だked/海月の一味。

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だked/海月の一味。

前向きに生きる。そして小説は好きに描く。

汚れちまった色恋に2

汚れちまった色恋に2 第二話:謎の先輩 「梅柳高校の……凜々花さん」 僕が凜々花さんの言葉を反芻すると、彼女は苦笑する。 「タメ口でいいよ。あんた何年生?」 「えっ……あっ。にっ、二年生です!」 「……そうなの?一個下か」 「高三……なんですか?」 「そうだよ」 まさかの先輩だった。 僕はなんだか途端に緊張してしまう。 そんな僕の気持ちを汲み取ったのか、凜々花さんは微笑む。 優しくて柔らかい笑みに、僕の心臓が大きく跳ねる。 「そんなに緊張しなくてもいいよ。たった一つの歳の差位で。それに私、そういうの苦手だし」 「あっ。えっと……分かりま…………った」 「ふふ……まぁあんたの好きに呼べばいいよ」 凜々花さんはそう言うと、左手の腕時計に目をやる。 「そろそろ私帰らなきゃ」 「あ、そっか……また」 「うん。またね」 そう言って凜々花さんは背を向けて去って行った。 僕はその背中を、見えなくなるまで見つめていた。 次の日。 「……そいつは災難だったな」 「うん。もう感謝してもしきれないよ……」 昼休みに、僕は昨日のスマホの事を一誠に話していた。 彼は焼きそばパンを頬張りながら頷いていた。 「その人はどんな人だったんだ?」 「あ!そうそう!姉妹校の人だったらしいよ!」 「姉妹校……梅柳高校の事か」 一誠は指を顎に添える。 「姉妹校の割にそんなに目立った交流も特色も無いから知らねぇんだよな……」 「確かにね……でも本当に良い人で助かったよ。わざわざ届けてくれて待っててくれたから」 「まぁな。良心的な人で良かったな」 「うん」 僕はそっと頷く。 その最中、僕は思い出していた。 凜々花さんの、あの柔らかくて優しい笑み。 見ているだけで、何でか心臓が高鳴る感覚。 今、僕は密かに思っている事。 ─もう一度……会ってみたいな。 放課後。 僕は学校の近くの図書館に一人でやって来た。 テスト勉強の為だ。 この図書館はあまり学生がやって来ない静かな場所。 それ故に集中して勉強が出来る。 「今回のテストも。半分くらいを目指すぞ」 僕が密かに呟くと、いつも座っている場所の向かい側に誰かが座って本を読んでいた。 僕はその姿を見て息を飲んでしまう。 「え……凜々花さん……?」 女性が本から顔を上げると、目を見開いた。 「……あんた、昨日の?」 「え、あ!はい!偶然ですね!」 「ね。勉強?」 「はい!……あ、違う。うん!そうだよ!」 「だから、喋りやすい方でいいってば」 凜々花さんが優しく笑う。 この笑顔を見る度に、僕の心臓が反射的に跳ねてしまう。 「ここ……良い?」 僕が凜々花さんの向かい側の椅子を引きながら尋ねると、彼女は頷いた。 「いいよ。むしろ私邪魔?」 「え、いやいや全然!いてくれても平気だから!」 「そう?なら遠慮なく」 凜々花さんが本の続きを読み始め、僕は勉強道具を机に広げる。 チラッと、彼女の読んでいる本を見てみる。 タイトルは『冤罪』という物で、表紙の不穏な雰囲気を見るに、ジャンルはサスペンスだと分かる。 不意に、本を読んでいた凜々花さんが視線を上げ、その瞳が僕を見た。 僕は慌てて視線を逸らして、シャーペンをノートに走らせる。 前から小さく笑い声が聞こえた後、凜々花さんが尋ねる。 「そいやあんた、名前は?」 「へっ……名乗ってませんでした?」 「うん。私だけ」 「あ……えっと。反田大生って言うんだ。大きく生きるって書いて大生」 「たいせい……ね。良い名前だね。改めてよろしく大生」 「へ……あ、うん……よ、よろしく」 僕は声が縮んでしまうのと同時に、顔を机に伏せた。 どうしよう……凄く心臓が鳴ってる……。 その後、勉強する筈だった二時間の内半分くらいが、心臓の音を聞いて過ぎ去っていた。 続く。

