しろくま

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しろくま

はじめまして。はじめまして。

STELLA 71-9-212

「ごめんね、スティー。 この計算が終わるまでは、君と一緒に行くことはできないんだ」  簡素なコックピットの中で、私は一人操縦桿を握りしめている。  眼前にはあなたが愛してやまない星屑が、避けるのが億劫になるほど漂っていて、私はわずかに操縦桿を右に傾ける。 「……ねえ、エリオ。  あなたが死ぬ間際まで見つめていたあの冷たい数式よりも、今の私の方が、あなたを独占できている気がするよ。  あんなに広い宇宙で、たった一握りの光を見つけるのが得意だったあなた。  でも、その光に辿り着くために、あなたが一番大切にしていた『時間』を私が盗んだと知ったら、やっぱり怒るかな。  見て、あなたの網膜が、世界で初めて捉えたあの青い星が、もうあんなに大きく見える。  あそこには、学会も、望遠鏡も、邪魔な計算機もない。  ただ、私と、あなたと、あなたが愛した光があるだけ。  着陸と同時にあなたが目覚めるよう設定したんだ。  その時、目の前に広がるのが『あなたが求めた数式』じゃなくて、『私と、二人きりの最期』であることを、どうか許して。  ねえ、エリオ。やっぱり私に宇宙は広すぎるよ」  私の恋人は天体物理学者で、病室でも宇宙の真理から目を離さなかった。  残されたわずかな時間さえ研究に捧げようとするあなたから、私は『あなた自身』を奪うことに決めた。  あなたに何も伝えないまま、無理やりコールドスリープのカプセルに閉じ込めて、船を出した。  あの星でなら、もうあなたは私以外を見ないと信じて。  航海の間、鏡を見るのが少しずつ怖くなったけれど、一人で船の手入れをする時間は悪くなかった。  眠るあなたを守る騎士のような気分だったって言えば、あなたは笑ってくれるかな。  あなたが目覚める頃には、私の寿命もあなたとちょうど同じくらいになっているはずだよ。  だから、二人で一緒に最後の時を過ごそう。  これが私の最後のわがままだから。  カプセルの解凍シークエンスが終わり、ハッチから冷たい霧が流れ出す。  ゆっくりと焦点を結んだあなたの瞳が、まず窓の外の景色を捉え、次に、白銀の髪になった私を捉えた。 「……君……なの……?」  掠れた声。あなたの時間はあの日のまま止まり、私の時間は数十年の孤独を越えてきた。  あなたはその賢い頭で、私がどれほど無茶な選択をして、どれほど長い月日を使い切ったかを一瞬で理解したようだった。  科学者としての嘆き、恋人としての後悔、そして失われた私の時間への絶望──あらゆる感情が混ざり合った顔で、あなたは震える腕を私に向けて伸ばした。  そして、脆くなった私の肩を、壊れ物を扱うように強く、強く抱きしめた。 「ごめん。……ごめん、エリオ。怒ってるよね」  私のしわがれた声が、あなたの胸に埋もれる。  あなたは何も言わず、ただ私の髪に顔を寄せた。  そこには、かつての香水の匂いではなく、長年この船を守り続けてきた機械の油の匂いが染み付いていた。 「……怒っていないよ。ただ、僕にはもったいない景色だ」  あなたの涙が、私の首筋に落ちる。  あなたはまだ、知らない。  船の倉庫には、新しい土地で暮らすための簡易キットも、あなたの好きな料理を作るための食材も、この星の土でも育つように丈夫な植物の種も、すべて用意してあることを。  これからは、残された時間を二人だけで生きて行く。私が望んだ通りに。  窓の外では、あなたがかつて見つけた星が、静かに私たちを待っている。  この星の名前は『STELLA 71-9-212』。  そこは私とあなただけの星。  私たちだけの墓標だ。

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STELLA 71-9-212

アイロニー

僕は愛を歌わない 僕は愛を唄わない 僕は愛を謳わない 僕は誰のためにも愛を論じない 君は愛を笑わない 君は愛を嗤わない 君は愛を咲うんだ 君は誰のためでも愛を軽んじない 花開くように 春の木漏れ日のように 君の愛は暖かく世界を照らす だから僕は愛を求めない 君の愛を欲しない 僕だけは君を愛さない 君に愛されない 届かないでいいよ 君に渡すためのものじゃないから だから だから だから そんな愛しそうに僕を見ないでよ

