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汚れちまった色恋に

汚れちまった色恋に 第十話:好き-前編- その日の夜。 『ど、どういう事なの美桜。水野君にこ、告白されたって?』 二人に真意を話したいが故に、グループ通話を行っている。 「告白かどうかも……分からなくて……」 『お、おう……どんな感じの事言われた?』 「えっとね…………『実は俺、風間さんが好き』って」 『告白やん!プロポーズやん!』 凛花ちゃんが『きゃー』とテンション高めに叫ぶ。 それを聞いた静葉ちゃんが、通話越しでもハッキリ聞こえるため息をつく。 『告白って断言するのも違うでしょ。実際美桜は分からないから相談したんでしょ?』 「う、うん。そんな感じ」 『そうだね…………美桜はなんて答えたの?』 「……"ありがとう"って」 『……そっか。美桜はさ、水野君が好きなの?』 「…………」 私は言葉に困る。 校門で水野君の友達にも話したが、私は水野君が好きなのか分からない。 いや違う。 私は彼の事は"好き"だ。 ただ、どんな"好き"なのかが分からないんだ。 『静葉ちゃんみたいな"好き"』なのか『友達としての"好き"』なのか。 どっちなのか、私には本当に分からない。 だから、私はちゃんと答える事が出来なかった。 『……凛花。あんた好きな人いるの?』 『ふぇっ!?なんでボクなの!?』 『いいから。いるの?いないの?』 『え、えぇ…………い、いない事は……ないけど』 『あんたはその人が、あんたの事を恋愛として好きなのかは分かる?』 『……分からんけど……って!だからなんなのさ!』 凛花ちゃんが抗議するが、静葉ちゃんはそれを無視する。 『美桜。恋愛って言うのは、両想いな事なんて早々無いの。どちらかが気持ちを伝えるまで、それは成立しないの…………私も多分、そうだったから』 静葉ちゃんが悲しそうに言う。 私はそれを聞いていた。 『だからね、美桜。水野君がどう言った意味で美桜の事が好きなのかを、ちゃんと確かめた方がいいよ。そしてそれに……ちゃんと答えてあげて』 「…………うん。分かった。ありがとう静葉ちゃん」 私は静葉ちゃんにお礼を言う。 すると凛花ちゃんが『ほほーん』と言う。 『静葉ってこーゆー話は真剣だし、説得力あるよね』 『……まぁ。経験者みたいなものだから』 『あ、確かにそうか』 私はそんな二人のやり取りを他所に、水野君に明日会う時の事を考えていた。 翌日。 私は学校にいつもよりも早い時間に登校した。 少しだけ、一人で整頓したかった。 水野君になんて言えばいいのか、私は水野君をどう思ってるのか。 他に誰もいない、私だけの空間で。 「……どう……思ってるんだろう……?」 そもそも、彼が私をどう思っているのかも分からないまま、私が何かを発言する資格はあるのだろうか。 好きなのか嫌いなのか、はたまた何とも思っていないのか。 それだけの事なのに……。 私が迷走していたその時。 ガラガラと、扉の開く音が聞こえた。 私はその姿を捉えると、声をあげる。 「……水野君?」 「風間さん……今日は早いんだね」 「うん……家にいる気分になれなくて」 「……そっか」 水野君が苦笑しながら答える。 私はゆっくりと立ち上がり、覚悟を決めて彼に話しかける。 「ねぇ、水野君……昨日の事なんだけど」 水野君が驚いた顔で振り返るが、その直後に真剣な眼差しになり「うん」と答える。 「水野君はさ……美桜の事が、好きなの?」 「うん」 「それはその……女の子と……して?」 私が確認を取ると、彼は小さく頷く。 「……うん。そうだよ。俺は、風間さんが好き」 「そう……なんだ。どうして?」 「……色々と理由はあるけど。最初はやっぱり、性格とかの意外性に惹かれた感じかな。気難しそうで声をかけるのが怖かったけど、話してみたら面白くて……あとは、相談した時も、話してみて心が軽くなったっていうか」 照れくさそうに、水野君は笑う。 「それに、風間さんは、こんな俺の良いところに気づいてくれたり、素直な気持ちを言ってくれた。それで……気づいたら、『傍にいたい』って気持ちになってたんだ」 「うん」 「だから……風間さん」 水野君はまっすぐに私の事を見た。 その瞳と、私のそれが合う。 瞳孔が不安と覚悟に揺れていた。 「俺と付き合ってくれませんか?」 続く。

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汚れちまった色恋に 第九話:不明感情 私達は二人で帰り道を歩いているが、思いの外何も会話をしていなかった。 こういう時は二人で話しながら帰るものだと思うのだが、静葉ちゃん程会話の話題が出てこない。 あまり私が男子と会話した事が無いのが原因ではあるけど、何故だか上手く話せない。 中学の時に戻った気分だった。 反射的に水野君に任せてしまっているが、彼もあまり口を開かない。 どこか顔が引きつっているようにも見える。 「……大丈夫?」 「え?な、何が?」 「顔、引きつってるよ?」 「ああぁごめん!ちょっと、緊張しちゃって」 「緊張……?なんで?」 「な、なんでってその……女の子と二人って……あんまり経験無くて」 「そうなんだ?美桜も無いけど。緊張はしないかな」 「……そっか」 水野君は穏やかな笑みを浮かべる。 「というか風間さん、さっき秋山達と何話してたの?」 「あ……それなんだけど……一つ聞いてもいい?」 「うん。何?」 私はさっきの二人に聞かれた事を水野君に聞き返す。 「美桜って……可愛いの?」 「……え?」 「実はね……」 私は先程の会話を水野君に話す。 水野君は「誰が抜け駆け野郎だよ……」と呆れ気味に呟く。 「美桜の事を可愛らしいって言ってくれたんだけど……どうしてなのか分からなくて」 「……まぁ多分だけど……風間さんって、傍から見たら、表情が固くてしっかりしてそうに思われるんだけどさ。結構曖昧な面もあるから……ギャップ萌え?みたいな感じなんじゃない?」 「そうかな……?」 「うん。俺も最初はそんな感じだったよ。風間さんって、結構怖そうなイメージあったからさ。だけど話してみたらそんなこと無かったし、寧ろ結構面白かったから」 「あ、ありがとう」 私はお礼を一言口にする。 前よりは確かに自分の中でも感情を出すようにはなったけど、それでも私の話を面白いと言ってくれるのは嬉しい。 「……ねぇ。風間さん」 「ん?」 