ違う自分へと変わらせる」為だという コピーバンドとして活動する以上はリスペクトを第一にそして、過激なファンも恋するファンも作らず完璧を求めないままあくまで“メッセンジャー”を目指すという 「叶うのであれば……未来を断とうとする若者を優先的に救いたいんだ、学校の体育館を舞台にな」 綺麗事のように聞こえる事を淡々と話す、彼の野望は想像より深いものだった 「そんな事…僕にはできない」 当然、荷が重い 母から散々と可能性をかなぐり捨てられてきた人生だ しかしここで逃げれば何も変わらない だが、ここでイエスといえば今後の人生は良い意味でも悪い意味でも変わるかもしれない 「別に逃げたければ逃げてもいい。お前の代わりはいくらでもいる」 父親が不安そうにロイデの名前を呟く 決意したからにはもう返らない ロイデは大きく「やる、やらせてくれ!」と腹を括った 「…………やっぱりこいつは最高だ!ああ頼んだぞ、期待してるからな」 その後は、父親をよそにkoscheiとじっくり今後のプランを話し込んだ プランや活動の流れをびっしりと書き込まれた書類を渡され、先ほど無理やり歌わされたアルバムをもらった 「お前のような覚悟がある奴は俺は大好きだからな、あっそうだ。お前に紹介したメンバーがいるから裏に来てくれるか?」 両方、椅子から立ち上がりkoscheiは父親も連れて裏部屋と回る そこにいたのは黒いオールバックで強面のガタイのいい男一人、落ち着いた見た目でがたいのいい男とは裏腹に少しスリムな片目を隠すほど長髪で白髪の男 「紹介しようそっちのヤクザみたいなのがドラム担当のトム」 ガタイのいい男がもたれかかっていた椅子から立ち上がり、ロイデの方へ歩いて行く 迫力のある見た目にすこしたじろぐ 「よぉ俺はトム。トム・エディだ。アメリカと日本のハーフだよろしく」 タトゥーが手袋からチラ見えする右手と握手を交わす 「トムはこんな見た目だが、意外と気さくだあまり怖がることはない」 くしゃっとなる笑みを浮かべながら、koscheiの方が怖いからなと冗談を言うが、「知るか」と一蹴される 「そして、そっちの長髪の奴がギター担当の聖だ」 聖はなにやら忙しいのか椅子に座ったままで、丁寧な挨拶をする 「聖は…」 紹介してくれるところをトムが口を挟みまたジョークを言おうとする が、痺れを切らしたkoscheiが「お前は黙れ!」と、少し強めに声を張り上げた 「はあ〜…まっったく…」 腰に両手を当てて肩を落とす 「とまあ、俺みたいに疲れるかもしれないがこんな奴らと一緒に今後の活動を共にしていくからな」 ロイデは率先的に自己紹介、鬱病を抱えてる事、家庭環境 すべて話終わったその時、父親の携帯に電話がかかる 母からだった そんな気はしていた、出て行ってから長すぎるからだ 会話に耳を傾けているロイデにkoscheiが、しばらくは俺らと住んでみるか?と気にかける 「えっいいんですか…でも父さんは」 「大丈夫だあんな女なんて取るに足らんゲリのクソ、おまえだって生きたいだろう?」 電話が終わった父が申し訳なさそうに戻ってくる 「おい、この子には言ったんだがお前ら二人はこれから俺らと住んでもらう!あんな女の手をさっさと放してもらおうか」 いきなりは無理だと焦り出す父 「なーに。別に離婚届だのそんなのは必要ない。もう話す価値なんてないんだろ?ここで連絡先も何もかも思い出も全て消して、別人になりきれ」 のろのろとする父親、何やらそわそわしてるkoscheiは腕を組み舌打ちをする 「いいんだよ父さん。koscheiさんの言うとおり僕も父さんも幸せが欲しい」 ロイデは大きい声で、「だからもう思い切って消して!怪物とはもうさよならしたいんだ!」 父親は戸惑いながら、母親のなにもかもを消し去った 重くのしかかった荷が少しは降りた あとは自分と同じように痛みを抱えた人たちを救う番、責任が重くのしかかる しかしこの重たさは不快な重さではない むしろ俄然と覚悟が湧き上がる 「これからのコイツの成長は楽しみだが…女とこいつを会わせては活動がままならない。どうしたものか」 一人では答えが浮かばないkoscheiが質問する 「えっ、学校に片思いしてる子はいるのかって?それは…いますけど…」 付き合うのは構わない、だがその女との付き合いとバンドの活動も両立させろと釘を打たれる 「わかりました、まぁあの子と結ばれるか今はまったく分からないので。まだ先の話になるかと」 「そうだろうな。世の中優しいだけが正義じゃないし、かと言って粋がって弱者を泣かせるのが良いわけじゃない」 “加えるその痛みによる影響を考えれない”、そんなのをかっこいいと勘違いすればガクンと弱者に成り下がる。 