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3 件の小説第二問 √1 中村・烏野編
「ただいま」 「おかえり。今日は遅かったのね。ご飯できてるわよ。」 「うん…先風呂入るわ…」 俺は母の返事も聞かず部屋へと階段を上がっていく。反抗期は俺には無い。何故なら我が家は母子家庭で母一人で家庭を支えている。そんな母に迷惑をかけたくは無いと思い、勉学にも励むようになった。母には再婚でもして楽に生活を送って欲しいと思っているが、俺を気に掛けているんだろう。部屋に入り俺は鞄を置き、ベッドへ横たわった。ふと目に入ったのは机の上のゲームソフト。 「なんだあのゲーム…」 近づいてパッケージを見てみると表紙は鮮やかな青色に文字はカラフルな色。裏を見てみるとゲームの絵や説明は記載されていない。ゲーム名を見てみると尚更世界観が分からなくなる。 『現世の想ひ出はより深く!』 「それ今日ポストに入ってたのよ。」 部屋の前に母が立っていた。 「…あ、そうなんだ。」 「丁度買い物から帰って来たらポストの前に金髪の子がいてね、声掛けたら秀雄の友達って言ってたのよ。秀雄と同じ学校の制服だったから上がって行ってって言ったんだけど、遠慮して帰ったのよね。」 俺の学校での唯一の金髪。烏野だと確信した。 「なんか言ってた?」 「帰ったらすぐ開けてほしいって。」 「そっか、ありがとう。一年の時から仲良くしてくれてるんだ。」 母は何も言わず嬉しそうな顔で部屋を出ていった。 俺はすぐに箱からゲームを出した。ゲームはディスクタイプ、俺の持っているゲーム機対応だった。すぐゲーム機を起動し、テレビを点けた。データダウンロードしている間にゲームの箱を見ていると「R18」と小さく記載されていた。 「…あいつ俺に何をさせようとしてんだ。」 するとダウンロードが完了し、タイトル画面が映り込む。スタートボタンで進むと画面が変わった。 『ようこそ救世主。ここは異世界へと繋がる門、異送ゲートと言われている。今異世界は危機に陥っている。賢者は大昔に消滅し、村も朽ちた。唯一の生き残りがお前だ、救世主よ。賢者としてこの世界で強くなり、異世界を滅ぼそうとしている魔王を倒してくれ。さぁ、ゆけ救世主よ。』 「異世界系のゲームか、確かにあんまりやった事ないな。」 すると画面が変わりそこは森の中だった。鳥の囀り、川の水の音、木漏れ日が降り注ぐ静かな森。 次に賑やかな町、子供の遊んでいる姿、商売、ギャンブル、モンスターと戦う勇者達と次々に映像が流れていった。 『秀雄ー!ご飯食べちゃいなさーい!』 「…はーい」 良い所で居間から母の声が響いた。俺はゲームを点けたまま居間へと向かった。 「今日は秀雄の好きなハンバーグよ。」 俺と母は無言で食事を進めていた。 「…秀雄、学校で何かあった?」 「まぁ、ちょっと先輩と友達が喧嘩してさ。何もできなかったから情けなくてね。」 「秀雄も成長してるのね、母さん嬉しいよ。」 成長か。本当にしているのだろうか。母に心配を掛けてしまっているとすれば友人関係だろう。今まで友達を家に呼んだり、遊びに出かけたりした事がない。そんな俺を成長したと誉める母は俺に甘い。 「秀雄。失敗も勉強よ。迷ったら進みなさい。悩んで何もしないのは0点よ。」 「…うん、明日色々話してみるよ。」 母を見ると嬉しそうにしていた。 「母さん、ありがとう。」 そう伝え食事を終えた。 俺はそのまま浴室へと向かった。服を脱いで髪と身体を洗い、湯に浸かった。湯に浸かりながら俺は烏野のことを思い浮かべていた。烏野とは高校一年生のときに出会った。 