だked/海月の一味。

106 件の小説
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だked/海月の一味。

前向きに生きる。そして小説は好きに描く。

汚れちまった色恋に

汚れちまった色恋に ※海外の言葉も日本語に統一します 特別編第一話:寂しい ボクの名前は宮野凛花(みやのりんか)。 ある平日の学校にて。 ボクは最近、凄い大きな悩みを抱えている。 それは……。 「し・ず・はー!」 ボクは友達の岡野静葉(おかのしずは)に飛びついた。 静葉は少し困り気味の表情で振り返る。 「どうかしたの?」 彼女の反応を聞き、ボクはニコニコと笑顔になって言う。 「実はちょっと悩みがあってさー。静葉たんにちょっと聞いて欲しくてー」 「……その割には元気そうだけど?」 「えー?二秒後には赤子も黙る程ギャン泣きできるよ?」 「あんた腐っても高校生でしょ……はいはい分かったよ。何?」 ボクは心の中で「やったー」と喜ぶと、今最大の悩みを打ち明けた。 「……寂しい」 「…………は?」 静葉が目を大きく見開いて呟く。 「だからー。ボクは今凄く寂しいのー。うさぎは寂しいと死んじゃうって話あるでしょー?ボクこのままだと孤独死しちゃう」 「……ちょっと待って?真面目に言ってるの?」 「んえ?至って真面目だけど?」 「…………寂しい理由を順を追って説明して欲しい」 「おっけー。えっとねぇあれは確か……」 ボクは事の経緯を全て話した。 寂しいとは言っても、静葉や美桜と過ごす時間は凄く楽しいのだ。 だけど、ボクには"もう一人"二人と同じくらい大切に思う人がいる。 清水玲央(しみずれお)。 ボクの一つ歳上の先輩で、男子バスケ部ではエース級の強さと実力を持っていた。 その実力はアメリカの大学に推薦を受ける程で、どれ程努力家なのかが見てわかる。 その人が卒業してアメリカへ行ってから、ボクはどうしようもなく寂しい気持ちになる事が多かった。 「ほんと参っちゃうよ。お陰様で部活や授業は集中出来ないし。どうしたらいいかなぁ静葉ぁ」 「あんた部活はともかく、授業はいつも集中してないでしょ……だけどそうだね。私には先輩なんていないから分からないけど……もうそれは割り切るしかないとしか言えないね」 そうだよな。 心の中でそう言った。 「凛花の中で……その先輩がどこまで大切な人だったかにもよるけど……そんなに寂しいなら電話とかしてみたら?」 「えー。いーよぉ。どーせ馬鹿みたいにアメリカでバスケしてるんだし悪いよぉ」 「……寂しいから相談したんじゃないの?」 「うん!でも今はなんか違う気がする!聞いてくれてありがとう静葉!」 「……なんか心配して損した気分」 「酷ーい!あ、そうだ今日カラオケ行こうよ!美桜も誘ってさ!」 ボクは一生懸命話題を逸らそうと口を開き続けた。 "本当は今すぐ連絡したい理由"を、静葉に聞かれたく無かったから。 その頃。 アメリカ午後六時。 「怜央!お疲れ様!」 「お疲れ様です」 大学の体育館の更衣室から、次々と先輩達が退室していく。 俺はタオルで体の汗を拭いて、息を大きく吐いた。 日本に居た時と、環境も感覚も違い過ぎて慣れない。 部活で一番背の高いやつが小さく見えてしまう程、全員の身長が高い。 そして全員のバスケに対する気持ちや実力が段違いだ。 正直、少しだけ萎縮してしまっている自分もいる。 「……まだまだだな……姉貴」 俺はふぅと再度息を吐くと、スマホを取り出す。 連絡アプリをスクロールしていくと、1人の連絡先で指を止める。 『宮野凛花(バカ)』と書かれた連絡先。 卒業して以来、あいつは連絡してくる事がほとんど無くなった。 普段ならあっちから毎日のように連絡が来るのに、全くと言っていいほど来ない。 「……たまにはこっちから連絡してやるか」 俺は更衣を済ませると、あいつに電話をかけてみた。 何度もコールするが、全く出る様子は無い。 「……まぁ。あいつもそろそろ受験生だしな。いくらなんでもちょっとくらい……」 そう独り言を零したその時、コールが中断され向こう側から声が聞こえた。 『清水先輩ですか!?』 「…………おう。ボリューム落とせ、耳に来る」 『あ、ごめんなさい。久しぶりだったもんでつい』 受話器の向こうから微かに笑い声が聞こえる。 全然昔と変わって無さそうで安心した。 「お前。そろそろ受験勉強とかしてんのか?」 『え?全然してませんよ?』 「…………そうかよ。安心した」 『呆れてますよね!?安心じゃなくて呆れてますよね!?』 「……いや。普通に安心した」 ある意味。 『ボクも……久しぶりに先輩の声聞けて、安心しました』 「お前に心配されるほど、俺は落ちこぼれてねぇよ」 『そうじゃなくて……ボクがです』 「お前?」 『はい。正直言うとボク……先輩が居なくなってから、ちょっぴり寂しくて。先輩が凄い遠い存在に思えて……でも声が聞けて少し安心しました。』 「……そうかよ」 俺は思わず鼻で笑ってしまう。 本当に、前から変わって無さそうで安心した。 そろそろ通話を切ろうとした時、凛花が慌てて声を上げた。 『あ!先輩!……先輩はもう……日本には帰らないんですか……?』 そんな素っ頓狂な話をされ、俺は思わず吹き出した。 「んな訳ねぇだろ。親とか姉貴にも顔出したいからな年末とかクリスマスとかに帰ってくるつもりだ」 『あ、そうですか?……なら……その時。ボクも会って良いですか?』 「……好きにしろよ」 『やった!ありがとうございます!先輩!』 「あぁ。俺はそろそろ寝る」 『あ、そっか。そっち夜ですもんね!おやすみなさい!』 「おう」 俺はそう言って電話を切った。 そして昔の凛花をふと思い出した。 『ボク。宮野凛花って言います』 生きる気力が無い気だるげでクマだらけの目に、ほんの少しだけ光が残った視線。 初めて会った印象はそれなのに、今では全く違う。 何故か萎縮してたのが馬鹿らしく思えた。 『……いつに帰れるかねぇ』 俺はそう呟くと、宿の部屋のベッドで眠りについた。 第一話[完] 第二話へ続く

