飛ぶ五月

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飛ぶ五月

Hello new me 結構上達を感じます。 新連載準備中…

過ぎ去っていった。

君の、心を手に取る。 小さな、人間の子。 星の数ほど存在する人間のうちの、一人。 「君は、自分に価値を見出せるの?」 冷たく、重たい空気はなかなか震えない。 それでも、君は頷く。 そんな、ただの玉みたいな物で、 私を見ることはできるの? 確か、目玉と言ったかしら。 その目玉は、潤んでいて、 小さな海の中に、私が、揺らいでいる。 「これを見てよ。」 私は、彼の心を取り出す。 手のひらに乗るほどの大きさの、黒い球体。 「ぐ…。」 君はなぜか歯を食いしばり、 私からも、球体からも、 目を逸らす。 肩が上下している。 君が吐き出す息は、 白く群れて、上へ昇っていく。 「もっと頑張れば、ヤカンになれるよ。」 「ぐ…。」 君は、喉の奥の方を鳴らした。 居づらそうに、指先を弄ぶ。 奥歯が軋んでいる。 「何?どうして顔を背けるの?」 君の背後の窓から、星が見える。 たくさんの小麦色の星。 私の、指の数より多い。 君は、私が目を逸らしたのを、 盗み見て、手で目元を拭った。 赤い星が一つ。 君は、自分の心に手を伸ばす。 青い星が二つ。 「うかつに、触っちゃダメよ。」 君を、じっ…と見る。 輪郭が、背後からの夜空の光に縁取られる。 君は、私をじっと見つめる。 頬は赤くならない。 君は、私の事を好きじゃないんだね。 鼻がヒクヒク動いている。 それだけ、泣いてしまいたいんだろう。 目元は、赤く熱を持って、 その、大きく切り開かれた眼で、 私を、一心不乱に見る。 あなたは金魚じゃないのよ? 「まだ泣いちゃだめ。」 「球も触っちゃダメだし、泣いてもだめ。」 君は、二,三度首を横に振る。 イヤイヤ、なんて、君は本当に子供だね。 まだ、愛を欲してるんでしょ。 愛をもらえなかったから、こんなに… 幼く… 愛されるように、 なってしまったのね。 君の仕草は、ひとつ、ひとつ、 愛らしい。 でも、その愛らしさの中に、計略はない。 ただ本能のままに、愛される。 「ほら、あなたを抱いてあげるわ。」 玉を持ったまま、両手を広げる。 今度は、 君は、優しく笑う。 そんなもの、要らないってこと? 愛を欲しているけど、必要じゃない… 夜空は明るく、 逆光にさらされる君は、暗い。 そうなのね。 君は、流れ星。 遠くへ、遠くへ、行きたいと願うが、 そう遠くない未来、燃え尽きてしまう。 そして、 私は、君に願い事をする、 たくさんの人々のうちの一人。 願いなんて叶わないのにね。

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過ぎ去っていった。

流れるもの、ひと

ふっ…と 息を吹いた。 夏空に浮かぶ孤独な入道雲は動いた もちろん、長い目で見れば…だけど。 もちろん、長い目で見れば… この夏休み、私は暇ではない。 今日は、 ううん… 少女は被りを振った。 溜息が漏れた ずっと堪えている涙は流れなかった。 ただ、ただ、空に浮いた雲は流れた。 ただの少女は、そこにいるだけで、 その空間を特別に変えてしまうくらい、 美しかった。 「特にやることもないの。」 でも、ココロの中では、何かしたいと願う。 何もしないのは、 暇である日だけの特権であると言うのに。 何かしたいと思う。 「生き急いでいる、んだろうね。」 気づけば雲の形は、変わっていた。 ちょうど、私が幼い頃に流した、 麦わら帽子みたいだった。 そうだ…あの頃は… * こんこんと水が湧き出している、 小さな穴を見つめている。 ただ、水と、雲と、時間だけが流れている。 そこに、 小さなサワガニが、子供を連れてやってきた。 私は、私はなぜここに、いるの? 私のまだ小さかった背丈は、 祖父母の家の、生垣に空いた穴を通り抜けて、 たくさんの人の目をするりと、通り抜けて、 山の奥へと誘った。 そうして、 ひとり。 怖くはなかった。 ただ、木々の隙間から差し込む、陽光が、 揺れていた。 なんだか、たくさんの光の細い柱が建っていて、 特別な場所に見えた。 「きっと何かあるわ」 私はそう呟いた、はず。 私は楽しくなって、光の柱を避けながら進んだ。 落ち葉はさくさく鳴いて、 草は、私が起こす風と共に揺れた。 どうやら、 永らく、時間の流れが止まっていたらしい と推測した。 そう、それで、実際何もなくて、 ただ、小さな水流に、 麦わら帽子を、流したの。 * 「そうだ…あの頃は…暇なんて言葉を、  知らなかったんだわ。」 少女はしばし閉じていた瞳を開けた。 さっきの雲はどこかに流れて、 空は、青かった。 その青は、見ていると目が痛くなるほどだった。

