しろくま
41 件の小説命の問い
かみさま わたしは今日も生きています かみさま わたしは今日も生きれています かみさまはご存知ですか? わたしの世界には戦争があります 当然ご存知ですよね? だって神様の世界にもきっとあるものですから わたしは戦争を画面越しにしか知りません 書物の向こう側 人伝に聞いた話 わたしにとっての戦争は遠い世界の話でありながら とても身近に存在する現実なんです 神様はなぜこの星の生き物に争いを与えたのですか? なぜこの星の生き物は 奪い合わねば生きてゆけないのですか? どうしてわたしたちは、ただ生きて 死んでいくために産まれたのですか? わたしたちはとても残酷で愚かです とても卑怯で恥知らずです それでも神様 わたしは産まれてきたことを後悔していません もちろん後悔した日もあります 生きるのをやめようと思った日もあります 明日なんて来なければいいと願い 誰かの明日を呪ったりもしました わたしは今この瞬間も生きています 命を消費して生きながらえています でもいつかは死にます 必ず死にます 絶対に死にます なにがどうあろうと 神に祈ろうが 悪魔に願おうが 月に星に太陽に縋ろうが わたしは死にます 変えられない定めとしてそれは存在します 神様はなぜ命に終わりを作ったのですか? 神様はなぜ永遠を与えなかったのですか? 全てのものに終わりがあるのなら わたしが今ここにいる意味はなんですか? 人びとが争う理由はなんなのですか? 神様はきっと全て承知の上なのですよね? ええ、答えてくれなくてもいいんです 答えが欲しくて問いかけてるのではないのです ただ問い続けたいのです わたしが生きてる間はずっとずっと あなたに問い続けていたい たとえ正解はなくても 誰を救うことができなくても 世界の平和も 愛する人の命も いつか終わりゆく宇宙も 何一つだって解決できないままに それでもわたしは問い続けたいのです それがきっと わたしの生きることだから 神様 わたしは 今日を生きています
わたしはあなたの犬になる
「あんたってまるで犬みたい」 放課後、一人で残って掃除をしている 私に向けられた言葉だった。 「え、あの……」 「それさー、あんただけの仕事じゃないでしょ」 突然現れた彼女に詰め寄られて、私は後ずさる。 教室で一度も話したことのないクラスメイト。 いつも華やかで、友達に囲まれている 雲の上の存在からの詰問に私は言葉を詰まらせる。 「言いにくいならあたしから言ってあげよっか?」 声色に反して優しそうに聞こえる言葉に どう返せばいいのか分からなくなってしまう。 そもそも最初に言われた 【犬】から私の頭はついていけてない。 「……ぷっ。なにその顔。叱られた犬のつもり?」 彼女の笑い声が耳に届いた瞬間に 私の顔に熱が集まって、真っ赤に染まる。 見なくてもわかる。 私は昔から赤面症で、そのせいでよく周りにからかわれた。 だから彼女からもきっと同じ目に遭うと身構えたのだが、 「ねえ。犬ならさ。せめて主人は選びなよ」 彼女は私の胸の間に指を突き立てる。 こちらを覗き込むように、大きな目が近づいてくる。 彼女の体から香る匂いは、香水なのだろうか ひどく甘ったるくて咽せそうになる。 私はただ誰とも争いたくないだけなのに、 どうしてこんなことになるのだろう。 泣きそうになりながらも、私は考え続ける。 彼女の言う通り、私が犬なのだとしたら 今目の前にいる彼女は、 この教室の絶対的な支配者だ。 私は持っていたホウキから手を離す。 カツンと音を立てて倒れるホウキには目もくれず、 掃除したばかりの床に膝をつく。 「わ、わたしはあなたの犬になり、ます」 これが正解なのかも分からずに 私はただその場に適した行動を選ぶ。 犬のように媚び、 犬のように縋り、 犬のように服従する。 それはえも言われぬほどの絶大的な快感だった。 「いいよ。あたしが最後まで責任を持って飼ってあげる」 彼女の手が私の頭を撫でる。 いいこいいこと、褒めてくれる。 その時、私は初めてまともに彼女を見た。 まるで初めて自分だけのおもちゃを買ってもらった 子供のように、愛らしい表情をしていた。 ならいいか、と、私は納得する。 この子の一番大切なものになれるなら、 犬になるのも悪くない。 これからは目の前の人の言うことを、 ただ従順に聞くだけでいいのだ。 そうすればもう、誰とも競うことも争う必要もない。 一番下に降ることで、学校というカーストから解放されたのだ。 その日から私は、どこまでも強気で、勝ち気な、 恐ろしいまでに強烈な存在感を放つ瞳を宿した 小さな女王様の犬になった。
