しろくま
78 件の小説生きたい
死にたいと、思う時はだいたい体に不調がある。 気温だったり、空腹だったり、体の凝りだったり、生理前だったり、体調だったり、疲労だったり、不眠だったり、エトセトラだ。 だから私は死にたくなると 上着を羽織る。 ご飯を食べる。 ストレッチをする。 サプリメントを飲む。 湯船に浸かる。 読書をする。 スマホを置いて、早めに眠る。 それでも死にたい時はどうしようもない。 でも大概そこまで死にたい時はない。 仕事に追われミスをしたり。 人間関係がうまくいかなくて荒れたり。 お金の心配で夜も眠れなかったり。 明日はちゃんと来るのかと心配したり。 本を読んで、 YouTubeを見て、 解決策を知っても 私は堂々巡りをする。 きっとあと何十年経っても同じことを繰り返す。 でもそれが理由で死にたいと思ったことはない。 私にとっての死にたいはきっと このままじゃ死んでしまうよのサインなのだ。 手を打たなければ死んでしまうから なんとかしてくれという脳からの指令なのだ。 だから私は今日も、自分を守る。 死にたくなる私を死なせないために 生きている。
エンドロール後の僕と犬
ここには僕と犬がいる。 まずはそれを思い浮かべて欲しい。 犬は、なんでもいい。 どんな犬でもいい。 とにかく、君が思う犬がいる。 それと、僕だ。 僕については少し説明させてもらう。 僕はりんごの木のほんの半分程度の背丈をしている。 想像できないなら適当な木を思い浮かべて、 その半分程度を僕だと思ってくれ。 高かったり低かったりしてもいい。 とにかく半分だ。 りんご半分じゃないよ。 りんごの木半分。もしくはクスノキの半分でもいい。 そして、僕は男だ。 僕っ子だと思っていた人は、今すぐ赤ペンを引いてくれ。 僕は、男だ。 そして、僕と犬の前には黒い壁がある。 四角い壁だ。 壁というより板で。 板というよりはスクリーンと表現した方がいいかもしれない。 それを僕と犬はただ見ている。 こいつら暇なのかな。 そう思われても仕方がない。 だが僕たちは、とある冒険を終えてここにいる。 こことはどこなのかと言われると、少し難しいけれど 簡単に、小高い丘だと思ってくれていい。 青い空の下、りんごの木が一本生えた、小高い丘だ。 そこに僕と犬と、目の前に黒いスクリーンがある。 想像できたなら何よりだ。 想像できなくても気に病まなくてもいい。 僕と犬だけでも思い浮かべて、そう、それでいい。 スクリーンにはたくさんの文字のようなものが並んでいる。 文字は小さいし、 流れる速度もほどほどに早くて目で追うのは難しい。 知ってる単語のような気もするし、 全く知らない単語のような気もする。 超常現象のような気もするし、 予定調和な気もする。 僕と犬は、とりあえず落ち着いてそれを見ていた。 それにしても大変な冒険だったと振り返る。 いろんなことがあった。そしてそれが終わった今 僕はチャイナ服を脱いでいるし、 犬も四足歩行に戻っている。 とにかく、ハチャメチャだった。 楽しくなかったわけじゃないけど、どっと疲れた。 僕と犬は並んで座り込む。 それから長いような短いような時間 スクリーンを黙って見ていた。 よくわからない文字を眺めて、思いを馳せていた。 この時間のためにここにいるのだと、なぜか思った。 この時間のために僕たちはあるのだと、僕と犬は思った。 犬がどう思ったかは本当のところは知らないけど、 きっと心は繋がっているはずだから、大丈夫だ。 もうすぐ終わるな。 直感的にそう思った。 僕と犬は何も言わず、ただ噛み締めていた。 君には僕たちはどう見えた? 僕には君が、眩しく見えたよ。 E N D この映画を愛してくれた全ての人に感謝します
ご都合主義
この世は大概、都合が悪い 個人の都合 他人の都合 社会の都合 国の都合 世界の都合 それら全ての都合がいいなんてことは、ない だから文章でくらい笑っていよう そのうち現実でも笑えてくる いつか奇跡でも起きて 全ての都合がついたその時は、 今とは全く違う話を書こう 都合の悪い、話でも書こう
絶滅危惧種の孫を憂う