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気取りの木鳥さん

気取りの木鳥さん 第二話。 「…………ーい?……お…………?」 壊れた電話機の様に飛び飛びな言葉が、頭に直接流れてきた。 いや、それは錯覚だ。 妙に反響して聞こえる声だったから、そう誤認してしまっただけだった。 木鳥は目を開くと、驚きの余り起き上がる。 目の前に広がる景色がとても壮大だったのだ。 床も壁も何もかもが存在しない暗黒の空間。 そこに煌びやかな星々が無限に漂っている。 木鳥は思わず「綺麗」と呟き、呆然としてしまう。 『やぁ。ここの景色が、そんなに素敵かい?』 再び脳内に直接流れるような声が響き、木鳥は辺りを見渡す。 すると彼女の後ろに、"人の影"が立っていた。 暗くて見づらい訳でなく、人の形をした真っ黒なモノなのだ。 実体を持った影と言えばわかりやすいだろう。 木鳥はこちらに手を振ってくるその影に話しかける。 「……貴方は一体誰?」 『濮かい?濮はね。神様でもあり、悪魔でもある存在……かな?』 影がクスクスと楽しそうに笑う。 子供の様な弾んだ高い声が、木鳥の脳内に反響する。 木鳥は少し怯みながらも尋ねる。 「……ここはどこなの?」 影はその問いを聞くと、ゆっくりと彼女に歩み寄った。 顔と思しき部位を木鳥のそこに近づけると、クスリと小さく笑う。 『ここはね。"魂"と"虚空"の集まる空間だよ』 「た、"魂"と"虚空"?」 影が何を言っているのか分からず、木鳥は首を傾げる。 『んーもっと簡単に説明するなら……"生と死の狭間"……かな?』 「生と……死?」 『ほら?君も記憶にあるだろう?……あの時の、痛みを感じながら……体温を失っていく感覚』 まるで頭に刻みつけているかのように、わざとゆっくりと木鳥に語りかける影。 すると、彼女の脳内に先程まで陥っていたものが押し寄せてきた。 肉体に激しい痛みが伴い、そのまま血と体温が体から抜けていく感覚。 身体中に寒気と鳥肌だ立ち、木鳥は気分が悪くなって蹲る。 口から胃液を盛大にぶちまけると、それは星々と虚空に流されるように消えていった。 影がその姿を見てクスクスと笑う。 『いいね。それが"普通"の反応だ』 木鳥が咳き込んでいるのを、影は笑いながら見つめていた。 「……一体何が楽しいんですか?」 『ん?』 「人が死んで、それを彷彿させるような言動をとって。反応を面白がるなんて……卑劣です……!」 木鳥の本気の睨みに、影は少し身震いした。 『確かに。人によっては無神経な発言だったかな?まぁ、濮はそこまで人間が好きな訳じゃないからね。さて……話を戻そうか』 影はそう言うと、頭上の星々に向けて手を掲げた。 『先程も言った通り。ここは"魂"と"虚空"の集まる空間だ。そして濮はそれの管理をしている』 「……死人の魂を管理してるって事ですか?」 『大雑把に言えばね。だから濮は神であり悪魔なんだ。濮は死人の気分次第で、魂を意のままにできる訳なんだからね』 影は得意気に説明する。 本当に子供と対話している様な気分になる。 『魂には分岐点と終着点が存在する。分岐点によっては終わりも全然違う……まぁこれは言われなくても何となく分かるだろう?天国か地獄かみたいなものだよ』 木鳥は影の説明に逐一頷く。 人間は死んだら天国か地獄に行くみたいなのは、子供の頃から伝わっている。 実際がどうなのかは今まで分からなかったけど。 『濮はその選択を聞いて、魂を導く。それを役割としてるよ。そこで君に聞きたいのはね』 影がこちらを振り返り尋ねる。 『君は魂になりたい?それとも"無"になりたい?』 「……え?」 またもや意図の分からない質問を投げられ、木鳥は困惑する。 魂になりたいは分かるが、"無"とはなんなのだろうか? 『人によってはね。魂となって生まれ変わりたいと思う人や。最早生まれ変わる事も望まず、ただ虚構の中で果てる事を望む人もいる。さっき言わなかった?ここは"魂"と"虚空"の集まる空間だって』 すると影は頭上の夜空を指差す。 『この星々は。これから生まれ変わる人間の魂そのもの。言わば卵みたいなものかな。じゃあ、その魂が漂っているこの黒い海は何だと思う?』 影が嬉々として問いかける。 木鳥は少し考えてみると、数秒後何かに気がついたのか、顔を引き攣らせて青ざめる。 『そう。さっき言ってた"無"を選んだ人間の成れの果てさ。無を望んで尚、次の旅をする魂の介護という役目を持てるだけまだ幸福な方だと、濮は思うね』 木鳥は再度嫌悪感を抱いた。 この影は、なんだか人の命を軽く見ている気がしたのだ。 それが少し……不愉快だった。 影が木鳥の方を見てクスリと笑う。 『……それとも。君は濮ととあるゲームをするという選択肢もあるよ』 「ゲーム……?」 『そうだよ。君達が好きそうな事だ。簡単に言うなら"異世界転生"だよ』 それを聞いて木鳥は息を飲んだ。 異世界転生。 小説やアニメでしか聞いた事が無い、現実じゃあまず有り得ない超常現象。 それが可能だと、この影は言っている。 『君は魂になって生まれ変わるか、無となって永遠に魂の礎となり続けるか。どっちも正直ピンと来ないし嫌だろう?それに君は……明確に濮に殺意を抱いた。そうだろう?』 「……確かに嫌いですね。貴方のその考えは」 『だと思ったよ。だからこういう提案をしたくてね』 影は木鳥の方を指差すと、これまでには無かった低い声で言った。 『異世界で力をつけて……"濮を殺せ"』 続く