「俺さ……部活じゃないけど、野球もう一度頑張ってみたいんだ」 「え?そうなの?」 私が尋ねると、彼は力強く頷く。 「うん。後悔はしてないって言ったけど、野球自体は嫌いな訳じゃないし、続けてみたいなって……今更な気もするけどな」 「……良いと思うよ」 「え?」 「諦めた事をまたやりたいって思えるのは、とってもいい事だと思う。それが自分の好きな事なら、尚更の事だよ。その方が後悔しないだろうし」 私はそう彼に伝えた。 実は静葉ちゃんも、以前同じような事を言っていたのだ。 "バレーボールをもっとちゃんとやりたい"と。 "約束した訳じゃないけど、友達の為に頑張りたい" 静葉ちゃんは元々、バレーボールはあまり好きでは無かったけど、友達が好きと言っていたから始めてみたらしい。 結果としては、未経験者だったが故にレギュラー補欠で止まったらしいが。 後悔はしていないと言っている。 頑張りたい事、好きな事をもう一度やり直す事はどんな人でも間違った選択では無い筈だ。 「……ありがとう。俺、頑張るよ」 「頑張ってね。応援してる」 「うん…………風間さん」 「ん?何?」 「実は俺……」 水野君が口を開いた。 翌日。 「んかぁー。眠いですなぁ静葉君」 「同感。だけどあんた、授業中に寝ないようにね」 私は凛花と一緒にファミレスにいた。 美桜が水野君と帰ると言っていたため、帰っても暇だと駄々をこねる凛花に、仕方なく付き合っている。 正直もう凛花の我儘には慣れてはいるが、美桜が他の人と帰っているのが新鮮だった。 美桜は他人と関わる事を怖がる事も多かったし、ましてや男の子と帰るなんて。 打ち解けた当初の美桜から、凄く成長を感じて微笑ましい。 と思ったその時。 ブーと、私のスマホに連絡が入る。 私はスマホを取り出して相手を見る。 「美桜だ。えっと…………え?」 思わず指に摘んでいたポテトをポロリと落とす。 凛花がもう氷しか残っていないドリンクをズズッと啜っていた。 「なぁに?」 ストローだけ咥えたまま、凛花は私のスマホを覗く。 するとストローをポロリと落としてしまう。 「…………まじ?」 凛花が私に尋ねる。 私にもよく分からず、何も答える事が出来なかった。 その内容は。 『もしかしたら、水野君に告白されたかも』 「「…………まじ?」」 二人して同じ反応をしてしまった。 続く。

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汚れちまった色恋に 第八話:恋は盲目 後日。 私の調子は戻り、学校に問題無く登校できるくらい回復した。 今はいつも通りの電車に乗っている。 だけどまだ疲れが取れてないのか、凄く眠たかった。 朝なのにウトウトしてしまい、首の力が定期的に抜けてしまう。 寝過ごしてしまうと面倒なので、眠気を必死に堪えている。 そう思ったその時。 「あ、風間さん」 聞き覚えのある声が聞こえ、私は顔を上げると予想通り水野君だった。 「水野君おはよう」 「おはよう。もう風邪は大丈夫なの?」 「うん。平気だよ……ちょっと眠たいけど」 「そっか。なら学校に着いたら寝ればいいんじゃない?」 水野君の言葉に私は首を傾げる。 「この前水野君が言ってたみたいに?」 「そうそう……ってあれ?覚えてくれてたの?」 「うん。楽しかった事は良く覚えてる」 「楽しい…………そっか……」 水野君が照れくさそうに笑う。 その顔を見て、私は思わず口を動かす。 「…………似てる」 「え?何に?」 「あ、いや……何でもない。笑った顔が、仲良しの子に似てたなって」 静葉ちゃんは時々、凄く可愛らしい顔で笑う事がある。 普段は正直、笑うにしても微笑程度だった。 けど、腹の底から笑ってる顔はいつ見ても子供みたいに可愛らしい。 それに、少しだけ彼の顔は似ている。 「……水野君って。やっぱり凄いよね」 「え、な、何が?」 「"笑った顔が素敵じゃない人なんていない"って言ってくれたり、美桜の感情への疎さを気にしてくれたり、そこまで他人に尽くせる人って、凄いと思う」 「……そ、そうかな?まぁ俺……友達は大事にしてやりてぇやつだから」 「良い事だと思う」 「……ねぇ風間さん……俺の昔の話とかって……興味ある?」 水野君が唐突にそう尋ねてくる。 私は脈絡の無い話に戸惑ったが、深く考えずに頷く。 「……俺さ。中学では野球部に通ってたんだよ」 「あぁ。前はやってたみたいな事、言ってたね」 「うん。俺自分で言うのもあれだけど……結構馴染めてたし、それなりに充実してたと思うんだ」 水野君が悲しそうに顔を伏せる。 「……それでな。俺、部員に一人……仲がいいダチが居たんだけど……そいつと多分……縁切られちまった」 「どうして?」 「……中学引退試合前の練習中に、そいつと野球のプレイについてで大喧嘩になっちまって……その日以降、あいつは野球部に来なくなっちまったし、口も聞いてくれなくなってよ」 「……でも。どうして水野君が辞めたの?」 「あいつは……部員の中でも、結構上の方の実力者でよ……そいつに指摘されたって事はさ……なんか俺が違ったんじゃねぇかなって思ってよ。いずれにしても、大喧嘩になっちまったくらい、俺には何かが足りなかったって事だと思ったからな」 「……そうなんだ……後悔してないの?」 申し訳程度に聞いてみる。 水野君は「うーん」と天井を見上げる。 「……別に後悔はねぇかなぁ。何だかんだ高校楽しいし、部活加入してないからたっぷり家で寝れるし」 「……そっか。寝るの好きなんだね」 「うん。長い夢とか見れたら、すげー楽しいし」 水野君はニコリと笑う。 その顔はやっぱり、静葉ちゃんのそれに感覚が似ていた。 「……聞いてくれて、ありがとう。風間さん」 「え?あ、うん。こっちこそ」 「…………あの……風間さん」 「ん?何?」 私は水野君の方を向く。 水野君は何かを言いたそうにしているが、すぐに頭を横に振る。 「……今日の放課後って……暇?」 「え、うん。特に何も無いよ」 「じゃあさ……一緒に帰らない?」 「いいよ。美桜でいいなら」 「ありがとう。じゃあ、校門前で待ち合わせよ」 「うん」 私達はそう約束を交わすと、電車を降りた。 昼時。 「え?美桜ってば、水野君に下校誘われたの?」 いつもの三人でご飯を食べながら、私は今朝の事を話した。 二人とも驚いた表情になっていた。 「うん。だから今日は先に帰っててくれないかな?」 「それはいいけど……いやぁ、水野君は見る目がありますな」 「え?