夜鷹

4 件の小説
Profile picture

夜鷹

このアプリで2個目のアカウントです。一個目はログインできなくなりました。 よろしくお願いします!

蟻とマスカット

私は、恐らくごくごく平凡な幸せ者だと思う。 祖父が持つ農園を継ぎ、そこそこな稼ぎがある。 たくさんの資産があるかと聞かれれば微妙だが、それでも少し贅沢できるくらいには裕福だ。 妻とは小さい時から家が近く、よく遊んでいた。 そして20歳になって晴れてプロポーズをした。 内心ドキドキだったが、彼女は涙を浮かべてOKをしてくれた。 恐らく私も泣きそうな顔をしたいなのだろう。彼女は私の顔を見て少し笑っていた。 結婚してから7年、2人の子供を授かった私は日々仕事に勤しんでいた。 これは、言い訳になるかもしれない。いや、きっと自分が納得したいだけの言い訳なのだろう。 私は、この幸せに溺れていた。油断していた。 人とは脆く、幸せは突然牙を剥き、絶望に成り替わるということを忘れてしまっていた。 農園から帰って来て、いつもの通り子供達が出迎えてくれると思っていた。 玄関を開け、靴を脱いでリビングに入る。いつもはそこで料理を作っている妻が、この日はいなかった。 若干の違和感を感じながら、子供達の出迎えがないことに遅れて気づく。 きっと部屋にいるのだろう。 驚かそうと静かに階段を登り、子供達の部屋の扉を静かに開ける。 しかしそこには誰もいない。子供達のバックもない。 心配になった私は、妻に電話をかけた。 今思うと、この時から「いつも通りの日常」は崩れていたのではないだろうか、そう思ってくる。 1コール、2コール、3コール… いくら掛けても、妻が出ることはなかった。 その夜のことだった。 部屋で慌てていた私に、一件の電話が掛かった。 妻だと思った私はすぐにその電話に出た。 気がつけば、私は大きな病院の手術室の前に力無く座っていた。 そこにいた警察の人が何があったかを教えてくれた。 子供達を迎えに行った帰り道、道路を渡っているところ、信号を無視した車が妻と子供を跳ねたそうだ。 話終わり、少しの静寂の後、彼らは軽く会釈して帰っていった。恐らく犯人を探すのだろう。 私は…てっきり自分が犯人を憎んでいるのだと思った。 けれど、改めて現実を受け止めると犯人など、どうでもよかった。 ただ私は、祈っていた。 妻と、子供達が無事に生きてくれることを。 それしか…出来ることがなかった。 あの事件から半年が経った。 私は抜け殻のようになっていた。 妻を失い、子供を失い。 残ったのはなんの価値も見出せない農園と家だけ。 葬式は小さく行い、妻の家族にもあった。 向こうもいろいろ言いたいことはあったのかもしれない。けれど、何も言わなかった。 今はただ、農園で日が沈むまでただ世界を眺めているだけだ。 今年は豊作だな。 大きなシャインマスカットが、足元に落ちたのを見て、そう思った。

2
0
蟻とマスカット

ある魔法使いの日記

今日はこの日記をつけ始めて421年と102日目。 今日は私の人生の中でも不思議な体験をした。 昔、薬の実験で生まれた不老薬を飲んだ私は、不死ではないが不老の存在になった。 けど、人というものは異常な存在を消そうとしたがる生き物だ。 だから私はできるだけ誰にも悟られないように、山の奥でひっそりと暮らしてきた。 今日もいつも通り畑の手入れをして、飼っている動物達に餌を与えて。 いつもならこの後、地下に作った書庫で本を読むのだが、今日は気分を変えて、山を散歩してみることにした。 山頂まで箒を飛ばし、山の一番上にある木の上で、夕陽がゆっくりと沈んでいくのを、ただただ見つめていた。 完全に沈んだ頃、そろそろ帰ろうか。そう思った時だった。 〝ドン〟 大きな音と共に、空いっぱいに広がる火の粉。 それはただの火の粉ではなくさまざまな色に、形に変化した。 その火の粉は怖いほど綺麗で、そして儚かった。 魔法ではない。今の人間たちには、魔法を扱う術は無かったはずだ。 ただ分かるのは、目の前に広がる炎の芸術は、私が見てきたどんな魔法よりも美しいものだということ。 何回も、何回も広がる炎にいつしか私は考えるのをやめ、ただその風景を脳裏に焼き付けるだけだった。 どれぐらい経っただろう。 永遠にも思えて、実は一瞬だったかもしれない。 そこからはあまり覚えていない。 箒で帰ったのか、歩いて帰ったのか。気づけば私は家の玄関の前に立っていた。 一通り家事を済ませて、暗くなった空を窓から見ながら私はほんの少しだけ、興味を持った。 見てみたい。今の世界を。 何年も、押し殺してきた感情だった。 私が魔女だとバレれば殺されるかもしれない。いや、もっと酷い目に遭うことだってある。 それでも、見てみたくなった。 明日、早朝に家畜を放したら歩いて山を降りよう。 もしかしたら、もう帰って来ないかもしれないけど。 今の世界には魔法よりも不思議なものがあるかもしれない。 私は…知りたい。

2
0
ある魔法使いの日記

図書室

「人間失格、津軽、女生徒…この人、絶対太宰治好きでしょ。」 返却ボックスの中にある本を確認しながら、私は本を借りた人の事を想像する。 図書室、好きな人は何度も行く場所だが、縁が無ければ学校生活で一回も立ち寄ることがない場所。 そんな場所で私は、1人寂しく図書委員の仕事をこなしている。 佐藤 彩音(さとう あやね)、私の名前だ。 別に本を愛しているかと言われればそうでもないが、恐らくクラスの子に「本好きな子は?」と聞けば10人中10人は私を指すだろう。 「はぁ。それにしても貸出数17冊。全校生徒が600人もいて借りてるのが17人…少ないなぁ。」 まぁ…そもそも高校生は本を読んでるような時間は無いのかもしれない。部活、課題、テスト。それらだけでも時間は過ぎるのにわざわざ図書室まで来て本を借りる生徒はほんの一握りだ。 (あと三週間でテスト…私もそろそろ勉強しないとなぁ) 返却された本を戻しながら、これからの三週間に絶望していると、後ろから勢いよくドアが開く音がする。 「やぁ佐藤くん。委員会の仕事ご苦労さま。」 「げっ…」 「そんな露骨に嫌な顔をするなよ。流石に泣くぞ。」 「本は濡らさないでくださいね。」 「俺への優しさは無いのか…」 入ってきたのは朝灯 健(あさひ たける)、図書委員長であり、関係は…ただの腐れ縁だ。 「まぁいいや。それで見たところ仕事は終わったみたいだな?」 「見ての通り。で、何のようですか?」 「お前、どうせ暇だろ?だから少し手伝って欲しいことがあるんだが…」 「面倒な仕事は遠慮します。」 「まぁそういうなって。それで手伝って欲しいことなんだが…」 面倒だったら断ろう。絶対に。 「うちの大事な本を破いた犯人探しだ。」 そう言った先輩の顔は、いつになく真剣だった。 …… ………… ……………これ、断れないやつじゃん。

13
1
図書室

はじめまして

初めまして。夜鷹と申します。 知らない人がほとんどだと思いますが、ちょっと前に「夜鷹」というアカウントで投稿していた者です。 前のアカウントは、スマホを変えたことによりログインできなくなり、泣く泣く新しいアカウントを作りました。 また一から投稿していくので、よろしくお願いします。 補足 主はぴかぴかの高校一年生です。

3
0