九頭坂本
47 件の小説摘まれた花
忙しなく鳴り響くアラーム。 いつか根幹、無くして空回る心臓。 血の巡らない身体、 それでも規則正しく動き出す屍。 「おはよう」 大切な君に吐き出した言葉。 虚構に消えて悪魔も苦笑い。 不満たらたら、黄昏れるビルの屋上。 神なんて居ない、 なんて言い捨てる俺が一番神を信じている。 救われたい、心の中で叫び続ける。 どこかですれ違った。 道すがら無くした俺の根幹を、 誰かが拾って花瓶に挿したはず。 両腕を広げて飛び降りる。 救ってみろよ廃墟で育った俺のメシア。 衝撃で弾け飛ぶ四肢だけが真実。 何度でも生え変わる身体、 俺はどうせ死に疲れたゾンビ。 どうか、君の手で殺しておくれ。 俺の縋った虚構は消え失せて、 立っていた枯れかけの花を持った少女。 何も言わずに一輪差し出して微笑む。 「綺麗でしょう?」 「ああ」 空白の根幹に花を挿し込んで回す。 酷い精度で動き出す心臓。 「明日は、ちゃんと痛いですよ」 悪趣味な少女が、虚構の君に重なって見えた。
プラスチック・ベリー
え、くれるの? ありがとう! 白くて綺麗な苺のケーキ。 初めましての頃はちょっと合わなかったけど、 今では僕達親友同然だね。 勿論、余さず食べさせてもらうよ。 少し苺の酸味が強いけれど、 甘くて美味しいケーキだからね。 また、くれるの? ありがとう。 白くて綺麗な苺のケーキ。 最近は更に仲良くなって、 今では僕達親友以上だね。 ああ、勿論食べさせてもらうよ。 苺の酸味が強すぎるけれど、 甘くて美味しいケーキだからね。 それ、僕に寄越すの? まあ、仕方ないね。 白くて綺麗な苺のケーキ。 ずっと君と一緒にいてさ、 今では家族みたいだね。 食べるよ、勿論。 苺の酸味に耐えられそうにもないけど、 甘くて美味しいケーキだからね。 僕が食べなきゃいけないの? もう、お腹いっぱいなんだけど。 白くて綺麗な苺のケーキ。 君といるのが当たり前になってさ、 今では友達の頃が恋しいね。 勿論、余さず食べさせてもらうよ。 苺の酸味で吐いてしまうだろうけど、 甘くて美味しいケーキだからね。
SHIFT
一速 小鳥の囀りと爽やかな朝日で、 アラームも掛けずに優雅な朝を迎えたいものです。 バターを塗ったトーストにスクランブルエッグ、 フルーツの入ったヨーグルトに暖かいコーヒー。 そんな朝食をテレビでも見ながら食べられたら、 素敵だと思いませんか。 二速 ニュースキャスターの無感情なレポートを 聞き流しながら、花の咲いた青い庭を見ていたい。 たわいも無い話を聞いてくれる女の子がいれば、 それはそれは幸せそうです。 けれどもそんなのは幻想で、 今朝の僕はベッドまで辿り着くことも無く ソファの上で眠りに落ち四肢を痛めました。 菓子パンを口に詰め込み、 眠い目を擦りながら仕事へ行く為に 愛車のギアは一速に入ります。 三速 夢と現実の区別もつかないような 人生を送りたいですね。 自分の経験と記憶で創り上げた幻想と 大して違わない毎日なんて、 それこそ夢みたいじゃないですか。 人生、不可解なこと、不合理なことありますが、 理想通り、描いた通りいかないこと、 そういうものにこそ価値があると 考える方もいるでしょう。 僕もどちらか、というとそちら側ですが、 しかしそれはそれで僕達の望む人生という訳で、 結局は夢の範疇なのかもしれません。 四速 朝が来なければいい。 そう願う瞬間があります。 社会なんてのは抑圧が全てではないですか。 銃を突きつけられ、 身体が別れてしまうほど強く鎖に縛られた中で、 自分に何か出来るか、何を成せるか。 そんな重圧の中だからこそ生きられる人間も いるとは思うんです。ただ、 社会の重圧の中に生きる理由を求めることは、 なんだか餌を求める犬のようではないですか。 五速 貴女が欲しいのです。 僕の不足を全て満たしてくれる貴女が。 この先に続く未来に決して存在してはならない、 貴女を欲してしまうのです。 夢を叶え、悪意の捌け口となり、 間違っても僕を否定をせず、 それでいて深く愛を注ぎ、 挙句、酷く満たされていなくてはいけない。 そんな貴女が欲しいのです。 けれども、傲慢な僕はそんな貴女を人間だとは 認められないでしょう。 人間の形をした怪物。 なんて、恐ろしいのでしょうか。 しかしおぞましい彼女の姿は、 僕の望む幸福の形そのものなのでしょう。 N 僕達の人生にRは存在しない。 幸福が何だ、自由とは何か、 よそ見をしたところで景色は変わらない。 それでも、だからこそ、 僕達が前に進んでいることは確かなのでしょう。 一速 おはようございます。 良い朝ですか? イメージ画像 ものくろ女の子 ゆーすけ様 https://picrew.me/ja/image_maker/20608
