しょま
6 件の小説華やかな学校生活╰(*´︶`*)╯
はい、私が殺しました。 凶器は、ペンと言葉です。 そう言ったとき、 誰も何も言わなかった。 当然だと思う。 私の手は、汚れていないから。 血なんて、一滴もついていない。 ただ―― ほんの一言、書いただけだ。 それは、なんでもない昼休みだった。 教室はうるさくて、 笑い声が当たり前みたいに響いていた。 私はその中にいた。 浮かないように、ちゃんと笑っていた。 ふと、あの子が目に入った。 静かで、あまり喋らなくて、 少しだけ、周りから浮いているように見える子。 私は、ノートの端に書いた。 あいつ、ちょっとキモくね? 深い意味なんてなかった。 ただの冗談だった。 「なにそれ」 隣から、声がした。 竹久だった。 勝手にノートを覗き込んで、笑った。 「ちょっと貸して」 そう言って、スマホを向ける。 「やめろって」 口ではそう言ったけど、 本気じゃなかった。 竹久は笑いながら言った。 「ま、面白いしな」 その場の空気が、そういう空気だった。 だから私は、何も言わなかった。 次の日。 黒板の隅に、書かれていた。 キモい 誰が書いたのかは分からない。 でも、何人かがそれを見て笑っていた。 竹久も、その中にいた。 「こういうの、誰が書くんだろうな」 そう言いながら、少し笑っていた。 私は、何も言わなかった。 それから、少しずつ変わっていった。 あの子は、発言しなくなった。 名前を呼ばれても、小さく返事をするだけ。 笑うこともあったけど、 目はまったく笑っていなかった。 私は、それに気づいていた。 でも――見ないふりをした。 「最初に言ったやつが一番悪くね?」 ある日、竹久が言った。 軽い口調だった。 教室に、笑いが広がる。 私も、少しだけ笑った。 ……笑ってしまった。 放課後。 廊下に、ノートが落ちていた。 見なくても分かった。 あの子のものだった。 後ろから足音が近づく。 「それ、誰の?」 竹久の声だった。 私は反射的に、ノートを閉じた。 「……なんでもない」 「ふーん」 竹久は、それ以上何も言わなかった。 少し間を置いて、こう言った。 「ま、面倒なことには関わらない方がいいよな」 私は、小さくうなずいた。 ――ノート 1ページ目―― 誰も助けてくれない ――2ページ目―― 誰も助けてくれない ――3ページ目―― 誰も助けてくれない ――4ページ目―― 誰も助けてくれない ――5ページ目―― 誰も助けてくれない ーー6ページ(最後のページ) 僕の、何がいけないの? ——あいつ、ちょっとキモくね? 私は、ノートを閉じた。 心臓の音が、うるさいくらいに響いていた このことを、誰かに言えばよかった。 先生でも、誰でもよかった。 でも、私は言わなかった。 言えなかったんじゃない。 言わなかった。 あのノートのことを知っているのは、 今も――私だけだ。 そして、あの日が来た。 教室の空気が、妙に静かだった日。 誰も、あの子の席を見ようとしなかった日。 気づいたときには、もう遅かった。 「そんなつもりじゃなかった」 何度も、そう思った。 何度も、自分に言い聞かせた。 でも、違った。 最初の一言は、私だった。 すべての始まりは、私だった。 あのとき、消していれば。 あのとき、笑わなければ。 あのとき、止めていれば。 あの日、私は人を笑わせたと思っていた。 でも本当は、 一人を、静かに壊していた。 きっと、あなたも見たことがあるはずだ。 誰かが、誰かを傷つけている瞬間を。 軽い言葉で。 笑いながら。 あのとき、私は止められた。 でも、止めなかった。 あなたなら、これを止めますか? それとも、何も言わずに見ているだけですか? その沈黙もまた、言葉になる。
あの日に戻れたら...
