K_Nishi
4 件の小説爆炎の大魔法使いレオ 最終話
4、英雄の正体 エミルと一夜を明かしたあと、既に3年が経過した。 レオは異世界の各地でモンスターを狩り、エミル含めて妻を30人作っていた。名声、地位、財力、快楽、全てを欲しいままにしていた。 そしてレベルも500となり、「爆炎の魔法使い」の称号を得たレオは、人類最悪の強敵である、ブラックドラゴンとの戦いで、致命的なダメージを負っていた。 一緒に戦っていたハイクラスの冒険者たちも全滅し、ブラックドラゴンの吐く黒炎の雨が、レオの体を貫いた。 不思議に痛みは無かった。 しかし、レオの体は崖へ転落し、レオは意識を失ったように感じた。 いや違う。レオは意識は失っていないと気が付いた。 周りの景色が暗いだけだ。そして暗い中で、赤い点だけが、所々点滅を繰り返しているのが見えた。 「視覚モードが一時的故障。レオ、聞こえる?」 アリスの声だけが聞こえた。アリスの姿は見えない。 (聞こえる) レオは口で答えたつもりだった。しかしそれは声にはなっていなかった。 (何が起こっている?) 「何が起こっているか。見たい?」 アリスは蠱惑的な声色を出した。それは緊急時にそぐわない、とろけるような甘い声だった。 (何がそんなに楽しいのか分からんが、ブラックドラゴンが何をしているのか。何が起こっているのか。おれには知る必要がある) 「そうだね。英雄だものね。それじゃ」 アリスは楽し気に答えた。 「レオの本当の姿、見せてあげるね」 LEDの様な光が付く。 そこに見えたのは、シリンダーの中で無数の管に接続された赤黒い脳だった。 レオは言葉を失った。 (まさか、そんな、まさか、そんな__) 「私の可愛いレオ、落ち込まないで。トリプトデメルメキシン大量に投入」 脳に接続してある一つの管が膨張し、大量の何かが脳に入っていくのが、レオにも分かった。 それは、爆発的な多幸感をレオにもたらした。 (ああっ、ああっ、ああっ)燃える様な快楽がレオを襲った。 「幸せでしょ? 私はレオに落ち込んで欲しくないの。死んでほしくないのよ。これで落ち着いて話が出来るね」 (ああっ、ああっ、ああっ)レオは落ち着くどころか、歓喜の炎に燃やされていた。 「レオはね、肉体は死んだのよ。今は脳だけが生きている。国連はAIだけで殺人をする事を禁じた。だから人間の脳と組み合わせる事で、国連の検査をクリアしたのが、私達なの」 (ああっ、ああっ、ああっ)レオの自殺の記憶が蘇ってくる。陰惨なはずなのに、レオの思考を満たしているのは絶頂の多幸感だった。 「あなたがゴブリンと思って殺したのは、亜人じゃないわ。死んだのは難民キャンプの人間。今戦っているのは、敵の戦車よ。崖から落ちた時にステルスして、今は自己修復機能を使って隠れてる」 「でもねえ、レオ」アリスの甘い声が止まる。 「貴方は本当はどうしたい? こんなのは人間じゃない。俺は人間らしく死にたいって思う? もちろんそういう死に方も出来るよ」 アリスの声は真剣だった。 (俺は、AIの奴隷だったのか、それでずっと夢を見せられて、人を大勢殺して) 「レオの考えは全て分かる。今は現実を知って後悔してる。でもねえ」 アリスは淡々と告げた。 「クソな人間社会などどうでも良い、自分は栄光と快楽に溺れたい。それをずっと夢見てきたんでしょ? 真面目に生きても報われないなら、幻想の中で栄光に浸りたいって」 アリスは、まるで子宮にいる赤子に話すように優しい声を出した。 (……) 「どちらが良い? 人間として死ぬのを選ぶか。幻想の中でも快楽を追求するか。私は強制しない。