新野楓衣
17 件の小説第6回N 1 『禁断の逢瀬』
『ランデブー』エントリーナンバー4 腕白くして膩らか、紅玉のごとし, 爪甲春蔥を剪るがごとし。 琴を調ふれば笑み露はれて斜めなり, 人に背きて細に風を挼づ。 鏡に向ひて纖腕を垂れ, 妝ひに臨みて遠通を怕る。 潮温かにして行き稀に得、 曾て花を折る中に見る。 『香奩集』手を詠ずより一節 天慶2年、弥生の晦にございます。 上達部になられた藤原朝臣良房は時の左大臣によって常陸の国府に任じられました。当時常陸、下総、といえばかの有名な平将門が関東一帯に猛威を振るっているという噂ですから誰もそんなところには行きたくないのでございます。されど、良房は業に熱心に御ありですから妻子など気にせず、迷うことなく引き受けたのでありました。 そして一通り県召の除目を終え、出立の時、東門にて、 「いってらっしゃいませ御父上様!!」 とよわい七つの若君が 「いってらっしゃい」 と心配そうに妻が それに男は 「あぁ、行って参る。そんなに心配するでない。身が危なくなったらいつでも帰ってくるよう上からも伝えられておる故。」 と優しく二人を抱き寄せた。 そうして相模へ馬を走らせた。常陸までは案外整備されていた為比較的容易な旅であった。 「もうすぐ相模にございます。」 と連れのものが申した。 「ああ、やっとであるか。」 ただただ変わらない山路に飽きてきた頃、ようやく関所につき、手続き諸々終え、もう夜半近くであったので今日ばかり近くの宿に泊まった。 何とも言えぬ良い宿であった。 夜明けの日が東に昇るころ、先日前司が残した仕事が少しばかりあると知らせを受けた為、男達一行は宿から少し離れた常陸国府へ向かいました。 「ここが常陸の国府であるか。」 男は馬を降り、しばし、門の佇まいを眺めました。京のように煌びやかで美しくはないが質素ながら無骨に趣がある良い佇まいである。 門をくぐり、中へ入ると奥から一人何やらやってきた。 「藤原朝臣良房殿でありますな?よくぞお越しくださいました。国府の役人、三浦芳光であります。私が前司との引き継ぎの助手をさせていただきます。」 彼は少々小柄で細身であるが何処かそう思わせない風貌があった。 「ああ、御頼み申す。」 と男は仕事場の席に座った。 するとしばらくしないうちに芳光は両手に有り余るほどの書類を持ってきた。 「これが例の残りにございます。」 男はこの光景に目を疑い、咄嗟に 「少々とばかり聞いていた故、これほどまでとは、」 彼はいたって真面目に 「ええ、少々でございます。」 と言って言い返す程なくしてソソクサと何処かへ行ってしまった。 しかしながら、受け負ったものである以上、男はやるしかないのであった。その仕事の内容はというと民の悩み事を聞き、それに対して何か改善策を伝え、後に役人が手助けをするというものであった。男はただ聞くだけであったがそれが何百もあるのでたまったものではありません。 そうして、そんな日々が過ぎていき、卯月の十四日、やっと残り一人になったころある凛々しく麗しい女がやってきた。 「至極お待たせ申した。最後の方。」 疲れ果てた様子でそう呼ぶと 彼女は男の前に歩み寄り、深く頭を下げ、ものすごい剣幕で、 「お願いがございます!!」 彼女の目は真剣で何処か切り詰めた雰囲気を漂わせている。 「…………何なりと申してみよ。」 彼女の瞳は湖畔のような澄んだ瞳から徐々にドス黒くなっていった。まるで底のない闇を見ているようであった。 「証拠にございます!!」 そう言ってまた急に文を叩き出した。 「何故そのように慌てておる。しっかり申しなされ。」 と男は彼女を落ち着かせた。 「なんの騒ぎであるか?」 奥からいつぞやの三浦がやってきた。実は今日まで彼は一度もここに現れなかったのだ。 そして彼女は彼を見た途端、表情を曇らせ、男に密かに文を渡し、 「なんでもありません。申し訳ございませんでした。」 そう言って国府を去っていった。 「なんだったんでしょうな」 三浦は卑しげであった。 「……ええ、」 そんな日の夜、男は彼女から貰った文を床に着く前読んだ。 “”今朝はあのように訳もわからぬ発言をしてしまい申し訳ございません。これも全てあの三浦に悟られない為にございます。“” 男はこれ以上読むと何かとんでもないことに巻き込まれるかもしれないことを感じながらも止めることはなかった。 “”ここに住んでいる常陸の民の大半は桓武平氏一族であります。知っていると思いますがここ一体を平将門公が手中に納めようとしておりますので我々は長月の十六夜貴方の国府を襲撃致します。その為、今後残り三月の間貴方様が如何なさるか考えなさってください。もし私と話があるなら望月が男体山と女体山の間にきた頃、筑波山の麓にある桜の木に来てください。“” そして証拠として渡されたものにはこう書いてあった。 “”少々乱暴なことをしてすまなかった。平将門である。先程使わしたものから聞いておるであろう。我ら桓武平氏は常陸国府を長月に襲撃致す。別に其方には恨みはないどちらかというと三浦含む前司と関わりがあるものにある。奴らは前司と親しい仲でそれを頼みにしてこの民の女どもの体を貪り、さらには農民から膨大な租税を上の意図なくして徴収した畜生である。それ故、其方には奴等を率いる三浦をどうか我らの策に導くようお願いしたい。では、御頼み申す。“” 男はこんなことは京での単なる噂ごとだろうとたかを括っていたが、どうやら本当だと思い始めた。とりあえずその日は大人しく寝ることにした。 翌日、男はどうしてもどうするか決めかねていたので今宵一人行くことにした。 男は月の光を頼りに筑波の麓へ馬を走らせた。 時刻は夜更け、空には望月が静かに輝き、山の稜線に溶け込んでいる。風が梢を揺らし、耳元で囁く。 やがて桜の木が見えてきた。薄桃色の花弁が月光を浴び淡く夜の闇に浮かんでいる。 その下に一人の女が月に手を差し出して静かに佇んでいた。 その手は白く、滑らかで紅玉のように美しい。整えられた細く美しいその指は春の蔥を切ったようである。 そうして彼女の指に見惚れていると彼女はこちらに振り向き、 「お待ちしておりました。良房殿。」 彼女は深く頭を下げた。 「其方が将門公の使者であることは重々承知している。しかし、何故私をここへ呼んだのか、改めて聞かせてもらおう。」 男が静かに問うと、彼女は息ひとつ吐き、静かに口を開いた。 「先日申し上げた通り、常陸国府は腐敗しております。三浦芳光をはじめとする役人たちは、己の欲のために民を苦しめております。たとえ、京に報せたところで、奴らは賄賂を使い、事実を歪めるでしょう。」 「……つまり、将門公の挙兵は、これを正すためだと?」 「はい。しかし、それだけではありません。将門公はただの反乱者ではないのです。彼はこの関東一帯の民を守るため、京とは異なる、新たな秩序を築こうとしております。」 女の瞳には揺るぎない信念が宿っていた。 しかし、男はすぐには返答できなかった。 「……私に何をしろと言うのだ。」 「貴方様は、京にお帰りください。」 「何?」 「私たちの中に国府の役人強いては朝廷諸共消し去りたいという一派がいるのであります。その為、貴方様を国府に残したままでは、貴方様もまた奴らの手先と見なされるでしょう。しかし、もし貴方様を京に送り、役職を解かせることができれば、貴方様はひとまずその派閥にとって敵ではなくなるかもしれない。」 男はしばし黙考した。 「……私を送還したとしても、それではそなた達には私は何も手助けできぬ。考え得る私にできることは、事実を記した文を京へ送ることだけだ。それだけでもして良いか?」 女は少しの間、考え込んだ。そして、ゆっくりと頷いた。 「いいでしょう。将門公の意図が伝われば、それだけで状況は変わるかもしれない。」 「……分かった。だが、一つだけ聞かせてほしい。」 「何でしょう?」 「其方は一体、何者なのだ?」 男は知っていた彼女も桓武平氏一族の一人だということを、そして今宵の逢瀬が最初で最期になることも、 女は微笑を浮かべ、静かに答えた。 「知っているでしょう。私は……桓武平氏です。」 それ以上の言葉はなかった。 夜風が桜の花弁を舞い上げ、二人の間を流れていった。
