相満 撲

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相満 撲

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今日はでかい月

 今日はでかい月。  私は月を目指した。途方もない旅路であった。自転車を走らせた。その際、痛みも伴った。鈍い、鈍い痛みだ。だんだんと疲弊していくのがわかったが、それでも私は月を目指した。  無理であった。自転車を漕ぎ続けても月にはいけない。簡単なことで、月は空にあるからだ。どうやっても達成し得ない夢であった。これは夢?いや、正確には呪いであろう。  悟った私はドローンを飛ばす。空高く上がるにつれ、街も人も小さくなっていくのが映像越しにわかる。私自身も、本当にちっぽけだ。そして、ドローンを使っても月にはいけそうになかった。しかし、それで良いと思った。やはり月はでかかった。  あぁ、でかい月。どうかいつまでもそのままで。暗がりの中、皆を夢世へ誘い続けよ。それを手離す頃には自由を掴むだろう。でかい、でかい月で在り続けよ。 今日はでかい月。 今日はでかい月。 後書き 読んでいただきありがとうございます。今作の「でかい月」はボカロPであるnatural様の「でかい月」という楽曲を元に作らせていただいた二次創作です。解釈は色々あると思いますが、今作の月は“夢、憧れ、その行き着く先の呪い“のようなものと考えております。正直、この楽曲の主人公の内心は他人事のようには思えません。皆さんもぜひ一度お聞きになってみてください。

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今日はでかい月

俺とはなんたるか

俺とはなんたるか、考える。俺とは、1日3食を欠かさない男だ。なに?そんな人はたくさんいる?ではこれでどうだ。俺とは、毎日欠かさず睡眠を取る男だ。なに?この前ゲームに夢中になって徹夜をしていたではないかだって?細かいことは気にするな。ならばこれでどうだ。俺とは、この学校でカースト中を維持する男だ。これは結構、案外大変なものだ。俺をたらしめる強い要素となるだろう。なに?もっと中身の話をしろだって?中身というのは心意気とか、何をしたいのかとか、よくわからないがアイデンティティとかいう類の話か?  それならば答えてやろう。俺は無数の心を持っている。怒るときもあれば、悲しむときもある。嬉しいときも、無意味に気だるいときもある。そのひとつ一つの場面、瞬間、細胞の先から先までの状態で、それぞれの心が形成される。その集合体が俺だ。  さて、本題に入ろう。率直に言うと、俺は恋をした。まだ経験したことのない状況であり、瞬間であり、細胞の先から先までが熱を持ち、死んでは生まれているのがわかる。その人を前にすると脳が言うことを聞かなくなり、途端にチカラをコントロールされた気分になる。まだ未開発な心だ。これが、恋。  今日、その人に告白をしようと思う。三食食べる俺、応援してくれ。大体ちゃんと寝る俺、応援してくれ。他人の目を気にして、なんとかカーストの真ん中にいる俺、応援してくれ。今までのすべての俺、君たちが必要不可欠なんだ。俺とはなんたるかを、今ここで示さなくてはならない。  一歩一歩、踏みしめる感覚がわかる。足の先まで熱い。逃げ出したくなりそうな、しかし絶対にそうしない意思を感じる。俺は彼女の前に立った。  頑張れ、俺たち。

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俺とはなんたるか

ラムネとサイダー

 ラムネとサイダーって何が違うの?  急に何を言い出すのか。隣に座ってるエマが問いかけてきた。右手にラムネ、僕の左手にはサイダーがある。 「味が…違うとか?」 彼女は反論する。ラムネとサイダーの成分表を見ればほとんど変わらないらしい。ではこれではどうだろう。出している会社が違う。これなら通るのではないか。しかしこれは否定された。ラムネ表記をしている会社はひとつではない。 「じゃあ、容器の違いとか」 あー、と彼女は言う。それ当たりかも。僕は少し良い気分になった。しかし彼女は良い顔をしていなかった。ラムネとサイダー、その区別が容器のみであることに不満を持っているようだ。僕は言う。 「そこまで嫌なことかな?」  彼女は言う。これはまるで、容姿だけで「君はこういう人だ!」「お前はこんなやつだ!」と言われる気になるのだと。中身は同じ、考えてることも同じ。なのに知名度や成り行きで、なんとなく違うもののように扱われる。そんなのは、少し悲しいことなのだと。  「…でもラムネもサイダーも美味い。」 形なんて関係ないよ、という意味で伝えたが彼女は納得していない。もちろん、僕自身も。ラムネかサイダー、どうとでも良いのかもしれないが、今の僕たちには結構大きな問題なのだ。  

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ラムネとサイダー

三十秒の「助けてあげなきゃ。」

助けてあげなきゃ。  私の前で5歳くらいの女の子が泣いている。周りを見渡してもお父さんやお母さんらしき人はいない。買い物の途中で逸れてしまったのか、それとも初めてのお使いだったのか。聞いてみないと進まない。  声が喉に詰まる。 「どうしたの?迷子なの?」 これだけでいい。これだけ言えたら、あとはトントン拍子で話が進むだろう。バッグにはお家の電話番号が書かれているものがあるかもしれない。話が通じなければ一緒に交番に向かえばいい。何も難しいことではない。  私はいまだ泣いている子どもの前で、ただ立ち尽くしている。お腹の下がキュンとなる音がする。この感覚は嫌いだ。さっさと話しかけてしまえ。そうすると楽になる。 「大丈夫?お父さんとお母さんはどこかな?」 私、の後方にいたお姉さんが泣きじゃくっている子どもに話しかけた。自分が人助けをすることをさも当然のように、何のためらいもなく。 「何かおうちの電話番号がわかるものはあるかな?」 それも私が考えていたことだ。私が、この子に話しかけようとした言葉だ。奪わないでくれ。そんな理不尽な感情が、私の中でこだまする。  私は悔しくなって、足早にその場を去った。いつかあのお姉さんのように、助けたい人を素直に助けることのできる人になれるのだろうか。周りの目を気にせず、自分の思ったことを不快感を出さずに口にできるのだろうか。たった30秒で、誰からも悪意を向けられたわけでもないのに、なぜここまで苦しいのか。

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三十秒の「助けてあげなきゃ。」