後悔がやまない。 まさか、あなたに会ってしまうなんて。 四時間前。入試を終えた僕は、解答欄を埋めた達成感よりも、この数ヶ月間縛り付けていた「正解」という概念から解放された軽さに浸っていた。 駅の駐輪場。ポケットでスマホが震える。 彼女からのメッセージ。 『おつかれ!どうやった?』 一字一句、真っ当で、非の打ち所がない気遣い。 僕は少しだけ考えて、『まあまあ』とだけ返した。 それでいい。それが「正しい」付き合い方のはずだった。 自転車を漕ぎ出し、冷たい風を裂いて走る。 いつもの帰り道、視界の先に、あの跳ねるような後ろ姿が見えた。 中学二年のあの日。 クラスの隅で僕がボソッと呟いた、誰も拾わないようなくだらないボケに、君だけが吹き出した。 「今の、間(ま)が完璧すぎん?」 そう言って笑った君と、僕らは「お笑い」という名の共犯関係になった。 以来、僕の日常は、君をいかに笑わせるか、君のツッコミをいかに引き出すかという大喜利の連続だった。 「……おい」 気づけば声をかけていた。 振り向いた君は一瞬驚き、すぐにあの、僕が世界で一番好きな顔で笑った。 「え、なんでおるん? 出待ち?」 「自意識過剰やろ。駅からや」 「えー。うち今バスで帰って、そっから歩いとる」 なんてことない会話。 でも、リズムが合う。呼吸を読まなくても、言葉がパスのように繋がる。 君も、受験帰りだった。 「入試どうやった?」 「まあまあ。お前は?」 「普通やな〜。判定、スベり倒しとったし」 「……お前が言うと笑えんわ」 笑い合う。 この距離感が、僕らの正解だった。 幼稚園からの幼馴染で、中二から「相方」みたいになって。 三年の教室でも、僕らは常に、言葉の裏側でニヤニヤし合っていた。 自転車を押しながら、君の隣を歩く。 また、ポケットでスマホが震えた。 画面を見なくてもわかる。彼女だ。 追い打ちのような、二通目の『終わったら電話してな』だろうか。 「見やんの?」 君が軽く覗き込む。 その瞳には、僕が「そっち側」の人間になったことへの、かすかな寂しさが混ざっている気がした。 「いい、あとで返す」 「ふーん……。あ、そういえばさ」 君が前を見たまま、ふいにトーンを落とした。 「終わったなーって感じせん? なんか、解散って感じ」 「……するな」 「もうさ、こうやって普通に話すんも減るんかな。ピン芸人になるん、うち寂しいわ」 胸の奥が、鋭利な刃物で撫でられたように痛む。 君は冗談めかしているけれど、これは「ネタ」じゃない。 「なあ」 言葉が喉まで出かかる。 『俺ら、解散せなあかんのかな』 『彼女とか、そんなん関係なく、お前と笑ってたい』 でも、出せなかった。 僕はもう、君を笑わせる側ではなく、彼女を安心させる側の人間を選んでしまったから。 僕の手元には、もう君への「フリ」も「オチ」も残っていない。 「……なんでもない」 結局、選んだのは「黙り込み」という、お笑いにおいて最低の結末だった。 「なにそれ、スベりすぎて寒いわ」 君は笑う。 いつも通りの、明るい笑い。 でもその奥に、ほんの少しだけ、何かが揺れていた。 拾ってほしかったボケを、僕が見逃した瞬間のような。 分かれ道に着く。 「じゃあ、ここやな」 「おう」 沈黙。 ポケットの中で、スマホがまた震える。 ――彼女だ。 僕はそれを握りしめたまま、何も言えずに立ち尽くした。 「またな」 それだけを絞り出した。 君は軽く手を振り、歩いていく。 上靴入れが、僕らの共有した時間の終わりのように、カサカサと乾いた音を立てて揺れていた。 後悔がやまない。 あの日、あの時、もし僕が今の「正しさ」を捨てて、君を笑わせるためだけに生きていたら。 一番近くにいて、一番僕を理解していた君を、「友達」というゴミ箱に捨ててしまった。 正解を選んだはずなのに、僕の心は、一生消えない大スベりをした後のように、凍りついたままだ。