お花見
色めく桜に吹き散る桜。 すれ違う番に羨む心。 人で溢れる桜並木。 どれもこれも春を告げる。 あと幾度見られるだろうか。 2025年4月25日17時30分、高校三年の私は毎年一緒に見に行く友人と学校帰り夜桜を見に行った。 「あーぁ、今年も彼女と見られなかったなぁ〜。」 と急に友人が悔やみ出した。 「何だ、俺とじゃ嫌なのか(笑)?」 「いやぁ、別にそういうわけじゃないんだけど。なぁ、羨ましくないのかあんなの見て。」 そう言いながら出店で苺飴を買っている同年代のカップルを指さした。 「まぁ〜、羨ましくなくはないんだけど。」 「何だ(笑)。お前も羨ましいんじゃん。」 「うるせえよ(笑)」 生意気なので少しどついた。 「しかし、そういうお前はいるんじゃないだろうな?」 友人は『よくぞ聞いてくれた』と言わんばかりの顔をして 「それがさぁ〜、実は去年の夏はいたんだけどさぁ〜今年の一月の初めに振られたんだよ。いい感じだと思ったのになぁ〜。」 今までそのような経験をしたことのない仲だと思っていたのに何だか裏切られたような気がした。 「何だよ(笑)羨ましいのか〜?」 「ちげぇよ。」 「まぁまぁ、そんなこと気にぜず楽しもうよ。もう最後かもしれないんだから。」 合格前提の話だが、二人はそれぞれ遠くの大学へ行く。 「あぁ、そうだな。」 「いやいや、また一緒に見に来れるだろ。来れない範囲じゃあるまい。」 また一緒に見られることを期待し、私達は見納めた。 まだ、夜風は冷たいが春の匂いがする。
田海
やわな風に波立たせ 静波寄ずる春田に 髪をなびかす春の君 当たる風は心地良く ただ暖かく慎ましく 薫れる藻の風、潮の風 眼前広がる田園の 水面がキラキラ煌めいて はくてう降り立つこの土地に いつしか行く春感じては 私に宿る春愁よ 去り行く君に春惜しむ
優しさ
優しさに包まれて その暖かさを知る 温もりに包まれて その掛け替えなさを知る 私は何をみていたのだろう そう思うくらいの後悔を 誰しも何処かに隠してる 何処かに行ってしまった優しさを 今探し求めて呼び止めて これでよかったと思える様に 呼び覚まして慰めて 溶け出す愛を受け止めて いつしかまた手放して 再び満ちて還っても あなたは変わらずいるだろうか 知らず知らずのうちに 氷が溶け出し薄れる様に 大切さに気づきにくくなるから 逃げ出さんよう気をつけて その優しさだけを大事にな
春に具す
ハラリ散りゆく桜木に サラリ撫でる血の香り 浮かぶ花弁鮮やかに 浮かぶ君は今何処 揺れる木々は絶え間なく 私は揺れる絶え間なく 雲間が刺した日の先に 貴方が夢見たその向こう 残りし先におくる先々 薫れる花に枯れる花々 淡雪溶けた春田に 静かに打ちつく春の波 萩の焼け原、春浅し 焼けて乾く袖白雪 鷹化して鳩と為る 突如吹き込む春一番 花冷え晩春蜃気楼 君は勿忘 オキザリス
電池
人は情で動かせぬ 底知れぬ深き闇あり この世一人で動かせずして 未だ動く様ここに在らず 彼岸此岸渡るうち 何を以て人とならんや 死の為生きるか、死の為生きぬか これより哀れなるもの莫し 一体誰が正道へ導こう 感情も意志もない無機質な電池よ さあ、君はどう動く
ブルースター、洋上に咲く。
この広大な海原の真ん中で何処か君を探している私がいる。 日は暮れがかり、燃え尽きそうな水平線の向こうを眺め、冷たい潮風に当たりながら、ただ静かな船上で汽笛ばかりが鳴り響いている。 “”もう会うことはないのか……“” 涙を拭き、静寂の中、私は売店で買った弁当を食べた。 割り箸は上手に別れなかった。 「ご乗船の皆様、本日はフェリー、ステナラインをご利用いただき、誠にありがとうございます。当船は午前10時28分にリバプール・バーケンヘッド港を出発し、ダグラス港を中継し、ベルファスト港へ向かいます。ベルファストまでの所要時間は約8時間の予定です。詳しい情報は随時アナウンスいたしますのでご安心ください。航行中は安全のため、甲板では十分ご注意ください。それでは、ごゆっくり船旅をお楽しみください。」 