三十秒の「助けてあげなきゃ。」

三十秒の「助けてあげなきゃ。」
助けてあげなきゃ。  私の前で5歳くらいの女の子が泣いている。周りを見渡してもお父さんやお母さんらしき人はいない。買い物の途中で逸れてしまったのか、それとも初めてのお使いだったのか。聞いてみないと進まない。  声が喉に詰まる。 「どうしたの?迷子なの?」 これだけでいい。これだけ言えたら、あとはトントン拍子で話が進むだろう。バッグにはお家の電話番号が書かれているものがあるかもしれない。話が通じなければ一緒に交番に向かえばいい。何も難しいことではない。  私はいまだ泣いている子どもの前で、ただ立ち尽くしている。お腹の下がキュンとなる音がする。この感覚は嫌いだ。さっさと話しかけてしまえ。そうすると楽になる。 「大丈夫?お父さんとお母さんはどこかな?」 私、の後方にいたお姉さんが泣きじゃくっている子どもに話しかけた。自分が人助けをすることをさも当然のように、何のためらいもなく。 「何かおうちの電話番号がわかるものはあるかな?」 それも私が考えていたことだ。私が、この子に話しかけようとした言葉だ。奪わないでくれ。そんな理不尽な感情が、私の中でこだまする。
相満 撲
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