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流れるもの、ひと

記憶の断片 黒

壁に掛かった時計は時を告げる。 カチカチ カチカチ カチカチ この一瞬を、大事にしたい。 カラスが鳴いた カーテンが揺れた ラジオにノイズが走った 花が揺れた 蝋が垂れた ヤカンは叫んだ 金魚は水を掻いた 床が軋んだ 私は、椅子に座る。 視界が広がる。 水滴が垂れた 誰かが笑った 埃は舞っていた 扇風機は首を振った 風鈴がなった 拍動が聞こえた 風船が割れた 帽子が落ちた 鉛筆が転がった 静寂は、存在しないのだ。ということに気付いた。 だが、やけに静かである。 こういう時、 世界に私一人なのではないか?と 考えてしまう。 彼の世界は、今、何色なのだろうか。 彼は、「色褪せている」と、言っていた。 そうなのか… 色褪せるというのも、案外悪くないかもな。 私は、ろうそくの火を、ふっと、消した。 真の闇である。 何か、 真っ黒なものが覆い被さってきたように思う。 音は、相変わらず時を告げる。 心なしか、 彼の最後の言葉も混じってるように感じる。 この闇では、何をやっても分からないだろう。 ただ、時のみ、私を見つめる。 風を感じる。 時が動くから、風は吹くのだ。 だが、何をしても、 私の目の前の色は黒一色だ。 時が無くなったも同然だろう。 幽霊でも、出てこないだろうか? 口笛が聴こえる。 また一つ加わる。 また一つ、 また一つ。 ご近所さんは仲が良いな。 せっかく止めた時は、動き出してしまった。 口笛は、私の記憶に溶け込んで、 記憶の引き出しを叩く。 その強い音は、私の脳に響いた。 ぐわん ぐわん それはそれで良いのだ。 その音しか聞こえぬ。 それはまた、永遠を思わせる。 その永遠の中で、私は唇を噛んだ。 この永遠を、噛み締めていたかったのだ。 そうだな、どこかの香水の匂いがした。 香水とは、また儚いもので、 その人が消えると共に、 炎のように、さっと消える。 また、記憶にそっと、入り込んでくる。 記憶とは、また永遠である。 私が覚えている限り、ずっと、 繰り返されている。 口笛は止んでいた。 ソファに座る それは、すっと、沈んで、 見える世界は変わる。 これもまた、 永遠を終わらせるものの一つである。 最近、子供が産まれたのだ。 まだ小さく、歩くのもままならない。 だが、立派に、世界を見つめる。 あの小さな背丈で何が見えるのだ? そうだな、おそらく、 道は歪んで見えるだろう。 可哀想だとは思わぬ。 沈みゆく太陽や、 昇り行く月を、 私より、正面から見られるのだから。 ただ、カウンターの上が見られないのは、 同情せざるを得ない。 そして、それらを全て思い出したのだ。 沈みゆく月を正面から見たのだ。 夜は、永遠は、明けてしまったのか。 ただ、この一瞬を、大事にしたい。 と、思った瞬間であった。