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気取りの木鳥さん

気取りの木鳥さん 第四話。 朧気な意識の中、木鳥は暑さを覚え目を覚ます。 目を開け、目に当たる太陽光を手で抑えながら立ち上がる。 当たりを見渡すが、そこは広大な砂漠だった。 先程までの果てしない暗黒とは対照的に、ここは白く熱い砂が続いている。 「……ここが……異世界?」 彼女は狼狽しながら言う。 今のところ異世界というよりは、サハラ砂漠に来たような気分である。 そんな時、木鳥はある事に気がついた。 身につけている服と眼鏡以外、何も持ち物を持っていなかったのだ。 水も食料も無い中、先も見えない砂漠のど真ん中にいるのは、余裕で命に関わる。 異世界に来て早々、途方に暮れ始めていた。 既にかなり太陽光が強く、喉が乾き始めていた。 「……どうしよう。とりあえず移動しようかな」 彼女はそう呟き足を動かそうとするが、数歩動いた先で、何かに左足を取られてしまう。 木鳥は左足を見てみると、目を丸くする。 砂がまるで腕の様な形になり、木鳥の足首を握り締めていた。 彼女が声を上げようとしたのも束の間。 砂の腕が彼女の足を巻き込んでどんどん地面に沈み始めていた。 沈むスピードはとても早く、両手を必死にばたつかせるが、勢いは止められなかった。 「誰かっ!助け…………」 あっという間に全身のほとんどが沈み、口に砂が詰まり始めた。 木鳥は天高く右手を伸ばすと、心の中で助けを乞うた。 そして、完全に全身が沈みかけたその時。 パシッと、誰かが木鳥の伸ばした右手を掴んだ。 そして彼女はものすごい力で砂の中から引っ張り出された。 空中に放り出された木鳥は自分の出てきた場所を見る。 背中に黒くて大きな翼を生やした青年がいた。 木鳥が「うげっ」と言いながら砂浜に落下した時、翼を生やした青年が大きく笑う。 「間一髪だったね」 木鳥がゲホゲホと砂を吐き出しながら、青年を見る。 そして思わずドキッとした。 青年はとても整った顔立ちをしていて、笑顔が凄く似合っていた。 黒い翼もなんだかアニメキャラクターみたいで、木鳥は動悸が止まらなくなっている。 ニコニコしながら青年は言った。 「大丈夫かい?お姫様」 青年が尋ねるが、木鳥は頭が回って居なかった。 「え……あいやその」 彼女がオドオドしていると、青年がくすくす笑う。 「急な事で混乱してるのかな?さて、自己紹介とかの前にこの砂漠から出」 青年が何か言いかけた時、彼の両足に砂の腕が大量にしがみついた。 先程木鳥を引きずり込もうとしたものと同じものだ。 青年はそれを見つめて目が点になっている。 「やべ」短く青年が言うと、青年は瞬きする間に砂の中へと引きずり込まれてしまった。 木鳥が慌てて駆け寄るが、そこにはもう青年は居なかった。 「そんな……!」 彼女は絶望してその場に立ち尽くしている。 だが、その直後辺りが大きく揺れ始め、青年の吸い込まれた場所の砂が隆起し破裂した。 砂埃が舞う中、衝撃で木鳥は再度空中へと放り出されてしまう。 「うわぁぁあああ!」 木鳥が叫びながら宙を舞っていると、砂埃の中から人影が現れる。 先程砂の腕に引きずり込まれていた筈の黒い翼の青年だった。 彼は空中で木鳥の体をキャッチし、こちらを見つめる。 彼女の思考が再び停止する。 「あ……えっと……」 「いやー。ごめんごめん。こんなに何度も吹っ飛ばしちゃってさ。大丈夫?」 「あ……はい。ありがとうございます」 木鳥が素直にお礼を言うと、青年はニコリと笑う。 彼女はそっと下を見てみる。 地上からかなり高度がある場所を青年は飛んでいる。 青年の背中を見ると、黒く大きな翼を力強く羽ばたかせていた。 「凄い……飛んでる……!」 木鳥が目を輝かせると、青年がふふんと自慢げに笑う。 「凄いだろう?"箒"なんてもう古いんだよ。時代は"翼"さ」 青年は続けて木鳥に言った。 「僕の名前はクロウ。《ロード王国騎士団"反逆軍"》の副長だよ」 続く