どういう事?」 「そりゃあ!きっと水野君が美桜の事を好グゴッ」 凛花ちゃんが何か言おうとした瞬間、静葉ちゃんが首元をどついた。 凛花ちゃんはゲホゲホと咳き込む。 「この馬鹿の言う事は気にしないで、私達は別に構わないから」 「う、うん?分かった」 私はそう答える。 呼吸を整えた凛花ちゃんが「いやぁにしても」と言う。 「水野君といい静葉といい、今時の高校生は苦労が絶えませんなぁ」 「……そうだね」 私は小さく頷いた。 静葉ちゃんも水野君も、私だってそれは同じ事だ。 悩みを抱えていたり、苦しい過去を持った人は沢山いるんだな。 そういう事情を持った友達も……私は大切にしたいな。 昔の私には無かった考えを、私は心に決める。 放課後。 私は静葉ちゃん達にさよならをすると。 校門前で水野君を待った。 水野君は本日掃除担当の為、少し遅れてくるらしい。 ならその間は静葉ちゃん達と話せば良かったかなと思ったが、気長に待つ事にした。 「今日の授業の復習でも……」 私が鞄からノートを取り出そうとした時。 「あれ?風間さんじゃん」 誰かの声が聞こえ、私は顔を上げる。 その主は、二人の男子だった。 なんとなく、その顔に見覚えがあった。 「……あ、校外学習で一緒だった……」 校外学習で同じ班だった、水野君以外の二人の男子だった。 名前は思い出せない。 「そそ。誰待ってんの?水野?」 「う……うん。そうだよ」 「へぇ。付き合ってんの?」 「ううん。違うよ、水野君に誘われただけ」 私がそう言うと、二人は「ふーん」と声を上げる。 「水野の野郎……抜け駆けするたぁいい度胸だ」 「ほんとそれだわ。んね、風間さんは水野の事好きなの?」 突然の問いかけに、私は「え?」と一瞬戸惑う。 そしてしばらく考えるが。 「……分からないかも。別に嫌いな訳じゃないと思うけど……好き……って感じじゃあないかな。水野君がそうかも分からないし……」 少なくとも水野君には……静葉ちゃんに対する"好き"と同じような気持ちは現れない。 だけど、一緒にいて嫌な気分にはならない。 だから……私は、水野君の事をどう思っているのか、自分でも分からなかった。 「ほぉ。あんまり言うのもあれかもしんねぇけどさ」 男の子の一人が不思議そうに尋ねる。 私はそれに、反射的に鳥肌がたった。 中学の時に散々聞いた常套句だったから。 『あまり本人の前で言う事じゃないけど』 この後に投げられた言葉に、私は良い思い出が無い。 「風間さんって、結構可愛らしいよな」 「…………え?」 心の中で身構えていた私は、思わぬ言葉に唖然としてしまった。 可愛……らしい……? 「あ、いや。セクハラとか変な意味じゃなくてさ……なぁ?秋山もそう思わね?」 「は?俺?……まぁ同感だけど」 「え……え……?」 いよいよ意味が分からなくなって来た私は、その真意を確かめたくて口を開こうとする。 「あれ?秋山に山寺じゃん」 その直前に、水野君が隣に現れる。 「お、抜け駆け野郎がおいでなすったな。帰ろーぜ秋山」 そう言うと二人は帰って行った。 水野君はキョトンとするが、「まぁいいや」と言って私の方を見る。 「ごめんね待たせて。二人と何話してたの?」 「…………え?あ、その…………か、帰りながら話す」 「そう?なら帰ろうか」 「うん」 私はそう言うと、水野君の隣を歩いた。 続く。

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汚れちまった色恋に 第七話:真実 私達がしばらく会話していると、玄関から音が聞こえた。 「あ、親御さん帰ってきちゃった?」 凛花ちゃんが少し心配そうに言う。 私はベッドからムクリと起き上がる。 「大丈夫。説明してあるから」 私がそう言うと、二人は安心したように息を吐く。 部屋の扉が開かれ、スーツ姿の大柄の男性が現れる。 私のお父さんだ。 お父さんは静葉ちゃん達を一瞥する。 「君達が美桜の?」 「あ、そうです!ボクは宮野凛花って言います!んで、こっちの感じ悪い人が岡野静葉って言って、二人共美桜のクラスメイトです!」 「……そうか。私は風間修(かざましゅう)。美桜の父親だ」 短く自己紹介をしたお父さんは私の傍にしゃがみこむと、おでこに触れる。 「……大分良くなっているみたいだな」 「うん。静葉ちゃん達が付きっきりで看病してくれたから」 「……そうなのか?」 お父さんは静葉ちゃん達に視線を向ける。 静葉ちゃんが丁寧に答える。 「はい。両親がいらっしゃらないと言っていたので、勝手にここまで居座ってすみません」 「いや、良いんだ。ありがとう、娘にそこまでしてくれて」 お父さんと静葉ちゃんが綺麗なお辞儀を交える。 凛花ちゃんが私の耳元で言う。 「静葉ってあんな礼儀正しかったんだ」 「……静葉ちゃんは、良い子なんだからね?」 「あはは。知ってる」 凛花ちゃんは二カッと微笑む。 私も釣られて笑う。 「さぁ。君たちはもう遅いから帰りなさい。今回は本当に助かった。今度改めてお礼がしたい」 「い、いえ。お礼なんて大丈……」 静葉ちゃんが断ろうとするが、私がそれに待ったをかける。 「待って!私からもお礼させて欲しい!」 「え……本当に良いんだよ?」 「お願い。部活を休んでもらってまで、美桜のわがままを聞いて貰っちゃったから……」 「そう……?なら……お言葉に甘えて」 二人は了承すると、「お大事に」と残して帰って行った。 お父さんはしばらくすると私の部屋に入り、傍に椅子を置いて座る。 「済まなかったな。出来る限り早く切り上げたのだが」 「大丈夫だよ。その為に二人に来てもらったから」 「……そうか。良い友達を持ったんだな」 「うん…………ねぇ、お父さん。教えて欲しい事があるの」 「なんだ?」 私は息を深く吸い込むと、震え気味な声になって尋ねる。 「……お母さんって……なんで居なくなっちゃったの?」 お父さんが眉をピクリと上げると、険しい顔をする。 しばらく黙りこんだ後、一人頷く。 「……母さんはな……今は実家にいるんだ」 「実家って……岐阜の……?」 「あぁそうだ」 「……どうして?」 「話す前に、勘違いしないで欲しいが。決して美桜のせいでは無い」 お父さんははっきり、力強くそう言った。 私は小さく頷く。 「母さんはな。確かに美桜の感情の乏しさを気にしてはいた。ただ、決してお前を嫌ったり、信じてなくて離れた訳では無い。寧ろその逆だ」 「逆……?」 