「要は関係が終わりの時は優しく手放せお前にも相手にとっても良い事がない」 純粋な肝に銘じろ、“女を泣かさず、漢を泣かせ” もし女の頬に一粒でも涙を流したら、愛をドブに捨てたお前の母親同然だからな 「はい!僕はお母さんみたいなひどい人間にはならないですこれから先なにがあっても!………というか、何で片思いしてる人がいるって知ってたり?」 koscheiは再びタバコをくゆらせ、抑えた声で「興味本位だ」と答える 「そう、そうですよね…もしかしてお父さんが言ったのかなとかそんなこと思っちゃって」 父親を図星を突かれ顔を横に動かす 「ふ〜。こんな事はどうだって良い、はやく風呂に入れ寝室に布団を準備してあるから床につけ。明日から忙しくなるからよ」 その後、koschei以外が寝静まり一人でなにやら考え事をしている 「あのガキの片思いしてる相手が“柏木”じゃなければ良いんだが…」 どうやら柏木という女子生徒に一抹の不安があるという 柏木はロイデと同じく虐待を繰り返され、よりひどい鬱病にかかっていたという 今でも連絡をしているらしいのだが、内容はどれもこれも「大丈夫」など無理してるのを隠す文言 巡り巡り巡り巡る性的虐待、妊娠、中絶、売春 激しく打ち付けられる波を遠くから見守るばかりで 生きていく術を失ったあの眼、声色がkoscheiにとってはある種のトラウマになってしまっている 助けに行こうにも巻き込みたくないと取れる言葉で突き放される 学校にも当然、行けていない それがこんな生活を送っているからではない ある事件が起きる登校前日、いつものように父親に掻き乱され、抱き回されどこにも逃げ場なんてない 小さい口が泡を吹いていた 何回したのかなど…そんなのは当然わかるわけがない 母でさえも知らないふり、母はどこかへといってしまった 意識も身体のすべてが真っ白になるまで助けられなかった 解放され一人、部屋に篭り手首には真っ赤な薔薇が咲き乱れる 学校のみんなにはバレないよう長袖、包帯で覆う そして当日、変わりなく授業を受けている最中のことだった 下半身、主にお腹らへんに違和感が蠢いた なにか…意思を持って動いているような なにか…“外に出たがっているような” 気持ち悪いし痛いし、なにしろ毎日毎日あんなことの繰り返しだ 嫌な予感がする そして、違和感から時間が経った頃 予感が的中した 悶えて顔が白くなり、汗が吹き出る 呼吸が荒々しい ついには座っていることさえできなくなり、“前から”倒れてしまった 周りの生徒が心配し教師が駆けつける そっと仰向けにした時には彼女のお腹は大きく膨らみ、蹴っている音が聞こえた 教師もパニックになる とりあえず病院へ連絡し、救急車を手配する しかしこの学校に着くまでは相当時間がかかると なるべくはやくとは言うが間に合うかも分からない そこで耐えてと言われ、保健の先生などを呼びに行った 柏木と一番仲がいい“春”という女の子が彼女のそばに寄り添う 他の生徒も安心させようと助太刀に入る 陣痛がはじまってから数十分、いまだに救急車が来ない 苦痛、申し訳ない気持ち、子を孕んでしまっていたという恐怖と不安と自責で顔がぐちゃぐちゃになる 春やみんなの「大丈夫だよ、もうすぐで来るからね」 安心させてくれる言葉でより涙で前が見えなくなる 絶叫と苦痛に悶える声が響き、他の教室の生徒たちが野次馬にくる 奮闘している最中、頼みの綱である救急車が待てど待てど来ない 流石に時間がかかりすぎている 彼女の体はもう限界が近い 苦しむこと数十分 柏木の体から力が抜けていた 幼い泣き声が教室に響き渡る 間に合わなかった 産んでしまったのだ 床が血で染まり、柏木の目は虚空を見つめていた みんなが「ごめん…ごめんなさい…」と繰り返すが柏木にはその声が届かない 春が彼女に抱きつきすすりなく 助けられなくてごめん… そう何回も繰り返した すると、かろうじて動けるようになった柏木はぎこちない笑みのまま赤ちゃんを優しく抱き上げる 春は問いかけをしようとした時 柏木は言った 「春、静かに。大きい声を出すと赤ちゃんがびっくりしちゃうでしょ?…私なら大丈夫よ。ありがとう」 柏木はおとなしくなった赤ちゃんの顔を見つめる 「私ね、お母さんがいたの。優しくて父親なんかに負けずに私の味方をしてくれて…でも」 赤ちゃんの頭を優しくどこかせつなそうに撫でる 「お母さんはある日、耐えきれなくなって首を吊って死んだの一週間前くらい。私を置いて」 涙が頬を伝う 「酷いお母さんだよね、なんで私を置いて行ったんだろうどうせなら私も連れてって欲しかった」 空気が重たくよどむ中、柏木は笑顔になる 「でもいいんだ、今わかったのこの子を産むときにね。