きっとおばあちゃんは、私に絶滅してほしくないのだ。 「あんた、いい人いないの」 休日の午後、人で溢れた喫茶店の一席で、おばあちゃんは堂々とコンプライアンスに違反していた。 おばあちゃんの会話デッキは長いこと更新されていない。最新パックが売り出されなくなって久しくの、廃れたカードゲームをいまだに続けている古参プレイヤーさながらに、おばあちゃんは手札を場に出す。 「老後、一人でどうするの」 おばあちゃんはおじいちゃんがいて心強かったのだろうか。私の中には、いつもお酒を飲んで、赤ら顔で歴史ドラマを見ているおじいちゃんの記憶しかなかった。 私のお母さんの夫(つまり、認めにくいが私の父親)は、仕事もしないで日がな一日海外ドラマをみては「飯はまだか」と鳴いている。 一人でいいんじゃないだろうか。 だって、こんな夫が何人いても、私が倒れたところで救急車も呼べなさそうだ。それはさすがに、低く見積りすぎか? でも、私の父親は妹(つまり父親自身の娘)が、足を火傷して私たちが騒然としている間もパソコンゲームで遊び、「うるせーぞ」と言っていた。息の根を止めてやろうか、と、思ったこともあるが、それは向こうも同じだったらしく、いつかの喧嘩ではこちらの首を絞めてきた。嫌なところで似ている。 ……老後に、いるか? 「ばあちゃんの知り合いに、まだ結婚してない人おるで、紹介しようか」 またもや使い古したカードが出てきた。 そう言って過去に紹介された男性は、実家暮らし、40代の、控えめに言ってもおじさんだった。私は当時20代で、身売りされるのかと戦々恐々とした。会わずにお断りした。あの時点でそこまで私の未来は暗雲立ち込めていたのだろうか。まだまだ未来ある若者だったのに。30代の今なら、まだ受け入れようがあるが、相手の狙いはどうみても家政婦と介護士の兼業だ。月給30万もらっても割に合わない。そこに、うっ、想像したくないので割愛する。 「結婚しないなら、手に職つけなね。あんたの趣味はどれも金にならん」 読書や手芸は金にならんと言われれば、まあ、ならないが、全ての趣味が実用的かと言われると首を傾げる。妹がたまたまイラストで副業をしているから余計におばあちゃんは趣味というものに多大な期待を寄せてしまうのかもしれない。……おばあちゃんだって金にならない詩吟を趣味にしているくせに、まったく、やれやれだ。 「でもまあ、あんたは偉いよ。ちゃんと正社員で働いて、貯金もして、ばあちゃんの自慢だよ」 どうやらターンが一周したようだ。 おばあちゃんは少し萎んだ瞳で、私をまっすぐ見つめていた。 私は、笑い返す。 おばあちゃんに悪意はない。あるとしても、それはとても無邪気なもので、無害とは言い難いが、害悪とは呼べなかった。 おばあちゃんの時代は、結婚しなければ生きれなったのだ。生きてはいけなかったのだ。夫を立てて、家を支える以外の選択肢がなかったのだ。そして、そのおかげでおばあちゃんはたくさんの子供と孫に囲まれて、幸せに生きているのだ。(他の従兄弟はみんな遠方に住んでいて、いうほど囲まれてないけれど。なんならおばあちゃんの娘たちはおばあちゃんに免許を返納させて足を奪ったのに、自分たちの生活に精一杯でおばあちゃんを蔑ろにしている。あんなにアクティブな人だったのに、今じゃ出かけるのも一苦労の様子だ。一時期その皺寄せが私にきそうになったが断固拒否した。私も私の人生に精一杯なのだ) ここまで散々なことを言ってきたが、この世で最も私という種の存続を危ぶむ人は、おばあちゃんしかいない。 自然保護区の管理人のように、おばあちゃんは私に存続して欲しいのだ。 少なくとも、一人寂しく生き絶えてほしくないのだ。 きっと、私が恋人を作り、結婚相手を見繕い、子供を産み、おばあちゃんに孫を抱かせてやれば安心するのだろう。安泰だと、子孫繁栄だと、納得するのだろう。 「孫はさ」 私は言う。 「犬でいいじゃん」 おばあちゃんは「犬なんて、水もよう持ってこれんやろ」と、ブツクサという。このババア、人の子供を小間使いか何かにするつもりなのか。それなら尚のこと、犬で納得すべきだ。妥協して然るべきだ。 