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気取りの木鳥さん

紅サムライ

紅のサムライ 第弐話:君はどこから 「……どういう事?に、日本で刀って……普通持てない気がするけど……」 「……いや、出来なくは無いよ。ただその場合、美術品指定の刀のはずなんだけど……こんなに普通な刀は……」 姉ちゃんがむむむ?と唸っている。 すると和服の女性の眉毛がピクリと動き、目が徐々に開いていく。 「……こ、ここは……一体……?」 「お?目が覚めたかな?」 姉ちゃんが口を開くと、和服の女性が怪訝な表情でこっちを見つめる。 「……お前達は?」 「なぁに。ただ散歩をしていたアラサーとその弟さ」 「あら……さー?」 「三十代に突入した人の事。それよりも。君は何者?」 姉ちゃんが尋ねると、和服の女性はゆっくりと立ち上がる。 すると腰に下げた刀の鞘に手を添える。 その身なりは本物の侍みたいだった。 「私の名は紅葉(もみじ)。江戸に住む侍の娘だ」 それを聞いた姉ちゃんは驚いた表情で固まる。 勿論僕もだ。 和服で外を歩き、江戸に住む侍の娘と言い、ましてや本物の刀を持っている。 考えられる可能性は、単なる変人くらいとしか思えないが、彼女の言動には芯が感じられる。 嘘をついているとも考えにくい。 「……ちょっと待ってねぇ」 姉ちゃんが紅葉に笑顔でそう言うと、僕に耳打ちする。 「彼女……変人に見える?」 「み……見えないよ。僕には」 「普通の人なら、警察か救急車を呼ぶのが普通なんだろうけど……アタシはなーんか引っかかるんだよね」 「僕も……だけど、だとしたら彼女は何者……?」 「…………憶測だけど……」 「え?」 姉ちゃんが何か呟くと、紅葉の方に向き直る。 「紅葉ちゃん……だっけ?一つ聞いても良いかい?」 紅葉が「ああ」と答える。 姉ちゃんは真剣な表情で、彼女に尋ねた。 「今って何時代?」 その言葉を聞き、紅葉はキョトンとした表情で答える。 「今は江戸時代だろう?それがどうした?」 その場にいた全員が静まり返る。 僕は何がなんなのか分からなかった。 逆に姉ちゃんは「なるほどね」と相槌をする。 「……ここじゃあなんだから、場所を変えようか。それと紅葉ちゃん。刀はなるべく人に見られない様に隠して欲しい」 姉ちゃんがそう言うと紅葉は首を傾げながらも了承し、ついて行く。 僕は何一つ理解しないまま、姉ちゃんの後を追った。 続く。

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紅サムライ

気取りの木鳥さん

気取りの木鳥さん 第一話。 彼女の名前は木鳥さやか(きとりさやか)。 ごく一般的な家庭に一人っ子として生まれた、現在高校三年生。 人と会話をするのが不得意で、友達作りもあまり自分からはやらない様な大人しく控えめな性格だ。 「さやかちゃんー。おっはよー」 「あ、おはよう。美咲」 クラスメイトの美咲(みさき)に挨拶する。 彼女は木鳥が初めてクラスで仲良くなった女の子で、歌う事が好きという共通点から意気投合。 週に二回は一緒にカラオケに行っている。 木鳥にとっても大切な存在である。 「ねーねー!昨日やってたアニメの主題歌!あれ最高だったよね!」 控えめな木鳥とは真逆で、明るくて元気な声を上げる。 木鳥は「うん」と小さく頷く。 「そうだったね。戦闘系アニメなのに凄く落ち着いてて感動出来た曲だったね」 「うん!サブスク解禁されたら歌いに行こうよ!」 「いいよ。練習しとかなきゃ」 たわいの無い会話をし、いつもと変わらない退屈な授業を終える。 そして木鳥は、美咲と一緒にアニメの話をしながら帰っている。 「異世界転生ってさ。死んじゃわないと出来ないのかな?」 美咲が言い出した言葉に、木鳥は「うーん」と空を見上げる。 「どうなんだろう。別に死なずに異世界転生してる作品もあるから」 「そっか……なーんか残念」 「何が?」 「異世界って憧れるけど、行く方法が無いってのがなーって」 木鳥は「あー」と声を出す。 所詮異世界転生は作り物に過ぎないが、確かに憧れてしまうのは否めない。 何故異世界転生や超常的な時空転移の条件が"現実での死亡"率が高いのかは良くわからない。 メタ的に考えても現実的に考えても、死なせた方が都合がいいのかもしれない。 こればかりは作っている小説家達に聞かないと分からない事だ。 美咲は木鳥の顔を見て笑う。 「さやかちゃんっていつも考え事してるよねー」 「え、そ、そうかな?」 「うん!考え事ばかりしてると良くないよ?たまには頭空っぽにしよ!」 「……そうだね。ごめん」 木鳥が謝ると、美咲が「いいよー」と笑顔で言う。 暫くして木鳥は美咲と別れ、一人で街中を歩いていた。 他校の男子の四人組が笑いながらすれ違ったり、疲れきった表情をしたサラリーマンが通ったりと。 いつも見る変わりない光景だった。 木鳥は駅に向かい、電車に乗った。 電車に揺られながら、木鳥はスマホを取り出す。 スマホのニュースや色んなサイトに目を通す。 アニメの新情報や、世間の気になるニュース。 様々なジャンルの記事が揃い、頷きながら読んでいると、いつの間にか最寄り駅に着いていた。 木鳥は電車を降りて、ホームを歩き駅の通路に出る。 今日はやけに人が少なく静かだった。 通路の壁に貼られた広告のポスターを見ると、木鳥は足を止める。 そこに貼られていたのは、異世界転生アニメの劇場版化したものの告知ポスターだった。 木鳥と美咲が知っているアニメだが、劇場版化は初耳だった。 「……写真撮って、美咲に送ろう」 そう思い彼女はスマホを鞄から取り出すと、ハタと動きを止めて横を見た。 向こうから靴の音を乱暴にたてながら木鳥へと走ってくる人影があった。 顔は黒いフードで隠されており、その両手には鼠色に光る刃物が握られていた。 それを理解した瞬間、木鳥の腹部に激痛が走った。 「……がっ……」 喉全体から鉄の味がし始め、ありえないほどにガラガラな声になった。 黒いフードの人物は、手に握られた刃先の赤い刃物を捨てると、木鳥の落としたスマホと学生鞄を強引に奪い去って行った。 うっすらと、フードの奥に笑った口元が見える。 木鳥は体から力が抜けて床に崩れ落ちる。 「だ……れ……か…………」 全身の体温が消えていく感覚に苛まれ、木鳥の意識は完全に途絶えた。 続く