最初は辛かった本当に孕んじゃったんだって。でもね、お母さんみたいにこの子を愛せればそれでいいんだって」 すわっていない首に優しく手を添えて、愛おしいその顔を母のように見つめる 「産まれてきてくれて……ありがとう。大好きだよ」 本当は柏木も一度でもいいからいわれたかったのだろう 母のことを思い出しながら、赤ちゃんに母に謝りながら号泣した これからの先のことはわかっていない  koscheiが柏木のこの悲劇を聞いたのが今から約2年ほど前だからだ 今では子供も歩けるほどにはなっているはずだ、しかし肝心の柏木が生きてるのかが分からない どうすればいいか分からず、考え込んでいるとあることを思い出した そう、春の存在である 春はもともとロイデの生き別れの妹である なんで生き別れたのかなど聞きたいことはやまやまだが、とりあえず明日に希望を託す 「絶対に救うからな、柏木」  “childhood cigarette”、「子供時代のタバコ」 この建物の通称である その意味は「子供時代の悲劇を、タバコの灰のように落とす」事 一人でも多く救う為に、希望と痛みを抱えながら明日に向けて準備をする ロイデという最高のメンバーが活躍してくれると信じて…

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春 ─episode 1─ 「遭遇」

 「おかあさーん!今日のご飯なーに?」 コトコトコト……グツグツ。 「今日は大好物の白シチューよ、今日のテスト苦手な科目だったけど頑張ったからね!ごほうびよ。」 声色からも伝わる「嬉しさ」を放つ母に駆け寄って抱きしめる。 そんな楽しそうで仲睦まじそうにしているわたしの名前は「春」。 50を過ぎた母と、2人暮らしをしている高校2年。 兄もいるのだけど私が生まれた2年後には勘当され、今はどこにいるのかさえわからない。 もしかしたら、私たちの手では届かない場所にいるのかもしれない。 いろんな可能性を推測する時間は毎日、毎日。 今日は目の前の「やさしさ」で作ったのか、それとも母もまた兄のことを思い出して作った憎悪と後悔が混じった"白濁"なのか。 「さあ"いただきます"しなさい。」 手を合わせてしっかり母親に聞こえる声量で命に感謝する。 しかし思考は錯綜しつつ味の感覚など以前よりもこの一瞬だけ劣ってしまって、感想も何もなくなる。 いまは感想を求められてもまともに答えられる頭じゃない。 それなのに母親は美味しい?と味の出来を聞いてきた。 がんじがらめだったバグが一気に飛び反射的に、でも言葉が詰まってから美味しいよとアンサー。 母親は笑顔で嬉しがってくれる、圧に私はおびえる。 「それじゃあ春の好きなご飯これからもたくさん作るわね、だからこれからも"息子みたいに"ならないでねいい子だもん。」 この束縛の恐怖に食道と歯がぎゅっとしまる。 「残りはまだ残ってるわよ明日用に取っておくこともできるから無理して食べなくていいわ、お母さんも一緒に食べたいからよそっとくね。」 正直この状態ではもう食べたくない、というより体が拒否して食べれない。 でも食べなければもったいない、せっかく作ってくれたご飯。 母親がシチューを皿に移すため、こちらに背を向けた。 この間に一口二口、三口いっきにかっこんでいく。 あまり急いで食べてるものだから、食材が口の中に停留してしまう。 母親がこちらを振り向く前に呑みこもうと思っているせいで、食材を噛み砕く勢いのまま唇を噛んでしまう。 おもわずスプーンから手を突き放し、口腔が血まみれに、もう鉄臭くてかなわない。 「どうしたの春、あら噛んじゃったの?痛いなら無理して食べなくていいのよ。大丈夫。」 ここは母に食器を預けて菌を繁殖させないためにも、口をゆすいでと言われたので洗面台に歩いて行く。 お気に入りのコップに弱い水を注ぐ。 3分の2までたまったらレバーを「止」の方向にひねり、口をゆすぐ。 鉄臭いのと、水の独特な味、それにキズ口にしみるから我慢できなくてすぐに出してしまった。 目の前には赤い薔薇が咲きほこる。 今度はレバーを「出」の方向へ動かして綺麗にする。 水と血が混じりあいながら、穴に吸い込まれる様子はまるで芸術作品みたいだ。 「私は春にたくさん食べて欲しくて作ったけど、まあ仕方ないわねぇ口内炎が治ったらちゃんと食べてね。」 治ったらって当分先になるのに…わかったよ。 「お母さんは明日も仕事だから、そろそろねるわね〜早く寝るんだよ。」 私は母を呼び止めて口内炎のパッチはあるか聞く。 どうやら私が座っていたテーブルに引き出しがあるらしくて、そこには箸やスプーンなどが入っている。 