メモリ
テレビを見ていると、東大を卒業している人が出ている。 ふと、この人たちと僕とでは、メモリなどが違うのだろう、と思った。 頭の中の容量とか、処理速度とか、そういう見え ない性能が、最初から違うんじゃないかって。 同じ時間を生きているはずなのに、覚えられる量も、理解できる速さも、まるで別の機械みたいだ。 「いいな、ハイスペックで」 誰にも聞こえない声でそう呟いて、リモコンを握り直す。 でも、そのときふと気づいた。 じゃあ僕のメモリには、何が入っているんだろう。 テストで間違えた問題、先生に注意された日の空気、友達と笑ったどうでもいい会話。 正直、役に立つかどうか分からないデータばかりだ。 それでも、それを消したいとは思わなかった。 むしろ、消したら何も残らない気がした。 きっと、誰しもが生きていく中でメモリを使わなければならない。 それは、点数や学歴だけで測れるものじゃなくて、どんな記憶を積み重ねてきたか、その中身の問題なんだと思う。 東大を出た人のメモリと、僕のメモリは確かに違うのかもしれない。 でも、それは優劣じゃなくて、ただの種類の違いなんじゃないか。 テレビの中の人が笑う。 その笑い方を見て、少しだけ現実に引き戻される。 「…まあ、比べても仕方ないか」 僕はテレビの電源を切った。 静かになった部屋の中で、自分の中にあるメモリの重さを、少しだけ肯定できた気がした
黒を白にする男
分厚いアクリル板の向こう側で、黒崎誠は不遜に背もたれに身を預けていた。 連続通り魔事件の容疑者。その目は、獲物をなぶり殺した悦びにまだ浸っているような濁りがある。 「あんたが、どんな黒でも白にするっていう先生か」 黒崎が薄笑いを浮かべる。白石は無言で資料を広げた。 「……やってない。俺はあの夜、家で寝てたんだよ」 「嘘を吐くな」 白石の声は、温度計の針を叩き割るほど冷たかった。 「お前が殺したんだろう。……この、5年前の少女も」 白石がアクリル板に押し当てたのは、今回の事件資料ではない。色褪せた一枚の写真。雨の日に亡くなった、白石の妹の遺影だった。 黒崎の瞳がわずかに揺れ、すぐに下卑た笑いに変わった。 「ああ……あの時のガキの身内か。道理で、必死なわけだ」 「勘違いするな」 白石は感情を殺したまま、身を乗り出した。 「お前を救うのは、慈悲ではない。お前をこの手で『無罪』にし、社会に放り出すためだ。死刑台で法に守られて死ぬなど、生ぬるい」 黒崎の笑いが消える。白石の瞳にあるのは、正義ではなく、底なしの悪意だったからだ。 「……依頼を引き受けよう。お前を『白』にしてやる」 証拠集め:夜の解剖 白石の証拠集めは、法律事務所の机の上では完結しない。 午前二時。激しい雨が降る中、白石は事件現場の裏路地に立っていた。 横には、困惑した表情の水野結衣が立っている。 「先生、何を探しているんですか? 警察はもう隅々まで調べたはずです」 「警察は『犯人を示す証拠』を探す。私は『警察の物語を壊すノイズ』を探す」 白石は地面に這いつくばるようにして、古い排水溝の縁をライトで照らした。 指先で拾い上げたのは、潰れた小さなプラスチックの破片だった。 「これは……?」 「防犯カメラのレンズカバーの一部だ。この路地のカメラは、事件の直前に『自然故障』したことになっている」 白石は立ち上がり、雨に濡れたカメラを見上げた。 「だが、この破片には細かな傷がある。