〜高校一年生時代〜 『テストどうだった〜?』 『やばいかも〜』 クラスメイトが話している横で俺は内心驚いていた。今回のテストはかなり簡単だったからだ。俺は溜息を吐いた。 「ねぇねぇ!」 俺の前の席から声が聴こえ見ると、一人の男がニヤニヤと笑みを浮かべこちらを見ていた。 「…何?君誰?」 「えぇ〜クラスメイトの烏野だよ、学年一位の中村君!」 面倒な奴が現れたと感じていた。 「面倒な奴が現れたって顔してるね(笑)」 「え?」 「ハハハッ!図星かよ中村君!」 なんだコイツ。 「よし!今日から中村はダチな!」 「…もう呼び捨て。勝手にしろ。」 俺は自然に笑みが溢れた。 〜現在〜 「…ダチか。」 俺は浴槽から出て身体を拭き、着替えて浴室を出た。そして真っ直ぐ玄関へと向かった。靴を履いていると母が来た。 「秀雄。」 振り返ると母は笑顔で言った。 「いってらっしゃい。」 「いってきます。」 俺は母さんが親でよかったと心から思った。 玄関を出て俺はただ走った。 ただがむしゃらに走った。 恐らく烏野は今学校にいる。一年間の付き合いだが、確信していた。嫌というほど烏野を今日まで見てきた。あの表情は今日一人で調査するつもりだろう。 「間に合ってくれ。」 俺は夜の学校へと急いだ。消し忘れたゲームを思い出しながら。 〜午後八時三十分〜 俺は校門前に到着したが、動けずにいた。何分地下の情報とやらが少なく、場所の特定も出来ていない状況だからだ。 「早速躓いたか…。」 悩んでいると学校の職員玄関に人影が見え、俺は近くの草木に隠れた。出て来たのは鍵を持った担任の細谷だった。何やら周囲を気にしている様子だった。そのまま静かに跡をつけると細谷は校舎横の小屋へと入って行った。 「あそこは花壇の道具が置いてある小屋か。」 俺は静かに小屋へと向かった。扉に耳を当ててみるも物音一つ聞こえなかった。五分程待ってみたが人がいる様子すらない。恐る恐る扉を開けて見ると小屋内の奥に地下へ続く階段があった。 「…マジか。」 俺は歩み寄り、階段と扉を確認した。扉には鍵穴があり木製だ。階段は土を固めて造られたもの。恐らく現代人が造ったものではない。 「なるほど、あの鍵はこの扉の鍵か。」 俺は恐らくこのチャンスを逃すと次はいつになるかわからないと判断し、階段を静かに降りて行く。階段はかなり深く、壁には壁掛け用のたいまつが固定されている。 「…ボス戦の前かよ。」 階段だけではなく、壁や地面も土のみで造られている。最深部まで降りて行くと二つの扉がある。左側は『待機室』右側は『異送』と表記されている。 「『待機』と『異送』?どういうことだ?」 一先ず『待機室』を覗こうと忍び足で歩き、扉に耳を当てるも物音は無い。俺は静かに扉を開けた。 「…烏野?」 そこには身体を縛られた烏野が横たわっていた。 「中村⁉︎なんでここにいる⁉︎」 俺は訳を聞かず無我夢中に縄を解こうとしていた。 「中村ッ!今すぐ帰れ!」 「…ダチを見捨てることはできない。」 「違う、そうじゃなくて!ゲームは!」 「は?今はそれどころじゃないだろ。」 縄を解き終えると扉の前には細谷が立っていた。細谷の表情は少し残念そうだった。 「中村、俺は悲しいよ。こんなクズの為に人生を棄てたのか?」 すると烏野が前に出て言った。 「クズはお前ら教師だろッ!行方不明者を異世界に異送してんだろ?おまけに裏でゲームまで作ってよ!」 細谷は驚いてもいたが、諦めた様にため息を吐いた。 「隣の部屋に来い。」 俺と烏野は顔を見合わせ、細谷について行く。しかし、俺は二人の会話についていけてなかった。だが俺は賢い。