その中に口内炎のパッチが混じっているようだ。 しかし、なぜ近くにあるのにさっき言ってくれなかったのだろうか? 「ありがとおやすみ、お母さん。」 パッチと明日の学校の持ち物など持って自部屋に向かう。 真っ先にベッドに倒れ込むとふとある事が頭をよぎる。 「お兄ちゃんいま何してるんだろう……どこにいるか分かれば連絡ももしかしたら取れるかもだし、でも情報がないなら母さんに聞くしかない…。」 兄のことを母に聞いていいのかわからない。 話した通り、過去にいざこざがあり勘当されている。 2歳の頃の記憶はほとんどないためどういう経緯で出て行かされたのかわからない。 母が寝ついたら少しでも兄の情報となるものを物色してみてもいいかもしれない。 それまでは携帯でSNS漁りでもしていよう。 いくつか興味のないニュースやら個人のつぶやきなどがおすすめ欄を埋め尽くす。 スクロールして目に留まったもので唯一気になったのが、「有名な反キリストロックバンドの歌をカバーした“ブライアン K テイラー”が、30万円のシベリアンハスキーの子犬を迎え入れる。」 私が気になったのは子犬のことではなく、歌の方に興味がいった。 反キリストロックバンドというのも、この人の名前の由来もなんなのか知りたくなった。 そこで、SNSで名前を入力してアカウントを探し当てた。 ブライアン K テイラー……間違いないこの人だ。 新しく更新された情報では先ほどの犬のことについて書かれていて、「30万だろうがなんだろうがそんなのはどうだっていいんだ、ただ値段でしか価値を決めれない輩にはほとほとうんざりだ黙っててくれ。」 と、飼い犬の値段を表記したことについて怒りを露わにしている。 それほどこの人には迎え入れた犬に思い入れや愛着があるのだろう。 つづけて「何か俺に文句があるなら言ってみろ、SNSとかいう箱庭で調子にノるのが日本人の得意な芸当だろっ?」 名前の由来となったマリリン・マンソンの本名“ブライアン・ヒュー・ワーナー”、DIR EN GREYボーカル“京”、Slipknotボーカル“コリィ・テイラー”の一部分をとって名付けたという投稿に対して日本のアンチが沸いた。 SNSで陰湿な行為を繰り返す日本人を挑発する。 流暢な日本語で煽り、日本人の怒りを助長させていく。 彼の大胆かつ自分の道を突き進むスタイルに私は、ハッとさせられた。 母のご機嫌取りなんかに時間や労力を費やしたら、老いたときの介護などが今よりも果てしない地獄となる。 彼のことをもっと知りたくなって、インターネットで検索をかけてみる。 どれもかしこも似たようなサジェストばかり、メンバーとの仲の関係がトップに来ている気になってタップ。 ブライアン K テイラー、仲間より同志という見出しの下に綴られた一文からインパクトが強い。 「おれは別に仲間というより「同志」だと思っている、俺の思想についてくるは追い返さないし、歓迎する。だけど人間だから意見が食い違うときもある。そのときは容赦なんてしない同志としての意識がない者に組織に居場所なんてないさ…まあ最も、俺は支配されるのは大の嫌いだけどな。支配するなら自分の股の竿から首まで掻っ切ってしまった方が気分がいい。」 "支配"される前に、2度と同等の位置に立てないぐらいにぶっ殺せ" 「テイラーはリーダーとか、兄貴とか…敬われるのが嫌いなんですよね。支配されたくないのに相手を支配するのは話が違うと。」 ギター担当のジョン コーラーは、テイラーのことを誰よりも理解しているらしく言葉には出さないがリーダーとしても、兄貴としても尊敬しているという。 ー……どう思うがお前の勝手だけどなー 恥ずかしいのかつい強めに言ってしまう。 それでもメンバーたちはその場の空気を乱さず和やかにする。 「あとそうだな……。話はガラッと変わるけど、俺には5つ離れた妹がいるんだ、そいつが今どうしてるかは知らないが少なからず大変な思いをしているはずだ。」 ーそれってメンバーの皆さんはご存知でしたか?彼に妹さんがいるのってー 知らない、いたなんて聞いたことなかったと口々にいう。 「俺も今まで話そうかどうか悩んでたんだ、話さなくてもいいことだしな。ただコレは支配とはなにかの話に結びつくからはなそうとおもってな。」 ーこの世界は、恐怖や自身の利益のために他人を支配するのがお好きだ当然弱いものに救いなんてのはないし、戦車は地面をはいつくばるアリに気づかず踏み潰したり、爆風に巻き込まれてアリは消し炭になる。 言葉や態度だけが大きい奴はそのせいで誰かを苦しめていることに気づかない。それで俺の家族の話になってしまうが、俺は誰かに支配されるのがバカバカしくなってロックの道を選んで支配に苦しむ奴らの鬱憤や不満を晴らしてもらいたいんだ。