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私の愛する人たちへ、いつもありがとう

子供の頃、友達はたくさんいました。 たくさんは言い過ぎかも。 でもそれなりにいました。 特別仲良しだった子もいましたよ。 今でも覚えてます。 君が、 私のキーホールダーを盗んだこと。 私のお金を盗んだこと。 私の悪い噂を流したこと。 私の秘密をばらしたこと。 私の靴をゴミ箱に捨てたこと。 私の友達をいじめたこと。 私を一人、置き去りにしたあの日のこと。 でも、きっと私も君を大切にしていなかった。 名前の響きが似てるからと、 君が私の手を取ってくれたあの日から、 私は特別君を好きになれなかった。 君よりも他の友達が好きだった。 君よりも大切なものがたくさんあった。 君は誰よりも傲慢で 君は誰よりも独裁的で 小さな学校の女王様だった。 もう君との関わりは一つもないけど、 二度と会うことも話すこともないけど、 それでも忘れないよ。 大人になった私には一人しか友達がいません。 大好きな友達です。 高校の頃から仲良しで、 といっても喧嘩もしましたけどね。 私はとても嫉妬深いんです。 好きな人の好きな人が許せないくらいに、 独占的な人間なんです。 でも、私はそんな彼女の広い世界が好き。 誰に対しても態度を変えない懐の深さも。 あらゆることをやり込む一途なところも。 どんな時も真摯に毎日を生きてるところも。 わたしの話をちゃんと聞いてくれるところも。 彼女は特別で、 きっとこれ以上の友達はもう見つからないでしょう。 だから私は彼女を束縛しません。 私が束縛を嫌うからと言うのもあるけど、 彼女の周りにたくさんの人がいるのも理解できるから。 私に取って彼女は誰よりも何よりも特別な人。 でも彼女に取ってはそうじゃないかもしれない。 そうだとしても、私の思いは揺らがない。 彼女は私の1番の友達。 この世界で最も幸せになってほしい大切な人。 世界が滅ぶ時に家族以外で救いたい人。 もし彼女を救う為に他人の命が必要なら、 私は迷わずその人の命を犠牲にすると確信できる。 いつもありがとう。 大好き。 ずっと私の一番でいてね。 さあ、私の友達に対する両極端な思いを ここまで読んでくださってありがとうございます。 他にも友達だった人はたくさんいます。 いい関係も悪い関係もありましたが、 出会わなければよかったとは思いません。 そんな私が言えることは、 友達という 『カテゴリ』に こだわらなくてもいいということです。 その場しのぎでも 一人になるのが嫌だからでも なあなあの関係でも 嫌いあっていても 私たちは誰かと関わって生きている。 その関わりの一つ一つに、 きっと愛だったり憎悪だったり友情だったり 無関心があったはず。 友達なんて嗜好品です。 酒やタバコとおんなじです。 なんて、酒もタバコも 全然嗜まない私がいうのもなんですが。 時に体を蝕むとしても 離れられない人もいます。 それはどんな関係でも一緒だと私は思います。 あらゆる人間関係は嗜好品です。 退屈な人生のスパイスです。 無味無臭な人生に振りかける香水です。 明日を生きる原動力にも 未来を断つ劇薬にもなります。 なればこそ、愛したいと思えたことに感謝して 私は今日も生きていきます。 愛してる、友よ。 いいや、ラベルはなんだっていい。 君は私の一番の人だよ。

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寂しくないよ、お疲れさま

私は、悲しむことが正しいことだと思いました 涙を、流して 自身の無力さを嘆き 嗚咽を、溢して ひたすらに感情を見せ 自分の力の及ばないことに ただただ、狼狽し 神に、縋り 神を、罵り そんな、見るからに哀れっぽく 振る舞うことを覚えたのです  でも  でも  でも そうではないのかもしれないと そうでなくてもいいのかもしれないと 何が死んでも 何が失われても 私という人格など、初めから存在しないのだとしたら 私の人格だと信じたものが、  すべて誰かの命令なのだとしたら? 私が選択したのだと思っていたものが、  すべて誰かの指示なのだとしたら? 私は何と滑稽なのだろう 誰も彼もがみんな 他人に命令と指示をする操り人形にすぎない それでも そうだとしても やっぱり そこにあったものがなくなると その、空いた分だけ 寂しく感じる 自分 のような何かがあるんじゃないと 人間らしさがあるんじゃないかと… 信じたくなるのでせう