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記憶の断片 黒

ほたる

君は、あったかいね。 君は、やさしいね。 君は、みんなより、泣き虫だね。 私はずっと“一緒”だから 他の誰よりも、君のことは分かってる。 「最初に会ったのは、いつだっけ?」 雨の日だったかな… 君は、お気に入りの空色の傘を持って、 お母さんに手を引かれて、やってきたね。 あの時は、今とは全然違う、 無邪気な笑顔をほろほろさせて、 笑っていたね。 そうして、君はお母さんの手を引いて、 言ってくれた。 「ぼくこれがほしい」 でも、お母さんは、笑ったまんま 「ダメだよ」って、 目の前のガラスに、貼り付けて、 行っちゃった。君といっしょに。 私は哀しかったの、 君は、私の目の前のガラスに、 涙の跡を貼り付けて、 「バイバイ」をした。 私は、生まれてきてよかったなって思った。 でもね、君の誕生日は、近かったでしょ? だから、君達がお家に帰った後、 君によく似た、男の人が来て、 私を、アームで掴んで、ポトって落としたの。 嬉しかったわ。 あたたかい腕に抱き抱えられて、 男の人の幸せに抱き抱えられて、 私は、幸せでたまらなかったわ。 雨の中、車に乗せられて、 君のお家に向かったの。 窓の景色は、今でも覚えてるわ。 だって、初めて、“あたたかさ”を知ったもの。 窓の外は、雨の雫に濡れて、滲んでた。 だから、薄い藍色の空と、 たくさんの、信号機、ヘッドライト…が、だけが てんてん、と浮かんでた。 おっきな蛍がたくさん並んでるみたいだったわ。 そういえば、 私に“ほたる”を教えてくれたのは、 君だったよね。 私は、泣きたかった。嬉しくて、嬉しくて。 でも、 この、プラスチックの目じゃ泣けないの。 君は、私が入っている箱を開けた瞬間、 ちょっと涙目になったよね。 私は知っているのよ?私だけ。 それで、まだ小さかった君は、 私のことなんてお構いなしに、 私をギュッと抱きしめた。 「大好きだよ。ずっと、ずうっと、  一緒にいようね。」 それから、君は、いつも怪獣ごっこをしたの。 一人で、「ガオー」なんて言いながら。 私はいつだって、さらわれていたわ。 で、君は優しいから、 私の代わりに悲鳴を上げたのよね。 「きゃーっ」って。 そんな君を、 私も、だいすきだったわ。 私は分かっていたわ。 いつかは飽きられるということを。 君は、怪獣ごっこをやめて、 お外で、友達と遊びに行くことが多くなった。 ずっと、ずうっと、覚えているわ。 最後に遊んでもらったことを。 君は、いつもとおんなじように、 私をさらわせて、お気に入りの人形と、 怪獣を、ごっつんこさせて、 怪獣さんを倒した。 それが最後だった。 「めでたしめでたし」なーんて言って、 私を箱の中に直したの。 でも、私はお気に入りだったんだなって思う。 だって、他のお人形さんは、みんな一緒に、 段ボール箱に入れられてた。 見たの、私は。 あの後、ゴミ袋に、 あの段ボール箱が入れられるところを。 哀しくなんてなかったわ。 あのお人形さん達には、感情が無いから。 私だけ、特別なの。 でもね、私は、 クローゼットの奥に入れられちゃった。 暗かったな… 哀しかったな… でも、少し、楽しかったかな… “君の人生”みたいね。 ある日、私が暗闇と睨めっこしてた時、 君は、私の箱を取り出して、 私を見つめたの。 君はほんとに泣き虫さんなのねって あきれたわ。 君は、鼻水垂らして、ぐすん、ぐすんって 言いながら、私の手を握った。 私が人間だったらなって思った。 君はほんとに、弱虫だから、 友達と喧嘩した時、 先生とか、お母さんに怒られた時、 最近では、哀しい時、 なんかに、私を取り出して… そうしたら、私はヨシヨシってなぐさめるの。 ココロの中でだけどね。 でも、君は、 「ありがとう」って言ってくれる。 「いつまでも、私に頼ってちゃダメよ?」 だから、君の事は今でも大好き。 今までずっと、私の事を忘れなかった。 今までずっと、泣き虫だった。 今までずっと、優しかった。 君はすごい。 今までずっと、子供の頃の、 優しいココロを 忘れないでいるなんて。 きっと、君はみんなが大好きなんだろうな。 きっと、苦しいんだろうな。 全部、自分で背負い込んで。 だから、こんな事をしたのね。 その日は、いつもより、哀しそうだった。 いつもより、私をギュッと抱きしめた。 そうして、「○にたい」だなんて、言った。 私はついに泣いちゃったわ。 片方の目を落としちゃったの。 ポロンって… まるで、本物の涙みたいに、キラキラしてた。 そして、私を抱いたまんま、どこか、 遠いところへ、出かけたの。 空は、濃い藍色だったわ。 あの日とは違った。 着いたところは、蛍が飛んでいた。 小さな川が流れていたわ。 君は、縄なんて持って、 私に、「さようなら」 いやっ! 絶対に別れたくない。 君は、私を哀しませたくないのか、 私を、小さな船に乗せて、 川に浮かべたわ。 いやだった。 だから、私は君みたいに、泣いたわ。 なぜか、涙がいっぱい出た。 綺麗な涙が。 君は、そんな私を見て、 膝をついて、泣き出した。 ほんと、泣き虫。 「ごめん、ごめん…」 そう言った。 だから私は言った。 「生きて!生きてよぉ…」 この時初めて気づいたの。 君は、可哀想な子なんだって。 今の時代には溢れかえっている、 可哀想な子なんだって。 私は、ついに川に流されて行った。 ちょろちょろって、 私の想いにそぐわない、 小さな音で、 何気ない日常の一部みたいに。 そうだよね。 いつだって、何気ない日常よね。 どれだけ哀しくても、 どれだけ苦しくても、 どんなに、○にたくても。 “何気ない日常”なんだな。 残酷だね。 でも、君は私を迎えに来た。 「家に帰ろう」って、 結局出来なかったんだね。 弱虫。 「君のそんなところが、大好きだよ。」 蛍は飛んでいた。 たとえ明日この世を去るとしても、 私達にとっての、“何気ない日常”を 必死に、生きていた。