石を投げつけられた跡だ。犯人がカメラを壊したのなら、それは計画的犯行の証拠になる。……しかし」 白石は破片をポケットに収め、冷たく笑った。 「もし、このカメラを壊したのが『被害者』だとしたらどうだ?」 「えっ……? どうして被害者が?」 「被害者はこの路地で、黒崎とは別の男と密会していた。それを隠すためにカメラを壊した。……そういう『可能性』をひとつ置くだけで、黒崎がここで待ち伏せしていたという検察の前提は崩れる」 白石は次に、近くの自販機の下に手を差し込み、汚れた空き缶を拾い上げた。 「水野、この缶の製造番号を調べろ。そして、この付近のコンビニで、事件の1時間前にこれを買った『左利きの男』を探せ。防犯カメラに映っているはずだ」 「それが、黒崎さんの無実を証明するんですか?」 「いや」 白石は雨の中に歩き出す。 「黒崎以外の『誰か』がそこにいたという、消えない残像を作るだけだ。法廷という名のキャンバスに、一滴の墨を落とせば、真白な正義はそれだけで汚れる」 復讐のための「無罪」を構築するために、白石は真実を一つずつ、泥の中に沈めていった。 法廷の空気は、いつも乾燥して冷え切っている。 白石は法廷に入りネクタイを締めた 証言台の男は、脂汗の浮いた顔でうつむいていた。 机の上には、鮮血を吸った牛刀の写真。検察官の鋭い声が、静寂を切り裂く。 「被告人の指紋は、凶器の柄から明確に検出されています。さらに、近隣住民は事件当日の深夜、被告人が被害者の部屋のベランダから飛び降りる姿を目撃している。これ以上の証拠が必要でしょうか」 傍聴席の空気は「有罪」に固まっていた。 だが、その重苦しい沈黙を、椅子の引かれる乾いた音が破った。 弁護人、白石玲司が立ち上がる。 体に馴染んだ黒いスーツ。血の通っていないような白い指先が、スッと資料を指した。 「検察側の物語は、実にドラマチックですね。……しかし、穴だらけだ」 白石はゆっくりと歩き出し、写真を一枚手に取った。 「確かに指紋はある。だが、検出された位置がおかしい。指紋は柄の『中心』ではなく、極端に『刃に近い部分』に集中している。……検察官、あなたは人を殺すとき、わざわざ刃に近い不安定な場所を握りますか?」 検察官が眉をひそめる。「それは、揉み合った拍子に……」 「いいえ」 白石は冷ややかに遮った。 「被告人は調理師だ。彼は包丁を研ぐ際、刃の根元を押さえる癖がある。この指紋は、事件の数日前、彼が日常的に包丁をメンテナンスしていた時に付いたものだ。犯行時の指紋ではない」 小さなどよめきが走る。白石は間髪入れずに証人席へ視線を飛ばした。 「次に目撃証言。証人、あなたは『ベランダから飛び降りる男』を見たと言った。だが、その夜は激しい雨だった。現場の街灯は故障しており、あなたの部屋からは距離にして15メートル。……あなたが視認したのは『男の顔』ですか? それとも『黒い人影』ですか?」 証人は気圧されたように身を引いた。 「それは……黒い上着を着た、男のような……」 「つまり、影だ」 白石は断じた。 「被告人は身長185センチ。対して、被害者の元交際相手である別の男は170センチ。あの高さのベランダから飛び降り、軽快に走り去る姿を見て、影だけで身長差を正確に判別できたとでも?」 沈黙が法廷を支配する。白石の声だけが、冷徹に響いた。 「この法廷にあるのは、状況証拠という名の『妄想』だけだ。裁判に必要なのは、誰かが書いた物語ではない」 一拍。 「物理的な、証明です」 裁判官が資料を閉じる音が、判決の予兆を告げた。 「被告人は……無罪」 どよめきが沸き起こる。 