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気取りの木鳥さん

汚れちまった色恋に2

汚れちまった色恋に2 第一話:はじめまり 僕の名前は反田大生(はんだたいせい) 特にこれといった特徴は無い高校二年生。 クラスでもそこまで目立っている訳では無い。 「よーし。そろそろ期末テストだな。お前ら勉強してるか?」 夏が近づいて、だんだんと暑くなり始めた頃。 僕の通う学校では、期末テストの時期が近くなっていた。 クラスのみんなの文句が飛び交う中、先生が言った。 「お前らはまだ高校二年生だけどな。そろそろ進路とかも考えないといけない時期が近づいてきたんだ。まだ夢を持ってないやつもいると思うが、しっかり将来の事も見据えるんだぞ」 クラスの皆が「はーい」と嫌そうに答える。 確かに僕達にはそろそろ進路という概念が生まれる時期だ。 僕にもなりたいものや目標がある。 それに向かってしっかり進まないと。 そう僕は静かに決意し、HRが終わり放課後となった。 僕が帰り支度をしていると、ある人に声を掛けられた。 「よう大生。もう帰りか?」 「あ、一誠。うん。そうだよ」 この背の高い青年が僕のクラスメイトの友達、馬場一誠(ばばいっせい)。 たまたま席が隣同士であり、最初は少し顔が気難しそうで怖かったけど、話してみたらとても楽しくて優しい人だったのだ。 「僕の部活は今日から休みだから」 「そうなのか。俺のとこはまだだな」 「そうなの?運動部でも無いのに凄いね」 僕は家庭科部で、一誠は軽音楽部に所属している。 両方とも運動部程活発に活動している訳では無く、週に一回か二回やる程度だ。 「やれやれだ。別に部活は嫌いでは無いが、勉強くらいさせて欲しいよな」 「まぁいいんじゃない?一日くらいなら巻き返せるよ」 「……それもそうか。じゃあ、またな」 僕は一誠に手を振り、校門を出た。 ほとんどの部活が無いからか、学生の姿が多かった。 僕はその間を縫って駅へと向かい、改札を通った。 その時、誰かと肩がぶつかってしまう。 「あ、すみません」 僕はぶつかってしまった人に軽く謝罪をすると、そそくさと電車に乗り込む。 よく顔が見えなかったが、鼠色のパーカーを身につけていた。 僕が電車に乗り込むと、電車のドアが音を立てて閉じた。 しばらく電車に揺られて、スマホを取り出そうと鞄を漁った時。 「……あれ?」 僕は首を傾げる。 スマホが無い。 自分の制服のポケットや鞄の他の場所も調べた。 だけど、スマホは見当たらなかった。 「……もしかしてあの時……!」 僕は先程の駅の事を思い出した。 駅のホームで鼠色のパーカーを着た人にぶつかった時。 多分あそこで落としたんだろう。 「……どうしよう」 僕は冷や汗をかいた。 この電車は快速列車だ。 各駅では無いため、あと五駅くらい通過しないと止まらない。 誰かにスマホを盗られたりしていたらどうしようと思い、鼓動が自然と早まった。 僕は気が気でない状態のまま、電車に乗っていた。 しばらくして。 停車駅に着くと、僕は車掌室へと駆け込んだ。 「すみません!僕、スマホを他の駅に落としてしまったんですけど!届いていませんか!?」 すると車掌さんがパソコンで色々と調べてくれた。 「浅葉(あさば)駅で黒色のスマホが届いているとの事ですが」 そう教えてくれた。 浅葉駅、僕が最初に電車に乗った駅だ。 「ありがとうございます!今から戻ります!」 車掌さんにお礼を言うと、僕は慌てて電車で引き返し、浅葉駅に着いた。 そして車掌室に向かい尋ねると、車掌さんがジップロックに入った黒いスマホを取り出した。 「これでしょうか?」 「あ!これです!ありがとうございます!」 「いえいえ。お礼なら私では無くこの人にしてください」 「え?」 車掌さんが指差した方を見ると、僕は目を見張った。 そこに居たのは、駅でぶつかった鼠色のパーカーの人だった。 フードを被っており、その隙間から覗いていた顔は女性だった。 顔つきや体型的に、恐らく同年代だと思う。 「……その。ありがとうございます。拾って頂いて」 「気にしなくてもいいよ。あんた随分不用心だね」 「あ……その……すみません」 ぐぅのねも出ないとはこの事。 昔からよくドジとは言われていたが、高校二年生になった今も直らないとは。 「……その制服……美山高校の?」 「え、は、はい!」 「へぇ……そいやもうテスト期間か」 「え……なんでそれを?」 「姉妹校だからね。梅柳高校って知らない?」 僕はそう言われて思い出した。 梅柳高校は僕達の通う美山高校の姉妹校だ。 だけど場所は結構近くの場所で、ここから数駅で最寄り駅に着く程だ。 「私は梅柳高校の……凜々花(りりか)とだけ言っておく」 凜々花さんは素っ気ない素振りで言った。 これが僕達の出会いのはじまりだった。 続く。

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夏に咲く花のように。

夏に咲く花のように。 「なあ葵(あおい)。ひまわりってどんな風に咲いてるか。知ってるか?」 景色が綺麗な高い丘の上で、幼なじみの日向(ひなた)がそう私に聞いてきた。 彼は近所に住んでいる幼なじみだ。 小学校の頃からずっと仲良くしている。 そんな彼の質問に私は首を傾げた。 「何?急に?この辺りにひまわりなんて咲いてたっけ?」 「ちげぇよ。単に聞いてみたいだけだ」 「えー?知らないよ」 すると日向はニヤリと笑う。 「太陽に顔を向けて咲くんだ」 「太陽に……顔を?」 私は西日が差し始めていた太陽を見つめた。 淡い橙色の光を放ち、直射日光でも目が眩しさで痛くならない。 見ているだけで心が軽くなる気がする。 「つまりな。ひまわりって"光に向かっていく花"なんだと思うんだ」 「光に向かう……?」 「おう。常に光を追い求めて、ポジティブに生きてる花って感じしねぇか?」 「…………ふーん?」 私は感心して声を上げる。 ひまわりなんてそんなに長時間見る事も無いから知らなかった。 意外と日向って物知りだな。 「……なぁ葵。お前はいっつもネガティブなやつだからな…………俺が居なくても。ひまわりみてぇに真っ直ぐ生きろよ」 「え……?いなくても?」 日向の言葉を聞いて私は聞き返した。 「俺……数日後には引っ越すんだよね」 「え……そ、そうなんだ?」 これまた初耳だった。 十七年近く近所に住んでいた日向が……引っ越し? …………なんだろうこの感情。 「そんなに落ち込むなよ。別に死別する訳じゃねぇだろ?」 「…………そうだけど……」 「……またネガティブになりやがって」 日向は私に言った。 私は昔っからいじめだの嫌がらせだのを良く受けていた。 それを日向はいつも励ましてくれていたが、いじめの頻度のせいでネガティブになりやすかった。 「これやるから元気だせ」 日向が私に何かを手渡した。 それはひまわりの花をかたどった髪飾りだった。 私は何故か、受け取った手のひらが震え始めていた。 目頭が異様に熱い。 なんでだろう……? 「おいおい。なんでお前泣いて……!」 「……うっせー馬鹿」 私は軽く彼を引き剥がした。 そうだよね。日向の言う通り。 前向きに生きよう、彼がいなくとも。 夏に咲く、ひまわりのように。