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ほたる

秋の陽差し

たった八十億は、空を見上げた。 たった八十億は、思い出を見た。 たった八十億は、微笑んだ。 たくさんの独りは、足元を見た。 たくさんの独りは、ココロを見た。 たくさんの独りは、作り笑いをした。 君は、どっちなんだい? “人”という括りで、くくられる、八十億。 でも、“人”は、疲れてしまったみたいだ。 だから、みんな、 今まで通り、元気な訳じゃない。 だからだから、“八十億”って言ったって、 少人数しかいないんだ。 僕は、元気な“八十億”のうちの一人でありたい。 それとも、君は、 たくさんの“独り”かい? 僕には、君の苦しみはわからない。 でも、苦しんでるってことは、 分かるよ。きっと。 「誰だって苦しんでいるんだ。」 “八十億”は、そう言う。 どうとも言い返せない。 だって、 自分のココロを引っ張り出すこともできない。 言葉で、伝えることだって難しい。 そもそも、おんなじ、“独り”ではない。 さて、 と言っても、 僕には何もできやしない。 … … … ここに、一輪の花がある。 花占いをしよう。 明日、“生きる” 明日、“○ぬ” どっちか決めよう。 生きる、○ぬ、生きる、○ぬ 花びらがサラサラ落ちる。 生きる、○ぬ、生きる。 最後の花びらは落ちた。 僕は“生きる”んだってさ。 ふふふ。 こんなの、運じゃないか。 もし、今まで、十六年間、 花占いで、生死を決めていたら… どうなってただろう? 五千八百四十回 “生きる”の時に、 最後の花びらは落ちるだろうか。 全然ありえるさ。 もし、全人類で、これをやったら、 誰かは、生きてるさ。 そんなもんだよ。 でも、もう、その頃には、 ほとんど誰もいないけどね。 要するに、 結局、寂しいってことだよ。 まあいいさ。 もがいてるうちに、 みんな、“独り”になるよ。 そうしたら、みんなで、花占いをしよう。 お花が足りれば、だけどね。