走る
ゆれる雲 光 微睡に揺蕩う 私はひとり あなたと隔てる 道 果てしなき運河 光 閃光 照射 衝撃 静寂 あとはピリオド ピリオド ピリオド ピリオド ピリオド ピリオド
神はベビードールを嗜まれる
露わになった胸元を飾る繊細なレース。 二の腕から流れる柔らかなシースルーのフリル。 丈の短い裾から伸びる二本の足は、 思わず触れてみたくなるほど艶かしく見える。 けれどそんな邪な思いは、 彼女から放たれる神格によって瞬時にかき消された。 「どうしたんだい。そんな遠くにいないでもっと近づくといいよ」 彼女の声は涼やかで、見た目よりもずっと大人びていた。 少女のような見た目から放たれる、 清廉な少年の声色に私は遠慮がちに笑う。 「いえ。畏れ多いですから」 「そう? ベッドの上は気持ちいいよ」 「でしょうね」 「ふわふわの雲の上の寝心地だよ?」 「はい」 「もしかしてボクの格好が気に入らないのかい?」 「とんでもない! 最高です!」 「うんうん。そうだろうとも! ボクはどんな時も神がかっているからね!」 「……言葉の使い方あってますかね」 「?」 「あ、いえいえ、こちらの話です」 彼女は私の言葉に、完成された慈愛の微笑みを浮かべる。 完璧な配列による整った顔立ち。 まるでハープの音が聴こそうなほどにさらさらと流れる髪。 体つきは少女のそれなのに、香り立つような色気。 どこを切り取ってもパーフェクトな存在は、 大変セクシーなラグジュアリーを身に纏っていた。 世に言う、ベビードールというものである。 言葉を選ばずに言えば女性下着だ。 それもかなり肌の露出の多い……。 「ああ。その表情は知ってるよ。人間が欲情している顔だろう」 「うっ……申し訳ございません」 「謝る必要はないよ。ボクに欲情してはいけないなんて戒律は定めた覚えはないからね」 「ありがとうございます」 「むしろボクを前にして心神喪失してない時点で、君はとても凄いんだよ。存分に誇るといい」 「……はい。光栄です」 「うんうん。そんなに感謝しなくてもいいとも。ボクはとても気前のいい神っ腹だからね」 「とうとう造語が飛び出してきた」 「?」 「なんでもないです。それで、なぜあなた様はそのような下着を身につけているのですか?」 彼女の思いつきは今に始まった事ではないが、 それでも今回はかなり攻めているように見える。 「かわいいからだよ」 「……」 「聞こえなかったのかな。よし。もう一度言ってあげようか」 「その必要はありません。ちゃんと聞いておりました」 「よし。ボクの返答に満足したかい?」 「はい」 「それはなによりだね」 「なによりですね」 沈黙。 「ふわあ〜っ」 彼女は満足したのか、わざとらしくあくびの真似事をしている。 うとうとと今にも落ちそうな瞼は、まさに圧巻の演技力だ。 うーんと片腕をグイーッと伸ばす姿を見て、 私は目の前の超常の存在の思惑について考えることをやめた。 ないものを探すなんてことは暇が極まった人間がすることだ。 「ボクとしたことがうっかりしてたよ」 天上の雲を贅沢に使ったベッドに寝そべった彼女がそう言うと、 「パジャマパーティーにはお菓子にジュース、かわいいぬいぐるみがたくさん必要だったな」 どこからともなく大量のそれらが降ってきた。 そうか、これはパジャマパーティーだったのか。 だとすると小道具よりもなによりも メンバーが圧倒的に不足している。 パーティーというからには最低でも後三人は必要だ。 「その、差し出がましいとは思いますが……」 「ああ。みなまで言わなくていい。君の言いたいことはわかっているとも」 「ほっ」 「君の分のパジャマだろう?」 「違います」 「ボクの神センスで既に見繕ってあるから心配は不要だ」 「わあ。嬉しいです」 「うんうん。さあ! ボクたちの楽しいパジャマパーティーを始めるとしようか!」 