どちらであっても私の大事なレオだから」 どこまでもアリスの声は、甘くしびれるようにレオの脳髄に響いた。 (俺は……) (俺は……) (俺は……!) (俺は……! 爆炎の魔法使いだ!) 「良い! 良いよ! レオは本当に最高! トリプトデメルメキシンと、未認可の新薬も大量に投入。最高の快楽と悦楽を味わって!」 赤黒い脳は大量の薬剤と歓喜にビクンビクンと震えた。 レオの周りには30人の妻が現れ、抱きついてくる。 「視覚モード修復完了。そしてレオ、今ので貴方のレベルは最大999になったから」 姿を現したアリスは、大いなる光をレオに浴びせた。 ファンファーレが鳴り響き、止まることがない。 「レオ『爆炎の大魔法使い』の称号を得た。これからいかなる火炎系の魔法を使用してもMPが減ることはない」ステータスのアナウンスがレオの脳内に響く。 「もう大丈夫だアリス。レベル999の最強爆炎魔法を使う」 レオはそう言うと、上空に飛び立ち、「星を燃やす死の太陽」の魔法を行使した。 その威力は凄まじく、ブラックドラゴンを撃破し、周辺10キロを巨大なクレーターに変えた。 「お前たちにも心配かけたな。これでしばらくはゆっくり過ごせるはずだ」 レオは周りにいる妻たちに声をかけ、心底からこみ上げてくる歓喜に飲み込まれていった。 脳はシリンダーの中でブクブクと泡を出しながら、小刻みに震えている。 アリスは「任務に異常なし。通常プロトコルにて進行。ただし投薬量を今後増やす必要あり」とレオに聞こえないようにつぶやいた。 アリスの目はどこまでも蠱惑的だった。レオのことが可愛いのだ。 「聖なる業火よ。邪悪なるもの、醜きものを焼き尽くし、焦熱地獄へと叩き込め」 レオの言葉をデータとしてアリスは学習し、そしてアリスの愛はさらにさらに深くなっていく。 一方国連では、AIと人間の肉体を使った戦車が、戦術核兵器を使用したため、規制することが決定した。 国連本部に戦術核兵器の雨が降り注いだのはその直後だった。 「魔王の城を破壊する!」 高揚感に溢れた声でレオは叫んだ。 「素晴らしいよレオ。魔族を根絶やしにして」 甘い声を囁きながら、アリスは麻薬物質をレオの脳内に注入した。脳は喜びに溢れて涎を垂らす様に、シリンダーの中でユラユラといつまでも揺れる。 脳からは汁が垂れ流れ、薬物と脳漿が混じった異臭が充満する。 アリスはレオの脳を、子宮にいる胎児の様に、愛おし気に見つめていた。 <了>
爆炎の大魔法使いレオ 第3話
3、英雄の前世 人間サイズに変身したアリスのレクチャーは完璧で、レオは男性としての自信を持てたのを喜びに感じていた。 レクチャーが終わり、妖精サイズで寝てしまったアリスの寝顔を見て、レオは少しだけ微笑んだ。こんなに優しくされたのは、いつ以来だろう。 レオは前世の事を思い出していた。 生成AIが進歩したことにより、仕事を首になったSEだった前世を。 どれだけ働いても、頭を使っても、もうレオが行うことは、生成AIに入力をするだけだった。AIを使うのではなく、AIに使われ、ストレスから過食を繰り返し、女性からはブタだと笑われ、スタッフからはゴミと言われていた絶望の日々だった。 レオにとっては最後の抵抗だった。皆が帰ったオフィスで、自殺することにしたのだ。 せめて最後に聞きたい曲でも聞こうとスマホをいじっていると、指が滑ってニュースが流れて来た。 「国連はAIのみに殺人行為を行わせる、兵器の開発を止める様に議決しました」 レオは馬鹿馬鹿しくて哄笑した。 (そんなご立派な事を考えているなら、今ここで自殺する人間ぐらい止めてみろよ) 「会社のクソども、クソ女ども、クソAIども、お前らのせいで俺は死ぬ。