「美桜がその方が生きやすくて、いつか楽しくて……笑った顔を見せてくれると信じていた。だが、母さんはそれを過剰に気にし過ぎていると思っていた。それがお前に悪影響だと思ったから、実家に帰り、岐阜に残る事を選んだんだ」 「……そうなんだ」 私はそれを聞いて、何とも言えない気分となってしまう。 お母さんは、私の事を思って。 生きやすい道を歩んで欲しいから離れた……いや、"離れていてくれた"んだ。 嫌われた訳じゃ無かったんだ。 「……帰って、来ないの?」 「……そうだな。今度の週末に、呼んでみるか。最近の美桜は、笑うようになっているからな」 「……そっか。楽しみ」 私は頬を緩ませる。 お父さんが私の顔を見て笑う。 「……その様子じゃ、もう風邪も平気そうだな」 ゆっくりと立ち上がると、お父さんは私に尋ねる。 「夜ご飯作ってくるから、ちゃんと寝てなさい」 「うん……ありがとう」 お父さんが部屋から出て行った後、私はベッドに包まり、スマホを開く。 そこには一件のメッセージが来ていた。 相手は水野君だった。 《今日風邪だったんだよね?大丈夫?》 一時間くらい前に来ていたメッセージだ。 私はメッセージを返信する。 《大丈夫だよ。心配してくれてありがとう》 私はそう送ると、かなり早い段階で既読がついた。 《良かった。明日とか来れそう?》 《うん。多分なんとかなると思う》 《そっか。なら良かったよ。また明日》 私はスマホを枕元に置いて、ゆっくり瞳を閉じた。 このまま明日まで寝てしまいたいな。 続く。

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汚れちまった色恋に 第六話:親 「ボクの親はねぇ……お母さんが気象関係で、お父さんがゲーム制作会社の社員なんだ」 凛花ちゃんが自慢げに言うと、静葉ちゃんが意外そうな顔で頷く。 「結構凄いし頼もしい人なんだよー?お母さんに尋ねたら明日の天気予想してくれるし、お父さんに頼めば新作ゲーム一番に遊べるし」 「全部あんたの私利私欲じゃない」 「えへへ。まぁ成績とか悪いとどっちも教えてくれないけど」 「良かった。親もあんたを甘やかしたら駄目な事を分かってて」 「あれボクすっごくバカにされてる?」 凛花ちゃんの拗ねた表情に、私は思わず笑ってしまう。 「まぁ、なんにせよ。ボクは親には最大限の感謝の気持ちを持ってるからね。いつも父の日と母の日にはプレゼント渡してるし」 「……去年確か私に選ばせてなかった?」 「参考だよ参考」 「ふーん?……まぁ、渡さないよりは百倍ましか」 「ほーいじゃあ、次は静葉のターンだよ」 凛花ちゃんが言うと、静葉ちゃんが「うーん」と唸る。 「……私の親は……基本的に家にはいないんだよね」 「え、そうなの?別居?」 「この歳でそんな訳ないでしょ。単にお母さんは、仕事で夜遅くに帰ってくるから、あんまり顔を見ないだけ」 凛花ちゃんが「ふーん」と呟いて再度尋ねる。 「お父さんは?」 「私が生まれる前に離婚したよ」 静葉ちゃんの即答に、私と凛花ちゃんは息を飲む。 「だからお母さんと私の二人暮らし。兄弟も特にいないから」 「あー……なんかごめん」 「別に大丈夫。離婚理由とかも分かんないし、会ったことも無いからね」 静葉ちゃんは苦笑いする。 ちょっとだけ間が空いてしまうが、凛花ちゃんが「あーっとぉ……」と気まづそうながらも流れを変える。 「み、美桜はどうなの?両親何してるーとか」 「え、あぁ……うん。美桜はね……」 私はぼんやりする頭を苦しくない程度に回す。 「お父さんは……さっきから言ってたけど、検察官やってて……結構夜遅くまで家には居ないかも」 「おー……どこの家も忙しいですよねぇ。んで、さっき聞きそびれたけど、お母さんは?」 「……お母さんは…………その……」 私はなんて言えばいいのか分からず、口を噤む。 するとそれを見かねたのか、静葉ちゃんが凛花ちゃんに言う。 「凛花」 「ん?…………あ、そゆ感じ?」 「あ、いや良いの!言うから!二人とも言ってくれてたし」 私は隠す事をやめて、全てを打ち明けた。 「……お母さんは今、家にいないの」 「いない……?さっきの静葉みたいな……?」 「……そうかも……知れない…………というか多分……美桜のせいなの」 二人が揃って首を傾げる。 私は自分のした事を、包み隠さず話し続けた。 中学の時、私が椅子に頭をぶつけて意識を失った時の事。 私が目覚めた場所は病院の病室だった。 私は軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしたらしいが、命には別状は見られなかったという。 病室で天井を見上げながらベッドに横になっていると。 部屋の扉がノック無しに勢い良く開けられた。 「美桜……!?大丈夫なの!?」 お母さんだった。 私の傍に駆け寄ってきたお母さんに、私はそっと首を動かす。 「大丈夫。まだ少しぼんやりするけど」 「はぁ……良かった。びっくりしたのよ、急に学校から連絡があって、美桜が倒れたって聞いたから!」 酷く焦った様子だった。 私は「大丈夫だよ」と答える。 お母さんは上がった息を整えると、私を心配そうに見つめる。 「学校の先生がチラッと言ってたんだけど。美桜、クラスメイトから嫌がらせ受けてるって本当なの?」 「……嫌がらせ……?」 私は首を傾げるが、即座に思い出した。 同じような事を、クラスメイトにも尋ねられた事を。 「担任の先生がね。クラスメイトの子に聞いたんだって、美桜は複数の人から嫌がらせを受けてるんだけど、それを嫌がってる様には見えないって。だから先生も、深く追求しなかったって」 「…………そうだったんだ」 私はそう淡白に答える。 「ねぇ美桜?先生に嫌なら嫌って言わないとダメよ?直接言うのが恥ずかしいなら、友達とかお母さんを頼るとかあるでしょ?一人で抱え込んだら」 「嫌って何?」 私はお母さんの言葉に割り込む形で尋ねる。 お母さんは動揺しながら「え?」と呟く。 「"嫌"って……何?お母さん」 「……ど、どういうこと?」 「美桜は別に……消しゴムを壊されて返された事も、貸したものが返って来ない事も、腕とか足がぶつかっちゃう事も……全然。嫌って感じた事……無いの」 当時の私は……本当にそう思っていたのだろう。 暴力を振るわれても、酷い事を言われても、人に叱られたりしても。 嫌がれないし、悲しめないし、怒れない。 喜怒哀楽の欠落した少女だったのだ。 