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気取りの木鳥さん

気取りの木鳥さん 第三話。 木鳥は影の発言を聞き、目を丸くする。 「貴方を……殺す……?」 影はそれを聞くと、楽しそうに頷く。 『うん。そうさ。君は異世界に転生して、様々な仲間や経験を集めて、ラスボスである濮を殺す。君たちが好きそうなシナリオじゃないか!』 木鳥には理解が出来なかった。 何故ここまで嬉々とした様子で、殺して欲しいの頼むのかが分からない。 この影の発言の意図が掴めない。 「……貴方は死にたいんですか?」 半ば冗談のつもりで影に尋ねてみる。 すると影は彼女に顔を向ける。 『濮が君を招待する世界は。善人が裁かれ、悪人が優遇されるのが当たり前の世界。善意を持てば持つ程"死"に近づく理不尽な世界だ。まぁ……現実もさほど変わらないのかも知れないけどね』 「……」 『濮はね。そんな世界では、一種の神として崇められた存在なんだよ。許せないだろう?君みたいな人からすれば』 「……貴方は何が言いたいんですか?」 『……まぁ。こんなもの建前だね。濮の願いは二つさ。"世界の変わる瞬間"と"自分の死の瞬間"が見たい。ただそれだけだよ』 「……一つ目は良いとして……なんで貴方はそこまで"死"に拘るんですか?」 そう木鳥が尋ねると、影は少し黙り込む。 そして突然小さく笑い出した。 『さぁね。好奇心……なのかな?濮は君達よりも圧倒的に概念に近い高位個体だからね。寿命だって無いし病気も無い……ただ。他者に殺される事は可能だと思うんだ。形あるものがいずれ壊れ壊されるように。あ、勿論君には恩恵というか能力みたいなのは授けるよ。その方がフェアだからね』 「……それを私にお願いしろと?だったら何故今此処で殺させないんですか?」 『この空間では誰も濮には干渉出来ないからさ。それに、ただ大人しく死ぬのも面白みが無い。戦いや遊びの中で恐怖やスリルを味わってみたいのさ』 クククと愉悦に満ちた声で笑う影を見て、木鳥は軽く恐怖を覚えた。 こいつは何を考えているのか。 先程の人間を軽んじた態度、言動といい。 感性が狂っている、そう感じた。 『今まで色んな人にこのお願いをしたけど……誰も受け入れてくれないのさ。悲しいものだよ』 「…………分かりました」 木鳥は影にゆっくりと歩み寄る。 そして覚悟を決めた表情で影を睨みつける。 「貴方のそのお願いに。乗ってあげますよ」 それを聞いた影が体を震わせて笑った。 笑顔が視認できないが、楽しそうなのが気配や雰囲気で分かる。 『いいね。君みたいにノリの良い子は嫌いじゃないよ。名前を聞いても良いかい?』 「……木鳥さやかです」 『……おっけい。木鳥ちゃんだね?覚えたよ』 影がクスクス笑うと、スキップで木鳥から距離を取る。 そして手と思しき物を彼女に向けると、足元に魔法陣が出現した。 すると影が言う。 『そういえば木鳥ちゃん。随分すんなりここに来た事を受け入れたけど。驚かなかったのかい?』 影の問いかけに、木鳥は少し黙り込む。 これまでの話が全て本当なら、彼女は死んだ事でここに訪れている。 きっともう二度と、普通の生活には戻れなくなる。 その事実を、完全に受け入れたと言うと嘘にはなる。 「……だけど。人間はいずれどんな形であれ死にゆく運命にはあります。それがちょっと早まったと考えたら…………まぁ」 彼女は言葉を少し濁らせる。 そしてクラスのたった一人の友人である、美咲の顔が脳にチラついた。 もしかしたら彼女には、寂しくて悲しい思いをさせてしまうかもしれない。 そう考えると罪悪感が込み上げてしまう。 『……いいね。その葛藤する様……凄く人間らしい』 とても嬉しそうな声で言った。 『じゃあ。覚悟は良いかい?』 影の問いかけに、木鳥はゆっくり頷く。 すると彼女の足元の魔法陣が強く光り輝いた。 木鳥は思わず目を閉じる。 『君の事は見守っているよ……未来の"神殺し"ちゃん』 楽しそうに上擦った声を聴きながら、彼女は光に飲まれた。 続く

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気取りの木鳥さん

うつろじっく

うつろじっく 第一話:環愛奈 『愛奈!危ない!』 私は中学の時から自慢じゃないけど付き合ってる彼氏がいる。 『え……なん……血が……』 その人は凄く優しくて、運動が出来て、かっこいい。 私は告白された時、凄く嬉しかった。 だけどそんな彼は……。 私が車に轢かれそうになった時、庇って事故に巻き込まれてしまった。 『大我は!?大我は無事なの!?』 彼の母親に病院で会い、容態を聞いてみた。 母親は少しの沈黙の後苦笑いした。 『……大丈夫よ。大我は生きてるわ』 『本当ですか!?良かった……!』 私はほっとした。 ただ生きてはいるけど重症という話はされており、暫く面談とかも出来ないらしい。 だけど良かった。 生きていてくれて本当に良かった。 私の……環愛奈(たまきあいな)の生きる支えになる人だから。 続く。

