しろくま
130 件の小説なんでもええんやで
私は善に弱いです 圧倒的な 善 の存在 泣けちゃう マジで 優しさに 触れると 涙が出る 針みたいに 刺さる 善 与えるものも 与えられるものも 善 余地の挟むことのない 善 善 善 なんでかなあ 特別じゃなくていいのよ ただ善がある それを憐れみといい それを施しといい それを偽りと 呼ぶものがいても それに救われちゃう私がいる 目に刺さる 善 善 善 涙腺に直撃 涙、滲んで 視界が歪む 生きててよかった と思わせてくれる 善です でもこれ 説明がむずい なので語らず 善 善 善 人の数だけの 善に感謝 圧倒的 感謝っす
無形の愛
美しい物語を読んだ そこにはあらゆる美しさがあった おおよそ考えうる最悪とはなんだろうか 私たちの忌むべき邪悪とはなんだろうか 何を持って幸せと定義すべきなのか 不幸とは必ずしも絶望とは結ばれないもので 私たちにとって多くの失敗は等しく成功でもある 無軌道に思える軌跡が 実は何よりも規則的な流線を描くように 人の目から見た善悪など 人の目から見ただけのものに過ぎないと知る 私は 今ここに 愛を見た 途方もない苦痛と過ちの中でさえ 愛は時に赦しを与えることがある 愛は無形でまるで区別のつかないものであり そこにあるべきものは 愛されたい誰かと 愛を与える誰かだけだ 何も特別じゃなくていい 手近なもので済ませたっていい それがきっと愛するということだから
生きていることは悪くない
生きてることが嫌になる 生きてることが嫌になる 生きてることが嫌になるけど 嫌いになりきれない 恋愛みたいにそのうち好きになれるかな まだ先のことみたいだ 生きてることを好きになりたい 生きてることを好きになりたい 生きてることを好きになりたいけど 好きになりきれない 恋愛みたいにそのうち飽きちゃうんだろうな 生きてることはそのうち終わる 大団円で終わることが望ましいけど 映画のラストみたいに盛り上がらなくても 打ち切り漫画の最終話みたいに完結しなくても 後味の悪い、読んだことを後悔するような そんな結末だとしても 終わりがあるって良いことだ 生きてることと同じくらい、良いことだ
ささぶね
ささぶね ひとつ ながしたら あなたのもとへながれつく ささぶね ひとつ ながしたら とおいところへながれつく ささぶね ひとつ ながしたら おいしにはばまれゆきどまり ささぶね ひとつ ながしたら うずにのまれてきえてゆく ささぶね ひとつ ながしたら あすはどこへゆくのかな ささぶね ひとつ ながしてゆく わたしはどこへゆくのかな
しあわせ
幸せってなんだろう 目に見えないものなのかな 人類みんな探してる 幸せっていう宝もの 幸せってきっと 自分以外の何かから 渡されることでしか 目に見えないものなんだね そしてどんなものよりも早く 終わってしまうんだ 幸せってずっと この手の中にあればいいのにね
輪廻の渦中
もうあの頃のように純粋じゃいられないよ 生きてる間に汚れてくたびれちまったよ 小さい頃の思い出なんて どれも霞んでセピア色 いい記憶も悪い記憶もごちゃ混ぜにして ワゴンセールのように安売りさ 心底いやんなるよね そんなもんでもまだ手放し難いなんて 帰りたいわけでもないのに やり直したいわけでもないのに そこから何を取り戻そうとしてるのやら 思い返したってそこまで純粋じゃなかったろ いや、あれこそを純粋というのかね 善も悪もなく ただ興味の赴くままに生きる あれこそが人間の上澄みだとしたら なんとも救えない話に聞こえるよ 大人になるって悪いことばかりじゃないよ そりゃ良いことばかりでもないけれど どうでもいいことの方が多いと知るんだよ 仏陀も言ってるよ 怒りを捨てよ、執着を捨てよってさ 一千人の命を斬り捨てても頑張れば報われるって 本当なのかね 今まで悪だったけど 悔い改めてからは殺生してません そりゃ更正はしたんだろうけど 殺された人は輪廻するからOKってか? 怒りも執着もなくして 欲望を脱ぎ捨てて 一切の我欲から解放された先が解脱なら そりゃ凡人には無理だ そもそも仏陀の これは売っちゃダメ!リストを 守れる現代人いないだろ そんなやつはそりゃ聖人だよ 解脱おめでとう この世は地獄だよ 知ってるよ でも地獄だって住めば都だよ どんな境遇もお気持ち一つで変えられるだろう? 目の前の現実は変えられなくてもさ 目の前の空想は自由だろう? この世は全て色即是空だってんなら 全てのものに意味を与えるのは自分だろう? 仏陀のように生きられないよ あんたの弟子にもなれないよ 悲しみに沈んでんだよ 怒りに燃えたぎってんだよ 世界に復讐するみたいに生きてんだよ 最高だよ 楽しいよ このベルトコンベアから降りられないなら 飽きるまでループさせられるんなら そりゃそのうち解脱したくなるんだろうさ だからそれまで俺は地獄の亡者だ 汚れてくたびれて、そうやって生きてくんだよ いつか死ぬために、今を生きてんだよ
