鳥塚 齢

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鳥塚 齢

こっそり見させていただいています。

ウサギノノアナ#3

白兎を追い、森を出るとよく知ってるようで全く知らない景色が待ち受けていた。どうやらここは私の元いた場所と似ているようだ。私のよく知っている森は、抜けて少し歩くと駄菓子屋がある。おばあさんと息子が2人で暮らしていたはずだ。確かにこちらにも駄菓子屋はあったのだが、店を覗くと中は全く違いガラス窓のついた棚に見知らぬお菓子がズラッと並んでいる。何よりガチョウのおばあさんがいたことには驚いた。白兎によると、彼女は元々こちらの世界で生まれ育っており、我々とは違うらしい。では白兎はどこで育ったのか、それは着いてからのお楽しみだという。 だんだん家が多くなって、テレビで見るような西洋風の見慣れぬ建物が増えてきた頃白兎の足が止まった。 「ここが我々の本拠地だ。」 「素敵な家ですね。」 お世辞ではない。周りに比べて背は低いが威厳があり庭には大きなテーブルがついている童話のような可愛らしい建物がとても魅力的に見えた。 本拠地。彼女は革命軍のリーダーと名乗った。女王に反抗しているとも。彼女が危なそうな人には感じないが、そのような活動をしている人が安全とは思えない。女王のことも知らないし、関わった時点で殺されてしまうかもしれない。だが、私はもう気づいていた。これは現実の出来事ではない。しかし夢や空想の話でもない。確実に私達の身に何かがあって、『ウサギノノアナ』の中に迷い込んでしまったのだ。今何が起こったかを知るにはおそらく彼女の言う通りにする他ない。そんな事を考えて白兎の手を握ろうとする。白兎はチラとこちらを見ると強く握り返してくれた。 「心配せずとも、すぐにあいつらのことが好きになるさ。皆お前を待っているんだ。」 その言葉を聞き、不思議と少し気が軽くなって扉を叩いた。すると、すぐ白兎の言ったことがわかった気がした。 「いらっしゃーい!!十人目ちゃんかにゃ〜?ようこそにゃ〜!!白姉もおかえりさん!」 扉が勢いよく開いて青年が飛び出してきた。紫と黄色のボーダーのブカブカのニットと同じ色の大きな猫の耳が特徴的な元気な青年だ。動きも声も大きく圧倒されているとそれを咎めるように奥から声が響いた。 「いきなり飛び出したらびっくりしはるで〜。ごめんなぁ〜、いらっしゃい!ゆっくりしていってや〜。」 声の方を見ると大きな爬虫類の尻尾をつけ、ハンチングをかぶった緑髪の青年が苦笑しながら紅茶を淹れている。オーバーオールも帽子もボロボロで鋭い目と牙は野蛮さを感じさせるのだが、それ以上に気品を感じさせるしなやかな動きをしていた。 それを機に部屋の中を見回してみる。ここはどうやらリビングのようだ。アンティークとでも言うのだろうか。おしゃれな机と椅子が並んでいる。何かを言わなくてはと考えていると小さな影が視界に飛び込んだ。 「ずいぶん遅かったじゃないか、白の姉貴にしては珍しい。そうだ、三人目は今九人目の看病をしている。夜には目を覚ますだろうとのことだ。」 可愛らしいメイド服を着た背の低い女性、いやよく見ると青年のようだ。大きなネズミのような耳から細いツインテールが腰まで伸びていてかわしらしい見た目をしているが年頃のDKくらいの体格だ。大人のような淡々と、しかし優しい話し方をする。 部屋の中にいたのはこれで全員だろうか。この少年が言うにはまだ少なくとも2人はいるようだ。三人目と九人目。私が十人目のアリスらしいので二人もアリスなのだろうか。 『あっちならもう少しマシな説明ができるやつらが沢山いるし、お前と一緒に落ちてきた九人目も居る。どうだ?』 ふと、出会った時に白兎に言われたことを思い出した。私と落ちてきた九人目。もしかしたら…。 「皆さん、歓迎していただきありがとうございます。よろしくお願いします。」 私は緊張した顔で深くお辞儀をした。