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秋の陽差し

お月見を、少し。

私、お月見をいたしました。 お恥ずかしながら… その日は月は、見えませんでした。 でも、でも… 真っ暗な雲の中に、 ほのかな、ほのかな、 月の光を、宿した雲が、ありました。 ヒュー。 ほのかな、ほのかな、 命の灯火を、宿した少年は、 ベランダの柵に寄りかかって、 ふっ。と ため息を吐きました。 ちょうど良い夜でした。 夜は、サーっと、降りてきて、 少年が宿す、灯火を、 ほのかに、ほのかに、 揺らしたのでした。 「月は、見えないなあ」 *** 「伏せろ!」 とっさにうつ伏せになる。 背中にしょった食料が重い。 背中に受ける日光が熱い。 「はぁっはぁっ」 伏せると同時に、 「バババババ、ドカーン!」 頭上を、弾が通り過ぎていく。 爆風と、衝撃波が通り過ぎていく。 その、すぐ後、 こっちでも銃声が、うるさく薬莢を飛ばす。 「うっ」 一つの遺言。 「ドサ」 もう一つ、増えた。 私は、何をしているんだ…? 一体何を…? ただの○人じゃないか。 彼にも、 家族がいた…だろうに 好きな人もいた…だろうに 苦しい人生があった…だろうに なぜこんなことができる? 彼だった…残骸に近づく。 おそらく、即○だっただろう。 彼の荷物の中に、 ドックタグ(名札のようなもの)があった。 どうやら、日本人だったみたい… 「ぐぅ…ぐっ…ぐっ…」 どうしようもなく、なって、 今が、 人生が、 この先が。 絶望しかない。 そんな、涙で顔をぐしゃぐしゃにした、 軍人の元に、一つの、月見団子が、 転がってきた。 「そうか、そうなのか…  今日はお月見か…」 月は、青空に隠れて、見えなかった。 「月は、見えないなあ」 *** 今日は、新しい、命が生まれました。 だから、たくさんの笑顔も、咲きました。 それはそれは、真っ赤な、紅葉のようでした。 とてもとても、「生きてる」って感じがしました。 赤ちゃんはとっても小さくて、 お母さんの香りがしました。 懐かしいな… 「おぎゃー」 新しい命は、“自分”と言うものを、 この世界に、お知らせをしました。 「ぼくは生きてるよ」って。 それは、少し大きな音だったので、 私は、安心しました。 きっと、きっと… たくさん生きて、笑っているだろうって。 秋の風が、窓から、通り過ぎてって、 サッと、紅葉の葉を、一枚、運んできました。 だから、 赤ちゃんが産まれて初めて見たものは、 “紅葉”だったんだろうな。 時は、少し流れて、今日の夜。 少し遅れた、お月見をしました。 赤ちゃんは食べられないけど、 月見団子を食べました。 とっても食べたそうに、月見団子を見つめる 赤ちゃんは、かわいかったな。 だから、 私は赤ちゃんに阻まれて、月が見えなかった。 「月は、見えないなあ」 *** 「昔々の事でした。  月は落っこちてしまったのです。」 絵本の“絵”の部分は、 汚れてしまっていて見えない。 この薄汚い少年は、本を閉じるのだろうか? いや、月を見上げた。 「見えるわけがないのに」 「月は、見えないなあ」 彼の頭上には、無数の洗濯物。 彼の周囲には、無数のゴミ。 彼の友達には、一匹のネズミ。 一体、何を考えているのだろうか? この少年は。 明日、起きられるか分からない。 今日、何も食べてない。 昨日、希望もない。 それでも、それでも、そこにいる。 何も変わりはしない。 *** 「全員、当たり前が、当たり前な訳じゃない」 彼は、当たり前のことを言う。 「そ…」 私は、月をながめる。彼なんか眺めずに。 縁側に吊るしてある、風鈴は、 「チリン」と 私達のギクシャクした関係を笑った。 「ごめん…」 彼は謝ってくる。 私はなんて言えばいいか分からない。 っていうか、喋れない。 「なんか言えよぉ。」 彼はいじわるだ。 月見団子を飲み込んでから応える。 「いじわる」 相変わらず彼は見ない。 でも、笑ったのは分かった。 「きっと、当たり前は、あり続ける。」 彼は言う。私を見て。 「なんで?」 私はすこし涙ぐむ。 「知らないよ…」 確かに、そう思う。 “当たり前”って残酷なんだ。 なーんて。 「月がきれいだね。」 「そうだね」 きっと、月は、みんなのココロに、 あり続けるだろうなって。 あって欲しいなって。 願った。 来年も、よろしくね。