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気取りの木鳥さん

完璧な私の弱点

完璧な私の弱点 私はクラスの委員長を勤めている少女である。 成績も運動神経も共に優秀で、皆からかなりの人気者だ。 別に自慢したい訳では無い。 私は勉強する事も、運動する事も、今では好きでやっている。 それが伸びた結果だと、私は受け取っている。 そんなある日の放課後、私は予備校に行く為に教室から出ると、廊下に一人の男が立っていた。 その顔に、私は見覚えがあった。 「……拓真」 「よう。優等生」 彼の名前は拓真(たくま)。 私の中学の時からの同級生で、家も若干近い。 だけど、高校生になってからはほとんど関わりをもっていなかった。 「今帰り?」 「おう。優等生さんは?」 「……その呼び方やめてよ。私も帰りだけど」 「そか。久しぶりに一緒に帰るか?」 中学の頃から変わらない、ぶっきらぼうな口調と表情。 私はふぅと息を吐くと、首を横に振る。 「ごめん。私今から予備校だから」 私はそそくさと、彼から離れようとする。 すると彼が私を引き止める。 「水くせぇな。途中までならいーだろうが」 「……もう」 私は意地でも着いてこようとする彼に呆れ気味にため息を吐く。 相変わらず……自分勝手……。 「好きにすれば」 彼はそう聞くや否や、私の隣を歩き始める。 だが、帰り始めて数分間、私達は全く会話をしなかった。 なんなのよ。拓真の奴……自分から誘っておいて……誘われてる私が黙ってるのもあれだけど……。 なんか話題とか振ってよ……気まづいじゃない! それに昔からそうだった。 こいつを相手にすると……なんか落ち着かない。 関わりが中学でもあんまり無かったから、何話せば良いのか分からない。(そもそも男との会話が難しい) とにかく……なんか喋ろう。 「えーっと…………拓真。ちゃんと勉強してんの?」 「捻り出した会話の内容がそれかよ」 鼻で笑う拓真を見て、私は「はぁ?」と心で呟いた。 「あのねぇ。私一応、拓真の心配してあげてるんだけど?」 「そうかい。まぁ、なんだ……お前程ガリ勉では無いとだけ言っとく」 「ガリ勉って……」 「事実ガリ勉だろ。お前体重も軽いし」 「そっち!?あんたデリカシー無いわね!」 「女子で軽い事にキレる奴初めて見た」 ケラケラと笑う拓真。 私は拓真から視線を逸らす。 なんなんだ。本当にこいつは。 「……拓真さ。私になんか言いたい訳?」 「あ?」 「なんて言うかその……回りくどいって言うか……うざい」 「ただの私怨じゃねぇかよ。それに別にそんな深い意味は込めてねぇよ。自意識過剰ですか」 「ぬがっ……」 一瞬拳が出そうになったのを、私は必死に堪える。 「……でもまぁ。お前に言いてぇ事があるのは……事実かもな」 「え。な、何よ?」 急に神妙な口調になった拓真に、私は困惑する。 拓真は斜め上を見上げながら言う。 「お前。あんな優等生振ってて楽しいのか?」 「………………は?」 予想だにしなかった言動に、私の頭がフリーズした。 優等生……"振る"?。 「……何言ってんの?」 「だから。好きでもねぇのに、そんなに優等生振ってんのはなんでだって話だよ?お前、中学ん時そんなキャラじゃなかっただろ。もっとガキみてぇだったぞ」 「……垢抜けって言うの知らない?」 「……なんか無理してねぇか?」 「…………あんたに関係ないでしょ?」 「ある」 「関係ない!」 私は思わず声を荒らげる。 「ないないない!絶対に無い!あんたみたいなやつに分かるわけないでしょ!?人は絶対にいつか変わらなくちゃいけないの!その為には努力しなきゃいけないの!」 私はその為にずっと、寝る間も惜しんで努力してきたのに。 こいつに……そんな事言われたく……。 「お前のは"努力"じゃなくて"無茶"だろうが」 「っ……」 「自分を変える為に努力するのは結構なこった。だけどその為に自分を追い詰めるのは努力じゃねぇ」 「……なんなのよあんた!何様のつもりなのよ!人が無茶しようが努力しようが、その人の勝手でしょ!?なんなの……私の事が好きなの?違うでしょ!?だったらほっとい……」 「そうだよ」 「…………は?」 間髪入れずに割り込んだ彼の言葉を、私は聞き返す。 拓真は迷いの無い表情で言った。 「俺はお前の事が好きだ」 「は…………ぇ?」 「見た目は大人なのに、中身は諦めの悪くて頑固なガキみたいで……優しいお前がな」 「えっ……ちょっ…………はぁ?」 私は頭が追いつかずに困惑する。 私が……好……きぇ? 「信じられねぇか?なら信じるまで何度でも言ってやるよ。俺はお前が……」 「ちょっ。ちょちょっ!い、いいからもう言わなくて!」 拓真の言葉を寸前で止める。 二言も聞いたら、私は恥ずかしさでどうにかなってしまう。 「まぁ。そんな訳で、お前が何か抱えてるなら。俺にも抱えさせろってんだ。余計なお世話かもしれないけどな」 「……あ、ありがとう」 私は言葉を発するだけで苦労してしまう。 心臓の鼓動が収まらなかった。 あぁ。だからこいつはうざいんだ……だから……ほっといて欲しかったんだ……。 だって……絶対……こうなっちゃうから……。 「っと。お前そろそろ予備校だったよな。んじゃ俺はこの辺で……」 帰ろうとするこいつの腕を、私は力強く掴む。 あぁ。体が言う事を聞いてくれない。 全部……全部……あんたのせいだ……。 「……待ちなさいよ…………あんた、言うだけ言って帰るつもり……?」 「は?え……だからお前は予備校で」 「……あんた。今から私の家に来なさい」 「は?……なんで?」 私は多分、凄く赤面しているであろう表情でこいつを睨む。 「……全部あんたのせいよ…………責任取りなさい」 「せ……責任?」 「ほら!行くわよ!」 私は掴んだ彼の腕を強引に引っ張る。 「いででで!おいなにすっだよ!お前予備校は!?」 「今日は休むわよ!あんたもどうせ暇なんだから来なさいよ!この女たらしが!」 「誰が女たらしだよ!あと暇って決めつけんなよ!まぁ暇だけど!」 もうあんた……! 心臓の高鳴りを誤魔化すかの様に、私は音を大袈裟に立てて歩く。 絶対に……ただじゃ帰さないんだから! 私は密かに覚悟を決めた。