彼女の明るい声に被せるように部屋の扉が音を立てて開かれる。 現れたのは私と同じ格好をした人間だった。 違うのは几帳面に整えられた七三分けと、 使用人には不釣り合いな銀細工のモノクルだろう。 もっと言えば目つきと性格の悪さが滲んでいる顔面もなのだが、 これ以上は同僚の名誉のために伏せておくとしよう。 「神様、そろそろ下々の祈りが届くお時間です」 「なんだ。もうそんな時間か」 「あ、申し訳ございませんがそれ以上は近づかないでくださいませ。わたくし、あなた様の神格に当てられて無様に失神するのは一度で十分でございます」 「おい。無礼だぞ」 同僚の慇懃無礼な発言に肝を冷やす。 慌ててその頭を押さえつけて、無理やり下に向けさせる。 だが彼女は鷹揚に笑うだけで咎める雰囲気は微塵もない。 「構わないよ。彼をそう作ったのはボクなのだから」 「……それは、そうですが」 「でも君は違う。君は、ボクがそうあれと決めた定めから外れているからね」 少し目を離した隙に、彼女は彼に変わり、 その肉体は成人男性のそれに変わっていた。 当然ベビードールではなく、 神々しい光沢を放つ布地でその身を包んでいる。 「もうしわけ──」 「謝ったらしばらくボクのそばに侍ることを禁ずるよ」 「ないこともなくもなくはないです」 何を言ってるんだ私は……。 でも彼の側に入れないのは、 光の届かない地下に閉じ込められることと同義だ。 「うん。それでいい」 「ありがとうございます」 「パジャマパーティーの続きはまたの機会にしよう」 「え、はい」 麗しい微笑みひとつ残して、彼は去っていく。 残された私は、遠くに消えていく 均整の取れた肉体を未練がましく見つめ続けた。 「正直……あの姿でベビードールも悪くないんだよな」 ここは神の楽園。 私たちは神の副産物。 そんな理の中で、私は分不相応にも みんなの神様を愛しているのだった。 終わり
帰り道、私は竜になる
残業上がりの帰り道。 濡れた目に街灯は眩しくて 放射線状に伸びた光が、私を突き刺した。 それはまるで火花のように散って 美しかった。 私は巨大なドラゴンになる。 その口から吐き出される炎が無慈悲に 街を、人を焼き尽くす。 なす術もなく逃げ惑う人々。 小さな生き物の悲鳴。悲哀。 全ては灰になり。 私は焼け落ちた街に尾を下ろす。 こんなことがしたかったんじゃない。 でもこうするしかなかった。 だって私はドラゴンだから……。 運良く生き残った人間が叫ぶ。 「早く俺も燃やしてくれ!」 私は息を吸って、 一息で彼を燃やした。 あとは静寂だけ。 私はやっと心を落ち着けることができる。 これでよかったんだ。 温かな地面に寝そべる。 小さな生き物が死に絶えた 燃え盛る街の真ん中で、ドラゴンは眠る。 ほんの少しの罪の意識と、 それを上回る安堵の気持ちを抱いて 安らかに眠るドラゴンは 幸せそうな寝顔で眠り続けた。 …… 夜の街の中。 私の頭の中を知らない人々は、 呑気な顔で光る画面を見ていた。 よかったね。 私がドラゴンじゃなくてさ。 冷えた空気にかじかむ手を握りしめて、 私は一人、街灯に照らされた夜道を歩く。 誰かに助けて欲しいような。 このまま浸っていたいような。 全部壊して終わらせたいような。 全て飲み込んでやり過ごしたいような。 そんな、どうしようもない夜だった。
ないものねだりは楽しいね
もし私が男に生まれていたら、きっとダメ男になっていた。 できる女の人の懐にうまいこと潜り込んで、 「あなたって私がいないとダメね」 なんて言われながら、身の回りの世話をしてもらいたい。 私はフラフラ働きもせずに自由気ままに過ごす。 優しくも誠実な彼女のお小言をへらへら聞き流しつつ、 たまにふらっとケーキなんか買ったりして、 二人の思い出話しを深夜に語って聞かせたりもする。 私のご機嫌取りに満更でもなさそうな彼女を見て、 安心して次の日もふらふらと自由に出歩く。 そしてある日帰ると彼女はいなくなっている。 書き置き一枚残して、 さよならも告げずに、 私の目の前から消えてしまう。 …… 悲しすぎる。 一度拾ったなら最後まで面倒を見て欲しい。 あーあ。 私の何が悪かったんだ、と酒を煽ってクダを巻く。 彼女の生温い愛に、死ぬまで浸かっていたかった。 産湯のようなそれにずっと抱かれていたかった。 そんな私を愛したくせに、 最後には捨てていった僕のママ。 恨みたくても、君が好きだから憎みきれないよ。 あゝ 私、男に生まれたらきっとダメ男だけど それもなんだか悪くなかったなって思っちゃうわ。 だって妄想なのに、ひどく甘ったるく感じて メロドラマティックで官能的だもの。 女の私でもこんな妄想をできなくはないけれど、なにかが違う。 やはり…… 女の私には女の私の 男の私には男の私の 理想の身勝手な願望があるものなのでせう。