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うつろじっく

気取りの木鳥さん

気取りの木鳥さん 第二話。 「…………ーい?……お…………?」 壊れた電話機の様に飛び飛びな言葉が、頭に直接流れてきた。 いや、それは錯覚だ。 妙に反響して聞こえる声だったから、そう誤認してしまっただけだった。 木鳥は目を開くと、驚きの余り起き上がる。 目の前に広がる景色がとても壮大だったのだ。 床も壁も何もかもが存在しない暗黒の空間。 そこに煌びやかな星々が無限に漂っている。 木鳥は思わず「綺麗」と呟き、呆然としてしまう。 『やぁ。ここの景色が、そんなに素敵かい?』 再び脳内に直接流れるような声が響き、木鳥は辺りを見渡す。 すると彼女の後ろに、"人の影"が立っていた。 暗くて見づらい訳でなく、人の形をした真っ黒なモノなのだ。 実体を持った影と言えばわかりやすいだろう。 木鳥はこちらに手を振ってくるその影に話しかける。 「……貴方は一体誰?」 『濮かい?濮はね。神様でもあり、悪魔でもある存在……かな?』 影がクスクスと楽しそうに笑う。 子供の様な弾んだ高い声が、木鳥の脳内に反響する。 木鳥は少し怯みながらも尋ねる。 「……ここはどこなの?」 影はその問いを聞くと、ゆっくりと彼女に歩み寄った。 顔と思しき部位を木鳥のそこに近づけると、クスリと小さく笑う。 『ここはね。"魂"と"虚空"の集まる空間だよ』 「た、"魂"と"虚空"?」 影が何を言っているのか分からず、木鳥は首を傾げる。 『んーもっと簡単に説明するなら……"生と死の狭間"……かな?』 「生と……死?」 『ほら?君も記憶にあるだろう?……あの時の、痛みを感じながら……体温を失っていく感覚』 まるで頭に刻みつけているかのように、わざとゆっくりと木鳥に語りかける影。 すると、彼女の脳内に先程まで陥っていたものが押し寄せてきた。 肉体に激しい痛みが伴い、そのまま血と体温が体から抜けていく感覚。 身体中に寒気と鳥肌だ立ち、木鳥は気分が悪くなって蹲る。 口から胃液を盛大にぶちまけると、それは星々と虚空に流されるように消えていった。 影がその姿を見てクスクスと笑う。 『いいね。それが"普通"の反応だ』 木鳥が咳き込んでいるのを、影は笑いながら見つめていた。 「……一体何が楽しいんですか?」 『ん?』 「人が死んで、それを彷彿させるような言動をとって。反応を面白がるなんて……卑劣です……!」 木鳥の本気の睨みに、影は少し身震いした。 『確かに。人によっては無神経な発言だったかな?まぁ、濮はそこまで人間が好きな訳じゃないからね。さて……話を戻そうか』 影はそう言うと、頭上の星々に向けて手を掲げた。 『先程も言った通り。ここは"魂"と"虚空"の集まる空間だ。そして濮はそれの管理をしている』 「……死人の魂を管理してるって事ですか?」 『大雑把に言えばね。だから濮は神であり悪魔なんだ。濮は死人の気分次第で、魂を意のままにできる訳なんだからね』 影は得意気に説明する。 本当に子供と対話している様な気分になる。 『魂には分岐点と終着点が存在する。分岐点によっては終わりも全然違う……まぁこれは言われなくても何となく分かるだろう?天国か地獄かみたいなものだよ』 木鳥は影の説明に逐一頷く。 人間は死んだら天国か地獄に行くみたいなのは、子供の頃から伝わっている。 実際がどうなのかは今まで分からなかったけど。 『濮はその選択を聞いて、魂を導く。それを役割としてるよ。そこで君に聞きたいのはね』 影がこちらを振り返り尋ねる。 『君は魂になりたい?それとも"無"になりたい?』 「……え?」 またもや意図の分からない質問を投げられ、木鳥は困惑する。 魂になりたいは分かるが、"無"とはなんなのだろうか? 『人によってはね。魂となって生まれ変わりたいと思う人や。最早生まれ変わる事も望まず、ただ虚構の中で果てる事を望む人もいる。さっき言わなかった?ここは"魂"と"虚空"の集まる空間だって』 すると影は頭上の夜空を指差す。 『この星々は。これから生まれ変わる人間の魂そのもの。言わば卵みたいなものかな。じゃあ、その魂が漂っているこの黒い海は何だと思う?』 影が嬉々として問いかける。 木鳥は少し考えてみると、数秒後何かに気がついたのか、顔を引き攣らせて青ざめる。 『そう。さっき言ってた"無"を選んだ人間の成れの果てさ。無を望んで尚、次の旅をする魂の介護という役目を持てるだけまだ幸福な方だと、濮は思うね』 木鳥は再度嫌悪感を抱いた。 この影は、なんだか人の命を軽く見ている気がしたのだ。 それが少し……不愉快だった。 影が木鳥の方を見てクスリと笑う。 『……それとも。君は濮ととあるゲームをするという選択肢もあるよ』 「ゲーム……?」 『そうだよ。君達が好きそうな事だ。簡単に言うなら"異世界転生"だよ』 それを聞いて木鳥は息を飲んだ。 異世界転生。 小説やアニメでしか聞いた事が無い、現実じゃあまず有り得ない超常現象。 それが可能だと、この影は言っている。 『君は魂になって生まれ変わるか、無となって永遠に魂の礎となり続けるか。どっちも正直ピンと来ないし嫌だろう?それに君は……明確に濮に殺意を抱いた。そうだろう?』 「……確かに嫌いですね。貴方のその考えは」 『だと思ったよ。だからこういう提案をしたくてね』 影は木鳥の方を指差すと、これまでには無かった低い声で言った。 『異世界で力をつけて……"濮を殺せ"』 続く