ラットが死んだ
ラットが死んだ。 それを悲しむ人間はいるのか? ラットが死んだという事実を、俺は結果的には隠蔽した。無かったことにした。ラットは別のものと差し替えた。見た目上は何も変わってないように見えた。 そいつは髭を揺らして、ガラスケースの中を歩き回っていた。かつてのラットとなんら変わらない。入れ替えた俺でさえ、もうあのラットとの区別なんてついちゃいなかった。 ラットが死んだ。 今やその事実を知るものは俺しかいない。 ラットの死骸は部屋の壁にあるダストボックスで処理した。放り込んで、スイッチを入れる。それで終わりだ。 ラットは死んだ。本当に? 「ねえ、あのラット、なんだか顔つきが違う気がするの」 同僚の女がガラスケースを覗き込む。 俺は喉を詰まらせたのがバレないように間を置いてから 「気のせいだろ」と答えた。 「そうかしら。ううん、やっぱり別の個体な気がするわ。誰かしら……困るわね」 女は手元の資料の数値を比較してから、ラットのケース横のスイッチを押した。数秒の間もなく、ガラスケースの中はガスで満たされていく。 「またデータの取り直しね。あなたも、もっと検体のことをよく見るようにしないとダメよ?」 ラットが死んだ。いや殺された? 女は誰がラットを入れ替えたのかは興味がないようだった。もしくは俺だと分かった上で、興味を示さなかったのかもしれない。 新たなラットがガラスケースに入れられる。そいつは尻尾が少し曲がって見えた。俺にわかる違いはそれだけだった。 ラットは新しい環境を確認するように鼻を鳴らして歩き回っていた。何も知ることなく、疑わずに……。 ラットは死んでいく。 今日も明日も明後日も。 ラットが死んでいく。 「この研究、あなたは反対?」 二人きりの研究室で女が独り言のようにそう言った。カツカツと筆記具の擦れる音が部屋に響く。 「いいのよ。正直に言って。それを上に報告したりしないから。仮にしたとしてもあなたの評価は変わらないもの」 女は俺の方を見ずに、ただガラスケースの中のラットと、手元の資料だけを見ていた。 「……反対も何も、俺はこの研究が何かも知らないし」 「ふふ、そうだったわね」 俺の仕事はラットの世話係だ。今ガラスケースにいるラットだけじゃない。予備として飼育されているラットたちの面倒も見ている。 もともとこんな仕事を任されていたわけじゃない。俺はもっと……もっと……もっと? それ以上考えたくなくて、俺は女の質問にはそれ以上答えずに他の話題を探す。 「そっちはどうなんだよ」 「私? 私はもちろん賛成よ。もともとこの研究は私が主導で始めたものだしね」 女はさらりと答えると、ガラスケースの横のスイッチを押した。ガスがケース内に充満するのを確認してから、こちらを振り返る。 「新しいラットを用意してちょうだい。次はメスがいいわね」 俺は黙って女の言う通りにした。 ラットが死んだ。 それを悲しむ人間はもういない。 いないはずなんだ。 「あなたも諦めない人ね」 女は笑っている。その笑みから読み取れる感情は侮蔑だろうか、それとも親しみだろうか。 「ラットは死ぬの。あなたが何をしようと、どれだけ無かったことにしようと、死んだことに変わりはないのよ」 俺には区別がつかない。この女が昨日と同じ女なのか、それとも全くの別人なのか、そんなことさえ区別できない。 「あの時もそう。あなたは間違えたの。その事実はなくならない」 この女もラットと同じだ。 俺も、ラットも、女も、みんなどれも同じ。差し替えられても誰にも気づかれない。滞りなく次が来る。 「──これだけは忘れないで」 女は俺を見ていた。 「あなたの代わりなんてこの世界のどこにもいないのよ」 いつもと同じだと思っていた。 