俺は、俺を信じているー 「そう…なんですね……。あのちなみに、妹さんは今…?」 ーさあな、腐れビッチの元で仲良くしてんじゃない? あのド腐れババアは何でもかんでも自分の手元に置きたがる性分だからな。いい歳のアホがよくやるよ…ー 「境遇が似ている」のはたまたまなのか、それとももしかしたらこの人こそ「兄」……? それから彼のことを深く調べ尽くすうちに会いたくなってしまった。 しかしまだ学生で貯金も片方の手のひらに収まるほどしかない。 行きと帰りのことも考えて格安で会える方法を考えなければ。 だけどもう眠たくなってきて頭にはなにも浮かばない、今日のところは寝よう。 「明日友達に聞いてみようかな。」 スマートフォンの電源を落として、私は夢の世界へと落ちていった。 ーそして、翌日ー 口の中が痛む、血の味がしたせいでいつもより早く起きてしまった。 今の時刻は5時23分、いつもなら大体6時30分に起床している。 眠たくて仕方がないでもふたたび寝てしまうと遅刻してしまう。 目をこすりながら床に足をつけてそのまま洗面所に向かっていく。 口の痛みと味は昨日よりも悪化しているかもしれない。尋常じゃない。 -ピコンピコン・・・- まともな状況整理が出来ないってのに毎朝恒例の友達の追いメールがうっとうしい。 せめて朝だけはやめてほしい。 このままイライラに逃げて放置すると彼女が引きずってしまう。 仕方ないので、傷の確認のついでに返信していく。 「冷たいです」「雨で周りが見えない」「気をつけてえ。」 いざ開けばこれ……簡潔に伝えればいいものを…。 「ホント朝っから意味わかんない、放置したら可哀想だと思って見てみたけど…もう。どういうつもりなのかあとで問いただしてやろ。」 この時間は母は起きているのだろうか?鏡で口の中を確認している最中、気配がない。 朝から母と話したくなんかない、足早に用意した着替えを脱着する。 シャツを脱ぎベッドに放り投げ、たたみ重ねられてる衣服の上に胸を支える布がある。 しゃがみ込んだ視界に異変が映りこんだ。 自分の体に、昨日までなかった白い液体の付着物が。 胸の首から、フロントガラスに滴った雨の一滴みたいに形をなぞっていく。 「まだ時期でもないのに…なんで。気持ち悪い。」 もうとにかくおかしな事しか起きてない、早く支度を済ませて行ってしまおう。 着替えを済ませ持ち物揃えて、玄関を飛び出て全速力で向かっていく。 道中はこれと言っておかしなことにでくわさずいつも通りに登校できた。 が、いつもより時間を前倒しにして登校したので門がまだ開いていない。 時間を潰そうにも周りを見渡して目につくのは緑だけでしかないし、ぼーっと壁によっかかっているしかない。 「あの"女"がいるせいで……待つ事になっちゃったよ。ハァ。」 傘に微粒の雨がノックする。 寒くて寒くて、門が開くか開かないかはどうでもいい。 とにかく今は時間を潰しておこう、ぼーっと突っ立っているだけでは流れが遅く感じる。 そうだ、この間に彼のことを深く調べていよう。 イヤホンはあっただろうかポケットをまさぐって、何やら固い感触が広がる。 取って見るとあった、これだ。 片耳に装着して接続させたら、「マリリン・マンソン」と音楽ストリーミングサービスで検索する。 そしたら出るわ出るわ、英語なせいで理解できない。 適当に押そう…。 鋼鉄の弦が音を、歌唱の詩は心を刺激する。 英語なので変わらず何を言っているかわからないが、ボーカルの反抗心がくすぶってくる。 男の子なら好きそうな曲調だな…と、なんとなく私はそう感じる。 何かを伝えたい叫び声、感情入り混じる歌声にもう惹かれてしまった。 ああ、なんでこんな素晴らしい人に出会わなかったのだろうか今、私はこの世にたった1人しかいない運命の相手との遭遇を肌に感じている。 気づけばその歌は0秒に。 「かっこいい……」 素直にシンプルに出た言葉は、嘘ではない。 もっと聞きたい。 今度は静かなフェードイン、目を閉じて聞いているとそれは宇宙的でしかし、人の愛と命は儚いというのを1発で理解させてくれる。 ……いい曲だなぁ。 漏れた声、泣けるという意味ではない。 訴えかけて、“理解”させてくれる。 私の兄と思われるあの人が名前の由来にしたがるのも頷ける。 雨に紛れて聞こえる足音に私は目をゆっくり開ける。 「やっほ!今日ははやいねぇ〜ん」 来た、この子だ朝に意味のわからないメッセージを送ってきたのは。 はあ…ねえ、光香さ聞きたいことがあるんだ なになに? スマートフォンの履歴を見せて、どういう意図で意味はなんなのかと問いただす。 「あ〜〜!それねいやなんとなくさ?