「まただ……」「あの悪魔め」 罵声に近い囁きの中、白石だけは表情一つ変えず、淡々と書類を鞄に収めた。 裁判所の外は、容赦ない雨だった。 「先生!」 新人弁護士の水野結衣が、水溜りを跳ね散らしながら追いかけてくる。 「どうして……どうしてあんな嘘がつけるんですか!」 彼女の震える声に、白石は足を止めない。 「嘘? 私は一度も嘘など言っていない。検察の立証が不十分だった、それだけのことだ」 「でも、あの被告人の目を見ましたか? 彼は、無罪と言われた瞬間にニヤリと笑った。……あれは、やった人間の顔です!」 白石がようやく足を止める。 彼はポケットからタバコを取り出し、火をつけた。紫煙が雨に混ざり、消えていく。 「水野。裁判所は、真実の神様が降臨する場所じゃない」 彼は冷ややかな笑みを浮かべ、彼女を真っ向から見据えた。 「『疑わしきは、罰せず』。そのルールを使って、チェスのように駒を動かす場所だ。真実がどうあれ、証明できなければそれは無かったことになる。……それが法という名の暴力だ」 そのとき、白石のスマートフォンが震えた。 画面に表示されたのは、発信元不明の番号。 「……私だ。……ああ。わかった」 短い応答。電話を切った白石の瞳に、わずかな温度が宿った。 それは歓喜ではなく、獲物を追う獣のような「昏い光」だった。 「次の依頼人ですか?」 水野が恐る恐る尋ねる。 白石は無言で、ジャケットのポケットから一枚の汚れたメモを取り出した。 そこには、殴り書きのような文字で名前が記されている。 『黒崎 誠』 水野は息を呑んだ。「黒崎って……あの、5年前の連続通り魔事件の……?」 白石は答えず、メモを裏返した。 そこには、赤いペンで執念深く、何度もなぞられた一文があった。 『妹の事件 実行犯の可能性・大』 降りしきる雨の中、白石はタバコを地面に落とし、靴で踏み潰した。 「ようやく、シロをクロに塗りつぶす時が来た」 その横顔には、先ほどの法廷で見せた理知的な弁護士の影はなかった。 そこにあるのは、法という盾を構えながら、私怨という剣を研ぎ続けてきた復讐者の顔だった。
消えた審判者
第1章 街で遺体が見つかる。 被害者は普通の会社員。 だが調べると、裏では詐欺をしていた。 現場には黒いカード。 そこには書かれていた。 「罪は、覚えているか。」 刑事の高瀬はつぶやく。 「夜の審判…」 数年前に消えた連続事件。 それと同じだった。 ⸻ 第2章 凛はニュースを見て言う。 「これは私じゃない」 悠真 「どうして分かる?」 凛 「選び方が違う」 つまり犯人は 夜の審判を知っている。 ⸻ 第3章 事件は続く。 被害者には共通点があった。 それは 10年前の少女失踪事件。 しかしその事件は未解決。 ⸻ 第4章 疑われる人物。 • 凛(元犯人) • 黒崎(過去を知る) • 記者(日野) 読者は 凛か黒崎が怪しい と思い始める。 ⸻ 第5章 水原刑事が気づく。 少女失踪事件の関係者。 その中に 警察関係者がいる。 ⸻ 第6章 真実 凛はあることに気づく。 被害者の情報。 これは 警察のデータベースを見ないと分からない。 つまり犯人は 警察内部の人間。 ⸻ 第7章 凛は刑事に言う。 「あなたですね」 全員が驚く。 犯人は 水原 美咲。 彼女は静かに言う。 「そうです」 理由。 10年前の少女失踪事件。 その少女は 水原の妹。 だが事件は揉み消された。 だから彼女は 関係者を一人ずつ探し 裁いていた。 ⸻ 第8章 水原は逮捕される。 事件は終わる。 悠真が言う。 「復讐って、意味あると思う?」 凛は答える。 「ない」 悠真 「でも人はやる」 凛 「そういう生き物だから」 ニュースが流れる。 事件終結。 だが凛は思う。 本当に終わったのか。