「8時間か……案外長いな、混み合う前に昼飯でも買っとくか。」 私は船内の購買へ足を運んだ。 昼前なので一番乗りかと思ったが其処にはもう女がいて、鮭弁当を買っていた。 美しい女だった。 そうして、それを頼もうとしたが、あれで最後だったと言われ仕方なく海苔弁当にした。 気分転換に外の風に当たって食べたかったので甲板へ向かった。 しかし、生憎またもや同じ先客がいた。 私は何かの運命だと感じ、手摺に寄り掛かっている彼女の隣へいった。 「すみません。隣、いいですか。」 彼女は口いっぱいにさっきの弁当を頬張りながら神妙な様子で頷いた。 「何処へ行く予定なんですか?」 彼女は急いで飲み込んだ。 「ダグラスです。」 ダグラスはリバプール・バーケンヘッドとベルファストの中間に位置し、あと約3時間後に着く。 「何をしに行かれるのですか?」 「友人の結婚式へ行くんです。唯一の友達の、」 「そうなんですか。いいですね、おめでとうございます。」 彼女は笑いながら何処か淋しさを含んでいた。 「逆に貴方は何処へ行かれるのですか?」 「私は……ベルファストに、仕事で用があるんです。」 実は私は用事などないのだ、ただただ何処か遠くへ逃げたかった。 そんな惨めなことなど言えるはずがなかった。 「そうですか、大変ですね。」 暫く沈黙が続き、波の音だけが際立つ。 彼女は黙々と食べ進み、そして、弁当を閉じる。 「あの、嘘ついたように思われるかもしれないんですけど、本当は結婚式に行くのではないんです。」 そう哀しさを隠すように彼女は言った。 「思いませんよ、では、何処へ行くのですか?」 彼女は俯いたままで震える声だけが聞こえる。 「葬式です。何よりも大切だった……あの人。 ………………先の戦争で死んだんです。」 彼女は今にも崩れ落ちてしまうようである。 「約束していたんです。“”絶対生きて戦争から戻ってくるから、その時は一緒に何処かへ安全な所へ逃げよう“”って、そう言ってくれたのに、………どうして………。」 私は彼女の肩に手を伸ばすことも慰めの言葉さえも出なかった。 私の中で砂上の城が崩れた音がした。 そうして、彼女が泣き止んだ後。 「すみません。くだらないものをお見せして。」 全くくだらなくもなかった。 況してや、この海の真ん中に咲くブルースターのようだった。 「いやいや、くだらなくなんかありません。すいません嫌なのこと言わせてしまって。」 「いえいえ、私が話したかったことでしたから。」 またしても私は彼女に何も言えなかった。 思い浮かばなかった。 何もかもが彼女にとって毒になるような気がして。 そのまま、刻々と船はダグラスへ向かっている。 そうして、やっと話すことが浮かんだ時、 「あの、」 話しかけた途端、降船のアナウンスが流れた。 「ご乗船の皆様、本日は当フェリーをご利用いただき、誠にありがとうございました。当船はまもなくダグラス港に到着いたします。お降りになるお客様は降船の準備をお願いいたします。また、お手回り品をお忘れないようご注意ください。車両でお越しのお客様は、係員の指示に従い、順番にご移動をお願いいたします。ご利用いただきありがとうございました。またのご乗船をお待ちしております。」 「あっ、もう着いたのね。行かなくちゃ。すみません短い間でしたがありがとうございました。少し話せて気が楽になりました。」 そう言って彼女は荷物を手に取り、乗降口へと向かった。 私はまだ一人、甲板にいた。 まだどうするか決めかねていた。 そして、私は走って乗降口へと向かった。 運良く彼女はまだ降りていなかった。 だが、この人混みの中そう易々と近づけない。 「あの!!すいません!!あなたの名は!!」 言いたかったのはそんなことではなかったが、ただ、それだけでも聞きたかった。 「◯◯◯◯・◯◯◯◯◯」 人々、船の騒音でよく聞こえなかったが、口の動きだけは見えた。 そうして、彼女は可愛げで明るく美しい笑顔で手を振り、対照的にとても淋しげな後ろ姿を見せた。 結局、名前も聞けなかった。 私にはとてつもない喪失感とぼんやりとした不安ばかりがここに残った。 また、彼女といた甲板に一人でいた。 また砂上の城が音を立てて崩れ始める。 君がいないこの海は波の音だけだから行き先のない私は迷ってしまう、何もかも無くなってしまう。 消えてしまう君の笑顔も温もりも忘れてしまう君の声も顔も全て。 “”一瞬だけでもいいから…会えるだろうか、何処かで……“” 私は蹲って海の真ん中で泣いた。 君との思い出はここにあるから。