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お月見を、少し。

想いは夕日と

ブーン 耳鳴りがする。 この景色に目を奪われたのだろう。 夕日 海 ここはただの工場なのだ。 海のすぐそば… いや、砂浜に建っていると言ってもいいぐらいだ。 浄水場みたいな…? なんかよく分からない、タンクが並んでいる。 その間から見えるんだよ。 夕日と、海が。 で、俺が立っている、 通路みたいな?橋みたいな?場所からは、 “HOPE”と言ったところだろうか? そんな感じの曲が、ラジオから発せられている。 音楽は俺のココロを掴む。 景色は俺のココロを掴む。 小説は俺のココロを掴む。 死神だって掴めやしない俺の、ココロを、 “芸術”と呼ばれるものは掴んだ。 だが、芸術を掴むことはできない。 掴んで、胸に引き寄せ、黄昏に暮れることなんて… 違う。 享受することはできるんだ。 作り出すんだよ。この景色を、         この音楽を、         この小説を。 俺は燃えた。 目の前の夕日と同じくらい燃えた。 目の前の音の炎より熱かった。 目の前の、小説の焼け端は、俺を見た。 無駄だ。 どれだけ、つくりたい。と思っても。 俺の脳みそだけに収まりきらない、 歌詞、 音楽、 景色、 額縁、 世界、 ある一刹那。 それら、愛する俺の中にある世界。 を脳から引っ張り出して、 この、辛いだけの世界に、ばら撒いてやりたい。 コツコツ、 コツコツ、 俺は、工場を離れ、砂浜にやってくる。 サクサク、 サクサク。 ドサ。 俺は砂浜に座って、 ひと摑み、砂を手に入れる。 そいつは、サラサラと、指の間からこぼれて、 元通り、砂浜に吸い込まれる。 「はあ」 美しいと思う。 まだ、うっすらと聞こえてくる ラジオの曲は、一風変わって、 少し寂しげになっていた。 「いくらあがいたって、無駄なんだ」 そうさ。 どれだけ考えても、 どれだけ手を動かしても、 どれだけ夢を叶えても。 終わらない。 終わらないけど。 今日は終わってく。 大事な一日、一つの物語は、曲は、終わっていく。 ザク、 俺は仰向けに寝転がって、 眩しい夕焼けと、昔の思い出を、 照らし合わせた。 「いいさ。あの日は終わった。      あの曲は終わった。      あの物語は終わった。  きっと、今日も終わっちまうんだろうな。  この景色と一緒に。」 結局、この物語も終わっちまう。 そう思って、 俺は かち、 ガチャ、 ブルンブルン。 と生まれたばかりの音は無視をして、 バイクにまたがり、去っていった。 *** 置いて行かれた、ラジオは、まだ歌っているだろうか? あの砂浜はまだ残っているだろうか? 夕日に照らされて。 俺はまだ知らない。 生きている“俺”の“生き様”が、 美しいのだということを。 だから、俺は 頑張り続けます。 いつか、この世界が変わるまで。

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想いは夕日と

ダメだね。今日は

今日は、笑顔を作るのに失敗した。 太陽は、雲に隠されて、 みんなを照らすのに、失敗した。 時間は、きちんと動くことに失敗した。 だから、今日の授業は長かった。 なげくさ。そりゃあ。 何回やってもうまくいかない。 何度やっても、何度やっても。 「いつかはうまくいく。」 そんな一言で済まされていいのか? それまで… 苦しみ続けたんだよ? それまで… 辛かったんだよ? 「あんたも失敗すりゃいいのに」 私はそう言ってやったわ。 そんなの、やつあたりだってことは、 わかってる。 わかってるけど…ずるいじゃない? 自分だけ成功しちゃってさ。 でも、人生に“成功”しかなかった人がいる。 どうなったと思う? 自信過剰になる。 自分が正しいと思う。 サイテー人間になる。 全部アタリ。 そんなことだけじゃなくて、 “失敗しちゃう人の気持ち” が分からなくなっちゃうの。 それはまるで、 初日の出とか、 虹とか、 月食とか、 満月の…空しか 見上げない人みたい。 もったいないと思うわ? うまくいかない日ってのはどうにもならないの。 「ほら見てよ」 鳥たちは飛び方を忘れちゃったみたい。 ぽとぽと落ちてくる。 ぽとん ぽとん 大抵は、知らなかった“地面”というものに     叩きつけられて… ○んじゃう。 だけど、 できるだけ救ってあげたい。 だから、 何かをしてあげたい。 だけど、 こういう日は何も思い浮かばないんだよね。 だから、 バイバイをした。 ごめん… きっと、明日はうまくいく。 うまくいかなくったって、 いいかな。 踏切の遮断機が カーン カーン と、鳴り始める。 でも、下を向いて歩き続ける。 渡れるかなあと思って。 遮断機は、私の手前で下りきった。 取り残されちゃった。うまくいかないな… このままでいようかな… 何もうまくいかないと、諦めちゃうみたいだ。 女の子が、踏切に佇む。 一緒にいた男の子は、 “うまくいかない人の気持ち”を分からない。 だから、男の子も、     女の子も、     悲劇の運命も、 動かない。 そして、私は、轢かれた。 痛みを感じるのも、 涙を出すのも、 哀しみを感じるのも、 誰かにごめんなさいを言うのも、 上手くいかなかった。 時間も、上手くいくのを諦めたみたい。 さーっと 巻き戻って、全部元通りってわけ。 不思議だね。 上手くいかないってのも、 悪くないなって、 思った。