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紅サムライ

第壱話:本物の刀 僕の名前は宮本太一(みやもとたいち)。 どこにでも居るような普通の高校2年生。 得意な事と言われたらサッカーとあやとりくらいしか思いつかない。 そんな平凡な毎日を過ごしてる中、僕は家へと帰宅する。 「ただいまー」 声を上げてリビングへと向かうと、そこにはパソコンをいじっているメガネの女性がいた。 黒髪のショートヘアで、毛先だけが紫色に染まっており、黒マスクをつけている。 「あー。お帰り太一」 彼女は僕の姉である宮本あずさ。 27歳の大学教授で、とても頭が良い。 大学では見た目やその頭脳の高さからかなりの人気者らしく、少しだけ羨ましい。 「姉ちゃん今日早いね?仕事は?」 「今日は大学が早帰りだったからね。まぁ、その分面倒な事も多かったけど」 姉ちゃんはそう言うと、カバンからクリアファイルを取り出した。 中には大量の封筒が入っている。 全て姉ちゃん宛の様だ。 「何それ?」 「ファンレターだとさ。なんか、アタシのファンクラブが大学内であるらしくてね。毎日の様にちょっかいかけられるから困るんだよ」 「ファ、ファンクラブ!?……って何?」 「その人を熱烈に応援してるグループみたいなものさ。全く、もうちょいでアタシもアラサーだってのに」 姉ちゃんは呆れ気味な表情でため息をついた。 大学内で人気者なのは知ってたけど、そんなに大規模なものだとは思わなかった。 「ところで太一。今日の日課は良いのかい?」 「あ、そうだった!行ってくる!」 「あ、ちょっと待って。アタシも行くよ」 姉ちゃんがパソコンを閉じて立ち上がる。 僕は目を丸くした。 「え?姉ちゃんもサッカーするの?」 「んー。そうじゃあないね。太一が普段どんな日課をこなしてるのか気になったってだけさ。それともアタシがいるとお邪魔かい?」 姉ちゃんが首を傾げる。 「うんん。全然大丈夫だよ」 「そう?ならついて行こうかな」 僕は服を着替えて、ボールを持つと姉ちゃんと一緒に玄関を出る。 外を歩きながら、姉ちゃんが僕に尋ねる。 「いつもどこでサッカーしてるんだい?」 「んー。この近くの空き地」 「あぁ。確かにあそこ広いからね」 僕は普段は家の近くにある空き地でサッカーの練習をしている。 部活には所属してないけど、将来的には習い事とか大学とかでサッカーをやろうと思っている。 そのための練習や体力作りのようなものだ。 「偉いなぁ太一は昔から」 「そ、そんな事無いよ。趣味でやってる事だから」 「趣味を持つ事だって、十分ご立派なもんさ」 ふふんと、姉ちゃんは何故か得意げに微笑む。 僕は姉ちゃんに「ありがとう」とお礼を言う。 するとその直後、辺りに強い風が吹き始めた。 姉ちゃんが首を傾げる。 「……なんだろう?変な風だねぇ」 「え、変なって?」 「だって。よく肌で感じてみなよ……ほら、風が"下向きに"吹いてる」 姉ちゃんに言われて僕は風を全身で受けてみる。 確かに風が上から吹いている。 普通、風は横から吹くものな気がするのに。 違和感を覚えた次の瞬間。 真横で一瞬、稲光の様な強い光を発した。 「「!?」」 僕達は揃って光の方を見た。 真横には大きな裏山への入口があった。 光源は恐らくこの奥だ。 「……姉ちゃん。どうする?」 「……うーん。本来なら回れ右して離れるんだろうけど。アタシこういう不思議現象にめっぽう弱くってねぇ」 「……行ってみる?」 「すまないね。アラサーがわがまま言っちゃって」 「全然」 僕達はゆっくりと裏山に歩を進めて行く。 緑に溢れる道を進んでいき、茂みをかき分ける。 そしてそこで見たのは。 「……人だ」 道の真ん中に倒れた人の姿があった。 近くに駆け寄って様子を見る。 茶髪で長い髪を後ろで結んでいる、和風の女性だった。 背丈は僕と大して変わってないくらい。 耳を澄ませると、微かに「ううっ」と唸り声をあげている。 よく見ると腰に何か棒状の物を下げている。 外見はまんま刀だった。 姉ちゃんがそれに触れると、首を傾げる。 「……冷たい?」 そう言って姉ちゃんは柄の部分を持って刀を引いてみる。 キンッと金属音が小さく鳴ると、そこから見えたのは……。 「……本物の……刀」 「え……」 太陽光で輝く、鼠色の刀だった。 続く。