今何かを問うのはリスクがある、そう感じた。だが、『異送』という言葉、聞き覚えがあった。そう、烏野が俺の家にまで届けたゲームの中の話だ。 『ようこそ救世主。ここは異世界へと繋がる門、異送ゲートと言われている。今異世界は危機に陥っている。賢者は大昔に消滅し、村も朽ちた。唯一の生き残りがお前だ、救世主よ。賢者としてこの世界で強くなり、異世界を滅ぼそうとしている魔王を倒してくれ。さぁ、ゆけ救世主よ。』 信じ難いが隣の部屋の『異送室』とは異送ゲートがある部屋という事になる。つまりは俺らはゲームでいう救世主という立場。ゲームの事が現実にある、つまり現状行方不明者は異世界に送られている可能性が高い。ゲームの絵や内容が記載されていないのはあのゲームが未完成だからだ。教師達はあのゲームを完成させる為に生徒を異世界に送ったというところか。つまりは監視もしている。なるほどな。俺、将来探偵になろうかな。 扉の先には光り輝く扉型の入り口があった。 『カチャッ』 振り返ると細谷が鍵を閉めていた。俺らはもう後戻りできない状況に陥ったらしい。 「…これが異送ゲート。ゲームのまんまじゃねぇか。」 半信半疑の推理はしたが俺は流石に驚いた。 「お前らがどこまで調べたが知らんが、異送を見て驚かないということはもう全部調べ上げたんだろうな。じゃあ地獄に行く前に聞こう。ゲームはどこにある。」 俺はこの時焦っていた。ゲームは俺の部屋にある。もし正直に言って、母に何かあったら。何と嘘をつく。どうする。 「あぁゲームは近所の川に捨てたよ。」 俺と細谷は烏野の発言に唖然としていた。 「ま、まぁいい。予備もある、すぐに探せば見つかるだろう。お前らはもう後戻りは出来ない。この学校の秘密を知ってしまったからな。お前等と話すのもこれが最後だ。」 「先生、一つ質問いいですか?」 俺は疑問が一つあった。 「何だ。」 「行方不明者のご両親はこのこと知っているんですか?」 「ご両親には成績不十分により教師付きで急遽海外留学させたと伝えている。」 それで平然と生活できるのかよ。 「細谷、今更逃げるなんて事はしない。でも一つ答えろ。異世界から現実世界に帰る方法はあるのか?」 俺と細谷の話に烏野が割って入る。 「お前等ゲームの内容も見ただろう?異世界には魔王がいて、魔王を倒すと『現送ゲート』が出現すると言われている。『現送ゲート』を出現させない限りこの世界への帰還は無理だ。まぁ生徒四人をこの学校から送ったがどうしていることやら。」 俺は自分の推理に間違いがあった事に気がついた。 「先生、異世界の行方不明者を監視しているんじゃないんですか?」 「監視?する訳無いだろ。あのゲームもゲーム会社が作ってこの異世界と…」 細谷が話していると異送ゲートから吸い込むように風が吹き始めた。気がつくと細谷はもういなかった。 「時間か…中村巻き込んでごめんな。こんなつもりじゃなかったんだ。」 「気にするな、全ての問題を解き明かすには通らざるを得ない道だ。」 「ハハハッ!中村らしいな。OK、優等生。真実を求めて魔王とやら倒しに行くか!」 俺は笑みを浮かべ頷いた。そして細谷に聴こえるよう生まれて始めて大声を出した。 「細谷ーッ!!!母に伝えてくれーッ!!!」 俺は無力だ。でもね、母さん。俺初めて友達を助けたよ。今は伝えられないけど、いつか必ず帰るから。 『 !!!!!』 横で烏野が爆笑しているのには腹が立つが、今回は許そう。何せ長旅の友だからな。 俺と烏野は異送ゲートに向かって歩み進んだ。 行方不明者二名追加 中村秀雄 烏野瞬 〜中村宅〜 「ごめんなさいね、今秀雄出掛けてて。