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気取りの木鳥さん

紅サムライ

紅のサムライ 第壱話:本物の刀 僕の名前は宮本太一(みやもとたいち)。 どこにでも居るような普通の高校2年生。 得意な事と言われたらサッカーとあやとりくらいしか思いつかない。 そんな平凡な毎日を過ごしてる中、僕は家へと帰宅する。 「ただいまー」 声を上げてリビングへと向かうと、そこにはパソコンをいじっているメガネの女性がいた。 黒髪のショートヘアで、毛先だけが紫色に染まっており、黒マスクをつけている。 「あー。お帰り太一」 彼女は僕の姉である宮本あずさ。 27歳の大学教授で、とても頭が良い。 大学では見た目やその頭脳の高さからかなりの人気者らしく、少しだけ羨ましい。 「姉ちゃん今日早いね?仕事は?」 「今日は大学が早帰りだったからね。まぁ、その分面倒な事も多かったけど」 姉ちゃんはそう言うと、カバンからクリアファイルを取り出した。 中には大量の封筒が入っている。 全て姉ちゃん宛の様だ。 「何それ?」 「ファンレターだとさ。なんか、アタシのファンクラブが大学内であるらしくてね。毎日の様にちょっかいかけられるから困るんだよ」 「ファ、ファンクラブ!?……って何?」 「その人を熱烈に応援してるグループみたいなものさ。全く、もうちょいでアタシもアラサーだってのに」 姉ちゃんは呆れ気味な表情でため息をついた。 大学内で人気者なのは知ってたけど、そんなに大規模なものだとは思わなかった。 「ところで太一。今日の日課は良いのかい?」 「あ、そうだった!行ってくる!」 「あ、ちょっと待って。アタシも行くよ」 姉ちゃんがパソコンを閉じて立ち上がる。 僕は目を丸くした。 「え?姉ちゃんもサッカーするの?」 「んー。そうじゃあないね。太一が普段どんな日課をこなしてるのか気になったってだけさ。それともアタシがいるとお邪魔かい?」 姉ちゃんが首を傾げる。 「うんん。全然大丈夫だよ」 「そう?ならついて行こうかな」 僕は服を着替えて、ボールを持つと姉ちゃんと一緒に玄関を出る。 外を歩きながら、姉ちゃんが僕に尋ねる。 「いつもどこでサッカーしてるんだい?」 「んー。この近くの空き地」 「あぁ。確かにあそこ広いからね」 僕は普段は家の近くにある空き地でサッカーの練習をしている。 部活には所属してないけど、将来的には習い事とか大学とかでサッカーをやろうと思っている。 そのための練習や体力作りのようなものだ。 「偉いなぁ太一は昔から」 「そ、そんな事無いよ。趣味でやってる事だから」 「趣味を持つ事だって、十分ご立派なもんさ」 ふふんと、姉ちゃんは何故か得意げに微笑む。 僕は姉ちゃんに「ありがとう」とお礼を言う。 するとその直後、辺りに強い風が吹き始めた。 姉ちゃんが首を傾げる。 「……なんだろう?変な風だねぇ」 「え、変なって?」 「だって。よく肌で感じてみなよ……ほら、風が"下向きに"吹いてる」 姉ちゃんに言われて僕は風を全身で受けてみる。 確かに風が上から吹いている。 普通、風は横から吹くものな気がするのに。 違和感を覚えた次の瞬間。 真横で一瞬、稲光の様な強い光を発した。 「「!?」」 僕達は揃って光の方を見た。 真横には大きな裏山への入口があった。 光源は恐らくこの奥だ。 「……姉ちゃん。どうする?」 「……うーん。本来なら回れ右して離れるんだろうけど。アタシこういう不思議現象にめっぽう弱くってねぇ」 「……行ってみる?」 「すまないね。アラサーがわがまま言っちゃって」 「全然」 僕達はゆっくりと裏山に歩を進めて行く。 緑に溢れる道を進んでいき、茂みをかき分ける。 そしてそこで見たのは。 「……人だ」 道の真ん中に倒れた人の姿があった。 近くに駆け寄って様子を見る。 茶髪で長い髪を後ろで結んでいる、和風の女性だった。 背丈は僕と大して変わってないくらい。 耳を澄ませると、微かに「ううっ」と唸り声をあげている。 よく見ると腰に何か棒状の物を下げている。 外見はまんま刀だった。 姉ちゃんがそれに触れると、首を傾げる。 「……冷たい?」 そう言って姉ちゃんは柄の部分を持って刀を引いてみる。 キンッと金属音が小さく鳴ると、そこから見えたのは……。 「……本物の……刀」 「え……」 太陽光で輝く、鼠色の刀だった。 続く。