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紅サムライ

月村七海の命脈

第四話 七海は変身を行ない上空を飛びながら通話をしている。 「クロウさん!クロウさん聞こえますか!?」 『んー?聞こえるよーん。七海ちゃん私はまだ難聴の歳じゃないよ 』 「ふざけてる場合じゃありませんよ!今どこに居ますか!?」 『空を優雅に散歩中だよ。んで、何があったの?』 「私と竜也さんの近くで大きな地響きが起きたんです!近くの人の通報だと"黒い爆発が起きた"と言ってました!どう考えても普通じゃありません!」 声を荒らげて七海は言うと、電話越しのクロウは欠伸を零す。 『分かったよー私も頑張って向かうから、土門と頑張って食い止めてて欲しい』 そう言ってクロウは通話を切った。 七海がスマホをしまうと、下を見つめる。 直後息を飲む。 今まで見た事も無いほど、ドス黒いオーラに満ち溢れている異形がそこにいた。 腕が四本あり、三メートル程ある巨人の"UE" だった。 七海は地面に降り立つと、"UE"を見据える。 すると、"UE"の右手に何かが握られているのが見える。 「なっ…………!」 七海は驚愕する。 "UE"が握っていたのは、雛だった。 よく見ると頭から血を流している。 雛に向けて七海が叫ぶ。 「雛っ!大丈夫!?雛っ!」 彼女の呼びかけに、雛がピクリと反応する。 微かにうめき声を上げている。 まだ生きてる。 幸い周りに他の人はいないから避難誘導をする必要は無い。 「……待ってて、雛。すぐ助ける」 七海は右手を"UE"に翳す。 すると"UE"は大きな左腕を思い切り振り上げる。 七海が右手を咄嗟に上に翳す。 すると手の平から水色の傘の様なものが展開された。 "UE"の左腕が傘に接触し、攻撃を防いだ。 そして傘の表面から、複数の触手の様なものが現れ、左腕に巻きついた。 その直後、"UE"に電撃が走った。 痛みのあまり"UE"は右手に握られていた雛を宙に投げ飛ばしてしまう。 七海はすぐさま飛び上がり、雛を受け止める。 苦しそうに咳き込む彼女に、七海は必死に声を掛ける。 「雛?大丈夫?」 すると彼女は薄く目を開ける。 七海の顔を視認すると、安心した様に微笑む。 七海は唐突に思い出す。 雛はヒーローの事を知らないのに、雛の名を呼んでしまった。 正体がバレてしまうか、と思ったが、今はそれを気にしている場合でも無い。 「もう大丈夫だからね」と雛を宥める様に呟き"UE"に視線を戻す。 電撃による麻痺を振り払う様に顔をブルブルと振ると、大きく咆哮を上げる。 状況としてはかなり良くない。 七海自体はあまり攻撃特化のヒーローな訳では無い。 雛を庇いながら戦う事はほぼ不可能、かと言って逃げる訳にもいかない。 葛藤している時。 真下の地面が隆起し、爆発する。 そこから現れたのは、両腕が鉤爪の様なものに変形した竜也の姿だった。 「どおっせぇぇい!」 右手の鉤爪を解くと、彼は思い切り"UE"の顔面を殴りつける。 轟音が鳴り響き、"UE"がその場から崩れ落ちる。 「七海お前。ボケっとしてたらやられるぞ!」 「ぼ、ボケっとなんてしていませんよ!雛を庇いながらでは、私一人では対応出来なかっただけです!」 「だったら逃げるなりなんなりしやがれってんだ!思考しすぎてして固まってたら元も子もねぇだろうが!そいつ、お前のダチなんだろ!?」 竜也の怒鳴り声に、七海は萎縮する。 固まってしまっていたのは事実であり、二人まとめてやられていた可能性もある。 そう考えたら、彼女の判断はかなり危なかった。 「おら!来るぞ!てめぇはろくに動けねぇだろうから援護しろ!」 「……わ、分かりましたよ!」 それを聞いた竜也は、思い切り前線へと駆け出した。 続く。