お母さんはそれを聞いてしばらく呆けていると、そのままの表情で私に尋ねる。 「……どうしてなの?」 困惑している様な、はたまた違う感情なのか。 当時の私にはさっぱり分からなかった。 「どうして貴方は……飼ってた犬が死んじゃった時に泣けなくて……私が貴方に怒った時も顔色一つ変えないで……友達に嫌がらせされても……怒れないの……?」 お母さんの瞳から、段々と涙が流れ出した。 「……貴方、ご近所さんからなんて言われてるか知ってるの?」 「……知らない」 「"仮面を被った不気味な子"って言われてるのよ…………嫌じゃないの?」 「…………嫌じゃない」 「……嘘でもいいから…………"嫌"って言ってよ」 お母さんは涙をボロボロ流しながら、逃げる様に病室から飛び出した。 私はその姿を、黙って見守っていたのだ。 その後、お母さんは二度と姿を見せなかった。 「……そうだったんだね」 私の話を聞き、静葉ちゃんが悲しそうに呟く。 凛花ちゃんも頷いている。 「……美桜って、薄情者なのかな……?」 私はポソッと弱音を漏らしてしまう。 二人は首を横に振る。 「そんな事無いよ!美桜はすっごく良い子だよ!ていうか、今はちゃんと泣いたり悩んだり笑ったり出来てるじゃん!」 「そうだけど……昔は違ったんだよ?美桜のせいで……お母さんが……」 私は泣きそうなのを必死に堪える。 最早、熱や気怠げなものは、体から消え去っていた。 すると、静葉ちゃんが口を開く。 「……違う。絶対違う……!」 「し、静葉……?」 凛花ちゃんが隣で尋ねるが、その直後に息を飲んだ。 静葉ちゃんは泣いていた。 私も訳が分からずに思わずベッドから飛び出す。 「し、静葉ちゃん!?」 「……絶対に、美桜のせいじゃないよ。美桜は酷い奴なんかじゃない……!」 それはまるで自分に言い聞かせている、呪文のようにも思えた。 私はますます理解出来ず、困惑しながら彼女を見つめる。 「美桜のお母さんは……本当に美桜のせいで居なくなったの?誰かから聞いたの……?」 「……それは……」 聞いた事は無かった。 誰に尋ねても教えてくれなかったのだ。 「そもそもおかしいじゃない……死んじゃったんだとしたら、流石に葬式とかやるんだろうし、そうじゃないにしても、何も言わずにお母さんを置いて……ここに転校してくる訳が無い」 「……確かに……」 言われてみればそうであった。 過去に葬式をおこなった訳でも無い。 警察沙汰になった事も無いから、失踪した訳でもない。 そもそもそうだとしたらお父さんや知人が、ここまで隠す理由も無く、帰って来ないまま転校する訳が無い。 冷静に考えれば……その通りだ。 「だから……きっと。何か理由があるんだよ、母親がさ……そんなに何も考えずに、自分の子供の前から居なくなる訳無いよ……」 「……でも……それがもし……美桜のせいだったら……?育児鬱だって……有り得ない訳じゃないじゃん……」 「……そればっかりは……私達がどうこう言える立場じゃ無い……気になるなら自分で聞かなきゃだと……思う。厳しいかもだけど」 「……そうだよね…………分かった。聞いてみる」 「うん。それと、美桜。これだけは言わせて」 静葉ちゃんは凛花ちゃんと私の手を優しく握る。 唐突の事に凛花ちゃんは「んぇ?」と素っ頓狂な声を上げる。 「あんまり励ましになるか分からないけど…………私達は絶対……美桜の前から居なくなったりしないからね」 「……それはボクも同意見だね」 凛花ちゃんも私に笑いかける。 私は心の底から嬉しくなり、涙が流れた。 今の私には、たった一言の……本音があった。 「……うん!」 ──二人に出会えて良かった……と。 続く。

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お知らせ

こんにちは。kedです!いつも小説を読んでくださってありがとうございます! 最近スランプ気味の僕なんですが、そんな僕から1つお知らせします。 『飾らない言葉を。』という連載を始めたんですが、ちょっと設定にあやふやなところがあったため、一旦削除しました。そして予定変更として、それを『汚れちまった色恋に』の続編として採用する事に決定しました! 『汚れちまった色恋に』を見ていればとても面白いし、見ていなくても楽しめるように作ろうと思ってますので、良ければ見て頂けたら嬉しいです! それでは、何か質問とかあればコメント欄にお願いします!次の作品で会いましょう!

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汚れちまった色恋に 第五話:孤独 その後も、私への嫌がらせ行為は絶える事は無かった。 物を隠されたり盗られたり、偶に直接的な暴力を皆んなには分からないように振るわれたりしたこともあった。 全て陰湿なものだが、当時の私は誰にも相談した事が無かった。 私が何も気にしてなかったから。 そんな中……私の身に起こってしまったのは。 ある日の事。 いつも通り私は学校に登校し、教室へと入る。 クラスの色んな人から挨拶をしてもらい、私は軽い会釈を返していた。 私が自分の席に座ろうとした時。 椅子が後ろにガガっとずれた。 私はそのままバランスを崩し、後頭部に硬い何かが激突した。 視界が大きく揺れ、頭がガンガンと痛む。 私が頭を抑えていると、どこかからか笑い声が聞こえる。 「ごっめーん風間さーん。間違えて椅子引いちゃったー。あはは、大丈夫ぅ?」 とても弾んだ声で尋ねてくるが、私はそれに答える気力が無かった。 頭が……痛い……。 ずっとズキンズキンと脳が激しく動いている。 私は頑張って立ち上がろうとしたが、力が急激に抜けるのを感じた。 そこから先は、全く覚えていない。 「……思い出した」 私は自室で一人呟く。 額に触れてみると、ぐっしょりと汗をかいていた。 とても気分が悪かった。 私は軽くシャワーを浴びてベッドで横になったが、全く眠る気分にもなれなかった。 頭がガンガンと音を立てているようだった。 「……なんで忘れてたのかな……美桜」 全部思い出した。 私は昔から、人の感情と自分の感情を理解出来なくて、クラスからとても気味悪がられていた事。 いじめを受けても嫌がれず、怒れない。 他人の特技も褒められない。 そんな人間だったのだ。 「……だから……お母さんは……」 私は布団にくるまって、体をガクガクと震わせていた。 本当に今日は、気分が悪い……。 翌日。 