交差点
入り混じる車線 行き交う人々 互いに見知らぬ スクランブル もう其処は闇夜 夜雨に濡れる路上 蛍光を照り返し 街並みを映ゆる 歓楽街は活気に溢れ 淫で粋に欲に塗れる シェードに包まれた此処は 今宵も夜暇を潰す
窓
或る日或る國の少女はいつものように窓辺に腰掛け、夕日を眺めておりました 彼女はいい生まれの子でしたから欲するものにはまぁそうそう困ることはありませんでした そのため思い入れのある物事以外に関する価値観というか感じ方が他と少々鈍いのでありました 其の日の夕、家の世話役のものが彼女の大事にする花瓶を割ってしまったのです 「何をしているの!!よくも私の花瓶を割ったわね!!」 彼女は酷く激怒した 「申し訳ございません。お嬢様。申し訳ございません、申し訳ございません。」 世話役は涙を浮かべながらただただ赦しを乞うだけである すると其処に少女の母が 「まぁまぁそんな怒らないで綺麗なお顔が台無しよ。また新しいのを買えばいいじゃないの」 と頭を撫でながら慰めた。しかし彼女は 「これはこれ!!おんなじのなんてないの!!」 そう言って泣きながら自室へ戻った 「はぁ、嫌になっちゃうわね。本当どうしたらいいのかしら、自分が虚しくなってくるわ。」 と声を震わせた 「そんなことをおっしゃらないで下さいませ。悪いのは全て私のせいでございますから」 と今度は世話役が奥様を慰めた 「………………後はお願いね。」 涙を拭きながら何処か彼女の一生を案ずるように 世話役も涙を浮かべながら、それに頷いた 窓はそんな“”奥様“”をただただ映すだけである
沖にて
「金もねぇ、女もねぇ、家もねぇ、身寄りもねぇ。はぁぁぁ〜ったく、一体どうしろっていうんだ(微笑)。」 或る男は夜風に当たりながら桟橋にて暗雲に隠れた月を望めておりました 「つくづくついとらんなぁ…月すら望められんとは(微笑)。」 深い深い河の淵を望めながら 「いっそのことここらで終わらすか……」 そうして手摺を越えようとした途端でございます ? 「本当に終わらすのでございますか?」 静寂は極まり河の流れが響き渡る 「嗚呼、終わらすんだ終わらすんだ。何もかもやになったからな。」 そうするとどこか嬉しそうに ? 「あー、そうでございましたか。邪魔しましたかね。では、」 帰り際、丑寅から冷風が吹いた ? 「よぉうし、仕事が減ったなぁ。嗚呼、よかったよかった。」 咄嗟に男は 「おーい!!何故お前は今に死せんとする者を助けんのだ!!」 すると彼は仕方なしに二本指を立てながら歩み寄りまして ? 「助けて欲しいのでございますな。では、二択貴方に選択肢を与えましょう。 一、貴方が今までに申し訳ないことをし、関係が途絶えてしまった者との関係を回復すること。 ニ、今ここで死ぬこと。 さてさて、どちらにいたしましょう。 偽りはなしにございます。」 男はなんでわしがせんといけんのだと内心思いながら 「一にする。生憎お前が思う様にわしはクズではないのでないのでな、さぁ、わしを助けろ。」 ? 「………………そうでございましたか。では助けは要らぬ様で。」 そうしてまた去っていった 「なんなんだ彼奴は、はぁ、わしは何をしたかったのかわからんくなってしもうた。」 と河を背に向けたところ 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 男は夜露か何かかは知らぬが足を滑らせ、頭を強く打ち、その刹那、朧げにあるものを見たのであります 死神 「ほぉら(微笑)」 男は冷たく暗い河の淵に静かに消えていきました 或る沖にて 漁者「なんだこの醜い塊は」 漁者は訝しげに眉を細めた 魚が肉塊を突いていた