もうすぐ帰ってくると思うから秀雄の部屋で待っててちょうだい。」 「いえ、こちらこそ夜分遅く申し訳ありません。お言葉に甘えてお邪魔させて頂きます。」 階段を上がり少し開いた扉から明かりが見えたので覗いてみた。恐らくここが中村の部屋。男子の割には綺麗な部屋だが、出かけるならテレビくらい消して行くべきと思った。ふとテレビを見るとゲームの映像かしら、すごく綺麗な森が映し出されている。 「今時のゲームって凄いわね、こんなに綺麗でリアルに作るなんて。」 しかし、この時私は気づいてはいけない事に気づいてしまった。よく見ると森の中には二人の青年が倒れていた。二人の青年は偶然にも画面側を向いて倒れていた。見覚えのある顔だった。 「…嘘でしょ。」 そこにいた青年二人は、中村と烏野によく似た姿だった。 第二問 √1 中村・烏野編 完 次回 √2 美代・内田兄妹編
第一問 X部=龍鳳高校探偵部
現在時刻 十六時三十分 俺と烏野はとある部室に到着した。扉は木製で脆く上には「X部」と手書きの表札がある。 「今更だけどXの使い方間違ってないか?」 「まあ、美代部長変人だからな!」 他愛のない話をしつつ扉を開けると仏頂面の眼鏡美女が奥の椅子に座っていた。木製の長方形の机に黒革の椅子、そして綺麗に射し込む光。「何処の大手会社の社長だよ!」と突っ込みたくなる光景だ。 「誰が変人ですって?」 「やだなあー、冗談ですよ。」 烏野がひや汗をかきながら誤魔化し笑いをしていた。 「久しぶりね、中村。」 「お久しぶりです。美代部長だけですか?あの馬鹿兄妹、今日は居ないんですね。」 「…中村、殺されるわよ。」 呆れた表情で俺を見ているのは、美代すみれ 十八歳 一つ上の先輩でこのX部(龍鳳高校探偵部)の部長だ。美代部長は三年生の中でも十位以内に入る成績優秀者。ミステリー小説が大好きで、眼鏡を外すと美人なのだ。だが変人だ。 「誰が変人ですって?」 「それ八行前にもう言った台詞なので先輩負けです。」 「いつからしりとりで会話をするようになったんだ?」 「本題に入ってもいいですか?」 「謝罪って知ってる?」 俺と美代部長はいつもこの様に会話をしているが俺は普段あまり部室には来ない為、約三ヶ月ぶりなのだ。あまりにも来ない事から烏野がほぼ毎日玄関に現れるようになったのだ。 「部長〜謝罪なんて中村には無理ですって。中村の辞書に『謝罪』なんて無いっすから(笑)」 呆れ返るように溜息をつき美代部長は社長椅子へ戻る。 「それでは本題に入りましょう。行方不明事件の話は知ってますね?」 「はい、何か情報はありますか?」 「いいえ、今はまだ何も…」 「俺が追加調査しましょうか?」 『それなら必要無いよ〜」 扉の方向から声が聞こえ振り返ると高身長の男と低身長の女が立っていた。 「秀さん久しぶりだね〜!」 「…うっす」 「馬鹿兄妹。久しぶり。」 「秀さん酷いよ〜!」 一応紹介します。五月蝿い幼女は内田真子 十六歳? 成績は中の下で運動神経が良くプライドも高い。 無口な高身長は内田優 十七歳 内田真子の兄で俺の同級生だがあまり話さず、謎の多い男。実は成績は良いらしい。頭にバンダナを巻いている。だが馬鹿共だ。 「真子、調査報告をお願い。」 美代部長が再度本題へ戻す。 「は〜い!一つ情報を得たんだけど、四人の行方不明者は今回のテスト結果通達日から自宅にも帰ってなかったの。それを四人のご両親に話を聴いたけど、話してくれたのはそれだけだったの。」 「やはりご両親は話してくれませんでしたか。中村も来てくれましたし、今ある情報を整理しましょう。」 ・四人の行方不明生徒 内山郷 石川世界 竹内綾奈 佐倉苺 ・四人は成績不良者 ・教師、ご両親が何か隠している ・謎の地下説 ・テストの結果通達日から行方不明 「今ある情報はこれだけよ、色々手を尽くしたけれどこれ以上は何も情報がないわ。中村、どう思う?」 「謎の地下説ってなんですか?」 俺の発言と同時に不穏な空気が漂う。 少し間が空いて美代部長が発した。 「…実はこの学校には地下があると言われているのよ。なんでも大昔、ここには賢者の村があったらしいの。」 「ふぁっ?け、賢者?」 「その賢者の村がある日突然壊滅し、そこは悪の手によって処刑場と拷問場になり、多くの民の命を奪った。民は悲鳴をあげ助けを求めたけど誰も来ないまま民は土へと埋められていった。その処刑道具や拷問器具が今も地下に収容されているという噂があるのよ。」 俺は言葉を失っていた。賢者や悪の手などゲームの中だけの架空の存在、大昔とは言ってもそんな話は信じられなかった。しかし、仮にその話が本当で現代まで受け継がれているとしたら…。そして、生徒行方不明事件と何か関係があるとしたら…。 「ちょっと待ってよ、すみれちゃん!それがもし本当で現代まで受け継がれてるとして、今回の行方不明事件と関係があるとしたら…。」 「…行方不明四人の生徒は既にこの世にはいない。」 声を震わせている妹の真子と冷静な兄を前に俺も同じ事が脳を過っていた。 すると黙って座っていた烏野が立ち上がる。 「確かにそこだけ考えれば辻褄は合いますよね〜。でもさ、成績が悪いだけで教師やご両親が見殺しにすると思う?仮にその話が真実ならこの世界は常軌を逸していますよ。」 「他の線での可能性もゼロでは無いだろ。」 「…世の中は勉学が全て、不要者は排除するなんて現実にあるのかしら。」 美代部長の言葉は重く、噂を肯定しているようだった。 『俺、今夜調査しても良いっすか?』 その場にいた全員が息を呑んだ。 「烏野、その気持ちは買うが危険すぎる。まずは教師に探りを入れてみる手もある、焦る必要はない。」 俺は真っ先に烏野を止めていた。無意識だった。 「あれ〜中村心配してくれてるの?でもさ、実はその話部長に言われる前から知ってたんだ。だから教師全員に探りも入れたんだよ。そしたらさ面白いくらいに皆動揺しててさ(笑)間違いなくこの学校には何かある、地下も本当にあるかもしれないぜ。こんなチャンスはないだろ?美代部長、調査させてくれ。」 バチンッ!!! 気がつくと美代部長は烏野にビンタをしていた。 重たい音と共に外からの運動部の掛け声は静かに聴こえた。 「…何故伝えなかったの。勝手な行動は私が許さないわ。」 「…黙ってた事は謝るっス、でも調査はしますから。」 その後、烏野と美代部長は何度も同じ話を繰り返していた。俺を含めた残り三人は見守ることしかできなかった。口論が続き、気が付けば十八時を回っていた。 「すみれちゃんも瞬くんも落ち着いて?今日の所は帰ってまた明日話そ?ね?」 内田真子が仲裁に入りその場は落ち着くも、烏野は歯を食いしばりながら部室を出て行った。 「…皆ごめんね。今日は解散しましょ、中村も来てくれたのにごめんね。」 「大丈夫です。」 「うん、明日になれば落ち着いて話し合えるよ。」 「…そうね。」 俺も頷いて返答するも、烏野が心配になっていた。しかし、連絡先を知らない。烏野に限らず俺は『X部』誰一人連絡先を知らない。交換しようとも思わなかった。無意識の内に俺は壁を作っているのかもしれない。この状況になっても俺は何もせず、どこか心に迷いを感じたまま部室を出て帰宅した。 第一問 X=龍鳳高校探偵部 完 次回 第二問 √1 中村・烏野編
現世の想ひ出はより深く!