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月村七海の命脈

月村七海の命脈

第三話 放課後。 七海はせっせと鞄に教科書を仕舞うと、席を立つ。 あの後、今後の方針を決める為に一度三人で会おうという話になった。 その為、学校から直接その場所に向かわないといけない。 彼女が教室を出ようとした時。 「七海ちゃーん。今日一緒に帰ろーよ!」 雛が七海に元気良く言った。 七海は少し反応に困る。 「……えっと。雛、今日は私……」 「まーた用事?いっそがしいんだねー?」 「うん……ごめん。また機会があったら」 「ちぇー。分かったーじゃあねー」 雛は残念そうに言い、教室を後にする。 七海は悲しい気持ちになった。 雛には自分がヒーロー活動をしている事を明かしていない。 それ故に、遊びに誘われていても断ってしまうことが多いのだ。 本音を言えず、断り続ける事に七海は罪悪感を覚えてしまう。 「……《トランス》」 七海は呼吸を挟むと、胸元に手を当てながら呟く。 すると水色の光が彼女の周りを渦巻く。 七海の姿が、制服からマリン服を思わせるものに変わった。 彼女は辺りを見渡し、ベランダへと出る。 柵をよじ登り外へとジャンプすると、ふわふわと体が浮遊し、そのまま上空へと飛び上がった。 教室が静まり返った時、ガラガラと扉が音を立てて開く。 そこに現れたのは、雛の姿だった。 とても驚いた顔をして、ベランダへと歩み寄る。 「……七海ちゃん……ヒーローだったの……?」 数分後。 学校近くの雑居ビルの屋上に、二人の人影が見える。 一人は大柄で強面の男性。 もう一人は制服姿の青年だ。 「やっときやがったな。遅せぇぞ」 「これでも急いで来た方なんですよ」 七海は文句を言ってきた竜也を軽くあしらうと、ジョンに頭を下げる。 「ジョン=グリズルさん。お会い出来て光栄です!」 「こちらこそ光栄だよ。Miss月村」 ニコリと笑顔でジョンも頭を下げる。 竜也がニヤニヤしながら七海に言う。 「そーやってお偉いさんには媚び売る奴なんだな」 「なっ……!?こ、媚びなんて売ってませんよ!失礼なっ!」 七海が竜也をギロリと睨むと、ジョンが「まぁまぁ」と言って割り込む。 「月村さんの礼儀の良さも大切だよ。媚びだなんて思ってないさ。土門、あまり自分の主観だけでものを言わないようにな」 ジョンが鋭く注意する。 竜也は「ケッ」とつまらなそうに言う。 「さて。クロウは遅れてくると言っていたが……どうせあいつの事だ。どこかでサボっているだけだろう。三人で今後の事を話したい」 「おー。相変わらず変な所でやるんだな」 「我々はヒーローだ。一般市民に軽々しく知られてはいけない事だってある」 ジョンは一つ咳払いをすると、両腕を組む。 「今朝話した通り、現在。日本での"UE"出現率が極端に高い状況にある。上の方にも原因を確認したが、詳しい事は何も分からない。だから他国のヒーローの要請をいくつか持ちかけられた。その中でアメリカの代表として、私が来たのだ」 話を簡潔にすると。 日本の"UE"出現率の増加の原因や規模が未知数である為、日本内のヒーローだけではままならない可能性がある。 その為、他国のヒーローの何人かに応援要請をした。 ジョンはその中のアメリカ代表であり、他にも二国程応援が来ているという。 「なるほどなぁ。んで、オッサンはアメリカのドンな訳だから来たのか」 「……私は別にドンな訳では無いが。私は日本という国を気に入っている身ではある。アメリカと同様、死力を尽くして任務に当たるつもりだ」 ジョンは強く意気込む。 「という訳で、何度も言うが私も日本の"UE"調査に加わる事になる。よろしく頼むぞ、月村さんに土門」 「はい!こちらこそよろしくお願いします!」 「……よろしくな。オッサン」 三人は軽く挨拶すると、雑居ビルから解散した。 七海と竜也は並んで帰っていた。 「竜也さん。ジョンさんに対して"オッサン"は失礼ですよ!」 「ぜってえテメェなら言ってくると思ったぜ」 「なら尚更!なんであんな口調なんですか!あの人はヒーロー以前に、人間としても大先輩なんですよ!?」 「あのオッサンいくつだよ」 「42くらいかと」 「オッサンじゃねぇかよ」 「だからそういう事じゃ……あぁもう!」 七海がため息をつきながらおでこに右手を添える。 竜也は隣で「ネチネチうっせぇなぁ」と呟く。 彼女が更に抗議しようとしたその時。 遠くで微かに地響きの様な音が鳴った。 数分前。 雛は一人で自身の帰路を歩いている。 学校鞄を両手に持ち、空を朧気に見上げながら言う。 「……七海ちゃん。ヒーローだったのかぁ」 雛はヒーローの存在自体は認知しているが、七海がそれに該当する事を知らなかった。 いつからなのか、何故話してくれなかったのか。 情報や感情が入り交じり、雛はずっと虚空を見つめていた。 その時。 「……なんだろうあれ?」 彼女の視線の先に、黒い球体のような物が見える。 それは段々とこちらに近いて……。 「……え?」 雛の目の前に落下し、強い衝撃が走った。 続く。

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あいつのココア

雨が激しく降りしきる中、私は気がつけばある家の前に着いて、インターホンを押していた。 数秒後に家の扉が開くと、中からは勿論"あいつ"が顔を出した。 雨によってびしょ濡れになってしまった私の姿を見て、"あいつ"は目を丸くした。 「……えへへ。びっくりした?」 「……そりゃ驚くだろ。とりあえず入れ」 "あいつ"は私を家に入れると、シャワーと服を貸してくれた。 リビングにて、"あいつ"は少し不機嫌な表情で私の方を見つめる。 まぁいきなり知り合いが雨の日の夜にびしょ濡れになって家に来るとなると、不機嫌にはなるだろう。 「それで?何で来たんだ?」 「……実は……ね」 私は事の顛末を全部話した。 私はとある企業会社に勤めている社員。 基本的に何もミスなどもしない、自分で言うのもあれだけど優秀な社員だったんだけど。 私が先日、軽い不手際を起こした事で、会社がちょっと荒れてしまった。 今では何とかなったが、私は一気に自信が無くなってきた。 というより怖くなってしまった。 だけど頼ったり、愚痴を言ったりする人が……"あいつ"しか居なかった。 だからいても立ってもいられず、ここにやって来た。 ……我ながら馬鹿だと思った。 ちょっとミスしたくらいで何もかもが怖くなり、単なる友人で頼りたいからって、雨の夜中に家に押しかける。 本当に馬鹿に思えてくる。 こんなんじゃ、"あいつ"はきっと、私を笑うんだろうな。 「……笑わねぇよ」 「え?」 予想だにしなかった言葉に、声がひっくり返ってしまう。 「何だかんだお前とは、中学くらいからの馴染みだしな。それに、どんだけ些細なものでも。ミスを怖がるのは誰だってそうだろ。俺だって怖い時はある。それに、自分の心が打ちのめされた時、誰かに頼りたくなるのも当然だ。お前がそれで俺を頼ったんなら、俺はお前が満足するまで頼られてやるよ」 「…………」 私は目頭が熱くなってしまうのを感じる。 ……本当に馬鹿だ、私は。 馴染みからしんみりする言葉を掛けられただけで、泣きそうになるなんて。 なんて単純なんだ。 すると"あいつ"はキッチンに移動し、数分後にはカップを持って戻ってくる。 そしてそれを私に手渡した。 中には暖かくて、いい香りのするココアが入れられていた。 「さみぃだろ?飲めよ」 私はココアの入ったカップを両手に持ち、ゆっくりと口に流し込んだ。 冷えきった体と心が温められる気がして、私は遂に涙を流した。 「もう……あんたはずるい」 「あ?…………っておいおまっ……!」 うるさいよ、馬鹿。 私は"あいつ"の注意を無視し、その唇に自分のそれを強引に重ねた。 もう私はそのまま"彼"を欲望のままに掻き乱し続けた。 その後の事は、私達だけの秘密。