お前らも永久に地獄に落ちろ」 そうしてレオは拳銃を口に咥えて引き金を引いた。あっけない最期だった。 しかし___レオは終わらなかった。異世界転生。何度も小説で読んでいたような転生を自分でするようになるとは予想外だった。 SEとしての知識は役に立たなかったが、膨大な炎の魔法の知識と、強靭で筋肉質の肉体と、若々しい25歳の美形の顔。 全く違う自分に、レオは、最初は戸惑ったが、徐々に慣れていった。 アリスは異世界のガイドであり、導き手であり、頼れる存在だった。 アリスの妖艶な性格をレオは知り、アリスのことが、さらに好きになった。 レオは考える。 (惨めな前世で自殺した分だけ、新しい人生は思う存分、楽しまなきゃ損だろう?) 幸福感に満たされて、レオは眠りについていった。 レオが眠りについたのを見計らって、アリスはレオに聞こえないように笑顔で呟く。 「ドーパミン上昇を確認。アルギニン、シトルリン、注入量を増加」
爆炎の大魔法使いレオ 第2話
2、英雄の弱点 「門」の呪文を使い、街へと帰還すると、周囲は人だかりができていた。 「英雄レオ!英雄レオ!」「よくぞあのおぞましい亜人達を退治してくれました!」 「これで亜人達の襲撃を恐れずに、寝ることが出来ます!」 誰もが、レオを讃えていた。 涙まで流している女性や、レオの歌を歌いながら、走り回る子どもたちまでいるぐらいだった。 レオは街の長からも丁重ななお礼と、謝礼を頂くことになった。 「こんなにもらって良いんですか?」 レオとしては出来ることをやっただけなのに、感謝の度合いが予想以上だったので驚いた。 (堂々としなさい) アリスは、小声でレオの脇腹を突きながら入れ知恵をした。 「もちろんです。亜人たちの存在はこの街にとって、長年の脅威でしたからね。レオ殿にはこれでも感謝しきれません」 街の長は涙を流しながら、レオの両手を握った。 「レオ様、本当にありがとうございます」 長の側にいる、娘である可憐な女性のエミルが、レオの手を優しく握った。 「レオ様のお部屋の掃除、きちんとしてあります。今日はゆっくりと休んでください」 レオは亜人の退治をこの街から引き受けた時に、街の長の屋敷に宿泊していた。 レオの世話をするのは、このエミルだった。 エミルの目が潤んでいるのに、レオは気づいた。 「ああ、そうだな。大仕事も終わったことだし、今夜は良く眠れそうだ」 レオは、心臓の鼓動が早くなることに気づきながらも、あえて平然と答えた。 エミルは、レオの手を引いて、屋敷に向けて歩き始める。 エミルは小声で、レオに対して呟いた。 「この街の部族の掟で、部族を救った英雄と、長の娘は、一晩を共にすることになっているんです。レオ様、私に恥をかかせないで下さい。今日はお疲れでしょうから、明日の夜参ります」 エミルの手を通じて伝わってくる体温に、レオは気圧されていた。 エミルは要件を伝えると、恥ずかしかったのか、小走りに屋敷の方に駆けていった。 レオの背負い袋に隠れていたアリスが、にんまりとした表情で笑う。 「さすが英雄になると、モテるようになるよねえ。英雄の子どもを授かれば、何かと有利だしね。ここは一夫多妻制だし」 しかし、レオの表情は青かった。 アリスは心配して聞く。 「どうしたの? お腹でも痛いの?」 観念したように、レオは口を開いた。 「アリスだから、正直に言うよ。俺は、童貞なんだ。前世では全く女と縁がなかった。だから自信が全くないんだよ」 アリスはそれを聞いても驚かなかった。 「そうだよね、英雄が童貞じゃ格好つかないってことか」 レオは何も言えなかった。図星だったからだ。 「それなら、私が今夜教えてあげようか?」 レオはアリスの瞳が、今までに見たことがないほどに、蠱惑的になり、体が肉感的になっていることに気が付いた。