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紅サムライ

気取りの木鳥さん

気取りの木鳥さん 第一話。 彼女の名前は木鳥さやか(きとりさやか)。 ごく一般的な家庭に一人っ子として生まれた、現在高校三年生。 人と会話をするのが不得意で、友達作りもあまり自分からはやらない様な大人しく控えめな性格だ。 「さやかちゃんー。おっはよー」 「あ、おはよう。美咲」 クラスメイトの美咲(みさき)に挨拶する。 彼女は木鳥が初めてクラスで仲良くなった女の子で、歌う事が好きという共通点から意気投合。 週に二回は一緒にカラオケに行っている。 木鳥にとっても大切な存在である。 「ねーねー!昨日やってたアニメの主題歌!あれ最高だったよね!」 控えめな木鳥とは真逆で、明るくて元気な声を上げる。 木鳥は「うん」と小さく頷く。 「そうだったね。戦闘系アニメなのに凄く落ち着いてて感動出来た曲だったね」 「うん!サブスク解禁されたら歌いに行こうよ!」 「いいよ。練習しとかなきゃ」 たわいの無い会話をし、いつもと変わらない退屈な授業を終える。 そして木鳥は、美咲と一緒にアニメの話をしながら帰っている。 「異世界転生ってさ。死んじゃわないと出来ないのかな?」 美咲が言い出した言葉に、木鳥は「うーん」と空を見上げる。 「どうなんだろう。別に死なずに異世界転生してる作品もあるから」 「そっか……なーんか残念」 「何が?」 「異世界って憧れるけど、行く方法が無いってのがなーって」 木鳥は「あー」と声を出す。 所詮異世界転生は作り物に過ぎないが、確かに憧れてしまうのは否めない。 何故異世界転生や超常的な時空転移の条件が"現実での死亡"率が高いのかは良くわからない。 メタ的に考えても現実的に考えても、死なせた方が都合がいいのかもしれない。 こればかりは作っている小説家達に聞かないと分からない事だ。 美咲は木鳥の顔を見て笑う。 「さやかちゃんっていつも考え事してるよねー」 「え、そ、そうかな?」 「うん!考え事ばかりしてると良くないよ?たまには頭空っぽにしよ!」 「……そうだね。ごめん」 木鳥が謝ると、美咲が「いいよー」と笑顔で言う。 暫くして木鳥は美咲と別れ、一人で街中を歩いていた。 他校の男子の四人組が笑いながらすれ違ったり、疲れきった表情をしたサラリーマンが通ったりと。 いつも見る変わりない光景だった。 木鳥は駅に向かい、電車に乗った。 電車に揺られながら、木鳥はスマホを取り出す。 スマホのニュースや色んなサイトに目を通す。 アニメの新情報や、世間の気になるニュース。 様々なジャンルの記事が揃い、頷きながら読んでいると、いつの間にか最寄り駅に着いていた。 木鳥は電車を降りて、ホームを歩き駅の通路に出る。 今日はやけに人が少なく静かだった。 通路の壁に貼られた広告のポスターを見ると、木鳥は足を止める。 そこに貼られていたのは、異世界転生アニメの劇場版化したものの告知ポスターだった。 木鳥と美咲が知っているアニメだが、劇場版化は初耳だった。 「……写真撮って、美咲に送ろう」 そう思い彼女はスマホを鞄から取り出すと、ハタと動きを止めて横を見た。 向こうから靴の音を乱暴にたてながら木鳥へと走ってくる人影があった。 顔は黒いフードで隠されており、その両手には鼠色に光る刃物が握られていた。 それを理解した瞬間、木鳥の腹部に激痛が走った。 「……がっ……」 喉全体から鉄の味がし始め、ありえないほどにガラガラな声になった。 黒いフードの人物は、手に握られた刃先の赤い刃物を捨てると、木鳥の落としたスマホと学生鞄を強引に奪い去って行った。 うっすらと、フードの奥に笑った口元が見える。 木鳥は体から力が抜けて床に崩れ落ちる。 「だ……れ……か…………」 全身の体温が消えていく感覚に苛まれ、木鳥の意識は完全に途絶えた。 続く