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あいつのココア

月村七海の命脈

第二話 とある高校にて。 七海は制服と鞄を身にまとって、自分の通う学校へと足を運んでいる。 「なーなみちゃん!おっはっよっ!」 突然背後から肩を組まれ、七海は目を丸くする。 だが、その人の顔を見てすぐにニコリと微笑む。 「おはよう雛。相変わらず朝早いね」 彼女の名前は雛。 七海とは中学の頃からの友人であり、クラスメイト。 普段から元気いっぱいな性格だ。 七海とは互いを親友と認め合えるような関係性だった。 「まぁね!早寝早起きは大事でしょ?」 「それもそうだね」 ふふっと笑い合うと、ゆっくり学校へと並んで歩き出す。 学校へと辿り着き、教室へと向かう。 「おい七海」 彼女の背後から、声が聞こえ二人は振り返る。 直後、七海が「うっ」という声を上げる。 茶髪のトゲトゲした頭の青年、竜也だった。 制服姿でとても気だるげな雰囲気がある。 「なんですか。土門さん」 「ちっと話があるんだ。ツラ貸せや」 それだけ言って、彼は二人に背中を向ける。 恐らく、ヒーロー活動に関する話である事は、七海には容易に想像できる。 「はぁ」と肩を落としてため息をつく。 すると雛が首を傾げる。 「七海ちゃんって、土門君と付き合ってる訳じゃないよね?」 「違うよ。ただの仕事……知り合いだよ」 「にしては結構頻繁に会ってない?二人とも部活とか委員会に入ってる訳じゃないのに」 雛の問い詰めに、七海は困ってしまう。 付き合っている訳では一切無く、部活でも委員会でも無い。 だけどヒーロー活動と雛に言う訳にもいかない。 「……あー……雛。今日の五時間目のテスト勉強した?」 「あ!してない!早く行って勉強しなきゃ!」 雛は思い出した瞬間に、廊下を全力疾走しだした。 七海は安堵の息を吐くと、教室とは逆方向に歩き始める。 しばらく歩き、屋上に繋がる階段を上がる。 屋上扉の前に竜也が寄りかかっていた。 「なんですか土門さん?あまり友達と一緒のときに話しかけないで欲しいです」 「んでだよ?」 「私達にはヒーロー以外の接点が無いんですよ?不自然に思われますよ」 「不自然も何も、ただの知り合いって事にすればいんじゃねーの?」 「知り合いにしては頻繁に会いすぎですよ」 「じゃあもうダチでいーだろ」 「嫌ですよ!というか、土門さんと私が互いにそう思っていないと、友達関係にはなれませんよ!」 「……めんどくせぇな」 竜也がポリポリと頭を搔く。 すると七海はハッと我に帰り、コホンと咳払いする。 「そ、それで?用件はなんですか?」 「あ?あー、俺もクロウに呼ばれただけだから知らねぇんだ」 竜也が手元のスマホを操作し、七海に画面を見せる。 『竜也の学校の屋上入口で、七海ちゃんと恋バナでもして待っててー♡by.クロウ』 「……土門さんも苦労しているんですね」 「あぁ。あんな馬鹿たれの相手は疲れる」 二人でそう言ったその時、七海の背後からバゴンと音が鳴った。 七海が急いで振り返り、目を凝らして見る。 後ろにあるのは、階段とその手前に置かれた掃除用具ロッカーだった。 二人はロッカーに近づき、恐る恐る扉に手をかけようとする。 すると扉が勢いよく開き、中から人が飛び出してきた。 「ばぁ!」 「うわぁ!」 飛び出してきた人の大声に、七海は思わず驚いてしまう。 「はっはぁー!驚いただろう君達!」 「……何やってんだクロウてめぇ」 竜也がため息混じりに呟く。 中から飛び出してきた人は、二十代程の女性だった。 長くストレートで、艶のある黒色の髪。 黒曜石のように輝きのある瞳。 全体的に漆黒の目立つ色の女性だった。 「クロウさん。何か御用があると聞いたのですが」 七海が本題に戻ろうとすると、クロウと呼ばれた女性は苦笑いする。 「あはっ。七海ちゃんは真面目だなぁ。ちょっち待ってねぇー」 クロウが鼻歌を歌いながらスマホをポチポチと操作する。 そしてその画面を七海達に見せる。 ビデオ通話となっていて、画面の奥には大柄な男の人が映っていた。 とても強面で派手な格好をしており、筋肉質なのが画面越しでも分かる。 相手を見るや否や、七海が反応した。 「え?まさか!ジョンさん!?」 「あ?なんだよこのオッサンそんな人気なのか?」 竜也が首を傾げると、七海が興奮気味に答える。 「ジョン=グリズルさんですよ!アメリカを代表するヒーローで、これまで数々の危険任務をこなしてきたベテランのエリートヒーローですよ!?」 「いや、んなに熱弁されても知らねぇよ」 二人が話していると、画面の奥でジョンが照れた様に微笑む。 「いやぁ。知ってもらえてるのは嬉しいね。ありがとう。さて、君達に話しておきたい事があるんだ」 ジョンはコホンと咳払いする。 「クロウから聞いていると思うが、近頃日本での"UE"の出現率が非常に高いんだ」 「え……?そんな事私は聞いてないですよ?」 「俺も初耳だが」 二人の発言を聞くと、ジョンは「はぁ」とため息をつく。 「……クロウ。君はもう少し、ヒーローとしての自覚を持ったらどうだ?」 「あはは。七海ちゃんといい、ヒーローって真面目キャラが多いねぇ」 クロウがクスクスと笑う。 ジョンは再び咳払いすると、真剣な眼差しとなる。 「"UE"の出現率増加となれば、それなりに日本に危険が迫るという訳だ。その調査と駆除を、私達四人で行いたい」 七海ちゃんがゴクリと喉を鳴らし、竜也が頭を搔いた。 続く

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