春って、病弱ですぐ風邪引くから心配してってさ?」 「嬉しいけどさ、もうちょっと言い伝え方…まあいいやこれ以上は可哀想だし」 光香はイタズラぽい笑顔で私の肩を叩き、足早に学校内へと向かった。 そのあとをゆったりとした歩幅でついていく。 今日はどんな1日になるのだろうか。 イヤホンを優しく耳から離し、下駄箱で靴を履き替える。 「それにしても、私ってお兄ちゃんに会えるのかな。」 なんだかその一瞬だけ、心が虚しくなったような気がした。 考えても仕方がない、早く教室に行って少しの間寝ていよう。 しかし、教室に入った途端また光香がうるさくする。 「光香〜ちょっと寝たいんだよぉ静かにして」 机に突っ伏したまま私は眠たそうな声で放った。 顔は見えないがイタズラぽく笑う彼女、私は気にせず目を瞑り続ける。 少しの沈黙が流れたあと、私はあることを質問しようと目を開けて視線を向ける。 「ねえ、光香」 お、なになに?話す気になったの! 「いやーさ、私お兄ちゃんが小さい頃に家を出ていかされてそれで今どこにいるかわからないの」 光香は私に探せと?と、冗談ぽくいう。 「ううん、違うよ。だけど光香はこの人知ってるかなって」 藪から棒に彼女は不思議がるかと思ったが、それでも快く受け入れてくれる。 面倒なところはあるがさすが仲のいい友達、とても助かる。 この人なんだけど…。 ブライアン・テイラーの画像を見せると、2秒ぐらいは黙っていた。 が、その後に思い出したように声を大きくする。 「わかる!!なんかあれでしょ!なんか、すごいメタルバンドの曲をカバーしてるすごい人」 どうやら、知っているようだ。 じゃあこれは? ブライアン達がメンバーと一緒に話してる記事を見せる。 しかし、それは初めて見るようで少しブライアンの態度や口調に引いていた。 「春は、この記事見たんだよね?なんかちょっと怖くなぁい?メタルバンドのカバーしているからこういうタイプの人はいるっての理解できるけど…さぁ」 まあそれはそうだろう、私はありがとそう優しく言いスマホの電源を落とす。 結局、その後もいろんな友達に聞いて回っても有力な情報はこれっぽちもなかった。 私は屋上で体育座りをしてお母さんに聞くしかないのかなと、暗く考えてしまう。 母には聞きたくない怒られてしまいそう、どうなるかわからない。 脚により顔を近づけて周りの視線を遮る。 私ってば前からそうだ、なにか隙間時間があればこうだ。 暗いんだ、私は。 お兄ちゃんがいれば、褒めてくれるかもしれない。 お母さんがいると、期待してくるかもしれない。 期待はいつも私をどうにかしそうなものばかり。 テストで満点を取りなさい、あなたのお兄ちゃんみたいに反抗しちゃダメ、泣いちゃダメ、いつも笑っていなさい。 無理だよ、私ってば弱いんだから。 ごめんなさい…応えられなくて。 雨が降ってきた。 冷たい雨だ、感情を押しつぶす雨。 天気予報は外れた、私の心模様。 そして、帰り道。 光香は塾があるからと先に帰って行った。 少し寂しい、イヤホンをつけて先ほどの曲を聴き気分を紛らわそう。 この曲がり道を行けば、近道だ。 ダメだ、お兄ちゃんという言葉が思考から離れない。 「お兄ちゃんに会いたい」 震えている私の声は、誰にも聞かれたくない人前で聞かせるわけにはいかない。 胸に手を当てて服を強く握る。 近くに公園があったはず、そこで気分を整えよう。 雨で少し濡れたベンチに腰掛けて俯く。 涙が溢れてくる。 頑張って我慢していた、だけどやっぱり弱いから出ちゃうんだな。 「私ってほんと何やってんだろ…」 自嘲気味に泣きながら笑っていた。 ザッ…ザッ…ザッ… 誰かが近づいてくる、だけど涙は止まらない。 「大丈夫ですか、こんなところで」 優しい男性の声だ。 心配してくれたその人の顔を見上げる。 1発で私は誰かわかった。 その人こそ、ブライアン・テイラーだった。 「………なんでここに?」 小さく細い声だったが、その人はちゃんと聞いてくれていた。 「実はこの地域でたまたまライブをしていて、この公園が落ち着くとのことで来ていたんです、ところで貴女はなんで悲しそうに?」 言えない、この人が私の兄と分かったわけではない。 恥ずかしい、失礼だと思われてしまうのではないかと。 でも嘘はつきなくない。 私は意を決して泣いていた理由を伝える。 「……なるほど。そういうことか……あの記事を書いてくれた人に感謝しなけりゃあな」 ブライアンはその暖かい手を私の頭に置いてこう言った。 −春、やっと会えたな− 「っ……!お兄ちゃん…なの?」 互いに交わす言葉は少なかったけれど、それだけでも私は会えたというその事実にもっともっと泣いてしまった。 お兄ちゃんはそんな私を嫌がらず抱き寄せてくれた。 「大丈夫、大丈夫だ。お兄ちゃんがいるからな」 頭を撫でてくれるその手はもっと暖かくなっていた。 そして、私は泣き疲れたのか今までの心の重りが無くなったのかそのまま体を預けて眠ってしまった。 「ゆっくり寝てくれな、春」 夢の世界へ行く直前、その言葉は優しく私に届いていた。