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ダメだね。今日は

あしあと

「大きな木が欲しい」 そう言えば、そんな時代もあったなあ。 木漏れ日に照らされる老人は、 少し、笑った。 雲は太陽を隠し、 老人はまばたきをする。 太陽もまばたきをした。 世界が、一瞬、暗くなった。 その一瞬のうちに、老人は 昔の記憶を見た。 まだ若い彼が、着物を着て、 まだ若い、婆さんと歩いていた。 手には水ヨーヨーを、 額には狐のお面を、 ココロには小さな恋心を、 持っていた。 「もう何十年も経ったんだなあ」 老人は、再び、少し、笑った。 体中のシワが波打っていた。 周りの地面も波立っていた。 世界が、一瞬、波に変わった。 その一瞬のうちに、老人は 昔の記憶を見た。 まだ若い彼は、陽気に 鼻歌を歌っていた。 自由を謳っていた。 そして、砂浜でプロポーズしたのだ。 「好きです」 運命の女神も、うたってた。 「もう何十年も経ったんだなあ」 孫はいいなあと思ったみたいで、 こっちを向いて、風になびいていた。 風は右から左に、色んなものを運んだ。 孫の涙も、右から左に運ばれてった。 「おやおや、どうしたんだい?」 地面に映った二つの影は、 手をつないで、夕日の中に、足跡を残した。 その足跡からは、ハートの形をした、 花が“いちりん”咲いて、笑っていた。 景色が流れた。 でも、 月日はなかなか流れない。 長いなあ… この道は この人生は。 一人の、いや、 手をつないだ二人のうちの、 一人は、 そう思った。 「人生はあっという間だ」 じいちゃんはいつもそう言う。 俺はそんなふうに思わない。 “思い出すのは一瞬”でも、 “過ごすのは一生”だよね。 だから、人生があっという間なんて、 ひどいじゃないか。 セミだって カモメだって 大切な“一生”なんだ。 ぴょん 何かが手の中に、飛び込んできた。 それは… 小さな 小さな 折り鶴だった。 かわいそうに… ずっと上しか見られないじゃないか。 … 彼は“千羽鶴”というものを知らない。 だから、 首を折った。 するとじいちゃんが 「それは千羽鶴というんだよ」 と説明してくれた。 夕日は、沈みかけていた。 でも、 少年のこころは沈んでしまった。 「ごめんね」 首が折れた鶴は、前を見据えた。 そうして、少年は気づいた。 自分が、 ずっと…ずっと… 前を向いてこなかったことに… 現実に、目を向けてこなかったことに… 色んなものが見えた。 もう、 空という、妄想の世界だけじゃなくなった。 耐えられるのだろうか? 彼にとっては、 辛いのではないのか? 砂浜はサラサラ、そこにあり続けた。 きっと、ずっとそこにあるのだろう。 少年が生まれるよりも、 おじいさんが生まれるよりも、 ずっと前から。 当たり前は、そこにあり続けた。 日常は、 偽りの平和は、 人々の悲鳴は。 きっと、ずっとそこにあるのだろう。 きっと、これからもあり続けるだろう。 夕日は沈んだ。 海の向こうに、真っ黒な海の向こうに。 夜は明けるかな? この、終わらない“哀愁”の夜は、 明けるかな? きっと、明けるだろう。 夜が、“当たり前”のように明けるみたいに。 それまでに、私はあり続けているのだろうか 砂浜のお城のように、 枯れ果てた木のように、 端っこが切られた、折り鶴のように、 崩れてしまわないだろうか 波は打ち寄せては、引いていく。 絶望も、打ち寄せては、引いていく。 きっと、世界はあり続ける。 だから、私も、あり続けて、ほしい。