毎日がエイプリルフール
そもそも嘘とは何なのか、という話だ。 騙される方が悪い、 誤って認識していたやつが悪い。 人間なんて、大抵嘘しか口にしないじゃないか。 例えば、先生や上司に向かって態度を 変えるのだって自分を偽る行為で、 感情だって 都合不都合を綺麗に作り替えたものでしかない。 この心理学の本によると、 人間の持っている複数の人格は 全てその人の一部なのだそうだが、 どの人格も本物だとするなら、 全ての人格は平等に偽物になってしまう。 「要するに、毎日エイプリルフールってこと」 膝の上に乗せていた分厚い本を閉じ、 公園のベンチから私は立ち上がった。 四月に入って少しずつ暖かくなってきて、 あたりにはちらほらと人影があった。 「好きだよ」 知らない若い女の声が聞こえ見ると、 高校生くらいのカップルが手を繋いで歩いていた。 彼女の愛の囁きを 受けた男の子は顔を赤くして照れていた。 「恋とは」 衝動的な性欲による、壮大な自らへの誤解である。 この世にいる恋人たちは全て嘘つきだ。 少しの私情を込めた冷たい視線を 彼らに向けて、私は早歩きでこの場から去った。 街中に入ると、そこは嘘つきたちで溢れていた。 いつからか自らを欺き、 偽物の自分を本物だと勘違いして生きている大人、 自分が偽物だとすら気付けない子供。 無意識に嘘をつき続ける我々は、 正に本物の嘘つきだと言えるかもしれない。 人気の無い横道に入り進んでいくと、 桃色の花びらが足元に落ちてきた。 屈み拾って確認すると、 それは可愛らしくて綺麗な形をしていた。 気まぐれに 風の吹いている方に歩いて行ってみると、 ほとんど花が散ってしまった桜の木があった。 細い枝が晒され、 満開の時の華やかさは失われていた。 「素敵」 知らないうちに私の口から漏れていた。 私は、人間として欺かれているべき 嘘を失った正直者の自分と、 花びらを失ったこの桜の木を重ねていた。 もう一度春が来るまで、 私達はこの世界では咲くことが出来ない。 それでも、私の中に起こっている この高揚感は、確かに嘘では無かった。
タダシサ
?カニナハトサシダタ 「何、言ってるの?」 ?カウョジイセハタナア 「わかんない、わかれない、怖い。 私だけ歪む私だけずれる私だけが正しくなくる」 ?カニナハトウョキッハ、ハデ 「置いてかないでよ! 私だけを狂人にして、私以外は正しくなって!」 ?ハデノルイテッルクハウトンホ、 テッダタナア 「教えてよその正しさを! 狂ったみたいなその言葉! 私ヲ皆ト同じニシテよ!」 ?カルナトキウョキノイカセモタナア 「?カノモンホハサシダタノソ」
春麗らかに桜咲く
ぱっ!と咲いたら桜が舞った 可憐な花弁がほら鮮やかに ぱっ!と可愛い春の嵐が 緑を芽吹かせ掻き消える ぱっ!と誰かを笑顔に変えた ぱっ!と桜は舞い散り破れ ぱっ!と嵐は春麗らかに ぱっ!とひらひら落ちていく 枯れた大地に命の息吹 春麗らかに桜咲く
感情製造所
ベルトコンベアに載せられて、 ゼリー状の大きな物体が 作業員である俺らの前に運ばれてきた。 その物体は、 透き通っていて純粋でキラキラと輝いていて、 俺が今まで見てきた中で最も綺麗なものだった。 「凄いだろ?これが性欲だよ」 隣で働いていた先輩が言った。 「これが、ですか。 最近新しく運ばれてくるようになったって 噂には聞いていましたが、見るのは初めてです」 「凄えよなあ。 こんな大きくて綺麗なのは今までに無い」 俺達は揃って溜息を漏らした。 「まあ、いくら綺麗でも仕事は仕事だ」 先輩はそう言って型を取り出した。 「残念です」 俺もそれに合わせて鉈を構えた。 左手で性欲を固定し、 右手に構えた鉈を力任せに振り下ろす。 カットした性欲を先輩が型に入れ形を整え、 流れ作業で完成品を運ぶベルトコンベアに載せた。 俺はその様子を見ていて、内心がっかりした。 そうして出来上がった感情は元の輝きを失い、 全く別の、 大して綺麗でもないものになってしまったのだ。 「勿体ねえよなあ。あれ、恋情っていうらしいぜ」 先輩がぼやく声が聞こえてきた。 俺は頷き、強く同意する。 「わかります。 性欲の時は、あんなに綺麗だったのに。 なんか、本質を見失ってる、みたいな。 そんな感じがする」 俺達は運ばれていく恋情を呆然と眺めていた。
