ウサギノノアナ#2
頭が、頭がポヤポヤとする。甘い花の匂いが脳内に充満していくようだ。ずっと昔のことははっきりと思い出せるのについ先程…だと思う、森に入ってからがどうしても思い出せない。最近に近づくほど思い出せなくなっていく。そんなあまり働かない頭の少し動きやすいところを動かしてみた。
つまり私は花蓮に連れられて森に入っただけなのだ。たしかに今草木に囲まれてるしこの頭のポヤポヤはきっと悪い植物にやられたに違いない。匂いが、こう、頭の中を支配するみたいな…。もしそうならばかなりまずいのでは?そういった結論に至ったためまだ頭はぼーっとしているが取り敢えず起き上がることにした。
ふと頭で何かが揺れた。今日は帽子も何もかぶっていなかったはずだが。恐る恐る頭に手を伸ばしその〘何か〙を取り外す。これは、リボン?いや、リボンのついたカチューシャだ。折りたたまれたような紫のリボンが黒っぽいカチューシャに斜めに接着されている。こんな物付けていなかったし、買ったことすらない。私の所有物ではないはずだ。それだけでない、服もいつの間にか似たような色になっている。構造的にはエプロンに近いのか。しかし料理で使うようなものではなく、フリルがいたるところについていてトランプの4つのマークが大きく描かれている。リボンカチューシャといい、エプロンといい、これはまるで…
「アリスみたい…。」
「そうだぞ、十人目のアリス。」
「うわあぁっ!」
思わぬ声に急いで振り返る。頭のポヤポヤも消える。背後に気配もなく佇んでいたのは結わえた白髪のきれいな美少女だった。軍服のようなものを着ていてそれに似合う威圧感を発している。が、頭についているウサギの耳のようなものがその緊張感を緩めている。歳的には高校生くらいだろうか。赤い目が私を見つめた。
「…あまりジロジロ見られると照れてしまうな。」
「えっあ、あの…すみません?」
そんなこと露とも感じていなそうな真顔を崩さないので思わず変な反応になってしまった。返事を聞くと彼女は真っ白な耳を揺らして咳払いをした。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/4/29 13:52
最終編集日時: 2025/5/29 10:07
鳥塚 齢
こっそり見させていただいています。