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ウサギノノアナ#3

ウサギノノアナ#2

頭が、頭がポヤポヤとする。甘い花の匂いが脳内に充満していくようだ。ずっと昔のことははっきりと思い出せるのについ先程…だと思う、森に入ってからがどうしても思い出せない。最近に近づくほど思い出せなくなっていく。そんなあまり働かない頭の少し動きやすいところを動かしてみた。 つまり私は花蓮に連れられて森に入っただけなのだ。たしかに今草木に囲まれてるしこの頭のポヤポヤはきっと悪い植物にやられたに違いない。匂いが、こう、頭の中を支配するみたいな…。もしそうならばかなりまずいのでは?そういった結論に至ったためまだ頭はぼーっとしているが取り敢えず起き上がることにした。 ふと頭で何かが揺れた。今日は帽子も何もかぶっていなかったはずだが。恐る恐る頭に手を伸ばしその〘何か〙を取り外す。これは、リボン?いや、リボンのついたカチューシャだ。折りたたまれたような紫のリボンが黒っぽいカチューシャに斜めに接着されている。こんな物付けていなかったし、買ったことすらない。私の所有物ではないはずだ。それだけでない、服もいつの間にか似たような色になっている。構造的にはエプロンに近いのか。しかし料理で使うようなものではなく、フリルがいたるところについていてトランプの4つのマークが大きく描かれている。リボンカチューシャといい、エプロンといい、これはまるで… 「アリスみたい…。」 「そうだぞ、十人目のアリス。」 「うわあぁっ!」 思わぬ声に急いで振り返る。頭のポヤポヤも消える。背後に気配もなく佇んでいたのは結わえた白髪のきれいな美少女だった。軍服のようなものを着ていてそれに似合う威圧感を発している。が、頭についているウサギの耳のようなものがその緊張感を緩めている。歳的には高校生くらいだろうか。赤い目が私を見つめた。 「…あまりジロジロ見られると照れてしまうな。」 「えっあ、あの…すみません?」 そんなこと露とも感じていなそうな真顔を崩さないので思わず変な反応になってしまった。返事を聞くと彼女は真っ白な耳を揺らして咳払いをした。 「いきなり見知らぬ美少女に話しかけられてびっくりしただろう。私の名前は白兎。そのままだな?革命軍、女王に逆らう者たちのリーダーをしている。」 なんだか…変な人だな。しかしだいぶ物騒なことを言っている。 「ええと、ここは?」 「そうだな…。分かりやすく言うならこの国は不思議の国で我々の元々住んでいた世界の裏にある国みたいなもので…いや、逆に混乱するよな、悪い。とにかくここは不思議の国、現実ではなく夢でもない。ただお前は不思議の国のアリスだ。それも十人目なんだ。」 いきなり並べられた到底理解できない単語を頭の中で繰り返す。まとめると、不思議の国で私は十人目のアリス。目の前の、威圧感の割に親しみやすそうな彼女は白兎ということか。…うん。これは話題の白昼夢というやつか。夢にしては冷静で現実にしては不可解すぎる。いきなり服も着せられたわけだし。そう考えると混乱も冷めてくる。白兎さんはこちらの様子をうかがうように首を傾げたあと、手を差し伸べてきた。 「昔から説明することはあまり慣れてなくてな。まだ分からないことだらけだろう。実際に森を抜けて不思議の国に行ってみるか。あっちならもう少しマシな説明ができるやつらが沢山いるし、お前と一緒に落ちてきた9人目も居る。どうだ?」 そろそろと手を取る。久しぶりにワクワクする夢を見たもんだと自分に言い聞かせる。何かが始まった気がした。言葉の代わりにしっかりと頷く。 「ありがとう十人目。我々はお前を歓迎しよう。」 白兎は下手に微笑んだ。

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ウサギノノアナ#2

ウサギノノアナ#1

『ある日アリスはお姉さんと森に出かけました。ふと、髪のきれいな―後にアリスは白いウサギのようだったと言います―1人の少女が森の奥へと進むのが見えました。気になったアリスはお姉さんの目を盗んで少女の後をついていきました。段々と草木が絡みついて来るような景色に怖くなった頃、開けた場所に出ました。アリスの目の前にはさっきの少女ととっても大きな穴。髪のきれいな少女は取り憑かれたようにその穴の中に入って行きました。気になったアリスは―』 「…知ってる。それウサギノノアナでしょ?結局落ちたアリスは姉の通報で一命を取り留めて、そのあと穴の中から身元不明の中高生くらいの死体が発見されたって話。創作でしか聞いたことないけど。」 休日の昼下がり、突然森近くの駄菓子屋に呼び出され最近よく聞く怪談、『ウサギノノアナ』を話してくる親友、花蓮に不安と疑問の意思を込めてそう返す。とうの花蓮は何故かご満悦の様子で満面の笑みで口を開いた。 「そう!やっぱりなっちゃんも知ってたんだね、ウサギノノアナ。最後は穴ごと消えちゃうんだよね〜。」 「そりゃあ有名だからね。その話とここに来た理由ってなんか関係があるの?まさか、ウサギノノアナを探すぞ―!って話じゃないよね?」 「そのまさか!って言いたいとこだけど、ちょっと違うんだなぁ〜」 チッチッチと指を振る。 「あるんだよ、もう。昨日見つけたんだ。」 「はぁ?」 「今日ここに呼び出したのは、ウサギノノアナを見に行こう!ってことなのだ!」 胸を張る彼女を前に私は寒気を感じていた。何かとても悪いことが起こる気がした。花蓮について森に入った瞬間、私の記憶が止まった。

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ウサギノノアナ#1