忘れ物の多い君と、帰らない私
放課後の教室はいつもより静かで、ほのかにお昼ごはんのにおいが充満している部屋で、私は静かに本を読んでいる。 正確に言うなら、本を読んでいる「ふり」をしている。 ページはもう三十分くらい同じところで止まっているし、物語の主人公が今どこにいるのかすら分からない。森にいるのか、海にいるのか、それとももう死んでいるのか。まあ、正直どうでもいい。 だって、私は物語を読みにここにいるわけじゃないから。 窓の外では、グラウンドから「ナイスー!」とか「ドンマイ!」とか、部活特有の大きな声が飛んでくる。青春って感じの声だ。 でも、この教室の中だけは、別の時間が流れている。 夕日が黒板の端にひっかかって、やけにドラマチックな光を作っている。 それを見ながら私は思う。 ——そろそろ来る。 ガラッ。 ドアが開く。 ほら来た。 「……うわ、まだいたの?」 君だ。 同じクラスで、特別仲がいいわけでもないのに、なぜか私の放課後の登場人物になっている人。 「本、読んでた。」 私は冷静な顔で言う。 「また?」 「また。」 君は自分の机に向かいながら笑う。 机の中をガサガサあさって、ノートを取り出す。 「また忘れ物?」 私が聞く。 「うん、また。」 三回目だ。今週だけで。 普通の人間なら、そろそろ自分の記憶力を疑う回数だと思う。 私は本を閉じる。 パタン、という音がやけに響く。 「ねえ。」 君が言う。 「なに。」 「なんで毎日残ってるの?」 私は少し考えるふりをする。 三秒くらい。 「……趣味。」 「放課後居残りが?」 「うん。」 君は笑った。 「変わってるね。」 それはたぶん褒め言葉じゃない。 沈黙が落ちる。 でも、この沈黙は嫌いじゃない。 静かで、ちょっと変で、だけど落ち着く。 君は机にもたれながら、窓の外を見ている。 夕日が君の横顔を赤くしている。 なんか悔しい。 絵みたいだ。 「ねえ。」 今度は私が言う。 「なに?」 「忘れ物、本当?」 君は少し止まった。 一秒。 二秒。 三秒。 「……半分。」 「半分?」 「半分は忘れ物。」 「もう半分は?」 君はちょっとだけ笑う。 「君。」 私は思わず本を落とした。 バサッ。 ページが床に広がる。 「え。」 「いや、あの、なんていうかさ。」 君は慌てて頭をかく。 「なんか毎日いるじゃん。」 「うん。」 「気になった。」 私は本を拾いながら言う。 「観察対象?」 「違う。」 「研究対象?」 「もっと違う。」 君は少しだけ黙って、それから言った。 「……好きかもしれない対象。」 教室が急に静かになる。 いや、さっきから静かなんだけど、もっと静かになる。 私は立ち上がる。 机と机の間を歩く。 君の前で止まる。 「ねえ。」 「なに。」 「それ、癖強すぎ。」 君は笑う。 「自覚ある。」 私は腕を組む。 「普通はもっとこう、段階があるでしょ。」 「段階?」 「雑談とか、友達とか。」 「省略した。」 「なんで。」 君は肩をすくめる。 「だって、君も待ってたでしょ。」 心臓が一回だけ強く鳴る。 私は目を細める。 「……証拠は?」 君は窓を指差す。 「毎日ここ。」 それは、反論できない証拠だった。 私はため息をつく。 「はあ。」 「なに。」 「仕方ない。」 君が首をかしげる。 「なにが?」 私は言う。 「研究対象、許可する。」 君は笑う。 「研究するの俺なんだけど。」 私は少しだけ笑う。 夕日が教室を真っ赤にしている。 静かな放課後。 ちょっと変で、少しおかしくて、でもたぶん本物の恋が、そこで始まっていた。