優しい記憶
太陽の光をたっぷり浴びた犬に覆い被さる。 その被毛は柔らかく、すべすべとなめらかな肌触りをしていた。 すうーっと深く息を吸う。 犬の香ばしい匂いと一緒に、太陽の香りがした。 温かい犬の体を抱きしめると、 私の中にあった悲しみや苦しみが解けていくように感じた。 確かな命の感触を味わいながら、私は目を閉じて終わりを思う。 この柔らかな体が冷えて固まり、 もう二度と熱を取り戻さない瞬間を思う。 突如、胸を締め付ける悲しみ。 心が冷えていく感覚とともに、今腕の中にある命の重みが増す。 私はきっとこの瞬間を忘れない。 犬がそこにいたこと。 私の心を温めてくれたこと。 惜しみない愛情を与えてくれたこと。 限りある命の中で、私に巡り合ってくれた。 その感謝を胸に抱いて、私は君のために生きる。 「あったかいねえ」 ふたりして太陽の光を浴びながら寝転ぶ午後。 目を閉じて、呼吸をする。 人間と犬という括りから外れて、 ふたつの命が光の下で、幸せにまどろんでいた。
罪の独白
怖いです 言葉を吐くことが 怖いです 吐いた言葉の行く末が 怖いです きっと誰かの嘲笑に繋がってるから 怖い でも吐かずにはいられません 吐き出さずにいては溺れてしまいます 周りの人への影響も考えず 吐いた言葉に対する 無関心も 哀れみも 同情心も なにもかもが 怖い 逃げ出したくなります 消し去りたくなります 後悔します 懺悔します それでも私は 己が内に湧いた言葉を吐き出します 吐いて 吐いて 吐いて 吐ききって それでも何か残るものがあるのか知りたいのです きっと 本当に怖いのは 私自身 たとえ誰にどう思われようとも 自分を貫いてしまう その傲慢さが恐ろしい 今日も私は文字を吐く 言葉を吐く 誰になにを言われ なんと思われようとも あゝ 私はなんて罪深いのでしょうか
2025/11/29
恋愛というものは摩訶不思議なものである。 父と母の関係もだが、 周りから聞こえてくる恋愛話も概ね奇々怪々。 なぜこんなことになるのだろうかと、 当事者ではない部外者ヅラで首を捻る。 そもそも惚れた腫れたというものは、 神話の世界からして取扱注意の特級呪物。 神様でさえ扱い切れないものを、 ただの人間如きがどうこうしようというのが そもそも間違いなのかも知れませぬ。 これでも私は恋バナというものが好きな性質なのです。 人の惚気話が三度の飯よりも好きなのです。 (まあ知人も友達もいないので 残念ながらあまり機会に恵まれませんが) あの恋に目眩しでもされてるような特有の顔つき。 起きてるのに夢でも見てるかのような声色。 まともに聞いてると何度もツッコミをいれそうになる 倫理観のバグってる恋人。 そんな恋のお話が、好きなのです。 (バカにしてるのかって?とんでもない。 恋は盲目。恋は熱病。皆様ご存知でしょう?) 閑話休題。 私自身の恋愛遍歴は、人に語って聞かせるほどでもない。 幼稚で、浅はかで、猪突猛進しか知らない 恋愛偏差値最底辺の仕上がりだ。 うまくいった経験もなく。 頭の中にあるのは人伝の恋愛話と、 ゲームや小説漫画の知識だけ。 そんな私でも理解していることがある。 相手に愛のあるうちは 相手の悪いところもご愛嬌なのだ。 そんな状態の人間に、 そんな人やめときなよとか、 早く別れなよ、なんて言葉はむしろスパイス。 私しか彼を理解してあげれない! 俺しかあの子を守れないんだ! と、ストーリーの火種になるのがオチである。 大切なことを教えよう。 恋愛は、悲劇も喜劇である。 どんな結末も、死、以外は全て美味しいのだ。 (時には死ですら美味しく召し上がれたりもする) もちろん。 友達がお金を騙し取られそうだとか、 海外に売り飛ばされそうなら 全力で止めるべきだとは思う。 たとえ恨まれようが、縁を切られようが 一生後悔するよりはマシだろう。 でもそれ以外の、惚気混じりの愚痴程度なら 「いいじゃん」 ぐらいがちょうどいいのである。 あんがい肯定された方が、ふとした拍子に 「いや、よくないじゃん」 となるかもしれない。 人類が永遠にしゃぶり尽くす恋愛という壮大なテーマは これから先もみんなに愛されることだろう。 …… なんでこんな話をしているのかを見失うところだった。 母はよく父の悪口を言う。 働いてない父は、当然家事もしない。 日がな一日犬と一緒に昼寝をしたり、 起きてる時はPCかテレビの前にいる。 母の出す食事に文句を付け、 母の掃除に不満を漏らし、 冷蔵庫を開けてはあれがないこれがない。 ……なんで離婚しないんだ??? まあ、実家に住み着いてる私に言われたくはないと思うが、 シンプルに疑問だったので母に聞いてみた。 「あの人にそんな話を持ち出した瞬間なにが起こるか分かったもんじゃない。そもそもあの人一人でこの先やっていける気もしない。別れても離れてくれないだろうし、なんだかんだ情もあるの。離婚なんて簡単な話じゃないのよ」 だそうだ。 うーん。愛とは呪い。 父は六壁坂の妖怪のようなもので、 無事母に取り憑くことに成功したのだろう。 その血が流れる私もぜひその功績にあやかりたいが、 今のところ取り憑くあてはない。 あとこれはある程度の人間に共通することなのか、 母がいくら今日は寒いと言って聞かせても 父は厚着をしないらしい。 そのくせ外に出ては「寒い寒い」と言うそうだ。 自分が下に見てる相手の意見は なにがあろうと聞き入れないその姿勢。 見習いたくはないが、感心はする。 そんな母に私が言えることは 「おかんの言うとこを聞く、おとんの上司がいればいいのにね」 以上である。 母の言うことを聞くおとんは今更用意できないが、 なんとかおとんにいうことを聞かせられる 地位の高い男性は用意できないものだろうか。 あっはっはっ。 まあなんと言えばいいのか 散々父にはいじめられてきたが、 この歳にもなるとあはれとしか思えないな。 おいたわしやお父様……およよ。 大嫌いな父親の金で生かされてきましたが、 今後は立場も変わり 大嫌いな娘の金で生かしてあげましょうね。 閑話休題 恋愛とはまっこと奇妙奇天烈。 男女の仲だけではなく、 あらゆる愛と結びつく感情はどれも複雑怪奇なり。 だからこそ面白い。 だからこそ愛される。 私の今までの悲劇も生きていれば喜劇に変わる。 愛とは呪い。 愛とは赦し。 愛とは万物に流れる血そのもの。 何かの間違いが起きない限り 今後も渦中の外側で楽しませてもらうとしよう。
救いのジレンマ
誰かを救いたいと思う時 自分の無力さを知る 相手のためにと吐いた言葉は どれもありきたりで どこかで聞いたことのあるようなものばかり 今目の前にいる人にとっては そんな無味無臭の言葉なんて なんの救いにもなりはしない でも それでも救いたかった 救われて欲しかった 勝手に相手の気持ちを想像して 勝手に相手の求めることを捏造して 励ましたかった 勇気づけたかった みんなも同じ なんてどうでもいい あなたの苦しみを軽くしたかった 泣いてもいい 泣いてもいいよ あなたを泣かせる世界をなくしたいよ 頑張ってるよ 頑張りすぎないでいいよ あなたをすり減らす世界なんて消えていいよ あなたの笑顔を見ても あなたのありがとうを聞いても 安心できなくてごめんね 信じられなくてごめんね だってこの言葉を吐いてる私自身が 自分の言葉を信じ切れてないんだよ それでもあなたを救いたいんだよ だからお願い 私に手を伸ばして 必死に掴むから あなたの望む答えが見つかるまで ずっとずっと考え続けるから だからお願いします あなたも私を この苦しみから 救ってください いつか 二人一緒に救われたその日には こんな日もあったねって 笑い合えるといいね その日まで私は 何度でも 自分の無力さを嘆きながら それでも 目の前の人の手を離さないでいると 誓います