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「ジャストラバー!」

{レポート記述年月日} 20xx年 4月4日 時間:昼 天気:晴れ このレポートを確認したのち、直ちに対処へ向かってください。 同年、1月1日。「ササキ」という男性がパソコンで何か面白いゲームはないかとサイトをあさっていると、「ジャストラバー!」というギャルゲーのヒロインに心を奪われる。 そのゲームは無料で配信されていて、すかさずダウンロードした。彼自体ギャルゲーなどという恋愛物のゲームには無論興味がないというが彼はこのジャストラバー!に登場する4人のうちの1人「ミヤ」という黒ロングヘアーのヒロインにビビッと来たらしい。 ギャルゲーの王道的なストーリーを進めていくが、このゲームでヒロインと遊んだり勉強したりストーリーにおける「恋情ゲージ」を貯めていき、告白というルートへと進むのだが、面倒なのが「スタミナ」というものがあり最大で「10」個ほど提供されていて、1時間経過ごとに一個回復していく。しかし、彼もそんなに暇ではなく10時間も向き合っていられないので、毎日スタミナを使い果たしては10時間のブラックな仕事を終えた時の気分転換としてプレイする、これの繰り返しだったという。  そして、ストーリーはいよいよ大詰め。 ゲームの主人公「ササキ」は、一目惚れした「ミヤ」から告白されていた。 「こんな拙いワタシだけど、よろしくお願いします!」 しかし、何を血迷ったかササキはここで我に帰る。 「こんなゲームなんかに夢中に…なってもな。」 つぶやいたのちに、彼は選択肢の一つ「断る」をなんの躊躇もなく選択してしまう。 「……えっ?」 ミヤの寂しげなそのセリフには声が当てられていなかった。 このゲームはフルボイスのはずなのにこのセリフだけ静かに文字だけが置かれていた。 「………………………………」 彼女は無表情のまま沈黙…。 すると、螟ァ螂スの顔が歪み始め、奇怪な言葉を発し始める。ゲーム画面全体がノイズに覆われ、激しい閃光と共に強制終了する。 ササキはゲームが壊れたのかと思い、ひどいパニック状態に陥る。 慌ててゲームを強制終了しデスクトップ画面に戻る。 そして一安心し、深呼吸をつき再び画面を見ると…。 螟ァ螂スと彼女の文字化けした名前のファイルがいつの間にか保存されていた。 「なんだこれ…。」 気になってクリックして閲覧すると、そこには、吐き気がするようなグロテスクな画像が多数保存されていた。螟ァ螂スの歪んだ顔、しかも他のヒロインの死体も。そして意味不明な記号が並んだ画像の数々…。 「なっ……んだっ……、これっ。」 声が息と共に発させられるような小さな声でその恐怖に打ちのめされる。 するとその時だ、螟ァ螂スの声が、ササキのデスクトップ画面のボイス認識機能から響き渡る。それはゲームの中の彼女の声ではなく、より生々しく、より恐ろしく「リアルにいる」ような声だった。 ササキは、パソコンをシャットダウンして部屋から逃げ出した。それでも彼女の声はパソコンから響き渡る。 彼の日常は、一つの過ちのせいで恐怖と不安に満ちたものへと変わってしまったのだ。  …そして、彼の生死については翌々日のニュースで取り上げられて「頭をナイフで切り刻み、自殺したか」としてメディアからは勝手に「自殺」として取り上げられてしまった。    この一件の惨劇はこのササキだけでなく他プレイヤーも、同じ状況に出会したことがあるそうで「断る」選択をしたのはササキだけだそう。 他のプレイヤーは「付き合う」を選択したが、それでもミヤの様子はおかしくなっていき開発会社である私達へ直接、メールや電話などでクレームが届いていた。 ササキという名前のプレイヤーがこのゲームをプレイしていたというデータは残っており、警察や刑事の方へ連絡し捜査してもらったら、姿は確認できなかったものの何者かにナイフで頭を切り刻まれていた。 あまりにも不可解かつ非現実的な出来事であったがために、メディアはこれを他殺ではなく、「自殺」として取り上げた。 ※私共は、この悲劇をこれ以上起こしてならないものだと重く受け止め、ミヤの「削除」と恐怖を与えられ精神に苦痛を与えてしまったことを深くお詫び申し上げます。 削除削除削除削除削除削除、螟ァ螂ス螟ァ螂ス!

