ruki
6 件の小説消せない跡、消せなかった私
私の隣には、いつも君がいた。 君は毎朝、私の机に刻まれた落書きを必死に消してくれたね。小さな激落ちくんを握りしめて、力いっぱい擦りながら、それでも笑顔で「大丈夫だって」と笑ってくれた。 あのときの君の笑顔は、私にとって世界で一番の救いだった。 「お前はなんかすげぇやつだからさ、心配すんなって!」 何度もそう言って、私を庇ってくれた。みんなの前に立ちふさがって、矢面に立って、私を守り続けてくれた。 でも、ある日。 私への攻撃は君へと変わってしまった。 くだらないあだ名をつけられて、前よりもっと酷く、もっと残酷な言葉を浴びせられるようになった君。 それでも笑って「平気だよ」って言った君。 なのに。 次の日から、君は来なくなった。 私の隣は空いたまま。笑顔も声も、どこにもなくなった。 本当は守りたかった。 君が私を救ってくれたみたいに、今度は私が守りたかったのに。私は怖くて、何もできなかった。ごめんなさい。助けてくれたのに、私は君を守れなかった。 「全然すごくなかったよ、私。」 君に言われた言葉を思い出すたび、胸が締め付けられる。 だって、君を守れなかったんだから。全然すごくなんか、なかったんだ。 どうして、あの日声をかけられなかったんだろう。 どうして、あの日笑い返せなかったんだろう。 どうして、あの日君の手を取ってやれなかったんだろう。 ねぇ、君。 もしもう一度だけ会えるなら、今度は私が言わせてほしい。 「君はすげぇやつだよ」って。 「だから、置いていかないで」って。 でも、君はもういない。 もう二度と届かない場所で、私の言葉を聞くことはない。 隣に君がいない世界は、あまりにも静かで、あまりにも苦しくて。 私の声も涙も、ただ虚しく響くだけだった。 あとがき 3つワード入るかなって思ったのに無理でした。 切なくしようと思ったのに全然上手くいかない。 上手く言葉を繋げることができなかった気がします。 読んでくれてありがとう。
夜に寝れない僕ら
夜はどうしても眠れない。 布団に潜り込んでも、瞼を閉じても、夢の入り口の前で立ち止まったまま。 ズブズブと沈んでいきそうなのに、パチンと目が覚める。ああ、今日もダメだ。 眠れない夜は、どうしてこんなにも孤独なんだろう。 だけどスマホを開くと、君からのメッセージが光っていた。 ――「眠れない」 画面の中の文字が、まるで君そのものみたいに息づいている。 ぼくと同じだ。君も眠れないんだ。 返事をすると、すぐにまた君から言葉が届く。 文字なのに、まるで声を聞いているみたい。 優しい調子が伝わって、胸の奥があたたかくなる。 あまり無理をさせたくないから、少し時間を置いて返す。 それでも君は返してくれる。その律儀さが愛おしい。 気づけば、夜が駆け足で過ぎていく。 君と話していると、時間の存在なんて忘れてしまう。 やがてまぶたがゆっくりと閉じていく。 君の言葉に包まれて、夢に落ちていく。 きっと今日は、いい夢を見られるだろう。
ハンディファン
夏になると、彼は毎日忙しそうにしている。 すれ違うたび、白いシャツの袖口から覗く涼やかな風が、私の頬をくすぐる。 私の視線に気づくと、彼は少し笑って見せるけれど、その笑みの奥は誰のものでもない。 そう、彼はみんなの“涼”を与える存在だから。 私は彼に触れたい。 その指先から溢れる爽やかな風を、独り占めしたい。 けれど、そんなことをしていいのだろうか。 彼は私だけのものじゃない。 彼の優しさも、心地よい風も、たくさんの人のためにある。 それでも—— 手を伸ばせば届く距離にいると、彼は私をまっすぐに見つめてくれる。 「ほら、涼しいだろ?」 そう言って、私だけに風をくれる。 たとえほんの一瞬でも、その風が私だけのものだったなら、それでいい。 夏が終わっても、この瞬間はずっと胸の中で回り続ける。
好きは案外、単純なのかも
「好き」って言われると、どうしても意識しちゃって。 ひどい言葉を投げられて一度は傷ついたはずなのに、 優しくされたり、助けてくれたりすると、 また、あなたのことを意識してしまう。 傷ついて、惹かれて、また傷ついて。 そんな繰り返しばかり。 感情に左右される自分が嫌で、 変わりたいって思ってるのに変われない。 私が変わったら、あなたも変わってくれるのかなって、 そんなことを考えてしまう。 上手く言葉にできない私を、どうか許してください。 上手く伝えられない私を、どうか許してください。 あなたに甘えているから、私はこうなってしまうのかもしれません。 あなたの言葉ひとつで、 私の感情も、考えも、行動も、言葉も変わってしまう。 単純な子なんです、私は。
君がくれる一歩
初めて会ったのは、高校三年の夏。 画面越しに映る君は、透き通った声と真っ直ぐな瞳で、まるで私を見つめてくれた。 その瞬間から、私は君に惹かれていった。 朝の移動時間、 『おはよぉ、みんな朝早くから偉いね…』 まだ寝ぼけた声で、そっと背中を押してくれる。 お昼の暖かくて眠くなる時間、 『今日のお昼はね、冷やし中華にしたんだー』 ふっと笑いながら、日常を分けてくれる。 夜、目を閉じる前の静かな時間、 『みんなおつかれー。明日も早いからねー』 その優しさに、心がゆるむ。 ある日、勇気を出して送ったコメント。 【今日頑張った。明日も頑張るね】 『おおー、今日頑張ったんだ。偉いねぇ。明日も頑張るの!?偉い子じゃん!』 画面越しに笑う君が、私の世界を明るくする。 ――あぁ、頑張れる。君がいてくれるから。 今日も、生きていてくれてありがとう。 私は君のために、明日も一歩を踏み出す。
死にたい僕が、今日も生きている
毎日が、ただのコピーみたいだ。 昨日と同じ今日。今日と同じ明日。 右から左へ、ただ物を動かすように、生きている。 そんな僕の中に、ふと浮かぶ言葉がある。 ——死にたい。 とても良くない言葉だ。 口に出せば、「心配」という名の偽善が飛んでくる。 けれど、そんな反応すら、もう疲れる。 小学生の頃からずっと考えていた。 なんで生きてるんだろう。どうして僕は生きているのか。 別に、いじめられてるわけじゃない。 親とも仲は良いし、友達も少ないけどゼロじゃない。 人間関係に困ってるわけでも、生活に不自由しているわけでもない。 それなのに、死にたくて仕方がない。 でも、死ぬ理由はひとつもない。 だから、死ねない。 もし“理由”がひとつでもあれば、人は死ねるのだろうか。 「人生は短い。好きなことをして、自由に生きよう」 そんな言葉が刺さらない人間は、どうすればいいのだろう。 僕には、好きなことも、自由も、特にいらない。 本を読んだ。編み物もした。裁縫もした。 映画もゲームも、勉強もしてみた。 でも、心にぴったりくるものは、なかった。 毎日は続く。 変わらない毎日が、ただ積み重なる。 ああ、明日もきっと同じことの繰り返し。 そして今日も、僕は—— 生きてしまった。