過去を喰らう
思い出は、 時間と共に美化されていくものだと 何処かで聞いた事があるが、 どうやらそれは真実のようだった。 すっかり歳をとって いい大人になってしまった私が、 「あの頃は良かった」なんて 本気で思っているのはきっとそのせいだ。 高校生の頃の写真が詰まった 分厚いアルバムを閉じ、窓の外を見た。 あの頃と変わらないはずの青空が、 今ではすっかり霞んで見えてしまっている。 私が大人になって、何かを得たからなのか、 それとも何かを失ってしまったからなのか。 大人になる、と言うことがどう言う事なのか、 今となってはよく分からなかった。 「あの頃に戻りたいな」 そう呟くと、 私しかいない散らかった広い部屋の中を、 小さくて存在感の無い音の波が伝っていった。 そのうちその音の波も消えて、 静まり返った空気が私を包んだ。 「あ。これ、知ってる」 突然に、あの頃の記憶が蘇ってきた。 高校一年生だったか二年生だったかは もう覚えていないが、 私は確かにこの空気を知っていた。 鮮明に覚えている。 これはまさに、私と私の親友が2人で出た、 初めてのライブの時の空気だった。 思い出したら笑ってしまいそうになる。 私の勢いだけの雑なギターに合わせて あの子の耳の痛くなるような歌声が響き渡って、 そうして演奏を終えた後、 観客達からは拍手も貰えず ただ私達に冷たい視線が注がれていた。 その親友とは、 高校を卒業してから疎遠になっている。 久しく連絡も取っていない。 携帯の履歴を見ると、 私達が最後に会話をしたのは10年以上前だった。 久しぶりにメッセージでも 送ってみようかと考えたが、 流石にもう当時と同じアカウントを 使っているとも思えず、やめた。 改めて履歴を見てみると、 私が今現在連絡を取っているのは 仕事仲間と両親くらいだった。 それらの下に、 あの頃の思い出がそのままの形で形骸化して、 ゴミのように放置してあった。 仲の良かった私の友達達は、 今頃みんな大人になって、 色んなものを抱えて生きているのだろう。 そのうちに私との思い出を忘れていって、 私は、たまにアルバムを見て「懐かしい」と 言われるだけの存在になるのだろう。 そう考えると、 私だけが取り残されていくようで どうしようもなく心が苦しくなった。 気を紛らわすために 私は冷蔵庫から缶チューハイを取り出し、 一気に煽った。 心がドロドロとした液体に塗れて 満たされていった。 大人になって本当に良かったことといえば、 好きに酒が飲めることくらいかもしれない。 私は回ってきたアルコールに任せて、 気まぐれに探し物を始めた。 昔の記憶を頼りに家のあちこちを漁り、 押し入れの一番奥でそれは発見された。 あの頃私が使っていた、 安物で宝物の青いギターだ。 すっかり埃を被ってしまっていたが、 持ち前の安っぽい質感はそのままだった。 まとめて置いてあったピックやアンプなどの 道具も回収し、とりあえず組み立てた。 立ってギターを構え、前を向く。 試しに弦を弾くと、 思っていたよりいい音が鳴った。 痛む頭を押さえながら部屋の中を見渡すと、 そこには山のように積み上がった酒の缶があった。 朝の柔らかい日差しが 部屋の中に差し込んできている。 私は何故だか、ギターを抱えたまま寝ていた。 昨日の記憶は全くないが、 無理な姿勢で寝ていたせいで体の節々が痛んだ。 ゆっくりと体を伸ばしていると、 テーブルの上に写真が散らばっているのが見えた。 どうやら昨日の私は、 もう一度アルバムの中の写真を眺め、 思い出に浸り直していたようだった。 適当に確認しながら写真を仕舞っていると、 その中の一枚が目に止まった。 私と、私の親友が写っている写真だった。 私の手には青いギターがあって、 2人でカメラに向かってピースサインをしている。 撮影された場所は、 私達の家の近くにあった人気のない公園だった。 