朝目覚めた時に熱を測ってみたら、三十九度近くの熱が出ていた。 なので学校を休んで家の部屋で横になっている。 もう温くなりかけてる冷えピタを額に付けながら、布団にくるまっていた。 身体中から寒気と汗が止まらなかった。 そして凄く心細かった。 単なる風邪なのだろうが、病気になって寝込んでしまうとここまで寂しい気分になるのか。 そう思っていた時、枕元のスマホが震えた。 静葉ちゃんからの着信だった。 『家、着いたよ』 私はそれを見て「今行く」と返して、通話を閉じる。 玄関の扉を開けると、静葉ちゃんと凛花ちゃんが立っていた。 「美桜大丈……ってやばっ!?凄い顔赤いじゃん!」 凛花ちゃんが驚くと、静葉ちゃんも心配そうな表情になり、額に触れる。 「……酷い熱だね……家に親は?」 「……いない……朝から仕事で……早くても夕方か夜くらい……」 「そっか……凛花、この後用事ある?」 凛花ちゃんが「んぇ?」と首を傾げる。 「ボクは全然暇だけど、どして?」 「美桜の看病、手伝って」 「え?……え!?静葉、看病とかできるの!?」 「そっちなの?あーもう。今はそんなのいいから、手伝って」 「えー……ボクそう言うの得意じゃないよ?」 「凛花は私の言う事を聞いてくれればいいから。大丈夫」 「んー。ならいっか!やろやろ!友達の為だし!」 二人の会話を聞いて、私は尋ねる。 「い、いいよ別に!美桜の為にそんな……!」 「とは言われても、ボク達は友人の窮地を見捨てるような薄情者じゃないからね。ね?静葉?」 「当たり前でしょ。ていうか私も凛花も、この為に部活休んでるんだし」 「ええっ!?部活まで……なんか……ごめんね?」 「大丈夫。じゃあ、入るね」 静葉ちゃんと凛花ちゃんが私の家に「お邪魔します」と言って上がる。 「とりあえず、美桜は寝てていいよ。洗面所って使っても平気?」 「多分……大丈夫」 「ありがとう。凛花は一先ず、美桜についてて上げて。私は色々と用意するから」 静葉ちゃんの指示に、凛花ちゃんが「おっけー」と返答する。 凛花ちゃんと一緒に、自分の部屋に向かい、私はベッドに横になった。 凛花ちゃんは私の部屋をぐるりと見渡す。 「へー?なんだか……普通な部屋だね」 「そ、そうかな?」 「うん。普通の女の子の部屋ーって感じ。あ、褒めてるからね?」 「ありがとう」 私は素直にお礼を言う。 「親御さん。どんなお仕事してんの?」 「……お父さんが……検察官なの」 「……あー!あの裁判所で戦うやつか!へぇーすっげぇ」 「戦う……?まぁ、合ってるの……かな?」 恐らく検察官と弁護士の間で「異議あり!」と言い合う状況の事を言っているのだと思うが、果たしてそれは戦いなのだろうか? 私には良く分からなかったけど、あまり深くは考え無かった。 「そりゃ忙しいよねぇ。ん?じゃあお母さんは?」 「あ……えっと……」 私が返答に困っていると、部屋の扉が開かれる。 片手に盥をもった静葉ちゃんだ。 中には水とタオルが入っている。 「うぉっ。そんな本格的に。冷えピタとかじゃないの?」 「軽い時はね。だけど三十九度って言ってたし、さっき触った感じ結構やばいから、最初から冷えピタでも、対して効果無いと思う」 盥の中にタオルを入れ、力一杯絞る。 「まずは冷やしたタオルをおでこに置く方がいいと思う」 「ふぇー。静葉割と詳しいんだね?」 「……私、両親が共働きだからさ。家事とかこういうのはあらかた自分でやってるの」 「風邪に対して一人で対応してるの?」 「いや、風邪はあんまり引いた事ないけど、自分で調べたりしてた」 静葉ちゃんが私の額にタオルをそっと乗せる。 とてもひんやりとしている。 「あとは定期的にタオルを変えて、安静にしてれば良い」 「……ありがとう。静葉ちゃん」 「全然平気だよ。これくらい」 静葉ちゃんは優しく微笑んだ。 すると唐突に凛花ちゃんが口を開いた。 「そいやさ、さっき美桜に聞いたんだけど。美桜のお父さんって検察官らしいよ」 「検察官……そうなんだ。そりゃいないわけだね」 「んで、せっかくの機会だし全員の親の仕事を語ろーの会でも開かん?」 「唐突に何よそれ」 「いや、何気に知らねーなって思ったから。ただここに居るのも暇じゃん?」 「風邪の人は安静にさせた方がいいんだけど……」 「あー……確かに?」 私は二人の会話に強引に割り込む。 「あ、全然大丈夫だよ!……美桜も聞いてみたいし」 「そう……?ならいいか。誰から話す?」 静葉ちゃんが凛花ちゃんに尋ねる。 「じゃあ、まずは言い出しっぺのボクから話そっかな」 凛花ちゃんはそう言って語り始めた。 続く。

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汚れちまった色恋に 第四話:かつての 校外学習が終わって、数日が経過したある日の日曜日。 私は自室でスマホを眺めていた。 凛花ちゃんに教わった有名配信者の動画を見ていた。 典型的なゲーム実況だが、配信者の高いプレイ技術や独特でクセになる言い回しが面白い。 いかにも凛花ちゃんが好きそうなものだった。 勉強の息抜きや暇な時間にはいつもこれを見ている。 するとスマホが一件の通知を受信した。 メッセージアプリのもので、相手の名前は『水野樹』だった。 校外学習の帰りの電車で、水野君と連絡先を共有したのだ。 と言っても、交換しただけで今まで放置されていたが。 私はメッセージを確認してみる。 《突然連絡してごめんね。数学の課題で分からないところがあってさ。教えてくれないかな?》 そう書かれていた。 特に忙しい訳でも無かったし、私は課題を終わらせていたから、教える事にする。 《いいよ。どこを教えればいい?》 《ありがとう。大問三のところなんだけど》 《分かった。まずはね》 と、私は順繰りに手順を教えていく。 十数分程の時間で、解説を終える。 《ありがとう風間さん。助かったよ》 《大した事はしてないよ》 メッセージを送ると、水野君が更にメッセージを返してきた。 《そいや風間さんって。転校してきたんだよね?》 静葉ちゃんや凛花ちゃんとの雰囲気に溶け込んでしまった影響で、すっかり忘れていた事を、水野君は尋ねてきた。 《前の学校って、どうだったの?》 「……どうだったのかな……?」 私は思い出そうとして「うーん」と声を上げる。 その時だった。 『どうして貴方は……怒れないし、泣けないの……?』 砂嵐が混ざったかのように掠れた声が、突然私の脳内に流れ出した。 