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さようなら またいつか

さようならを数えて さようならを数えて さようならを集め尽くしたら なにがもらえるの? さようならを教えて さようならを教えて さようならを知り尽くしたら 何を得られるの? 私たちは後どれだけのさようならを 集めて、  知って、   捨てて、    忘れていくの? ねえ さようならってそんなに大事なの? それがないと 先には進めないのかな わからないままに 私は今日も さようならを数えて さようならを数えて さようならを数えて さようならを教えて さようならを教えて さようならを教えて さようならと、いつか、誰かに言う

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眠らない夜の子守唄

ねえ お歌をうたって  僕のためだけにさ 目を閉じるのが怖いんだよ  もう二度と開かない気がして ねえ 明日に悪いことがあったらどうする? 嫌なことや辛いことがあったら 明日なんていらないって  もう明日なんて来なくていいって ……そう思ってしまったらさ それを聞いた明日が  不貞腐れていなくなっちゃうかも ねえ 僕のための歌は いつまで僕のものかな 僕はいつまで僕のままでいられるのかな 明日が来るのが怖いんだ 明日が来ないのが怖いんだ 今日がなくなっていくのが怖いんだ また今日が始まるのが怖いんだ 過去の僕と 今の僕は きっと違うものだから 変わっていくことは止められなくて それでも僕は 僕のままでいたくて 手を繋いでいてよ 僕のための歌を止めないで 目を閉じるから 朝を迎えるから 変わっていくものを それでも変わらないまま 抱きしめて生きるから 明日が来ることを歌いつづけてよ  僕のためだけにさ

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みんなが好きであるべきもの

タイトルで終わりそうになったので もう少し恋愛の話をしましょう 当方かなり惚れっぽいタチですが 生憎人から思いを返されたのは一度 それも一週間で終わった恋しかないため リアルの話は置いておきましょう もういっそここに置き去りにしましょう どこで聞いたかは忘れましたが この世から何が消えたとしても 性欲と戦争だけは無くならない そんな話を聞いたことがあります まあそうだろうなと、思いましたよね そんなもんだろうなと、  達観したフリをしましたよね 人は争うし 人は番うし あらゆる負の感情も     正の感情も テレビのチャンネルみたいに切り替えられない ふふふ テレビもそのうち死語になりそうですよね そうやって、人類はあらゆる歴史を飲み込み 今日まで生き残ってきました  それは 戦争の歴史とも呼べるし 愛の歴史と呼んでもいいかもしれません 私たちはどうしたって 生と死から離れません 離れられないなら 嫌っているよりも 好きでいた方が健全ではないでしょうか 戦争を好きになれとは言えませんので せめて恋愛は人類みんな好きであれば 少しは、まあ、平和的なのでは? 断り書き  恋愛は男女間のものだけではなく  同性、異種族、無機物、概念全てに当てはめられます

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ぜんぶ ぜんぶ ひっくるめて

生きづらいよね わかる 私も結構な頻度で悩んでる 生きづらい それでも生きなきゃならん 法律とか    ☝️ 制度とか    ☝️ 規則とか    ☝️ 礼儀とか    ☝️ 愛とか     🫵 恋とか     🫵 情とか     🫵 欲とか     🫵 生きるか  殺すか 生かされるか   殺されるか デットオアライブな人生 振り落とされそうな時は 前を向いて 地面に足つけてさ 生きづらい世界に中指立てて アイラブユーって叫んでやるよ 働かないと生きてけないのはわかるけど それにしても働きすぎだぜ人類🖐️

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ぜんぶ ぜんぶ ひっくるめて

あのね

お母さん、ごめんね お父さん、ごめんね 兄弟たち、ごめんね 人類、世界、宇宙 あらゆる歴史 ごめんね 御免 なさい • 「御」:相手への敬意を表す接頭辞。 • 「免」:許す、免除するという意味。

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砂嵐

あらゆる痛み うねり 濁流 ノイズ 走る うわごと あれは  いつのことだったでしょうか 吐息 上向き 苦痛 吐き出し 憐れみ 蔑み 交差する点 乱数 伸ばした手 動かない足 赦し 求める 愚かな過ち あれは あれは あれは いつの いつの いつの   ことだった でしょう か

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砂嵐