序章 ろくでなしの秀才 この世界は単純だ。 「中村君!今回も全教科満点とは、流石だな!これなら将来も安泰だろう!」 安泰。確かに勉学で困った事は一度も無い。何故解らないのか、俺にはその方が難問だ。 「先生、もう良いですか?帰って勉強したいので。」 「あ、ああ。何処の学校に進学するのか考えておけよ?二年生なんてすぐ終わるからな。」 「はい、失礼します。」 愛想笑いを続けるのも大変だ。俺はこの世界に飽きているのだろう。いや、飽きると言うより嫌なのかもしれない。担任の細谷善はテストが終わると毎回俺を呼び出し、同じ話を繰り返す。たった今その呼び出しが終わったところだ。 「さて、帰ってゲームでもするか。」 俺は職員室を後にし、生徒玄関へ向かった。毎日同じ廊下を歩くのも嫌になりつつある。階段を降り玄関に着くと毎回現れる奴がいる。 「中村!今日の宿題見せてくれ!」 ほら来た。 「あのな、今日の宿題なんだからまだ手付けてる訳無いだろう。」 「そうか!なら今から部室に来い!今日は大事な話があるんだ!」 こいつと話してると倦怠感が倍増するのは何故だ。 「生憎俺は中村では無いので。」 「じゃあなんて名前なんだ!!!」 「…杉田。」 「それは色んな人に怒られるぞ。」 「…す、す、杉田だもん。」 「お前は秀才の中村秀雄(なかむらひでお)だろ!テストで一位以外取ったことがない恵まれた天才、○ねば良いのにと何回思ったことか。しかも人をゴミのように見て「何故こんな簡単な問題も解らない、テストも人生も容易だろ。」と名言を放った過去もあるだろう!」 怒涛の勢いで人の自己紹介をしているこいつは、烏野瞬(からすのしゅん)十七歳。成績が悪く明るいイケメンといったところか。だが馬鹿だ。 「人のプロフィールを簡単に済ませるな!」 「お互い様だろ。で?大事な話って何だよ、帰りたいんだが?」 溜息混じりに俺は会話を戻す。 「俺も詳しくは知らないんだけどさ、多分例の生徒行方不明事件についてじゃないかな?」 「…四人の生徒行方不明事件か。」 そう、俺たちが居るこの学校「龍鳳高校」には現在行方不明の生徒が四人いるのだ。詳しい詳細は生徒は誰も知らないが、何よりも不思議なのは行方不明者全員がテストの結果通達後に行方を晦ましているのだ。 「…おかしいと思わないか?」 烏野が真剣な表情で俺に問い掛けてきた。 「生徒が四人も行方不明になっているのに教師も生徒の家族も平然と過ごしている。自分の子供がいなくなって心配しない親なんていないだろ?これは絶対に何かあると思うんだ。」 烏野の言うことも一理ある。この事件はポーカーフェイス以前の問題だ。これまで虐待、育児放棄など日本には多くの社会問題となる事件が見られてきた。それは身近であってもおかしくは無いことだ。 「だが、四人とも同じ日に行方不明になっているんだろう?少なくとも家族内の問題では無いだろう。考えられるとすれば身代金要求の集団誘拐とかなら可能性はあるな。」 「あーもう!何が起こってんだよ学校は!」 「確かに気になる点は多いな。一つ一つ問題を解いて真実という解答を求めてみたい気もする。」 俺は色々と推理してみるも、今ある情報では明らかに足りない。 「珍しく乗り気じゃーん!」 烏野がニヤニヤと笑みを浮かべて煽ってくる。 「うるさい、黙れ。」 「まあまあ、中村が気になっている情報も美代部長が調査済みだと思うよ!でもまあ謎は多そうだし、学年一位の頭を貸してちょーだいな!」 「わかった、六時までだからな。」 俺は迷う事なく返事をした。 「了解っ!じゃあ部室行くべ!」 正直、今行方不明者がどうなっているのかは俺には興味がない。不謹慎かもしれないが俺は今ワクワクしている。久しぶりに難問にありつけたような好奇心に駆られていたのだ。 しかし、この時俺達は衝撃の結末が待っていることをまだ知る由もない。 そんなことも知らず俺と烏野はとある部室へと向かった…。 序章 ろくでなしの秀才 完 次回 第一問 X部=龍鳳高校探偵部