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気取りの木鳥さん

汚れちまった色恋に

汚れちまった色恋に 特別編第三話:後悔とあの時の気持ち。 私は目が覚めた時、真っ暗な場所にいた。 「……何ここ……」 妙に生暖かく、音も反響し、上下が全く分からない不思議な場所だ。 私は左右を交互に見回す。 どこを見ても真っ暗な空間が広がっているだけで、変わったものが見当たらない。 だが、その直後だった。 背後に気配を感じ振り返ると、そこには一人ポツンと誰かが立っていた。 その背中に、私はとても既視感があった。 「園田君っ……!」 私はその背中に向かって必死に駆け出す。 すると彼はこちらを振り向いた。 その顔を見た時、私は息を飲んで足を止める。 信じられなかった。 園田君の顔が、まるでクレヨンの様な黒い色で塗りつぶされていた。 「ひっ……」 私は思わず腰を抜かす。 園田君がそんな私を見て何も言わずに手を差し伸べる。 私はその手を取って立ち上がる。 「あ、ありがとう園田君。……あれ。園田君?」 私は違和感を覚え尋ねる。 園田君が手を離してくれないのだ。 寧ろ強く握りしめており、ギシギシと手のひらが音を立てる。 「ちょっ……園田……君?」 私が園田君に訴え続けると、園田君は黒く潰れた顔をこちらに向ける。 すると彼は、とても低く、悲しそうな声で言った。 『なんで……僕を殺したの?』 私は息を飲み、心臓がドクンと大きく跳ねた。 「いや……違っ……ごめん……あれは……」 必死に弁明しようとすると、園田君が私にバッと抱きついてきた。 背中に回された彼の腕はとても力強く、痛みを伴ってしまう程で、とても怖かった。 「そっ……園田……君?」 『寂しかったよ…………もう離さないで』 「…………」 私は戸惑いながら、彼の声を聞く。 長い間苦しみ続けていた事が、声に現れている。 とても寂しく、凍えた様な声。 「…………うん」 私はそっと彼の背中に腕を回した。 今の状況を完全には理解してないが、彼にこんな思いをさせているのは、他の誰でもない私だ。 私はその責任を取らないといけなかったのだ。 園田君は静かに微笑む。 『ありがとう……ずっと…………一緒だよ?』 園田君がそう言った直後、身体に何故か浮遊感を覚えた。 「え?」 私は目を開けて見ると……気がついた。 自分が落下している事に…………。 「うわぁぁあああああ!」 私は大きな声で叫んだ。 だがそこは暗黒の空間では無く、自分の高校の教室だった。 クラスの皆が私の方に注目する。 勿論、授業をしていた先生もだ。 「どうした岡野?急に大声出して」 先生が優しく尋ねるが、私は未だに状況が飲み込めていなかった。 「…………あれ?……夢?」 私が唖然としていると、先生が笑う。 「疲れを癒す為に眠るのは良いけど。授業はちゃんと聞こうね」 「……は、はい。すみません」 私は席に座り、呼吸を整える。 心臓が鳴り止まず、身体中に寒気が走った。 周りの生徒のザワザワした声に、私は気づけなかった。 昼休み。 「静葉が居眠りなんて珍しいねぇ。なになにボクに憧れでもしたの?」 「…………違うわよ」 私は弁当箱を広げながら抗議するが、正直凄く気分が悪かった。 美桜が私に尋ねる。 「大丈夫だったの?あの時大声で叫んでたけど」 「…………ごめん。変な夢見ちゃったからかな?」 私が乾いた笑い声を上げると、二人が不思議そうに首を傾げる。 私はなんだか隠すのも良くない気がして、自分の見た夢を全て洗いざらい話した。 凛花が「うげぇ」と声を上げる。 「そりゃえぐい夢を見ましたなぁ」 「……やっぱり……許されないのかな……?」 私は苦笑いし体が震えた。 「どんなに二人が許しても……私は……人を死に追いやった事に…………変わりが無い……」 「「……」」 「私だって……自分の事を許せない……彼だって…………彼だって……っ!」 園田君は優しい人だ。 それは私が一番分かっている。 だけど彼の命は私が奪った……。 それを彼は……許してくれるのだろうか……? 私は……許されるのだろうか……。 「静葉は多分……その人にも許されてると思うよ」 凛花が言った言葉に、私は目を丸くする。 「だって静葉はそんな気分になるくらい。彼の事を思ってるし、反省してる訳でしょ?まぁなんか流石に行き過ぎてる気もするけどさ」 凛花に笑われ、私は何故か無性に恥ずかしくなってしまう。 「話を聞く限り、その人すんごいいい子なんでしょ?なら、きっと許してくれるよ」 「……そうかな?私なんかを……許してくれるのかな?」 「うん。だってその子にモッテモテだったんでしょ静葉は…………なんか静葉がモテてるのムカつくけどね」 「……あんたねぇ……」 私はクスクス笑うと、その場に居た全員が大笑いする。 ……園田君。 私はそっと目を閉じて、園田君の名前を呼ぶ。 するとまた、あの暗い空間に入り込む。 目の前には園田君が立っていた。 今度は顔が塗りつぶされておらず、懐かしい彼の顔がこちらを見ている。 私は勇気を振り絞り、息を深く吸い込んだ。 「…………ごめんね。園田君。あの時……あんな事言って……許してくれなくても良いから、聞いてほしい」 園田君は答えない。 「私は……本当はあの時…………嫌なんかじゃなかったの。園田君と関わるのは凄く楽しかったし。私の閉ざされてた心も救われてた。だけど、園田君に悪いと思ってたの……詩音さんが園田君は頑張ってるって言ってたから……私は邪魔だと思ってた……だけど君は違うと言った……それを信じれなかったのは……私が馬鹿だったから……だから…………本当にごめん」 私は園田君に深く頭を下げる。 彼が昔、私に言ってくれた言葉。 "岡野さんが好き" 私はあの時、その言葉を汚してしまった。 例えこれが、私の夢や妄想であっても…………私は一言謝りたかった。 そして伝えたかった。 「ありがとう園田君…………私も好きだったよ」 何年もかけて気がついた、私の本音。 私がそう言って彼を見つめると、その顔が優しく綻んだ。 そして彼が何か呟いていたが、それを聞く事は出来ず、私は現実に引き戻された。 「静葉ちゃん大丈夫?」 「静葉はいつでもボケっとしてんね」 二人に心配され、私は思わず頬を緩めた。 「……あんた程じゃないわよ凛花」 そう言って私達三人は笑い声を上げた。 第三話[完]

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