私はなんだかおかしくなって笑う。 おばあちゃんは、孫にできて犬にできないことを考えたのだ。孫が必要な理由を捻り出したのだ。できる限り優しい理由になるように、努力した結果なのだ。歩み寄りは、あまりにへたっぴでボールを蹴り損ねた足のようにすっぽ抜けていった。 おばあちゃんは早くもデッキを使い果たし、語り尽くしたような顔でぼうっとしている。 私も人にとやかく言えるようなデッキ構成ではないので、無闇に手札を晒すわけにもいかず、無難に「そろそろ出ようか」と、喫茶店の席をたった。 次に会うのは当分先がいい。お互い話題のカードがないので、カードの効果が切れるまで会うべきではないのだ。もしくは、奇跡的に新パックが出るのを期待するしかない。 「またね、おばあちゃん」 手を振る。 おばあちゃんも手を振る。 私の大好きなおばあちゃん。 だけど、とても申し訳ないおばあちゃん。 嘘でも絶滅しないよって、言えばいいのだろうけど、いい人の一人でもいると、言ってしまってもいいのだけど、おばあちゃんにはこの地球最後の私を最後まで心配していて欲しい気もする。 やれやれやっと肩の荷が降りたなんて思わずに、死ぬその瞬間まで、あの子は大丈夫かしらなんて、思っていて欲しい。 それに、未練がある方が長生きできる気がするのだ。 終
一時間程度探しましたが、見つかりませんでした
あまりにもリアルなGの夢を見て飛び起きた。 暗闇の中で何かが飛んできているような気配に悲鳴を上げて部屋を飛び出し、親に泣きつく。 あれは夢だった。 遅れて現実感が来る。 しかし夢だったのは確かだが、Gの存在が夢幻なのかは別の話だ。幼き頃シラミが私の髪の毛に寄生していた時は、親曰く、毎晩「虫がいる」と、うなされていたという。 ならばいるのかもしれない。 しかし夢が別の不安をGとして形作ったのならいないのかもしれない。 はたまたタフティのように、夢が保管庫の中にある、あり得たかもしれない場面の一つから生成されたものなら、いたかもしれないがいないのかもしれない。 こんがらがってきた。 これがはっきりすれば対処のしようもあると言うのに。 いるならば、倒すのみだ。恐ろしいが、立ち向かえないこともない。その後に寝る。 いないと明らかなのなら、私は布団に戻って次はそんな夢ではないことを祈る。タフティにそんなことを言うと叱られるので、夢の世界をコントロールすると言うべきか。 とにかく時刻はまだ夜中の一時だ。寝直せないこともない。 というより、寝直したい。 シュレディンガーのGだ。厳密には違うかもしれないけど、世間一般には伝わるはずだ。 お化けや殺人鬼だってもちろん怖いが、それらと同じくらい虫も怖い。死に方としては前者よりも惨たらしいことになりそうでいやだ。もしかしたらこっちも負けはしないと息巻いて、誰がより凄惨に殺せるかを競い合いたくなるかもしれないが、やめてほしい。映画で見た感想になるが、どれも嫌なのは変わらなかった。悍ましさの程度も、視覚で見たレベルの差であり、実際に受ける心身的ダメージの違いなどはあるかもしれないが、知りたくない。知らないままでいたい。 こうして長々とスマホに文字を打ち込んでいる間に、夢は夢で現実ではなかったのだと思えるようになってきた。 我が愛犬が悲鳴を上げた飼い主のために、わざわざ起きて、心配してくれたのか部屋の入り口でしばらく丸まっていてくれた。 気まぐれだろうが、人間は好きに解釈できる。 なんだか心強い気持ちになって、そろそろ寝ようと私は奮起した。だけど私の頭の中には嫌な知識があってその奮起を吹き飛ばしてしまう。いつも(毎回ではないが)夜寝る前に思い出して憂鬱な気持ちになるのだ。 それは「Gは寝ている人間の口から水分補給している」という、にわかには信じ難い話だ。都市伝説と思いたいが、調べて事実だったら毎夜寝る時にマスクをつけないと寝れなくなりそうだったので、そのどこから仕入れたか分からない知識の信憑性を確かめることはできていない。 信憑性のない信頼性もない仮説だったとしても、心の安寧のためにマスクをするべきかもしれない。寝苦しいだろうし、肌も荒れるだろうが、命が削られるよりはマシのはずだ。