その日もいつもと同じように過ぎていくのだと、出かける支度をしている間も、家の鍵を閉める間も、車のエンジンをかけている間も思っていた。 だから、いつも通りの職場にたどり着いた瞬間に覚えた違和感には気づかないふりをした。いつも通りが良かった。何も変わらず、なんの異変もない。そう、思いたかった。 「……こんなミスを君がしでかすとは思わなかった」 その時、上司の男が浮かべた表情が、悲しみなのか怒りなのか、それとも失望なのか──あれからずっと分からないでいる。 『個体識別不全症候群』 俺の病につけられた名前だ。 鍵、車、人間、男、女といったカテゴリレベルの認識はあるが、下位レベルの個の識別ができない。 「それで、あなたは被験体を間違えたのね。それだけではなく、投与すべき薬剤までも間違えた」 女は手元の資料を見ていた。 「でも安心して、私があなたを処分なんてさせないから」 さらりと告げられた『処分』のニ文字に身をすくめると、女は笑った。そこまでは分かるのに、その先がどうしても掴みきれなかった。 ……それから俺はずっと女の元でラットを飼育し続けている。この研究所から出ることもなく、ラットの飼育スペースと研究室を往復するだけ。仮眠室で寝起きし、出される食事をただ食べる。 そんな日々を送るうちに俺の不完全な認識は、とうとう記憶にまで及び始めてしまったようだ。 俺の頭はいったいどこまでおかしくなるのだろう。 「──思い出したの?」 女の声に脳が揺すぶられる。 「今日は調子がいいのね。いい傾向だわ」 女は手元の資料に何かを書き込んでいる。 「俺は……いつまで……」 思わず漏れた言葉に、女はこちらに顔を向けて笑った。 「ずっとよ。だって私、あなたに生きて欲しいもの」 今日もラットが死んでいく。 明日も明後日も延々と。 ラットは死んでいく。 俺の代わりに、死んでいく。
みんなもいっしょに
「みーみーがーぼんじょーれーそぬまーん」 意味のないようなあるような言葉を並べる。 「みーみーがー」 「ミミガー?」 「ぼんじょーれー」 「ボンゴレ?」 「そぬまーん」 「ハヌマーン?」 聞いたことのある単語だった。 ミミガーは豚の耳の皮や肉のこと ボンゴレはアサリなどの二枚貝のこと ハヌマーンはヒンドゥー教の猿神のこと 豚とアサリと猿 適当に思いついた単語の割には規則性が あるような ないような 「みーみーがーぼんじょーれーそぬまーん」 お経のように唱えてみて なんかそれっぽいから 「みーみーがーぼんじょーれーそぬまーん」 「はんしゃーれぽれぽーれどんたこす」 「くーるーがーさーれーろーとーすーもーれー」 「ろんぱーすぱーすももっさーりろんどん」 「みっしょーんいんぽっしぶーるー」
いつか流れついたら
むかし、おばあちゃんの山小屋があった いまはない、山小屋で過ごした 山小屋の近くには川があった 川は浅瀬で、兄弟と従兄弟混じって遊んだ つめたい水の感触をおぼえている 「あ」 靴が片方、あしからすり抜けて ぷかぷかと小舟のように流れてゆく お気に入りの靴だった かわいいわたしの靴だった 従兄弟のお父さんが走って追いかける だけども存外、川の流れは早くて すぐに靴は手の届かぬところへ わたしはただ見送ることしかできなくて だから、わたしはいまも川が嫌いだ あの靴は、どこまで流れて行ったのかな 大人になったわたしは今でも思う あのあとも、見えなくなるまで 川沿いを必死に走って追いかけた あの靴は、流れるあいだなにを思ったのかな こわい? さみしい? それとも せいせい したのかな でも、もしきみが帰ってきてくれたなら わたしは、おかえりって言いたいな もう履けないけどさ そしてしかるべき方法で処分されるけどもさ それでもやっぱり、あの日のわたしのために 帰っておいでよ
「雨降る夜に」主演・しろくま
肌が雨をはじく、夜 街灯のない夜道を歩く、私 月明かりも星明かりもない、暗雲の下 耳に差したイヤホンから流れる、音楽 この世は映画みたいだ 音楽ひとつあればもう十分 私は主演女優に早変わり 目の前に広がる全てに意味がある なにもかもが伏線だった 味気ない白光の下、夢から覚める 音楽を止め、イヤホンを外し 靴を脱ぎ、カバンをフックにかける ただいまと言えば、おかえりと返ってくる 手を洗い、うがいをする 服を着替え、ソファに腰を下ろす こんな冴えない舞台裏だって、映画には必要なのだ