「…………」 私は無言でメッセージを打ち込む。 《今と大して変わらなかったよ》 《そっか。俺もう抜けるね。ありがとう》 《うん。またね》 メッセージの交錯が終わり、私はスマホをその場に置く。 そして右手の平で顔を覆う。 あぁ……そうか……。 "思い出した" 私が中学校に入学した頃の事。 「じゃあ次。風間さん」 入学時恒例の自己紹介の時間。 担任の先生だった女性に名前を呼ばれ、私は返事もせずに立ち上がる。 黒板の前まで歩き、私は空気を短く吸う。 「……風間美桜です。えっと……話すのは苦手ですけど……仲良くして欲しいです」 精一杯話した結果、クラスの大半がザワついた。 良い意味なのか悪い意味なのか分からないが、皆んなが怪訝そうな顔になっていた。 一部の男子や女子には、面白そうにニヤニヤしている者もいた。 先生もなんとも言えない気持ちになりながら、次の人の名前を呼ぶ。 私は静かに席に戻る。 周囲から微かに視線を感じたが、私はそんなもの気にもとめてなかった。 数日後の昼。 「ねぇかっざまさーん?」 私は声をかけられて顔を上げる。 私の席を囲うように、仲の良さそうな女子三人が立っていた。 その中でも一際背の高かった子が、ニヤニヤしながら私に尋ねた。 「かっざまさんってさぁー。趣味とかあんのー?」 私は名前も覚えてないその人に、少し考えた後に言った。 「……考えた事無かったかも」 「えー?趣味無しなの?寂しー」 「……そういう貴方は?」 私が尋ね返すと、その人は「えー?」と笑いながら言う。 「おしゃべりとかおふざけとかかなぁー。だからさかっざまさん、ウチらとおしゃべりしよーよー」 「私で良いなら良いよ」 「やったぁー!仲良くしよーね!」 女の子は満面の笑みになりながら肩をガシッと組んできた。 当初の私は、その肩を組む力が少し強かった事の意味を、理解してなかったのだろう。 その翌日。 私が学校でトイレに行き、帰って来た時の話だった。 机の上にあった筆箱の蓋が開いていたのだ。 あれ?開けっ放しだったっけ? 筆箱の中からシャーペンとその芯を取り出すが、その最中に気がついた。 消しゴムが見当たらない。 いつも私は、自分で普段使っているものと、予備を含めて二つ持っているが、二つとも無くなっている。 前の授業が終わった後、ちゃんと中に入れて置いた筈なのに。 どこかに落としたのかと思い教室の中を探し回ったが、結局見当たらずその後の授業は消しゴム無しで受けた。 その日の放課後。 昨日話していた背の高い女の子の一派が、私に近づいてくる。 そして机の上に何かを置いた。 私の消しゴムだった。 「……どこにあったの?」 私は尋ねてみた。 その子はこう答えた。 「ごっめーん。そいや消しゴム借りてたんだよねぇ」 と両手を合わせて笑いながら。 私はもうひとつの消しゴムの事も尋ねたが、それに関しては「知らないよーん」と言っていた。 私はその後「借りる時は事前に言って欲しい」と頼む。 それを聞いた女の子一派は、揃って息をのむ。 「……めんごめんご」 背の高い子達がそう言って去っていく。 くすくすと笑いを堪えながら。 彼女達が去って行った直後、クラスの他の女の子達が私に言った。 あの女の子達は全員自分の消しゴムを持っていた事と、予備の消しゴムは彼女らが窓から投げ捨てていたと。 単なる、彼女らによる嫌がらせなのだと言う事。 私はそれを聞いた時酷く驚いた…… 「そうなんだ」 訳でも無く、なんとも思わないかのような顔で言った。 それを見た女の子達が目を見開いて驚いていた。 「……嫌じゃないの?」 「……分からない」 私は首を少しだけ傾ける。 「美桜は……今のが美桜にとって"嫌"なのかが分からないの……」 私がそう言うと、周りの皆んなはなんとも言えない表情になりながら私から離れていく。 思えばこの時の私の言葉が……自分自身の首を絞めるきっかけになったのかも知れない。 続く。

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汚れちまった色恋に 第三話:校外学習 校外学習の前日の土曜日。 私と静葉ちゃんと凛花ちゃんで、夜ビデオ通話をしながら荷造りをしていた。 『エチケット袋にビニール袋……っと。これで全部かな』 『うっへぇ、疲れたねぇ。荷造りだけでこんなに疲れるのー?』 『あんたが前日の今までサボってたからでしょ。私と美桜はとっくに終わってるのに』 『うぐっ……部活で忙しかった者への態度かそれは……』 凛花ちゃんが部活の影響で荷造りが出来ておらず、半ば急遽ビデオ通話を始めたのだった。 結果的に、凛花ちゃんが少しグダグダしてしまったのも相まって、夜近くまで作業してしまっていた。 「それにしても、なんでビデオ通話なの?」 私は気になっていた事を凛花ちゃんに尋ねる。 静葉ちゃんも同調するように声を上げる。 『私も思った。なんで通話なの?』 『え?なんか通話しながら作業だのゲームだのって……なんか憧れない?』 『全然私には分からない憧れだね』 静葉ちゃんが呆れながら言うと、私はクスリと笑う。 「美桜は楽しかったから、良かったよ」 『……美桜は優しいよなぁ。静葉と違って』 『あんたねぇ』 静葉ちゃん達のやり取りに、私は更に笑みを零す。 こんなに楽しくて飽きない会話は、今までに無かった。 毎日のようにこの会話を聞ける事が、私は凄く幸福に思えた。 『全くもう。じゃあ私お風呂入ってくるから、おやすみ』 「『おやすみー』」 静葉ちゃんがそう言って退出する。 『ボクもそろそろ寝よっかなぁ。夜更かしは美容の敵だからね』 「うん。美桜もそうする。おやすみ」 『おやすみグンナーイ』 通話が完全に途絶え、部屋に静寂が訪れる。 私はスマホを充電コードに繋ぐと、ベッドに横たわって、天井を見上げる。 凛花ちゃんについて、考えてみている。 凛花ちゃんは普段から知らない人にも明るく振る舞えて、相手の感情も理解出来る。 私にはなんで出来ないのか。 ずっと考えている。 自分の感情は理解出来ても、相手のそれを理解出来なきゃ意味がない。 ……そもそもどうして、私は他人の感情が"理解出来ない"の? 私はモヤモヤした気分に苛まれながら目を瞑ると、そのまま眠りについていた。 翌日。 「よーっし。全員揃ったかなぁー?」 凛花ちゃんが集合場所で人数確認をしている。 見た限りだと、班員が欠けているところは無い。 「じゃ、先生に点呼取って貰って、いざ出発ー!」 