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「ジャストラバー!」

Irresponsible People

 ときは、蝉の鳴く切なさ纏いセーラー服のスカートがヒラヒラと揺れ、ポロポロと静かに涙が溢れる時期。 切なさだけでなくて、悦楽を奪い去り快楽のために暴れる狂人も活発になる。 ゴキブリや、世界で人を殺める小さき殺人兵器の蚊に混じるかのようにあちらこちらで殺人、猥褻、強盗が巻き起こる。 なにをしても、うごかない自身の自信と正義の開示にしか目がいかない警察にはほとほとうんざりだ。 人はなにを信じ、もしや神を崇拝しているのか? "日本“は無宗教と言われるが年末年始のみならずたとえば、些細なとこにも"神"は宿っている…と、古臭く胡散臭い常識を吐いてるくせに"無宗教"とはよくも言えたものだ。 自分の都合のために創り上げ信じ讃えるのが神なのだろうか、そもそも俺らは神を視たことがあるのだろうか? どんな見た目をしているのか、俺たちにどんな仕打ちや幸福をもたらしているのか。 人が神になりうるなら、天皇こそが神なのだろうか。 そんなはずはない人は人、個々の貧弱な肉体を個性豊かな皮とパーツで守っている存在なのだ。 セーラー服を華麗に着衣しても、どんな美人が恋をしても自身の心に宿っている物体、それこそが「神」なのではないだろうか。 なんのために思考と知恵と感情があるか、人は肉体と皮と骨と内臓だけでは人間的な「賢さ」というのに欠ける。 だから人は自身の心を具現化して、讃えているのがこの世界に創り上げられた「神」なのだろう。 なんにせよ、これらは個人的な考察でしかない。    人は無責任だ。 責任感が人一倍強い人はいるが、自分の身がどうなってもいいという思考をしてる時点で自身に対する責任がない。 自分の身を壊したら、周りに迷惑がかかる。 それをされたら周りの人に作業に対する責任を今までより押し付けてしまう。 人を殺しても、自分の無罪を主張して逃げる者もいる。 「少年法」とは何かを勘違いして、命を奪いまくった卑劣な若者がいた。 若いから何してもいいのだろうか、他人と比べて責任と罰が降りかからないと思ってる者に限って粋がり、なんでも自分の思い通りにしたがる。 「欲」こそが人間を破壊する生まれつきのドラッグ。 誰かを犯したい、誰かの心を冒したい、他の国を破壊したい。 あまり信用はしてないけれど、有名な神話でアダムとイヴがリンゴを齧ったせいで"恥"を感じ始めた。 齧った様子を見かねた神が2人を楽園から追放…という内容なのだがこの2人がリンゴを食さなければ、私達は少しまともな存在としていられたであろう。 「本当の神を恨んだことがないが、 人々が創造する神は大っ嫌いだ。」  この言葉はアメリカの反キリストロッカー 「マリリン・マンソン」の名で知られる彼の名言なのだがこの言葉に私は惹かれたのだ。 本当の神は、我らの心の中の存在。 その神の言うことを信じれば正しい道へ進める。 恐がる事はない、讃えているうちにいずれ誰かが死に次に自身が死ぬんだ。 心に従い、正しい行いを繰り返せばいずれ現実に気がつく。 あいつは敵だ、あいつは嫌いだ。 そんなくだらないことで悩むなら、「心で感じるより、自分の頭で考えろ」 「無責任な人間」になりたくなければ。

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