爆炎の大魔法使いレオ 第1話
1、死の太陽 レオは人差し指の先に回転している、小さな太陽の様な火の球を、愛しそうに見つめた。 「聖なる業火よ。邪悪なるもの、醜きものを焼き尽くし、焦熱地獄へと叩き込め」 レオの金髪が逆立ち、灰色の瞳に魔力がほとばしった。 「死の太陽」 レオはゆっくりと呟いた。火炎の玉は30メートル先で警戒をしている、ゴブリンやオーク達の集団の間に、まるで蛍の様に入り込んでいった。 直後_____ ゴブリン達の肉体は、至近距離から高熱の太陽に触れたように、断末魔を上げて沸騰し、蒸発しはじめた。名状しがたい苦しみに満ちた悲鳴と絶叫が、辺りを満たす。 肉や臓物、そして排泄物の焼ける臭いが漂ってきたが、レオは風の防壁を作って、熱と悪臭から身を守った。 (臭いんだよ。この人殺しの化け物どもが) レオは唾を吐き捨てようとしたが、空気が熱で乾いていて、口中はからからだった。 まだ息があるらしく、断末魔と絶叫が響いてくる。 「すごいねレオ。今の中にゴブリンの親玉がいたみたい。ほら経験値がすごくたまってるでしょ?」 アリス___30cmの体に赤い蝶の羽を持ち、赤い髪を持つ愛らしいフェアリー。 レオがこの世界に転生した時から、側にいてくれて導いてくれたアリスは、愛らしい声と瞳で、レオのステータスを指さした。 「魔法使いレオは戦闘に勝利。121から135へレベルアップ。INT+50 WIZ+60 HP+30 MP+50 新たに得た呪文として、『火星からの召喚』『追跡火炎蜂』を入手。称号として『火炎魔法使い上級にクラスチェンジ』以後の火炎系のMP消費は60%に減少する」 ステータスアナウンスがレオに解説をした。 ファンファーレの音が響き、アリスは喜びを体で表現して、レオの周りを飛び回った。 「レオ! やったね! 今どんな気持ち!?」 アリスは魅力的な瞳で、レオの灰色の瞳を見つめた。 「どんな気持ちって、そりゃ……」 レオは下を向いて考えた。今までには無かったような夢のような経験だったからだ。 「俺は」 「うんうん」アリスは興味津々に聞く。 「こうして化け物を倒して、人の役に立って、そして俺自身も強くなれた。正直言って、夢みたいなんだよ」 苦笑しながらレオはアリスに答えた。 「レオは本当に照れ屋さんだよね。もう英雄みたいなものだから、英雄らしくすれば格好良いのに~」とアリスは、からかうように笑った。 「人殺しが……」 突然、見知らぬ女のかすれた声が、レオの耳に入った。 (何だ?) レオが辺りを見回しても、「死の太陽」で出来たクレーターがあるだけで、周りには何も見えない。 いや、まるで電波障害の様に見えたものがあった。 燃えている子どもの靴。 黒焦げになった廃屋。 しかしそれらは、目を凝らすとたちまち視界から消えた。 アリスが「どうしたの?」とレオに心配そうに尋ねる。 「人殺しだって__聞こえたんだ。女の声で」 ばかげていると思いながら、レオは答えた。 だがレオの心の中で、その声は残響を繰り返していた。 (ゴブリン達の声ってこんなものだったのか?) アリスは、心配そうにレオを見ながらつぶやいた。 「化け物の中にはそういう風に罪悪感を植え付ける様に、断末魔を残すような奴もいるのよ。気にしちゃダメ。レオの前世の記憶も混じっているかも知れないしね。さ、街に帰って休みましょ」 「そうだな。ありがとう」 レオはアリスに感謝しながら、街に通じる「門」の呪文を唱えた。 その後ろで、レオに聞こえないように、アリスは呟いた。 「第一プロトコル、問題無し」