凛花ちゃんが拳を突き上げると、男子三人も「おー」と声を上げる。 部活の影響なのだろうが、彼女はリーダーシップが非常に取れている。 それにコミュニケーション能力も高いから、誰でも彼女に合わせてくれるし、合わせられる。 凄いなと、いつも思う。 それもこれも、全部"感情への理解"があるからこそなのだろう。 私達は先生に点呼を取ってもらい、各自の班別行動を始めた。 すると凛花ちゃんがスマホを片手に男子に尋ねる。 「男性陣はなんか行きたいとこあるー?全然ボクらで合わせるよー?」 男性陣は顔を見合わせて尋ねあっている。 どうやらノープランみたいだ。 だがその直後。 「あ、じゃあ俺、一個いい?」 と、名乗りを上げた人がいた。 水野君だった。 彼はスマホを操作すると、画面を見せてくる。 そこには、この辺りにある高い展望台の写真が写っていた。 「あー、ここか!ボクも行きたいなぁって思ってたやつ!二人はここでも良い?」 凛花ちゃんが私達に尋ねる。 私と静葉ちゃんは頷く。 「れっといっとごー」と凛花ちゃんが叫び、全員でまとまって移動し始める。 しばらく歩き続けて、私達は展望台へと登る。 「うわぁぁお!」 凛花ちゃんが景色を見て歓声をあげる。 高高度で雲一つない晴天の下に照らされた町が、とても良い景色を生み出している。 壮大であり、綺麗なもので、私も少し言葉を失う。 「……綺麗だね。美桜」 「うん。すっごく綺麗」 隣で静葉ちゃんが、感激した様子で言った。 すると向こうから凛花ちゃんの声が聞こえてきた。 「静葉ー!こっち凄いよー!はよはよー!」 静葉ちゃんはため息をつき「はいはい」と言いながら歩き出す。 私も後からついていこうとした時。 「風間さん!」 背後から水野君に声をかけられる。 私は振り返って、彼を見る。 「ど、どうかなここ?」 彼は私に尋ねてきた。 そういえば、水野君が提案したのか。 「良い景色だね」 「良かった……調べた甲斐があったかな」 「調べたの?予習?」 「いや……予習っつうか……なんつうか……」 少し困り気味な様子で、水野君は笑う。 「……風間さんが、笑ってくれるかなぁって思って」 「……美桜が?」 「うん……なんとなくだけど……ごめ、俺変だったかな?」 「あはは……」となんとも言えない表情で、水野君が笑う。 私は驚いてしまう。 私の為に調べてくれたという事なのだろうか。 私に笑って欲しかったと言う事なのだろうか……? 「……ありがとう。水野君」 「え……?」 私は水野君に精一杯のお礼の言葉を投げる。 彼は一瞬だけポカンと呆けるが、すぐにクスリと微笑む。 「おーい!美桜ー!水野君ー?はよ行こーよー!」 凛花ちゃんの声が聞こえ、私は水野君に「行こう」と言う。 水野君が「うん」と笑顔で頷いた。 あっという間に時間は過ぎ、いつの間にか私達は帰りの電車に乗っていた。 隣の二席に座っていた静葉ちゃんと凛花ちゃんがぐったりとしていた。 「うぐへぇ、つっかれたぁ……」 「ほんとね……ていうか凛花、お土産買いすぎじゃない?」 凛花ちゃんの足元には、お土産が沢山入った紙袋が置いてあった。 本当に一人用なのかと疑ってしまうくらいの量だ。 「はっはぁーやっぱり分かってないなぁ静葉は、部活の後輩への手土産だよん。静葉と違ってボクは、部活メイトとは仲良しだから」 「……なんかムカつくわね。否定出来ないのがこれまたムカつく」 凛花ちゃんが「うぇーい」と煽り、静葉が無言で彼女を睨む。 「……結構冗談抜きで疲れたー……最寄り後何駅ー?」 「あと九駅だよ」 「きぇぇ地獄だぁ……静葉ぁー最寄り駅着いたら起こしてよぉ」 「やだよ。私だって眠いし」 凛花ちゃんが駄々をこねそうになったので、私が先陣を切って提案する。 「なら、美桜が最寄り駅に着いたら起こそうか?二人ともそれまで寝てても良いよ」 「まぁじぃ!?美桜様神様だぁ。じゃあおやすみ!」 速攻で凛花ちゃんが眠りにつく。 静葉ちゃんはため息混じりに私に尋ねる。 「良いの?美桜は大丈夫?」 「美桜は全然平気。だから寝てても良いよ」 「そう?ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」 「おやすみ」 「うん」 静葉ちゃんが寝息を漏らし始める。 私は「ふぅ」と息を吐いて、鞄から本を取り出そうとする。 「風間さん?」 隣から突然耳打ちが聞こえ、私は視線を向ける。 声の主は水野君だった。 「何?」 「あ、いやその……今日楽しかった?」 「うん。楽しかったよ。水野君、展望台以外にも色々調べてたんだね」 今日の校外学習で回った場所の内、六割くらいは水野君からの提案だったのだ。 私も少し調べてはいたのだが、それを班全体に共有する勇気が、如何せん現れなかった。 男性陣はあまりそう言った事を率先しなかった中、水野君はとても積極的に発言していた。 率直な感想としては、凄く驚いた。 「あー……まぁ、その……良かった……かな?」 「うん。凄く、良かった」 「……へへ」 水野君は後頭部をワシワシと掻いた。 その顔はとても嬉しそうだった。 「そういえば、水野君。美桜の為にあの展望台選んでくれたって、どういう事なの?」 「え?ど、どういうって?」 「どうして……美桜なのかなって思って」 「……なんつうか……ほら、前さ。風間さん友達以外の感情がわかんねーみたいな事言ってたやん?」 「うん」 「生まれつきでも……そんなの……勿体ない……?みたいに思ったからさ……風間さんの笑った顔……素敵だし」 「素敵……?美桜が?」 美桜は思わず聞き返してしまう。 素敵なんて言われたの初めてだったから。 自分とは無縁な言葉すぎて、困惑してしまう。 「うん。というか、風間さんじゃなくても、笑ってる顔が素敵じゃない人なんていないと思うよ」 「……そっか。ありがとう」 私は嬉しさで体がくすぐったくなり、自然と頬を緩ませてしまう。 そのまま私達は、最寄り駅まで会話し続けていた。 続く。

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おしらせ

こんにちはkedです。 いつも色々とありがとうございます。 この度自分、誠に勝手ながら諸事情により小説投稿を少し遅らせます。 多分一週間くらいで復帰すると思うので、待って頂けたら嬉しいです。 それではまた、お会いしましょう。

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