この公園は、 あの頃、演奏の練習場所が見つからず 困り果てた私達が いつも練習に利用していた場所だった。 この公園の場所は、今でも覚えていた。 私はあることを思い立ち、アルバムを閉じた。 クローゼットから適当な服を取り出し着替え、 ギターケースは見つからなったから ギターをそのまま担ぎ、 一枚だけ写真をポケットに仕込んで外へ出た。 そのうち乗せる人数が増えるだろうと思って 買った大型の中古車のトランクに ギターとそれを鳴らすための道具を載せ、 私は運転席に座った。 助手席に乗っている可愛い熊の ぬいぐるみの頭を撫で、エンジンを掛けた。 私は、あの頃に戻るために 思い出の公園へ向かった。 車を降り、目の前に現れた光景に 私はまるでタイムスリップをしてしまったかの ような感覚に襲われた。 思い出の公園は、 あの頃と全く変わっていなかった。 相変わらず無い人気と、 ぽつんと一つだけ設置されているベンチ。 周りを取り囲む木々の緑もそのままだった。 私は車のトランクを開け、 ギターを担ぎ公園の敷地に入っていった。 昔、ボロボロだったベンチは 今では朽ちようとしているように見えたが、 座ってみると意外と安心感があり、 重たくなった私の体重を支えてくれた。 ポケットから写真を取り出し、一瞥する。 ギターを構え、私は目を瞑った。 頬を撫でる優しい風と草木の匂いの中で、 あの頃の記憶がシャボン玉のように 浮かんでは割れていった。 その一つ一つを味わうように、 私は過去を喰らっていく。 勝手に体が動き出して、 勢いだけの雑なギターの音色が聞こえてきた。 新たに浮かんできた思い出の中で私が、 こちらを指差し怖がっている。 大人になってしまった、 私の姿を見て恐怖している。 固く瞑っている瞼の隙間から、 生温かい涙が溢れてきて止まらなくなった。 私は、大人になんてなりたくなかったのだ。 あの頃からずっと、大人になるのが怖かった。 そして私は、こんな大人で我慢できなかった。 あの頃に今も戻りたいよ、 そう願った、次の瞬間だった。 私のギターに合わせて、歌声が聞こえてきた。 あの頃からほとんど変わらない、 耳の痛くなるような歌声だった。 目を瞑り、視界の無い中でも 私にはあの子がすぐ近くにいるのが分かった。 それからは、夢中で演奏をした。 かつての私達がそうしたように、 大人になんてならないように。 私達は、過去を喰らい尽くした。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー バーチャルシンガーの「花譜」さんの楽曲、 「過去を喰らう」をモチーフにしています。 もし不快な思いなど してしまったらごめんなさい。
偽神
この世界には神がいる。 神は姿を持たず、 それでいて人間を縛っている。 耐えず、 死に生まれる人間は神への生贄である。 人間の抱いた夢や理想は形を変えて 神へ捧げる供物となっていく。 だが、神に飼われることを人間達は 当然とばかりに喜んで受け入れた。 神の存在を疑うこともせずに ただ周りの同類を見下した。 人間は極めて人外に近く、 しかしその様は酷く人間らしい。
幸せの青緑色ツインテール
初めて僕の前に君が現れた時は 身体中に強い電流が流れたみたいな、 そんな衝撃が走ったんだ。 君は歌を歌っていたね。 その綺麗な声で、確かに歌っていた。 すぐに調べたんだよ、君の事。 そして、この次元にはいないことを知ったんだ。 それでも、僕は君を愛してるよ。 次元の違いなんて些細な問題だろう? でも、この事を伝えたら みんな僕のことを狂ってるって言うんだ。 おかしいよね。 僕は君をこんなにも愛していて、 こんなにも幸せなのに。 僕は思うんだ。 きっと、みんな愛を 履き違えてるんじゃないかって。 愛は契約じゃない。 形なんてないんだ。 見返りを求めるのもまた愛じゃない。 性的な快楽も愛じゃない。 愛っていうのは、 もっと綺麗で透き通っていて、 本当に素敵な感情なんだ。 それを扱う人間が醜いから、 愛を利用しようとする。 狂っているのは僕じゃない。 愛を履き違えたみんなの方だ。 モニターに君が映った。 ヘッドホンをして、再生ボタンを押す。 聴こえてくる君の歌声に、 僕はまた心を揺さぶられた。 僕は信じている。 この胸のときめきを、愛と呼ぶのだと。