と言うかそれが本当なら何かしらの対策グッズが世に出回っていてもいいくらいだが、それを調べることはその存在を認めるようなものでできない。しかし、スーパーや薬局で見かけたことはないので、普段からGが出ない環境作りを心がけろと言う話なのかもしれない。 私の部屋は汚部屋とまではいかないにしても、物が多い。物陰が多い。ミニマリストのようにはいかないので死角はいくつも存在する。 今物音がしなかったか? 正直飼育している動物が多くて、Gの存在がそれらに紛れてよく分からない。 確かめるべきだろう。嫌だけど。親を起こしたい。一人暮らしなら腹を括って立ち向かえるかもしれないが、頼れる存在のいる人間は弱い。 私はそれでも勇気を振り絞り、確かめるしかない。確かめて、殺すしかない。生きるか死ぬかの戦いなのだ。
ねんねんころり
ピアノの音色が好き 優しく響く 夜の雫のような音がする 目を閉じて 光を閉じて ただ音色のために心を開く 体の中を音が満たしていく感覚 それは官能的な幸福であり 言語のいらない交わりだった 私は耳を澄ます 一人きりの暗闇の中で 心地よく呼吸する 吸って 吐いて 吸って 吐いて 吸って 吐いて 吸って 吐いて 吸って 吐いて 吸って 吐いて 吸って 吐いて 吸って 吐いて 体が落ちていく 意識が落ちていく 脳が切り替わる るす転反が 界 世 音色が思考を支配する感覚に身を任せて ぽーん ぽーん ぽーん たららん、と音が転がるままに おやすみ、せかい
ミナミヌマエビ
うじゃうじゃ増えるエビが好きだ 簡単に死ぬくせに 簡単に増えるエビ 小さいプラケースの水槽の中で 大小さまざまなエビが 赤だったり茶だったり透明だったり うじゃうじゃしている 餌を落とすと エビたちはどこからか現れる どこにもいないような気がしていたのに 少し目を離すうちにうじゃうじゃしている 気持ち悪いと可愛いの境界を 私は そこに見る 彼らは死ぬ 彼らは生きる それは私の気まぐれで それは私の意識的に行われる 残酷なことなのかもしれない それでも私はエビが好きだ 私の勝手に囚われた彼らが好きだ 数匹から数十匹に増える これから全滅するかもしれない それでも絶滅しない エビが 好きだ
ごかん
しずる しずるる しずかなる つらら つららら つらくなる とろり とろろり とろくなる だけです
望み
人はいつからか、自身の望みを忘れちまった。 指先一つで流れてくるくだらない動画。 購買欲をなぞるだけのくだらない広告。 顔も知らない誰かとの、薄っぺらくてくだらない繋がり。 俺たちはそんなノイズに四六時中繋がれて、 見えない鎖でガチガチにチェーンされちまってるんだ。 だから俺は、大学時代からの腐れ縁で、 反吐が出るほど頭のいい友人に頼み込んだ。 「自分でも気づかない、 魂の奥底にある純粋な望みを抽出する装置を作ってくれ」と。 友人は薄笑いを浮かべながら、一週間でそれを作り上げた。 「いいかい、純粋な願望というのは、 時として劇薬だ。心して使うことだね」 最高だ。断る理由なんてない。 これで外部から植え付けられた偽物じゃない、 汚染されていない自分だけの願望が手に入る。 装置が起動した瞬間、脳内を真っ白な閃光が走った。 ノイズが消え、視界がクリアになる。 過去に見たどの映画よりも鮮やかで、 どんな広告よりも魅力的な 「答え」が脳に直接書き込まれた。 人類は今、この時から思い出す。 自身の望みを、本能を 解放する時が来たんだ! そして俺は、自身の望みのままに ふかふかの座り心地のいいソファに座り、 大画面に映し出される可愛らしいアバターを眺め、 おすすめされた蛍光色のドリンクを飲んでいる。 たまらなく心地いい時間だ。 全く、最高だね。
たまのご褒美
食事の待ち時間 ワクワクする時間 はやるお腹を押さえつけて 追い打ちをかけるようにメニューをめくる 想像上の美味が、舌を楽しませる ああでもこのくらいにしないと 想像を超える味なんて、そうそうないからね さあ、店員さんが運んでくれた 出来立ての料理の前で手を合わせて いただきます