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あしあと

今日考えたこと。

僕は、生きます。 誰がなんと言おうと、 生きます。 たとえ、 地球の寿命が来ても 好きな人にふられても テストで赤点とっても 先生に怒られても この心臓が、動かなくなっても 生きます。 もしさ、 生きたいと思えば、 いくらでも生きられるようになったら、 ○にたいと思えば、 簡単に○ねるようになったら、 君はどうするつもりなんだい? 僕たちは、 “生まれたい”と思って生まれたわけじゃない。 ただ、生まれてきたんだよ。 そこに意味なんかありゃしない。 地獄さ。 生きることなんて。 痛みを感じて 哀しさに涙を流して うれしさに笑顔を咲かせて 誰かを幸せにすることだって、 あるかもしれない。 それでも… 目の前が真っ暗で 何も考えられない。 そのままのほうが良かったんじゃないか? “生きたい” 理由もなくそう思うだろう? 本能かな? それとも、教えこまれた? それとも、○にかけた? 僕はね、 自由だと思うんだ。 “自由”ってなんだろうね? 息をすることかな? 恋をすることかな? 空を飛ぶことかな? いったい何が自由なんだ? 何も自由じゃない、のではないか! これは僕の宝物のお話です。 *** 神様はいない。 だから、 みんな「平等だ」と言うけれど、 平等なはずがありません。 お金がない子もいる。 不細工な子もいる。 目がない子もいる。 明日がない子もいる。 お金がない子は思いました。 「お金があればいいのにな」 不細工な子は思いました。 「普通の顔だったらいいのにな」 目がない子は思いました。 「目があればいいのにな」 明日がない子は思いました。 「はやく終わってほしい。僕の人生は」 *** この話を聞いた僕は、確かになあと思った。 そして、当然ながら哀しくなりました。 だから、駆け出したんだよね。 明日に向かって。 駆けて 駆けて 駆けて 明日に追いつけば、あさってにも追いつける。 そうして、しあさってにも追いつける。 そうなってしまえば、 僕は、みんなよりはやく、 お爺さんになれるでしょ? でも、違ったんだよ。 太陽は、何度も…何度も… 沈んで… 昇って…いった。 僕はウキウキして、自分の手を眺めた。 しわしわになっていると思ったんだよ。 骨張っていると思ったんだよ。 でも違った。 全然変わってなかったんだよ。 どうしようもなかった。 どうしようもなかった。けど、 生きてた。 生きてた。んだよ。 人ってもんは、立派な脳みそを持ってても、 まだまだお馬鹿さんなんだなあって思ったよ。 いいさ。 お馬鹿さんでも。 明日がなくても。 こんなお話をして、君は哀しいだろ? 結局、「なぜ生きるのか」という問いに、 僕は答えられなかったよ。 勝手に生きるさ。答えなんてなくても。 なんでも勝手に、明日を迎えるだろ? 植物だって、 今日という日だって、 あなたの好きな人だって、 たとえ地球が回らなくなったって、 明日は迎えにきてくれるさ。 地獄さ。生きるっちゅうことは。 まあいいよ。 きっと、   一週間 いや、    一日 もしかしたら、一瞬 だけかもしれないけど、 “幸せだ”って思うことはあるよ。 そのためだけに僕は生きてるかな。 少なくとも僕はね。 みんなはもっとマシな理由を見つけてほしい。 自由さ。僕たちは。 勝手に生きられるなんて。 “自由”だと思わないか? 明日なんて、勝手に去ってくさ。 気にしなくていい。 なんでも勝手に去っていって 無責任だよな。 今日という霧の中に僕たちを置いていくんだ。 まあ、生きてりゃいいさ。 勝手にね。 なんでも自分勝手さ。 だから、 自分を責めなくていい。

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今日考えたこと。